ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートA 終章 アイのために

終章 アイのために

 

 

 

 

 

 

 

 

根雪の上に新雪が積み重なる。

ホワイトクリスマスがただの「雪の降った日」に変わる三時間前、広大は彷徨っていた。

頭の中で選択と排除の積み重ね。

意外にもこの短い期間に「あの子」と積み重ねた日々の厚さを知る。

 

それでも絞るのは容易だった。いくつかの選択肢はすぐに排除され、綺麗に一つだけ残った。

 

創設祭の翌日―生徒は基本的に午後以降校内立ち入り禁止である。

創設祭のステージなどの大型の物資を運び出す際の危険性を踏まえ、立ち入りを許可された幾人かの実行委員の生徒、引率する教師が資料の整理を行うのみである。

そう考えれば「あの子」の性格上、「あの場所」は即刻選択肢から除外されそうなものだが今の広大には「あの場所」意外に考えられなかった。「あの子」が「あの場所」を大切にしているのが人目にも解ったからだ。

塚原が待ち、プーが待ち、広大が待っていた場所。

別に広大は「あの子」の全てを知っていると言えるほど自惚れている訳でもない。正直解らない所の方がまだまだ多いはずだ。でも何処か「あの子」の習性のようなものがまるで猫が自分の安住場所に帰ってくるのと同じように「あの場所」に帰結させる―そんな奇妙な確信が広大にはあった。

 

閉じられた吉備東高校門をひょいと飛び越える。見つかったら反省文どころではすまない。ただ

 

―クリスマスなんだ。見逃してくれ。

 

サクリという音をたて、新雪に着地した広大が見たのは―

 

「・・・。」

 

雪化粧をした夜中の真っ暗な誰もいない学校。何ともレアな光景だ。

 

いざ来てはみたもののその光景は一抹の不安を拭えない。まるで世界から孤立した廃墟のようにすら見える。昨夜が創設祭と言うあまりにも人間味ある賑やかな光景だっただけに余計に際立つ。

一日経っただけとは思えないほどの変容ぶりだ。人間が居た気配すらまるで感じない。

揺らぎそうになる相変わらず小心なメンタルを寒さで震える体と共に広大は奮い立たせた。

 

普通に考えれば居るワケがない。元々場所も時間も指定していない。ハッキリとした約束をしたわけでもない。何もかもが宙ぶらりんだ。

そして当の「あの子」がもっとも理解していたはずのことでもあるのだ。

 

「今日、この日、この時間に、広大がこの場所に来る訳が無い。」

 

そして広大側から見て逆に言うなら

 

「今日、この日、この時間に『あの子』がこの場所に来る訳が無い。」

 

来ても意味が無いのだから。来る訳が無いのだから。

 

 

「・・・」

 

―その通りだ。何を一人で盛り上がっていたんだろうか?

 

やっぱりいいように言いくるめられたのかな?俺・・。

 

いつの間にか着いていた「あの場所」はあまりにも予想に違わない光景が映し出される。

近くにある街灯でようやく映し出される見た目にも肌寒い白いコンクリートの床に座り、微笑む「あの子」の姿は―

 

望むべくもなかった。

 

あの悪戯そうな微笑みも。

少し皮肉めいた言葉も。

 

・・何も無い。

 

まるで空気まで無くなったんじゃないかと思う様な息苦しさは広大の視界までぐにゃりと曲がらせる。

 

ど、すん・・

 

気付けば広大は仰向けで降り積もった新雪を背に大の字で横たわり、力無く虚空を見上げた。

徐々にしみ込む溶けた雪の冷気が背中を侵食していく。冷えた頭が意識を回復させていく。

 

「・・・」

 

空しさを覆い隠すように両手で顔を覆った。形容しがたい虚脱感と共に何も残っていない自分の両手を見る。必死で自分を奮い立たせようと自問自答する。

 

―・・元々手に入るかどうか微妙だったものが手に入らなかっただけじゃないか。

 

覚悟はしていただろ?

「あの子」にも言ったじゃないか。「どちらに転がろうと納得できると思う」って。

アレは結局強がりだったのか?虚勢だったのか?

 

いや―

 

確かにそうだった。自分でも驚くほどすんなりと受け入れる事が出来たと思う。

「俺案外大人だな」って自分で自分に感心した。

 

・・でも。

 

受け入れていた「それ」とは全く別の場所からの何かが俺を浸蝕していく。

 

 

 

「覚悟する」

 

 

という事は案外楽だ。そもそも選択肢が限られているという状況において選んだ選択肢による結果がどう転がるかは在る程度想像もつく。予想される中で最悪の結末にも考えが及ぶ分、対策は練りやすく、心構えもしやすい。

 

だが覚悟も自覚も全く何もない所から突然現れた「何か」に対して人間はあまりにも無防備だ。

自覚することも出来ぬ間に過ぎ去ってしまっていたという後悔は恐らく「それ」の比ではない。

 

