日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER   作:kadochika

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六番目の柱

 

 

 

 

 そこは、炎の庭だった。

 凄まじい熱気を放つ、燃え崩れた廃墟。

 城の中のはずなのに、そこはまるで伝説の本能寺か、はたまた比叡山かと思わせる趣だった。

 熱風が吹き荒れている有様は、固有結界か何かだろうか。

 まだ日が傾き始めたばかりの時間帯のはずなのに、上空には夜空。

 間違っても、城の中そのままではありえなかった。

 そして、火の粉舞い散る本堂の前で、仁王立ちのまま高笑いを上げている少女の姿。

 

「はーっはっはっは! よくぞ参ったな反逆者ども、褒めて遣わ――おいサンタの奴はどこじゃ!?」

 

 彼女は口上の途中で、一行にサンタオルタの姿がないことに気づいたようだった。

 あらかじめ打ち合わせしておいた偽りの理由を、恐る恐る告げる。

 

「えーと、やっぱりプレゼントを集めたいってことでカルデアに戻りました」

「けーッ! 復刻だけに飽き足らず、まァた今年も特異点をパドるつもりか!!

 ド許せぬ! おいおき太! 人斬り枕セイバーはおらんかッ!!」

「枕はいくらなんでもひどいんじゃありません!?」

 

 抗議しつつ天井裏から板材を踏み落として現れたのは、薄紅色の着物を纏った、薄い桜色の髪をした少女剣士。

 桜セイバーこと、沖田総司だった。

 

「サクラとマクラでめっちゃ語呂がいいのが悪いんじゃ」

「二人で誓ったじゃないですか!

 こんな大事に巻き込まれたからには恩讐は忘れて二人で協力して頑張っていこうネ♡って!」

「それとこれとは別じゃろうがィ!

 しかも今回サンタのやつに復刻を潰されて、そのマクラの効果のほどすら疑わしいと判明してしもうたではないか!!

 おのれ三田先生!!」

「つまりそんなふしだらで卑怯な営業なんて無かったって証明でしょうが!?

 いくら温厚で病弱な私でもキレちゃいますよ!?」

「好きなだけ切れたら良かろうが! 騎乗特攻で焼き枕にしてくれる――」

双腕・零次収束(ツインアームビッグクランチ)!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁわし焼きノッブになっちゃうぅぅぅぅ!?」

 

 際限ない掛け合い漫才が始まろうとしていたところに、天草の宝具が炸裂した。

 余波を伴う凄まじい大爆発が二人を消し飛ばしたかに見えたが、驚くべきことに、二人はわずかに髪や服が焦げただけだった。

 対軍宝具の直撃を受けたはずが、爆煙から這い出してきた信長はげほげほと咳き込みながら彼を非難する。

 

「おのれ切支丹! わしからクリスマスを奪うどころか、取り込み中にいきなり美味そうな宝具をぶち込むのが島原の流儀かそうですかァ!?」

「まさか耐えるとは……」

「しかもよく見たら、せっかく捕まえておいた狐を逃してしまいおったな! あと7匹揃えてコンプの予定じゃったのに!」

「ほとんど集まってませんよノッブ」

「ええぃ、いい感じにぐだぐだしてきよった! ぐだぐだしてると後ろからバッサリとはよく言うたものよ……」

「信長さん! 今からでも遅くありません、考え直してはいただけないのでしょうか……!?」

 

 発言が支離滅裂になりつつある彼女に、マシュが呼びかけた。

 信長は彼女にふと優しげな視線を向けて、呟く。

 

「ハレンチトーストよ……お主、この期に及んでもわしにそのような情けをかけようとするのじゃな」

「マシュです、いい加減名前覚えてください……」

「わしが優しくするのって基本わしが気に入ったやつだけなんじゃが……

 お主はわしなんかのこともそう思ってくれておるというのか……」

 

 俯きながら、平素と異なる様子を見せるアーチャー。

 小柄な彼女が目を伏せながら言うと、ぐだ子はもしかしたら今度こそまっとうに反省してくれるのか、などと思わず期待してしまうのだった。

 無論、冷静に考えればそんなことはありえないと分かるのだが。

 突然信長は勢い良く顔を上げ、侘しげな雰囲気を破壊した。

 

「じゃが盾子よ! ぶっちゃけもう聖杯を盗んでしまった今となってはあのムラケン声に何されるか分からんので交渉は決裂じゃ!

