白雪姫と竜騎士   作:シュイダー

4 / 6
 
とりあえず連載に変えました。
俺ツイと並行に書きつつこちらを先に更新。
『白雪姫と竜騎士』の続きです。

控えめで大人しい女の子が、恥ずかしいのを我慢して一所懸命誘惑する。
「私はいいと思う」
 


白雪姫の誘惑

 魔法少女としての人助けをいくつとなくこなし、人気のないビルの屋上でラ・ピュセルは、ふうっと息をついた。時間は、そろそろ夕飯時になる。

 疲れを覚えたラ・ピュセルは、肩を回しながら隣にいるスノーホワイトに顔をむけた。彼女も疲れたのだろう、自分の肩を揉んでいた。魔法少女が肩こりを起こすのかは知らないが、とりあえず気分的なものだ。

「おつかれさま、ラ・ピュセル」

「おつかれさま、スノーホワイト」

 互いに微笑みながら、労いの言葉を掛け合う。スノーホワイトの笑顔を見るだけで、疲れはどこかにふっ飛んでいくような気がした。

 今日は休日ということで、昼間から魔法少女として活動していたのだ。昼時には、いったん休憩として、もとの姿に戻って食事などもした。魔法少女に変身していれば、腹が空くことも、喉が渇くことも、眠くなることもないのだが、それはそれとして休憩はしたくなる。いや、どちらかといえば、小雪と一緒に食事をしたい、というのが主な目的だったのかもしれない。

 デートみたいだ、と意識してしまい、お互いぎこちないやり取りをしてしまった時もあったが、楽しいひと時だった。ある意味では、二人で魔法少女として活動しているのもちょっとしたデートと言えるかもしれないが、そう考えるのは不謹慎だろうとも思う。

 それにしても、ついこの間プロポーズのような告白をして、晴れて恋人同士になったというのにこれだものな、などと苦笑混じりに思った。

 スノーホワイトと組むまでラ・ピュセルは、どちらかと言うと余暇(よか)を遣って魔法少女活動を行っていた。平日は学校があるし、放課後はサッカー部としての練習があるため、夜になってから活動していたのだ。休日も、昼間は個人的な用事、趣味に(つい)やす時が多かった。

 スノーホワイトは逆に、学校などの外せない用事以外はすべて魔法少女活動に費やしているのではないか、と思えるほど働いていた。魔法が魔法なので効率的に動けるというのはあるだろうが、それだけ魔法少女としてみんなの助けになれるのが嬉しいということなのだろう。ラ・ピュセルもそれに付き合って活動するようになったが、それでも昼間は彼女ほど動いていなかったと思う。

 小雪と恋人になってからは、部活が早く終わった時や、ない時など、日中から彼女と合流して、前よりも積極的に魔法少女活動を行うようになった。不純かもしれないが、一秒でも長く小雪と一緒にいたかったからだ。こういう時、彼女と違う学校であることが悔やまれる。同じ学校だったら、登下校も一緒にできて、ひょっとしたら彼女が部活を見に来たりしてくれたかもしれないのに、と思ったりもした。

 そう考えるとやはり、魔法少女活動もデートの一環なのかもしれない。

「とりあえず、こんなところ?」

「うん。いま聞こえてくる、わたしたちにどうにかできそうな悩みは、これぐらいかな」

「わかった。それじゃあ、いったん家に帰ろう」

「うん。夜になったらまた集合、ってことでいい?」

「うん」

 もっと一緒にいたい、という思いはあるが、あまり遅くなると家族に心配される。なにしろまだ中学生なのだ。そうなったら、互いに家族が連絡し合うだろうし、場合によっては魔法少女としての活動もしにくくなってしまうかもしれない。それは嫌だった。

「それじゃあ」

「あ、待って、ラ・ピュセル」

「えっ?」

 送っていこう、と声をかけようとしたところで、スノーホワイトが思い出したように声を上げ、ラ・ピュセルは首を傾げた。

「その、ね。お願いがあるんだけど」

「お願い?」

 どこか遠慮がちなスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルはわずかに身構えた。

 恋人になってから、スノーホワイト、小雪はたまにお願いをしてくるようになった。手を握って欲しいとか、抱き締めて欲しいとか、おっぱいを揉ませて欲しいとかそういったものだ。

 最後のはともかく、ほかのは恋人ならして当然と言えるものばかりだったが、どうにも気恥ずかしさが先行して、どれも颯太の方からは言い出せないでいた。情けない、と自分でも思わなくもないが、欲望で彼女を汚していいのか、という気(おく)れに似た思いも胸にあった。

「ラ・ピュセル?」

「あ、いや、それで、お願いってなんだい?」

「えっとね、尻尾触らせてくれないかな?」

「尻尾?」

 自分の尻のあたりから出ている尻尾をちょっとだけ見ると、再び彼女の顔に視線を戻した。

「うん。どんな感触してるのか気になっちゃって」

「う、うーん」

 胸に比べればまだ抵抗は少ないが、以前自分で尻尾に触った時のことを思い出すと、やはりためらってしまう。普通に触る分には特にどうということはないのだが、優しく触れたりすると、躰がピリピリというか、背筋がゾクゾクしてくるのだ。

