種族と龍と新しい仲間
一誠が目覚めて一兆年ほど過ぎた。あれから一誠と九喇嘛は模擬戦と言う名の殺し合いを、何度も繰り返した結果九喇嘛は一誠の事を認めるようになり、「一誠」と名前で呼ぶようになった。
そして一誠の方も九喇嘛の人型や尾獣型との模擬戦(殺し合い)により、対人、対獣戦も慣れてきたようだった。因みに九喇嘛の人型は、目元の少し下程まである少し長めの金髪に、身長は一八〇前後の長身で、赤眼で目つきは悪いもののクールな雰囲気を持ったイケメンだ。そしてそれに狐耳+九本の尻尾+瞳孔縦長のバージョンもある。ただし今は一誠と九喇嘛の二人しかいないので尻尾とか耳付き。
そして彼はまた悩み事を抱えていた。
「う~ん、どうすっかな~」
「何を悩んでいるんだ?」
目の前に異世界を映す窓の様な物を、多数出現させながら何やら唸っている一誠に暇だから、と言って散歩に出ていて先程帰ってきた九喇嘛が声を掛けた。
「あ、九喇嘛おかえり」
「ただいま。ところで先程から何を唸っていた」
「いや、俺の種族をどうするかな~って思ってさ」
「………は?」
一誠のセリフに九喇嘛は間抜けな声を出した。
それは当然と言えるだろう。今の一誠から感じる気配は、多少違う所はあるものの人間のそれだ。それに自分で自在に種族を替えるなんてことを九喇嘛は聞いたことが無かった。
「……ちなみに今の一誠の種族は何なんだ?」
「正直言うと分からん」
一誠のこの発言により九喇嘛は頭を抱えた。
それはそうだろう、自分の種族も知らずに別な種族に替えるだなんてバカにも程がある。
そしてこれは約一兆年という長い時間を一緒に過ごしてきた九喇嘛だからこそ分かることだが、恐らく今回の種族替えの理由は恐らく暇だからだろう。
「……参考までにどうして種族を替えたいか聞いてもいいか」
「まあ一つ目は九喇嘛が想像している通り暇だから。二つ目は……」
一誠の返答に呆れる九喇嘛。しかし当の本人の一誠はそんな事はいざ知らず、話を続ける。
「二つ目はこれからの為、かな」
「これからも為、だと?」
「ああ、これからこの世界では天使、堕天使、悪魔による三大勢力の三つ巴の戦争が始まったり、その後にも駒王町等で色々と事件が起きるだろう」
「ああ、確かにそうだな」
「だからフェニックスや吸血鬼等の強力な種族の恩恵を受けておこうと思ってな。それにそれぞれの種族のデメリット程度なら俺の一京分の一のスキル、『問題ない(ノーリスク)』でキャンセルできるしな」
「だったら今のままでもいいんじゃないか? 一兆年も生きているのだから今更寿命は関係無いだろう?」
「そうだな」
「筋力も人間は軽く超えているし、悪魔等の種族にも負けはしないだろう?」
「確かに」
「速度も強化無しでもかなり速いだろう?」
「ああ」
「じゃあ種族替えする必要はないな」
「そうだな。何か言い包められた感があるがまあいい。種族替えはしないでおこう」
実際に言い包められているような気もするが、そこは言わぬが花だろう。
「さてお前の要件も終わったことだし、今度は儂の要件を聞け」
「命令口調かよ……まあ別にいいぞ。で、何だ」
「お前の言うこの世界の正史の世界での主要人物と言っていいか分からんが、とにかくそいつ等を先程散歩している時に見つけた」
「はぁ?」
一誠が驚くのも無理はない。どこぞの失敗することを望んだ人外でなければこのような宇宙が出来る前の状態の世界に居るわけはないのだから。
「お前の言いたいことは良く分かるが本当の事だ。先程其処らへんを散歩していたら何やら物音が聞こえてな、ここには儂と一誠しかいない筈だから不思議に思って音のする方に見に行ったら、全長百メートル位ある赤い西洋龍と黒い蛇のような形をした龍が争っていたぞ。魔力や気配を感じなかったのか?」
「ここに居るのは俺とお前だけだと油断していたから周りを気にしていなかった」
申し訳なさそうに言う一誠対し九喇嘛は、仕方のない奴だと呆れていた。
出会った当初は一誠に対して辛辣な評価ばかりしてきた九喇嘛が、このように思うなんて此処に呼び出された頃の彼? では見当もつかなかっただろう。
〰〰〰〰〰〰〰一誠、九喇嘛移動中〰〰〰〰〰〰〰
