ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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12月24日

夕刻―吉備東高校

第57回吉備東高校創設祭開幕中―

「・・・♪」

売れ行き好調の自分の屋台―おでん屋の前に散らばったゴミを一人の黒髪ショートの少女―七咲 逢は鼻歌交じりに箒で片づけていた。

「・・・♪ん・・?あ!」

じりっという足音に気が付いた七咲は彼女特有の夜間の猫の様に大きな黒い瞳を持ちあげる。


―・・・。


「・・こんばんは」


七咲はこの「人」の名前と顔は知っている。「先輩」にこの前教えてもらった人だ。
近い将来、間接的にではあるがちょっとした「恩人」になる目の前のその少女の来訪を心から七咲は歓待し、


「先輩!先輩!?お客さんですよ?」


嬉しそうな声でおでん屋台の中でごそごそと雑務をこなしている少年に語りかける。しかし周囲の喧騒故か中々気付いてくれない。

「もう!先輩!?杉内先輩!?」

苛立たしそうに七咲は声をやや荒げると「ん~?」と言う声をあげて少年―杉内 広大はようやく振りむいた。


「先輩にお客さんですよっ」

「ん・・誰?って!ああ!たな・・・え・・?」

―・・・。

杉内は一瞬驚きで言葉を喪い、眼を見開いた。そして―


「・・わお」


短く軽くそう言うことしか出来なかった。


「先輩?おしごと、おしごと。です」


そんな彼に七咲が悪戯そうにやや放心状態の杉内に向かってそう促す。それで漸く杉内は調子を取り戻してこう言った。



「・・ご注文は?」
















ルートK 終章 私のダメな奴

終章 私のダメな奴

 

 

12月24日

 

 

昼―

 

 

「ぐう・・」

 

何時もとは異なる意味の「ぐう・・」を吐く直衛。顔色がさらに悪化。どうやらランチタイムの周りから香る様々な料理の匂いが彼の胃の腑を悉くヤバイ方に刺激するらしい。

 

「ちょっと・・ホント大丈夫?」

 

「・・安心して下さい」

 

「は?」

 

「は、吐いてませんよ・・?」

 

「吐いてみさらせ!一生ココ出禁にしてやるわ!!!」

 

色んな意味で涙声の声が出る。流石に店内で××されたら溜まらない。おまけに知り合い。・・さらにおまけに「コレ」が実際の所今の少女―薫にとって、最も大事な奴なのだから泣ける話だ。

 

―ホントどうしよう・・休憩終わっちゃうし・・。

 

「あの~~棚町さん」

 

そんな薫に同僚の子が話しかける。薫とこの不審者の大体の関係性はもう彼女にも解っていた。

 

「え・・。はい?」

 

「休憩中ゴメンね。ホール長と店長が棚町さん呼んでるよ」

 

「あ、はい。すぐ・・いきます」

 

 

 

 

 

「・・ほれ」

 

「・・はい?」

 

休憩中の着の身着のまま厨房に顔を出した薫に店長は千円札を二枚渡した。

 

「知りあいなんだろ?どーやら難儀しているみたいだからタクシーで送ってやんな」

 

「え・・」

 

「勿論君もついてけ、責任もって家まで送れ」

 

「は、はい!すぐ戻ります!本当に申し訳ありません!!」

 

「いいよ。戻ってくんな。その状態で仕事に集中できないんなら逆に迷惑だから」

 

「あ。う・・大丈夫ですよ!」

 

薫は今の自分の現状に改めて気付く。既に顔は上気して赤く、目は少し潤んでいる。よくよく自分の今の表情はとても仕事どころではないが強がった。しかし店長は首を横に振る。

 

「いいから。今日は。急なシフトイン頼んで悪かったな。薫ちゃんご苦労さん」

 

あくまで素っ気なく言い放った。

 

「てんちょ・・」

 

「何だ」

 

「ちょっとカッコつけすぎです」

 

「・・じゃあ変わりに一つ教えろ。アイツが・・薫ちゃんが言ってた例の奴?」

 

「・・はい・・」

 

「・・『アレ』でいいのか?」

 

テーブルに突っ伏しているお世辞にもエレガントとは言えない状態の直衛を見ながら店長はそう言った。店長は先日の自分の推測が完全な的外れだという事を理解した。人間一度は会う、もしくはせめて見てはみないと全く解らない物だ。そしてこう結論付けた。

 

―予想外の『アレ』な奴だ。

 

と。

 

しかし―

 

「はい」

 

何の躊躇いも無く当の薫は真っ直ぐ言い切って尚も付け加える。

 

 

「アイツじゃなきゃ・・ダメ・・みたいです。くやしいですけど」

 

 

「・・ん。そうか。ならいい」

 

「・・店長、オーダー入ります。・・棚町さんも行くなら早く行きなさい。忙しくなるんだから」

 

唐突に話に割り込み、相変わらず事務的にホール長はそう言った。

 

「はい!」

 

薫はこの店でバイトが出来て良かったと思った。

 

心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

一方国枝宅にて―

 

―連絡が無い。大丈夫なのか。やっぱり・・せめて私もついていった方が良かったんじゃないのかな?