「よお。二人とも、なにしてんだ?」

「ん?」

「え?」

 突然かけられた言葉に二人で声を()らすと、声の聞こえた方にふりむく、というか見上げる。箒に乗った、見覚えのある二人が、空にいた。知り合いである魔法少女の二人だ。

「トップスピードと、リップル?」

 首を傾げながら、ラ・ピュセルは二人の名前を呼んだ。

 ひとりは、黄金色の髪を二房の三つ編みにまとめてある、幼さを感じる容姿の少女、トップスピード。黒いワンピースを着て、背の高い黒色のとんがり帽子を被るという、魔法少女というより魔女と言った方が適切だろう恰好をしている。紫地のロングコートをマントのように羽織(はお)り、首から御守り袋を提げているのが特徴と言えば特徴で、コートの背中には『御意見無用』という刺繍(ししゅう)がしてあった。箒は彼女の持ち物で、『ラピッドスワロー』という名前がついているのだが、まるでバイクのようなハンドルや風防に、マフラーやブースターまで付いていた。

 猛スピードで空を飛べる魔法の箒を使うというのが、彼女の魔法だ。それは魔法なのかという疑問はさておき、『最速(トップスピード)』の名前の通り、その魔法の箒による飛行速度は、すさまじいものがあった。

 もうひとりはリップルと言い、魔法少女というよりは忍者やくノ(いち)を思わせる少女だった。黒く長い髪をサイドテールにし、切れ長の眼に、薄い眉。赤い襟巻に、大きな手裏剣型の髪留め、足には一本歯の高下駄を履いており、こちらも色合いは全体的に黒い。露出度はかなり高く、胸元や腹や肩から思いっ切り肌が見えている。彼女の魔法については説明されていない。

 もっとも、恰好が魔法少女らしくないなど、ラ・ピュセルが他人に言えたことではない。女騎士のような外見というのもそうだが、鎧は身を守るための物なのに、下半身が水着とか下着と同レベルというのは自分でもどうなんだろうと思う。思うが、それに関してほかの魔法少女からツッコまれたことは、一回もなかった。というかほかの魔法少女も、恰好に関しては大概な人が何人かいるので、きっとどうでもいいことなのだろう。

 また、魔法少女には、それぞれ担当地区、ホームや縄張りと呼ばれるものがあり、ラ・ピュセルとスノーホワイトのようにコンビを組む間柄(あいだがら)でもなければ、ほかの魔法少女と会う機会はそれほどなかった。場合によっては、パートナーのホームとも違う地区に行くこともあるが、相手によってはかなり面倒なことにもなる。

 とはいえ、そこまで目くじらを立てるのは一部の者だけで、ラ・ピュセルたちも、目の前のトップスピードたちも、縄張りへのこだわりは大してなかった。

 だが、なぜここに、という疑問はあった。

「あ、こんばんは」

「っと、挨拶が遅れたな。こんばんは」

「おう」

「どうも」

 スノーホワイトの挨拶にラ・ピュセルも続けると、トップスピードとリップルが順に挨拶を返してきた。リップルは舌打ちしていたが、彼女はなにかと舌打ちをするので特に気にしない。トップスピードいわく、リップルはツンデレ、らしい。

 箒の高度を下げた二人が、ビルの屋上に降り立った。

 頭を切り替え、ラ・ピュセルから問いかける。

「それにしてもなぜ二人が、こんな時間に、ここへ?」

「ああ。昼過ぎからちょっと時間が空いちまってな。で、リップルの方もたまたま時間が空いてたっつーから、昼間のパトロールでも行こうぜってなったんだ」

「あ、わたしたちと一緒ですね」

「おっ、そうなのか、ラ・ピュセル?」

「ああ。どうせだから今日は昼間からやろうか、ということになったんだ。私たちは昼前からだったけどね」

「おお、いいねえ。やっぱ魔法少女ってのは、世のため人のために役立ってこそだよな!」

「ですよね!」

「チッ」

 楽しそうなトップスピードの言葉に、スノーホワイトが笑顔で同意した。リップルはやはり舌打ちしていたが、なんとなく照れているようにも見えた。

 トップスピードは幼さを感じさせる外見ではあるが、口調は、伝法と言える荒っぽい喋り方だった。もっとも、乱暴さといったものは感じられず、気のいい姉御肌という印象があった。

 そしてラ・ピュセルが口調を変えるのは、魔法少女としての自分を演じているためだ。

 スノーホワイトと話す時は、ある程度砕けた喋り方だったり、岸辺颯太としての素の喋り方をすることもあるが、ほかの魔法少女がいる場合は、いわゆる高潔な女騎士といった感じの口調で通していた。

「まあそれでよ。そろそろ晩飯の時間だし、ちょっと流していったん帰るか、って飛んでたらおまえらの姿を見つけたもんでな、ちょっくら挨拶しておくかってここに来たんだよ。で、さっきも聞いたけど、二人ともどうしたよ。ラ・ピュセルの方はなんか難しそうな顔してたけどよ、喧嘩か?」