それ程いつの間にか身近だったのだ。常に傍に在ったのだ。近すぎて気付かなかっただけで。

広大は思い知る。

 

二人は知らない。

 

「あの子」が事実ここに来た、そして居たという事実を彼は知らない。

 

また

 

彼が事実ここに来たという事実を「あの子」は知らない。

 

「・・七咲。」

 

今はただひたすら逢いたい少女の名前を虚空に放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻―

 

ぱたん・・

 

自宅に着いた七咲は玄関先で靴も脱がずにうつ伏せに音もなく寝転がった。

 

―もう何も感じない。

 

寒さも痛みも。

 

けど何故涙が出るのだろう。

 

「・・くっ・・っふ・・。」

 

―声をあげて泣いたのは何年振りだろうな・・。

 

短い付き合いで「あの人」には結構泣かされたけど流石に声をあげた事は無かったっけ。

ホント・・最低ですね。でも事実私と「あの人」の間には最早何もない。責める資格など無い。

・・すいません。でも・・これぐらいの愚痴は言わせて下さい。

 

耐えきれそうにないんです。

何せ・・全て「失くしちゃった」から。

もう・・「見つからない」だろうから。

そんな気がするんです。

 

でもこれが・・一番いいような気がするんです。

 

もう忘れられる。諦め切れる。

 

その七咲の思いとは裏腹にまただらしなく涙が出る。

自分を騙せない嘘は流れた涙で打ち消され、また違う意味の涙がこめかみを伝った。

 

―ごめんなさい・・。

 

「先輩・・。」

 

今誰よりも逢いたい人を呼ぶ。

 

少女の足はまるでこの一夜で何十年も彷徨い歩いたかのように泥だらけに汚れていた。

 

 

 

 

 

 

 

再び吉備東校。

未だに寝そべったまま広大は両手を再び大の字に投げ出した。

掌がまだ柔らかい新雪を掴み、軽く握っただけで茶色に変色した根雪に触れる事が出来る。雪達が積もるためにその礎になった根雪は広大の掌であっさりと冷たい水と茶色い泥になる。

 

その時であった。

 

―・・・・ん?

 

唐突に広大の瞳に光が戻る。すっかり冷え切った掌を凝視する。

 

「・・・!!」

 

広大の瞳が大きく見開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝―七咲家宅

 

相変わらず自分は健康優良児だと七咲は思う。あれ程昨夜、鉛のように重かった頭と体がすっきりしている。

 

―まぁ頭の中の水分を出しきっちゃったからなぁ。

 

と、苦笑いする。

 

―・・・。あーあひどいカオ。

 

洗面台の鏡を前に自分の顔を前に七咲はそう思う。苦笑いにしてもひどい顔だ。とても人前に出れそうな顔じゃない。

 

時刻は七時半。規則正しい生活の賜物か、無意識に目が覚める。といってもいつもよりやや遅い時間ではあるが冬季休暇中の水泳部の活動に間に合わせるには支障の無い時間帯である。

 

―なんだかんだ言ってあと一時間半後位にはちゃんと学校に行ってるんだろうなぁ。・・不思議。

 

一時間半後がまるで遥か未来の事のように感じながら彼女は朝のルーティンを淡々とこなす。

恐らく弟はまだ夢の中だろう。起こさないように朝食を作り、弟に書置きを残す。

 

―漢字が苦手だからひらがなを多めに、と。

 

いつも通り朝の雑事をこなし、家を発つ頃に鏡を覗くとカオはいつものように戻って見えた。

 

―若さってスバラシイ♪

 

そう思って玄関に立つとなぜか床の一部分が染みになっていた。

 

―誰がこんなとこに・・って私か。

 

昨晩の横たわる自分の姿が見える様な気がして少し悲しい顔で苦笑いし、少女―七咲は家を発った。弟を起こさないように

 

「音も無く」。

吉備東高校門前―

 

「あ、ナナちゃんおはよう。」

 

「おはようございます。先輩。」

 

「積もっちゃったねぇ。朝までには止んだのが幸いだったけど。」

 

電車通学の一コ上のその先輩は電車が止まらないか、朝のうちヒヤヒヤしていたらしい。

 

「でも天気予報によると・・今日中には溶けちゃうみたいですけどね。」

 

「クリスマスに降るのまぁロマンティックで歓迎にしても・・それ以外の日に降られるとアタシにとって迷惑極まりないからよかったよかった♪」

 

「あはは。そうですね。」

 

先輩に賛同はしたがやっぱり雪の日はいいと思う。弟も喜ぶし、何と言っても四季の中で冬が一番好きな七咲には明確な他の季節との差別化があるこの雪景色という光景は特別だ。

 

―・・もっともそれも今年までかもしれないけど。

 

来年またこの季節が来たらズキッと来るのかもしれないな。・・昨日を思い出して。

 

「・・?ナナちゃん?」

 

「はい?」

 

「どうかした?」

 

「いえ。別に。あの・・先に行っていてもらえますか?私ちょっと寄る所があるので。」

 

「そう?じゃあ後でね。」

 

「はいっ」

 

 

「無駄だろうな」と思っていても何故か体が動く。足が向く。

 

「あの場所」へ。

 

自分に「女々しいな」と思いつつもそうせずには居られない。また昨日に逆戻りしたいのかと冷静な自分が言い聞かせても根っこの自分は正直だった。

 

―これが最後。最後だからね?

