前回の投稿から間が空いた代わりに今回は超長い(約三万字)です。
空いた時間にちょくちょく書いていたので誤字脱字が多いかもしれません(笑)。もしあったら遠慮なく感想で言ってください。
決戦開始
修行を始めてから早くも二週間たち、今夜はいよいよライザーとグレモリーのレーティングゲームだ。この二週間はあっという間だった。『正史』以上の特訓をしたおかげでこいつ等はかなり強くなった。まあ、俺はいろんなところでいろんな奴らを鍛えてきたから、全体でみるとこいつ等は『本来』とあまり変わってないと思う。
なお今回のゲームでは、グレモリー側の戦力がライザー側に対してあまりにも低いとの事なので白音が戦車代理として参加することになった。
俺はオカルト研究部の部室に来る前に白音の頭を撫でて応援した。他の奴らには贔屓だと言われたが、彼女はこれから戦うのだからこれ位はいいだろう。
それをしていたせいで俺と白音が一番最後に部室についた。
「お前、確か僧侶がもう一人いただろう。そいつはどうした?」
『正史』通りならコイツの技量が足らなくて序盤は出てこなかったが、この世界は俺が色々とやらかした為いろんなところで『本来』とは変わっている可能性がある。だからヴラディも変わっているかもしれないと思って一応確認したのだ。
「……残念ながら、私の技量不足で協力してくれないわ」
……ふむ、理由は一緒か。これだけでは判断しずらいが、これ以上踏み込んで聞くのも怪しまれるな。
「分かった、それ以上深くは聞かない。ところで作戦とかは考えているのか?」
「ええもちろんよ」
ならよかった。ゲームの一時間前で作戦が一つもなかったら張り倒している所だった。
「俺はあいつの師匠でもあるからお前達の方ばっかりは贔屓できないが、悔いのないように頑張って来い」
『はい!』
気合十分の返事をしたグレモリー、柔汪、白音、佑斗、兵庫、アルジェントの顔を順に見た後、俺は観客席の方に転移した。
ゲーム開始十分前にリアスたちが集まるオカルト研究部にミレイフィアが現れた。
「皆様ゲーム十分前です。準備はよろしいですか?」
彼女の問いかけに、リアスとその眷属たち+αは黙って頷く。
「では皆さまを本陣へお連れします」
彼女のその言葉と共に、彼らは光に包まれた。
「ここは……部室?」
光が収まって一翔が見たものは見慣れた部室だった。目が眩む前に見たものとの違いと言えば、ミレイフィアが居なくなっている事くらいだろう。
キーンコーンカーンコーン
『皆様、本日はリアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームにお越しいただいありがとうございます。審判は私グレモリー家使用人のミレイフィアが務めさせていただきます。今回のゲーム盤は、リアス様が通っていられる人間界の学校『駒王学園』になります。ライザー様の本陣は生徒会室。リアス様の本陣はオカルト研究部となっております。今回は特に細かいルールなどございませんが、タイムリミットは今から六時間後の朝六時とさせていただきます。それでは両チームとも全力を尽くして戦って下さいませ』
キーンコーンカーンコーン
ミレイフィアの放送が切れると同時に、開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
「なんか、チャイムの音を聞くとやる気なくなりますね」
一翔のそんな言葉により、部室内の緊迫した空気は霧散した。
「あっ! す、すいません! 俺場違いな事言いました!」
「いいのよ。緊張しすぎでは本来の力を出せない時もあるから、寧ろよく和ませてくれたわ」
頭を下げて謝る一翔をリアスは苦笑しながらフォローした。その他の面々も苦笑しながら一翔を見ている。
実際、一翔以外の全員が彼と同じことを考えていたので、責める気は毛頭なかったのだ。
「さて緊張もほぐれた所で、手短に作戦を説明するわ」
リアスの張りのある声に、部員たちの顔はまた引き締まったモノに戻る。
「いい、私達の作戦は—————」
「——————短期決戦だろうな」
一方のこちらはライザーたちの本拠地生徒会室だ。
彼らも会議用の机を囲んで作戦会議の真っ最中だった。
「リアス達の作戦は奇襲と一対多による殲滅戦だろう。奇襲は赤龍帝の籠手でリアスか女王の魔力ないし気を増幅させての遠距離攻撃が一番可能性が高い。一対多の場合はこちらが一に対して向こうは二人から三人でくる。組み合わせの可能性としては騎士の金髪コンビと兵士と戦車のコンビ。そしてこのどちらかに女王が加わる可能性もある。今言った事は全部頭の中に入れておけよ」
ライザーの言葉に、彼の眷属たちは頷いた。
「それと最後にもう一つ」
わざとらしく咳ばらいをした後、急に改まった口調になったライザーは眷属の一人一人を見回した後静かに口を開いた。
「今回は、俺の個人的な事情に巻き込んですまない。俺がもっとちゃんと家に連絡していればこんな事にはならなかっただろう、と何回も後悔している」
彼の言葉を眷属たちは黙って聞いていた。彼らにも言いたい事はあったものの、それはライザーがすべて行った後でもいいと思ったからだ。
「後悔してはいるが俺はこの戦いに絶対に勝ちたい。勝って迦楼羅と胸を張って結婚したい。だから、だからお前達の力を貸してくれ」
ライザーは言い切ながら勢いよく頭を下げた。彼の考えでは、ここで彼に失望してリタイアしていく者が数に出でるのも覚悟していた。だが現実は彼を裏切る。
「頭をあげて下さい、ライザー様」
いい意味で。
「別に私達は巻き込まれたなんて思っていません。寧ろ頼ってくれて嬉しいくらいです」
「ユーベルーナ……」
「そうです我が主。主は私に三度目の機会を与えて下さいました。その恩に報いるためなら、このディルムッド命に代えても敵将の首を取って見せましょう」
「ディル……」
「お兄様は少し頼るという事をしてくださいまし。私たちはその為の眷属なのですから」
「レイヴェル……」
「それに、ご主人様は私達の問題にも真剣に取り組んでくれるじゃないですか。だったら私達にもご主人様の問題に真剣に取り組まさせて下さいよ」
「美鈴……」
「そういうことだ。だから迷惑だなんて思わない事だな」
「真名……」
それぞれがライザーに想いを伝えるたびに、彼の中にあった重荷は軽くなっていく。
そして〆を飾る為に迦楼羅がライザーの隣まで歩いていく。
「ライザー。西洋の結婚式の誓いの言葉に『健やかなる時も病める時も』ってるよね。私たちは世間ではまだ結婚していない。でも私はもうあなたと結婚しているつもりだね。だから———」
迦楼羅はライザーの両手を自身の両手で優しく包み込むようにして握る。
「君が背負ってるもの、抱えているものの半分を私にも背負わせてほしいね」
「迦楼羅……」
「大丈夫。例えあなたの翼が半分になったとしても、その翼の代わりは私がするからね」
そう言って迦楼羅は妃が王に向ける様に、聖女が英雄に向ける様に、ヒロインがヒーローに向ける様に微笑みかけた。
ライザーは、自分の目頭が熱くなるのを感じた。目からあふれて来るものを必死で抑えようとするがそれは彼の目からあふれてくる。
「みんな……ありがとう」
ライザーがありったけの感謝をこめてそう言った瞬間、巨大で高密度の消滅の魔力で出来た矢が生徒会室に直撃した。
ライザーと眷属たちの素敵なやり取りをしている間、リアスは自身の魔力で矢を作っていた。矢は直径三十センチ長さ二メートルの巨大なものだ。リアスはその矢に更に魔力を送り込み密度をあげる。
それを黙って見ているのは、彼女の眷属である雷花、一翔、アーシアそして戦車代理の白音の四人。佑斗とジャンヌは旧校舎の周りの森に罠を張りに行った。
リアスを見守っている者たちの中で、一翔だけは一人複雑そうな顔でリアスを見ていた。
彼は自分の主であるリアスが好きだ。眷属になる前からなりたての頃は彼女に対して憧れしか抱いていなかったが、今はハッキリと彼女の事が好きだと言える。
きっかけは修行最終日の夜に、リアスと少しお互いの話をしたことだった。それにより、それまでは憧れの域を出なかった感情が恋愛の域にまで上り詰めたのだ。
だから今の彼の心情は複雑だ。複雑で無い訳がない。だが彼には恋愛感情以外にリアスに求めているものがある。それは彼女の幸せだ。自分の命を救ってくれた彼女には絶対に幸せになって欲しかった。
そういう訳で今の一翔の心情は結構複雑なものだった。
「……できたわ」
そういった彼女の手には先程と見た目は変わらないものの、魔力に関して素人の一翔にも分かるほど明らかに密度が濃くなった矢があった。
「雷花、サポートをお願い」
「はいよ」
リアスの指示に従い雷花が手元にいくつかの魔方陣を展開させる。同時にリアスの目のすぐ前にも魔方陣が展開した。
「透視と倍率変化だけだけどいいかい?」
「ええ十分よ。ありがとう」
リアスはお礼を言った後、生徒会室———ライザー本陣の方を向いて弓に矢をかけた。
「皆は念のため私の後ろにいて頂戴。余波でダメージを負ったら元も子もないわ」
皆がリアスの指示に従って彼らが彼女の後ろに移ったのを見た彼女は、改めて生徒会室の方を見て弓を引き絞る。
「『
厨二っぽい(というより完全に厨二な)技の名前を叫びながらリアスは矢を放った。
放たれた矢は、部室の壁を易々と貫通——消滅させて一直線に生徒会室まで飛んで行く。
その魔力密度は魔王サーゼクスに及ばないにしても、物質を簡単に消滅させられるくらいには高い。故に矢は何物にも遮られることなく生徒会室の窓に直撃した。
瞬間矢は跡形もなく消えた。
「なんですってっ⁉」
それを見たリアスは、当然驚いた。あれはそんなに簡単に消せるものではないという考えが彼女の中に在ったからだ。
確かに魔力密度は彼女の兄に及ばない。だが仮にも『消滅』の力を宿した矢である。防いだり躱したりするなら分かるが、大技も使わずにいとも簡単にあれを消す方法など彼女は知らなかった。
彼女の眷属たちも同じ反応だった。ただ白音だけは別段驚くことはなかった。
「……では私は予定通り体育館へ向かいますね」
事前に決めた作戦を遂行するために白音は部室から出て行く。入れ替わりで佑斗とジャンヌが部室に入って来た。