「いや、喧嘩ではないよ、トップスピード。スノーホワイトが私の尻尾に触りたいと言うものでね。どうしたものかと悩んでいたところさ」

「ああ、なるほど。確かにその尻尾って気になるよな。なあ、リップル?」

「チッ」

「あ、やっぱりトップスピードも気になるんですね」

「えっ」

 トップスピードの言葉と、残る二人の反応に、ラ・ピュセルは危機感を覚えた。

 トップスピードとスノーホワイトだけでなく、リップルも舌打ちこそしたものの、視線がラ・ピュセルの尻尾にチラチラとむけられている気がした。

 以前、トップスピードにいきなり尻尾を握られた時、驚いて転びそうになり、リップルのお腹に触ってしまったことがあった。柔らかく、(なめ)らかだった彼女のお腹の感触は、いまだに忘れることができない。トップスピードが悪い、ということでリップルに怒られたのは彼女の方だったが、いろいろと申し訳ない気持ちになったものだ。

 慌てて尻尾を背後に回し、反射的に手を尻に被せる。

「おいおい。そんな警戒しなくてもいいだろ?」

「そうだよ、ラ・ピュセル。嫌だったらわたしも無理になんて言わないし」

「あ、いや、嫌というかなんというか」

 嫌というか、もしも変な反応をしてしまったら。また、マズいことをしてしまったら。リップルのお腹の感触を思い出しながらそんなふうに考えると、さすがに抵抗があった。

「――――?」

 ピタッ、とスノーホワイトが(つか)()硬直し、眼がわずかに細まった気がした。

 それにラ・ピュセルが反応する前に、チッとリップルが舌打ちし、スノーホワイトにむき直った。

「ところで、こうやって面とむかって話すのははじめてかな、スノーホワイト?」

「あっ、そうですね。挨拶が遅れちゃってすいません」

 暗い、というより大きな声を出したくないということなのか、静かに話すリップルに、スノーホワイトが慌てて応じた。

 トップスピードが首を傾げた。

「あれ、おまえら会ったことなかったっけ?」

「ラ・ピュセルから話を聞いたり、魔法少女チャットで見たことはありますけど、直接話をしたことはなかったと思います」

「あ、そうか。いや、リップルのやつが」

「チッ」

「っと、ああ、わかった、わかった。言わねーって」

『――――?』

「あー、別に悪口とかそういったことじゃねえから、あんま気にしないでくれ」

『はあ』

 リップルの舌打ちのあと、トップスピードが彼女の方を見て言った言葉に、スノーホワイトと一緒にラ・ピュセルも首を傾げるが、なにを言おうとしたのかは、二人とも説明してくれそうになかった。

 それにしても、トップスピードとリップルは舌打ちで会話ができる、という話を聞いたことがあったが、いまのを見る限りほんとうなのかもしれない。

「スノーホワイトです。よろしくお願いします」

「私は、リップル。よろしく」

 スノーホワイトがお辞儀をし、リップルが会釈をした。

 ドーモ、リップル=サン、ドーモ、スノーホワイト=サン、とお互いに合掌してお辞儀し合う二人の姿が脳裏をよぎったのはなぜだろうか、と思いつつリップルの顔を見る。

 あのタイミングで会話に割って入ってくれたのは、ラ・ピュセルへの助け舟を出してくれたということなのだろうか、と思ったのだ。

 リップルが、ラ・ピュセルの視線に気づいた。

「リップル」

「チッ」

 ラ・ピュセルが声をかけようとしたところで、リップルが舌打ちするとともにそっぽをむいた。気にするな、ということなのか、別にそういうわけじゃないとでも言いたいのかはわからなかったが、とりあえず感謝の意を示すため、小さく頭を下げておく。

 リップルはまた舌打ちをすると、トップスピードに顔をむけた。

「要件は済んだだろ、トップスピード。さっさと帰ろう」

「っと、そうだな。晩飯も作んなきゃいけねえし。の前に」

 トップスピードがラ・ピュセルに近づき、顔を覗きこんできた。スノーホワイトが、むっと顔をしかめた気がした。

 いろんな意味で一瞬ドキッとするが、反射的に母の顔を思い浮かべて心を鎮め、ラ・ピュセルは口を開いた。

「トップスピード。私の顔になにか?」

「いや、前に会った時と、なんか顔つきが違うように見えてよ」

「顔つき?」

「凛々しくなった、っつーのかね。なんか別なやつに見えた気がしたんだよ」

 なんと言っていいのかわからず、なんとなくスノーホワイトの顔を見る。なんだか、嬉しそうな、しかしどこか()ねたような、複雑そうな表情をしていた。

 チッ、とリップルが舌打ちした。

「トップスピード」

「あー、わかったって。そう()かすなよ、相棒」

「誰が相棒だ」

「リップル」

「チッ」

 じゃれ合いながらトップスピードはラ・ピュセルから離れ、箒に(またが)った。続いてリップルが、舌打ちしながらも自然な調子で彼女のうしろに跨る。

「じゃーな、二人とも」

「それじゃ」

「あ、はい。それじゃ、また」

「また、いずれ」

「おうっ」

 別れの挨拶をし合い、トップスピードたちが飛んで行く。みるみるうちに、彼女たちの姿は小さくなっていった。

「ねえ、そうちゃん」

「そうちゃんは、やめ」

 やめてくれ、とスノーホワイトの言葉に返そうとむき直ったところで、ラ・ピュセルは思わず言葉を止めた。スノーホワイトの眼は、笑っていなかった。

「ど、どうしたんだ、スノーホワイト?」

「リップルのお腹を触ったって、どういうこと?」

「っ!?」

 驚愕したあと、ラ・ピュセルはハッとした。さっきのトップスピードたちとの会話の際、あの時のことを思い出してしまったせいか、と思った。

「ち、違うんだ、小雪、聞いてくれ!」

「なにを?」

「じ、事故だったんだ。トップスピードに尻尾を握られてびっくりしちゃって、転びかけたところにたまたまリップルのお腹があって。決して(やま)しいことはしていないっ。信じてくれ!」

