日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER 作:kadochika
恐らくは、サーヴァントとしてカルデアに喚ばれて以来、最大の危機。
アサシン、佐々木小次郎は戦慄に震えていた。
「シャバ僧たち……お館様のお城に攻め入ったことを後悔させてあげましょう」
「立ち去るつもりがないなら、苦しんでもらうしかないわね」
新たなサーヴァント二騎が、一行の前に立ちふさがっている。
ライダーと、キャスター。
それぞれ1世紀南フランスで竜を調伏したというキリスト教最初期の聖女マルタと、黒海東岸の古代王国コルキスの王女メディアがサーヴァントとして現界した姿だ。
彼女たちは同時に、佐々木小次郎がいろいろな意味で苦手とする二人でもあった。
「うぬ……城に攻め込んでいる時点で穏便に、とは行くまいな」
その階は天井がやたらと高く、角ばった太い柱が規則正しく並んでいた。
何かの宗教の礼拝施設と、そこに現れた女司祭たち――という風情にも見える。
二人は弱音を見せる小次郎を罵るように、
「後悔しても遅――んん、いえ……悔い改めるのです」
「死になさい」
「!!」
二人の持つ杖から、それぞれ魔力弾が連射される。
小次郎と天草は跳躍して回避。
マシュはぐだ子を下がらせつつ警告する。
「先輩、少し後ろへ!
流れ弾の危険が大きすぎます!」
「分かった!」
だが、ライダーは更に、その乗騎であるタラスクを実体化させた。
出現したのは、巨大な甲羅を背負った竜。
「はッ!」
それは背に飛び乗った彼女を乗せたまま、その広い階層を轟音を立ててのし歩く。
大木より太い四肢と尻尾で柱がなぎ倒され、小次郎と天草はその間を縫って移動した。
そこへ更にキャスターが、空中を飛行しながら魔力の弾丸を浴びせかける。
「ぬおぉ!? 相変わらず滅茶苦茶な……!?」
「ぐッ……!?」
天草が被弾した。
動きが鈍ったところにたたみ掛けられる追撃の連射を、マシュが突撃して防御する。
「シールドエフェクト!」
「かたじけない、マシュ殿……!」
ぐだ子はすかさず、ルーラーに向かって礼装魔術を放つ。
「天草!」
礼装魔術・応急手当。破壊されたサーヴァントの霊基を、字義通り間に合わせとはいえ、かなりの度合いで修復するものだ。
深部の霊基構造に生じた熱傷、毒素や呪いの侵食などは根治できないが、緊急時には極めて有用だ。
とは言え、状況の改善にはならない。
ライダーやキャスターの魔力弾を防ぐマシュの重盾も、巨大なタラスクが尾を振れば、質量差に負けて吹き飛ぶ。
「ぅあっ!?」
「タラスク、そのまま押しつぶしなさい!」
マシュを追撃しようとするその尻尾にかろうじて竹槍を突き刺し、天草が巨竜に食い下がる。
彼を魔力弾の連射で引き剥がそうとするマルタとメディアに対し、柱を蹴って空中から近づいた小次郎が仕掛ける。
同時に、ぐだ子は魔術礼装による瞬間強化を発動した。
霊基の結合強度や魔力といったサーヴァントの全ポテンシャルを瞬間的に大幅に引き上げ、あらゆる攻撃の威力を強化する。
その威力の乗った小次郎の竹槍から、空中のメディアに対して三方向からの同時攻撃が発動しようとした、その時。
「
キャスターの懐から奇妙な形状の短剣が飛び出し、小次郎の右肩口に突き刺さる。
「不覚……!」
対魔術宝具の効果で、礼装魔術の効果は一瞬にして霧散した。
そして肩に一撃を受けてわずかに動きの遅れた小次郎を、魔力弾の掃射が捉える。
「――――ッ!!」
「小次郎!!」
紙一重の差で、礼装魔術・緊急回避が間に合った。
サーヴァントの霊基を構成する霊子の確率分布を大幅に偏らせ、攻撃を透過に近い原理で回避する手段だ。
無効化されることもあり得るが、こうした時に役に立つ。
「ありがたい!」
「逃さないわよッ!」
小次郎は空中で体を捻りながら無事に着地し、それを狙ったキャスターの射撃も回避する。
彼はそのまま、ライダーと戦う天草の援護に向かうようだった。
一方、彼を喰らいそこねた魔力弾は彼の後方の天井――位置関係でいうと、ぐだ子の直上に当たる箇所を破壊していた。
「げ――」
慌てて走って逃げると、重量に負けたらしい天井が崩れ落ちる。
すると、ばきばきと空恐ろしい音とともに崩れ落ちてくる真新しい天井材に混じって、何か声が聞こえた気がした。
「あっちょっと、ストップ!? ストップぷりぃず――
――ぎコーンッ!!?」
にわかに立ち込める木の匂いにむせ返りながら、ぐだ子が落ちてきたものの正体を確かめようとすると。
「痛ったぁ~い……もうイヤぁッ!!
