日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER 作:kadochika
城下町では、死闘が繰り広げられていた。
残っているのは三騎のランサー、クー・フーリン、レオニダス一世とディルムッドのみ。
魔猪だけであればさほどの苦労もないはずだが、そこには大量のゴースト系エネミーの増援が到来していた。
「チッ、亡霊どもがうじゃうじゃと……!」
魔猪に匹敵する巨大な可視霊体を中心に、大量のゴーストが群体となって移動しているのが見える。
視界に収めきれない四方から襲い来るゴーストと、そこから放たれる霊子弾の嵐。
矢避けの加護は射手を視界に収めた状態での射撃にしか作用せず、心眼にも限界があった。
その上、魔猪に対抗していたレオニダス一世が、心霊現象を格別の苦手とするという悪条件も重なっている。
「く、来るなァァッ!!? 死ねッ、死ねェェェィッ!!!!」
「レオニダス殿!」
その上、ディルムッドが無理に彼を庇おうと、魔猪との間に割って入る。
猪を相手にしては回避も防御も低下するにもかかわらず、フィオナ騎士団の誇りだけを支えに追いすがっているのだ。
クー・フーリンは事態を打開するためにゲイボルクを投擲したが、魔槍は魔猪の強靭な脂肪と肉質に食い込み、突き刺さったまま、抜けなくなってしまった。
だが、そこに思わぬ加勢があった。
複数の黒い影が、ゴーストに対して散発的ながら攻撃を加えているのだ。
「アサシン……!? マスターが喚んだのか!」
それに気づくと同時、彼は自分に接近してくる一騎に気づいた。
戦闘地帯をやや離れた瓦葺きの屋根の上で、警戒しながらも近づくと――アサシンは何と、魔猪の背中に突き刺さったはずの
ろくに顔を合わせたこともなかっただけに、クー・フーリンは驚いて相手の名を思い出した。
「お前、ハサン……百の貌だっけか?」
「いかにも。我ら八十余名は主命により、城から敵の首魁が脱出しないかどうか監視しているが……貴様らが苦しいようならば、多少は手を貸すようにとも言われている。
既にあちらの二騎の槍兵にも話はつけた」
そう言うと、アサシンは彼に槍を手渡す。
何年も握っていなかったような懐かしさに、力がみなぎった。
「へっ、手間ァ掛けちまったな」
「フン――手早く済ませろ」
「応さ!」
既にアサシンが説得していたのか、合流したディルムッドは吹っ切れたような落ち着いた表情に戻っていた。
「アサシンが、レオニダス殿の援護をしてくれるそうです。御子は、私と?」
「あぁ、あの青白い連中、さっさとボスを落として蹴散らすぞ!」
「ハッ!」
二人は、ハサンの分体の援護でわずかに減少したゴーストの群を突っ切り、中核に位置する大型の霊体に攻撃を加えた。
外見は巨大な骸骨の集合体。
足はなく、その代わりなのか腕は多数。
後ろ髪を思わせる長大な霊基構造が、後部へと垂れて伸びている。
群がってくるゴーストを二つの宝具で切り裂きながら、ディルムッドは高速で霊団の中核に接近した。
ちょうど川をまたぐ橋の上で、開放された宝具がまばゆい光を発して炸裂する。
「切り裂け、
相手に不治の傷を負わせる黄色の短槍が、大型ゴーストの胴部に大きく裂け目を作った。
巨大な複数の腕による反撃を蝶のようにかわし、彼は次撃を見舞う。
「貫け、
霊基の表面に開いた裂け目から、魔術防御の一切を無効化する一撃。
大きく悲鳴を上げてのたうつ巨大な霊を、とどめの一打が襲った。
「おらッ、ブチ抜けぇッ!!
クー・フーリン――やや年若い姿ながら、人類史上三指に入るとされる槍の使い手による、宝具の全力投擲。
それを遮るものはなく、魔槍はゴーストの霊基に突き刺さり、大爆発を起こした。
直撃を受けた大型エネミーはおろか、その真下に位置していた橋すらも跡形もなく吹き飛び、川底まで届く衝撃の巻き添えを受けて、多くの死霊が消滅する。
中核になっていた霊基が消滅したためか、ゴーストの群は煙か何かのように飛び散り、消え去ってしまった。
「残すは魔猪のみ……!」
そちらを振り向けば、レオニダス一世と百の貌のハサンの分体たちが、魔猪と決着をつけようとしている。
「巨体なれど他愛なし!」
多数の分体化したハサンたちが、投剣や縄を使い、巧みな連携で魔猪を傷つけていった。
無論、アサシンの攻撃力では巨体に対する威力は微々たるものだ。
だが、微細な傷口は無視できぬ数に増え、腹や膝裏の太い血管に到達する刺し傷もあった。
その正面から果敢に囮となって立ち向かうのが、レオニダス一世。
「魔猪よ、お前の力は凄まじい……凄まじすぎる!
