日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER   作:kadochika

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アサシン武士道

 

 

 

 

「無人島以来よな、とおます殿よ!」

 

 アサシン、小次郎は無造作に悶着の場に歩み寄ると、白獅子のサーヴァントに声を掛けた。

 キャスター、エジソンはそれを発見し、眼光鋭く睨んで誰何する。

 

「む、何奴!」

「やはり特異点の作用か……私を覚えてはおらぬかな?」

 

 面識などはそれなりにあったはずだが、キャスターはその獅子の面をしかめて断じた。

 

「貴様のような素浪人など知らぬ!」

「そんな言い回しを知っているとは、ますますあのとおます殿のままではないようだな」

「怪しいやつ……!」

 

 特異点は、時としてカルデアからサーヴァントと、その召喚契約を一時的に奪う。

 その中で役割を演じる“役者”を必要とするためだというのが、臨時総責任者であるロマニ・アーキマンの仮説だった。

 小次郎自身も鬼ヶ島で用心棒として喚ばれたことはあるが、こうして客観的に見せられるとなると――

 

(とおます殿には悪いが、いささか滑稽よな……)

 

 最悪の場合は一戦交えもするだろうと構えようとしたその時、キャスターが再び咆哮した。

 

「先生!! 鬼夜津党(きゃっと)先生! 曲者ですぞぉぉ!!」

「何……!?」

「むっふっふ~」

 

 そこに、どこからともなく、ふらりふらりと掴みどころのない足取りで現れる者がいる。

 手足に獣を模した毛深い飾り着を身に着け、狐の耳と狐の尾を生やした若い娘。

 キャスターのサーヴァント、玉藻の前と縁が深いという話だが、小次郎自身はあまり関わったことがなかった。

 しかしその彼にとっても印象深かった、カルデア有数の、底知れぬ滑稽芸者。

 サーヴァント、バーサーカー、タマモキャット。

 彼女はゆらゆらと、不思議な動きでエジソンの前に出た。

 

「う、うわぁぁ!?」

 

 彼女の危険さを察知したか、農民たちが蜘蛛の子を散らすように逃げる。

 そして彼女は、ごろごろとうなりつつ、小次郎に対して得体の知れない名乗り口上を挙げ始めた。

 

「アタシの名前を覚えておきな……

 未知なる急性胃カタルを求めてさすらう漂白のブリーチ……

 今はこの直流一代男を仮のご主人として、夜な夜なエロスの弾き語りなどをやらされている可憐なるレ・ミゼラブル……」

「いや先生、私はそんな弾き語りなんて頼んでないのだが……エロスて」

 

 エジソンの指摘を無視して、タマモキャットは口上を続ける。

 

「なぜって、このジャングル大帝が、用心棒をすれば好きなだけその肉球をなぶって良いという破格の条件を出すゆえに……

 風雲的な獅子(しし)の、四肢(しし)の肉球!!

 そのさわり心地を求めて、アタイは泣いてすがるアカトカゲさえ捨てたのさ……!

 人は呼ぶ、ゴールデン夜叉!!」

「いや先生、私はそんな変な条件は出してないのだが……夜叉て」

「な……!?」

 

 困ったように告げるエジソンを見て、タマモキャットが勝手に硬直する。

 相手は、二騎。

 小次郎は刀を抜きつつ、その茶番が何かの罠なのではないかと、慎重に構えた。

 そんな心配をするだけ無駄な特異点なのかもしれないと、危惧しつつ。

 

「そんな……バカな……

 もしやご主人もどき、貴様、肉球……」

 

 彼女の手は、とても細かい動きができるとは思えない、大きく毛深い手袋(?)に覆われている。

 しかしそれを以てなお、器用にエジソンの手を取って強引に広げると、光沢のある表皮――だか、生地だか――に覆われた人間と同様の形状をした手指を、ぐりぐりと弄んで震える。

 

「ない……nothing……!!

 騙したな……キャットの純情と貞潔と忌まわしい青春を踏みにじったか、このライオンキング!!」

「いやいやいや、最初から小判で雇うって言ってたでしょ!!」

「豚に真珠といったかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」

「言ってないし!!?」

「絶対に許さんぞクチクラども!! ジュワジュワと超人にしてくれる!!!

 ブヒヒヒヒィィィン!!!!」

 

 怒髪天衝、そのいななきは馬のごとし。

 茶番の隙を突いて一撃を加えんと踏み出した小次郎を、暴走したタマモキャットの一撃が大きく弾き返した。

 

「む……!」

「うむ、結果オーライ! やっちゃってくだされ先生!」

 

 彼女の手足の先を覆う毛皮の手袋や靴のようなものが、装束なのか体の一部なのかは定かではない。

 だが、そこから放たれる、狂化と怪力のスキルが両方乗った一撃の速度、重さは本物だ。

 その上、彼女はバーサーカーの中でも攻撃における脈絡や流れというものを欠き、手が読みづらいことこの上ない。

 剣気精妙に達せしアサシンのサーヴァントとはいえ、小次郎にとって決して好相性となる相手ではなかった。

 

(その上、とおます殿の射撃……素人ゆえかこちらも狙いが不正確……!)

 

 空中で器用に重心を移動させ、彼はエジソンが胸から放つ霊子線の射撃を回避する。

 生前が発明家にして企業人だったキャスター、エジソンの遠隔攻撃は、お世辞にも達者とはいえなかった。

 だが、大出力と不正確さゆえ、反撃に繋げうるような精密な回避を許さない。

 彼の着地を捉えたタマモキャットの爪の一撃を受け止めて、愛刀が悲鳴を上げる。

 

(これは……血の騒ぐ難敵なれど……!)

