普段は男の方が攻めだが、男がTSすると攻守逆転。
「私はいいと思う」
いつものように鉄塔の上で待ち合わせ、ちょっとだけ語り合う。
困っている人を助けに行くために集まるわけだが、行く前にお互いの今日の出来事を話したり、ちょっとした世間話をしたりするのだ。
この魔法少女アニメが面白かっただとか、この魔法少女の活躍が恰好よかっただとか、どこぞに行って魔法少女関連のグッズを買ってきただとか、やはりそういう話題が多かった。
「あ、そうだ」
「ん?」
話しはじめて少し経ったところで、スノーホワイトが思い出したように声を上げた。
なんだろう、とラ・ピュセルは首を傾げた。
「そうちゃん。お願いがあるんだけど」
「そうちゃんはやめなさい、スノーホワイト?」
「あっ。ごめんね、そうちゃん?」
スノーホワイトの言葉に、二人で笑い合う。穏やかな時間が流れていた。
笑みを含んだまま、ラ・ピュセルはスノーホワイトに改めて問いかけた。
「それで、頼みってなんだい、スノーホワイト?」
「うん。ラ・ピュセルのおっぱい揉ませて」
「ああ、いいよ」
自然な調子で言われた言葉に反射的に返したあと、スノーホワイトの言葉を
聞き間違いだろうか。おっぱい揉ませて、と言われた気がした。
「え?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「待て待て待て待てぇ!?」
聞き間違いではないとでも言うように突き出された両手を、ラ・ピュセルは咄嗟に掴んだ。スノーホワイトは手を掴まれながらも押しこんでくる。
「っ!?」
彼女の力は、ラ・ピュセルに比べれば大したことがなかったはずだ。だというのに、ラ・ピュセルの躰がどんどんうしろに押しこまれていく。彼女の手を握り潰さないように気を遣っているのは確かだが、それでもこんなふうに押しこまれるわけがない。
わけがわからない状況に戸惑いながら、ラ・ピュセルは声を上げた。
「いや、意味わからないぞ!?」
「だから、そうちゃんのおっぱい揉ませて?」
「あ、うっ、そ、そうちゃんはやめろ!?」
なにやら可愛らしく小首を傾げながら言われ、思わず頷きそうになったが、気の迷いを振り払うように大声を上げた。
「じゃなくて、ほんとにわけがわからないぞ!? なんでいきなりおっぱい!? 君そんなキャラだっけ!?」
「そうちゃんが、そんなおっぱいつけてるから悪いんだよ?」
「え?」
「男なのにそんなおっぱいつけて、わたしへの当てつけなの?」
「え、いや、だったら君もつければ」
「魔法少女になってからは、アバターの途中変更ってできないんだよ?」
「あ、ああ。そうだったね」
なにやら寒気すら感じる彼女の声に、ラ・ピュセルはそんな言葉を返すことしかできなかった。魔法少女になった時の姿は、『魔法少女育成計画』で設定していたアバターのものなのだが、魔法少女になってから変更することはできないらしい。
じりじりと押しこまれながらも、彼女の手を握り潰さないよう気をつけつつ、ラ・ピュセルも少しずつ力を強める。力が拮抗し、やがてお互いの動きが止まった。
「いや、そもそも君、そんなこと気にする娘だったっけ?」
「だって、そうちゃんが」
「僕?」
スノーホワイトの言葉に少し考えこむが、なにか言った憶えはない。
自分、というかラ・ピュセルの胸に比べると確かに小さいが、かといって小雪もスノーホワイトも、大きな胸はあまり似合わないのではないだろうか、と戸惑いながらも思った。
スノーホワイトが、半眼になった。
「それ、わたしの躰が幼児体型ってこと?」
「えっ」
スノーホワイトの言葉に不意を突かれ、心を読まれたことにすぐ思い当たった。
慌てて声を上げる。
「いや、ちが」
「そうだよねー。ラ・ピュセルは、そんな女らしい躰してるもんねー」
「聞いてくれ、スノーホワイト!」
なにがどうしたというのか。どこか拗ねているようにも見えるスノーホワイトに、混乱する頭を必死で回転させる。