スパルタ兵に換算して、およそ3000人分はあるだろう! ふんぬぁッ!!」
魔猪の頭を振り下ろしての牙による攻撃を、彼は盾と槍で巧みに防御し、受け流す。
「レオニダス殿!」
そこに、せめてもの援護にと、ディルムッドが真紅の長槍、
その穂先は魔猪の足首を傷つけるも、致命傷には遠い。
「だがッ!」
そこからすかさず、スパルタ王が宝具を引き抜いた。
「ディルムッド殿、御槍、お借りいたす!!」
「何……!?」
レオニダス一世は暴れる魔猪からやや距離を取り、民家の屋根へと飛び乗った。
その上盾を放り捨て、己の槍と
「私の背後には、300人のスパルタ兵!!
よって、私のパゥワァは計算上、300スパルタと言ってもいいでしょう!!!」
それを聞いていたハサンの分体の一人が、魔猪に攻撃を加えつつ訝る。
「……奴は何を言っているのだ?」
「そして! ハサン殿の助力とディルムッド殿の宝具をお借りしたことで、今の私の力は恐らく通常の2倍くらい!!
すなわち、300×2の、600スパルタ!!!」
「え……?」
「とぅッ!!」
レオニダス一世は更に空高く跳躍し、高度だけならば魔猪の頭上を取った。
「そこにいつもの2倍のジャンプ力が加わり、600×2の1200スパルタ!!!」
「レオニダス殿が――!?」
それどころか、彼はどうやってそのような推進力を得たのか、空中で錐揉みのごとく回転を始める。
「更に、いつもの3倍の回転を加えれば――」
「お前いつも回転なんてしてたっけ!?」
クー・フーリンも、思わず助太刀を忘れてツッコミを入れた。
「1200×3の!!!
もはや誰もその謎の数式に対する反論の術を持たず、レオニダス一世は空中で光の矢となった。
光の矢は不可解なまでの破壊力を発揮し、高速で魔猪の頭部を直撃、その肉と骨の全てを爆砕する。
ハサンもケルトのランサーたちも、飛散する衝撃波と肉片にうめいた。
破壊が収まると、そこには直径10メートルほどのクレーター。魔猪の死体は早くも霊基の残滓の灰となって、風に消えている。
魔猪が暴れたために町人などはとっくに避難していたとはいえ、一帯は完膚なきまでに破壊されていた。
そこに佇む屈強なランサーは、兜の奥で安堵のため息をついている。
「ふぅ……計算が、上手く行ったようです……!」
「百歩譲って計算だとしても、色々おかしいだろうが!!?」
その近くに着地したクー・フーリンが、目を丸くして抗議する。
「む、クー・フーリン殿。ご覧になりましたか!
これが、
いやぁ、ムァスタァにもお見せしたかった!!」
「はぁ……まー結果が出るんならいいけどよ……」
一方、同じケルト人ではあるが、ディルムッドは目を輝かせてさえいた。
「レオニダス殿! 今しがたの戦ぶり、このディルムッド感服いたした!」
「ハサン殿のお力添えと、ディルムッド殿の宝具をお借りできたからこそ!!
いやはや、素晴らしい槍でした。お返しいたします」
「うむ……かたじけない」
レオニダス一世は自らのマントの端で、
城下町に現れたエネミーの気配があらかた消えたことで、ハサンたちはぼやきながら、ランサーたちのいるクレーターに分体の一人を派遣した。
「周囲の敵は消えたようだ。お前たちはマスターのもとに向かうといい」
「おう、ありがとな。この借り、いつか返すぜ」
「不要だ。
フン、スパルタほどではないが、貴様らケルトも相当な暑苦しさよ」
「そ、そうなのか、アサシンよ……」
自覚がなかったらしいディルムッドが意外そうに尋ねるが、百の貌のハサンはそれ以上何も言わず、彼らに背を向けてしまう。
「ハハ。ワリィが、ちぃとばかし我慢してくれや」
クー・フーリンは短く笑って、姿を消す彼女を見送った。
その時、城の近い周辺の壁が内部から爆発し、煙を上げる。
「!」
「やや、ムァスタァが危険かもしれません……!
急ぎましょう、お二人とも!!」」
「応、遅れんなよ!」
「レオニダス殿、申し訳ないが我らは先行する!」
ケルトの戦士二人はそう言い残すと疾風のように瓦礫や民家の屋根を伝い、城へと駆け抜けて行ってしまった。
レオニダス一世は敏捷性に劣る己の筋肉をほんのわずかに呪いつつ、その後を追う。
「くぁッ!!
私の計算によれば、敏捷Dの私ではA+のお二人には直線ではとても追いつけないが仕方がない……!!
ムァスタァ!! 私が行くまで持ちこたえるか、思い出したら令呪で転移させてくださいッ!!」
今や巨大な城の複数の箇所から、破損と火の手が広がりつつあった。