日光農民リベリオン LEGEND OF THE TAKEYARI MASTER 作:kadochika
その夜、客間には2騎のサーヴァントがいた。
サーヴァントという存在は、魔力の供給さえあれば半永久的に霊基を維持し、活動することが出来る。
武器はまだしも衣服などであれば、必要とあらば比較的短期間で修復、変化させることも可能だ。
喫食や睡眠なども絶対不可欠ではないため、マスターが食事をし、眠っていても、必要とあらばそれを守って長時間の警護を行うことなどは、造作もない部類に入る。
ただ、今その寺には6騎のサーヴァントがいた。
2時間毎に三交代で周辺の警戒を行うことになったため、非番の者は待機している。
行灯の明かりが照らし出すのは、佐々木小次郎と、天草四郎の姿。
天草は、刀と竹槍を帯びたまま窓辺に座る小次郎を見て、感慨を述べた。
「しかし、佐々木殿のその竹槍……誤解を恐れず例えるなら、一揆のようですね」
「天草殿にとっては複雑かもしれないが、これがなぜだか、不思議と手に馴染んでなぁ」
小次郎は、どこか懐かしげな品を見るような目で、改めて竹槍を眺めている。
「ご存知とは思いますが、私も至らずとはいえ、そうした経験がありましてね。
特異点によって悪い代官をさせられている戦友たちがいるのなら、それをどうにかして連れ戻すのに
それは佐々木殿も同じだとお見受けしましたが」
「そういう柄……でもないがな。
私としても、かの天草四郎と轡を並べて圧政に抗うというのは、すぱるたくす殿ではないが悪い気はしないさ」
「そう言って頂けると、なんとも気が休まります。
ただ、話を聞くにここは特異点ですから……民衆を虐げる悪代官というのも、島原のそれに似たものではないのでしょうね。
どちらかといえば、大衆文学の中で培われた、そう――有り体に言えば、時代劇に登場するような存在なのではないかと」
天草の分析に、小次郎はこめかみに指を当ててうめく。
「ふむ……天草殿にそう言われると、存在しないはずの思い出が……
時間にルーズな二刀流に虚仮にされた挙句敗北したという腹立たしい記憶が……」
「ははは……彼も島原に参陣して、投石で負傷したと聞いています。
華々しいばかりではなかったその半生を、劇的なものとして人々に語り聞かせるために、佐々木殿のような役者が求められたのでしょうね」
「うむむ…………おのれ二天一流……」
やり場のないほのかな憤りに唸っていると、天草が小さく、自嘲じみたことを呟くのが聞こえた。
「そう考えてみれば私も貴方も、勝者となる定めにはなかったということか……」
そこに。
「いけませんなぁ、同郷人が顔を合わせたというのにじめじめとしていては!」
話し声が聞こえていたのか、襖を開けてレオニダス1世が
兜を脱いだその表情は屈強な戦士のそれでありながら、どこか愛嬌を感じさせる。
己の筋肉を強調するようなポーズを取りながら、彼は更に語った。
「何を話されていたかは存じませんが……じめっ気だけは伝わってまいりました……
お二人とも、肉を鍛えるのです! 肉……すなわち――キン肉をッ!
サーヴァントといえど、体を動かせば頭もスッキリッ!
しからば寝入り安らか、寝覚めパッチリ……複雑な計算も捗ること間違いありませんッ!!」
その筋肉の質量と暑苦しさに気圧されてか、天草が口ごもる。
「あ、いえ、その……」
「れおにだす殿は底抜けに明るいな……私も少し、見習うとしようか」
「ではッ! 更なる親交の証にッ! レッツスクワットォ!」
「レオニダスさん、ケルト組のお二人が戻られました。次の見回りは私たちですよ」
続いて顔を出したマシュの声で、彼は役割を思い出したらしい。
「ややっ……仕方ない。了解ですマシュ殿!
ではお二人とも!