 

冷静な自分が根負けして最後のチャンスを与えてくれた。

 

「・・・。」

 

振り返る。

 

広大との時間を。

塚原との時間を。

プーとの時間を。

 

色んな光景が浮かぶ。そしてその時々に浮かんだ色んな感情も。

短くもそれはどれも新鮮でかけがえのない時間。

 

―もう終わり!

 

と、急かす自分を無視して七咲は目を閉じ、耳を澄ます。

寒いけれど何て心地いい朝。風の音、匂い、鳥の声。徐々に目覚め出す街の音が僅かに聞こえる。

 

―いい加減にしなさい!

 

ゴメン。もう少しだけ。

 

―・・。行こうよ・・。

 

・・うん・・行こう。

 

 

 

 

チリン・・。

 

 

 

 

―え?

 

 

 

チリン

 

 

 

―・・?

 

冷静な自分はしゅぼぼと吸い込まれていく。

 

―嘘。

 

 

 

チリン

 

 

 

 

「・・・プー!?」

 

冷静な自分が管理していた最低限の自分を保つリミッタ―を振り切って七咲は駈け出した。

 

―・・あの場所だ。あそこしかない。

 

いつものあの場所へ向かう曲がり角で足を止める。

「すぅっ・・」

 

曲がり角の先を見るのが怖かった。壁を背にして呼吸を整える。波打つ心臓も同時に落ち着かせて。期待しすぎるのはよくない。それは散々思い知った。

 

再び耳を澄ますがあの音は聞こえなくなった。

 

―・・幻聴?・・いや違う!違うもん!絶対!

 

その言葉の勢いで弱気な自分を振り払うように角を曲がる。

 

「・・・。」

 

視力両眼共に1.0以上。当分「君は眼鏡やコンタクトレンズは必要ないだろう」と眼科に太鼓判を押された自慢の光一点の瞳で七咲はその先の空間を凝視する。

 

「・・・。はは・・。」

 

―はぁ・・重症かなこれ・・。

 

今日一体何回目の苦笑いと溜息だろう。今朝は弟がまだ寝ていて本当に良かった。こんな表情を何度も何度も繰り返していたら心配されたに違いない。

 

―幻聴が聞こえるぐらいなら、ついでに幻ぐらい見せてくれたっていいんじゃない?

 

そんなクレームを瞳に言ってその場を去ろうと七咲は背中を向けた。

 

 

チリン・・。

 

 

―もう騙されない。

 

 

チリン

 

 

―いい加減にして。

 

 

チリン

 

 

―もうこれ以上・・。私を惑わせないで。

 

 

チリン

 

 

―もう!一体・・何・・

 

 

 

 

「七咲。」

 

 

 

 

「・・・え。」

 

声の方向に七咲は反射的に振りかえり、視線を追随させる。やや斜め上。更衣室裏の階段の最上段。

 

そこは紛れもない。

 

 

「あの人」と初めて出会った場所で互いの真逆の位置。

 

 

 

 

 

すれ違い、交差した二人の「☓」の先は―

 

 

この場所に繋がっていた。

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

そこには階段に座りながら七咲を無言で見下ろす一人の少年の姿が在った。

初めて出会った時と全くの逆位置。足を開いて両手を軽く合わせやや重心を前寄りにして座っている。

 

そして緩めに握られた両掌から出たその音源が広大の人差指と親指に掴まれ、ようやく七咲の瞳はそれを捉える。

 

 

それは決して咲かないはずの―銀色の蕾。

 

 

 

「・・・やっと来た。いや・・いつも通り遅刻は俺か」

 

 

 

―「あの人」は膝で頬杖つき、そう言って微笑んだ。他でも無い―

 

 

 

私だけに。

 

 

 

「・・・先輩。」

 

 

 

「・・う・・ぃくしっ!」

 

「・・・くすっ。」

 

いつものように肝心なところで決まらない広大の姿を見て、七咲は心底嬉しそうにくすりと笑う。

 

 

 

チリン・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい」

 

広大は七咲に鈴を渡す。七咲は優しい目でひとしきりそれを愛でたのち、いつものようにポケットに仕舞う。同時にそれまたいつもの澄ました顔を作り、広大を見上げた。

 

「有難うございます。・・何処で拾ったんですか?」

 

「・・ここだけど?」

 

「あれ~~?いつ落としたんでしょうね。」

 

「・・覚えてないの?七咲?」

 