玉藻おウチに帰りますぅ~!!」
それは、人一人がまるまる入る大きさの、小規模な檻だった。
床板が鉄板で、他の面が鉄棒を曲げて形成した格子で虫かごのように覆われている。
更にその中には、尻尾の付け根をさすりながらべそをかく娘の姿。
尻尾は狐のそれで、頭部からは同様に狐の耳が生え、大胆なアレンジの利いた和服を身にまとっている。
「玉藻ちゃん!?」
「えっ、マスター!? もしかして、助けに来てくださった!?」
サーヴァント、同じくキャスター。
玉藻の前と呼ばれる平安期日本の伝説上の人物が、その背景と併せてこうした姿で現界したものだ。
「何でこんなとこに……!?」
「え、え~と、お恥ずかしいところ見られちゃいましたね……
なぜ私がコーンなところにいるかと申しますと、話せば長いのですが――」
「敵じゃない!?」
「えぇ、ええ、もちろんあなたの味方ですとも。
っていうか、この檻なんとか壊すか、開けられませんか……?
内側からだと呪術でも壊せなくて……」
格子を握ってガチャガチャと動かしてみせるキャスターの手元を見て、ぐだ子はふと思い至った。
鳥かごのように、一部が落とし戸の様になっている。
そして、その落とし戸は南京錠のようなものでロックされていた。
「………………もしかしてこれ」
天草が、理由は説明できないが持っておくと良いことが――などと言っていた、拾い物の鍵。
なぜかは分からないが、彼女はそれを錠前に差し込み、回してみた。
かちりと音を立て、重苦しい錠前が外れて落ちる。
「さすが啓示A……!」
キリスト教系のルーラーの持つ啓示スキルは、戦闘系サーヴァントの保持する直感スキルより、更に多様な目的への最適解を示すという。
もっとも、それは桶屋を儲からせるために風を吹かせるという手段を閃くようなもので、論理的な理由の説明は困難なのだとも聞くが。
ただ、なぜあのような場所に玉藻の前を閉じ込めていた檻の鍵が落ちていたのかは分からない。
ぐだ子と玉藻の前、二人が同時に落とし戸を持ち上げると、彼女は檻を飛び出し、ぐだ子を犬でも愛でるように抱きしめて、グリグリと頭を撫でた。
「助かりました♪ いきなりカルデアから喚ばれて困ってたんです!
