時はクリスマスまで丁度一週間前―日曜日のお昼の事。
「紗希・・」
「何でしょうか?ア・ナ・タ?」
「いきなり『貴方。久しぶりにデートしましょう!』と、言うからいつもの店を予約しようとしていたのに・・それを断ってなんでまたその・・」
「はいな」
「・・『ココ』でいいのかね?」
「はい。私はアナタとデートできるだけで結構幸せなので」
「そ、そうか」
「ええ。例え肝心のクリスマスとイヴの日に仕事の予定が入って大切な家族と一緒に過ごせない事になった甲斐性なしでド畜生のダメ亭主であっても」
「・・『すまない』と何度も言ったではないか・・まだ根に持っているのか?」
「い~~え。あ~~あ。あの時の紗江の悲しそうなカオったら・・本当に可哀そうでしたわ」
「・・」
「だからせめてクリスマスまでの最後の休暇のこの日ぐらいは貴方とデートさせて下さいな」
「・・。それならせめて紗江も一緒に来たらよかったのではないか」
「仕方ないでしょう?今日は日曜日よ?紗江だってヒマじゃ無いの。・・一人の男の子に夢中になった以上、女の子の人生は一気に様変わりします!・・それに比べて大事な日に居ない、デートしてくれない父親よりも傍にいてくれる優しい男の子・・ダメな父親より普通そっち選ぶと思いません?」
「・・ぐぬぬぬ」
「・・御崎君の話をすると貴方、一気に子供っぽくなりますわね。まだ引き摺ってるの?心にもない言葉言って御崎君突き放しちゃったこと」
「・・自分でも驚いたよ。初対面早々彼には本当にすまない事をしたと思っている・・」
「ま。貴方はビジネスに関しては百戦錬磨でも『一人娘のボーイフレンド』に関しては全く以ての初心者、ズブの素人ですからね」
「耳が痛い。だが・・それは紗希。君も同じではないのか?」
「私はアナタとは歩んできた人生が違います。学生時代は勉強漬け、エリート、社会で成功するための道を歩んできた貴方とごくごく一般的な家庭で育った私。友人、人間関係の種類、経験値がそもそも異なりますわ。・・お気に入りのカワイイ後輩や、先輩の女の子が目の前で次々どこの馬の骨か知れない糞男子に盗られていく屈辱・・それに関してはワタクシ。百戦錬磨でございますの」
「・・」
「でもそれは仕方ない事ですの。私も現に貴方と言う人に惹かれた。好きになってしまった。紗江だってそうよ。初めて好きになった人の傍に居たいと思うのは当たり前です。その気持ち、貴方も少しずつ汲んで受け入れていって下さいな。少なくとも・・御崎君は中々芯がありそうな子で私は好きよ」
「・・」
―勝てんな。この女には。
「さて・・一足早いクリスマスパーティーと行きましょうか。気の早いサンタクロースよりも気の早いバカ夫婦を―
・・祝ってくれるお店らしいの。ここは」
ぱっ
「ん・・?照明が?停電かな」
「・・・」
―「JORSTER」か・・。
ひょっとしたら私達夫婦の行きつけのお店になるかもね♪良いお店だわ。
・・私達の可愛い紗江ちゃんが選んだ所なだけはある。
「パ・・パパ?」
「ん・・?・・・!!!」
その声に中多父は驚愕の眼を見開いて振り返り、更に眼玉が飛びだすかと思うほどその光景に釘づけになった。
「・・・」
いつものようにうるうるおめめを揺らめかせ、プルプルと震える細い両手でバチバチと線香花火のように光る蝋燭が灯された可愛らしいクリスマス用のデコレーションケーキを少しずつ一歩、また一歩ゆっくりと大好きな父親に向かって歩いてくる一人娘―
中多 紗江の姿が在った。
「そ、その・・め、メリー『ちょっと早い』クリスマス・・ですっ!!」
時は少し遡る。
例の事件が最後に智也の担任教師―多野によって完全収拾されてから少し時間が経った時の事だ。
中多と太一はそもそも本来の計画―「クリスマス、そしてバレンタインと中多の父にプレゼントをする為」のアルバイトの訓練をしてきたのであるが先日の事件、それに端を発したごたごたによる混乱から中多がJORSTERの面接に落ちる以前にそのスタートラインにすら立てなかった事により、二人の計画は一時頓挫していた。