「その様子じゃ矢は効かなかったみたいね」
「僕とジャンヌも持ち場へ行きます」
「ええ、よろしくお願いね」
風穴があいた生徒会室を見ながらリアスは返事をした。
彼女が見ている先には赤い槍を持ったイケメンがいた。自己紹介の時にディルムッドと名乗っていた男だ。彼があの槍でさっきの矢を相殺したのだろうとリアスは推測する。
ディルムッドが中に向かって一言二言話した後、穴から飛び降りるのを見た。行先はおそらく校庭だろう。
それを見たリアスは、視線を自身の女王に向ける。
「じゃあ、雷花も作戦通りお願いね」
「ああ、了解したよ」
そう言って雷花も部室を出て行った。
よって部室に残っているのは、リアスとアーシアと一翔のみ。
「イッショー倍化はどのくらいまでいった?」
リアスが彼に聞いたタイミングで丁度良く彼の左手についている籠手から『Boost!』
「今の倍化で丁度五回目です」
「そう……。じゃあ十回倍化したら私に譲渡してちょうだい。その後で私達も動くわ」
リアスの指示に一翔とアーシアは頷く。
作戦自体は順調に言っているようにみえるリアスと彼女の眷属たちだが、彼女は二週間の修行で大事な事をしていなかった。それは相手の力の解析。敵の『王』であるライザーの事は勿論解析していたが、それ以外の彼の眷属の力の事をリアスは一切気にも留めていなかった。故にその準備不足が命取りになるのを彼女はまだ知らない。
リアスの『回転し貫通する消滅』の強襲を受けたライザー眷属は、それをディルムッドの『破魔の紅薔薇』で打ち消したので被害はゼロだった。
「主、お怪我はありませんか!」
「ああ、問題ない」
こんな事でくたばるとは思ってもいないが、ディルムッドは一応確認をする。しなければ気が済まなかった。
「では、私は校庭にて敵を撃って参ります」
「ああ、頼んだぞ」
軽く礼をしたディルムッドは、先程の攻撃で風穴があいたところから飛び降りて校庭へと向かった。
それに続いて美鈴とユーベルーナと真名も生徒会室を出て行く。残ったのはライザーと迦楼羅とレイヴェルだけ。
「宜しかったのですかお兄様。こんなことせずとも———」
レイヴェルが言っているのは今回の『極力一対一で戦う』という作戦の事だった。
彼女はライザーと迦楼羅の結婚を応援していた。だからこんな戦いはさっさと終わらせて二人に幸せになって欲しかった。そしてこの戦いを早く終わらせるためにはディルムッド以外の遠距離最大攻撃で開始と同時に一機に決めてしまえばいい。だが今回のライザーが考えた作戦はその正反対———時間が掛かる作戦だった。
ライザーと迦楼羅の仲を応援しているレイヴェルからすれば、何故ライザーがこんな作戦にしたのか疑問だった。
「確かにこの試合を終わらせるならお前が考えている方法が一番手っ取り早いだろう。でもな、俺はちょっと考えたんだ」
『……?』
彼女達は疑問に思いながらも静かに聞く。
「『それで、彼らは成長できるのだろうか?』ってな」
「それは———」
「分かってる。これは単なるおせっかいだ。上から目線の傲慢な考えだ。でもさ、俺もちょっとだけ誰かを鍛えてみたくなったんだよ。一誠さんみたいに」
ライザーは照れ臭そうに頬を指でかいた。それを見た二人は優しく微笑んだ。
「しょうがないねぇ~。……しょうがないから、私も付き合ってあげるね。彼女だもん」
「全く持って理解できませんわ。……ですが、私も付き合ってあげます。妹ですから」
「……ありがとう」
ボロボロになった生徒会室で三匹の不死鳥は笑い合う。
全くもって場違いな状況だったが。
白音が体育館に入ったのと同じタイミングで、校舎に繋がる扉から緑のスリットがはいったチャイナ服を着た女性が入って来た。彼女はスリットの下に白いズボンをはいている。
「……リアス・グレモリー戦車代理の塔城白音です」
「ライザー眷属戦車、紅美鈴です」
お互いに名乗った後、二人は自然に拳を構え体中に気を巡らせ高ぶらせていく。
それから少しの間両社は微動だにしない。
「ハアァァァアアッ!」
最初に動いたのは美鈴だった。
彼女はお互いの距離が二十メートル以上も離れているのにも関わらず、咆哮しながら右正拳突きを放った。
普通ならなんら意味のない行為だ。それどころか明確なスキを相手に晒してしまう。
だが白音はその場から横に回避する。とても慣れた動作で。
彼女が回避した直後、彼女が元々いた場所を不可視の衝撃が襲う。
「流石、兵藤一誠の家族ですね」
一方の美鈴も避けられたことに対する驚きはない。理由としては目の前の女性が『兵藤一誠の家族』という事があげられる。ライザーの眷属になる前にも、何度か彼と彼の家族の噂は聞いたことがあった美鈴。更にライザー本人からこのゲームの前に白音についても注意するようにと言われていた。だから先の一撃も本気ではない所謂『あいさつ代わりだ』というやつだ。
「……当然です。これくらいできなければあそこでは生き残れませんから」
言いながら白音は改めて拳を構える。構えた瞬間彼女の目の前に美鈴が一瞬で移動してきて拳を振りかぶっていた。
「———ッ⁉」
「———シッ!」
短く吐かれた息と共に左拳が白音の腹目掛けて鋭く飛んできた。
白音はそれを右手で自身の左側に押し出していなす。だが美鈴も負けておらず、いなされた力を利用して白音の脇腹に向かって廻し蹴りを放つ。白音はそれを一歩下がる事で躱した。
「………」
「ハアァァァアアアア‼」
無言で猛攻を躱していく白音と気合の入った咆哮と共に足拳を巧みに使い攻めていく美鈴。
状況だけ見れば防戦一方の白音が劣勢に見えた。
場所をめまぐるしく変えての攻防に、体育館はボロボロになっていく。
何度目かの打ち合いの後二人は大きく距離を置いた。
距離を取った二人の様子は対照的だった。防戦一方だった白音は息一つ乱れていないのに対して、美鈴は肩で息をするほど疲労していた。
美鈴は激しく攻めていたのだから当然だろう、と言ってしまえばそれでおしまいだが、彼女の消耗はそれ以上に見える。
「なる……ほど…。これが……あなたの…能力…ですか……」
「……その通りです。ま、あれだけ私と接触すれば流石に分かりますよね」
『障り猫』
触れた相手の体力・気力・魔力を吸い取る能力。《物語》では生気を吸い取る能力だったがこの世界だと少し変化していて、魔力等のエネルギーも吸い取る事が出来る。
白音はこの能力を使って美鈴から体力と気と魔力を奪っていた。
「……ですが、今の所この力は全開じゃありませんので。あしからず」
「これで全開じゃないとか……もう笑うしかないですね。アハハハ……」
白音の言っている事は事実だった。この能力は使用者のストレスによって力が上下する。ゲーム前に白音は一誠に頭を撫でられた事によりストレスが減少していた。だから今の彼女は『障り猫』の能力を十割使えなかった。
「……私にはまだやる事があるので素早く終わらさせていただきます」
そう言って彼女は左手に魔力右手に気を纏わせる。そして何かに祈る様に両手を合わせた。
「……感卦法」
二つのエネルギーが混ざり合い彼女の身体を保護するように覆う。
その巨大な力を見て美鈴は笑みを浮かべた。当然だ。彼女はライザーの眷属である前に武術家なのだから。強い奴——それも同じく拳を武器に使う奴と戦えることは彼女にとってかなり興奮する事だ。
だから彼女も全身から気を立ち上らせる。
白音に吸い取られてもなお膨大なそれは、彼女よりも少し少ないくらいの量だ。もし白音に吸い取られていなかったらアック実に美鈴の方が気の量は多かっただろう。
しかし美鈴の変化はそれだけにとどまらない。彼女の身体から気とは違う力が沸きあがっていく。
「……龍気———」
驚愕した白音がそのエネルギーの名称をポツリと呟いた。だが彼女が驚いたのは龍気を見たからではない。確かに《龍気》はドラゴンしか使えない特殊な気だ。しかもドラゴンだったら誰でも使えるという訳では無く、本人と龍気の相性がいい者か一定以上の力を持ったドラゴンでなければ使うことは出来ない。しかし白音は龍王以上のドラゴンと暮らしているので、目にするどころか実際に戦った事もある。だから彼女にとって龍気はそれほど珍しいものではない。
白音が驚いたのは、先程まで悪魔の気配しかしなかった美鈴からいきなり龍気が発せられたことだ。
「簡単な事ですよ。私は悪魔である以前に龍気を使える龍ってことです。どんな龍かは教えませんけどね」
悪戯っぽく笑う美鈴だが体から発せられる気と龍気は密度が濃くなっている。
そして白音も最初こそ驚いたものの、すぐに臨戦態勢になり一撃で相手を仕留められるように集中する。
「いつまでも楽しんでいたいものですが、ご主人様に万が一の事があっては困るのでこの一撃で決めさせてもらいます」
「……それはこちらも一緒です。グレモリーには別に思う所はありませんが、兄様が見ている前で負けるわけにはいきません」
二人は同時に相手へと突撃した。余波で床は抉れ、窓ガラスは粉々に吹き飛び、体育館内は原形をとどめないほどに破壊された。
そして脱落者を知らせるチャイムが鳴る。
白音と美鈴が戦いだした頃、校庭でも騎士同士の戦いが行われていた。
リアス・グレモリーの騎士である木場佑斗とジャンヌ・ダルクがライザー・フェニックスの騎士であるディルムッド・オディナに対して、息の合ったコンビネーションで果敢に攻めていた。
それでも優位なのはディルムッドである。
理由としては、まず第一に技量の差。これは実際の英雄と十年前後しか鍛錬をしていない少年少女なのだから当り前である。
次に武器の違い。槍と剣ではリーチの長さが違い、長い方が有利なのは当たり前である。だがこれはあまり関係ない。なぜなら、佑斗とジャンヌは魔剣創造と聖剣創造を持っているからだ。槍くらいの長さの剣を作るなど朝飯前である。実際は作ったところで使えないが。
そして最後に能力の差。ディルムッドの持つ破魔の紅薔薇は接触している物の魔力を打ち消す能力だ。対して佑斗とジャンヌの持つ神器は本人の魔力を元にして魔剣と聖剣を作る。故にディルムッドの槍とは相性が悪かった。
故に二人は、二人がかりであるにも拘らず苦戦していた。
