ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートA 11.12

11 ゲスの極み母子

 

 

最近七咲は不意に叫びたくなる事がある。こんな事今まで全く経験が無かった。

別にストレスがたまっているわけでも自分が満たされない毎日を送っているわけでもない。

部活にも身は入っていると自負しているし、創設祭の準備も順調、最近は勉強だって・・。

でも時折襲うこの発作のような感情。

 

その七咲の感情の源泉とは・・羞恥心である。以下に興味深い証言がある。是非一読してほしい。

 

私は橘 美也。(以下みゃー)

最近どーにもおかしい。すごくおかしい。いやむしろコワイ。

・・逢ちゃんが。

逢ちゃんは高校で知り合った女の子では初めてみゃーのお友達になった女の子。

しっかりして、落ち着いて、優しいガンバリ屋さん。

暴走しがちなみゃーを諌めつつも時にはノッテくれるやんわらかい思考の子だ。

まだ出会って一年経ってないけど時間なんて関係ない!みゃーと逢ちゃんはマブダチなのだ!

でも私は最近逢ちゃんの奇行にちょっと悩まされている。

凄く集中しているかと思えばいきなり上の空になっていたりする。

この前の体育のバスケットボールの試合中、逢ちゃんは大活躍していた。あたしはドリブルは大好きですいすい皆を抜いちゃうけど壊滅的にシュートが下手なので最後はいっつも逢ちゃんにパスしてたんだ。(要するにアタシはこまっけぇことは苦手なのだ。)

その期待にいっつも逢ちゃんは応えてくれた。だから安心してパスしてたんだけど試合終了間際、

あたしのこの試合最高のパスが逢ちゃんに通った―

時だった。

 

「ごっ!???」

 

おおよそ逢ちゃんのようなカワイイ女の子が吐くとは思えない台詞を残して逢ちゃんは崩れ落ち、保健室に直行したの。いっつも有事の際は皆を率先して介抱する母性の塊のような逢ちゃんが初めてみゃーとクラスメイトのお友達の中多 紗江ちゃんに連れられる形で。

それはそれで嬉しいのだけど・・問題はあの時の逢ちゃんだ。あの時逢ちゃんはコートの中には居なかった。居たけど居ないの。どっかイっちゃってたの。

 

みゃーの言ってる事解る?

 

え。解んない?引っ掻くよ?

 

でもね、それだけじゃ無いの。この前の授業中だってそう。みゃーのクラスの現代文を担当している先生はね。すっごく厳しいの。だからね、その授業の時だけはにぎやかなみゃーのクラスもシーンとなっちゃうの。流石のみゃーもその時は借りてきた猫みたいに大人しくしてるんだけどね。

もともと逢ちゃんは騒いで授業の進行を妨げるような事は絶対にしない子だからこういう話には無縁なんだけど・・その時は違ったの。

 

「ああっもう!!」

 

クラスのみんなもハッとしたの。先生もびっくりしたの。

逢ちゃんがいきなり頭抱えて顔真っ赤にしてハッズカシソーに叫んだの。

頭抱えたまま机に顔ごとダイブ。おもわずみゃーは逢ちゃんを保健室に連れていくのを立候補したの。いつもは怖い先生も戸惑いの中あっさりOKしてくれた。

まさか逢ちゃんがこうなるとは思ってなかったみたい。それ以来先生は自分の授業の締め付けがきつすぎたのじゃないかって反省して次の授業から幾分マイルドになってくれたの。

それもこれも逢ちゃんのおかげなのだ!あれ?私何の話してたっけ?

 

ま、いいや。

 

橘 美也  交換日記 12月某日より抜粋

 

こんな感じである。

 

何・・。・・解らない?

 

 

 

七咲は苦悩していた。今までの自分の行為に対して。

よくよく考えてみると何とも恐ろしく、何とも失礼な事をしていたのだろうか。

そして何よりも・・恥ずかしい・・。

 

このたった二ヶ月の間にして自分の中の自分が大きく変化した事を痛感し、その反動に七咲は苦悩していた。それが時より不意に顔を出しては更なる奇行に七咲を走らせる。

何という悪循環か。

 

―痴漢と疑ったり、

得意気にスカートめくって見せたり、

喧嘩売ったり、

海まで連れて行ってパシリにしたり、

パンツ見られたり、

蹴っ飛ばしたり、

「メロンパンになっちゃえ。」とか言っちゃうし。

 

―あの頃と最近の自分って一体何!??別生物!?