九喇嘛に連れられて移動していると、何処からともなく魔力の波動を感じた。九喇嘛以外の魔力を感じるのは初めてだな~、って呑気な事を考えながら移動していると爆音が聞こえチカチカと閃光が瞬き巨大で濃密な魔力の波動がぶつかり合っているのが感じられた。
「着いたぞ」
外部からの刺激に感慨耽っていた俺は九喇嘛のセリフによって現実に引き戻された。
『グレートレッド、邪魔。此処我の領域』
『調子に乗るなよオーフィス。此処は我の領域だ!』
九喇嘛の声によって現実に引き戻された俺が見たのは、片言で話しながら強大な魔力を使い力技で攻撃をしている大きな黒い蛇の様なドラゴン、全長一〇〇メートルはありそうな赤い巨体を持つ西洋風のドラゴンだった。
恐らく黒い方がオーフィスで赤い方がグレートレッドだろう。
「して、このまま放っておけばいつまでも暴れ続けるだろう。一誠、お前はどうしたい?」
真龍と龍神の戦いを見ながら九喇嘛は俺に聞いて来た。
それに対する俺の答えはもう決まっている。
「この争いを止めてあいつらに仲良くなってほしい。そして出来ればあいつらと家族になりたい」
前半は知識として正史の世界を知った時に思った事。後半は家族の温もりを知りたいという俺の我儘。
「……儂は家族に入っていないのか?」
そんな言葉が九喇嘛から聞けたのがとても意外だった。一兆年過ごしていくうちに俺に対する態度は少しずつだが軟化したものの、いまだに刺々しい態度を取ったり発言をしたりする。
でも今聞こえたセリフは何処か不満げな声音だった。
その事に苦笑しながらももちろん入ってるよ、と言ってやるとそうか、と短く返してきた。
その時に盗み見た九喇嘛の横顔は嬉しそうに笑っていた。
「それで、どうする? 何か策があるのか」
「ああ、こいつを使おうと思う」
そう言って俺が『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から取り出したのは、一振りのハリセンだった。
俺の取り出したハリセンを見た九喇嘛は、若干顔を青くして冷や汗を流していた。
およそ戦闘では役に立ちそうにないハリセン。これが普通のハリセンだったらそうだったかもしれない。このハリセンも戦闘には役には立たないが、争いを止めるのには役に立つ。
「儂は力を貸した方がいいか?」
「いや、いらない。俺一人であいつらに手古摺る様じゃあこの先やってはいけないだろうしな」
「お前の気持ちは分かった。だが無理だと思ったらすぐに言え。儂らは家族なんだからな」
最後に付け足された一言は優しい声音だった。
九喇嘛に行って来る、と言い俺は龍達の争いに身を投じた。
「おーい、俺の話を聞いてくれ!」
九喇嘛の元を離れた一誠は最初に争っている龍達二人に呼びかけた。
彼の目的はあくまでこの争いを止める事であり、彼らと戦う事ではない。
『…………』
なので呼びかけて話し合いに持ち込み、話し合いで解決しようとしたのだが一誠は龍達に無視された。いやもしかすると一誠(と九喇嘛)が此処に居ることも二匹は気付いていないかもしれない。
「おーい、俺の声聞こえてるかー?」
一応一誠はダメ元でもう一度声を掛けてみるが、やはり一誠には反応せず戦い続けている。
「……はぁ、仕方ない出来れば力ずくで止めるのはしたくなかったんだがな……」
一誠はハリセンを肩に担ぐと二匹に高速で近づきその脳天にハリセンを思いっ切り振り下ろした。
『ッ!?』
『……ムゥ』
完全に一誠の事を把握していなかった二匹はスパァーンといういい音と共にハリセンをもろ受け、グレートレッドは痛みにより手(前足)で打たれたところを抑える様にして蹲り(ちなみに前足は届いていない)、オーフィスも項垂れて余りの痛みに不満げに声を漏らした。
因みにハリセンの能力は、ギャグ補正と異能の無効化ついでに気絶無効と効果音がある。前者二つは説明するまでもないだろう。『気絶無効』は殴られた奴が気絶できないという効果だ。効果音はただスパァーンと音が鳴るだけである。
『我らの戦いの邪魔をするのは何者だ!』
「俺だ」
オーフィスより先に痛みが引いたグレートレッドは周囲に向けて怒鳴り散らす。そしてそいつの問いに馬鹿正直に答える一誠。
そんな事をすればグレートレッドの怒りの矛先が彼に向くことは分かっていた。
『貴様か。本来ならすぐに塵にするところだがその度胸に免じて話ぐらいは聞こう。オーフィスもいいな』