 

野暮だとも知りつつも。例え妹同伴でもあんな残念な病人をクリスマスの世間様に一人で寒空の中放り出すよりはマシだったのではないか。

 

国枝 直衛の妹―国枝 衛奈(えいな)はトントンとダイニングテーブルを人差指で叩きながら、左利きの手で鉛筆を握り、メモ帳に良く解らない円柱や立方体を描く。

それなりにイケてないが、それなりにガンバリ屋で努力家な自分の兄を結構気に入っている方の妹であるため、その心配もひとしおである。

 

―・・それでもアニキは一人で行くと言った。

そこは私にとって少し切ないトコだったけど、少し嬉しくもあった。

 

それは証拠だったから。

 

アニキがまた誰かと正面から向き合っているという、そしてその誰かもきっとアニキと向き合ってくれている事の何よりの証明だったから。

源さんや梅原さん達、男友達とはまた違う「誰」かと。その人と向き合って、自分と向き合っていることの。

久しぶりに見た。アニキの徹底的にダメなところ。あんな姿は本当に頑張って、悩んで、それでもどうにかしようと足掻いている時になるアニキ特有の欠点。・・情けない限りだけど。

 

でもそれはその事の証明なんだから。喜ぶ事はあっても悲しむ事は無い。

 

 

 

 

と、まだ小学生ながら極端に大人びた少女は心配しながらも、兄からの朗報を待つ。

 

その時、家の電話が鳴った。

 

―アニキかな!?

 

慌てて受話器を取る。

 

「アニキ!?」

 

『・・あ・・。国枝。俺。前田だけど。やっぱりクリスマス会来ない?林も来てるんだぜ?』

 

ゴゴゴ・・

 

少女の中で何かが燃え上がっていく。

 

―前田ァ!林ィ!あんっましつけぇと殺すぞ!?

 

発すれば青少年の心を確実にへし折り、トラウマクラスに発展する暴言を飲み込み、少女は必死に平静を保って

 

「・・ごめん。私、クリスマスは家族と過ごしたいから」

 

ようやくそれだけ言って握りつぶしそうになる受話器をなるべくゆっくりと妹は置く。

幸いにも犠牲になったのは握りしめていた鉛筆の芯の先だけだった。

その時―

 

どんどんどんどん!!

 

扉を叩く音がした。少女の体がびくっと痙攣する。呼び鈴を鳴らさず、なぜか玄関の扉を乱暴に叩く音がするのだ。

 

―え?

 

流石に不安になる。施錠しているのが幸いだったが、何とも気味が悪い。とりあえず玄関へ。

 

「どなたですか・・?」

 

恐る恐る玄関の扉に話しかける。そこはさすがに歳相応の怯えがあった。

 

「はあっ・・はっ・・開けて・・!」

 

息の上がった声で明らかに兄とは異なる声が扉の向こうから聞こえる。

 

―怖い。息が上がってるぅ・・!?変態!?

 

「・・お願い・・開けて。・・死ぬ」

 

「・・・!」

 

―「死ぬ」!?怖いよぉ。アニキ・・。

 

「・・ちょっと・・!アンタも何か言いなさい・・よっ!」

 

「ぐえっ。ちょっと・・薫。お前。今、それは!・・やばい!!・・うぶ・・やば・・」

 

「え・・・」

 

「吐く」

 

「え!?ちょっとぉぉぉ!!」

 

 

 

・・安心して下さい。

 

吐いていますよ?

 

 

玄関の扉の向こうの少女―薫の断末魔が聞こえた後、衛奈はようやくドアを開けた。

 

「おかえり・・お兄ちゃん・・。・・あ・・の・・こんにちは」

 

控え目に開いたドアの隙間から衛奈は顔を出し、残念な状態の兄を肩で支えたまま、半泣きの薫に一応形式通り挨拶をした。

 

「こんにちは・・こいつ運びたいからお願い・・手伝って。後・・まず何か口ゆすぐもの持ってきたげて・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず二階にデカイ「荷物」をお届けした配送員―棚町 薫を直衛の妹―衛奈は労うために居間に案内し、温かい紅茶を出す。何とまァ出来た妹さんだこと。

 

―私が小六の頃って・・どうだったかな・・?

 

昔のこととはいえ唐突に薫は不安になる。

 

「ゴメンね・・いきなり押しかけてバタバタしちゃって」

 

「ううん。あんな状態のお兄ちゃん連れてきてくれてありがとうございます。・・お世話に、そして大変なご迷惑を・・」

 

ぶるぶると大げさに首を振ってそう言い、さらに少女は続ける。

 

「あの・・・ちゃんとお兄ちゃんにはタクシー代払わせますから」

 

「あ。いーのいーの。気にしない気にしない」

 

さすがに金にはきっちりしている。兄の影響か。

 

「あの・・」

 

「・・『衛奈』ちゃん、よね?直え・・ううん。『国枝君』から色々聞いてるよ。私は・・」

 

「知ってる。・・棚町さん。『棚町 薫』さんですよね?何度かお兄ちゃん遊びに誘いに来てくれたよね」

 