「はい。『結構前』に失くしてそのままだったんです。諦めていたんですけど・・見つかって本当に良かった・・。」

 

「・・。そ。」

 

七咲は嘘をついた。

 

七咲はこの鈴を受け取って以来、広大には一度も見せていないし、音も聞かせていない。

普通に考えると広大側には落とした日時を特定できるはずが無い。・・つまり―

 

「昨日とは限らない。昨日自分がここに来たとは限らない。」と、いうこと・

 

しかし七咲側には一方的に、確実に解る事がある。

 

来てくれたのだ。

 

広大はここに。

 

一方的で不確かで無茶な自分の賭けに・・応えてくれたのだ。

 

正直・・

 

泣きそうだ。

 

でもこの数日で七咲は泣く事にかなり馴れた。どうにか抑えるコツは掴んでいる。

 

―押さえて私。

 

下唇をわずかにきゅっと噛みしめ、躍り上がる様に跳ね上がる心と呼吸を押さえつつ、七咲は平静を装ったまま広大を見上げる。・・貴方には聞きたい事がたくさんあるんだ、と。

 

 

「先輩・・。」

 

「ん・・?」

 

「・・どうだったんですか?昨日」

 

「・・。楽しかった。」

 

広大は微笑む。嘘偽りない笑顔で。子供のように。

 

「・・ふふ・・そうでしょうね。」

 

敢えて七咲はその言葉に同調した。彼女が意図した質問の回答ではないが偽りざる広大の本音なのだろうと理解出来た。そしてその笑顔に含まれる何処となく物寂しい表情を七咲は感じ取る。

それでおおよその結果の察しは付いた。もう七咲は聞かない。

 

と、言うよりもう聞けない。

 

・・怖くて。

 

広大が昨夜ここに来てくれたという事実。これが何を意味するのか。自分の一方的な約束に対して何を想い、何を考え、来てくれたのか。そこが知りたい。

 

けど怖い。

 

気まぐれ?確認?義務?責任?それともまた別の・・?

 

「七咲。」

 

「・・はい?」

 

「君は・・ひょっとして昨日ここに来たの?」

 

次は広大側の一手。

 

「来る訳ないじゃないですか・・あの時の言葉、本気にしたんですか?」

 

「うん。」

 

「・・はっきり言うんですね。」

 

「俺だけじゃないからね。本気にしたのは。」

 

「・・?どういう意味です?」

 

「・・響姉も解ってた。七咲はきっと待ってるって。」

 

「おしゃべり・・。卑怯です。塚原先輩に聞くなんて。でも流石に今回は二人共ハズレです。」

 

残念でした、と言いたげにちょっとぺろっと舌を出す。

 

「ホントに?」

 

「ええ。」

 

「・・嘘つき。」

 

「む・・!嘘じゃ・・ありません。」

 

「雪の上にあったのに?」

 

「・・。雪の、上?」

 

「鈴。昨日降った雪の上にそれは落ちてた。昨日雪が降り始めたのは夕方ぐらい。その時間から積もったはずの雪の上にそれが落ちていたのはなんで?君の言うように随分前に失くしたとしたら普通在ったとしても雪の下・・だよね?」

 

「雪の上」・・というのは広大の方便だが確かに根雪と新雪の間には鈴があったように感じた。

それなら「雪が降る前に既にそこに鈴が在った」と言うよりは「雪が積もったその上に鈴が落ちた」と仮定するのが納得できる。

さらに鈴のようなものを落としたとするならば、転がって鳴る鈴の音によって大抵落とした事に気付くはずである。だが、柔らかい雪がクッションになり、音がいつものように響かなかったとすれば、聞き逃し、そのまま放置してしまった可能性は高い。

 

鈴というのはなかなか落として失くすには難しいものでもあるのだ。それこそ捨てようとでもしない限り。

 

ただ、それも先程無い事が解った。鈴を返した直後の七咲の表情から容易に読み取れる。

必死で覆い隠していたようだが隠しきれない安堵の表情。それぐらい広大には解る。

 

「申し開きは在る?」

 

「・・・想像力はご立派です。でも・・先輩の何かの勘違いじゃないかと。」

 

「勘違いか・・まぁ・・それでもいいや。」

 

特に言い返す言葉を失ったような七咲を見て正直に広大は「可愛い」と思った。

 

「・・先輩。」

 

「ん?」

 

「そんな風に出まかせ言って私を困らせてどうしたいんですか?」

 

「俺は出まかせを言ったつもりないんだけど。」

 

「じゃあそう思っていればいいです。」

 

「うん。そうする。それだったらそもそも先に出まかせ言ったのは七咲の方じゃないの。前の日『あの場所で待ってます。』なんて言っといてさ・・。」

 

「う・・。」

 

「・・くくっ。」

 

結局のところ真実ははっきりしない。それでも別にかまわない。

 

七咲が可愛い。今はそれだけでいい。

 

 

 

 

 

 

