日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER   作:kadochika

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えじぷと疾風録

 

 

 

 

 

 情報収集のために山腹の寺を訪れた小次郎とクー・フーリンは、そこで良からぬ兆候を見た。

 顔見知り――すなわち今はカルデアにいるはずのサーヴァントを発見したのだ。

 寺に他の関係者の影はなく、いるのは彼女一人だけのようだった。

 

「おや、あなた方は……この寺に何か御用でしょうか?」

 

 そのサーヴァントは、この時代の日本の寺とは趣の大きくかけ離れた、熱帯の装束を纏っていた。

 ココア色の肌の露出も大きく、強いてこの寺の住職だと言い張れる点を挙げるなら、彼女が元来死者を祀り、鎮める役割に就いていたことだろうか?

 マスターであるぐだ子が召喚したのでなければ、特異点からの“要請"に応じ、カルデアから誘拐のような形で召喚されたと見た方が良いだろう。

 あとは、それが彼らの味方になる役割か、敵対する役割かの問題となる。

 交流や縁の深いサーヴァントではなかったため、小次郎は彼女の名を思い出せず、是非もなく尋ねた。

 

「お主は確か……失敬、何かこう箪笥(たんす)行灯(あんどん)などを売ってくれそうな名だったことは覚えているのだが」

「ニトクリスと申します」

 

 キャスターのサーヴァント、ニトクリス。

 ニトケルティとも呼ばれ、即位は紀元前にして22世紀頃。

 古代エジプト第6王朝最後の女王として知られる、伝説的なファラオだ。

 そのような由来を持ちながら近世日本、しかも寺の玄関の土間に堂々と佇む彼女の姿は、やはりシュールそのもの。

 小次郎の傍らのクー・フーリンが、尋ねる。

 

「ニトクリス、あんた何でここにいる?

 俺たちのことは覚えちゃいねぇのか?」

「失礼ですが、存じ上げませんね。

 私はこの寺で、幕府の名代として年貢を取り立てる業についているのですが」

 

 やんわりとした抗議か、キャスターは手に持った錫杖で、土間の床をどんと突いた。

 

(やはり特異点に喚ばれていたか……)

 

 小次郎はそれに遺憾を覚えつつも、穏やかに説いた。

 

「にとくりす殿、カルデアに帰らぬか?

 マスターは無論のこと、おじまんでぃあす殿もあんな調子ではあるが、確かにお主のことを気にかけておろう」

 

 ニトクリスは眉根を寄せて、困ったように声を上げるが、

 

「何を訳のわからないことを……ハッ!

 もしやあなたたち、年貢泥棒ですね!!」

 

 驚愕したように杖を構えると、彼女は室内に飛び退いて臨戦態勢に移った。

 一手で死者や古代エジプトの神霊を、宝具では死をもたらす神さえ召喚可能という、敵に回すと厄介な手合だ。

 ファラオは、被害妄想に囚われたかのようにかぶりを振って絶叫する。

 

「おやめなさいっ!! この寺も荒らす気でしょう!!

 お江戸みたいに!! お江戸みたいに!!!」

「やっぱ話は通じねぇか……マスターはいなくとも、やるしかねぇ!」

「左様だな……!」

 

 ランサーは竹槍を放り出して愛槍を構え、アサシンも刀の鯉口を切った。

 

「どっからでも湧いてくんぞ、気をつけろ!」

「全く……再び寺で、キャスターと刃を交えようとはな!」

 

 すると、天井の存在も無視してどばどばと降り注いできた大量の、白い布をかぶった二本足の神、メジェド。

 本来は不可視、しかしてその視線で敵を打ち倒すという古代エジプトの神だ。

 それをかわし、二人は寺の外へと飛び出した。

 

「えぇい、逃げますか不敬者たち!」

 