「ん?そっか。覚えていてくれたんだ。嬉しいな」

 

「・・ううん。時々話してくれるし。お兄ちゃん」

 

「・・そうなの?」

 

―へぇ意外。

 

「結構楽しそうに話してくれる。学校の事とか源さんとか梅原さん、最近だと御崎さん、杉内さんとかのことも。薫も騒がしいけど面白い奴なんだって」

 

「・・そうなんだ」

 

何時もなら「騒がしいって何よ失礼ね」とか言いながら適当に直衛を殴るのだが、全くの第三者から直衛が話した自分の事を伝え聞くのは少し新鮮で照れくさく感じる。

同時に「案外ちゃんと『お兄ちゃん』してるんだな」って薫は感心した。

 

「・・・あ。そろそろ私帰るね。アイツも眠っちゃったし、折角のクリスマスの家族水入らずの日にこれ以上お邪魔する訳にもいかないしさ」

 

「え・・そんな折角来てくれたのに・・お邪魔なんて」

 

「いいのいいの♪紅茶御馳走様でした」

 

確かに直衛の失敗、肝心の日にこの有様で総スカンを喰らったのは間違いなくとも、薫は今満足だった。幸せだった。

結果は盛大に失敗とは言え実際に直衛なりに薫に何かしてくれようとしてくれた事。

それこそが一番大事。

 

「・・良ければお兄ちゃんの傍に居たげて下さい」

 

健気に妹は面目なく、さらに申し訳なさそうに言った。

 

「え・・」

 

 

「お兄ちゃんあの有様だけど、私も呆れたけど、嫌いになんないであげて・・ほしいです」

 

 

「・・うーん・・それは無理かな」

 

 

「・・」

 

 

 

「・・私がアイツを嫌いになる事は多分無理」

 

 

 

「え・・」

 

「・・でも!一回帰るね。あのバカ多分結構な『忘れ物』してるからさ」

 

「・・・?忘れ物、ですか?」

 

―あの馬鹿アニキ。また他にもトチってたのか。

 

「そそそ。大事な物。・・ふふん、話変わるんだけどさ。さっきの直衛が着てた上着何処かな?」

 

「上着・・?」

 

「うん。やたらサイズでかい軍モノのジャケット・・着てたでしょ?」

 

「それならそこに・・」

 

既にハンガーにかけられたそれを衛奈は指差す。それにご機嫌そうにトコトコ薫は歩いていく。

 

「ちょ~~っと失敬・・ふむ・・ぬー・・・・ん?あった!」

 

両手で直衛が着膨れさせていた少しオーバーサイズのアーミージャケットの両サイドのポケットを薫は両手で調べるとすぐ右側のポケットに手を入れ、中から黒い物体を取り出す。

 

「???」

 

―アニキの財布?

 

「大丈夫。何も盗らないから。借りるだけ」

 

そう言った薫はおもむろに何の戸惑いも無く直衛の財布の中を漁り始める。あまり褒められた行為ではないが彼女はその行為に全くの抵抗を感じていない。

 

いつもの薫であった。

 

「・・!・・や~っぱりね」

 

暫くするとそう呟いてニヤリと薫は衛奈に微笑みかけ、そして徐に取り出した「それ」を

衛奈にも見せる。

 

「・・!あ・・それ・・!」

 

「全く・・本当に肝心な時ダメダメな奴よね。これ忘れちゃったら更に台無しじゃ無い。・・ねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻―

 

「う―」

 

直衛はようやく目覚める。気分は良くなったが相変わらず体はあまりいう事を聞いてくれそうにない。

 

時計の時刻は既に七時半過ぎ。外はもう真っ暗だ。ここに戻ってから既に五時間以上経過している。その五時間前がまるで遥か遠い昔の記憶のように感じる。自分以外誰もいない部屋の天井を見上げ、上半身だけを起してベッド越しの壁にもたれかかる。反動で強烈なめまいが襲う。

 

「あー・・なっさけねぇ・・」

 

これじゃあ創設祭にも顔を出せそうにない。源にも杉内にも茅ヶ崎にも顔出す事を伝えていたのに。自己嫌悪ここに極まれり、である。

 

・・何故寄りにも寄って「この日」に体調を崩すのか、いや「この日」だからこそなんだろう。これが自分だ。いっつもこうだ。

何時もはスカして、何でも出来るように冷静に振舞っといて肝心な時はこの有様。

いざという時に何も出来ない、頼りにならないチキン野郎。

・・さぞ呆れられたに違いない。中学の時と同じだ。何も変わって無い。

 

「薫は・・帰ってるよな」

 

そう言葉に出すとさらに投げやりな気持ちになった。

その反動で思いっきり体を乱雑に寝かす。

 

がつん!

