・・在る。
ルートK裏話 1 喧嘩は止めて 二人を止めて 2
放課後
吉備東高校屋上―
既に辺りは夕暮れに包まれ、部活動の威勢の良い掛け声、吹奏楽部の楽器の音色が僅かに響くのみ。とても静かな場所だ。
ここに二人の少女が立って居た。
ここでは彼女等のプライベートを考慮に入れ、名前は双方の名前のイニシャルを取り、一人を「K」、もう一人を「K子」と呼称する。
K「何よぉK子?いきなりこんな所に呼び出して・・」
K子「ごめんねK・・いきなり呼びだしちゃったりして・・ちょっとはっきりさせたい事があったんだ」
K「・・?はっきりさせたい事ぉ?それも妙にアンタには似合わない神妙そうなカオしちゃってまぁ・・。いいよ。親友の私に何でも話して御覧なさい!」
K子「ねぇ・・私・・国枝君のこと本気になっていいかなぁ?」
K「・・・!・・本気?」
K子「うん。私、彼が好きだよ。Kに負けないぐらいにね」
K「・・。どうやら冗談とかそう言う事じゃないみたいね」
K子「うん。私はこういう事冗談で言わないよ。・・Kなら解ってるでしょ?」
K「ええ。『一応』親友ですから。それにこう見えて私敵意には敏感なの」
K子「ふふっ。よかった・・『冗談でしょ?』って笑い飛ばす程、Kがおニブさんじゃなくて・・」
K「っ・・!へえぇ・・?まさかK子に挑発されるなんて思っても見なかったわね。それ・・『宣戦布告』って意味でいいのよね?」
K子「わぁ。正しい意味でとってもらえるなんて嬉しいなぁ」
K「何度も言わせないで?『敵意には敏感だ』って言ったでショ?二度言わないと解らないぐらい脳味噌お花畑なのかしら?相変わらずK子は」
K子「ふふっそんなにムキにならなくても・・。あんまりカッカしてると私に盗られる前に肝心の国枝君に嫌われちゃうよ?そうなったらつまらないじゃない?」
K「・・それもそうね。でも安心して?そんなドジ踏まない。今まで通りアンタとは表向き態度を変えたりしないから。その方がアイツに心配かけなくて済むし」
K子「あ。それ賛成。そうしてくれると助かるか、な・・」
K「・・アンタも真面目ね。わざわざ宣戦布告なんかせず水面下で色々やった方がアンタにとって得だったんじゃないの?正直私、K子が私からアイツを盗ろうとするなんて考えもしなかっただろうし」
K子「・・言葉にしなきゃわからないことってあると思う。相手は当然として、他でもない自分自身の覚悟や決心を自覚するのにね。それに・・Kこそ案外脳味噌お花畑じゃないの?」
K「・・?どう言う意味?」
K子「『敵意には敏感』って繰り返す割には国枝君にモーションかける私の意図を読み切れないまま、国枝君をいつの間にか盗られる事が怖かったの?だとしたら拍子抜けだな~」
K「・・。ま。遅かれ早かれ気付いただろうけど・・でもアンタが本当に『本気』だと私が自覚する前に色々やれたかもしれないのにね?それを放棄したその余裕・・アンタ後悔するわよ?それとも・・案外考えが及ばなかったとか?あ!だったら御免ね~~K子~~?」
K子「・・・。うん。敵として本当にKを嫌いになれそう。嬉しいなぁ。これでエンリョしないで済む」
K「奇遇ね。私もよ。でもそもそも・・アンタ遠慮できるほどアイツとの距離近くなくない?アイツ・・アンタの事なんて多分何とも思ってないわよ?」
K子「・・・。『今は』そうかもしれないね。でも・・相手がKなら私にもチャンスはある―そう思ってる。第一これでもし私が国枝君をKから奪えたらKは屈辱だね?死んだ方がいいんじゃない?」
K「・・。はっ。いいわよ?・・もしアンタに、万が一、億が一アンタに直衛が盗られたとしたら・・」
K子「・・したら?」
K「――――アイツ殺して私も死ぬわ」
K子「あっは!?それはズルイよ、クズだよ~~K~~~でも・・」
K「・・?」
K子「・・奇遇だね。私もそのつもりだった。もしKから国枝君を盗れなかったら私も生きてる意味ないし」
K「あっはははは!!!!私達さすがに『元』親友ね・・気が合うじゃない」
K子「正直今のKと『気が合う』なんて吐き気しかしないけど・・事実だから認めるしかないかな・・」
K「そんなに照れなくてもいいじゃない。・・でも同感よ。正直吐きそう」
K子「うふっ・・・」
K「あはっ・・」
―うふふふふふ・・・あはははははははは!!!