 

とか思ってしまうらしい。気を抜くと恥ずかしさのあまり声も出てしまう。

 

―それもこれも・・先輩のせいだ。どうしてくれるのだ・・。

・・・。ごめんなさい・・・。先輩。

 

「お。おはよ。七咲。」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

「はっ?」

 

―・・・しまった。

 

完全に謝罪モードの精神状態で当の本人―広大に不意に話しかけられた瞬間に反射的にその言葉が出た。はい、ようこそおいでませ。新たな恥。

 

「あ・・。」

 

「あ?」

 

「う・・。」

 

「ん・・?」

 

「・・。」

 

「今何か都合悪かった?ゴメンいきなり話しかけて。」

 

「あ。すいません・・。」

 

―・・ダメだ。こりゃ。

 

「いや・・じゃあね。・・ごめんね。」

 

「あ・・え、えと」

 

―行ってしまう。ちょっと、ちょっと・・待って先輩。

 

「・・先輩。」

 

「ん?」

 

「先輩ってその―」

 

「・・?」

 

 

「何か私にしてほしいことないですか?」

 

 

ド直球。何だかんだで結構この子危なっかしい子である。今も昔も。

 

「・・!?してほしい事?」

 

「何でもいいんです!言ってください!」

 

「はぁ・・!?何で?そんないきなり・・。うーん・・・。」

 

広大思考中 ・・

 

―・・・!!うっわ。我ながら最低な案を思いついてしまった。いや・・まぁ七咲もこう言っている事だし・・?

 

「七咲・・今日はお弁当?」

 

「・・・?はい。」

 

「じゃあ昼にお弁当を俺の奴と交換してくれないかな?」

 

「え?」

 

「嫌じゃ無ければなんですけど。」

 

「解りました!そんなことでよければ喜んで!」

 

先程までの不安な顔がけし飛ぶような笑顔で七咲はそう答え、七咲は意気揚々と去っていった。

あまりの唐突な出来事に放心状態だった広大も気を取り直して歩き出す。そして徐々にどす黒い罪悪感に包まれた。

 

―ごめんな・・七咲。

 

 

昼休み―

 

いつもの更衣室裏にて

 

「先輩のお弁当は・・チャーハンですね。おかずはお肉の野菜巻き・・おいしそうですね。」

 

「七咲のは・・。」

 

「あ。すいません・・今日のはあまり豪華じゃないです。」

 

「・・?七咲今日謝ってばっかりだな。どうしたの?」

 

「いえ!何でも無いです。」

 

「・・そ?んでと・・。・・え。これで豪華じゃないの?唐揚げにごぼうサラダにかやく御飯。塚原先輩も言っていたけど・・ホント凄いな七咲?普通に美味しそう。」

 

「あ、有難うございます・・。昨日の残り物なんです。お口に合えばいいんですけど。」

 

「・・・。」

 

「どうかしましたか?」

 

「・・・。」

 

「先輩?」

 

「よかった・・。」

 

広大は少し笑ってそう呟いた。

 

「え?え。え。」

 

―え。これってひょっとして・・喜んでくれてる?

 

嬉しい。

 

「では。いただきます。」

 

「はい!どうぞ!召し上がれ」

 

しばし沈黙に包まれる。

 

「あ・・おいしい。」

 

「ホントですか!」

 

「うん。ホントに。」

 

「そうですか!有難うございます!」

 

「いや、こちらこそ。」

 

―・・。いや。ホントに。マジで。

 

「先輩のおべんとも美味しいです。先輩のお母さんお料理お上手なんですね。」

 

「そうなのかな・・?やっぱり毎日食べてると実感しづらいんだけど。」

 

「そうです。感謝しなきゃだめですよ?」

 

「うん。そうだね。」

 

「このお肉の野菜巻きも美味しい!中のニンジンと『アスパラ』も味がちゃんと沁みてるし。」

 

「・・・。」

 

「チャーハンもお米がパラパラだし、コーンとか『アスパラ』とかの具にもちゃんと下味付けて

ますね。」

 

「・・・。」

 

「最後にサラダ。ブロッコリー、カリフラワー、『アスパラ』とハムをマヨネーズと和えて栄養バランスと色どりもOK!ですね。」

 

七咲洩れなくいい笑顔。パクパク食べる女の子の姿は中々に微笑ましい。

だが今の広大は笑えない。とてもとても笑えない。

 

「・・・。」

 

「先輩。いいお母さんなんですね。私の変わりにお礼を言っといてください!」

 

―はっ。気付けば「先輩のお母さん」を連呼してる・・。は、恥ずかしい。

 

「・・伝えるよ。」

 

「・・は、はい。」

 

妙な沈黙に包まれる。だが意図するところはお互いに全く違う。

 

―ゴメンな七咲。本っ当に・・・・ゴメン。

 

 

 

 

 

昨夜の晩の出来事である。時間は九時半。

広大の実家、居間にてその事件は起こっていた。

 

「広大。一体何回言ったら解るの!?」

 

「解んない人だな・・母さんも。」

 

広大の母と広大は不穏な空気に包まれていた。

 

「全く・・ホントにあんた私の子?情けなくなってくるわ・・。」

 

広大の母は頭に手を当てやれやれと首を振りながら「子供には言っていけない台詞のワースト5」に入りそうな言葉を簡単に言い放つ。

広大の母親はこういうタイプだ。叩き上げのキャリアウーマンで基本旦那より稼ぎがあり、当然仕事も出来る。杉内家でも権力の頂点に立つ。それ故実の息子に対しての罵倒は相当辛辣だ。

 

―は~・・・この母親は・・!