 

と、ベッドの角で派手に後頭部を打ち、直衛は悶絶する。

 

「~~~・・・!!!」

 

直衛が見てて飽きないドジを繰り返している時、部屋のドアをノックする音がした。

隣の部屋で物音に感づいた妹が心配そうに声をかける。

 

「・・・?アニ・・お兄ちゃん?起きた?」

 

「・・ぐぎっ・・・寝てるよ~。」

 

「起きてんじゃん。お邪魔するよ~」

 

その言葉と同時妹はドアを開け、平静を装う兄に首を傾げながら問いかける。

 

「・・・大丈夫?凄い音したけど・・」

 

「・・大丈夫」

 

「・・頭打ったでしょ」

 

「・・・」

 

「・・ふふふ」

 

どうやら何時もよりスキの多い兄を大いに楽しんでいるらしい悪戯な笑みで妹は微笑んだ。

 

「・・母さんは・・?」

 

―話題をそらそう。うん。

 

「まだ帰って無いよ?さっき電話があってもう少し遅くなるって。お店がやっぱり忙しいみたい」

 

「ま、クリスマスだからな・・・あ!」

 

時間は七時半を既に周り、自分はこの有様。と、いうことは・・!

 

「あ。ケーキ・・!しまった・・!ゴメン・・衛奈」

 

流石にこの時間に小学生の妹を街にまで予約したケーキを取りに行かせる事はできまい。

 

「ああ。そのこと?」

 

「・・・」

 

「あるよ。もう既に。一階に。食べる?」

 

「え?」

 

 

 

「・・・あ、衛奈ちゃん。直衛起きた?」

 

 

 

「え・・・」

 

その声に応えず、ただこくんと頷いて衛奈はやや後ろに下がる。開けられた直衛の部屋のドアの空いた空間に衛奈はその人物を招き入れた。

 

―ハイ兄貴?今日の主役お披露目ですよ~~♪

 

 

 

「・・・。ぐっもーにんって・・もう夜か。全く!こんな日にもよく寝るヤツ」

 

 

 

やや薄めの化粧、膝までの長く綺麗なブルーのロングコート、白く清潔感のあるシャツ、綺麗に先端まで整えられた指先。癖は強いが独特のウェーブを持つ髪にそれらが程良くマッチしている。いつもと変わらない口調で直衛に悪態をつきながらも、瞳を薄く閉じて微笑んだドレスアップされた彼女は・・・別人だった。

 

「・・・!!」

 

対して寝間着姿のまま、じんじんと痛む後頭部をさすりながらも、目を離せずにいる自分がやたらと滑稽に感じる直衛だった。

 

 

 

 

五時間前―国枝家玄関にて。

 

「・・衛奈ちゃん。私にちょっと時間を頂戴ね」

 

靴を履き、玄関に片手をかけたまま薫は見送りに来た衛奈にそう言った。

 

「・・うん」

 

 

「女の子にはね。時間が必要なの・・特にこんな大事な日には」

 

 

「・・・」

 

 

「・・衛奈ちゃんもいずれすぐに解るようになると思う。願うようになると思うよ?」

 

 

 

―「大好きなヤツの傍に居る自分が一番綺麗な私でありますように」

 

・・ってね。

 

 

 

玄関の前で自分に背を向けながらも、ちらりと横顔を向けて微笑んだ薫の姿を見送った衛奈は心底カッコイイと思った。

 

 

綺麗だと思った。

 

 

 

 

 

―・・アニキには勿体ない人だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前・・何処に居たの?」

 

「んー?とりあえずアンタの財布漁って、ケーキの引換券盗って、例の店でケーキ引き取って、一旦家に帰ってそんで・・・気合い入れて・・戻ってきた」

 

「・・・」

 

「その後・・アンタの様子見ながら・・って感じかな」

 

「何から何まで本当に悪い・・」

 

「・・・別にいいけど。衛奈ちゃんと交代だったし・・色々お話出来たし。やっぱいい子ね?アンタの妹。なんつっても可愛いし。あれじゃ男もほっとか無いんじゃない?これから大変ね、お兄ちゃん?」

 

「・・かもね。今日のお前ほどじゃないけど」

 

「・・アンタ熱でもあんの?・・あるか」

 

「・・ちゃんと本心だぞ。嘘偽りない」

 

「そ。てんきゅ」

 

漸く言った直衛のその言葉も軽く受け流しながら薫は微笑み、直衛のベッドの側面に背中を預けて座り、後頭部を白いシーツに預けながら上目越しに直衛を見る。

 

「どう?気分は?」

 

「・・だいぶまし。吐き気も楽になった。・・ありがとな」

 

「そ。よかった。食欲は?」

 

「・・軽いものなら」

 

「ケーキは?」

 

「・・苺多めにね」

 

「創設祭の水泳部のおでんは?杉内君のとこ顔出して買って来たんだけど」

 

「うっ・・それは・・無理かな・・」

 

「外はカリカリ、中はジューシーな七面鳥は?」

 

「ぐっ・・」

 

「肉汁滴るレアのローストビーフは?」

 

「・・・うぶ」

 

「・・・。クリスマスメニューはほぼ無理、か・・寂しいクリスマスねぇ・・」

 

「ごめん・・」

 

口を押さえ、顔色を青くしながら直衛は謝るしかなかった。

 

「いいよ。別に」

 

「・・・薫はどうする?俺の事はもういいよ。おばさんが心配するだろ」

 