おっぱい。ラ・ピュセル。幼児体型。女らしい躰つき。どこか拗ねたようなスノーホワイトの様子。
「っ?」
なんとなく思い浮かんだことがあった。自意識過剰かもしれないが、とりあえず訊いてみることにする。
「もしかして、嫉妬してる?」
ピタッ、とスノーホワイトの動きが止まった。
その状態のまま、しばし見つめ合う。
スノーホワイトが手を離し、バツが悪そうに口を開いた。
「その、ね。そうちゃんって、おっぱいが大きい娘が好きなのかなって。『ラ・ピュセル』の姿がそんなだし」
「ま、まあ、ね」
趣味全開で作ったものであるため、否定しようがなかった。
「それで、なんだかそのおっぱいが妬ましくなってきたっていうか」
「そ、そう」
いきなり飛び出したなにやらドロドロした言葉に、相槌を打つことしかできない。
ただ、スノーホワイトはひとつ思い違いをしている。
「だけどね、スノーホワイト」
呼びかけながら、彼女の頬に手を添える。とても恥ずかしいが、誤解は解いておかなければならない。
「僕は、スノーホワイトの姿も、小雪の姿も好きだよ。それこそ、ラ・ピュセルの姿よりも」
「――――ほんとに?」
「うん」
彼女の瞳を見つめ、はっきりと頷く。『ラ・ピュセル』の姿は確かに颯太の趣味だが、好きな女の子には敵わない。
言ったあと、躰が熱くなった。スノーホワイトの顔も真っ赤になっていた。
「だ、だからさ、あまり気にしないで欲しいんだ」
「うん。ありがとう、そうちゃん」
スノーホワイトの言葉にホッと息をつく。ラ・ピュセルが微笑むと、スノーホワイトも微笑んだ。
これでひと安心。人助けにむかおう、とラ・ピュセルは思った。
「じゃあそろそろ」
「うん。おっぱい揉ませて」
「――――」
空を見上げる。雲ひとつない、満面に光が散らばる、美しい星空が見えた。
できればこのまま星空を見ていたかったが、そういうわけにもいかないだろう、とスノーホワイトに顔をむける。
いろいろと言いたいことはあったが、とりあえず訊いてみようと思った。
「なんで?」
「揉みたいから」
端的な言葉におそろしく端的に返され、呆然とするしかなかった。
「いいでしょ?」
「ええっと、解決、したよね?」
「うん。でも、それはそれとして、そのおっぱいすごく柔らかそうだし、触ってみたいなって」
「え、えええぇ」
どう答えたらいいのかわからず、意味のない呻き声を洩らすしかなかった。
どうすればいいんだ、と思いながら、この場を切り抜ける理由を探す。
「いや、でもおかしいでしょ。いまは一応女同士だし」
「そんなことないよ。むしろ女の子同士だったら、これぐらい普通だよ?」
「――――
「
自分でもよくわからないが、なんとなく英語で返すと、スノーホワイトもなぜか英語で返してきた。発音はかなり綺麗だった。どうでもいいが。
ほんとうだろうか、と彼女の言葉に対して思わなくもなかったが、スノーホワイトはとてもきれいな眼をしていて、嘘をついているようには見えなかった
だからといって、胸を揉ませるのは抵抗があった。自分で揉んだことがあるのだが、その時はなにか妙な気分になったのだ。というか、気持ちよさがだいぶやばかった。
「だ、だけど、僕はほんとは男だし」
「でもそうちゃんは、その躰をじっくり楽しんだんでしょ?」
「っ!?」
なんで、知ってるんだ。
「あ、やっぱり」
「っ、しまっ」
鎌をかけられたことに気づき、ラ・ピュセルは歯噛みする。
軽蔑されてしまう。そう思ったところでスノーホワイトが、すべてを包みこむような慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「怖がることなんてないよ、そうちゃん。そんなことで、そうちゃんを嫌いになったりしない。わたしを信じて」
「あ、ああ――」
その優しい言葉にラ・ピュセルは、不思議な温かさを感じた。なにやら惑わされている気もするが、多分気のせいだろう。
「じゃあ、揉んでいい?」