「うん。それは信じる。でも、柔らかくて滑らかなあの感触は忘れられない、って感想はなに?」

「――――ア、ウ、オ」

 言え(イエ)ない。というか深く静かに怒っておられる、と気圧(けお)される。なんだか彼女の魔法の精度が上がっている気がするのは、気のせいだろうか。

 スノーホワイトが、ラ・ピュセルに近づいて来た。

 ビンタの一発や二発、甘んじて受け入れよう、とラ・ピュセルは観念した。それ以上のものが来るかもしれないが、それも仕方ないかもしれない。ただ、別れることだけは嫌だった。

 抱き締められそうなぐらい近くに、スノーホワイトが来た。彼女の手が持ち上がる。

 顔をはたかれることを予想して、思わずラ・ピュセルは眼を(つぶ)った。

「っ?」

 手を掴まれた、と感じた直後、(てのひら)がなにかに押しつけられた。温かく、柔らかで、滑らかだった。

 ハッと眼を開くと、顔を真っ赤にしたスノーホワイトの顔があった。

 状況がわからず、視線を下に落とすと、スノーホワイトがラ・ピュセルの手を自分のお腹に触れさせていた。服は(まく)り上げられており、素肌が見えている。

「え、えっ?」

「わ、わたしのお腹、どうかな、そうちゃん?」

 とても恥ずかしそうに訊いてくるスノーホワイトの言葉に、ようやく自分がなにをして貰っているか把握した。

 スノーホワイトのお腹に、触らせて貰っている。

 把握はしたものの、なぜこんなことになっているのか理解ができないうえ、思ってもみなかった事態に頭の中が真っ白になっていた。

「や、やっぱりリップルのお腹の方がいいの?」

「っ!?」

 泣きそうなスノーホワイトの様子に、ブンブンブンと慌てて首を横に振って答える。

 なぜスノーホワイトにこんなことをされているのかわからないが、リップルの方がいいということはない。というかスノーホワイトが、小雪がいい。

「ほ、ほんと?」

 彼女の言葉に間をおかず、勢いよく何度も首を縦に振る。

「そ、それじゃ、どうかな、そうちゃん?」

「そ、その、すごくスベスベで、柔らかくて」

 なで回したい、と思ったが、そんなことを言って、気持ち悪いと思われたりしないだろうか、と理性がラ・ピュセルを制止した。

「い、いいよ、そうちゃん」

「え?」

「も、もっと触っていいよっ。遠慮とかしないでっ」

「っ!?」

 さらに顔を赤くしながら、恥ずかしさをごまかすように大きめの声で紡がれたスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルの頭はますます混乱した。

 落ち着け、ラ・ピュセル。冷静になるんだ、岸辺颯太。

 理性と欲望がせめぎ合うさまが、頭に浮かんだ。理性はラ・ピュセルの姿をしていて、欲望は颯太の姿をしていた。両者ともに剣を持ち、斬り結んでいた。

 彼女の騎士になると誓ったんだろう。そんな彼女を自分の欲望で汚していいのか。彼女を大切にするのではなかったのか。

 なに言ってるんだ。彼女がそれを望んでるんだぞ。その思いを無碍(むげ)にする方が、よっぽど彼女を傷つける行為じゃないか。

 剣と、言葉をぶつけ合う。欲望の『颯太』の方が優勢で、理性の『ラ・ピュセル』の動きは精彩を欠いていた。

 それでも、僕は騎士なんだっ。欲望なんかに負けたりしないっ。

 そんな思いが湧き上がり、『ラ・ピュセル』の動きが鋭くなった。その勢いのまま『颯太』を押しはじめる。

「っ、え、えいっ!」

「っ!?」

 理性が打ち勝とうとしたその時、スノーホワイトが意を決した様子でラ・ピュセルの空いていた方の手を取り、自分の胸に押しつけた。大きくはないが、しっかと感じられるその柔らかな感触に、ラ・ピュセルの理性がふっ飛びかける。