「大丈夫。元々あんまり『帰る気は無い』って言ってたから、明日の朝にでもこっそり帰ってずっと居たように振舞うつもり」

 

「え!・・流石にそれは・・!まずいだろ・・」

 

「いいの!ここにいる」

 

「・・だからまずいって・・それ」

 

『今日の自分』に自覚があるのか、と直衛は言いたかった。が、次の薫の一言は説得力があった。

 

「ん!?すると何?アンタそんななりでアタシ襲えンの!?」

 

「・・無理です。返り討ちです。はい」

 

純然たる事実である。

 

「そ!だったらつべこべ言わず病人は寝てなさい。ほら額のタオルよこして」

 

「・・・」

 

押し切られ、直衛は渋々ながら額の白いタオルを渡す。「降伏」の合図だ。

 

 

「一人の女の子のクリスマス台無しにするんだもん・・これぐらい多めに見てよ。・・少しはいい夢見させてあげるからさ・・」

 

 

タオルを洗面器に張った水につけ、絞りながら視線を直衛に合わさず、流石に気恥ずかしそうに薫はそう言った。

 

―・・・。

 

ここまで言わせておいて、尚この有様の自分に腹立たしさだけが募ったが・・同時直衛の腹は決まった。

 

「薫」

 

「・・やっぱダメ・・?」

 

「衛奈呼んで来てくれるか」

 

「え?」

 

「俺の変わりにアイツに色々させるから。何でも言って?ちゃんとクリスマスしよう」

 

「え・・それは流石に悪いよ。ホントにダメなら・・ちゃんと私」

 

そう言いかけた薫の言葉を強引に直衛は遮った。

 

「悪いのは俺だけ。衛奈には今度ちゃんと埋め合わせしとくから・・ここに居ろ」

 

「・・」

 

「・・ここに居てくれ。お願いだから」

 

「・・いいの?」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

―果たしてこの借りはどれくらいのリターンがあるのかな?

 

そう思うと衛奈はわくわくした。

生まれる手間の割には相当の見返りが期待できそうな確信がある。

家の手伝いに、買い物に、食事に、勉強に、冬休みの宿題に、テレビのチャンネル権だって当分直衛は衛奈の思いのままだろう。

 

―だからいいよ。兄貴。今日はいくらでもこき使っても。

 

だからその変わり・・

 

決めてきてね?アニキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後―

 

 

「有難うね。衛奈ちゃん・・食事から何まで・・」

 

「いいです。おやすみなさい」

 

衛奈が直衛の部屋の扉をゆっくりと閉めた後、トタトタと階段を下りる音がした。

 

「ホント・・いい妹よね。貸し出ししてないの?割と本気で羨ましいんだけど」

 

「高くつくよ。アイツ金にきっちりしてるから。お前のバイト代で賄い切れるかね?」

 

「ふふん。私の稼ぎなめんじゃないわよ?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

一通りのジャブの応酬後、両者膠着状態に陥る。一応さっきまで衛奈がここに居た為、空気が持っていた感が在ったのだがいざ二人きりになるとやたら緊張する。

 

「なぁ・・」

 

「・・ん?」

 

「何かこうしてると思いださない?俺がお前に殴られて保健室送りにされた日」

 

「ん?ああ~!」

 

―意外・・覚えてんのね。封印したい嫌な記憶だと思ってたのに。

 

「あんまり覚えときたくない記憶だけどね」

 

「・・」

 

―んがくっ。やっぱり覚えときたくないんかい。

 

「だってお前一言も謝んなかっただろ。それどころかずっと笑ってたし」

 

「だって笑うしかないじゃない。それともシリアスな顔してひたすら謝られた方が良かった?」

 

「・・悪いけど今思えばそんな薫が想像できない」

 

「ふふん。でしょうね・・って何威張ってんのよ!」

 

「威張ったのはお前だ。おい」

 

「ぷ。くくっ」

 

「・・・くくっ」

 

「楽しかったね」

 

「あー全く」

 

「それからはアンタを連れだして、引っ張り回して、引っ掻きまわして、その繰り返し。飽きるヒマなんて無かったな」

 

「・・そうかい」

 

「・・ただね?飽きなかったのはただ楽しいからだけじゃなかったよ?」

 

「・・ん?」

 

「・・それなりにイロイロ複雑なことだってあったんだからね。私にもサ」

 

「・・」

 

「ムカつく事も、腹立つことも、悲しい事もあった。そんなことも繰り返して・・それも全部ひっくるめてるからこそ『楽しい』って思えるんだろうね」

 

「・・悪い。それだったら今日は『ムカつく、腹立つ日』だよな・・」

 

「違うよ」

 

癖毛を左右に大きく振って明確に薫は否定する。

 

「・・」

 

「言ったでしょ。全部ひっくるめてこそ『楽しい』って。今日はそんな日よ。たった一日の事とは思えないほど色んな事があった・・アンタがダメな奴なおかげでね」

 

その言葉に直衛は応えられず痛そうに両耳を塞いだ。

 

「あははははは!!コラ!ちゃ~んと聞くの!・・・。でもね?今は楽しいし、嬉しいし・・」

 

「嘘ぉ・・そんな優しくしないで」

 

「・・ホントだって・・概ね最高の一日だったわよ?凄く欲張りな日・・かな?」

 

「・・・」

 

「直衛。私やっぱりアンタといると楽しい」

 

何時もは何でも無いように皆の前で振舞って、頼られて、認められて・・でも本当は内心いっつも気を張って、気を遣って、陰で頑張って、失敗する不器用で、でも堅意地張ってるガキンチョ。

 

それがアンタ。本当のアンタ。それを見せるのは私にだけ、私の事だけにして?