「う、うん。いいよ」
スノーホワイトが、ラ・ピュセルの胸に手を伸ばした。今度は抵抗しなかった。
スノーホワイトは優しい手つきで胸に触れると、そのまま揉みはじめた。
「んっ」
「わっ、柔らかーい」
不思議な気持ちよさに、ラ・ピュセルの口から上擦った声が洩れるが、スノーホワイトは気にせずに揉み続ける。自分で揉むよりも、気持ちよかった。
恥ずかしさでいたたまれなくなるが、彼女は離してくれそうになかった。
「あ、んっ、こ、小雪っ」
「どうしたの、そうちゃん?」
「そ、そろそろ、そのくらいでっ」
「ほんとにいいの?」
「えっ?」
「やめられたら困る、って声が聞こえるよ?」
「そっ」
そんなことない。そう言おうとして、できなかった。
男なのに、いまは女になって、おっぱいを揉まれている。それも、好きな女の子にだ。胸を揉まれる気持ちよさと、背徳感らしきものに背筋がゾクゾクしていることは、否定できなかった。
「ひぅっ!?」
答えに窮しているうちにスノーホワイトが再び揉みだし、ラ・ピュセルは思わず声を上げてしまった。
「あっ、そうちゃんの困ってる声が聞こえなくなった」
「え」
「やっぱり嬉しいんだね、そうちゃん」
「ち、ちがっ」
「なにが違うの?」
僕は男で、騎士なんだ。おっぱいで感じたりなんかしないっ、と心を強く持つよう努める。
なんだか駄目なフラグを盛大に打ち立てたような気がするが、多分気のせいだ。なぜか、くっ、殺せ、という言葉が浮かび、さらに駄目な方向に行った気もするが、きっと気のせいだ。
以前、ラ・ピュセルとなった時、自分の胸が揺れただけで気を取られたり、自分のお尻を触った際にその柔らかさに陶然となっていたころがあったが、その時とは違うのだ。いまは、心を鎮める方法を会得してある、と母の顔を思い浮かべる。
「えいっ」
「ひゃっ!?」
胸を揉む手に力が少し加わり、思わず可愛い声を出してしまう。母の顔はあっけなく頭の中から消え去り、いま現在自分の置かれている状況を思い出すこととなった。
「あっ。こう揉まれると、もっと気持ちよくなって困るって聞こえた」
「っ、~~っ!?」
言葉のあと、さらに揉まれ続ける。ほんとうに、さっきよりも気持ちよかった。
だんだんと、躰の奥から、熱いなにかが広がってくるような感覚を覚えた。
「――――」
ラ・ピュセルの息が、荒くなっていた。
なにより問題なのは、やめて欲しいはずなのに、やめて欲しくないという思いが、どこかにある。本気でマズい。
「小雪、もう」
「あっ」
「やめ、えっ?」
言い切る前に、スノーホワイトが胸を揉むのをやめた。ラ・ピュセルが訝しむのを気にせず、彼女はどこか遠くの方を見やる。
「困ってる人の声が聞こえた」
「えっ」
「行こう、そうちゃん!」
「あっ、ああ、うん。そう、だね」
先ほどまでのスノーホワイトはなんだったのか、と思うぐらいの切り替わりの早さに、ラ・ピュセルは戸惑いながらもなんとか返事をする。
躰が火照り、脚がガクガクしているが、深呼吸を何度かくり返したことで、どうにか動けるぐらいには落ち着いた。
スノーホワイトの顔を見る。静かながらも強い意志を感じさせるその瞳の輝きは、ラ・ピュセルが好きな魔法少女のものだった。
いつものスノーホワイトだ、といろいろな意味でホッとする。
「よし。行こう、スノーホワイト!」
「うん!」
躰の火照りは完全には収まっていないが、恥ずかしさをごまかすようにラ・ピュセルが呼びかけると、スノーホワイトも力強く頷き返した。すぐさまスノーホワイトが跳躍し、ラ・ピュセルもそれを追って跳ぶ。
もうちょっとだったんだけど。
「っ!」
頭に浮かんだ言葉を、ラ・ピュセルは頭をぶんぶんと振って追い払う。
こんな時になにを考えているんだ。確かに気持ちよかったけど、ってそうじゃない。僕は男なんだ。
煩悩退散。色即是空。
「あっ、そうちゃん、じゃなくって、ラ・ピュセルッ」
「っ、な、なんだい、スノーホワイト?」