 個人的にはあやつ、人畜無害そうな面して裏では美少女サーヴァントに卑劣な行為を働きそうな気がしてのう!」

『えーと僕のこと言ってるのかな……

 とりあえず信長くんにはあとで話があるのでこの件が全部片付いたら霊基保管室に一人で来るように。いいね』

「ほれ見たことか! わしは絶対戻らんからな!」

「信長さんがすねた家出少女のように……」

「ええい黙れい! おき太! ここが天下分け目の本能寺じゃ!

 こやつらを倒して、ぐだぐだ除夜の鐘を聞かせてやろうぞ!!」

「仕方ありませんね……お許しを、マスター!」

 

 そして、戦闘が始まった。

 途端、空間に無数に出現する、火縄銃の群。

 その逸話から騎兵や騎乗技能保有者に、また使用者の性格から神話幻想の類に対して特に威力を発揮する火縄銃の射撃の嵐。

 

「――!?」

「顕現せよ、いまは遙か理想の城(ロォォォド・キャメロット)ォッ!!!」

 

 だが、ぐだ子の上に重盾を掲げたマシュが、同時に宝具を発動した。

 荘厳な白亜の城郭と要塞を思わせる幻像が出現し、重盾から放出された魔力が味方全員の霊基組成を強化、防護する。

 空間を埋め尽くさんばかりの火の線はその力で遮られ、ダメージを受けるであろう玉藻の前はマシュの重盾の後ろに、ぐだ子と共に隠れている。

 この場で攻撃手として戦闘に参加できるのは、佐々木小次郎と天草四郎のみとなった。

 ぐだ子は自らは盾に隠れていることを密かに恥じつつ、命じる。

 

「二人とも、ノッブを止めて!」 

「承知!」

「行きます!」

 

 信長に向かって高速で先行した小次郎を、桜セイバー――沖田総司が阻止する。

 

「沖田君!」

「ごめんなさい、小次郎様!

 でも、あなたとはいつかは本気で死合いたいと思っていたんです……手加減抜きで!」

「その言葉、光栄の至りよな」

「なのに……何なんですかその竹槍!?」

 

 沖田の指摘は、もはや悲鳴だった。

 実戦に出ること無く百姓として生涯を閉じた小次郎と、戦闘集団・新撰組の一員として血煙の中をくぐり続けた沖田。

 二騎の原点(マトリクス)はおよそ何もかもが異なるが、サーヴァントとしてステータス評価分布や保有スキルを見れば、比較的よく似ているといえる。

 だが二人は、何よりもそれぞれがたどり着いた剣の境地において、興味深い一致を見せていた。

 佐々木小次郎の最奥とする燕返しは三方からの完全同時斬撃であり、沖田総司の無明三段突きは三回の刺突を完全同時・同一軌道で放つものだ。

 通常の物理法則と矛盾する剣を使う、速度型の剣士。

 日本を生まれ故郷とし、剣を振るうサーヴァントは他にも多い。

 ただし、いずれも軍団を率いる武将としての性格が強く、部隊長だったとはいえ限りなく純粋な戦闘要員に近い存在でもあった沖田にとっては、宮本武蔵とともに巌流島の剣士として名高い小次郎こそが、カルデアにおいて剣の腕を競い合わせたいと考える最大の存在であったのだろう。

 どうかこの剣士に対しては、己の技がどこまで通じるかを試したい。

 生前に剣技を他者と競った経験がないとはいえ――いや、だからこそかも知れない――、小次郎にもその心情はよく理解できた。

 それなのに彼は刀を鞘に収めたまま、竹槍で彼女の相手をしようとしている。

 その怒りは当然だ。しかし。

 竹槍で沖田の剣を弾くと一度距離を置き、小次郎は答えた。

 

「すまんな沖田君。

 だが少なくとも今、お主が信長公の味方として剣を振るうのであれば……

 私が持つのはこの竹槍でなくてはならんと、強く感じるのだ」

「……!