「・・先輩。」

 

「ん?」

 

「先輩って私の事好きなんですか?」

 

―ぶぉごは。

 

鋭いカウンター。

優位に立ったつもりでふわふわしていた広大の立ち位置が簡単に揺らぐ。

やられた。昨日の塚原の時と同じ過ちを犯した。進歩の無い自分に広大は呆れる。

 

―ま、また返事だけか・・。

 

楽には楽だが自己嫌悪が半端無い。

 

「・・。七咲の事は好きだよ。」

 

「むっ・・!」

 

その言葉にすこし咎めるような顔を七咲はした。そういう「風に」聞いているんじゃありません、と。

 

「・・そんな顔で見ないでよ。俺だって色々混乱してるんだからさ。」

 

「・・」

 

―相変わらずはっきりしないヒト。

 

返事の変わりに七咲はじっと睨んでやる。

 

「・・・。解んないんだよ。」

 

「解らない?」

 

「うん・・。」

 

「・・。そう言われた私の方がさらに解らないって言うのが解りませんか?」

 

七咲は悉く意地悪な反応をしてやった。

 

―先輩には悪いけどこっちもそんなに余裕が無い。こうでもしないと・・。

 

「・・そもそもさ・・七咲はいいの?」

 

「え?」

 

「他の誰かを『好き』と言っていた男に『好きだ』って言われて・・。信じられるの?俺れっきとして振られた(ようなもん)後だぜ?」

 

「それは・・。」

 

―どうだろう・・?

 

はっきりと「大丈夫です!先輩信頼しています!」と、言うには色んな意味で経験不足だ。お互いに。正直言おう。七咲に自信は無い。

 

「元々本気じゃないかもしれないし、振られた直後で精神的に参っている男が言った口先だけの言葉だったとしても・・いいの?」

 

「う~~ん・・考えてみればそれに関してはなさそうですね。そもそも先輩にそんな度胸は無いです。元々本気で好きでも中々言えない人なのに。塚原先輩にも先越されたんでしょ?ど~せ」

 

「・・。見ていたのかな~~?七咲君」

 

「やっぱり・・いつも先を越されているのがいい証拠ですよ?」

 

「・・耳が痛くてもげそう。」

 

「くすくす・・」

 

―くすっ・・相変わらず・・ホントに―

 

・・可愛い人。

 

 

「・・本気だよ。」

 

「・・・え?」

 

「七咲の事は本気で。大好き」

 

―・・・!!

 

七咲は思わず両目を見開き、後方に僅かに上半身を仰け反るくらいの一撃を見舞われた。

 

「・・。し、信じられませんね。『解らない』って言ったばかりじゃないですか。」

 

「『解らない』って言ったのはそういう意味じゃないよ。」

 

「・・?」

 

「さっき言っただろ?・・他の女の子をずっと追いかけていた男がいきなり『実は君の事を好きでした』って言ってみた所で信じてもらえるのか?。っていうのが解らないって意味。」

 

反吐が出そうなほど身勝手で都合のいい言い分である。

 

「・・その『言葉自体』信じていいんですかね・・?」

 

本当に「そう思ってそう考えてくれている」のかすら疑ってしまう。こうなると納得のいく理由やら何やらが必要になる。今の広大に強制するにはちと・・。

 

「ほらぁ・・そうなるだろ?だよね?だよね?ど~すりゃいいんだか」

 

「はぁ・・。」

 

大きな溜息と共に改めて七咲は広大を見る。さっきから顔は上気しっぱなし、瞳には涙が溜まるわでてんやわんやだ。こらえるこっちの身にもなって欲しい。

 

―・・仕方ない。

こうなってしまってはどちらかが歩み寄るしかない。そして歩み寄るべきなのは・・恐らく先に好きになった私の方だ。・・確かに私も色々至らない面が多少・・いやかなりあったと思いますが人を好きになったの初めてなんです・・それぐらいは勘弁して下さい。そこは男でしょ?先輩。

 

「先輩・・。」

 

「ん?」

 

「・・。構いませんよ。先輩の気持ち、はっきり聞かせてくれませんか?」

 

「・・。」

 

「かと言ってどうなるかは・・知りませんけどね。」

 

「ぐ。」

 

ほんの少し口をとがらせていつもの嫌味を言う。そう

 

―私たちはこれぐらいが丁度いい。

 

「・・ふぅ。」

 

 

―ほら・・頑張れ。先輩。・・広大先輩?