―あはっ・・・あはははははははは!!
ルート「K」の真実―
ここに―
「ごあっ!!!!!????」
がばっ!!!!!!!!!
「はぁっ!はぁ・・・・っ!!はぁっ!!はぁっ!!!」
―な、なんて・・
夢だ。
三時限目、休憩時間の2-A教室の自席にて国枝 直衛・・覚醒。
全身から吹き出す脂汗、煩いほど波打つ心臓、顔面蒼白のまま直衛は肩で息をしながら
頭を抱える。
―お、恐ろしい・・。どちらにしろ俺の死は確定事項だった・・。
「女子二人に取り合われる」と言う男冥利に尽きるも「自意識過剰な夢だ」と割り切るにはヘンな所突飛で、ヘンな所リアル過ぎる夢だった。
いつもは完全覚醒まで時間のかかる直衛の睡眠状態を一気に振り切ってしまうほど衝撃的な夢であった。
これをもし朝の目覚まし時計の「機能」にでも出来る技術が開発されたら恐らく日本から「寝坊」と言う言葉が消える。
―しょ、商品化しようか?多分一生食っていける。
直衛がそんな風に考えつつほっと胸を撫でおろしていると―
「おっす直衛~~おっはよ~」
「――――!!!」
(ぎゃああああああああああ!!!!)
声にならない声が直衛の中で木霊する。
少女け・・い、いや、薫が直衛の背後より声をかけ、声にならない叫び声をあげている直衛に
「わっ!?な、なに!?」
一歩退いて怪訝な顔をする。
「少女け・・、い、いや、なんだ・・薫か」
「・・・『少女毛』・・・?いや、それよりも『何だ』とは失礼ね。って、げ・・!?アンタ『また』何よ!?」
振りむいた顔面蒼白、脂汗を掻いている直衛を見て更に薫は一歩後ずさり、慄きながらこう言い捨てた。
「あ、アンタ・・か、顔が、顔が微妙に悪いわよ!!!?」
「・・」
「・・『色』を諸事情で省いたんだけど」
「・・その『色』が物凄く大事なんだよ」
「―で、どうしたのよホント。また体調崩したの?相変わらずひ弱なガリ勉君ねぇ」
「・・」
「『半分』お前のせいだ」。と、直衛はのたまりたいが流石にそれは理不尽が過ぎる。
そう「半分」は。
「あ。国枝君!・・さっきの時間のノートありがと―」
「あら、いらっしゃい恵―」
「―――!!!」
(ぎゃああああああ!!!!!!)
もう「半分」。襲来。
「う、うわぁ!?国枝君!?」
栗毛、ショートカットの髪を揺らしながら跳ね上がる少女けいk・・い、いや田中 恵子が国枝から一歩遠ざかる。
「あ。あ、あぁ・・・少女けい・・・い、いや田中さん・・」
「・・?う、うん。別にいいけど・・大丈夫?本当に。国枝君・・」
「ちょっ・・恵子の言う通りよ・・アンタ本当に大丈夫・・?」
「・・・」
―・・・・例え「自惚れ」とは解っていても。
敢えて言わせてもらう。願わせてもらう。
・・歌わせてもらう。
わ、私の為に。
あ、争わないで~~~。
ルートK 裏話 2 朝日を見に行こうよ
「・・・?」
過去問題集を自宅の自室の机の上で三問ほど解いた後、少年―国枝 直衛は窓の方を見る。
―何か窓に当たった、か・・?
季節が夏であれば直衛の部屋の明かりに吸い寄せられた虫か何かが窓にぶつかってしまう事など良くあることだがまだ季節は冬。おまけに時刻は最早二時半を回っている。冬でもある程度活動できる鳥か何かでもないだろう。「・・気のせいか」と考え、再び直衛はペンを走らせる。が―
こん・・
「!」
やはりなにかが窓に当たっている。「何者か」の意図で。これまた季節が怪談に向く季節であるのならば不気味な現象に違い無いのだが繰り返すがまだ季節は冬である。特に恐怖とか好奇心とか大したそんな情動も無く、淡々と直衛はペンを置いて窓に歩み寄り、からりと開け、周囲を見回す。
「・・・!」
そして目を見開いた。
―お~~~~い。気付いちくり~~~。
あ。気付いた!お~~~~い。直衛~~~?