JORSTERの再面接も年末年始の多忙さから「年明け、繁忙期が落ち着いてから」という結論に落ち着いている。
つまり年内・・今年のクリスマスまでに「いくらかお金を稼いで父に何かをプレゼントする」という中多の計画はかなり厳しくなってしまったのだ。
「・・・うぅ」
小さな少女一人、クリスマスの世間の冷たい寒風にさらされながらとぼとぼ歩く。いつもの愛用のガマ口財布、「ガマちゃん」の中身を覗く。・・8000円程はある。別にお金に困っているわけではない。でも今の彼女にとってはその中身は空っぽ同然に見えた。
―うう・・ガマちゃんゴメンね?お腹すいてるよね・・。
「いや空いて無いけど・・なんで泣いてんの?」とでもガマちゃんは大口を虚空に向かって開けながら言いたげである。中多はそっとその彼女にとって「空の財布」をそっとしまいこむ。
―お金・・欲しいなぁ。自分の力で・・。
「紗江ちゃん」
「・・!太一せん・・・。・・ひゃっ!」
「・・あ。ゴメン」
中多は思わず太一の「惨状」に一歩退いた。彼の左頬が痛々しくぽっかり赤く膨らんで人相がやや変わっているもんだから当然臆病な小動物少女―中多は脅えたくもなる。太一は左頬を抑えながら申し訳そうに笑って謝る。
「どどどどど、どうしたんですか!?先輩!?ま、まさかまた・・!?」
瞬時に脅えてしまった自分を諫め、中多は心配そうに眉を歪めて太一を見上げる。
「あ。心配しないで・・っつっても無理だよね?でも・・ホントに、ホントにこれが『最後』だから」
太一は堂元 由亜の所へ行った。
太一には解っていた。あの三年生男子生徒―小沢が由亜の下に行く事を。せめて問い質したい筈だ。自分を天国から一気に地獄まで叩き落とした少女の真意を。
そして由亜は彼のその問いかけを全てに於いて肯定し、彼を嵌めた事を一切否定しなかった。決して彼に対する嘲り、侮蔑等無く淡々と。真摯に彼女は彼と向き合った。トラブルの責任の一端が「自分の生来の性格」と言う事は否定できない事実である故に。彼を責めたとすれば無関係の太一達を巻き込んだことぐらいだ。
最後に「自分はどれだけ責めてもいい、殴ってもいい。だから太一君達はもう放っておいて」と付け加え、頭まで下げた。
そんな彼女の行動すらもまともに小沢は見る事は出来なかった。眼を、心を逸らしたままだった。ただ彼女の「責めてもいい、殴ってもいい」という言葉に機械的に細く、何も持っていない空っぽの自分の拳を振り上げる。
その矛先は結局彼女と彼の間に割って入った太一の左頬に突き刺さった。
その直前―
予想された男子生徒―小沢 雄平の逆恨みの行動を警戒していた茅ヶ崎のクラスの担任教師―多野に太一は接触。
「僕なりに決着をつけたい。よって手出しをしないで欲しい」という要望を多野は当初はあまり肯定的では無かったが必死で更に太一が頼み込んだ結果、最後には尊重してくれた。「決して暴力は振るわない事、そして再び暴力に晒された際は遠慮することなく自分を頼って欲しい事」を条件に付け加えて。
―・・また教師失格の行動だな。君といい茅ヶ崎といい・・。手のかかる生徒だ。
と、苦笑いしながらも送り出してくれた多野の言葉が少し太一には嬉しかった
「太一君!!・・そんな・・太一君!!?」
殴り飛ばされた太一が堂元に声をかけ続けられる光景を眼にし、小沢はその「初めての感覚」に立ちつくす他無い。殴った自分の拳が痛いのだ。まるで自分が殴られたみたいだった。
彼は今まで人に殴られた経験はない。今回の件でも智也も、多野も彼を殴らなかった。「自分は運が良い」と思っていた。しかし悟る。
「自分は殴られる価値もない」のだと。
―・・つまんね。
他でもない自分自身に語りかける様に小沢は目の前の光景に興味を無くし、もう彼等と二度と関わらない事を決め踵を返した。
泣きじゃくる由亜を笑いながら慰めた太一はすっきりした表情で彼女の元を去る。その小さな背中は今の由亜には大きく見えた。素敵に見えた。
―・・ホント。
太一君可愛くなくなっちゃった。
・・カッコよくなっちゃった。
残念。