パキィーンという剣が破壊された音と共に、一人と二人は大きく距離を取った。
佑斗とジャンヌは肩で息をしていて所々に浅い傷を負い血が滲んでいる。対するディルムッドは呼吸も乱れていなければ傷も負っていなかった。戦闘の余波で多少服が汚れている位だ。
それでも彼は目の前の少年少女の技量に、回避能力に、戦闘センスに、そしてコンビネーションに感嘆していた。
確かに今は拙く未熟だ。だがきっとこれからたくさんの経験を積めばこの二人は英雄並の実力者になるだろ、と彼は考えていた。
「その齢にしてこの技量まことに感服する」
「知ってる? それって言ってる奴が言われている奴より実力者だとただの嫌味にしか聞こえないのよ」
「嫌味などではない。素直な称賛だ」
軽口を叩いてはいるが、ジャンヌもディルムッドも身体の力は抜かずにいつでも動けるようにしている。
「……ジャンヌ」
二人の会話が途切れたタイミングで、佑斗がジャンヌにだけ聞こえる様な声で話しかけた。といっても距離的には彼らとディルムッドの距離は十メートルかそこらしか空いていないので、何か話している事は丸分かりなのだが。
「僕が彼を押さえておくから、君は部長たちの応援に向かってくれ。君の聖剣ならフェニックスの不死性も関係ない筈だ」
「ダメよ。私の方が強いんだから残るなら私が残るわ」
佑斗の提案をジャンヌは一蹴した。だが佑斗も譲らない。
「だからだよ。ジャンヌの方が僕より強いし、聖剣の方が魔剣より役に立つ。故に君が部長たちの方に行ったほうがいいんだ」
祐斗の声はもう普通の大きさになっている。故にディルムッドにもバッチリ聞こえていた。
「悪いが、貴公らはここで討たせてもらう。特にそちらの聖剣使いは、な」
そしてディルムッドの方から一気に距離を詰めて来た。
佑斗はジャンヌの一歩前に出て、腰に刺さっていた唯一本物の剣を抜いて迎え撃とうとする。しかしディルムッドは佑斗をあっさりと躱しジャンヌに迫る。
「魔剣創造っ‼」
しかしジャンヌと彼の間に佑斗の魔剣が地面から行く手を塞ぐように咲き誇った。
ディルムッドは破魔の紅薔薇で破壊しようとするが、左右と後ろからも彼目掛けて魔剣が咲いて来たので、槍を前に突き出したままその場で一回転して周囲の魔剣を粉砕する。しかし明らかなスキができた。それを見逃す二人ではない。
「ジャンヌ行ってくれ‼」
「……分かったわ。でも、くれぐれも無茶しない事。私との約束ね」
ジャンヌはそう言うと、佑斗に背を向けて校舎の方へと走って行った。その時丁度リタイアを告げるチャイムが鳴った。
「……追わなくてよかったのかい?」
「個人的に思う事はあるが…まあ問題ない。一応主の考え通りだからな」
「へぇ……ちょっとどんなものか聞いてみてもいいかい?」
返答は槍を構える事で示された。つまり答える気は無いという事。
「改めて名乗ろう。リアス・グレモリーの騎士木場佑斗」
「ライザー・フェニックスの騎士ディルムッド・オディナ」
『いざ尋常に…勝負‼』
彼らは足に力を入れて地を蹴り剣と槍を交えた。その衝撃は二人の周囲にあるものを吹き飛ばす。
鍔迫り合いはせずにすぐに離れた二人は、自慢のスピードを使って校庭を縦横無尽に動き回りながら刃を交える。だが先程までと違う所は、佑斗が地面や空中などにも魔剣を出現させて攻撃している事だ。そのトリッキーな攻撃のお蔭で、実力差があるにも拘らず佑斗はディルムッドに食らいつくことが出来ている。
「面白い攻撃だが、まだまだスキが多いぞ!」
気合いと共にディルムッドは周囲の魔剣を破壊し、渾身の突きを佑斗に向かって繰り出した。
「ぐぅっ⁉」
佑斗は何とか剣で受け止めるものの、その威力に吹き飛ばされて木に背中をぶつけて崩れ落ちる。
痛みで呻きながらも佑斗はすぐに起き上がる。その顔には笑みが浮かんでいた。
「……やっぱり、格上相手に出し惜しみ押している場合じゃないね」
「ハッタリならやめておいた方がいいぞ、木場」
口ではそう言いつつもディルムッドは槍を佑斗に向けて油断なく構えている。
「ハッタリなんかじゃないさ。禁手‼」
佑斗が叫ぶと彼の両手に一本ずつ魔剣が出現する。それは先程まで彼が魔剣よりオーラの質が違った。
「その剣は……」
ディルムッドは、佑斗が左手に持っている刀身までびっしりと奇妙なルーンが刻まれた大剣を見て呟いた。
「この剣を知っているのかい? これは君よりも後の時代の剣なんだけどね」
「私が書かれている神話のその後が気になってな。一時期熱中して読んでいたことがある。……細部は違うがその剣の実物を見ることになるとは思いもよらなかった」
『ストームブリンガー』
佑斗が左手に持っている剣の名前だ。
この剣は殆どのものを着る事が出来、自我を持っていて殺した相手の魂を喰らう。
しかし佑斗のは勿論偽物だ。自我は無いし、殺した相手の魂を喰らうことは出来ないし、斬れるものもオリジナルより限られる。だが、オリジナルとは違う点がある。それは刻まれているルーンだ。佑斗はこの魔剣を作る時に彼の師より教わった強化のルーンを刻んだ。
そして彼が右手に持っている魔剣はかの有名なアロンダイトだ。この剣は使い手を強化する能力がある。が、偽物なので勿論劣化している。それでもストームブリンガーと合わせればそこそこ強化する事が出来る。
佑斗はこの二つの剣で自信を強化し、ディルムッドに対抗するつもりだった。
「なるほど……強化のルーンで身体能力を強化し少しでも技量差を埋めようという考えか。そちらの剣は分からないが、似たような能力なのだろう」
ストームブリンガーと同じ神話であるディルムッドは、その魔剣に刻まれているルーンを意味を当然知っている。だから佑斗の考えも手に取る様に分かった。
「どんなに身体能力を強化しようと、技量差は埋まらない事を教えてやる」
言葉と共にディルムッドは佑斗に向かって駆け出した。その速度は、かつてあの戦争に参加した中で最速を誇るにふさわしい速度だ。
佑斗はそれを横に跳んで躱す。その時に先程まで寄りかかっていた木から魔剣を数本出現させて、ディルムッドの串刺しを狙う。勿論彼もそれだけで倒せるとは思っていない。
「ぬるいっ‼」
彼の予想通り、英雄はその槍で魔剣を一掃した。しかし佑斗は手を緩めない。地面と空中のあらゆる場所から魔剣を出現させ英雄を狙う。
しかしそこは英雄。襲い掛かる魔剣を躱し、破壊し、同士討ちさせながら佑斗に迫る。
「シッ‼」
短く吐きだされた息と共に神速の連続突きが佑斗を襲う。彼はそれを、強化した体に物言わせて躱していく。
結局ディルムッドの言った通り、佑斗がいくら身体を強化しても技量差は埋まらない。確かに先程よりはマシになった。さっきまでは躱すたびに傷が出来ていたが、今はきちんと躱せているので傷は無い。それでも佑斗からは攻められない。
「まだ…まだっ!」
先程の繰り返しで、魔剣をディルムッド目掛けて射出する。彼はその隙に距離をとり、二本の魔剣を一度左手で一気に持つと新たに魔剣を作り、それを地面に突き立てた。
「凍れ!」
叫び声と共に彼の周囲の地面が氷に覆われていく。
魔剣を捌き終わったディルムッドは足元まで氷が迫って来ていたので跳躍して大きく距離を取る。
「なるほど……。この氷で俺のスピードを奪うという訳か。だが条件は同じだ」
ディルムッドは佑斗に向かって駆け出す。彼は氷のエリアに入っても少しスピードが落ちるくらいだった。
一方の佑斗も同じように駆け出した。違う所は先程と全く変わらないスピードだという事だけ。
「ッ⁉」
そん事に驚くディルムッド。だが彼も英雄に名を連ねるもの。直ぐに頭を切り替え、槍を持つ手に力を込めた。相手を一撃で屠れるように。
『————ッ⁉』
一瞬の擦れ違いの後、二人は剣と槍を振りぬいた姿勢を保っていた。
「————やっぱり、敵わないか……」
肩口から斜めに血を吹き出して佑斗がその場に倒れる。彼が張った氷も徐々に解けだしていった。
「いや……貴公の刃は、確かに届いた」
口から血を吹き出し、腹に大きな横一文字の傷を負ったディルムッドも力なくその場に倒れこんだ。
そして二人の身体を光が包む。
同時に脱落者を告げるチャイムが鳴る。
佑斗とディルムッドが相打ったのを雷花は視界の端で確認した。
彼女は旧校舎がある森の上空で現在二人の敵を相手にしていた。
一人は中距離にいるユーベルーナ。もう一人はここからは遠距離に当たる校舎の屋上にいる真名。
ユーベルーナ一人ならば雷花は楽勝とは言わずとも普通に勝てた。現に今も爆破魔法を使った後でスキが出来たユーベルーナ向かって、文字通りの雷速で移動して拳を叩き込もうとしている。しかし急に方向転換してその場を離れた。一拍後に先程まで雷花がいた場所を弾丸が通り過ぎる。
「ああもうっ! さっきからうっとおしい!」
いら立ちを隠そうともせずに雷花は怒鳴る。
一応雷を飛ばして攻撃することもできるが、それだと彼女の障壁に阻まれる。物理攻撃なら障壁を粉砕したうえでダメージを与えることが出来るが真名に妨害される。八方塞だった。それ故にイライラしている。
「正々堂々勝負しろ! この卑怯者っ!」
「卑怯で結構。ライザー様の幸せの為なら、私は喜んで汚名を被りましょう」
実力では劣るユーベルーナが雷花に優勢な理由、それはこの戦いに対する思いの違いだった。もちろん二対一ということもある。
ユーベルーナはこの戦いに全力全開で挑んでいる。いくらライザー眷属が全体的な質で勝っているとはいえ、負ければライザーは望まぬ結婚をさせられ、彼女の親友は妾と言う立場に落される。親友はそれでも彼の隣にいられるならいい、と言いそうだがユーベルーナは耐えられない。親友がそんな立場にいるのが耐えられない。だから彼女は今必死に戦っているのだ。親友と主の幸せの為に。
対する雷花は、ユーベルーナ程このゲームに乗り気ではない。勿論全力でやっている。やってはいるがそれだけだ。彼女ほど死ぬ気ではない。雷花からすればこの騒動は所詮他人事だ。いくら自分の主のでも自分のではない結婚問題にはモチベーションが上がらないのが彼女の本音だった。
つまるところ、ユーベルーナと雷花の差はモチベーションの問題だった。それが二人の実力差を失くし、ユーベルーナが優勢になっている理由だった。
ズザァッ!