 

「まず謝らせて。ゴメン。しょっぱな都合良い事言います。」

 

「・・。」

 

「俺は響姉が好きでした。っていうか今も好きです。俺にとって滅茶苦茶大事な人です。多分これからもずっと。」

 

「・・。」

 

「でも昨日気付いた。響姉とその家族と俺の家族の風景見て気付いた。俺は・・ただ戻りたかったんだって。小さい頃に大好きな人とそのおじさんやおばさんと父さん、母さんがいる場所に囲まれた自分の居場所に戻りたかった。・・戻れる訳ないのにさ。響姉と居る時でも今自分が、そして響姉がどうしたいのか、とか何を感じて何を考えてるか、とか殆ど知らないし、考えもせずにただ昔の思い出とかに浸って・・甘えて・・響姉に近付いていこうとしなかった。七咲に散々偉そうなこと言っといて・・。俺は進むんじゃ無くて実は戻りたかったんじゃなかったのかって・・思った。」

 

「けど・・そんな俺に七咲はずっとそばに居てくれた。一緒にいろんなところに行ってお互いに頼って、頼られて・・色んなところを見せてくれた。そして俺の色んな所見て嫌味言ったり、けなしたり、指摘したり、でも時には褒めたり、笑ってくれたりしてくれた。」

 

「響姉の前では甘えるだけだった自分を見直させてくれたのも七咲。君だろ?俺が内心気付いて、でも見ない様にしていたところを初めて正直に怒ってくれたのも七咲だろ。」

 

―初めて喧嘩したあの日のこと。

 

「初めて響姉に対して誇れる行動が出来たきっかけも結局は君だったと思う。俺もほんの少し自分を好きになれた。捨てたもんじゃ無いなって思わせてくれた。」

 

塚原の合格の日、そして屋上で恐らく泣いていた塚原に肩を貸したあの日。

 

そして昨日。

 

「俺を先に進ませてくれたのは七咲、君のおかげ。君がいなければ俺は響姉と再会してまた昔のように話す事も出来なかったと思うし・・『あの頃』に戻る事は出来なかった。そして同時に『あの頃』にもう居続けちゃいけないってのにも気付けなかった、抜けだす事も出来なかったと思うんだ。ずっと抱えたままケリも付けずにまだ悶々と日々を過ごしてたと思う。七咲?君が俺と出逢ってくれなかったらね。」

 

 

 

「本当にありがとう七咲・・良かったら・・こんな俺で本当に良かったらこれからも傍に居て?」

 

「・・・。」

 

「・・好きです。七咲。本気で。」

 

 

―信じて。

 

ただひたすら祈った。この目の前の小さな少女に真っ直ぐと想いが届く事を。

 

愛の為に。

 

Iの為に。

 

逢の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホント・・勝手ですね。」

 

「・・そうだね。」

 

「私は『待ってなかった』って言っているのに・・。」

 

「・・うん。」

 

―強情っぱりだな・・。

 

「散々塚原先輩の事『好きだ』って、結構長い時間片思いしたから気持ちは簡単に変わらないとかカッコイイ事言っておいて・・。」

 

―言ったか・・?言ったような気がするな・・。いや言ったな・・。

 

「勝手に盛り上がっちゃって・・。」

 

―う。やっぱりそうかな。

 

「で、実は『私が好き』。と?」

 

―そこは間違いないと思う。一番自信があるところ。

 

「何ですかそれ。結局先輩は私か塚原先輩に頼りっぱなしって事じゃないですか。私は塚原先輩の『代わり』ですか?」

 

―うう・・。

 

「先輩にとって『好きな人』は自分より頼れる女の子ですか?度し難いですね」

 

七咲ハンマーがコツコツと「短小」広大釘を打つ。広大は打たれるままに沈んでいく。

 

―やっぱり・・ダメかな。昨日の今日だもんな・・。いやそれ以前の問題か。

 

「ホント先輩なんて・・。」

 

―ホント私なんて・・。

 

 

ふわり

 

 

直立不動の広大にまるで木を抱くようにに両手で七咲は彼を包み込んだ。

 

 

 

「・・私が居ないとダメなんですから。」

 

―・・先輩が居ないとダメなんですから。

 

 

 

広大の顎に七咲の髪がふわりと漂い、くすぐったい感触と心地いい香りが充満する。

両腕ごと強靭なひもで縛られて身動きが取れないみたいに体が硬直していく。

波打つ広大の胸の近くに丁度七咲の顔があった。吐息と涙を押しつけるようにして少し震えていた。

 

「ちょ・・ちょっと七咲・・。」

 

「・・・?」

 

七咲は右耳を広大の胸に押しつけてやや赤みがかった上目遣いで広大の顔を見る。

 

「・・・!」

 

―うわ。やばい。この子こんなに可愛かったのか。

 

「・・ゴメン・・手少し緩めて。」

 

「・・。」

 

彼女は少し残念そうな顔をして力を緩める。

 

「・・ありがと。」

 

「・・・」

 

その言葉に合わせて七咲は無言のままぶんぶんと首を振る。自分の脇目を振らずの衝動の行動にやや後悔と申し訳なさを感じているらしい。

広大の両手が解放される。ただそれを放置する精神力など今の広大には無かった。

少女の細い腰と小さな頭にぐるりと手をまわす。小さな彼女を包み込むには十分だった。

 

「・・・!」

 

自分の小さな体が浮くぐらいに強く抱きしめられ、七咲は上気した瞳を見開く。どうにかなってしまいそうだった。

 

そんな彼女の頭に頬をのせ、広大は深く息を吸い込む。

 

・・有り得ないほど愛おしかった。

 

広大の背中にまわされた七咲の右手がゆっくりと広大の腰に近付く。何故か背中にまわされたその右手が拳を握っていた訳が解る。七咲の掌の上に握りしめていた鈴が見えた。

その七咲の掌を広大の左手の掌を貝つなぎ状に指を絡ませ、握りしめる。

 

 

 

鈴が鳴る。二人の掌の中で。

 

 

 

チリン・・

 

 

 

 

 

 

どん!