 いくら小次郎様でも、許せません。

 我が秘剣を受けて、なおその棒切れ、(もてあそ)べるか!!」

「ただの棒切れではないさ!」

 

 二騎のサーヴァント――クラスの異なる二人の剣士の戦いは、音速を超え、無間を渡り、絶刀に達しつつあった。

 一方で、アーチャーに向かって仕掛けたルーラーは。

 

「こやつ、わしの弾を先読みしとるのか!?」

「さて、どうでしょうね――!」

 

 宝具でもある彼の両腕が心眼スキルに似た効果を二重にもたらし、彼女の放つ弾丸の一つ一つを的確に見切らせている。

 距離を詰めてしまえば、敏捷で勝る天草がやや有利。

 抜きざまに放った業物が竹槍で受け止められると、信長は彼を非難した。

 

「何じゃそのチート!? 長谷部で切れない竹槍とかズルすぎじゃろ!!」

 

 天草はそれに答える代わりに、令呪を発動した。

 

「令呪を以て命ずる――アーチャー、織田信長! 即座に戦闘を放棄せよ!」

「んぎ!?」

 

 信長が、震える手から刀を取り落とす。

 聖杯戦争の監督役として召喚されるルーラーのクラスにのみ許された、令呪の保有と行使のスキル、神明決裁。

 今は聖杯戦争という枠組みの中ではないため効果も絶対ではなかったが、今回は成功した。

 先ほどまで無数に生成した火縄銃を乱れ撃っていた信長の動きが、令呪によって完全に制限されている。

 

「決着ですね」

「か、き、貴様ぁ……わしを生け捕りにしようなどと……愚弄しておるのか!?」

「いいえ。政治的な意図もあったとはいえ、貴方はかつて、伴天連の布教を許してもくださった」

「第六天魔王に情を浴びせよるか、おのれェッ……!!」

 

 その時、彼女の背後。

 本堂の燃え盛る瓦礫の中から光が飛び出した。

 火の粉の荒れ狂う夜空に、淡く虹色の輝きを放つそれは――

 

「聖杯……!?」

 

 どうやら、彼女が自身の霊基の内部に埋め込んでいたというわけではないらしい。

 誰よりも早く、マシュが叫んだ。

 

「先輩、回収を――」

 

 だがそれより更に早く、聖杯は信長に向かって突撃した。

 

「何――」

 

 ずぷり、と泥の中に落ちるかのように、聖杯は今度こそ、彼女の胸郭の中へと沈み込んでしまう。

 信長本人までもが、自分の体を見下ろして目を丸くしていた。

 

「…………嘘じゃろ?」

「……信長さん、何ともないのですか?」

 

 マシュが近づいて案じると、信長は困ったように、ぺたぺたと自らの胸周りに触れる。

 

「う、うむ……その筈じゃが」

『……取り出せないのかい?』

「うーむ……」

 

 小次郎との切り結びも中断し、沖田が茶々を入れた。

 

「あぁ……ノッブ残念でしたね。やっぱり聖杯を取り込んでもその……限りなくフラットで」

「やかましい! 好きで取り込んだわけなかろうが!?」

 

「どうしましょうかマスター。一応、私の右手の宝具を使えば聖杯に接続して、強制的に彼女の胸部から摘出することが出来ると思いますが」

「肺腑の中から身を裂かれるのは、死ぬほど痛いでござろうなぁ……」

 

 何やら覚えがあるのか、青ざめながら小次郎が言うと、信長は天草から胸元をかばうようにして距離を取った。

 

「そ、それだけは勘弁してくださいませんでしょうかじゃ……」

『とりあえず、みんなカルデアに戻ろう。霊基破壊なんて物騒な手段を取らなくても、取り出す方法を考えてみるよ』

「うぅ……気が進まんのう。戦い敗れたならともかく、聖杯を誤飲して顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」

「――え?」

 

 ぐだ子、マシュ、小次郎、天草、玉藻の前、沖田――そして通信を繋いだままだったカルデアのロマン。

 全員が思わず、異口同音に口にした。

 魔人アーチャーは、信長は、虚空を見つめてうわごとのように唱える。

 

「我こそは富を、糧を、あるいは全てを奪い取る何か」

 

 人理定礎の修復のため、彼女たちは人類史をめぐり、特異点を渡った。

 その最終段階で、幾度となく、そうした詠唱を聞いた。

 

「今こそ正しき者に、奪われし正しき儀式を。かくなる上、宥和せよ」

 

 人類史上至高の賢者、魔術王ソロモンの使役する大いなる悪魔の降臨を意味する言葉。

 

「マレファル。これぞ七十二柱が第六位である」

 

 それは聖杯のもたらした力なのか、彼女の霊基が閃光を放ちながら変形する。

 そして、魔神柱が出現した。

 

 

 

 

 

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