 

この母子の会話から「相当の修羅場だ」。と、普通は思うであろう。しかし―

 

「犯人はあの家政婦に決まってるでしょ?「あの」稲村高一が演じてるあのカッコイイ敏腕弁護士が犯人なわけ無いじゃない!何考えてるの!」

 

「稲村 高一」は広大母が十年来ファンを続けている俳優であり、数年前ゲス不倫騒動を起こして以来ハッキリ言って落ち目だ。だが胡散臭いイメージが付いた故か最近こういうテレビサスペンスものではいい小物感をだしている。

 

しかし広大母はそれを認めたがらない。当の役者本人は開き直って自分のイメージを仕事のタネにし、同時飯のタネにしているにもかかわらず、一ファンが過去の栄光に縋っている。滑稽な話だ。

 

「ちゃんと見ろよコイツ、台詞からして胡散臭いじゃん!主人公に対して『一見味方っぽいように振舞いつつ実は暗躍してたけど、その中で下手打って結局犯人とばれる典型的タイプ』だろ!どう見ても!」

 

まぁ・・こういうわけである。

 

三十分後。再びテレビを指差しながら得意気に広大母はこう言った。

 

「ほら見なさい!家政婦が捕まったわよ。これで事件解決よ。」

 

「んなわけねぇだろ!まだ十時にもなってないんだぞ。」

 

更に十分

 

「この家政婦・・まだとぼけるつもり?『私はやって無いんです。』で罪から逃れられたら警察要らないわよ!てかサスペンスドラマいらないわよ!」

 

「こういうのは『証拠を出せ』と言いださない限り犯人じゃないって・・。」

 

 

『刑事さん・・私を疑うからには証拠はあるんでしょうね?』

 

 

三十分後・・ブラウン管の中の取調室にてそう言いだしたのは「あの」稲村高一演じる弁護士だった。

 

「・・・。」

 

「いや・・母さん?まだ解んないよ?裏があるのかも・・。」

 

二分後・・

刑事『ネタは上がっているんだ。覚悟するんだな。』

 

弁護士もとい犯人もとい稲村高一『・・・アイツが悪いんだ!!』

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

―落ちんのはえぇな!!

 

「・・・」

 

無言で広大の母はそっとその場を去った。そして台所から料理をする音がする。広大の家では母が朝早いため、前日に弁当を調理しておくのが通例となっている。

 

その翌日―

二時限目の休み時間。2-A

 

いつものように早弁のため広大は弁当のふたを開けた。

 

「な・・・にぃ・・!!???」

 

カポ・・。即蓋閉じる。

 

「食べられるもんが一つもない・・。やりやがったな。」

 

広大早弁を即断念。

 

その三分後である。・・年下の女の子の弱みに付け込んで広大が弁当を交換要求したのは。あの母親在ってこの子供ありである。

 

杉内・・いや「ゲス内」母子の策略の最大の被害者―七咲 逢。

 

「解りました!そんなことでよければ喜んで!」

 

・・可決。

 

―・・。痛むな良心が。

 

そして現在。

 

「御馳走様でした。先輩。」

 

―・・やった!全部食べてくれた。

 

「こちらこそ御馳走様。七咲。」

 

―・・やった。全部食べてくれた。

 

自分の弁当箱の空箱を前に思った事は全く同じ文体でも意味合いが全く違う。

そして全く対照的な心象で二人は小春日和の中、日光浴をした。

 

「いい天気ですねぇ。先輩。」

 

「・・そうだねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10 そうだよ

 

「あんた今年のクリスマス空いてる?」

 

広大の母はコタツに入りながら剥いたミカンの皮をつまんでスプレーのように果汁を広大に飛ばしながらそう言った。普通に聞けないのか。

 

「ん?創設祭に顔出すって言ったはずだけど?」

 

「じゃなくて!イブじゃ無くてクリスマス!25よ。夜。空いてる?」

 

「うん・・空いてるけど。」

 

「なっさけ無いわねぇ。彼女ぐらいいないの?」

 

「空いてるか」と聞いて「空いてる」と答えたらけなされる。異次元の会話だ。

これで「空いてない」と答えたら、どう答えられるのか試したいところだが生憎その予定は無いところがまた悔しい。

 

「ま。いいわ。ちょっと付き合いなさい。たまには家族でごはんも悪くないでしょ。」

 

「えぇ!?なんでまたいきなり。やだよ。」

 

「ほほおうう?そんな事を言っていいのかしら?今年はスペシャルゲストを呼んでいるのに。」

 

「うわぁ・・胡散臭い。」

 

「聞いて驚け。塚原家よ。」

 

「ふ~~ん・・。・・!何ですと?」

 

「悪いのは頭だけにしなさい広大。」

 

 

「たまにはいいでしょ。久しぶりに響香とアタシの日程があったし春樹さんもお父さんも仕事で遅れるけど参加するって。」

 

「春樹」は塚原の父親の名前である。

 

「おじさんも!うわ久しぶり。」

 

「勿論響ちゃんも来るわよ。」

 

「・・ふーん。」

 

「アンタは喜ぶと昔から瞬きが増える癖がある。」

 

「!」

 

「嘘よ。あっつかいやすいわねぇアンタは。ヘンな女にひっかかるんじゃあ無いわよ?」

 

「・・」

 