『ん、我も興味ある』
いつの間にか復活したオーフィスに4も確認を取ったグレートレッドは、オーフィスと共に一誠の話を聞く体制になった。
「…………あ、ああ。取りあえず聞きたいんだが、お前ら俺が呼んでるの気付いてた?」
『ああ、気づいていたが』
『我も』
「じゃあなんで返事しないんだよ!」
『特に必要性を感じなかったから』
「…………」
龍二匹に実はしかとされていた事知った一誠はいじけた。
その後九喇嘛が数分掛けて一誠を宥めた。その時龍二匹は一誠の落ち込みっぷりに申し訳なさそうにしていた。
その後、一誠の提案によりオーフィスとグレートレッドは人の姿になっている。
グレートレッドはメリハリのある体の緋髪(あかがみ)を高い位置でポニーテールにした美女になった。
オーフィスは初めは黒のゴスロリを来たロリッ子の姿になったが、グレートレッドの姿を見ると対抗意識を燃やしたのか、彼女と同じくらいの年齢の黒髪の大人しそうな美女になった。
「それで、お前達は何で戦ってたんだ」
「特に、理由は無い」
「……は?」
「うむ、我も同じだ」
「……なんだよそりゃ」
戦う理由が無いなのに戦っていた彼女達に思わず一誠は呆れた。
「戦う理由が無いんだったら戦わなくてよくないか?」
「確かにその通りだが、我はそれではなんか胸がモヤモヤするからな。戦ってないと落ち着かないんだ」
「我は、のんびり過ごしたい。でも、グレートレッドが攻撃してくる。我痛いのイヤ。だから我戦う」
「なっ!? それでは我が悪いみたいではないか!」
「「いや、その通りだろ」」
「……クッ」
一誠と九喇嘛のツッコミに分の悪いグレートレッドは顔を顰める。
グゥ〰〰〰〰〰
突然その場の雰囲気に合わない音が聞こえてきた。
一誠と九喇嘛とグレートレッドはその音源であるオーフィスを見る。
「……お腹減った」
『プ、アハハハハハ』
少し恥ずかしそうにしながらお腹を押さえるオーフィスと、それを見て声を上げて笑う一誠と九喇嘛とグレートレッド。
そこには先程の激しい戦闘が嘘のように、ほのぼのとした雰囲気になっていた。
「これでも食うか?」
一誠が笑いながら差し出した能力で創ったグミを、オーフィスはなにかも確認せずに口に放り込んだ。
見た目は一誠と同じ位なのに何処か微笑ましかった。
食べ終えた彼女はすぐに次を一誠に求める。彼はまたグミを作り渡していく。
「……それで、もうあ奴と争う気は無くなったか?」
「ああ、我もあんな微笑ましい姿を見せられては争う気も萎える」
「じゃあ儂らと一緒に来るか? 一誠は元々そのつもりで話し合いを提案したようだしな」
「うむ、それもいいかもしれない」
「じゃあ決まりだな。おい、オーフィス!」
一誠とオーフィスの戯れ? を見ながらグレートレッドと話をしていた九喇嘛がオーフィスを呼ぶ。
「何?」
「お前も儂らと一緒に来るか?」
「………」
九喇嘛の提案に考えるそぶりを見せるオーフィス。
「あれ。九喇嘛俺の目的分かってたんだ」
「当り前だ。何年一緒に居ると思っている」
「それもそうだ」
「分かった。我イッセー達と一緒に行く。それに、我イッセー好き」
九喇嘛と一誠の絆の確認みたいなものが終わった時、オーフィスがそう言った。
その事に喜ぶ一誠。しかしオーフィスが後半のセリフと共に抱き着いて来たので顔が真っ赤になった。
「えっ、ちょっ、オーフィス離れてくれ!」
「そうだぞ! さっさと離れろ!」
「イヤ、ここ我の居場所」
「ふむ、あの短時間に一度に二人も落とすとは。一誠は天然ジゴロの才能があるかもな」
戦闘以外で他人と接したことが無い上に、接したとしても九喇嘛だけだったのもあって女性と接するのは初めてな一誠。
その為、そこそこ大きいオーフィスの胸の感触や髪から香るオーフィスの匂い等の刺激に、顔をタコ並に真っ赤にさせて処理落ちしかかりながらもオーフィスを引きはがそうとする一誠。
そんな一誠に顔を少し染めながらも満足げに抱き着くオーフィス。
二人のじゃれ合いを見て胸がモヤモヤする為に、二人を引きはがそうとするグレートレッド。
三人のやり取りを見ながら何処からか取り出したお猪口で酒を飲み、変な所を感心している九喇嘛。
宇宙さえできていないその空間は、四人しか居ないながらもすでにカオスだった。