 

五分ほどして広大はいきなり七咲に突き飛ばされた。

 

「・・・!・・・どわっ!?」

 

「・・・。」

 

双方言うまでも無く顔が真っ赤だった。広大はいいかもしれないが七咲は部活でこれから人前に出る。こんなカオで言ったら確実に、滅茶苦茶心配される。お互い眼を見開いて金魚のように口をパクパクさせてどうにか言葉を紡ぐ。

 

「あ・・の。七咲?」

 

「だ、大丈夫です。す、すみません。私、そろ、っそろ行かないと。このままだとその・・心臓、が、壊れ、壊れま、る、まする・・」

 

少し乱れた髪を整えながら真っ赤な顔でようやく七咲はそう言った。

 

「そ、そっか部活だよね・・」

 

「は、はい。あの・・その・・今日私部活がお昼までなので・・先輩待っていてくれます?」

 

「・・おぉ。待ってる」

 

「では・・し、失礼します!」

 

全速力で七咲は消えた。プーですらここまで広大から一目散に逃げた事は無い。唖然として広大は力無く左手を振って見送った。

 

チリン・・

 

「・・あ!」

 

七咲の掌と絡ませていた広大の左手に彼女の鈴が残っていた。

 

「七咲・・忘れ物」

 

届くはずもない声を出す。一目散に走っていった彼女に届く訳も、当然戻ってくる訳も無い。

 

「・・。一緒にお留守番だな。・・・。」

 

まるでプーに話しかけているようだった。・・反応も同じく素無視だが。

 

「・・・。・・・!」

 

だっ!

 

広大はじっと鈴を見て何かを思案したような表情をしたと思うと前言をあっさり撤回し、その場を去った。逃げたというよりもいち早くその場に戻ってこようとする足取りで。

 

―棚町さん!サンクス!

 

噂によるとその日、市内を高速で梅原から借りたチャリを飛ばす広大が吉備東デパートに直行している姿が目撃されたとかされてないとか。

 

一方室内水泳場。

 

「あ!ナナちゃん。やっと来たね。そろそろ始めよっか・・ってナナちゃん!?」

 

入水前の入念なストレッチを行っている先輩や同輩たちの中、更衣室から飛び出した七咲は一気にプールに飛び込んだ。

 

「逢ちゃん!しっかり準備運動しないと怪我するよ・・って・・でも・・うわ、速い。」

 

あまりに予想だにしない真面目な優良部員―七咲の奇行に部員全員が目を疑い言葉を失った。

噂によるとそのタイムは彼女のベストを大幅に更新したとかしていないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                         




眺めていた。

冬の高い空と藍色に染まった真冬の澄んだ海を。
二つの影がこの浜辺に在った。数か月前に二人が和解した場所、初めてお互いに笑いあった場所でもある。

「始まりの場所」と言えるのかもしれない。

「・・・。先輩?」

「・・・。」

「先輩?起きて下さい。」

「・・ん?」

「午後から・・梅原さん達が呼んでいたんでしょう?行かなくていいんですか?」

「・・もう少しこのままで。膝枕気持ちいい。」

―自分に正直になると・・これ別世界だな。

「・・ダメですよ。皆さん待たせちゃ。学校に戻りましょう。」

「・・。」

「・・そんな哀しい顔しないでください。これ位私いつでも・・してあげますから」

そう言う彼女も哀しそうな顔をして遠くを見た。彼女も口ではこう言うがこのままで居たいのだ。
だから広大はこう言う。

「もう少し話させて。このままで。」

「・・仕方ないですね。」

少女が断らない事を広大は解っていた。

「なぁ・・七咲。」

「何ですか?先輩。」

「今更聞いていいのか解んないんだけど・・いいかな?」

「・・何をですか?」

「七咲の名前の『アイ』ってさ。結局どういう字?」

―え。そこ?

「・・。知らなかったんですか?未だに。」

「ほら・・俺現代文2だし・・。」

「そういう問題じゃないと思うんですが・・。」

―曲がりなりにも彼女の名前の漢字を知らないなんて・・。はっ!「彼女」・・!

ぼんっ!