―ぐ・・くっそー。父さん、何故こんな女を選んだんだ。

 

「ま。響ちゃんの大学合格祝いも兼ねてのクリスマス会になるでしょうよ。」

 

そう言った広大の母の眼は実の息子を見る目より澄んだ母親の目になっていた。

 

響香が広大を本当の息子のように思ってくれていたように広大の母もまた塚原を娘のように思っていた。お互いに女の子のみ、男の子のみの家庭を築いた互いの境遇のちょっとした「不満」というにはあまりにも些細な綻びを親友同士で埋めあったのがこの二人だ。

 

「お互いの子供を実の子供のように愛し、育てられる間柄。」

 

この点に関しては、広大は自分の母を尊敬している。一時期広大の母と衝突し、ぐれた広大の実兄も結局は更生した。共働きで基本キャリアウーマンな母は多忙ゆえに少し不器用な愛情を兄に注ぎ過ぎた。放任し、

 

「自らが納得いかなければそれを訴えろ、ぶつかって来い、努力しろ。・・すべて受け止めてやる。」

 

母の愛情は何とも男前だった。

ただ思春期に入る前の甘える事を本能的に欲する男児にそれを課したのは幾分酷だった様だ。

幼さゆえにその母の遠回しの愛情に苛立ちを覚えた兄の非行は不可避だったのかもしれない。

しかし―

そこで実の母とは対称的に塚原の母は辛抱強く面と向かって兄に接した。

まだ幼い次男の広大の面倒を見つつ、遅くに帰る親友の長男に決して怒ったり、侮蔑の色を浮かべたりせず、帰宅を歓迎し、温かく向かい入れる。

兄にもプライドがある。あのうっとうしい程たくましい母とは異なり、繊細で不器用な愛情を向けてくる響香を突き放す事を決してしなかった。

 

形は違えどどちらも紛れもなく愛情。自然と兄は歪みかけた方向を修正し始める。

不平不満はある。でも双方ともに確実に存在する愛情を自覚し、受け取った人間が道を踏み外す事は中々に難しい。この二人の母は強敵だった。

 

二人で「母」だった。

 

「何よ?」

 

「何でも無い。」

 

「・・・?ま、いいわ。で、アンタ。着ていく服はあるの?ちょっといい店行きたいからいつものカッコじゃやぁよ?恥ずかしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日2-A

 

「やったじゃん広大!おばさんも粋なイベント開いてくれたね。」

 

「・・それでちょっといいカッコしたい訳か。」

 

広大の「事情」に精通している国枝、源の両名は心底その朗報を喜んでくれた。

 

「と、いう訳でどっかいい店知らないかな?俺全くそっちの方解らないから。」

 

「ん~ちょっといい店でおまけに塚原先輩が来るのか・・確かに下手なカッコじゃいけないな。」

 

「おまけにウチの母の判定が入る。パスできなければ罰としてこの日の俺の食事代は俺の今年のお年玉から引かれる。」

 

「・・嘘だろ?」

 

「いや、やるね。」

 

「広大・・君のおばさんおっかないね・・。」

 

心底同情する源。

 

「ま。そういうことなら薫が詳しいか。」

 

マイペース国枝。

 

「んー?そうねぇ・・隣町の集合モールまで行けば一つはいい店あると思うわよ?吉備東デパートはウィメンズはそれなりだけどメンズの入ってる店舗は数も質も今一つだからね。女の子のリング、イヤリング、ネックレス、バングル、アンクル、レギンス、ソックス、カチューシャ、果てはチョーカーまで・・女の子の小物に関しちゃ他の追随を許さないだけに惜しい所だわ」

 

国枝に召集された棚町薫は腕組みしながら、流石のファッションリーダーさを披露。広大は基本頷くだけである。

 

「へぇ・・。」

 

「古着屋ならちょくちょくここら辺はあるんだけどね。ただ・・ちょっと『良いお店行く為にキレイに正装』と、なると荷が重いかな・・。状態も微妙でサイズも揃わない場合が多いし。」

 

「んー・・難しそう。」

 

「ま。サイジングは大事だとアタシは思うワケ。服を「着る」か服に「着られる」かを決める上で大事な要素よ。」

 

「着るか着られるか・・なんか侍みたい。」

 

「そう!いつも真剣勝負よ!限られた予算の中でどれだけ自分を満たしてくれるイイ物をお得に買うか!ショッピングは戦争よ!」

 

「・・薫。プロパガンダはそれぐらいにして、本題に入ってやってくれ。」

 

横道に逸れそうな棚町を何時ものように国枝は諌めてくれた。

 

「ん!?うーん。でもこればっかりは一緒にお買い物行かないとね。口で『これがいいと思うよ』って伝えるの案外難しいの。杉内君の体形とか似合う色とか着て、見て初めて解るから。」

 

「・・成程。薫にしてはまともな意見だ。ごふっ!」

 

「・・何か言った?直衛?」

 

「うひ~。直~・・失言は程ほどに~」

 

―人間って本気で殴られたらこんな音がするんだね・・。

 

源が苦い顔をして笑う。

 

「・・流石だね。棚町さん。」

 

―色んな意味で。

 