 ファラオが杖を振り回し、あるいはその石突で土を突く。

 するとそれに応じて、小次郎やクー・フーリンの動きを阻むように金色の甲虫が飛来し、土の下からは包帯に包まれた木乃伊(ミイラ)が飛び出す。

 小次郎はあまりのことに、思わず狼狽して口走った。

 

「ここは日本だぞ!? なぜ包帯巻きの木乃伊(みいら)が出土できるのだ!?」

「知るか、オジマンのオッサンにでも聞け!」

 

 それでも、アサシンとランサー、両者の敏捷のステータスはともにA+。

 足にかけてはサーヴァント最速を誇る二人は、キャスターの繰り出す神出鬼没の蛮神たちの攻撃を、すり抜けるように回避する。

 それに業を煮やしたニトクリスは、魔力を周辺に放出して次なる手を打った。

 

「出ませい! かわいい死霊たち!!」

 

 そこは、街道脇の小山に建立された寺だった。

 寺、すなわち、仏事を行う施設である。

 それはつまり、死者を葬る墓地が隣接しているということも意味する。

 石を切り出して、様々な形状に加工された墓石の並ぶ墓場。

 そこから無数のゴースト系エネミーが、ニトクリスの要精に応じて参集し、小次郎たちを狙った。

 

「ふぁらおの命令を日本の死者が聞くのか!?」

「ベンケイのおっさんの宝具も時代や地域を問わず使えるらしいから、()ってぇのはそういうもんなんだろうよ!」

「ぬぅぅ、にとくりす殿、性格はともかく、面妖さにおいてはあの女狐といい勝負をするであろうな……!」

 

 ただし、ゴーストとして出現したということは、やはりサーヴァントの攻撃が通るらしい。

 小次郎もクー・フーリンも、ニトクリスの繰り出す木乃伊(ミイラ)や古エジプトの神々の攻撃をかわし、霊子弾を放つゴーストたちを斬り、貫いていった。

 とはいえ。

 

「無駄です! まだまだ行きますよ、ざざんざーざざん!」

「まだ増えやがるのか……!」

 

 ゴーストはまだまだ補充できるようだった。

 近くに墓場がある以上、圧倒的に不利。

 いかにカルデア最速級の二人といえど、ここまで囲まれ続けては、キャスターに接近するのもままならない。

 

「さぁ、文字通り年貢の納め時ですよ! ホルアクティ!」

「上手いことを言ったつもりか――むぅ!?」

 

 その時、小次郎は不覚を取った。

 飛来した隼の神の体当たりによって、愛刀を手から弾き飛ばされたのだ。

 

(不覚……!?)

 

 刀に意識を取られた一瞬の隙を突き、土中から現れた木乃伊の群れが、小次郎の足を掴んだ。

 そこに殺到する金色の甲虫(スカラベ)と、二脚相貌の神々(メジェド)の群れ。

 あっけない、これで仕舞いか――と、覚悟をした時に。

 

「諦めんな!」

 

 ランサーの声に振り向くと、その方向に、とっさに手が伸びた。

 次の瞬間には、小次郎の右手は新たな武器を手に取っている。

 クー・フーリンが、投げ渡してくれたのだ。

 

(これは――!?)

 

 その感触に、自然と身体が動く気がした。

 まるで自分の体が、技を極めた剣士でも、アサシンのサーヴァントでもなくなったような。

 彼がその武器をしならせると、足元の木乃伊も、迫り来る黄金の甲虫も死の神も、全てが弾かれたように吹き飛んだ。

 滑らかな表面に浮き出た、規則正しい節目。

 青々と光さえ放ちそうな、古来からの民衆の友人。

 あるいはそこから、月よりの美姫が生まれいでたという伝説もある。

 その名も、竹槍。

 サーヴァント、アサシン。その真名を、佐々木小次郎。

 しかし彼は今や、何か別の存在へと、自分の霊基が変質したような心地にさえなっていた。

 それは決して不快ではなく、己の技に新たな境地を見出したかのようでさえある。

 