突然ふりむいて呼びかけてきたスノーホワイトに、一瞬動揺しながらも返事をすると、彼女は笑顔を返してきた。とても綺麗な笑顔だった。
「続きはまた今度ね?」
「えっ」
ドクンと胸が高鳴ったのは、彼女の笑顔に対するものか、それともその言葉に対するものなのか。
それは、ラ・ピュセルにもわからなかった。
普通にイチャラブするのも考えたのに、男子中学生、TS、女騎士、と快楽に負けることがほとんど約束されているような組み合わせ(偏見)ってことなのか、気がついたらこんなことに。
あとスノーホワイトの『困っている人の心の声が聞こえる』って攻め向けだよね(偏見)。どうしてこうなった。
魔法少女足らんとするスノーホワイトがこういうことするのか。好きな人の可愛いところを見たくなったということで、ここはどうかひとつ。
先の二話とはちょっと違う世界の話ということで。
普通にイチャイチャするのはまたいずれ。
これの続きも書くかもしれんけど。
以下、NGパターン。クロスオーバー気味な要素がありますのでご注意。また、あまり深く考えすぎないでください。
「じゃなくて、ほんとにわけがわからないぞ!? なんでいきなりおっぱい!? 君そんなキャラだっけ!?」
「そうちゃんが、そんなおっぱいつけてるから悪いんだよ?」
「え?」
「男なのにそんなおっぱいつけて、わたしへの当てつけなの?」
「え、いや、だったら君もつければ」
「魔法少女になってからは、アバターの途中変更ってできないんだよ?」
「あ、ああ。そうだったね」
なにやら冷気すら感じる彼女の声に、ラ・ピュセルはそんな言葉を返すことしかできなかった。魔法少女になった時の姿は、『魔法少女育成計画』で設定していたアバターのものなのだが、魔法少女になってから変更することはできないらしい。
じりじりと押しこまれながらも、彼女の手を握り潰さないよう気をつけつつ、ラ・ピュセルも少しずつ力を強める。力が拮抗し、やがてお互いの動きが止まった。
スノーホワイトが、朗らかに笑った。なぜか、妙に怖い笑顔に見えた。
「それでね、思ったの」
「な、なにを?」
「ないのなら、ほかからむしろう、おっぱいを」
「怖いよ!?」
本気でなにがあったというのか。猟奇的なものすら感じさせるスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルは叫びを上げることしかできなかった。
「はっ!?」
スノーホワイトの頭、いや背後に、なぜか青いツインテールが見えた気がした。
もしかしたら彼女は、なにかに憑りつかれてしまったのではないか。
巨乳に対して強い嫉妬や憎しみを抱いた、なにかに。
そんな存在がいるかどうかはわからないが、魔法少女というものが実在するのだ。そんななにかがいても不思議ではない。
このままではスノーホワイトが、生きとし生ける巨乳を滅ぼす破壊神になってしまうかもしれない。どうしてそんなことが思い浮かんだのかわからないが、なぜか確信があった。
そんなことは、させない。
「っ!?」
タイミングを見計らってスノーホワイトの力を逸らす。自分の躰を流されたことにだろう、彼女の顔に驚愕が浮かんだ。
スノーホワイトの脇をすり抜けるように踏み出し、一瞬で背後に回ると剣を抜き放った。
「はあっ!」
ふりむきざま、彼女の背中にむかって剣を突き出す。スノーホワイトに当てる気はない。愛の心にて、悪しき気だけを断つのだ。なんだかノリがよくわからなくなっているが、とにかくそんな感じだ。
「っ」
手応えが、あった。
スノーホワイトの躰がふらっと倒れこみ、ラ・ピュセルは慌てて彼女の躰を抱き留めた。
スノーホワイトの顔を覗きこむと、パチパチと瞬きしながら、不思議そうに見つめ返してきた。
「え、ええと、そうちゃん?」
「大丈夫、小雪?」
「えっと、なにがあったの?」
「いや、僕にもよくわからないけど。とりあえず、おっぱい揉む?」
「へ!?」
スノーホワイトの困惑の声が、夜空に響いた。