「ふふふん。伊達に苦労人していません。うーん・・一緒にお買い物いけたらいいんだけどね・・。あたしもバイトあるし、源君と直衛は?」

 

「ごほっ・・わ、悪い。俺予備校。」

 

「ゴメン広大。俺も創設祭の用意が大詰めに入ってるから厳しいかな。」

 

「いや・・こっちこそゴメン。こんな忙しい時期に相談して。」

 

三人とも真っ当な理由で忙しい。万年暇人広大が無理を言う訳にも行くまい。

 

「叶う事なら女の子の意見が欲しいところね。いざとなったら女性の店員さんに聞くのも手だと思うわよ?ただ同年代じゃないからな~。」

 

「・・だったらいっその事一緒に行く塚原先輩に相談するっていう手もあるけど。広大?一石二鳥じゃん。」

 

「あ。それもアリね。」

 

「うーん。それはちょっと・・・。」

 

意外にも当の広大が渋った。

 

「そうなの?うーん。」

 

「・・ま。本命の相手に変身する姿を決めてもらっても、か・・確かに本末転倒かも知んネ」

 

「・・う~~ん女の子ねぇ・・一緒に行けるような子他にいそう?杉内君」

 

「う~~ん?ん?・・あ。・・でもな~~どうだろな~~」

 

「「「・・?」」」

 

 

 

 

「・・放課後、ですか?」

 

体育の授業を終え、水道の蛇口を空に向け口をゆすいでいた七咲を見つけ、広大はダメ元で聞いてみた。恐らく七咲は性格からして塚原の感覚に近そうだと言う判断である。

 

「別に・・構いませんよ?」

 

「あ・・でも七咲部活は?。」

 

「大丈夫ですよ。一日ぐらい。」

 

「ホントに?」

 

「ええ大丈夫です。・・それに水泳部は創設祭の件で先輩には実際いろいろお世話になっているんだし・・それぐらいの頼まれごとぐらいさせて下さい。ただ『お役に立てるか』、は解りませんけど。」

 

「・・ゴメンな。急で。」

 

広大の謝罪にもう七咲は反応しなかった。ほっとけばまた謝りだしそうだからだ。

 

「隣町のショッピングモールかぁ・・私行った事ないです。先輩は行ったことあるんですか?」

 

「・・正直俺も行く道が解る程度。でもクラスメイトの女の子がいくつかおススメのお店リストアップしてくれたからとりあえずそこに行ってみるつもり。」

 

「・・クラスメイトの女の子・・絢辻先輩ですか?」

 

先日のメロンパン事件以降―なぜか七咲は絢辻関連の事になると妙に落ち着かない気分になる。

 

「ん?いや、違うけど。」

 

「そうですか。」

 

「・・?とにかくありがとう。じゃ放課後に。」

 

「では放課後校門で。」

 

「いや。教室で待ってて?迎えに行くから。」

 

「・・。はい。」

 

意外そうに眼を丸くした後、嬉しそうに笑って七咲は頷いた。

 

 

放課後 1-B。

 

七咲のクラスでの出来事である。

 

「だ、誰だあの男は!」

 

「美、美也ちゃん・・?」

 

「あ・た・し・の逢チャンを連れて行ったあの馬の骨は誰だ!」

 

「美也ちゃん・・怖いよう。」

 

ちょっとしたクラスメイトの修羅場も知らず、教室に現れた名も知らぬ恐らく年上の男子にあまりに自然に七咲はついていった。それがどうも橘 美也は面白くないらしい。

そのクラスメイトで同時友人であり、また七咲とも仲がいい中多 紗江は猛烈なとばっちりを受けている。

 

「失礼します。中多さんいますか~?」

 

「あ。御崎先輩。」

 

あぁ助け舟。

 

「ああ!元祖馬の骨!!!しゃあああああ!!」

 

威嚇。

 

「ええ~~ひどい~」

 

沈没。

 

「美、美也ちゃ~ん。」

 

「・・。嫌われてるなぁ・・僕。」

 

「逢チャンだけじゃなく紗江ちゃんまで私から奪おうというのか~!うにゃあああああ!!」

 

「・・棚町さんが今日バイトでてるから色々教えてくれるよって言いたかっただけなのに。」

 

「ホントですか!」

 

「うん。それで新メニューのパフェの試食もまたして欲しいからぜひ連れてきて欲しいって。」

 

「え。パフェ!?わーい!美也も行く~。」

 

「・・・ふぅ。」

 

「・・・ほっ。」

 

中多と御崎は漸くホッと一息ついて苦々しそうにお互いの顔を見合って笑った。

 

 

 

一方隣町の海央(みおう)市のショッピングモールに着いた広大は棚町の渡してくれたメンズショップの名簿とモールの案内図と格闘していた。その広大を尻目に七咲はクリスマス用にイルミネーションされたモール街を楽しそうに見回している。

 

木々には色とりどりの電飾とクリスマスらしい星や靴下などの飾り物、流れる音楽もこの季節にジャストフィットする往年のクリスマスソングである。

 

「わぁ・・クリスマス一色ですね。先輩。」

 

「ん~???」

 