「・・時々七咲は考えている事が顔に出るね。そういうとこすっげぇ可愛い・・。」

「~~~・・・!!!」

「あれ・・でも・・七咲の事、改めて『彼女』って言われると何かな~~・・。」

「先輩・・流石の私も泣き喚きますよ。」

「あ!!いや、そういう意味じゃ無くて!いざ言われると実感湧かないって言うか・・。その・・ゴメん・・。」

大して変わらない。

「うぅ・・・。」

流石にこれには七咲凹む。早くも思う。「何でこんなヒト好きになっちゃったんだろう」。
しかし―次の広大の一言のあまりの衝動に七咲のその想いはかき消された。



「・・。・・『アイ』?」



「・・・!!」

「・・流石に正しい漢字も知らずにこの名前呼びにくいからさ。この機会に教えて?本当に・・悪い・・」

「・・・。解りました。」

―反則です。まぁ・・嬉しいからいいですけど。ぐす。

七咲は砂浜の地面に人さし指でゆっくりとなぞる。書き順まで徹底した。一つの字が完成していく。彼女らしい綺麗な字だ。

「「逢」」

完成と同時に二人同時にそう言った。

「ああ・・。こんな字なんだ」

「・・言われてみるとって感じでしょう?」

「うん。」

「・・・本当ですか?」

完全に彼女は疑心暗鬼に陥っている。

「いやいやいや・・俺舐めすぎてない?」

「・・。」

じと。そんな音が聞こえてきそうな七咲の視線だった。

「さっきは俺が悪かったって・・だからそんな目で見ないで・・。」

―・・これぐらいでいいか。こんな他愛のない事で相手に失望でき、焦らせたり、謝らせたりできるという事が今はただ愛おしい。これからも彼女は広大を知って行く事になるのだ。こんな出だしも悪くない。

自分達らしい。

「・・。ふふっ。いいでしょう。許します。・・この字は『出逢い』の『逢』とかに使います。もっとも『出会い』(こっち)の方が主流で解りやすいですけどね。」

そう言いながら片手間で「出会い」も書いた。

「ふ~ん。」

「・・せめて相手の名前ぐらいはちゃんと礼儀として覚えておくべきですよ?先輩。」

「・・面目ない。」

「くすっ。ふふふっ」

「・・いい名前だね。・・逢。」

「・・。はい。」

昔から自分の名前は大好きだった。その名を褒められるたびに嬉しかった。
その度に初めて名前を付けてもらったようなくすぐったい感じになる。



「・・本当にそろそろ行かないと。」

「うん・・。その前に・・逢?瞳閉じてくれないかな・・?」

「・・先輩?何でですか?」

「いいから。」

七咲が目を閉じたのを確認したと同時に仰向けの広大はゆっくりと七咲の首元に両手を這わせた。一昨日のあの夜と同じように今度は広大自らの意志で。

―・・・・・?

伝う指の感触と共に少しの圧迫感がある。それが首の周囲に拡がっていき・・項の周辺でわずかに冷たい金具の感触がした。

―・・先輩?

「よかった・・サイズ合ってた。」

―・・サイズ・・?

「・・目開けていいよ。逢。」

チリン・・

「・・!!」

細い彼女の首元に収まっていたのは藍色のチョーカーだった。蒼い色が良く似合う七咲によく合っている。

中心にはあの・・銀色の蕾―プーの鈴がついていた。

「・・さすがに・・重いかな。」

―色んな意味で。

広大は自分の行為を恥じているようだった。
勢いのまま、梅原の家に行き、自転車を借り、開店間も無い吉備東デパートの雑貨店に侵入し、へそくりにしていた先日の衣装代の残りをはたいて購入した。

『女の子のリング、イヤリング、ネックレス、バングル、アンクル、レギンス、ソックス、カチューシャ、果てはチョーカーまで・・女の子の小物に関しちゃ他の追随を許さないだけに惜しい所だわ』―

棚町の先日の言葉を頼りに突撃したのは良いが勝手が解らなさすぎる。七咲の部活の終わり時間との格闘だった。

頭が沸騰していたとは言え・・いや・・事実今もカンカンに沸いているのだろう。
当の七咲も再びぱくぱく空気の足りない金魚になった。顔色も金魚に負けてない。

「先輩・・凄く嬉しいんですけど・・その・・すっごく恥ずかしいです・・。これは人前じゃちょっと・・無理っぽい、です・・」

「・・。そう言うと思って一応バングルにもなるように穴開けといたから・・。いつでも鈴だけ取り外せるし。用途は七咲に任せます・・ハイ・・」

「そ、そうですか。」

「・・要するに・・!」

「・・はい?」

「もう失くさないでね!・・ってこと。」

「・・・。」

「ずっと・・見てるから。何処に居ても見つけてみせるから」

「・・・はい。くすっ。」

「・・何?」

「私も・・見てますよ。いつも・・」

そう言って微笑んだ。




少し顔を傾けて微笑んだ七咲に呼応するように首の鈴が鳴る。






・・チリン










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