 欲望の『颯太』が、理性の『ラ・ピュセル』に語りかけた。

 なあ、ラ・ピュセル。君は僕だよな。

 ああ。

 じゃあ、わかるだろ。小雪を汚したくない、傷つけたくない。だけど同時に、自分の色に染め上げたい、メチャクチャにしてしまいたい、とも思ってしまう僕の気持ちがっ。

 わかる。ああ、充分にわかるとも。だが、いいか、怖がらせるんじゃないぞ。

 うん。

 ふっ飛ぶというか、理性は欲望と手を結んだようだった。

 結局負けてんじゃねーか、とか言わないで欲しい。好きな女の子にここまでされて理性を(たも)てという方が無理だ。

 心臓が、爆発するのではないかと思うほど、バクバク鳴っていた。

「小雪、ちょっと手を離してもらっていいかな」

「っ」

「その、このままじゃ落ち着かないからさ。頼むよ」

「――――うん」

 不安そうに瞳を揺らすスノーホワイトに優しく語りかけると、彼女は残念そうに手を離した。

 手が離れてすぐ、ラ・ピュセルはスノーホワイトの両の頬に手を添えた。

「そうちゃん?」

 不思議そうに問いかけるスノーホワイトの言葉になにも答えず、ラ・ピュセルは彼女の唇に自分の唇をそっと触れ合わせた。鼓動はやはり、スノーホワイトに聞こえてしまうのではないか、と思うほど激しく鳴っていた。

「――――」

 最初、なにが起こったのかわからない様子だったスノーホワイトが、ゆっくり眼を閉じた。ラ・ピュセルも眼を閉じ、そのまま唇を触れ合わせ続ける。

「んっ」

 数秒ほどして、ラ・ピュセルは唇を離した。瞳を開いたスノーホワイトの顔は真っ赤で、ラ・ピュセルの顔も、火が出そうなほど熱くなっていた。

 スノーホワイトが、眼の端に光るものを見せながらはにかんだ。

「えへへ」

「小雪?」

「そうちゃんから、キスしてもらっちゃった」

 嬉しそうに言ったあと、スノーホワイトがラ・ピュセルに抱き着いてきた。

 ボッ、と躰がさらに熱くなった気がしたが、なんとか腕を動かし、彼女の躰を抱き返した。

「そのね、不安だったの。恋人になったのに、そうちゃんなにもしてくれないし」

「うっ、ご、ごめん」

「ううん、わたしの方こそごめんね。わたしのこと、大切にしてくれてたんだよね」

「ほんとは、勇気がなかっただけかも」

「え?」

「キスとかしようとして、嫌がられたらどうしよう、ってこわがってたのかも」

 言葉の途中で、スノーホワイトに口を遮られた。今度は、彼女の方からキスをされていた。

 再び数秒ほどキスをしたところで、スノーホワイトが唇を離した。上目遣いにこちらを見上げる彼女の顔はやはり真っ赤で、しかしとても可愛らしかった。

「そうちゃんって、変なとこで意気地なしだよね」

「ぐっ」

 さらっと言われた言葉が、グサッと胸に突き刺さった。

「結構かっこつけなところあるし」

「がはっ」

「思いこみとか強いし」

「グ、グム~ッ、って思いこみに関しては、小雪にだけは言われたくない」

「え、なんで?」

「妄想癖がある、ってスノーホワイトのプロフィールにあるだろ」

「うっ」

 スノーホワイトが、ごまかすように咳ばらいをした。

 ラ・ピュセルの眼を見つめ、顔を赤くしながら再び微笑む。

「でもね、そうちゃんは優しくて、いつもわたしのこと気にかけてくれて、いざという時はすっごく頼りになって。そんなそうちゃんのことがわたし、大好き」

「――――僕も小雪のこと、大好きだよ」

 敵わないな、とラ・ピュセルは思った。きっと小雪は、自分よりずっと心が強いのだろう。控えめで大人しいけれど、芯が強い。

 けれどそれは、ひとりでも大丈夫という意味ではないのだと思う。

 恰好つけたがりというのは、その通りなのだろう。ちょっと前までは、恰好つけることばかり考えていた。ただ、いまはそこまでではない気もした。

 いや、それとも少し違う気がした。恰好つけた言葉を言ったりするのではなく、ほんとうにかっこいいやつに、自分が理想と思い描く魔法少女『ラ・ピュセル』のように、騎士になりたいのだ、と思う。

 あの日、颯太がそばからいなくなって寂しかった、と泣きながら語った彼女を見た時から、そんな思いが胸に生まれた。彼女を悲しませない。彼女の笑顔を守りたい。そのために強く、恰好よくなりたい。そんなふうに思ったのだ。

 いま、こうやっている間も、その思いはどんどん強くなってきている。彼女への愛しさがますます大きくなっている。

 もっと、勇気を持たなければ。

 スノーホワイトの躰をそっと離すと、その肩に優しく手を置いた。彼女は不思議そうにラ・ピュセルの顔を見上げてくる。

 もう一度、キスしたい。さっきより深いキスを、君としたい。

 視線で、熱く、そう訴える。

「――――」

 それが伝わったのだろう。スノーホワイトはモジモジとしたあと小さく頷き、そっと瞳を閉じた。

 ドキドキしながら、ゆっくりと顔を近づけていく。

 お互いの鼓動が、聞こえそうな気がした。

 

