日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER 作:kadochika
村と拠点設営の予定ポイントとは、意外と距離があった。
ぐだ子は走り疲れながらも、戦いの場に残してきたサーヴァントの名を呼ぶ。
「小次郎!」
「もう決着がついているようです、先輩」
マシュが冷静に、状況を伝える。
「何だ……獣退治と聞いて、せっかくやる気が出てきたってのによ」
サークルから急いで召喚し、連れてきたクー・フーリンは、拍子抜けしたように愚痴を言った。
小次郎は涼やかに笑いながら、鎧をまとった若い槍兵に陳謝する。
「すまんな、赤枝の騎士よ。お主の助勢があれば、私も楽ができたかも知れん」
「しょうがねぇ……おいマスター、どうすんだ」
槍の石突で土を小さく叩きながら、ランサー。
ぐだ子は事態が一旦収まったこともあり、呼吸を整えながら答えた。
「とりあえず、村の人に事情を聞くよ。悪いけど、ちょっと待機」
「そんじゃあ帰る……といいたいところだが、俺はちとそこら辺をぶらつかせてもらうぜ。
あの妙な木に興味が湧いた」
「うん、何かあったら呼ぶから」
興味深そうに竹林の方へと歩いてゆくランサーを見送ると、ぐだ子はマシュ、小次郎とともに、村人たちに今の下野国の状況を尋ねた。
「情報を総合しますと……どうやら状況は鬼ヶ島の時に、やや近いようですね。
先ほどの変調を来したエジソンさんがしていたように、この地域一帯の村や町に対して、年貢の苛烈な取り立てを行うサーヴァントたちがいる。
そして、恐らくは彼らの上に、聖杯かその断片を使ってこの特異点を生み出した何者かがいる、と」
「まぁ……鬼に強制労働させられてる島よりはいくらか平和な感じだよね。
それにしても、こうやって妙な特異点が出来るたびにカルデアからサーヴァントが消えて、特異点で会ったら変な記憶を植え付けられたりしてるのってどうにかならないのかな……
アルジュナなんか、未だに工場長みたいな台詞を言い出すことがあるんだけど」
回線は開いたままだったため、聞いていたロマンが解説に入る。
『それに関しては、もう通史的に見て、人類史にまともに残ってる時空がカルデアくらいだからね……
特異点がそこにふさわしい役割を持ったサーヴァントを召喚しようとすると、恐らく英霊の座から直接ではなく、既に霊基の固定が済んでいるサーヴァントを喚ぶ方が簡単なんだと思う。
もちろん、カルデアに召喚されていない英霊が特異点に召喚されている例も多いから、断言はできないけど。
防止策はレオナルドと一緒に暇を見て研究してるんだけど、原理的に難しいみたいでね……すまない』
ロマンは元は医療スタッフであり、元々他の人員の体調管理や医療措置など、その立場は決して閑職などではなかった。
それに加えてカルデアの暫定的な指導者となってからは、あふれかえる多数の処理に忙殺されていた。
サポートしてくれるスタッフや協力者、サーヴァントたちもいるが、ぐだ子は後方にいる彼の苦労と多忙を、その一端とはいえ知っている。
「普段から霊体化してる面子まで全員喚び出して、毎日点呼を取るわけにも行かないもんね……本当にすまない……」
「先輩、帰ったらジークフリートさんに謝りましょうね。
ともかく話が脱線してしまいましたので、本題に戻りませんと」
「すまない……」
「先輩!!」
恐らくはこの下野国にも、特異点発生の事態を引き起こした原因たる何者かがいる。
今までの経験から言って、その可能性は高いと思われた。
小次郎が、村人たちに握り飯などを世話になりながら二人に尋ねる。
「話は決まったかな、お二人とも」
「うん。とりあえず、サーヴァントたちが召喚されてるらしい大きな城だか、お屋敷だかに行こう」
「ここから街道沿いに川を渡って、寺院を一つ越えた町にあるそうです」
「あいわかった。行こう! こうなってはもはや、百姓一揆と参るほかあるまいよ」
事態に関する情報を集めるため、彼女たちは川に向かって歩き始めた。
CONNECTING...