「もう・・地図見せてください!・・。先輩・・これ向き逆です・・。」

 

「え・・あ。」

 

「くすっ。」

 

正しい向きに変えた地図は容易に広大たちを目的地に運んでくれた。

 

「『・・お値段はリーズナブルでサイズも豊富、高級感は無いが素朴でスタンダードな綺麗めの服が多いのでおススメ。試着もできるのでこの店で自分のサイズをある程度把握して他の店を回ると吉。』と、書いてある・・」

 

最初に訪れた大手大衆アパレルショップの事を棚町メモはそう書いてある。・・おみくじの様な文面だが解りやすくて有難い。

 

「親切で丁寧なヒトですね。先輩のお知り合い。」

 

「全く。」

 

店内で適当に見繕った商品を手に取り、とりあえずはまず着てみる。

 

Vネックセーター、ケーブルセーター、カラーパンツ、ネルシャツ。長袖シャツ。サイズはМ。

 

「うーん。普通ですね。」

 

「七咲・・その意見が一番辛いかもしれない。」

 

「そういえば先輩って普段私服はどんなの着ているんですか?」

 

「ん・・?ん~基本楽な格好。普通のジーンズにパーカとか。」

 

「成程。普通ですね。」

 

発展性。ゼロ。

 

「・・。」

 

恐らくその格好で出たならば自腹を切る事は確実になるだろう。広大の母ならやる。お年玉没収など何の抵抗も無く。

 

「・・ちょっと店員さんに色々聞いてみますね。先輩はちょっとここで待っていて下さい。」

 

「うん・・。」

 

その間広大は試着室で脱いだ服を黙々と畳みながら七咲の帰りを待っていた。

 

―自分に似合う服なんてあんまり考えた事無いからなぁ・・。

 

頭をカリカリと掻きながら制服のブレザーを羽織ろうとした時に七咲が戻ってきた。

 

「あ、先輩。ん・・?」

 

「ん?」

 

「あ・・!」

 

「ん・・?どうかした?」

 

「先輩って何時も思うんですけど・・制服が似合ってますよね・・?」

 

「・・?そう?」

 

「はい。髪も短めで首元もすっきりしてるし手足が細長いから身長も高く見えます。そっか・・制服って良く考えてみると『正装』だからそれが似合うってことは・・。」

 

「事は・・?」

 

「特にいつもと違う格好をしない方が先輩らしいし、似合うんじゃないかと思うんですけど・・どうでしょう?」

 

「・・ふーん。解った。一回それで見てみようかな。」

 

―・・先輩って本当にМサイズですか?

 

―・・うーんまぁいつも着てるサイズだから適当に選んでみたんだけどね。

 

―ちなみに制服は?

 

―それはS。入学当初の奴だし。

 

―でも今でも問題無く着れているんですよね?

 

―うん。確かに不自由さは感じてないけど。

 

―だったらきっとSの方がいいと思いますよ。小さいサイズ持ってきますね。

 

 

 

―あ。先輩?ちょっと野暮ったさが消えたかも・・。きつくはないですか?

 

―うん・・特に問題なし。

 

―でしょう?こちらの方がすっきりしていていいと思いますよ。

 

―そういや棚町さんも言ってたかな。「サイジングは大事だ」って。

 

―じゃあ下も上に合わせていつもより小さめの方がよさそうですね。

 

七咲ボトムス調達。

 

―色はどうします?

 

―カーキと茶色と黒×緑のチェックか・・。ピンとこないから全部試してみるよ。

 

―帽子は?

 

―被った事無い。

 

―これもいい機会です。試してみましょう。

 

―おう・・ってハンチングキャップ!?これ被れって?

 

―適当にとってきました。何となくですけどきっと似合います!

 

―ホントかよ・・。

 

 

 

コーディネート終了―

 

広大は恐る恐るカーテンを開けた。と言っても最初は不安そうに顔を出すだけで、七咲に急かされて漸くであった。とことんチキンな男である。

 

「・・・どう?」

 

「・・・あ。」

 

「・・やっぱダメかな。」

 

―いや・・これは意外。先輩―

 

かっこ、いいよ?

 

白のカッターシャツにネイビーのPコートを羽織り、下は黒と濃い緑のチェックパンツ。靴がまだスニーカーなので浮いているがそれさえ変えれば十分だ。おまけにハンチングが予想以上にあたった。もともと広大は頭も小さいため小ぶりのハンチングがバランスを壊さずにのっかっている。

そこが・・なんか

 

―先輩・・カワイイ。ふふっ・・。

 

くすっ・・いけない。自然と笑ってしまう。こりゃ大変身だ。先輩。

 

「・・七咲?」

 

「あっ・・は、はい?」

 

「な、何か違う?やっぱり。」

 

「あ。すいません!いえ大丈夫ですよ先輩。・・・素敵だと。」

 

「・・ホント~?」

 

「ホントにホントです!」

 

「・・そっか・・七咲がそう言うなら・・コイツにしようかな。」

 

 

 

 

 

 

一旦買い物が一段落し、二人はフードコートにて一息ついていた。

広大の足元には左右に二つ巨大な買い物袋が席巻しており、せまっ苦しい。

 