そんな声を上げたくともこの真夜中の時間帯故に張り上げられない声にもどかしさを感じながらも精一杯健気に自分の存在をアピールするように両腕を挙げ、ぶんぶんと振りまわしつつ飛び跳ねる一人の癖っ毛の少女が国枝家の前に立っていた。
―薫?何でこんな時か・・。・・!
直衛は白いセーターの上に壁にかけている細身のモッズコートを羽織り、寝ている家族を起こさないようにゆっくりと階段を降り、音が出ないようにこれまたゆっくりと玄関を開ける。
その隙間から徐々に姿が見えた少女の眉は申し訳なさそうに内側に曲がり、口の形は「ごめ~~ん」の言葉を象っている。
自宅の玄関を締めきり、屋内への音の侵入の心配をしないでいい段階になった時に直衛は足早にこんな時間に訪ねて来た癖毛の少女のもとに駆け寄る。相も変わらず少女は申し訳なさそうな顔をしており、直衛を眼の前に迎え入れた瞬間に言う言葉を既に心に構えて待っていた。
「直衛。ごめん!」
そんな彼女の用意していた言葉を―
「薫!ワリ!」
意外すぎる少年―直衛の言葉が遮った。少年は既に頭すら下げている。長い髪が揺れ、風呂に入った後の特有の清潔な香りがする。
「へ?」
眼をまん丸と開いて薫は目の前の光景に言葉を喪う。「なんで?」という言葉を顕在化させるのにやや時間を要した。
「なんで・・アンタが謝るの?」
「・・。確か今日からお袋さんと新しい旦那さんの婚前旅行だろ?・・悪い。寂しかったろ?・・・俺から電話するべきだった」
「・・・!!」
―・・ああ。直衛。
そんな事言われたら私泣きそうになっちゃうよ。・・嬉しくて。
気持ちが通じて嬉しい。・・さっきまで不安だったんだから。こんな時間に突然押しかけて勉強してるだろうアンタに嫌な顔されるんじゃないかってサ?
なのに。
―こんな優しい言葉言われたら。
「・・うヴ~~」
いつの間にか口を震わせ、涙と鼻水だらけになっている顔を隠す事もせずに薫は直衛の前に立ちつくした。
「薫・・その・・涙は拭いてやりたいんだけど・・」
「・・びまぶく(今拭く)」
「え」
ずびびびびびびび!!
「は~~すっきりした!!鼻が通るってすんばらしい~~~」
薫は意気揚々と綺麗な冬の星空を仰いで大きく鼻で息を吸う。
「・・よかったね」
対照的ににゅとりと自分の首元にかかった大量の涙交じりの鼻水を拭きながら直衛は仏頂面で呟いた。
―うう・・高かったんだぞ・・このコート。おまけに買わせたのお前なのに・・。
「てんきゅ!!直衛のおかげで鼻も、もやもやしたのも全部スッキリした!!」
「・・。元気が出て何より。さて・・どうする?・・俺の部屋に入ってもいいけど・・」
「・・う~ん。・・・正直結構さっきのアンタのお陰で私受け入れ態勢万全になりかけてるし。その・・色んな意味で」
「・・結構グイグイくるね・・」
「・・アンタのご家族も居るし流石にマズイでしょ?だから・・どうしよか?取り敢えず温かい個室は色んな意味でヤバイって事でして・・私んちも、カラオケもヤバイかな・・」
「・・だったらファミレスかどっかっで時間潰すか」
「うん。いいよ!って・・あ!!」
「・・?どした」
「駅前の24時間のファミレス三月のリニューアルオープンの為に改装中だ・・」
「あ~そうだったか・・」
「・・ああ・・JORSTERを24時間営業にする様にてんちょと掛合あえばよかった・・」
「・・店長さん過労死するぞ」
「・・歩くか」
取りあえずの直衛のその一言に薫は頷き、
「うん!」
二人は真夜中を歩きだす。
雑談を交えつつ歩き、コンビニに入って薫の好きなファッション雑誌を手に取り、今季の狙いの春物商品を見据え、温かくなったらこれを着て何処に行こうかと今度は旅雑誌や情報誌にシフトする。
「あ~でもないこ~でもない」「あ。これ、いい!」「いや、・・ない」「ならこれ」「・・う~ん」「これでどうだ!」「・・ありかな」「よし決まり。次」
こんな感じの話で二人の時間は結構早く進む。少し大学生っぽい夜間のバイト店員に迷惑そうにされて会話のトーンを落としたりして時間は過ぎ、最後にお詫びの意味を込めてホット飲料と軽食を買って後にする。
金のかからない有意義で、有効なコンビニの利用方法であった。
吉備東公園―ベンチにて
「はい。私の奢り」
ホットコーヒー缶を直衛に手渡し、「私はこれ~♪」とコンビニの袋からスパゲッティの容器と肉まんを取りだす少女―棚町 薫。
「こんな時間に・・太るぞ」
「大丈夫。私動くし」
そう言って満面の笑みで麺を啜り出した。
「ん~~。んまい♪」
「・・ちょっとくんない?」
「断る!私のディブレっくふぁーすと(「ディナー」と「ブレックファースト」を混ぜた薫言語)は渡さん!」
「・・・」
―スパゲッティみたいな髪型しやがって・・共食いしてんじゃねぇ。
げしっ!
