日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER 作:kadochika
彼女の成り立ちを語るならば、それは極めて長くなる。
まず、ジャンヌ・ダルクと呼ばれた聖女がいた。
彼女は英仏の百年戦争末期、フランスの農村ドンレミで産まれ、数奇な巡り合わせのもと、フランス側で救国の聖女として、極めて多大な活躍を見せた。
だが彼女は裏切りに遭い、志半ばにして火刑に処される。
ジャンヌは後にルーラーのサーヴァントとして英霊の座に昇ったが、彼女の戦友であったジル・ド・レェ男爵は、その死を大いに嘆いたと言われている。
人類史の通史的消滅に伴い当時のフランスに発生した特異点において、ジル・ド・レェはキャスターのサーヴァントとして現界した。
彼は魔術王の手配によって聖杯の一つを与えられ、それに対して、極めて私的ながら人情味の強い願いをかけた。
すなわち、人々に裏切られ、非業の最期を遂げたジャンヌ・ダルク――彼女が、自分を裏切った人々に対して憎悪と憤怒、遺恨で以て復讐を遂げることを。
その願いによって特異点に誕生したのが、サーヴァント、ジャンヌ・ダルク[オルタ]である。
オルレアンからバーサーク・サーヴァントの軍団を以て人類滅亡を企図する彼女たちに対し、やはり特異点に現界したジャンヌ・ダルクと、人類最後のマスターが立ち向かった。
激戦の末、彼女はジルと共に討たれ、特異点から消滅した。
第一人理定礎は、こうして復元された。
話はまだ続く。
こうして討たれたサーヴァント、ジャンヌ・ダルク[オルタ]は、元となったジャンヌ・ダルクの
それは特異点での戦いで霊基を破壊された後も残存し、英霊の座において存在を確立しつつあった。
やや時間を置いたものの、彼女は再びサーヴァント化を果たし、聖杯を使用してカルデアのサーヴァントたちの
彼らに守られながらも真作を上回る贋作として成立するために、芸術作品の偽造行為を続けていた彼女は、それを察知したマスターたちと再び矛を交える。
惜しくも敗れはしたが、こうしてジャンヌ・ダルク[オルタ]もまた、カルデアへと正式に召喚される存在として、確立されるに至った。
そして、サンタクロースの役回りとプレゼント袋を盗み取るために透明化しようと入手した薬品が若返りの薬と間違えられていたことに彼女は気づかず、それは起きた。
サーヴァント霊基の幼児退行。
サーヴァント、ランサー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィの誕生である。
ジャンヌ・ダルクの派生のそのまた派生である彼女は霊基の確立すら危うかったが、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィはマスターの計らいでサンタとしてクリスマスを駆け抜け、無事に存在を確立することに成功した。
エリザベートの支離滅裂さを先例として挙げるまでもなく、もはやサーヴァントの成立や分離合体の整合性などどこへやらという風情だが、おそらく次のイベントあたりでオルタとオルタ・リリィが共演したりは普通に有り得るので、もはや気にするだけ無駄。読者も作者も楽しんだ者勝ちといったところだろう。
彼女という存在が誕生した経緯を説明するだけで、これだけの手間がかかるわけだ。
便宜上、本稿では以降、その名をオルタ・リリィと表記する。
クリスマスも終わろうかという、夜のカルデア。
オルタ・リリィは、常夜灯の点灯した薄暗い廊下を、新たに用意された自室に向かってちょこちょこと歩いていた。
そして、扉が開いたままの部屋から漏れる明かりを見つけたのだった。
好奇心の強い彼女は、そのなかをそっと、覗いてみる。
「…………?」
そこには、設えられたプロジェクタで部屋の壁に月夜が映し出されていた。
こたつに座ってぼんやりとそれを眺めているのは、黒髪の少女。
オルタ・リリィは、こたつの天板に顎をのせた、彼女のぼやきを聞いてしまった。
「はぁ……まさかあんなロリっ娘から本気でイベントを奪いにかかるわけにもいかんしのう……
本能寺復刻しないかナー……」
(ロリっ娘……もしかして私のことでしょうか……?)
オルタ・リリィも、カルデアに存在する全てのサーヴァントと面通りを行ったわけではない。
彼女もサーヴァントなのだろうが、真名は知らなかった。
とはいえ、もし推測が当たっているのだとしたら、彼女の方はオルタ・リリィのことを知っていることになる。
何か声をかけて、自己紹介でもするべきか。
そう思った、その時。
「誰か! 痴れ者めィ!!」
「ぴぎゃぁ!?」
部屋の中の彼女は、急に銃身の長い銃をオルタ・リリィに向けてぶっ放した。
慌てて逃げるが、間に合わない!
