日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER 作:kadochika
「ん……?」
ふとぐだ子が足元に視線を落とすと、そこにはなにやら、瓦礫に混じって鍵が転がっていた。
現代然としたぎざぎざのシリンダー式ではなく、一本の歯が生えた細い金属棒を、金属環と接続した単純な形態のものだ。
天草がそれを見て、彼女に告げる。
「マスター、その鍵……なぜかは上手く説明できませんが、持っておくと何か役に立つのではないかと」
「……? でも天草がいうなら、拾っとこうか」
それを拾い上げて土埃を落とすと、彼女たちは城へと向かった。
目指す城の正門からは、シャドウサーヴァントが繰り出してくる。
ゴーストも混じっていたが、天草が洗礼詠唱でほとんどを蹴散らすことが出来ると信長が気づいたためか、すぐに彼らを襲う亡霊の群は消えた。
小次郎と天草が竹槍で、マシュが盾で、次々とシャドウサーヴァントたちを蹴散らしてゆく。
彼らに守られつつ、ぐだ子は新たなサーヴァントをカルデアから召喚した。
「
「お力添えいたしましょう……!」
簡略化された呪文に応じて空中の簡易召喚サークルを抜けてやってきたのは、アサシンのサーヴァント。
時代も、具体的な地域も不明ながら、中東の暗殺教団の統率者を務めた人物で、他の歴代と区別するために百の
マスターである彼女の目の前に現れたのは女の姿だったが、これもこのアサシンの宝具の効果であり、80種類以上の別の容貌と精神に変化、分裂することが出来るという。
そして、ぐだ子は彼女に、その力を最大限発揮する任を命じた。
「これからこの城に、魔人アーチャー――織田信長を捕まえに突入するんだけど……
彼女がここから脱出しなかったかどうか、周りの監視をお願い。
それと、もしランサーたちが苦戦するようなら、少し手伝ってあげて」
「御意」
「外には魔猪がいるし、まだシャドウサーヴァントも出てくると思うから、分裂中はそういうのに気をつけて」
「たやすいご用です、では――むっ!」
ハサンが短剣を投げると、鋭く突き刺さる音とともに、城の庭の木陰から悲鳴が聞こえた。
「ぐへぁ!?」
「何者だ、姿を現せ!」
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! よくぞ見破りましたねアサ子すゎん!!」
「アサ子っていうなァ!!」
額にクリーンヒットしたらしい短剣を引き抜きながら、まるでそのような致命傷など無かったかのようだ。
顔料か地肌か、陶磁器のように白い肌をしており、手には禍々しい巨大なハサミを握っている。
ぐだ子はその姿を見て、ついに胃が痛み始めた。
「敵で来たら一番ヤバそうなのが来た……」
サーヴァント、キャスター、メフィストフェレス。
その原典となるのは、ドイツの伝承に古くから登場する悪魔の名を与えられた、19世紀のホムンクルス。
生みの親であるファウスト博士を殺害し、ついにはサーヴァントとして召喚されるほどの知名度を形成するに至った、恐るべき愉快犯。
マスターであるぐだ子さえ、愉悦の対象としての興味を失えば殺してしまうであろう、潜在的な危険性はカルデアで最も高いと思われるサーヴァントの一人だ。
重力を半ば無視してゆらゆらと動きながら、彼は自らの立場を語り始めた。
「わたくし今回、しがない爆弾師としてお館様にお喚ばれしまして……
何とあなた方を爆殺すれば、彼女の寝ている間に首筋に爆弾を仕掛けてもOKという気前の良さ!!
裏切られて死んだくせに、裏切りは何度してもよいだなんて……
わたくし心底しびれまして、こうして
「信長さんなら、確かにメフィストフェレスさんを退屈させることはなさそうですが……」
ハサミを振りかぶり飛びかかってきたキャスターの前に立ちはだかるマシュ――の、さらに前方に、新たなサーヴァントが召喚された。
「太古の土より訪れて未来の礎となる者、来たれ。今また世に暴竜あり」
「ゲオルギウス! 推して参りましょう!」
赤銅に輝く甲冑と、白くたなびくサーコート。
紀元3世紀、地中海東方沿岸で活動した伝説の殉教者、ゲオルギウスが、ライダーのサーヴァントとして現界した姿だ。
彼は剣でキャスターのハサミを受け止めると、剣と手甲でがっちりとその刃の部分を押さえつけ、マスターたちに告げる。
「ここは私が引き受けましょうマスター、先へ進まれよ」
「ありがとう、ゲオル先生! 百貌ちゃんは外の監視、よろしくね!」
「その呼び方はおやめ頂きたい!!」
ライダーを足止めとしてその場に残し、ハサンは城の外へ、ぐだ子たちは内部へと進もうとする。
だが、メフィストフェレスはそれを許す気はないようだった。
「おぉっと、行けますねェ、行けませんよォ~ッ!?」
それが合図だったのか、城の上階から階段の吹き抜けを飛び降りて、シャドウサーヴァントたちが加勢にやってきた。
しかもよく見れば、その四肢や腹には、虫のような足をいくつも生やした奇怪な時計がまとわりついている。
両目、脇腹、膝、脊髄――
「すでに設置済みーっ!