「いて!」
「今なんか頭の中で私の悪口言った!!絶対言った!!」
―・・スパゲッティ頭ながら勘が良いな。
五分後―
「ふ~~喰った喰った♪で、今何時?」
「・・五時前。何だかんだでだいぶ時間潰せたな」
「でも・・まだ暗いね・・」
「後一時間後ぐらいかな。夜明けは」
「一時間か。・・アンタは眠くない?」
「大丈夫。今日は休日だし、一回帰って寝ればいいしな。・・今度はちゃんと俺から連絡するから」
「ん・・。ホントありがと」
この二人はお互い休日とはいえ忙しい身である。直衛は予備校、薫はバイトである。
バイトで疲れて帰った家に誰も居ない事に居たたまれないまま一人飛び出した薫を優しく迎え入れてくれた少年に薫はそっと寄り添う。
「・・。例え避けてても。気まずくても。会話なんてなくても・・それでも『家に誰かが居る』って事と『本当に誰も居ない』ってのは全然違うね?・・サミシイ」
「・・そうだな」
「・・またアンタに迷惑かけちゃった。この埋め合わせはちゃんとするからさ・・」
「・・ならスパゲッティくれよ」
「や~だ」
「・・」
「ふふ」
夜が明けたら取りあえずは一旦お別れだ。
一人きりの夜の静かさに寂しくて、嫌気がさして飛び出しておきながら今は夜明けの訪れを億劫に感じる、なんて勝手な話だ。いつもながらの自分の気分屋具合に今日に限って薫は嫌になる。
「・・行くか」
「・・」
―もう行くんだ。夜明けはまだ先なのに。
でもその方がいいのかもね。
夜が明けて陽の光が射す―それが離れる合図になるぐらいなら、むしろその時間が訪れる前―暗い内に別れてしまった方がいいのかもしれない。そう薫も考え、
「りょ~~かい」
しっかり立ち上がる。
しかし―
「・・。今から出掛けたら丁度いい時間にあそこに着けるかな」
「・・・え?」
「薫。お前の好きなあの場所―河川敷に行こう」
―・・あ。
「薫―
朝日を見に行こうよ」
・・私はきっと。
ううん、絶対。
この日見た光景を忘れないだろう。そして隣にアンタが居た事を。
そしてアンタが私にかけてくれた言葉、一言一句たりとも忘れない。
―・・。今日みたいな朝日でもこの前みたいに夕日でも・・雨の日だって良いや。
・・また来よう?薫?・・一緒に。
何の変哲もない。決して特別水が澄んでいる訳でもない。何処にでもある風景。
でもここにしかない私の、私達だけの世界で一つだけの風景。
お父さん、お母さんとの家族との思い出の場所。
そして大切なアンタとの場所。
「・・・」
思わず私が言葉を失い、顔を伏せたのは綺麗に差し込んだ陽の光が川の水面に反射して眩しかっただけじゃない。とても目を開けていられなかったからだ。
嬉し過ぎて。
幸せすぎて。
涙が止まらなかったから。
でも。
顔は上げるよ。決して今の私は綺麗とは言えない顔だと思うけど。
・・しっかり目に焼き付けておくから。この風景も。アンタも。全て。
―また見たい。アンタと見たい。
そう思う為に。
そして今度はアンタの言葉をそのままそっくり私が言うの。
・・直衛?
「朝日を見に行こうよ」
って。