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「いやぁ、このタケって木はいいぜ、悪くねぇ。
アルスターにもこんな便利な木が生えてりゃ、師匠もこいつで槍をこさえたかも知れねぇ!」
西暦開始前後に成立したとされる、古代アイルランドの物語に登場する若き戦士、クー・フーリン。
彼はやたらと嬉しそうに、その即席の武器を掲げて語った。
先端を斜めに切り落とした、細身の竹。
腕組みをしながらその後ろを歩く小次郎が、補足する。
「竹槍という。この国の戦士や農民が、どこでも手に入る手軽に扱える武器として、時代を越えて愛用したもの。
槍兵のリン殿が気に入るのも無理からぬ事よな」
「他にもクー・フーリンがいて紛らわしいのは分かるんだがよ、そのリンって略すのはやめてくんねぇかなぁ……」
余談だが、クーがもう一人のランサー、フーがキャスターで現界したクー・フーリンを指す。
ランサーが寂しげに呟くと、やや小高くなった道の向こうに寺が見えてきた。
通信を開いて、カルデアにいるロマンと情報を突き合わせる。
「あれが経由地の寺院のようですね。
『あ、それは大丈夫。彼女はまた勝手にシミュレータに入り込んで迷ってるから、その特異点に喚ばれたってことはないみたいだね』
言われてみれば、通信機の向こうで小さく『ここどこぉ……助けて弟子ぃ……』と涙声が聞こえたような気もする。
「早く出してあげてくださいドクター!」
「お師さんは道に迷ってるのが似合いすぎて、人里で鉢合わせるっていうのが想像つかないよね……」
そうした雑談を交えつつ、一行は町に着いた。
あまり高くはないが、街道の西には山が広がっており、そちらの山腹には寺が建っている。
その山裾に広がるは、寺を中心に発展したらしい、小規模な町。
「よし、情報収集!
あたしはマシュと町、小次郎はリンと一緒にお寺をよろしく!」
「了解です」
「心得た」
「だからよぉマスター……」
残念ながら、悲しげに肩を落とすランサーの要望を叶えるのは難しい。
ぐだ子は涙を呑んで、マシュと共に町人たちから情報を集めに向かった。
CONNECTING...
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まともに話してもらうのに少し骨が折れたが、それでもそれなりの情報は集まった。
最近になって幕府から派遣されてきたという代官が大きな城を建てているらしい、というのは、先の村でも聞こえた噂だ。
だがここでは、実際にそれを遠くから見ることが出来た。
南の山間から頭を突き出しているのが、それだという。
ロマンとの通信を開いて相談すると、彼も首をひねっているようだった。
『何だろうね、お城となると……日本の史跡を検索しても、該当しそうなものがない。
この時代ならまだ、大きな建造物というのはそれだけで霊的な重要性が生じてくるものだから……
小次郎たちの情報収集が終わったら、予定通りそこを調べに向かうしかなさそうだね』
「了解。ありがとね、ロマン」
『うん、それじゃまた』
通信を切ると、マシュが彼女に耳打ちする。
「先輩、私たちは誰かに見られているみたいです」
「え、誰に……!?」
「合図をしたら、一斉にお寺の方に走りましょう。
マシュ・キリエライトは、かつてある事故で瀕死の重傷を負い、その場に居合わせた、あるサーヴァントと融合することで一命を取り留めた経緯を持つ。
だが、その英霊が彼女に与えたのは命だけではなかった。
人間と英霊の融合体デミ・サーヴァントとして、人間でありながらサーヴァントと同様の力を行使できる能力もまた、授けられていたのだ。
「今です!」
ぐだ子は、町の中心の通りを寺に向かって走り出した。
彼女の後ろから走って追いついてくるのは、マシュ。
エクストラクラス、シールダーのサーヴァント。
デミ・サーヴァントゆえ、融合した英霊ではなく、彼女の本名がそのまま真名扱いとなる。
そしてシールダー、マシュは、その宝具である巨大な盾を振りかざし、敵を殴った。
「でぇい!!」
普段の儚げな声音から一転、戦士にふさわしい叫びを上げて、マシュが敵を迎撃する。
だが、マシュに言われた通りに全力で走るぐだ子の前に、黒い影が出現する。
ぐだ子は思わず、悲鳴を上げる。
それは何と、忍者!