―——だが勿論雷花にも仲間はいる。
『ッ⁉』
突如校舎と二人の間に巨大な幅広の剣が空高く聳え立った。その剣は聖なるオーラが漂っている。
それを見た二人の反応は早かった。
ユーベルーナは大量の水属性の魔法を雷花に向かって発射。
雷花は全身を帯電させながらユーベルーナに向かって突っ込んだ。
「このっ‼」
「アアアァァァァァァ‼」
結果など言うまでもない。ユーベルーナの魔法は雷花に当たった瞬間にすべて水蒸気になり、咄嗟に張った障壁も雷花に易々と破られて、腹部に雷付きの拳を貰った。
跳ぶことが出来なくなった彼女は体を光に包まれながら落ちていく。それを雷花は空中に佇んで見下ろしている。
だから気づいた。ユーベルーナが笑っている事に。
「————置き土産です」
そう言いながら彼女が指を鳴らすと、雷花の周囲の水蒸気が水に戻り巨大な立方体を作ってその中心に雷花を閉じ込めた。
だが雷花は焦らない。今の彼女は帯電している事によって水を電気分解させ、電熱で蒸発させることができるからだ。
事実、彼女の周囲の水は気体になっていき———
ドゴォォン‼
―———爆発した。
爆発があった時、リアスはアーシアと一翔、それから途中で合流した白音とジャンヌらと一緒に生徒会室を目指していた。
「今の爆発は……」
「ユーベルーナとか言う奴の攻撃ね。音の大きさからいって、爆発の規模も大きいわ」
不安そうに呟くリアスに対して、ジャンヌは冷静に状況を判断している。
「もうすぐ生徒会室の前を通るわ。伏兵がいないとも限らないから気を引き締めなさい」
「分かってるわよ」
ジャンヌに注意されたリアスは、不貞腐れながらも彼女の言葉に従う。
「安心してください。伏兵なんていませんわ」
突然前方から聞こえてきた声にリアス達は臨戦態勢になる。
彼女達の目の前五メートルほどの距離の所に縦ロールでフリルの付いたドレスを着たお嬢様がいた。
「レイヴェル・フェニックスね」
「ええ。お久しぶりですリアス様」
リアスの確認に、レイヴェルは素直に頷いて優雅にお辞儀する。その動作はとても洗練されている。殺気立っているこの場には不釣り合いだが。
「屋上にライザーがいるんでしょう。私達は彼に用があるの。だから其処を退いてくれないかしら」
リアスは平和的に話し合いでレイヴェルに引いて貰うつもりだった。それはこれから義妹(仮)になる少女との間に余計な確執を生みたくなっかたというのもある。だが最大の理由は————
「お断りいたしますわ。どうしても通りたいのでしたら
―————彼女が世界に五十人といない超越者の一人だからだ。
彼女から放たれるプレッシャーは、制限を受けているとはいえ超越者の名に恥じないもの。
この世界には一誠の影響か、原作よりも超越者の数が多くなっている上に、修行したことで超越者と同じレベルまで到達した『覚醒者』というものまでいる。原作以上のインフレだ。
だがレイヴェルの場合はちょっと違う。彼女は憑依転生した者だ。分類で言うならジャンヌに憑依転生した彼女と同じになる。
そんな彼女はこの原作を知らない。ただ危険な世界だという事は自分を転生させたものから聞いたので、転生特典を(彼女が考える中で)強力なものにした。結果超越者レイヴェル・フェニックスが誕生、という訳だ。
「———と、言いたいところですが」
そんな言葉と共に、レイヴェルから放たれていたプレッシャーが消える。
「リアス様とアーシア様そして一翔様はどうぞお通り下さい。この先にある階段を屋上まで上ると、そこにお兄様が言ますわ」
突然身体の半分を引いて道を譲るレイヴェルにリアス達は困惑する。
「……どういうつもり?」
「別に。ただそれがお兄様からの指示、というだけですわ」
リアスは警戒しながらも一翔とアーシアを伴ってレイヴェルの横を通る。
彼女達がレイヴェルからある程度離れた所まで行くと、レイヴェルの後ろの床から氷が生えてきて廊下を塞いだ。
「あら、私達も通してはくれないのかしら?」
「残念ですけど、お兄様に言われたのはあの三人だけですので」
「随分兄の命令に忠実なのね」
ジャンヌが刺々しく言うと、レイヴェルは屈託のない笑顔で言った。
「勿論です。お兄様であり王であられるお方ですから。それに私は、お兄様を尊敬しており、敬愛しており、憧れています。そんな人の命令ならなんだって従いますわ」
その言葉には一種の狂気が含まれていた。
「……ブラコン」
「ええブラコンですが何か? そう言うあなたも兄のような存在である一誠様にベッタリだと聞いてますが。ブラコンの白音さん?」
瞬間レイヴェルと白音の間で火花が飛び散った(比喩抜きで)。
それを傍から見ていたジャンヌは原作でなくてもこの二人は仲が悪いのね、と他人事で考えていた。
「ではこの勝負で勝った方が、真のお兄様愛を持っている者ということで。負ける気がしませんわ」
「……それはこちらのセリフです」
冷気を纏い構えるレイヴェルと気を体内に満たしながら腰を落とす白音。ジャンヌを蚊帳の外に追い出して、二人はそれぞれの力を使い相手を攻撃する。
「貫きなさいっ!」
先制攻撃はレイヴェルだった。彼女が白音に手を向けて叫んだとたん、彼女の周囲の床から剣山の様に鋭い氷がはえて来て串刺しにした————様に見えた。
「……ぶっ飛べ」
刺されたのは残像で、本体の白音はレイヴェルの後ろに回り込み気を集中させた掌底を彼女の背中に打ち込んだ。更に接触部分からはバチバチと火花が散る。
「ガハッ⁉」
その衝撃でレイヴェルは肺の中の空気を強制的に吐き出され、白音に対して大きな隙を見せる。しかし白音は追撃をしないでレイヴェルから距離を取る。そして彼女が、先程レイヴェルを殴った手を見てみると表面が薄く凍っていた。
「……触れたら問答無用で凍結ですか。面倒な能力ですね」
「正確に言うのなら、『触れる』ではなく『私に近づく』ですわ」
白音は手の氷を、火車の炎で溶かしながら呟いた。
遠ければ永遠と氷が襲ってきて、近づけば近づくほど体が凍っていく。確かに面倒な能力だ。
「……ですが、魔力は奪えました。……感卦法」
レイヴェルから奪った魔力を使い白音は再び感卦法を使う。更にその両腕が白い炎に包まれていく。
「……浄化能力を持つ火車の炎です」
「流石に、それをくらえば私でも危ないですわね」
その炎を見た後のレイヴェルの判断は素早かった。白音との距離を一定以上に保ち、ひたすら氷による中遠距離攻撃を繰り返す。
対する白音は、迫りくる氷を両腕の炎で溶かしながらレイヴェルに迫る。
だがここは廊下だ。しかも屋上へと続く道はレイヴェル自身の氷で覆われているので其方には行けない。
「……この距離なら外しません」
遂に懐に潜り込んだ白音が、白く燃えるその拳を彼女の腹にぶち込んだ。
「———————ッ⁉」
それをまともにくらったレイヴェルは、まず衝撃で肺の中の空気を強制的に吐き出され、次に白音の腕が貫通し炎の熱でその周囲も溶けて腹に大きな穴が開いた。
白音は素早く手を引くと、両腕を交互に使い連打を浴びせていく。相手が不死鳥故の手加減のなさだった。