 

それこそが私の・・・ダメな奴。

 

 

 

「私ね・・アンタの事が好きよ」

 

 

 

―もう悪友、相棒、腐れ縁。そんな立ち位置じゃ我慢できないの。

「・・・」

 

「・・うつむいてないで何か言ってよ・・」

 

「悉くカッコ悪いな・・俺」

 

「・・今頃気づいたか」

 

「肝心な時にコレだわ、薫に似合わない事言わせるわ・・」

 

「うん、うん」

 

―全くよ。

 

「・・先越されるわ」

 

「・・・」

 

―・・・。

 

相手は気持ちを伝えた。ならそれに誠意を以て応えるのは当たり前。

しかし、当り前にしろそれは中々に難しい事。単純にして複雑。複雑にして単純。明確にして不明瞭。不明瞭であって明確。でも選択の余地は無い。

 

失いたくない。手に入れたい。傍に居たいのであれば伝えるしかない。

 

そもそももとより既に選択はしていたはず。それを伝えるだけだ。その程度なら今の自分でも出来るはず。

 

 

「・・『傍に居て欲しい』ってのは前に言ったけど肝心なトコが抜けてた・・考えてみるとあん時も今日と一緒で俺まともじゃ無かったんだな・・『上手く言えた、俺変われた』って勝手に思い込んでた・・でも全くの見当違いだったワケだ・・。ごめん」

 

「うん・・」

 

「あれは悪友とか相棒とか腐れ縁とか・・そんな枠で・・今のままで居たいからとかで言ったんじゃない。俺なりに変えたいと思って・・前に進みたいと思って言った言葉だから。何時でも薫と一緒に居たいって」

 

「・・アンタ結局肝心なところ抜けちゃうんだね。それじゃ一言足りない」

 

つ~んと口を尖らせ、薫は一旦突き放す。

 

「・・分かってるよ」

 

「・・ホント?」

 

「ホントだって」

 

「ホントにホント?」

 

「・・・」

 

信用ゼロ。しかしそう言われても仕方ない不手際続きの自分故に信用されなくても仕方が無いのかと直衛は塞ぎこむ。そんな直衛に

 

「ふふっ・・信じたげる」

 

薫は微笑んだ。

 

 

「俺も・・薫が好きだ。誰にも渡したくない・・

 

 

んで・・その・・よろしく」

 

 

―・・・いちいち語尾がよろしくない。

 

でも合格点。

 

・・ギリギリだけどね。

 

「うん・・・!!」

 

こつんと一瞬額を当てた後、彼女は両腕いっぱいに直衛に抱きつく。

 

「・・イテ」

 

「・・情けない言葉吐かないの」

 

「いきなり抱きつく・・てっ」

 

直衛の右肩に顎を乗せたまま、頭を直衛の後頭部に傾かせ、こちんと頭を当てる。

直衛の肩を枕にうつ伏せで眠るように眼を閉じ、大きく息を吸い込む。

病人でもやっぱり男の子だ。しっかりとした安心感のある頑丈な肩に頬を預け、右の瞳から潤んだ涙は直衛の冴えない寝間着の布に吸い取られていく。直前まで彼女を包み込んでいた期待と不安を象徴する涙の感触に自然、直衛の両腕は拘束を強くする。

 

「・・・!ちょっと痛いよ・・」

 

「あっ・・ごめん・・」

 

「・・・ううん」

 

「・・・?薫・・泣いてる?」

 

「泣いてない!」

 

「・・そ。・・・・。あ、薫」

 

「・・・ん?」

 

「雪。外」

 

「え・・ホント・・?」

 

肩に頬をのせたままほんの少し顔を動かして窓の外を見る。正直言うと今はあんまり窓の外などには興味が無い。

 

「ん・・・?よく見えないけど・・」

 

「そりゃこの体勢のままじゃ・・よく見てみろよ」

 

「・・やーよ。絶対離さないよーだ」

 

「・・いいからとりあえず見てみろよ。折角のホワイトクリスマスなのに」

 

「・・んもう。ムード無いなぁ・・」

 

渋々顔をようやく直衛の肩から離し、やや不機嫌そうな顔で薫は窓の外を見た。

 

―クリスマスに降る雪にムードを感じない女の子って一体・・。

 

そんな風に思いながら直衛は―「計画」の遂行を図る。

 

 

「ん・・・?ちょっとぉ・・よく見えないけど。ホントに降ってる?」

 

―・・・。は~~・・ようやく隙を見つける余裕が出てきた。

 