「・・なんか七咲と居る時って俺いつも両手に何か抱えてる気がする・・。」

 

「え・・?ああ~そう言えば・・。」

 

ゴミ拾いの時も。おでんの材料の時も。今日も買い物袋で両手が一杯である。あと・・

 

「森島先輩と響姉と七咲と帰った時・・あれも後々「両手に花」とか言われちゃったし。」

 

「ま。あ・の・塚原先輩と森島先輩ですからね~~。」

 

少し七咲は口をとがらせた。先輩二人の名前をわざとらしく強調して。

 

「あ。別にそういう訳で言ったわけじゃないって。」

 

「知ってます。」

 

「う~~・・。ま、いっか。七咲?どっか行きたいところある?」

 

「え?私ですか?」

 

「うん。俺の買い物は最初の店でほぼ終わったしね。見たい店とかない?」

 

「私はここ初めてなのでどういうお店があるか解らないし・・それにあんまり持ち合わせも無いですから結構ですよ。」

 

「思ったより安くついたから少しなら出せるよ?一緒に来てもらったお礼はしたいし・・。」

 

「いいですよ。電車代も頂いているのにおねだりなんて出来ません。まだ先輩の靴も買わなきゃいけないんだし・・ところで、どれくらい予算残ってるんです?」

 

「・・上下一式買ったさっきので半分いってない。」

 

「え・・?そんなにくれたんですか?先輩のお母さん。」

 

「そうなんだよ・・。気味悪いぐらい大奮発でさ・・。」

 

「へぇ・・でも偉いですね先輩。出来る限り安くすませようなんて、お母さん想いなんですね。」

 

「・・甘いな七咲。」

 

「え?」

 

「もし今回の服選びをミスった場合、俺はクリスマスの外食代をお年玉で自腹を切る事になる。これはさっきも言ったよね?」

 

「はい・・。そういえばそんな事を。」

 

「詰まるところそのミスった服に払った代金まで俺は負担させられる可能性が高い。よって無駄金は使えない。お年玉が年始早々枯渇するハメになる」

 

「え・・?はは・・冗談・・です、よね?っていうか私・・クリスマスの外食代云々のお話の方も冗談だと思っていたんですけど・・?」

 

「・・現実は非情である。」

 

「はい!?私責任重大じゃないですか!あんなに簡単に決めちゃって良かったんですか!?」

 

「・・俺一人で考えてもしょうがなかった。結局俺が選んでも爆死は免れないだろうし。自分のセンスの無さは重々承知しているから。」

 

「な、なんなんですか?その悲壮な諦めは・・。」

 

「七咲・・君はきっといい家庭に生まれたんだね。・・いいんだ。もう・・。」

 

「よくないです!先輩がもしそんなことになったら半分私のせいになるじゃないですか!」

 

「不運と思って諦めてくれ。」

 

「最っ低です!」

 

「運命共同体ってことで。」

 

「えっ・・・!」

 

―・・ええい!ときめくな!私!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後―

 

「大分暗くなっちゃったな。帰ろうか。」

 

「はい。」

 

「とりあえずお年玉没収云々は全部冗談だ」と広大は言っておいた。まぁ現実は本気で変わらないのであるがさすがに七咲が気の毒だった。

しかし・・出会ったころに比べると随分とからかいがいのある子に七咲はなった。

表情も豊富。楽しそうに暗くなったモール街のイルミネーションを見回している。

 

―・・成程。なかなか可愛いんだなこの子。

 

第一印象はお世辞にもいいとは言えなかったが変わるものだ。

しかし根のところは何も変わっていない。真面目で一生懸命で少し皮肉屋なのが玉にキズだ。

いつの間にか塚原に次いで信頼できる女の子になっている。本当に不思議なものだ。

 

「先輩?」

 

「・・ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「今日は本当にありがとう。七咲。」

 

「・・・。」

 

その広大の言葉から七咲は何かを感じ取った様に押し黙った。

 

「俺頑張るからさ。どっちに転がってももう納得できると思うんだ。」

 

「・・・。」

 

七咲は広大から目をそらさなかった。一見傍から見れば無表情に見えるがきっちりと笑っている。

人間口で笑っていても目が笑っていなければ他人に与える印象は全く違う。

彼女の場合は真逆だった。口は笑っていなくても目は優しく微笑んでいた。

両手はいつものようにクリーム色のジャケットのポケットにしまいこんで。

 

「先輩、響姉に伝えてみる。あれだけ傍に居て全く使った事が無い言葉だけど・・今なら言えると思う。」

 

信頼、感謝、敬愛よりももっと根本的で直情的な言葉。感情をこめた言葉。

 

「・・そうですか。」

 

七咲がようやく口を開いたと同時に彼女の表情が変容した。一切の妥協の無い笑顔だった。包み隠さず全力の笑顔で最後に―

 

 

「・・頑張って下さい!」

 

―・・言えた。・・良かった。

 

 

「・・うん。じゃ帰ろう?遅くなってゴメン。送るよ。」

 

「はい。」

 

 

 

 

―これでいい。これで。

 

良く頑張った。私。

 

