「あら、聞いてないの?今回のテーマは…」
──その姿は…きっと、腹筋崩壊のネタでできていた。
皮肉な事もあったものである。
私、英霊エミヤは守護者である。
…いや、守護者だった、が正しい。
しかし、抑止力の輪に呼ばれてカルデアなる組織に召喚されて戦って。
■■王やらなにやらと戦い抜いた結果…
滅びかけた人類史を救うことに成功した。
それでそれで?
急かすな、順を追って話してやるから。
皮肉と言ったのはな、守護者として私は戦いを終えて後は消えるだけ、再びその誅戮の輪に戻されるだけだと思っていたのだ、しかし。
どうしてこうなった。
「──最初は、まさか受肉して新たな生を得ようとは思わなかった…思わなかったが…。」
もう一度言おう。
ど う し て こ う な っ た。
今、私は何故か危機に落ちいっていた。
そう、ある意味貞操の危機に。
今生において。
私の職業はパティシエである。
元々料理が好きで、凝り性だったのが幸いしたかとある有名パティシエに見初められ、半ば強引に弟子にされた。
…それが女性。
しかも重度のツンデレと言う物凄く前世の私を彷彿とさせる相手なのだがそれは…まあ、いい。
何?私の事だからそのパティシエも手篭めにしたのではないかだと?
馬鹿を言うな。
むしろ私は被害者だ。
でなくばこの様な辱めを受けている意味がわからない。
まず、役者も向いている、君はなかなか魅力的な声をしているし舞台映えする顔立ちと精強な身体つきをしているのだから勿体無いなどと。
シェイクスピアのおだてにのったのがそもそもの不幸の始まりだったのだ。
確かに役者をしてみるのも楽しかった。
特にいわゆる声優と言うのは良い。
…シェイクスピアやアンデルセンは顔出しをしたほうが売れるだろうとか文句ばかり垂れていたが私はこの方が気楽なものだし、原来目立ちすぎるのは好きではないのだからこれがちょうどいいのだ。
そういって、一度だけシェイクスピアとアンデルセンのとり仕切る舞台に出演した後は副業として声優を始めた。
すでに演劇やその手の世界で第二のシェイクスピア、とか持て囃されていたシェイクスピア(本人だから当たり前なんだが。)のコネで小さなプロダクションに所属し、細々と声優として活動した。
あまり顔は出さないで役を楽しみながら、本当に細々と。
だが。
あのシェイクスピアとアンデルセンが。
黙っているはずがなかった。
迂闊だった。
気がつけば外堀は埋められ、逃げも隠れも出来ない状況に追い込まれている。
「顔出ししない美声の声優」
「本業はパティシエ」
「実は超絶イケメンスイーツ(作る側)男子」
「かの有名なパティシエ〜〜氏の弟子」
「実は氏の恋人?」
などと。
いつのまにか面白おかしく世間に認識されていた。
「シェイクスピア…謀ったな貴様!!」
携帯電話越しに怒鳴りつけると、悪びれもしない声が聞こえた。
何故かアンデルセンの。
「シェイクスピアではない、主犯は私だよMr.エミヤ…クックック」
外見ショタの癖にやたらに渋い悪い声を出してアンデルセンが煽る。
「どっちみち共犯だろうが!?」
「心外だな、私は噂を流しただけですが?」
矢張りシェイクスピア、貴様も有罪だ!
「まあ、国営放送で醜聞を晒してきたまえ、弓兵!ハーッハッハッハッ!」
「おのれアンデルセン…地獄に堕ちろ!?」
そう。
何故か私はN○Kの控え室の一角に居る。
アンデルセンらの謀に嵌められ、視聴率が取れると勘違いした放送局が私に出演依頼を持ってきた。
ただの取材か何かだと軽く返事をしたのがいけなかった、顔を一度出す程度なら、と。
国営放送なら馬鹿な真似はすまいと。
その上師匠(パティシエ)にまで手を回して出ないなら破門、などと逃げ道を塞ぐ周到な罠、そう、罠だ。
メイキャップアーティストだと言って現れたのは見知った顔だった。
「お久しぶりねん、エミヤん?」
「俺は貴様には会いたくなかったぞ、一人でカレーでも煮込んでいればよいだろう、死徒だよな、貴様死徒だよな!?」
「あらん、私が無害なのはあーたもよく知ってる癖に。」
立派な白いカイゼル髭にカレー色…もとい、褐色肌のナイスガイ。
カリードマルシェこと、空柩のキルシュタイン。
血さえ摂取し続けていたら死徒二十七祖になっていてもおかしくない程の実力者。
だが、今はとある理由から弱体化している。
私がまだ生きていた頃に一度関わることがあったのだが、何故貴様が私を覚えている!?