知り合いはみんなロールプレイしてやがりますし、一応信長ちゃんを説得しようとしたらこんな檻に閉じ込められる始末……
玉藻、もう少しで油揚げにされちゃうところでした……」
「ちょちょ、玉藻ちゃん! 今戦闘中だから! 悪いけど、小次郎と天草の援護してあげて!」
「あら、お安いご用ですことっ♪
マスター、危ないのでちょっと離れててくださいね?」
すると、玉藻の前は呪符を手に持ち、舞い始めた。
彼女の周囲からこの階層全体に、幻想的な光景が広がってゆく。
玉藻の前を取り巻く幾つもの鳥居、回転しながら旋回する鏡の宝具――
舞い踊る彼女から放出された魔力が、光となって味方へと作用した。
「む、何だ……!?」
「これは!」
苦戦していた小次郎と天草に――いや、正確には二人の持つ得物に、異変が生じる。
玉藻の前の宝具の光を浴びて、竹槍が急速に伸びはじめたのだ。
天草の持っていた竹槍は、彼がタラスクに振り落とされた際に伸び始めたため、床とタラスクの腹側の甲羅の間に挟まった。
そのまま恐るべき勢いで伸びたことで、タラスクは同様に高速で腹からひっくり返される。
天草は伸びた竹をそのまま振り下ろし、マルタの脳天を打ち据えた。
「御免!」
「へぐ!?」
小次郎の竹槍も、なぜか爆裂的に伸びる。
「何――!?」
「あ」
猛烈な速度で伸びる槍の穂先がメディアの
破壊的な轟音とともに、彼女もまた戦闘不能となる。
主を撃破されたタラスクが、甲羅の中に手足を引き込んで高速回転形態に移行しようとしていたが、それも止まった。
そして撃破された二人が、同時に呪詛めいた声で呻くのが聞こえる。
「もう……いや……」
「覚えてなさ……じゃなくて、天の父よ、彼らをお救いくださ――ぐふ」
ライダーとその乗騎タラスク、そしてキャスターは、揃って特異点から退場した。
後には、破壊の爪痕も深い広大な空間だけが残っている。
小次郎と天草の竹槍は、既に元の長さに戻っていた。
「何とか片付いたな、マスター……よもやまたあのめぎ――いや、あのキャスターと一戦交えることになろうとは」
まさに女で狐でキャスターである玉藻の前に配慮したのか、小次郎が表現を変える。
「ロマン、今やっと戦闘が一段落した。玉藻ちゃんがパーティに入ったよ」
『無事でよかった。反応を見る限り、みんな無事のようだね』
戦闘で互いにやや離れた面々が、マスターを中心に集まってゆく。
天草と小次郎が、それぞれぐだ子に告げた。
「ありがとうございます、マスター。先ほどは助かりました」
「私も礼を言う。危うくカルデアに逆戻りするところであった」
「二人とも間に合ってよかったよ。ただ、しばらくは同じ礼装魔術が使えないから、無茶はしないでね」
頷く二人の得物を見て、玉藻の前が小首を傾げる。
「しかし謎ですねぇ。この宝具、味方の援護用の性格が強いんですけれど……
何で竹槍が伸びるんでしょうか……ていうかなんでお二人とも竹槍……?」
「これには色々と複雑な事情があり申してな」
「私も驚きましたが……玉藻殿の出自は、辿ってゆけば天照大神に行き着くと聞きます。
この竹槍は特異点に生えていたものなので、貴方の宝具と何かしらの霊的な相互作用が起きてもおかしくは――いや、ちょっとおかしいですね」
分析の途中で肩をすくめて笑う天草に対し、ロマンがぐだ子の通信機越しに語る。
『いや……あり得るかもしれないぞ。
ローマでの戦いでもそうだったけど、特異点が発生すると、一方の勢力だけにサーヴァントが召喚されるわけじゃない。
バランスを取るために、多少の不均衡はあっても対抗勢力が形成されるんだ。
この特異点は今、信長によって圧政が敷かれているということになるけど、ぐだ子ちゃんたちが出動するまで、それに対抗するサーヴァントは玉藻の前くらいしかいなかったみたいだ。
そうなれば、彼女を助けた君たちにささやかな奇跡が起きても不思議じゃない」
「宝具使った本人にも知らない効果が出たらそれは不思議だって……」
納得がいかない点を表明するが、ロマンはまだ論の開陳を終えていないらしい。
『それに、彼女の逸話を考えると――あぁ、いや!
軽率だった。すまない、玉藻の前』
「昔の話ですよ、ドクター」
ぐだ子は知らないことだったが、平安時代、玉藻の前はその正体が発覚して都を追われ、下野国は那須野にて討ち取られ、殺生石になったとも伝えられている。彼女もまた、この特異点に縁深いサーヴァントなのだ。
ロマニが陳謝したのは、当人が気にする過去であるその点に言及しかけてしまったからだった。
話題を打ち切るように、マシュが呼びかける。
「行きましょう、先輩。まだ何人の仲間が、信長さんに召喚されているか分かりません。
急いで王手を指した方がいいかと」
「うん、急ごう!」
『通信はこのまま繋いでおくよ、みんな気をつけて!』
一行は先へと進んだ。
最上階は近い。