「……これだけ打ち込めば———」
少し距離を取った白音は、感卦法を解除し肩の力を抜いてそう呟く。確かに浄化の力を持つ炎を悪魔であり氷そのものでもあるレイヴェルにかなりの数浴びせれば、いくら不死鳥と言えどもひとたまりもない。そう……普通の不死鳥ならば―——。
「………ッ!」
「全く、いくら不死身が相手とはいえ容赦がありませんわね」
砕けて粉々になっていた氷が、一つに集まりレイヴェルの形になる。そして透明な氷に色がつくとそこには無傷のレイヴェルが平然と立っていた。
「今の連打は、私以外のフェニックスでしたら死ぬかリタイアしていましたわよ」
「……そのまま砕けていればよかったのに」
「残念ながらそれは無理ですわね。私はフェニックスの突然変異ゆえに氷があればそれだけで復活できますし、超越者でもあります。超越者のタイプで言うと、サーゼクス王と同じタイプですわ」
「……つまり、あなたは氷そのもの、と」
「ええ。私は氷を司るフェニックス。その力は私が超越者であるゆえに物理法則でさえ凌駕しますわ。ですから氷を支配下に置く、という意味ではセラフォルー王よりも断然上ですわ。まあ、まだまだ未熟ゆえ至らぬところが多々ありますけど」
レイヴェルの説明を聞いた白音は、素直に面倒くさそうだと思った。もっと仙術を使いこなせればやり方はいくらかあったのだが、生憎彼女は彼女の姉と違って術系統が得意ではない。出来る事は物理で殴る、それくらいだ。
だが、白音はそれを嘆かない。一時期はその才能のなさを恨んだりもしたが、今は心の整理をつけているのでもうそう思う事は無い。なぜなら———
「……分かりました。復活できなくなるまで、殴り続けます」
―———彼女は、彼女のできる事をやればいいのだから。
それから二人の戦いは、同じことを繰り返すだけの単調なものになっていった。白音が接近し浄化作用のある炎を纏った拳で殴る。ひたすら殴る。それをさせまいと、レイヴェルは氷を操って白音を攻撃する。ただそれの繰り返しだった。だが消耗しているのは白根ただ一人。まあ、当然と言えば当然だ。二人ともゲームに出る為に制限を受けている。その制限は彼女達が持つその種族固有能力以外を制限している。簡単に言うと、レイヴェルはフェニックスの能力以外、白音は火車の能力以外だ。故に持久戦になればレイヴェルに分があるのは明白。
「……ハァ……ハァ……」
「どうしましたの? もう息が上がっていますわよ」
二人の攻防が続いて数分。たった数分にも拘らず白音は肩で息をするほどに疲労していた。
「……何で……リタイアしないんですか?」
対してレイヴェルは、呼吸を乱すどころか平然としていた。戦闘が始まる前と同じように。
浄化の力を持つ炎で殴打を受けても平然と復活するレイヴェルに対して、白音は心底疑問に思い小さく呟いた。
「簡単ですわ。私が超越者であるが故の副作用ですわ」
「……副作用…?」
「ええ。普通の枠には当てはまらない、という超越者の特性がフェニックスの固有能力にまで影響したという訳ですわね」
そうレイヴェル・フェニックスは完全に不死身だった。勿論ゲームに参加するために二つの条件が課せられている。
一つ目…力を制限する
二つ目…二十秒以上気絶もしくは十秒以上心肺停止していた場合問答無用でリタイア
この二つだ。
別にライザーは出なくていいといったのだが、レイヴェル本人が彼の眷属になってでる事を熱望したためこのようになった。
「……完全な不死身とか、チートすぎます」
白音のボヤキも尤もだ。
「……ですが、私にも負けられない理由があるんです。故に勝たせてもらいます」
「悪いですけど、それはもう無理ですわ」
「……え?」
パチン
レイヴェルが指を一度鳴らした瞬間、白音の身体の至る所から真っ赤な氷の棘が生えてきた。
「〰〰〰〰〰〰ッ⁉⁉」
そのあまりの痛みに、彼女は声にならない絶叫を上げた。
白音の身体から生えてきた氷の棘の正体は、彼女自身の血液。レイヴェルはそれを自らの力で氷の棘に変えて白音の体内から生やしたのだった。
「………このくらいで……リタイアする…訳には———」
「残念ですが、その状態になった段階で既に勝負はついていますわ。それに次にあなたがしようとしている事も分かっていますしね」
パチン
そう言ってもう一度レイヴェルが指を鳴らした途端、白音の身体が氷の棺に閉じ込められた。閉じ込められる直前、白音の身体全体から例の白い炎が噴出しそうになっていたが、それごと凍らされている。
「さて……お待たせしましたわ」
「別にいいわよ。一対一の戦いに手出すほど野暮じゃないつもりだしね」
ジャンヌは寄りかかっていた壁から離れ廊下の真ん中へ移動しレイヴェルと対面する。
そして彼女の後ろでは氷漬けになった白音が淡い光に包まれていった。
『リアス・グレモリー様の戦車代理。一名リタイアです』
白音が退場したことにより、廊下にはジャンヌとレイヴェルの金髪二人だけが残った。
「さっきの戦いを見て改めて思ったわ。……手加減はいらない、てね」
ジャンヌの手に一本の聖剣が握られる。
「その剣は……」
その聖剣を見たレイヴェルの瞳が見開かれる。
「あら意外ね。このエクスカリバーを知っているなんて」
ジャンヌの手に現れたのはかの有名な聖剣エクスカリバー。もっと細かく言うならば並行世界のエクスカリバーだ。
「ええ。昔一誠様が家に来た時に見せてくれましたの」
二人はのんびり話している最中に建物が大きく揺れる。レイヴェルと白音の戦いのときも揺れてはいたが、それよりも大きな揺れだ。
「どうやら、お兄様たちの戦いも佳境を迎えたようですわね」
「そのようね。それじゃあ……こっちも始めましょうか!」
そう言うと同時にジャンヌはレイヴェルに向かって駆け出す。
それに対してレイヴェルは、白音に対してやっていたように氷の棘で攻撃する。
ジャンヌはそれを聖剣で迎撃することなく、軽業師の様にひょいひょいと躱してレイヴェルに接近する。
「⁉ 早いっ!」
「当然でしょ。騎士だもの」
一瞬で目の前にまで来たジャンヌにレイヴェルは僅かに怯んで後ずさりするが、背中が自ら塞いだ氷の壁にさえぎられてしまう。そのスキを突きジャンヌはレイヴェルが掲げていた腕を肩の所から斬り飛ばす。
「〰〰〰〰〰〰ッ⁉ ああぁぁぁあああああ‼」
「叫んでるところ悪いけど、さっさと決めさせてもらうわ」
肩を押さえながら絶叫するレイヴェルに向かって、ジャンヌは聖剣を上段から振り下ろした。
「ッ⁉ チッ!」
しかしそれはレイヴェルを両断することなく空を切った。
急いでジャンヌは上下前後左右の全方位を確認するが、レイヴェルの姿は全く見当たらない。
(今の一瞬で移動した……? 魔方陣も使わずに?)
前世で色々なアニメや小説を読んでいた為に、この世界では本来ありえない手段がジャンヌの頭をよぎるが頭を振ってそれらを否定する。
(彼女は転生者だから別世界の移動系能力を持っている可能性もある。それに一誠がなんかの能力を貸したって可能性もありそうね。でもだったらなぜ白音との戦いで使わなかったのかしら……?)