 唇が触れ合おうとした瞬間、スノーホワイトが眼を開き、顔を横にむけた。

「っ」

 嫌だったのか。

 一瞬そんなことを考え落ちこみかけるが、すぐにそう考えた自分を恥じる。

 彼女は、颯太を好きと言ってくれ、いまも受け入れる仕草を見せてくれたのだ。その彼女を疑うことは、してはいけないことだ。

 おそらく、困った人の心の声が聞こえたのだろう。

 そう考えると、固まったままのスノーホワイトの視線の先に顔をむけた。

「――――」

 困っている人たちが、いた。

 帰ったとばかり思っていたトップスピードとリップルが、空から困ったようにラ・ピュセルたちを見ていた。

『――――』

 誰ひとり、なにも言えず、気まずい空気のまま時間だけが過ぎていく。

 どうにかしなければ、とラ・ピュセルは意を決した。

「や、やあ、トップスピード、リップル。ぼくた、いや私たちにまだ用事でも?」

 平静を装ったつもりだったが、危うく普段の喋り方になりかけた。トップスピードがなにかに気づいたように、眉をピクリと動かしたように見えた。

 トップスピードが、困ったように頭を掻きながら口を開いた。

「んー、いや、そのな。ちょっとこの四人でチームでも組んでみねえか、って思ってさ。そんで、思い立ったが吉日っていうし、Uターンしてきたんだけど」

「え」

「いや、忘れてくれ。馬に蹴られたくねえし。まあ、なんだ、とりあえず時と場所は考えるようにしろよ、二人とも」

 最後は楽しそうに笑いながら言われ、ラ・ピュセルは思わずスノーホワイトの方に顔をむけた。同じタイミングでこちらをむいたスノーホワイトの瞳と見つめ合うかたちになり、顔が熱くなった。

「チッ」

「ハハハッ」

 リップルが舌打ちし、トップスピードが楽しそうに笑い声を上げた。

「まっ、誰にも言わねえから、心配すんな」

 その言葉を受け、ラ・ピュセルたちが彼女たちの方に顔をむけると、トップスピードはウインクをしてから箒のむきを変え、さっきも行った方向にむかって、再び飛んで行った。

 トップスピードたちの姿が見えなくなり、改めてスノーホワイトと見つめ合う。

「えーっと、か、帰ろうか、スノーホワイト?」

「う、うん。そうだね、ラ・ピュセル」

 さっき自分たちがやろうとしたことを思い出してしまい、ラ・ピュセルがぎこちなく声をかけると、スノーホワイトもギクシャクしながら答えてきた。

 帰る途中、動揺していたスノーホワイトが屋根から足を踏み外し、ラ・ピュセルが咄嗟(とっさ)にお姫様抱っこで彼女をキャッチしたのを道行く人に見られたりもしたが、それは特に気にすることではない。

 

 

*******

 

 

 ラ・ピュセルとスノーホワイトの衝撃的シーンを見てしまった帰り道、うしろにいるリップルから、妙に不機嫌そうな空気をトップスピードは感じた。

 正面をむいたまま、トップスピードは問いかけた。

「どうしたよ、リップル。不機嫌そうだな?」

「別に」

「あれか。二人がキスしようとしたのを見たせいか?」

「チッ」

 答える気はない、ということなのだろう。舌打ちからは、拒絶の響きがあったように思えた。

 リップルは、魔法少女たちの目撃情報をまとめた『魔法少女まとめサイト』で、スノーホワイトのページを見ていることが多かった。いろいろと思うところがあるのだろう、とトップスピードは思った。

 ため息をついたり、(かぶり)を振ったりしていたリップルが、口を開く気配があった。

「あの二人が」

「ん?」

「あの二人が、レズだったとは」

 幻滅、というか、見たものが信じられない、とでも言いたげなように思えた。

 その言葉に、ラ・ピュセルとスノーホワイトの様子を思い出す。

「レズ、ねえ」

「なんだ?」

「いんや、レズってどういう意味だっけ?」

「は?」

「いいからさ、どういう意味だっけ?」

 なに言ってんだこいつ、とでも言わんばかりの空気がうしろから漂ってくるが、気にせず答えを促すと、(いぶか)()なリップルの声が聞こえた。

「女の、同性愛者のことだろ」

「だな」

「うん?」

 なにが言いたいんだ、とでも言いたそうな雰囲気が伝わってくるが、トップスピードはそれに対してなにも言わなかった。

 最近、『竜騎士』と『白い魔法少女』、つまりラ・ピュセルとスノーホワイトが一緒に目撃されることが増えていた。そしてその目撃情報の中で目につくのが、なんだか妙に仲良く見えるという二人の話だった。もともと仲はよかったが、なんだか距離が近くなっている感じがあった。

 トップスピードも、二人の関係はレズとかそういったものなんだろうか、とちょっと思ったりもしていたのだが、今日会ってみて、考えを改めた。

「多分、レズじゃねえと思うぞ」

「キスしようとしていてか?」

「それでも多分、レズ、じゃあないな」

「――――?」

 リップルはやはり意味がわからないようだったが、それも無理はないとは思う。そもそも、こんなことを考える者の方が少ないだろう。

 多分、ラ・ピュセルの正体は男だ。

 発想が飛躍しているかもしれないが、そう考えれば、いままでの彼女の反応にもいろいろと納得がいく。

 さっきラ・ピュセルは、私たち、と言う前に、僕たちと言おうとしたのではないだろうか。自分を僕と言う女がいないわけではないし、トップスピードも一人称は俺だ。しかし、そんなふうに考えて見てみると、ラ・ピュセルの雰囲気は、女性のものではなく、男性のものに近い気がするのだ。