直衛はそう思った。器用に、素早く両手を薫の左の手に滑らせる。

 

「ん?何?ちょっ!・・・え・・?」

 

「・・・」

 

―・・ようやく一矢報いた感じかな。

 

真ん丸と見開いた薫の目線の先の薬指には銀色の一筋の線が入っていた。

 

「あ・・?え・・?なん、で・・?」

 

「・・『何で』と言われましても」

 

「嘘・・何これ」

 

「・・嫌?」

 

「どして・・?」

 

・・・ここは変に言葉を交わさず、呆気にとられている薫の反応を楽しむべきだと直衛は判断した。無言で少し微笑む。

 

「・・・」

 

―む・・中々可愛いかも。よかった・・。

 

二週間前―日曜 

 

某デパートにて。

 

「ダメ!アニキ遅い!」

 

「・・そう言うなって。そもそも・・妹の指にリングはめるのに抵抗ない兄なんていんのかよ」

 

妙な視線を感じる。まぁ仕方ないだろう。明らかにまだ年端のゆかない子供の指にリングをはめる高校生の男の姿など危険な匂いしかしない。好奇の視線を前に

 

「俺ら兄妹で~~す」。「リハ中で~~す」。「決してそんな関係ではありませ~~ん」的な引きつった笑いを周りに振り撒きながら直衛は悪戦苦闘していた。

 

「・・リングのデザイン選んでくれただけで十分だって・・衛奈」

 

「何言ってんの!!!肝心な時にとちっちゃうチキンハート持ちの癖に!体に覚え込ませるしかないじゃない!はいもっかい!!」

 

「リハーサル」とはいえ妹のあまりに早すぎる左薬指に指輪がはまった光景は中々に兄にとって切なすぎる光景だった。

 

 

 

 

現在―

 

「なんか・・してやったり感がムカつく・・」

 

「結構涙ぐましい練習したんだぞ・・でも・・流石に狙いすぎたか・・?」

 

「・・・。何でサイズがぴったりなの」

 

薫は左薬指にはめられたリングを右手の人差指と親指で大事そうに撫でた後、直衛から目を逸らしながらようやくそう聞いた。

 

「・・・。屋上で指の間にキスしたろ。あの時にこっそり測らせて貰ってた」

 

結構前の事である。

 

「うっわ・・・変態。策士。むしろ詐欺師。な~にが『紳士の嗜み』よ。キモチワル~~イ」

 

「ぐ」

 

ぐさり

 

「え・・でもさ・・じゃ、じゃあ・・・?」

 

―「あの時」から?

 

疑問の言葉は形を成さず、歯切れ悪く続く言葉を失うが、直衛はその薫の意図を把握した。

 

「・・・。俺は・・少なくとも薫の事をここ一日、二日で好きになったつもりは無い」

 

「・・・!・・・」

 

直衛の意外な言葉に大きく目を見開いた後、上気した顔を覚ますように目を逸らしながら癖毛をくしゃりと薫は掻き上げる。先日までの様々な葛藤が馬鹿らしくなるような色んな疑問、不満点が湧いてくるが浮かされた頭の熱でそれも蒸発していく。

 

「アンタさ・・やっぱり熱あんじゃないの?」

 

―今の私もそうだけれども。

 

「いや。在るかも知んないけど一応は正気・・だと思うぞ?」

 

「これさ・・夢とかだったりしない?

 

 

―12時になったら・・シンデレラの魔法で・・解けちゃったりしない?」

 

「・・!!うっわ・・お前がそんなセリフ吐くなんて・・キモチワル~~イ」

 

「な、何よ!!私だってそんな気分に浸りたい時だってあんのよ!?第一ね!アンタがいつもハッキリしないから私がこんな似合わない、ハッズカシい台詞言うハメになってるんでしょうがっ!!解ってンの!?」

 

「・・すんませんでした」

 

本気で直衛は心から謝罪した。卑屈なほど凹んで。

 

「ちょちょちょっ!そこまで露骨に凹まないでよ!!」

 

流石に行きすぎの直衛の凹み具合に薫も慌てる。そして呆れた顔で深呼吸。上気した顔を覚ましてこう言った。

 

 

「・・いいよ。別に・・。アンタのそう言うとこ含めて私は好きになったんだし」

 

 

 

相棒、悪友、腐れ縁。

二人の関係性を表す言葉は今までも数多かった。それに関して二人はそれなりにベテランではある。が、今しがたお互いの気持ちを確認し、生まれたばかりの新たな自分達の関係性に関しては互いに素人もいいトコである。お互いの額についた「初心者マーク」を確認し合うように無言で額を寄せ、瞳を閉じる。

 

「これからよろしくお願いします」

 

そう言いたげに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―あのさ?直衛。

 

―?

 

―私今更になって解った気がする。聞いてくれる?