「いざ――参る!」

 

 小次郎は剣士でもなく、暗殺者の英霊でもなく、ただの百姓の(せがれ)だった者として走り出した。

 

「いけません……!」

 

 ニトクリスは、更にゴーストを呼び集める。

 すると今度はそこに、また別の声。

 

「安らげ、いまひとときは忘却のみぎわに!」

 

 神性な波動が寺全体に走り、キャスターの呼び寄せたゴーストたちが粉砕されたように弾け飛んだ。

 その声の主は――

 

「佐々木殿、今です!」

 

 白髪に褐色の肌をした、端正な顔立ちの少年。

 切支丹装束をまとったエクストラクラス、ルーラーのサーヴァント。

 17世紀日本の宗教家、天草四郎だった。

 その傍らには、マスターたちの姿もある。

 彼女が状況を知り、洗礼詠唱によってゴーストを排除できるルーラーを召喚してくれたのだ。

 小次郎は、その助勢に心強さを感じて吠えた。

 

「――心得たァ!」

 

 その竹槍の、穂先としなりを阻む者はもういない。

 進路を阻む甲虫は全て弾き、その新たな力はキャスターへと到達する。

 

「これぞ秘技、(つばめ)一揆(いっき)!!」

「ぱぎゅ!?」

 

 青々とした竹槍の腹が、三方向から同時に、ニトクリスの頭部を打った。

 脳をしたたかに揺さぶられ、古の砂漠の女王は小さな悲鳴を上げて、目を回しながら境内の土に倒れる。

 

「きゅう」

「すまんな、にとくりす殿」

 

 完全に意識が途切れたか、彼女の身体は金色の粒子になって、大気に溶けて消えた。

 エジソンやタマモキャットのように霊子に分解されて、本来の契約が結ばれているカルデアへと戻ったのだろう。

 不可抗力ではあるので、自己嫌悪などに陥っていなければよいのだが。

 

「また女性(にょしょう)に手を上げてしまうことになるとはなぁ……つくづく私も、運がない」

「小次郎は幸運Aでしょ」

 

 指摘するマスターに、小次郎は報告する。

 

「はっはっは、そのことだがなマスター。拙者どうやら、ランサーの適正にも目覚めてしまったらしい。

 もしかしたら、誰かさんのように幸運値がDとかEに下がっているやも知れぬ……拙者は憂鬱でござるよ」

「小次郎が拙者とかござるっていうときはだいたいギャグ」

「これは手厳しい」

「オイコラ農民、幸運Dってのはオレのこと言ってんのか、あ!?」

 

 拾った愛刀を鞘に収めつつ苦笑する小次郎に、クー・フーリンが食って掛かった。

 彼はなおも苦笑しつつ、血気盛んな若き槍兵に陳謝し、礼を述べる。

 

「いや、相済まぬリン殿。

 げいぼるくではなく竹槍を投げ渡してくれたこと、良い決断であった。

 感謝している」

「こっちを渡すなんざ端から選択肢になかったっつの!」

「小次郎殿、幸運Eの私はともかく、御子方(みこがた)への侮辱は謹んでいただこう」

「あぁもう、みんなそこまで! 今は特異点探索が先だから!」

 

 ディルムッドまでが突っ張りそうになるのを、マスターがなだめた。

 太陽はいつのまにやら、かなり傾いてきている。

 新たな目標である山の向こうの城までは少々時間がかかること、また短時間で契約済みサーヴァントを4騎も召喚した彼女の疲労回復を考慮し、一行は無人の寺に宿を借りることとなった。

 本来であれば誰かしらの管理者が苦情を言う恐れがあったが、それも特異点ということか、寺は無人のまま利用することが出来たのだった。

 夕餉(ゆうげ)にあたって真っ先に俵藤太を召喚しようとするマスターを説得するのに、マシュとロマニが必死で言葉を尽くしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

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