『全く、いくら私が無限に再生できると言っても痛いものは痛いんですのよ』
突如として聞こえてきたレイヴェルの声に、ジャンヌは周囲をせわしなく見回すが本人の姿は何処にも見えない。
『まさかこの手を使わされるとは思いませんでしたわ』
その言葉と同時に、廊下を塞いでいた氷が中心から左右に割れて奥からレイヴェルが現れた。
「魔力を使った痕跡はなかったから、その氷をすり抜けたってところかしら。随分あなたの力は応用が利くのね」
「自然系の超越者としてはこのくらいは朝飯前ですわ」
ジャンヌの皮肉にレイヴェルは笑って返す。
「じゃあ、こういう時はどうするのかしら?」
床・壁・天井かのそれぞれから聖剣がそれぞれの場所と平行に生えてきて辺り一面を埋め尽くした。
「どう? これでさっきの移動はできないんじゃないかしら」
「確かにそうですけど、私の戦闘力が低下したわけではありませんので問題ないですわ」
また二人は戦闘を始める。
ジャンヌはエクスカリバーを握っている手とは逆の手にもう一本聖剣を作って二刀流で攻撃する。
対するレイヴェルは、氷で攻撃するだけでなく本格的に魔方陣を用意て魔法を行使し始めた。
「あら、普通の魔法も使えるのね。てっきり氷を使って遠くから攻撃して来るだけだと思ったわ」
「あなた程度には必要ないと判断して使わなかっただけですわ」
その口喧嘩? の後は二人の攻撃の威力が上がった。ジャンヌはヒットアンドウェイで攻めていたのに、多少傷を負っても無理矢理攻撃に移る様になった。レイヴェルも防御をある程度捨てて氷や氷魔法でドンドン攻めている。
次第に二人の服や体には無数の傷が出来ていく。それでも急所にはどちらも傷を負っていない。
「ハッ⁉」
「ッ!」
上段から思いっ切り振り下ろされた聖剣がレイヴェルが持っていた氷の半ばまで食い込む。
レイヴェルは腕大きく横に振ってジャンヌを弾き飛ばす。桟敷飛ばされる瞬間に、ジャンヌは自ら後ろに跳んで距離を取る。彼女は着地すると同時にレイヴェルに向かって駆け出して、彼女に休む暇を与えない。更に、ジャンヌが一歩踏み出すたびに床や壁や天井から聖剣が生えてきてレイヴェルの邪魔をする。
「ああもうっ! 鬱陶しいですわね!」
レイヴェルは叫ぶと、前後上下左右に向けて氷の棘を生み出す。それらは聖剣を砕きジャンヌに迫る。
「……今更な攻撃ね」
しかし彼女はそれを易々とエクスカリバーで切り裂いていき、そのままレイヴェルへと迫る。
迫りくるジャンヌを見てもレイヴェルは狼狽えることなく不敵に笑う。
「それは悪手ですわ‼」
自分の手の内に自ら飛び込んできたジャンヌがおかしくて、レイヴェルは飛び切りの笑顔を浮かべながら氷を操った。
左右に別れた氷の内側から、アイアンメイデンの内側の様に太い棘が無数に生えてジャンヌを挟み込むために内側に閉じていく。
「そんなの……覚悟の上よ‼」
力強く地面を踏み込んだ彼女は、槍投げの要領でエクスカリバーを思いっ切り投擲する。ご丁寧に刃の部分をレイピアの様に鋭く刺さりやすくして。一連の動作に一歳の躊躇いは無い。
更に、レイヴェルの周りの地面から数多の聖剣が彼女を貫かんと迫って来た。投げられたエクスカリバーと氷の操作に気を取られていた彼女は、それらの聖剣をもろにくらってしまう。
「グゥ……。———ですが、ただではやられませんわ!」
レイヴェルは自身の身体が光り輝いているのに気付いたが、最後の悪あがきとばかりにジャンヌの左右から迫っていた氷を思いっ切り閉じた。
当然ジャンヌにそれを避けられる筈も無く、氷の棘に串刺しにされ彼女の身体は光り輝く。
「残念。相打ちですわね」
「そうね。でも私としては最低限の義理は果たしたからいいわ」
最後に短く言葉を交わして、彼女達はフィールドから転移した。
リアス達が屋上に着くと、そこには『王』のライザーと『女王』の迦楼羅と『兵士』の真名が待ち構えていた。
「覚悟しなさいライザー! この勝負に勝って私はあなたを手に入れるわ!」
ライザーを鋭く指さしながら、リアスは意気込んだ。
「ふむ……では私はそこの『女王』様と戯れている事にするよ」
体中ボロボロになりながらも雷花が現れた。
「あんたは、さっきの狙撃ヤローか。いいよ相手になる」
支給されたフェニックスの涙を使わずにアーシアに傷を治してもらった雷花は、悪魔の翼をはばたかせて校庭の方に向かう。真名はそれに無言で付いて行く。
「じゃあ、お前達の相手は俺になるな。遠慮しないでどっからでもかかって来い!」
炎を纏いもせずただ拳を構えるだけのライザーの姿はリアスのプライドを刺激する。プライドが高い彼女は、いくら相手が格上であっても明らかにこちらが舐められていると分かれば、自分が格下であるのもお構いなしに相手に全力で戦う事を要求する。しかし今は、結婚という人生の一大イベントが掛かっている所為か端も外見もかなぐり捨てて相手の好意に甘える。
「イッショー、今のうちに溜めておきなさい」
「はい、部長」
「アーシアは後方で待機。私達が危なくなったら回復のオーラを飛ばしてちょうだい」
「はい!」
今では二人しか居なくなった眷属に自身が最善と思った指示を飛ばす。その姿に、ライザーは眷属を持ったばかりの頃の自分を思い出して感慨にふける。
だがそれとこれとは別だし、これは実践形式のレーティングゲーム。かかって来い、と言ったからといって待っている必要は全くない。故にライザーは倍加を溜めているイッショーに向かって駆け出した。
「うおぉっ⁉ そんなのありかよ⁉」
ライザーの蹴りを間一髪のところで避けた一翔は、彼の行いを非難する。
「何を言うか。これはゲームであっても遊びではないんだぞ。いくら俺が『かかって来い』と言ったからといって、お前達が向かって来るのをわざわざ待っている訳がないだろう」
正論過ぎて一翔は反撃できない。
「イッショー、倍加は溜まった?」
「はい! もう十分溜まりませした!」
ライザーの猛攻を紙一重で避けながら、一翔はリアスに譲渡しようとする。しかしそんな事をライザーがさせるはずがない。彼の一翔への攻撃は両手両足をフルに使ってますます激しいものとなる。
ドゴォン!
轟音と共に校舎が大きく揺れる。
「っとと」
(今だ!)
揺れの所為でライザーの意識が一翔から一瞬逸れた隙に、彼はリアスの元へと駆け出した。対するリアスも一翔の元へ駆け出す。
「部長!」
「イッショー!」
二人の伸ばした手が触れ合い、一翔が倍加した力がリアスに流れ込む。
「喰らいなさい!」
両手をピストルの形にしてライザーへ向けたリアスは、人差し指の先から本物の弾丸と同じ形をした消滅の魔力の魔法弾を発射する。これは彼女が、貫通力向上・魔力消費量減少・連射速度上昇の三つを効率よく行うにはどうしたらいいかと考えた結果生まれたものである。まあ、魔力消費に関しては連射したら相応の魔力が減るのだが。
最初はモデルガンや本物の拳銃に魔力を装填して打ち出そうとしていたのだが、生憎と彼女の魔力は『消滅の魔力』だ。装填した瞬間に銃本体が持たなかった。じゃあ魔力などで補強すればいいのだが、彼女達の中にそれを出来る者が居なく仕方なく手でピストルの形を作るという子供の遊びのような方法になったのだった。
だが、見た目はあれでも威力は折り紙つき。いつもはリアスに厳しいジャンヌが感心したほどである。
リアスが放った魔力の弾丸は、その殆どが外れて彼方へと飛んで行くが、数発はライザーの体を貫通してダメージを与えた。これは別にリアスの腕が悪い訳では無く、ライザーが指を向けられた瞬間に回避行動をとったからである。
「おいおい……随分厄介な攻撃だな」
余裕そうに見える彼だが内心冷や汗ものだ。
人間界に長くいた彼だから銃の恐ろしさは知っている。一度モデルガンを買って試し打ちした時はその威力に驚いたものだった。だから今回の事もリアスの手の形を見た瞬間、頭で考えるよりも体が反射的に反応していた。
「……部長、これからは俺が前に出るんで援護してください」
一翔はリアスとライザーの間に割り込み拳を構える。
「分かったわ。でも、くれぐれも無茶はしないでね」
リアスの言葉にうなずいた一翔は、ジグザグに動いてライザーをかく乱しながら向かっていく。
ライザーは笑みを浮かべながらそれを迎え撃つ。
魔力などの無粋なものは一切使わない拳と拳で殴り合う戦い。技量は圧倒的にライザーの方が上だが、一翔は根性で必死に食らいついている。だが、それも何時までも続くものではない。
トン
そんな軽い音と共にライザーの拳が一翔の腹に当たる。
「……?」
その攻撃にもなっていない様な攻撃に一翔は首を傾げた。しかしすぐに現状を思い返して腕を大きく振りかぶってライザーに殴りかかる。一翔は気付いていなかった。ライザーが拳を当てる前に校舎の屋上を思いっ切り踏んづけていたことを。
ドン!
「ッ⁉ ガッ………ハ!」
そして一翔が殴りかかるよりも先に彼の腹を衝撃が突き抜ける。その所為で一翔はライザーを殴る事が出来ず吐血して蹲る。
先程から一方的になぶられている一翔は、アーシアに回復してもらっても所々に傷が目立つ。それでも彼は立ち上がろうと足掻き、目には不屈の闘志を燃やす。
「……なんでお前はそこまで頑張るんだ」
ライザーは彼とリアスの関係を知っているからこそそう問いかける。
自分には直接関係ない主の結婚問題。それも眷属になったのはここ一月以内。そんなほとんど他人同然の主の為に頑張る意味が分からない。そう考えた故にした質問だった。
「そんなの…決まってんだろ……」
息も絶え絶えで時折口から血を吐きながらも、彼は彼の心の内を素直に伝える。
「俺…が、部長の事を……好きだからに決まってんだろ。眷属としても…後輩としても…部員としても……そして男としてもな!」
足が震えながらも、体がボロボロになりながらも彼は立ち上がった。
「—————イッショー……」
そんな彼の姿にリアスは口に手を当てて涙を流す。申し訳なさと嬉しさから。
リアスは一翔が自分に好意を抱いている事を薄々であるが気づいてた。気づいていた上で、あえて過剰なスキンシップを取り反応を楽しんでいたふしがある。どうせその感情は自分の身体欲しさの下心から来るものだろう、と思っていたから。
彼女はその見た目で下心のある男を惹きつける。下心のある目で見られたら女性は誰でも嫌悪感を表すだろう。その割合が多いリアスの場合は、男に対して軽い拒否反応まで出るようになったくらいだ。
だが一翔の場合は違った。彼のリアスの身体を見る目は良くも悪くも純粋なものだった。そして今聞いたリアス自身に対する想い。それの二つを聞いて彼に対する印象が間違っていた事を知る。
主なのに眷属である彼を信じてやれなかった申し訳なさ。
外見だけでなくちゃんと中身も見てくれた嬉しさ。
この二つはリアスの一翔に対する想いと考えをちょっとずつ変えていく。
そして一翔の想いを聞いたライザーも、彼に対する評価を改める。
「————なるほど。お前の覚悟は良く分かった……」
一翔の言葉を聞いたライザーは静かに頷いた。そして真名と雷花が向かった校庭の方に目を向ける。
「どうやらあの二人の戦いは終わったようだ」
ライザーが呟くとタイミング良くリタイアを告げるアナウンスがなる。
「此処じゃなんだし、どうせならもっとちゃんとしたとこで決着をつけるぞ。ついて来い」
一方的に言い残したライザーは、迦楼羅をお姫様抱っこで抱えると校庭へと向かった。