 

―・・。

 

―そして・・忘れて・・?いつもみたいに。

 

―・・・。

 

―ひとり言だから。

 

―・・・。

 

―解った事って言うのは・・お母さんの再婚の事。・・そして誰かが人を好きになる気持ちってヤツ・・。

 

―・・・。

 

―アタシにはアンタがいてくれた・・そしてお母さんにはあの・・あの・・

 

言葉に詰まった薫を直衛は当てた額をぐりんと首を動かす。励ますように彼女の言葉を促す。

 

―・・・うん。お母さんにも新しいあの人がいるんだよね・・。大好きな人がいるから頑張れたり、落ち込んだり、・・あの時のお母さんみたいに笑えたりするんだよね・・。

 

―・・・。

 

―まぁそれはそれ、これはこれ、だけどね。所詮私から言わせればあの人は他人だし。そんな簡単に割り切れるほど私は大人じゃないっての。でも・・解った以上は・・もう少し私・・大人にならなきゃなんないと思う。

 

―・・・。

 

―もともと逃げるために真剣に考え始めた私の進路も、この事にちゃんと決着付けてから考えるから。もう言い訳や逃げ道になんかしないから。

 

―・・。

 

―色々迷惑かけちゃった・・ごめんね。・・ありがとう直衛。

 

―・・・。

 

―直衛?

 

―・・・。

 

―・・寝ちゃったか。

 

深く寄りかかった直衛の上半身をゆっくりと倒し、そっと顔に触れる。熱もだいぶ下がった。多分明日にはすっかり治っているだろう。小さく「おやすみなさい」と言って、薫は掛け布団に潜り込んだ。

 

―ちょ~っと失敬。アタシ床はヤダかんね♪

 

体中に包まれた大好きな人間の匂いと緊張に最初は戸惑ったが、直に疲れもあってか心地よい睡魔に襲われ、薫は意識を失った。

 

 

 

「・・・」

 

一方直衛の眼は冴えていた。

薫の先程の一言一句を耳に、心に留め、深く刻みたいと思った。これぐらいの事しか今は出来ない。残念ながら「忘れろ」という約束は破る。守れない約束だ。

かといって自分に出来る事は無きに等しい。所詮自分はまだまだ半人前。改めて世界で最も大事になった少女に今出来る事など高が知れている。

 

ただ。

 

ひたすらに「傍に居る」というこの約束は絶対守って見せる。

 

そう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




―数ヵ月後・・

「・・なぁ薫」

「・・なによ」

「今日・・急な用事を思い出したんだけどお暇していいかな」

「・・却下します」

繁華街外れの小料理亭個室。清掃の行き届いた個室には直衛と薫の二人。
「高校生にしては贅沢な会食だな。」と、勿論そんなわけはない。その証拠に二人は向かい合わせにならず、なぜか横に並び、座布団に正座をしている。その表情はひっじょ~にカタい。そして二人の向かいには机を挟んでこれまた二つの横に並んだ座布団が敷かれている。

「・・薫」

「ん」


「何で俺がお前のお母さんの再婚相手との初顔合わせの会食に参加しなきゃならないんだ・・?」


「おお直衛!!ぴったしカンカン~~!!」

驚く事にこれを薫は直前まで直衛にオフレコにしていた。

「マジか!やはりか!!勘弁してくれ!!」

「ちょっと!!逃げないでよ!!私だってすっごい気まずいのよ!!」

「抜き打ちでホンットこれは無いって!!胃が!胃がやばいんだけど!?」

「だって絶対断るでしょ!?アンタ!?」

「ちょっと保健室に・・」

「現実を見なさい!!ここは学校じゃない!そして最早小洒落た小料理亭でもない」

いや・・小料理亭だが。それでも薫はこう言い切った。

「ここは既に戦場よ!!」


「戦場ならせめて召集令状は送ってくれ!『ウフフ。直衛?ご飯食べにいこ❤』みたいな軽い感じで誘いやがって!」

「つべこべ言わず座るの!もう遅い!」

「うう・・」



規格外の抜き打ち行事に頭をフル回転せざるを得ない直衛の姿にくすりと微笑んで薫はこう言った。



「・・いいじゃない。ほら私達って恋人同士でしょ?


楽しい事も辛い事も半分こよ!!」



「・・おっしゃ。『気不味い事』は含まれてないんだな?あ~~残念だな~~契約外だわ~~」


「屁理屈ぬかしてんじゃないわよ!!」



そんな二人のいつものやり取りの中、背後から人の気配と衣擦れの音がしたかと思うとカラリと障子の扉が空く。

―あ~~あ来ちゃったよ。

―いい加減覚悟を決めなさい。

そんなヒソヒソ話を終えた後、直衛は背筋を正した。臨戦体勢。何だかんだ言いながらも気持ちは切り替える。眼の眼に現れたのは自分にとって大事な人間を生れた時から支え続けてくれた恩人、そして片や新たな家族になってくれる人だ。これからも自分が彼女の傍にいるならばいつか訪れる当然の時―それが思いがけず早く来ただけの話だ。



―・・そうそう。アンタはそうしている時が一番カッコいい。



薫はそう頼もしげに直衛を見た後、自らもきっちりと背筋を正し、しっかりと前を向いた。


「こんにちは。初めまして・・私が娘の薫です。母がお世話になってます。で・・隣のコイツが私の・・









―ダメな奴です。











                           ルートK      終
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