また今度、ともに鍛えましょう……!」
ギリシャの英霊は少々残念そうに言い残して、その場を去っていった。
少し間を置いて、意外にも四郎が、今しがたの彼について言及する。
「レオニダス王のように、たとえ仲間ともども討ち死にとなろうとも、それが悔いのない生だったと信じられたなら……
今の私のあり方も、少し違っていたかもしれませんね」
小次郎はふと思い至り、彼に提案した。
「それはそうとだ、天草殿」
「…………?」
特異点、下野国の夜深く。
二人の日本人サーヴァントの陰謀が、静かに進行していた。
CONNECTING...
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「結局夜通し何もないんだからな……拍子抜けしちまうぜ」
翌朝、一行は寺を発った。
昼に彼らを襲った忍者たちや、特異点が遣わした新たなサーヴァントによる夜襲などがあるかと警戒をしていたが、クー・フーリンのこぼすように、無事に夜は明けた。
城が建てられているという隣の町――といっても、人間の足では半日ほど歩く距離だ――への途中も、特に何事もない。
ただ、マシュが、一向に生じた小さな異変をぐだ子に報告してきた。
「先輩、実は私は朝から気になっていたのですが……」
「何?」
「フォウ! フォウ!」
彼女が指し示すのは、一行の先頭を歩く小次郎と天草だ。
ちなみに、彼女たちの左右をクー・フーリンとディルムッドが、後方をレオニダス一世が固めている。
彼らに聞かせられない、女同士の内緒話です――というように手のひらを口元に添えて、マシュは続ける。
「一体何なのでしょうか……佐々木さんと天草さんが、刀ではなく、竹槍を担いでいらっしゃいます」
「あー。昨日は夜通し問答してて、それで意気投合したみたい」
「はぁ……」
ぐだ子もあまり興味がなかったので看過していたが、こうして切り開かれた街道を、容姿端麗な和装のサーヴァント二人が並んで歩いていて。
しかし、それがどちらも竹槍を担いでいるというのは、絵面としてはやや、画竜点睛を欠くようにも思えた。
ロマンが定時通信を寄越してきたついでに、話題もないので尋ねて見ると、彼は。
『小次郎の方は正確な時代や地方こそ不明だけど、二人とも日本の農民出身らしいからね。
今回下野の特異点に来て、何か思うところがあったんだろう。
特に天草四郎は日本南部で、農民たちを率いて圧政を敷いた地方領主に反乱したこともあるそうだよ。
ぐだ子ちゃん、何か学校で習ったりした?』
「社会2で……すまない……」
『もうそのネタはいいよ! 僕が悪かったよ!!
それと君はそろそろジークフリートに罪悪感を覚えてもいいんじゃないかな!!』
「フォフォフォウ……」
ロマンに同調しているのか、ぐだ子の足元でフォウ君が小さく吠える。
口を尖らせつつ通信を切ろうとすると、ロマンの声音が変わる。
『と、みんなストップ、サーヴァントがその先にいる!』
「――!!」
「先輩、私とレオニダスさんの間に!」
一行は構えつつ立ち止まり、周囲を警戒する。
マシュがぐだ子の前に出て、他のサーヴァントが警戒しつつ、遠距離からの攻撃でも対応できるように構えていると。
「……何だ……!?」
『あ、いや――サーヴァントだけじゃない……!?
ごめんみんな、反応が増えてる! シャドウサーヴァントだ!』
「こちらでも確認しています、ドクター!」
見れば、城を目指す一行の進路の左右やや後方に、昨日も戦った、直立する影のような集団が出現している。
「待ち伏せ!?」
『いつの間に……何でこんなにいっぱい!?
三方向から囲まれてるよこれ!?』
「もう少し前から兆候などはありませんでしたか、ドクター!」
『全然なかった……!