 また、トップスピードはスキンシップとして、肩や背中、時には尻を叩いたりとボディタッチすることが多く、時にはハグもする。ラ・ピュセルにやった時もあったのだが、そういった時、彼女は慌てることが多かった。

 特にハグの時、ラ・ピュセルは顔を真っ赤にして、躰が固まっていたほどだ。

 こういうことに慣れていないのか、とその時は思っていたのだが、いま思えば、女性とのスキンシップが恥ずかしかったのではないだろうか。

 もしそうなら、かたちとしては騙されていたものになるのだろうが、特に怒りのようなものはなかった。

 スケベ根性丸出しで行動していたなら、怒りも覚えただろうし、リップルやほかの魔法少女たちに言うことも考えただろう。しかしラ・ピュセルは、どちらかといえば申し訳なさげというか、罪悪感らしきものを顔に浮かべることが結構あったように思えた。

 それにスノーホワイトから、ラ・ピュセルがなにかに悩んでいるという相談を受けた時、良心の呵責(かしゃく)に耐えているような感じだった、という話も聞いていた。おそらくそれも、そのあたりのことで悩んでいたのではないだろうか。それを考えると、彼女を追い詰めるような行為はさすがに酷というものだろう。

 あと、スノーホワイトがいるのだから特に問題はないだろう、というのもある。ラ・ピュセルはかなり真面目であるようだし、スノーホワイトのことを大切にしていることも見て取れるので、そのスノーホワイトに任せておけば大丈夫だろう。

 思えば、スノーホワイトとそんな仲になったから、顔つきが違って見えたのかもしれない。自分もそうだったが、恋とは得てして人を変えるものだ。男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉もあるのだし、きっとそういうことなのだろう。

 男が魔法少女に成れるのか、という疑問もなくはないが、成れないと言い切ることもできない。トップスピードも、もとの姿とは大きく違っているのだ。

 トップスピードの本名は『室田(むろた)つばめ』といい、年齢は十九歳で、外見も年相応だ。髪は栗色で、ひと房の三つ編みにしてまとめてある。

 最も違うのは、お腹だった。つばめのお腹には、愛する夫との子供が宿っている。もうじき三ヶ月になる。不思議なことに、変身しても、お腹に子供がいるという状態は受け継がれないのだ。しかし変身を解けば、つばめは元通り妊婦である。

 学はないので理屈だったことは言えないが、魔法少女への変身は、躰が変質しているのではなく、ほかの躰と入れ替えられているような感じなのかもしれない。

 そんなふうに躰そのものが変わるのだから、性別が変わっても不思議はないだろう。

「――――」

 リップルは、うしろでまだ煩悶(はんもん)しているようだった。

「リップル」

「なに?」

「まー、なんだ。あの二人は好き合ってるみたいだしよ」

「好き合ってるなら、やっぱりレズじゃないか?」

「そこんところはあんま深く考えんな。とにかく、あまり変な眼で見てやるなよ?」

「わかってる。魔法少女として、ちゃんと活動してる二人だからな」

 妙に素直に受け答えしているように感じるのは、きっとまだ動揺しているせいなのだろう。

 さっきラ・ピュセルたちにチームを組むことを持ちかけようとした時、リップルからは反対されていた。されたのだが、ひとつ思うところがあって、とりあえず話だけでもしてみようとリップルの反対を押し切って引き返したのだ。

 理由は、リップルと、お腹の子供のことだった。

 もともとつばめは、じっとしてるのが苦手な性格だ。魔法少女になったのは八ヶ月近く前だが、それからずっと続けている。妊娠が発覚した時は驚いたが、お腹の子供は問題ないため、安全には気をつけているものの、魔法少女として活動するのをやめることはなかった。

 不謹慎な言い方ではあるが、つばめにとって魔法少女活動は、世のため人のために働き、マジカルキャンディーを集めるという『遊び』だ。

 いつだって遊ぶ。遊ぶとは心に余裕を持つことであり、食べるために働いたり、生きるために生きるのとはまた違った、つばめなりの『生き方』だった。昔もいまも、年を取ってからも、その生き方を変えるつもりはない。一応願掛けとして、トップスピードがぶら下げている御守り袋には、交通安全と安産祈願の御守りを入れてあった。

 魔法少女が許されるのは、小、中学生、ギリギリで高校生ぐらいまでだろう。十九歳の人妻はさすがにアウトだ。

 魔法少女として選ばれた時、最初に頭に浮かんだのはそれだった。もうちょっと若い()に譲ってやってくんない、とファヴにまず言ったのだが、そのあと鏡に映った自分の姿に、 Good job(グッジョブ)、と魔法少女になることを承諾し、魔法少女トップスピードとなったのだ。

 いまは落ち着いたが、つばめは高校時代まで、レディースチーム『燕無礼棲(エンプレス)』の(ヘッド)を張っていた、いわゆる不良少女だった。たった五人の、チームとも言えないほど小さなチームだったが、つばめたちが住み、トップスピードたち魔法少女たちが目撃されるN市において、引退するまで最速を(うた)われていた。