もしこれでこの人とあの人が離れていこうとも、自分には手の届かない二人になろうともきっと祝福できる。何の事は無い。もともとこうなるはずだった。

この人が現れていようと現れなかったとしてもいずれは訪れる時だったのだから。

ただ―

現れたせいで失うものが少し多くなっただけだ。

手に入れたものが多い分、失うものも増えただけ。当然の事じゃない。

 

 

 

・・だからお願い。

 

 

 

鳴らないで。響かないで。

 

 

ポケットの中の右手に光るプーの鈴を七咲は強く握りしめる。

握りつぶしそうになるくらい、しかし暖かく包み込むような矛盾した力で。

 

表情は完璧だった。仕草もいつも通り。

 

すべての「もの」はこの右手の中にしまい込んだ。

ポケットと手に覆い隠されて広大には絶対に見えない。

 

鳴らなければ。響かなければ。

 

七咲が覆い隠した「もの」もまた―

 

信頼、感謝、敬愛よりももっと根本的で直情的な言葉。感情。

 

今更ながら七咲は思い出す。感情の堰が崩壊し、言いたい事をただ言いあったあの時。

まだ二か月程前の遠い遠い日に広大に言われた言葉。

 

―人を本当に好きになった事なんてないんだろ!?

 

 

―・・そうだよ。

 

 

ありふれた陳腐な言葉。使い古された何処にでもあるような言葉。

ちょっと探せば何処にでもあるような言葉。

でも今は解る。

 

そうだよ。

 

そう「だった。」

 

今私は初めて先輩に言われたこの言葉の本当の意味を理解して。

 

今私は初めてこの言葉を喪った。

 

私の中から・・永久に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ふむ・・。」
帰宅後さっそく広大の母による厳正なチェックが開始される。既にレシートは取り上げられ、パスされなければ今日の会計から年始早々身も懐も凍るお年玉の徴収が始まる。

「・・どう?」

「うーん。」

そう唸りながら広大の母はリビングから出ていく。行動の主旨が相変わらず分かりにくい。

「・・・?」
二分後―リビングに再び広大の母は戻ってきた。

「コレ巻きなさい。色目が少し暗いわ。それ以外はOK。」

そう言って広大の母は赤地の幾何学模様のマフラーを広大の首元にまく。意外なほど繊細な優しい手つきで。

「・・。」

―あれ・・?俺何で照れてんだろ・・?

「うん!悪く無いわ。」

鏡に映った息子の姿を見て広大の母は何時に無く上機嫌でほほ笑んだ。

「それじゃ・・。」

「・・正直に言いなさい。アンタが自分で選んだんじゃないでしょ。」

「う・・。」

鋭い・・というより解るだろう。明らかに広大のセンスで選ばれた物ではない。

「響ちゃん?」

「ううん。」

「でしょうね。アンタにそんな勇気ないでしょうよ。じゃあ店員さん?」

「それも違う。・・一緒に行った友達だよ。」

「ふーん。」

「・・ひょっとしてダメ?」

「ふっ、ま、いいでしょ。パスにしといてあげるわ。なかなか似合ってる。」

素直な母の一言だった。

「マジで?」

―・・やったぁぁぁ・・。

「やれやれあんたって子は・・。自腹を避けれた事が嬉しいの?」

「あ・・。」

―あ・・。

「全く・・アンタは自分の事を喜ぶ前に感謝するべき人が居るでしょう?一緒に行った子が誰だか知らないけど一生懸命考えてくれたはずよ。ちゃんとお礼言っときなさい。」

「あ。うん!」

「・・。嬉しいわね。」

「え?」

「響ちゃん以外にもちゃあんとアンタを見てくれている人が居るってことよ。・・大事にしなさい。」

「ちゃんと見てくれて・・・る・・?」

―・・七咲が?

「はい!私の気が変わらないうちにさっさと着替えてきなさい。・・当日までにそれ汚したら殺すわよ?そのマフラーも安く無いからね。」

物理的にまで具現化された殺気に広大の身は縮む。

「・・。はい。」

やや恐怖で硬直したまま広大は自分の部屋に去り、広大の母は一人リビングで物思いにふけった。
出会った事の無い、名も顔も知らない広大の「友達」を思う。
源、国枝、梅原、茅ヶ崎、棚町等の息子の友人達とは彼女は面識がある。

ただ「今日の」はちょっと違いそうだ。その証拠に広大は無意識に名前を出さなかった。
広大の母に面識のある彼らなら何の気兼ねもなく広大は言うはずである。恐らくその子達の誰かではない。全く別の子だろう。
名前も知らず、顔も解らない、しかし広大に今回の服を選んでくれた「友達」。
恐らく一生懸命に。
与えられた断片にすぎない情報。そこに含まれる僅かな、その広大の言う「友達」の感情を感じ取って広大の母は笑った。
何の確証もない。
だが根拠のない確信が何故か彼女を包み込んでいた。

―広大もなかなか捨てたもんじゃないじゃない♪

そして唐突に落ち込んだ。

「・・ひょっとして男・・・?だったらどうしよう・・。」

久しぶりに息子の事に関して真剣に広大母は悩んだ。






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