「……イッショー、アーシアを抱えて来なさい。そしいてアーシアは短い間だけどイッショーを回復させてあげて」
「はい部長」
「わ、分かりました」
リアスの指示通り一翔はアーシアを抱え、彼女は一翔の身体に手をかざして神器を発動させる。
それを見たリアスは悪魔の翼を出して校舎の屋上から校庭へと移動した。
「……ねえライザー。もしかしてレイヴェル以外の全員も能力を制限しているのかしら」
「そうだ。全力で相手できなくて悪いと思っているが、このゲームを企画した両家の御当主や魔王様が決めたことだから逆らえなくてな……」
申し訳なさそうに顔を俯かせるライザーに向かってリアスは首を横に振った。
「ううん、あなたが謝る事じゃないわ。それに私は別にその事を咎めている訳じゃ無いの。ただの確認よ」
「そうか……。全力で相手できないのは心苦しいが、お前達のこの二週間の努力は素晴らしいものだと思う。だからリアスの兵士、俺はお前を今持てる力をすべて使って叩き潰す」
一翔を見て殺気にも似たやる気をぶつけるライザー。
そのやる気に腰が抜けそうになるのを気力で堪えて、一翔はライザーと正面から対峙する。
「上等だ不死鳥野郎! 俺は絶対お前に勝って部長に幸せになって貰う!」
わざと大きな声で言って、一翔は自身の身体の震えを誤魔化し自身を奮い立たせる。奮い立たせなければその場から逃げ出してしまいそうだったから。
「よく言った! 故にもう手加減はしないぞ!」
ライザーの身体から朱い炎が噴き出してくる。リアスと一翔とアーシアは、熱気から顔を守るために手で顔を覆った。
『……ふむ、これは今のお前ではかなり絶望的な戦力差だな』
低くて威圧感のある声が響いた。発生源は一翔の左手にある赤い籠手。
「ドライグ! 力を貸してくれるのか……?」
『さっきのお前の覚悟は、十七のガキではなく立派な男のそれだった。故に今回だけは力を貸してやる』
「本当か!」
『嘘は言わんさ。だから何を倍加するとか何に譲渡するかはこちらでやる。お前はただあいつをぶちのめす事だけを考えろ』
頷いて籠手から視線をライザーに移す。
「行くぞ焼き鳥野郎」
「こいよ蜥蜴野郎」
二人が動いたのは殆ど同時だった。一翔はライザーに向かって駆け出し、ライザーは一翔に向かって熱線を放つ。
一翔の移動速度は、今までの間に溜めていた倍加を使って二倍になっているので、屋上の時よりも早い。更にドライグは、一翔の身体の『耐久力』『自然回復力』『筋力』もそれぞれ二倍にしていた。彼の魔力を操る才能を考えて魔力量を二倍にするより、そっちを二倍にした方がいいと考えたからだ。
だがライザーも伊達ではない。先程リアスがやったように手をピストルの形にしてそこから熱線を打ち出していて、その狙いは正確だ。威力と貫通力はリアスより下だが、弾の速度と連射速度はリアスより早く更に狙いも正確。故に一発一発の威力が低いのを数と精密射撃で補っていた。威力が低いと言っても打ち出されるのはフェニックスの炎を圧縮したもの。生半可なものではない。ただリアスの『消滅の魔力』と比べると威力が低く見えてしまうだけだ。
一翔だけならばライザーの熱線弾幕を避けられないが、今の彼にはドライグがついている。彼は籠手を扱いながら熱線の来る場所を的確に導き出して、一翔を被弾させないように誘導する。そのお蔭で一翔は、胴体や顔などの大事な部分には一発も被弾して無い。手や足には偶に当たるが、貫通する訳では無く掠る程度だ。
「ドライグさん⁉ さっきから手や足に掠ってんだけど⁉」
『この多さだ。それ位は我慢しろ』
一翔の非難をドライグはバッサリと切り捨てる。
そしていよいよ一翔の拳がライザーに届く位置まできた。一瞬の迷いもなく一翔は籠手の付いた左手を渾身の力でライザーに叩きつける。
「甘い!」
だが、当然フェイントも何もないただのパンチが当たる筈もなく。逆にカウンターで回し蹴りを喰らった一翔は後ろに吹き飛ばされる。
何とか体勢を崩す事だけは避けられたものの、ドライグの警告に顔をあげてみるとそこには炎を纏った拳を振りかぶっているライザー。避けるのは不可能と考えた彼は、籠手を着けている左腕が上になる様にして腕をクロスさせて身を守ろうとする。
しかし結果だけ言えばそれは無意味に終わった。
———後ろから飛んできた魔力の弾丸によって。
「イッショー、私が後ろから援護するからあなたは気にせず前に進みなさい!」
「はい部長!」
リアスの鼓舞に応えて一翔はライザーの方へ突撃する。
一方のライザーは、弾丸を避けるために後退したもののダメージはゼロだ。よってリアスが一翔の援護をしようとも普通に殴り勝てる。
しかしそれを良しと思わない人物がいた。
ゴオォ!
「⁉」
「⁉」
リアスが一翔の援護の為に、彼の後ろからライザーに狙いを定めた瞬間、彼らとリアスを遮る様に神々しい炎の壁が立ちはだかった。
「別にゲームだから援護を非難するつもりはないけどね。それでもやっぱり男同士の意地のぶつかり合いには余計な真似はしない方がいいと思うんだよね」
「それじゃあ、あなたが私の相手をしてくれるのかしら」
「別に構わないよ。私もただ見てるだけじゃあ暇だったしね」
自然体でいる迦楼羅と彼女を睨んでいるリアス。最初に火蓋を切ったのはリアスの方だった。
三度ピストルの形にした手を迦楼羅の方に向けて、魔力の弾丸を連射する。対する迦楼羅は、全身に魔力を浸透させて身体能力を強化して弾丸を避け始めた。ただ避けるだけで反撃をしてこない彼女を見たリアスは憤りを覚えた。お前なんかいつでも倒せる、と言っている様に見えたからだ。
「これならどうっ!」
今度はしっかりと魔方陣を使い、魔力を行使したリアス。二つの魔方陣が彼女の頭の右上と左上に現れる。そこから射出されるのはバスケットボール大の消滅の魔力。
「連射性能が落ちるけど、これならどう!」
自身に迫ってくる脅威を前にしかし迦楼羅は慌てない。始まった時と同じように自然体のまま体を動かし、数多の魔力弾を避けていく。
「どうしたのかね。これで終わり?」
「そんな訳無いでしょう!」
リアスの叫びに呼応するように、迦楼羅の後ろから彼女の胴体目掛けて二発の魔力弾が迫って来た。しかし迦楼羅はそれを見ずにジャンプして避ける。魔力弾は勢いを失ったのか一度交差した後地面に当たった。
「これでも喰らいなさい!」
リアスが右手で思いっ切り地面をたたくと、迦楼羅は身動きが出来なくなる。彼女の足元の地面には逆向きに描かれた五芒星が浮かび上がっていた。
「なるほど。悪魔的な意味がある逆五芒星での捕縛魔方陣というわけだね」
「いくらあなたでも対極に近いもので捕縛させられたら少しの間は抵抗できないでしょう」
「三十秒持たないと思うけどね」
「十分だわ!」
そう言ってリアスが自身の手元に魔力で作ったのは弓と矢。ただし矢に込められている魔力は先の奇襲のものよりも少なく、急ごしらえで作った感が満載だった。
「くらいなさい! 『回転し貫通する消滅』!」
迦楼羅に向かって飛んで行く必殺の矢。だが例え身動きができる状況だとしても彼女はこの矢を避けようとはしなかっただろう。もしこれで一度死んだとしてもリタイアにはならないからだ。
勿論リアスもこの一撃で倒せるとは思っていない。だからちょっと彼女なりに手を加えた。
「弾けなさい‼」
矢が迦楼羅の身体に刺さったタイミングを見計らって、リアスは矢に意識を集中させながら叫んだ。
そして————、
ボオオォォォン‼
「っ⁉」
―——矢の形をしていた魔力が球体状に急激に膨張した。球体の大きさは直径三、四メートルと小さいものの威力は消滅の魔力の名に違わないものだった。
「……やったのかしら?」
肩で息をしているリアスは傍から見ても疲弊している事が丸分かりな状態だった。あの技に使う魔力量は保有魔力が多い彼女からすれば大した量ではないのだが、矢の形を維持するのに結構な集中力を使う。魔力に形を与える行為は使い慣れてくると片手間にできたり無意識に出来たりするが、そうならないうちは結構精神的に疲弊する。ここ二週間以内にこの技を覚えたリアスが当然その域に達している訳もなく、かなり精神的に参ってしまったというわけだ。
「……いやぁ~、今のは中々危なかったね。もう少し多く魔力がこもってたらリタイアしちゃうところだったね」
「っ⁉」
後ろから聞こえてきた声に驚きながらもソフトボール大の魔力弾をぶつける。しかしそれは迦楼羅に躱され、あっさりと炎の檻に囚われてしまう。
「あれを受けてもリタイアしないとは……。少しバケモノすぎないかしら」
「いやいや、それはただ単に君の実力が低いだけだね。世界にはあれをくらっても無傷でいられる奴らはごまんといる、井の中の蛙大海を知らずだね。そんなことより、今はあの二人の戦いを見守るべきだね。あの戦いの結果によってこのゲームの結果も決まるんだからね」
迦楼羅の視線の先には炎を纏ったライザーと、体中から紅いオーラが溢れている一翔いる。迦楼羅の言葉に従ってリアスも二人に目を向けた。
一翔とライザーの基本的なスペックは比べるまでもなくライザーの方が上だ。上級悪魔と元人間の転生悪魔ということでそもそも大きな違いがあるし、今までの戦闘経験値も違う。ライザーは小さいころから魔力制御をはじめとして色々と戦闘に関する訓点をしてきた。対する一翔は、小さいころに近所の子供と喧嘩したり学校の友達と喧嘩したりと、そんな『お遊び』くらいしか経験がない。
だから、一翔が膝を地についていてライザーがほとんど傷らしい傷がない状態なのも当然といえば当然である。
「ハァ……ハァ……」
「………」
膝をついている一翔は肩で息をしているが、ライザーのほうに呼吸の乱れはない。
『相手はかなり余力を残しているうえに、こちらはもうほとんど後がない。現状勝てる確率はゼロだな』
一翔だけに聞こえるようにドライグが簡潔に状況を説明する。
『なんでだよっ! 何とかあいつに勝つことはできないのかよ!』
『現状じゃあどう足掻いても無理だな。お前と奴とじゃあ地力が違いすぎる』
ドライグにキッパリと言い切られた一翔は、絶望に打ちひしがれる。
『だがm一矢報いる手段がないわけじゃあない。お前は、例え勝てる可能性がゼロでも、あいつに一矢報いたいか?』
『そんなの……当り前だろうが‼ 勝つことができないんだったらせめてあの整った面に一発入れてやる!』
ドライグの問いに間髪入れずに答える一翔。その瞳には再び闘志の炎が燃えていた。
『お前の気持ちは分かった。では今から一矢報いるための作戦を教えるから奴の気を引きつけておいてくれ』
その言葉に一翔は面食らった。
―——引きつけておいてって言われても、こっちはお前の話を聞きながらしなきゃいけないのに何をしろと言うんですかドライグさん⁉
軽くパニックになっている一翔を無視してドライグは彼に質問を交えながら作戦を伝えていく。
「……兵庫一翔。お前はリアスの事をどう思っている?」
だが、彼にとっては幸いなことにライザーの方から話しかけて来た。
「どうって……命の恩人で役に立ちたい人だ」
「違う。そういうことを聞いたんじゃない。お前は男としてあいつのことをどう思っているかと聞いたんだ」
「え? ええぇぇぇ⁉」
一翔が予想していなかった方向からの質問に、彼は慌てふためいた。しかしすぐに落ち着くと改めに自分はリアスをど0う思っているのかと考え始めた。
(憧れの三大お姉さまの一人? 美人で優しい主様? それとも命を救ってくれた恩人……?)