「今宵のヤツガレは虫の居所が悪いチュン……

 ゆえに貴公の末路を、嬉し恥ずかし聖杯戦争として丹念に語り継いでやらんこともない……

 キャットの身から出た錆的な――サビ……? とにかく地獄に昇天するのだな!!!」

 

 タマモキャットの宝具――正式名称、燦燦(さんさん)日光(にっこう)午睡(ひるやすみ)酒池肉林(しゅちにくりん)――が無数の斬撃の嵐となって、不機嫌な猫のように小次郎を切り裂こうとした、その時。

 

「頑張ってくだせぇ、名も知らねぇお侍さまァ!」

 

 茅葺(かやぶき)屋根の家の影から、先ほど退避した農民の一人が叫ぶ。

 人間の身体能力の常識からすれば信じられないほど超常的なサーヴァント同士の直接戦闘の余波にもめげず、小次郎に対して声援を送っているというのか。

 いや、声の限りを尽くしているのは、一人だけではなかった。

 

「そうだァ! 踏ん張れ、長っ髪のお侍殿!!」

「お願いだァ!」

「悪いお代官に負げねぇでくれぇ!!」

(…………!)

 

 そうだ。

 サーヴァント、アサシン。佐々木小次郎は、生前はただの、剣士だった。

 人間の肉体で可能な剣術を、その限界まで極めたはしたが、それだけ。

 後世に彼の本来の名は、一切伝わっていない。

 彼は日本の歴史上のいつか、どこかの農家に生まれた無名の人間にすぎないのだ。

 しかしそれは、かつてとある聖杯戦争において、佐々木小次郎という架空の剣士を召喚しようという試みにおいて、拾い上げられた。

 そもそも佐々木小次郎という名は、宮本武蔵という実在の大剣豪の敵役として、歌舞伎や浄瑠璃、講談といった大衆文芸の中で形成されたものと言われている。

 巌流島の決闘は史実に基づく記録ではなく、小次郎にあたる剣士の名は、相当する逸話を語る文献によって様々だ。

 つまるところ佐々木小次郎とは、やはり架空の剣士である。

 だが、民話として成立の兆しを見せたその概念――長刀を携えた眉目秀麗の魔剣士にふさわしい存在として、ある一つの聖杯が、農民の身でありながら技を極めた無名の剣士に、サーヴァント・佐々木小次郎としての仮初の存在を与えたのだ。

 元農民、剣技を極め、今アサシン(字余り)。

 特異点の住人とはいえ、戦う剣士を励ます彼らと、小次郎のルーツは同じものなのだ。

 それが、劣勢に陥りつつある彼を奮い立たせた。

 

「いかにも――ここが勝負どころよな!」

 

 走馬灯は一瞬、迫り来る無数の狂戦士の爪を迎え撃つのは、無論、秘剣・燕返し――ではなかった。

 分類評価Aクラス――心眼技能(スキル)

 彼の第六感が知らせる、無数の威力の分布と配置。

 霊子によって構成されている今の小次郎の肉体は、それを見切った。

 バーサーカーの必殺の宝具は回避され、その直撃を受けた矢来や竹がバラバラに吹き飛ぶ。

 村の外の竹林の一角が、巨大な平地と化した。

 そして、タマモキャットの宝具の行使後に生じる、致命的な隙。

 使用後は、短時間とは言えなんと、睡眠が必要となる。

 小次郎は、迷わず剣を放り捨てた。

 

「むん!」

 

 プールに飛び込むスイマーのような体勢で竹の葉の海に飛び込もうとしていたバーサーカーの両足首を掴み、思い切り振り回す。

 そしてキャスターに向かってすっ飛んでゆく角度で、手を離した。

 

「はァッ!!」

 

 バーサーカーが、白獅子のキャスターに向かって頭から、弾丸のように吹き飛んでゆく。

 サーヴァントとして現界したトーマス・エジソンの敏捷ステータス評価は、E。

 A分類のタマモキャット、A+分類の小次郎ならば回避できるであろうタマモキャットミサイルの直撃を腹部に受けて、発明王は倉の壁に激突、二騎同時にその中へと吹き飛んでいった。

 

「ぬふぅ!?」

 

 土埃が盛大に舞い上がり、小次郎は近くの地面に突き立っていた愛刀を拾い、構え直した。

 手応えはあったが、エジソンもタマモキャットも、共に変化スキルで耐えきったかもしれない。

 だが、慎重に倉に開いた穴に近づいていくと、それも杞憂とわかった。

 折り重なるように倒れた二人は、目を回して戦闘不能になっている。

 

「犬とか……猫とか……」

「おのれ……テスラ……!」

 

 そう言い残すと、二騎のサーヴァントはこの特異点から消失した。

 きっと、今頃はカルデアに戻って目を回していることだろう。

 剣を一振りして汚れを払い、念のため、刃の傷の有無を確認する。

 

「……さすがは亜墨利加(あめりか)に名高き発明王。

 そしてその……まあ何か強かったきゃっと殿よ。

 どこかで研ぎ直さねばな」

 

 鞘に刀を収めると、隠れていた農民たちから歓声が上がる。

 

「いやったどぉ!!」

「わしらのお侍どのが勝ったァ!!」

「ははは……羅馬(ろおま)もそうだったが、人の歓呼を浴びるのは心地よいものだな」

 

 剣を極めながらも生涯村を出ることのなかった小次郎だが、サーヴァントとなってからは異国の英雄と刃を交え、時には異国の戦乱に参じた。

 技の競い合いの末、勝利の余韻に浸ることもあった。

 これもまた、そうした役得というものだろうか?

 そこに遠くからかけられる、息を切らした若い娘の声。

 

「小次郎!」

 

 彼は小さく手を挙げて、彼女たちを迎えた。

 

 

 

 

 

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