A(アンサー):関係者の一部もなんでだか転生しています。
「…貴様のカレーは至高だが、貴様自身には私的に悪寒しか感じんのだ!」
会話をしながら顔はテキパキとメイクアップされていく。
鏡を見せないのは何故だ。
確かに今のこいつは人を襲わない。
だが、別の意味で危険なんだよ!!
やたらにガタイのいい筋肉ダルマ。
かつ、オカマ。オネエ?
「さあて、じゃ…観念してこれに着替えちゃいましょう!えーみやん♡」
「やめろ貴様っ、その顔と声で朔弥以外がその呼び方をするんじゃない!?後、断固拒否するっ、確か色んな職業になりきって踊るとかそれだけの企画のはずだな?何故そのようなヒラッヒラのロリータな衣装が出てきた!?女物だろうどう見ても!?!?」
「あら、聞いてないの?今回のテーマは…『メイド』よ?」
「あのっ、愉悦魔作家どもおぉぉ!!?」
「オホホホホホホホホッ、観念なさーいっ、ウホッ!いい身体!?」
「よせ、やめろっズボンを下ろすなっ下ろすんじゃないっコラ、何処を触っぎゃあああ!?」
ドタンバタン、バタバタ…どぎゅる!!
「はあ、はあっ…や、やってしまった…」
キルシュタインの額には黒鍵が突き刺さり、白目を剥いている。
まずい、殺人みたい絵面だ。
死徒だからこの程度で死にはしないはずだが。
そんな火曜サスペンスみたいな状況の中、控え室の扉が開いた。
「えっ…何コレ!?」
「な、ちょっ…っ、違う、私は殺していない!?」
「あはは、大丈夫大丈夫、私だよエミヤん。」
そこに居たのは。
ある意味今はもっとも会いたくなくて、けれどいつだって本当は傍にいてほしい女性。
「あ…、朔弥…?」
ホッとしたのもつかの間。
…朔弥が盛大に吹き出した。
「ぷっ、あはははははははっ、ちょ、やめてエミヤん、おな、お腹よじれる!は、はひー、ひっ、うひひははははっ!!」
バンバン!と壁を叩いて、腹を抱えて笑う朔弥。
「き、君な!仮にも自分の恋人の貞操の危機に笑う、な?」
無言で差し出された小さな手鏡。
そこに映るのは美しく彩られた自分ではないかのような顔。
つけまつげまでつけられ、カツラを被れば文句なしの美人になるだろう。
被れば。
まだエミヤの姿は私服の赤いライダースジャケットに、膝まで下ろされたレザーパンツ。
…下着はグレーのトランクスである。
「その顔に、格好、が、ぶははははは!?」
鏡を震える手で持ちながら物凄く渋面になる。
複雑極まりない心境だった。
…結局、師匠に破門にされてはかなわないと渋々ながら朔弥に手伝ってもらい、カツラとメイド服を着て番組に出演した。
****************
どうしたの?
この子には話さなくて良い話を思い出し、思考停止して渋面になっていた私を下から上目遣いに覗き込んでくる幼子の頭を撫ぜると、気持ちよさそうに目を閉じた。
まるで猫の子だな。
いや?まあこっちに生まれ変わって…良くも悪くもいろいろありすぎたなあと。
そう思っただけだよ。
それで…どこまで話したかな?
えーっ、とね…ベディさんが、長い長い旅から帰ってきたところ!
ああ、そうだったね…彼は…果てしない時を何一つ諦めず、魂すら磨耗させながら歩き続けたんだ…たった一人の人の為にね。
あれ?でもベディは…えんたく、の仲間も大事だ、って言ってたよー??
君にはまだ難しいか。
想いには形と、種類がある。
ベディの言っていた大事、にもいろいろあるのさ。
ふーん、わかんないの。
ぷぅ、と頬を膨らます仕草は誰かさんそっくりで。
私は、こちらに生まれ変われた、その奇跡に感謝、した。
…以降。
何故か女装姿での出演依頼が殺到したのだが…
それは別のお話である。
突発メイドネタ。
諏訪部さんがマジで国営放送でしょこたんとメイド姿で踊った言う話から生まれた馬鹿な話。
最後綺麗な話に纏めたと思ったか。
残念ギャップ笑いが欲しかったのだよ!(外道
…だれかメイド姿アーチャー描いてくれください(懇願