「アイエエエエエエエエエエエエ!?」
「先輩、シャドウサーヴァントです!!」
足を止めて後ろを見ると、マシュも複数の英霊の影と交戦していた。
サーヴァントの存在した場所に、その霊基の輝きが残した焼け跡か、残滓のようなものだ。
召喚の失敗、あるいは英霊同士の戦闘の発生後、特異点に起きた変化の作用を受けて発生していることなどがあるが、魔術などによって生み出すことも可能だ。
ぐだ子の足下では、フォウ君が犬のような威嚇姿勢を取って、シャドウサーヴァントに向かって迫力のない吠え声を上げている。
「フォウ、フォフォウ!!」
「や、やるかぁ!? ガンド撃つぞガンドー!」
実際には、今の彼女の着ている魔術礼装では、補助が足りずにまともなルーン魔術は撃てない。
それでも何とか切り抜けねばなるまいと、サーヴァントたちの見よう見まねで構えを取った。
「先輩、動かないでください!!」
マシュがその超重量の盾と一緒に大きく跳躍し、一気にぐだ子の前に立ちはだかっていたシャドウを弾き飛ばす。
どうやらアサシンの誰かを模したらしい英霊の影は、民家の脇に置かれた樽に突っ込み、中の水をぶちまけて消滅した。
「このまま防ぎます、先輩はどなたかサーヴァントを!」
「分かった、このまま寺に!」
寺に向かった小次郎とクー・フーリンも、いずれこの騒ぎには気づくだろう。
だが、今すぐ喚ぶにはやや離れている。
離れた地点にいる英霊を一瞬で呼び戻すには、令呪が必要だ。
不測の事態に備えて一画でも惜しみたい状況では、カルデアから召喚した方がいい。
ぐだ子は寺に向かって石段を駆け上がりつつ、新たなサーヴァントを喚ぶ略式の呪文を詠唱した。
「守護者よ来たれ、屈強にして燃え尽きることなき闘志! 汝らが名はラケダイモン!」
「かしこまりましたァ、ムァスタァ!!!」
詠唱に応じて空中に出現した簡易召喚サークルから、新たなランサー、レオニダス1世が出現した。
紀元前5世紀、ギリシャの都市国家スパルタの王。
筋骨隆々の鋼の肉体、真紅のマント、そして兜の頭頂部からほとばしる霊子の炎。
たった300人のスパルタ兵を率いて、全滅しながらも10万人のペルシア軍を退けたとされる、人類史上最硬の男だった。
彼は寺の石段に着地するなり、雄叫びを上げてシャドウサーヴァントたちの攻撃を受け止める。
「ここはぁッ、通さんッッ!!!」
彼は左手に持った大きな円盾と無骨な槍で、影たちの攻撃を難なく弾く。
追いついてきたマシュも巨大な盾を構え、二人でぐだ子を守る体制に入った。
見れば、いつの間にかシャドウの数は増えており、数人程度だと思っていたものが十人以上にも増えていた。
「すみません先輩、これは少し、押しとどめがたいかも知れません!?」
シールダーと防御型のランサーの二人だけでは、支えきれそうにない。
マシュの宝具は味方のサーヴァントの防御力を圧倒的に向上させるが、彼女たちを迂回してぐだ子へ向かおうとする敵に対しては効果を発揮しない。
レオニダスの宝具の場合、恐らく顕現した300人のスパルタ兵で通りが溢れかえり、戦闘どころではなくなってしまう。
「えーと、それじゃあ次は――枯れ果てし
再び虚空に出現する、簡易召喚サークル。
簡易詠唱に応えてそこから現れたのは、やはりランサーのサーヴァント。
赤と黄の二本の魔槍を携えた、輝くような美男子だった。
「フィオナ騎士団が一番槍ディルムッド! 馳せ参じました!」
「マシュとレオニダスが守ってるうちに、敵を蹴散らして!」
「承知!」
紀元3世紀前後のアイルランドで成立したとされる物語群に登場する悲劇の戦士、ディルムッド。
二本の槍をそれぞれ手に持ち、彼は町にあふれる英霊の影の群れに飛び込んだ。
彼が飛び跳ね、宝具を一振りするごとに、シャドウサーヴァントが形状を失って崩壊してゆく。
彼女の仲間の英霊たちが勝利しつつあったが、ぐだ子は思案した。
(やっぱり、こういうのを差し向けてくる敵がいる……)
ぐだ子は通信機を起動し、カルデアのロマンに連絡を入れた。
「もしもし、ロマン! 今戦闘中なんだけど!」
『え!? ぐだ子ちゃん、大丈夫!?』
「うん! 小次郎とリンはまだ寺にいる?」
『ちょっと待ってね、えーとこれは……そうだね、寺院なのかな?
あれ、何だか……戦闘らしき動きを始めたぞ……!?』
「デジマ!?」
『デジマデジマ――ってそうじゃない、そっちの戦闘は大丈夫なの!』
「こっちは何とかなりそう。早めに片付けて、二人のところに合流する!」
『分かった、気をつけて!』
通信を一旦切ると、敵の数が減ったためか、レオニダスも攻撃に参加していた。
ランサーらしい速度に秀でた技巧派、というステータスでこそ無いが、彼の真価はその耐久力と筋力にある。
マシュのスキルによる支援が加わわり肉の鉄壁となったレオニダス1世を貫ける武器は、そうはない。
「むぅりゃっ! ほぅうあっ! ぬぅああぁっ!」
武器の特性上こちらは一振りとは行かないが、それでも盾で叩き、槍で突き、スパルタ王は背中を見せることなく敵を屠ってゆく。
二人のランサーにマシュの的確な援護――重盾による殴打が加わり、シャドウサーヴァントの群は蹴散らされつつあった。