「
シャドウサーヴァントに取り付けられていた多数の呪術型の爆裂宝具が、サンタオルタの宝具によって強引に一掃される。
もっとも、その余波で上階に通じる階段も派手に破壊し、通行不能にしてしまったが。
「うわぁ超強引~ン!! お腹スタンディンナーップハハハハハハハ――ゲホッゲホッッ!!」
「これ以上邪魔はさせませんよ!」
爆笑しながら悔しがるメフィストフェレスのハサミを一旦弾いて距離を取り、ゲオルギウスは再度斬りかかった。
「行くぞトナカイ、農民ども!」
「あれ、なんで彼女が仕切ってるでござるか?」
「何か信長に因縁あるみたいだから……」
「少々生臭い因縁のようですが」
現在、一行はぐだ子とマシュ、小次郎に天草、サンタオルタという陣容だ。
彼女たちはサンタオルタの宝具で破壊された階段を迂回し、別の階段へと向かった。
CONNECTING...
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シャドウサーヴァントを排除しつつ階段を昇っていくと、それは途中で途切れた。
「え、何ここ……ここだけ道場?」
それまでは、階段に面した廊下に接する多数の座敷、という間取りだったものが、そこで唐突に、広大な道場を思わせる作りに変わっていた。
彼女たちの目にしているその光景の最奥に、上階へ続くらしい別の階段があった。
天草が、どこか意外そうに口にする。
「ミーハーな信長公にしては、直通階段ではないんですね」
「火事の時に困るであろうにな」
小次郎も同様に、どこかずれた分析をしていた。
それに応じて、マシュ。
「むしろ聖杯の力で作ったお城でしょうから、そこら辺は無視して遊び心全開――ということではないかと」
「何者かが来る、警戒しろ」
サンタオルタがただでさえ低い声を更に低めて警告すると、引き戸をがらりと開けて、姿を表す者がいた。
紺の着物の上から真っ赤な革のジャンパーを羽織った、野生の山猫を思わせる雰囲気の少女。
「全く……どいつもこいつも。他人の城に土足で上がっちゃだめって教わらなかったか?」
怜悧な輝きを放つ業物の短剣を抜きながら、彼女はぼやく。
サーヴァント、アサシン、両儀式。
こことは異なる特異点で縁を結んだ、特異なサーヴァントだった。
「お前たち、先に行くがいい」
「サンタオルタさん?」
「私は新しい因縁が出来た。あの茶器マニアには適当に言い繕っておけ」
「いくよ、マシュ! 小次郎と天草も!」
「すまんな、さんた殿!」
「お気をつけて……!」
上階への階段に向かう彼女たちを横目で見送りながら、サンタオルタはアサシンを睨む。
「貴様も配布組のようだな。同じ配布であるあの爆弾娘の手下に成り下がったというなら、私が誇りを思い出させてやろう。
多少林檎をかじれば手に入り、経済的に厳しいチビッ子や初心者たちの貴重な戦力になるという、大切な信念をだ」
「お前が何言ってんのかいまいち分からないけど……両儀組の看板に泥塗りたいなら、相手になるぜ?
ちょうど、退屈してたとこだしな」
直感スキルの賜物か、サンタオルタは危険を感じて前へと飛び出した。
式がその圧倒的な速度で彼女の背後から短剣を突き出す直前、悪のサンタクロースはそこを離脱している。
だが。
「!? プレゼントが……!」
だが、彼女が背負っていたプレゼントを収めた木綿の袋が、式のナイフによってばっくりと腹を裂かれていた。
集めたプレゼントが音を立ててこぼれ落ち、まるまると太っていた袋はもはや用をなさない。
サンタオルタは、屈辱と怒りに打ち震えた。
「貴様……!」
「意外に動くじゃないか。これでも首を狙ったんだぜ?」
速度に優れる余裕からか、式は姿勢を下げて再び攻撃を行うようだった。
「ま、厄介な鈍器を奪えたと思えばそれもあり――」
呼吸とリズムを合わせ、死の線をえぐりにやってくる。
だがそこで、彼女はサンタオルタのプレゼント袋からこぼれ落ちて転がっていたミニカーを踏みつけて、盛大に転んだ。
木目の床と式の後頭部が激しく衝突し、ズゴォン、とひどく痛そうな音が鳴り響く。
「………………思いのほか、虚しい勝利だったな」
そう呟いてマスターたちの後を追おうとした、その時。
「待って、サンタさん?」
同じ声の筈が、奇妙なほどのたおやかさ。
振り向くと、そこには先ほどの着物と皮ジャンパーの格好ではなく、フォーマルな日本の伝統装束をまとった娘が佇んでいた。
その布地には花の意匠が縫いあしらわれ、得物は短剣ではなく、サムライソードになっている。
どこまでも穏やかに、戦意や殺気などはまるで無く、彼女は微笑んだ。
「貴様は……!?」
「黒いけど、やっぱりサンタさんなのね。
でもわたし、一度相手をしてもらいたいと思っていたの。少し寄り道、いいかしら?」
(アサシンからセイバーに……入れ替わったというのか……!?)
直感スキルとはまた異なるサンタオルタの勘が、そう告げていた。
霊薬を用いてクラスチェンジを行うヘンリー・ジキルとは、異なる原理に基づくものか。
だとすれば、もはやこの娘には織田信長が奪った聖杯の効力など、届いてはいまい。
ただ純粋に、彼女と刃を交えたいと考え、誘っているのだ。
「いいだろう……!」
挑まれた勝負を辞退する気など、毛頭ない。
サンタオルタ――ライダーは、謎のセイバーを迎え撃った。