 夫とはじめて出会ったのは、つばめが小学生のころ、彼の一家が隣の家に引っ越してきた時だ。彼にはつばめと同い年の妹がいて、その妹とつばめは仲良くなった。つばめは昔から素行が悪く、彼にとっては、妹を悪の道に引きずりこむ悪ガキにしか見えなかっただろう。つばめも彼のことは、なにかと口うるさい友人の兄、としか思っていなかった。

 それがいつのころからか、好きになっていた。

 そしていまは結婚し、子供もできて、刺激を感じさせる魔法少女生活に、それによって出会った友だちもいる。幸せを謳歌(おうか)していると言っていい。

 ただ、ちょっと心配だったのは、その友だち、リップルのことだった。リップルは、トップスピードのことを友だちとは思ってないかもしれないが、トップスピードは彼女を友だちだと思っている。それで充分だ。

 リップルは、とっつきにくい感じではあるし、喧嘩っ早いところはあるものの、受け答えはなんだかんだでちゃんとするし、なにより魔法少女として人助けを積極的に行う、優しいやつだ。本人は、人助けをするのはマジカルキャンディーを集めるためだ、と(うそぶ)くが、そのために街の問題などを調べたりしてまで、人助けをすることはしないだろう。

 そんないいやつではあるのだが、彼女は人と関わりたがらない。それが、トップスピードには心配だった。

 ふたりというのはいいものだ。楽しい時は二倍楽しめ、苦しい時は半分で済む。遊び仲間がいるからこそ、『遊ぶ』のは楽しくなる。

 いつだって、つばめの隣には誰かがいた。それは友だちであり、仲間であり、家族だ。『燕無礼棲(エンプレス)』のメンバーたち、夫、リップル。そんな誰かがいてくれるから、楽しく過ごしていけるのだ、とつばめは思っている。

 リップルと組んだのは、彼女が危なっかしかったというのが理由だった。付き合っているうちに、優しいいいやつであることもわかり、一緒に魔法少女活動をするのもどんどん楽しくなっていった。

 しかし、もう半年もしたら、魔法少女として活動するのは難しくなるだろう。お腹の子供がいるのだ。そして子供が産まれたら、優先しなければならないのは、その子のことになる。『遊ぶ』のをやめる気はないが、だからといって自分の子供を(ないがし)ろにすることだけは、絶対にしたくない。愛する夫とともに望んだ、愛する我が子なのだ。

 だがトップスピードが魔法少女活動を休止したら、リップルはひとりになってしまうだろう。だから、リップルをひとりにさせないために、ほかにも仲間を、友だちを作るきっかけを作りたかったのだ。

 気が早いと言われればその通りだが、なら、いつ言えばいいんだ、と言えることでもある。なら、思いついた時に言っておく方がいいだろう。そう思ったのだ。

 おせっかいと言われても構わない。友だちを心配することの、なにがいけないというのか。

 リップルはスノーホワイトのことを気にかけていたようだし、スノーホワイトも、彼女の相棒であるラ・ピュセルも、しっかりと魔法少女活動をしている。頼むのなら彼女たちだろう、と思った。

 まあ、二人の関係に関しては誤算だったわけだが。さすがにあそこまで甘ったるい空気を醸し出す二人と、チームを組もうぜとは言いにくい。

 どうしたものか、とちょっとだけ悩み、やめる。考えこむのは趣味じゃない。ふとしたひょうしに、いい考えが浮かぶことだってあるだろう、と思った。

「まあ、いまはいいか」

「なにがだ?」

「いや、こっちのことさ。飛ばすぜ、しっかり掴まってろよ、相棒」

「ああ。って相棒じゃないっ」

「ハハハッ、ほんと、おまえさんはツンデレだねー」

「チッ」

 いつもの調子に戻ってきたリップルに笑い声を上げ、ラピッドスワローの速度を上げる。本気を出せば音速も軽く超え、現代の戦闘機以上のスピードも出せるが、いまはそこまで出すことはない。

 風を受け、移り変わる景色を楽しみ、振り落とされないようトップスピードの腰に回したリップルの腕の温かさを感じながら、トップスピードたちはホームに飛んで行った。

 

 




 
 
 
最初は『竜乙女育成計画』の続きとして書いてたのが気がつくとイチャついて、まあいいかとそのまま続ける。尻尾を触って調きょ、もとい育成は気が向いたら書くかもしれません。

トップスピードはきっかけがあれば多分気づく気がしたり。
「あー、うん。まあ恋愛に性別は関係ないよな。お幸せになー」とか言うイメージもあるけど。
なんかリップルの口調むずい。むずいっていうか書きにくいっていうかイメージしにくい。

再構成っぽい『白雪姫と竜騎士』と、キャラ崩壊ありのギャグっぽい『竜乙女育成計画』の二種類を気ままに書いていこうかと思ってます。どちらともクラムベリーが「誰だおまえ」って言われそうなキャラになりそう。


それはそうと、ラ・ピュセルの魔法って、それだけで勝負が決まるほど強くはないけど、役に立たないほど弱くはないというか、搦め手には不利だけど、使い手が強くなればなるほどいろんな状況に対応できる、『少年漫画の主人公向けの能力』だと思うんですよ。ええ。闘うとこ想像するとなかなか楽しいし、見栄えするし、アクションわかりやすいし。
問題は、原作は少年漫画じゃないし、ラ・ピュセルも主人公じゃないという点か。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。