一翔はリアスに対する思いつく限りの肩書を挙げてみたが、彼の中でしっくりくるものは一つもなかった。
「熟考しているところ悪いが、こちらで勝手に解釈したことを言わせてもらうぞ。……お前はリアスのことが一人の男として好きなんだろう」
「っ⁉」
―――リアスのことが好き。
ライザーにそう言われた一翔は、驚きはしたものの否定する気も肯定する気も起きなかった。つまり彼の中でリアス・グレモリーの扱いをまだ決めかねているということだ。
一翔よりちょっとだけ長生きしているライザーはそのことを目ざとく感じ取った。
「まあ今はゲーム中だ、これ以上は聞くまい」
そう言い捨てるとライザーは消していた炎を再び纏う。
「来い。そろそろ終わりにするぞ」
『―――――というわけだ。分かったな』
ライザーが構えるのとドライグの説明が終わるのはほぼ同時だった。そして一翔はその場に立ち上がる。
「俺は、お前に絶対勝つ!」
勢いよく啖呵を切って一翔はライザーに向かって駆け出した。
対してライザーは、片手を地面につける。
「同じことの繰り返しではつまらないだろう?」
―———瞬間、地面のあちこちに直径一メートル程の魔方陣が出現しそこから火柱が次々と上がる。
『Explosion』
「よっ、とっ、はっ」
触れれば火傷程度では済まされない熱量を持つ火柱を避けながら一翔はライザーに近づいていく。その身体能力は、先程の会話の間に溜めておいた倍加を使って向上されている。それだけなら上級悪魔にも匹敵するであろう。
「じゃあこれも追加だ」
今度はライザーの後ろの空間に野球ボールより二回りほど大きい魔方陣が数多でてくる。そこから射出されるのは野球ボール大の炎の球。
二倍以上になった攻撃に一翔はたまらず一旦下がる。しかし地面の魔方陣は一翔を追うように展開されて逃げられない。
一方的な攻防戦が十分以上続いた。流石に籠手の能力で身体能力を上げていたとしても、十分以上全力で逃げるというのは疲れる。その証拠に一翔の動作にも粗がではじめてきた。火柱にはまだ当たっていないが、炎の球の方には何発か被弾した。
「っ⁉」
「チェック」
被弾した影響で一翔は地面に手を着いてしまった。そのスキを見逃すほどライザーは甘くない。すかさず彼の下に魔方陣を展開し弾もその場所に集中させる。
「クソッ……タレガァアアァァァ‼」
『Explosion!』
咆哮した一翔は、自身の目の前にピンポン玉くらいの大きさの魔力玉を作り出す。
それは一翔の突発的な行動だったが、ドライグは貯めていた倍加を使い一翔の魔力量を増加させてしっかりサポートしていた。
「
一翔がその魔力を殴りつけると、それは直径二メートルくらいの真っ赤なビームとなりライザーが放った魔法弾を消し飛ばして真っ直ぐにライザーのもとに向かう。
下級悪魔の攻撃にしては威力は上々だがスピードはそこまで早くはないし軌道も一直線で躱しやすい攻撃。しかしライザーはそれを避けなかった。それどころか全身にうすくて密度の濃い炎を纏い、両腕をクロスさせて正面から迎え撃つ構えをとった。
「っ⁉」
『ほう……。中々男らしいな』
その様子に避けられると思っていた一翔は驚き、ドライグは男らしいと感心する。
そして一瞬の均衡の後ライザーはビームに飲み込まれた。
「やった……のか?」
『奴は不死身のフェニックスだぞ。そんなわけないだろう。それよりも楽観視する暇があったらいつでも動けるようにしておけ。仕込みは既に終わったし倍加も十分に溜まった』
「お、おう」
ドライグの叱咤をうけた一翔は、今は煙が立ち込めていてさっきまでライザーがいた場所を注視する。するとすぐに煙は晴れて中からライザーが姿を現した。
ライザーは服が多少汚れているものの、目立った怪我らしい怪我はなかった。
「今のは中々な一撃だった。魔力に関する才能がないと聞いていたが、意外とあるんじゃないか?」
余裕をもって今の一翔の一撃を評価するライザー。その余裕は一翔よりも強いという自信から来るのか、それとも別の何かか。
「ウォオオオォォォォ‼」
ライザーの言葉に返事をせずに一翔は雄叫びをあげながら全速力で突撃していく。
それを見た瞬間、ライザーは残念なものを見るような目で一翔を見る。一翔が先程の攻防でのことを学習していないと思ったからだ。だが彼は一つ読み違いをした。今の一翔にはドライグがついているという点だ。ちょっと前まで普通の高校生だった一翔はともかく、ずっと昔から生きているドライグがそんなことをわからないはずがない。だからこの突撃には裏があるべきだとライザーは考えるべきだった。いや、考えてはいたのだろう。考えてはいても、それをとるに足らないものだと思って放置したのはいただけなかった。
「……残念だよ。兵庫一翔」
高評価から一転して失望したライザーは、事務作業をこなすように淡々と魔方陣を地面に展開させて火柱を立たせようとする。
それが一翔たちの狙いだとも知らずに。
『! 今だ‼』
「おう!
パリンという甲高い音とともにライザーが展開した魔方陣がひとつ残らず砕け散った。
「っ⁉ しま―――」
「遅ぇ!」
とっさに次の行動をとろうとしたライザーだったが、既に一翔は目の前に迫っていてその左手には先程と同じくピンポン玉大の魔力の塊があった。
一翔はそれごとライザーに張り手をして、籠手のおかげで向上していた筋力で無理矢理ライザーを弾き飛ばす。
一翔の攻撃が当たる寸前にライザーは例の炎の鎧をまとっていた。そのため一翔は左手に重度の火傷を負ってしまったが、興奮してアドレナリンが出ているのか本人は気にも留めない。
「
ライザーがある程度離れたところで、一翔は魔力の塊がどうにかされる前にドライグの作戦を実行する。
ドライグの作戦はいたってシンプルで、相手に密度の濃い魔力の塊を相手の体に触れつつぶつける。そのとき体に触れられずに防がれたら終わりだが、上手く触れながら魔力の塊を押し付けられたら何でもいいから距離をとる。十分に離れたら魔力の塊を何とかされる前に急激に膨張させて消し飛ばす。今回のライザーみたいに魔力を身にまとって防ごうとしたら、相手の体に障ることで条件が満たされる
「よっしゃああぁぁぁ‼ やったぞドライグ!」
『バカっ! 油断するなといっただろう!』
「え?」
ドライグの切羽詰まった声に一翔が間抜けな返しをした直後、彼は後頭部に衝撃を食らって地面に倒れこんだ。
戦闘での疲れがたまっていた体はもうほとんど動かすことができない。更に籠手の能力ももう解けてしまった一翔は、何とか首だけを動かして後ろを見る。
そこには案の定ライザーがいた。だが服はボロボロで体のあちこちは血が出ていたり炎がくすぶっていたりしている。
「今のは…いいコンボだった。そういえばちゃんと名乗っていなかった気がするな。俺はライザー・フェニックスだ。お前は?」
「兵庫、一翔」
「では一翔。今回は俺が勝ったが次はどうなるか分からない。……だからお前がもっと場数を踏んだらまたやろう」
「……そう…ですね。その時はまたお願いします。――――ライザーさん」
ライザーの言葉を聞いた一翔は勝負に負けたせいか、それともリアスの役に立てなかったせいか涙を流していた。既に彼の体は半分近く透けてきている。
「部長……役に立てなくて、すいませんでした」
その音場を最後に、一翔はフィールドから消えた。
「いいのよ。あなたはとても頑張ってくれたわ。ありがとう、イッショー」
一翔の最後の言葉は蚊の鳴くような音だったけれど、自然とリアスの耳には届いていた。そして彼女は一翔がいた場所を見つめながら精一杯の感謝の気持ちを言葉にした。
「ライザー、私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさいね」
「気にするな。年下のわがままを聞いてやるのも年上の務めだ」
優しく笑うライザーにつられてリアスにも笑みがこぼれた。
「
『リアス・グレモリー様の
ミレイフィアのゲームを〆るアナウンスが流れてゲームは終了した。
これにて対ライザー戦だか対リアス線は終わります。
この話を一話にしたためこんなにも長くなりました。全編後編くらいに分けていたら一月の後半には投稿できていたかもしれません。
この後は、観客席の人たちの事と試合後の選手たちのことに触れて原作二巻は終了になります。
おそらく(というより確実に)次の更新までにまた間が空くと思いますが、気長に待っていてくれたら幸いです。
でわ、これにてm(_ _)m