「帝都組のちょっとアンニュイな女子会クリスマスを覗こうたぁいい度胸じゃ!! 三千世界に屍を晒すがよい!!」
「きゃー!? きゃー!?」
「ん……?」
取り押さえられて一斉射撃で焼かれる前に、彼女はべそをかきそうなオルタ・リリィに気づいたようだった。
「お主……えーと、たしかレスソルトスパムじゃったな?」
「ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです、ルしか合ってませんっ!!」
アーチャー・織田信長は特に悪辣なサーヴァントだとも思えなかったが、自身でぼやいていた通り、もしも彼女がクリスマスを乗っ取ろうと画策していたのだとしたら。
オルタ・リリィは自室に戻る前に、彼女と少し話をしていくことにした。
こたつという装置は随分と暖かく、差し入れた足がチーズフォンデュのように溶けそうだった。
「つまりネ? わしとしてはマンションやら魔法世界やらでちょいちょい出番もあったし、これは復刻&続編イベントのタイミングかなぁ~なんて期待しちゃったワケよ」
「はぁ……」
オルタ・リリィが要領を得ずに頷くと、信長は缶チューハイを新たに開けて、ぐびぐびとあおり始めた。
ちなみに、オルタ・リリィはグラスに開けたノンアルコールのシャンパンを出されている。
よく見れば、女子会というだけあってこたつの周辺には空き缶や生菓子のパッケージが置いてあり、厨房から分けてもらってきたと思しい空き皿までもがあった。
ベッドには、薄桃色の髪の女性サーヴァントが突っ伏して寝息を立てている。
「そこで寝てるおき太のやつなぞ、アイスをやけ食いして腹を壊しそうになっておったわ」
「た、楽しみにしてたんですね……」
「まぁのう……じゃから、正直割と本気で、あのムッツリサンタめがと思うとってな」
「しょ、初代さんは悪くないです!」
精一杯抗議すると、からからと笑っていた信長は急に遠い目になって、声のトーンを落とした。
「お主、随分
「へ?」
「そんなお主がべそかきながら一所懸命にプレゼントを配っているところを見てしまうとな」
「な、泣いてません!」
「まぁそういうことにしてもいいんじゃが……ともかく、まぁ、悪さをしてやろうという毒気が、改めて抜けてしまってのう」
「ノブナガさん……?」
「考えてみたら、悪いのはお主らじゃなくて、第七特異点を長引かせた運営と毒きのこじゃからな!!」
「ノブナガさん……!?」
よく意味がわからないはずのその発言に極めて危険な雰囲気を感じて、オルタ・リリィは彼女を制止した。
「かっかっか! いや、愚痴を聞かせてすまんかったのう。子供はとっくに寝る時間じゃな」
「たしかに子供なのは否定しませんが……あ、そうだ」
オルタ・リリィは折りたたんでいたプレゼント袋を広げると、その中に手を入れて提案した。
「お詫びというわけではありませんが……サンタとして、お二人に何かプレゼントを差し上げましょう!」
「マジでか……おき太の分はわしがもらっといてやるとしよう。
礼装なら☆5でお願いネ!」
「えーと、あっもうすぐ25日が終わっちゃう……!?」
「何ィィっ、早よ! 早よ出すのじゃ二代目!!」
「せ、急かさないでくださいぃ!?」
こうして、ささやかながらも信長と沖田に、それぞれクリスマスプレゼントが送られることとなった。
出てきたのは、概念礼装No.63とNo.64――“概念礼装EXPカード:おき太”と“概念礼装EXPカード:ノッブ”。
取り出すのがわずかに遅く、日付がクリスマスを過ぎてしまっていたのだ。
オルタ・リリィは気まずい思いで謝りつつ、信長の部屋を後にした。
「……まぁ、これはこれで飾っておくかのう」
「だめですよノッブ……セブンの金の抹茶で我慢してください……」
信長は悪くない気分で、むにゃむにゃと寝言を口にする沖田をどかしながら寝床に入るのだった。
これはどこまでも非公式な、聖夜の記録である。
全てのマスターが配布礼装を限凸できますように。
メリークリスマス。
17/03/13:
信長公イベント復刻おめでとうございます。