多分魔術師か誰かが出現させたものだと思うんだけど……!』
「とりあえず通信このまま、ロマンはモニターよろしく!」
『わかった!』
ぐだ子はついで、マシュを含めた英霊たちに指示を飛ばした。
「ランサー組は3人で、後ろの敵を防ぎながら、ゆっくりついてきて!」
「応さッ!」
「よし」
「お任せを!」
「マシュと小次郎と天草はあたしと!
このままこの先にいるサーヴァントを突破して、道を作る!」
「承知」
「よろしい!」
「行きます、先輩!」
彼女の指示を受けて、六人のサーヴァントが一斉に展開した。
最初にカードを切ったのは、レオニダス一世。
その意思と霊基の昂りに呼応して、サーヴァント最大の切り札、
「
霊子の爆炎と閃光が街道に広がって消えると、そこには屈強にして闘志あふれる伝説の300人が出現していた。
「スパルタ魂を見せろッ!! 一歩たりとて通すなァァッ!!!」
「オウッ!! オウッ!! オウッ!!」
レオニダス一世とその配下の重装歩兵たちは鬨の声を挙げると、日光街道にくさび形の陣形を形成した。
古代ギリシャの重装歩兵が、密集したまま姿勢を下げて盾を構え、完全防御の態勢に入る。
そこに、左右後方から殺到してきた多数のシャドウサーヴァントが殺到する。
しかし、いかにサーヴァントとはいえ本体の光で空間に焼きついた模様のような存在では、クセルクセス王のペルシア遠征軍の猛攻を三日間耐え抜いた肉の壁を貫くことは出来ない。
もっとも、断崖に挟まれた狭隘な地形での守備ではなく、こうした開けた地形では、彼らの真価を発揮し尽くすことは難しかったが。
シャドウサーヴァントたちは、攻撃が通じ難いと見るや300人のスパルタ兵たちを飛び越え、あるいは迂回し始める。
「ああっ!? そうホイホイと無視されると私の計算がッ!!?」
それを補うのが、ケルトのランサーたちだ。
クー・フーリンとディルムッドは、圧倒的な速度でスパルタ兵たちの周囲を移動し、敵を撹乱して炎門の守護者たちの前に釘付けにする。
もちろん、射程内であればシャドウたちを槍の穂先で切り裂き、あるいは柄や石突で強烈に打ち据えて攻撃した。
「おいディルムッド! 何だかこいつら、弱すぎやしねぇか……!?」
「油断は禁物ですが……とはいえ、仰る通り」
二人の宝具は槍の形状をしており、真名解放の過程を経ずとも強烈な威力を発揮した。
特にディルムッドの持つ赤い魔槍
だが、1分と経たず、三人のランサーは違和感に気づいていた。
「私の計算によれば……お二人が無双されているにも関わらず、敵の数があまり減っていないような!!」
「ていうか、むしろ増えてねぇか……!?」
少し手を止めて周囲を観察すれば、いつの間にか、確かに増えている。
「ただの影だとしても、英霊のそれにしては脆いが……」
「て、オラ! 触んじゃねぇ!!」
死角から飛び込んできた影を、クー・フーリンが拳で粉砕する。
彼の筋力値は、基礎評価値だけならば最高のAクラスを誇る。
とはいえ、槍兵の徒手空拳で屠れる程度の強さ。
攻めるも守るも容易な相手だが、昨日の戦闘を鑑みて、戦闘力を犠牲にして数を準備してきたのかも知れない。
「く、このままでは抜かれかねませんな……ディリオス!」
「は、我が王!」
「ムァスタァに伝令を! ちょっと後ろまずいかも! と!」
「はッ! 御武運をッ!!」
スパルタ兵の一人が、伝令のために防御を離れた。
それを狙ったシャドウサーヴァントの霊子弾を、レオニダス一世は盾を放り投げて弾く。
「ムァスタァ、どうかご無事でいてくださいッ……!」
敵を食い止めながら、前方のサーヴァントに向かって進む契約者の無事を、ランサーたちは祈った。