初めて由亜は「去る者」を追いたくなった。形良く盛り上がった胸の中心に片手を添え、僅かに跳ねる心を生まれた「何か」と共に抑え込む。
彼はもう小動物ではない。れっきとした一人の人間、男の子だ。
そしてそんな彼はもう自分には振り向いてくれない。遠い所に行く。
あの子の元へ―
そんな人間―太一の名誉の負傷の左頬を。
「・・・」
中多は今は外気の寒さと寂しい懐事情で凍えていた冷たい小さな掌をそっと添え、冷やしてあげた。
・・たまには「冷たい」ということも良い事だ。
気持ち良さそうに添えられた冷たく小さな手に太一は眼を細めて微笑む。その笑顔に中多は手とは対照的に心に温かな灯が宿るのを感じて彼女もまた微笑んだ。
しかし―
一つの壁を乗り越えた少年少女達に否が応なしに現実が降りかかる。
「・・僕のせいで・・ホントにゴメンね・・紗江ちゃん」
「そんな・・先輩のせいじゃありません・・皆さんの折角のご協力に応えられなかった私が悪いんですから・・くすん」
中多の月のお小遣いは一万円。それに太一の寄付があればそれなりの物は買えるだろう。でもそれはやっぱり何かが違う。
「でも・・仕方ないよね。うん!気持ち切り替えて紗江ちゃんのお父さんに『どうやったら喜んでもらえるか』から一緒に考えて行こうか」
「はい。そうですね」
情けないけど仕方ないよね、と言いたげな二人はお互いの微妙な困り顔を向け、笑いあった。そんな二人に―
「・・二人してシケた面して歩いてるわね~~」
中々失礼な言葉がかけられた。一瞬太一はムッとしながら振り返ったが、その声をかけた当人の表情も相当に「シケた」面をしている為、すぐに太一の衝動は和らぐ。そして気の毒そうに、現れた「彼女」に心底同情した声で
「・・大丈夫?棚町さんこそ・・」
「・・大丈夫じゃないわよう・・」
鬼の様な多忙な年末、そして過酷なプライベートな問題を多数抱えた苦労人―棚町 薫が突っ立っていた。
「棚町先輩もお疲れなんですね・・」
中多も同調してそう言った後、「はぁ」という白い溜息が三人同時に虚空に巻き上がる。
「・・う~~ん。お父さんにクリスマスプレゼントを、ね」
中多から事情を聞いた棚町はしみじみとそう言った。
「はい・・だから自分の力で稼いだお金でパパを喜ばせたいなぁって思って皆さんに色々協力してもらったのに・・ご期待に添えなくて・・情けないです。くすん」
「・・自分で稼いだお金かぁ。うん。私も高校入ってバイト初めてやった時に貰った最初のお給料でお母さんと食事したの覚えてる。・・格別だった。貰ったお小遣いと自分で稼いだお金で大切な誰かに何かを贈るのってまったく別モノだから」
「・・」
「で」
「・・?」
「もう諦めちゃうの?紗江ちゃんは」
「・・諦めたくないです!でも・・JORSTERで働いて年内でお金を貰うことはできなくなりましたし・・」
最初にきっぱりと否定した後は徐々に尻すぼみになってしまう少女の言葉に太一は助け船を出す。
「だからとりあえずクリスマスに関しては今の手持ちで何か中多さんのお父さんに喜ぶ事をしてあげたいなぁ、と、考えていた所なんだよ」
「成程ね。なら結構・・お二人とも手段は選ばない感じなんだ・・?」
顎に手を添え、やや強い表情をして「ふぅむ」と棚町は考え込みつつ中多、太一の二人を見る。最近公私ともに激務続きでややお疲れの棚町の睨みはやや怖い。
「棚町さん・・?」
「・・私もね?家での気まずさから逃れる為に手段選ばなかったの。逃げ道漁って漁って方々手を延ばしたお陰で色んな世界知ったわ・・。JORSTER以外にね。・・お金って案外稼げるもんなのよ?うふふふふ・・」
棚町はにやりと笑って中多をじっと見る。小動物のように中多は竦み、背筋を伸ばす。
「短期バイト・・やってみる?短い期間で直ぐに在る程度のお金が手に入る。ただし当然そんな条件と都合のいい物にはその分リスクがある。・・覚悟は良い?紗江ちゃん?」
「ひっ・・」
脅える小動物少女の前に少年が割り込む。
「棚町さん!?・・君の事だから程度は分けまえているとは思うけど・・」
「安心してよ。私だって分別くらいあるわ。それにヘンなとこ紹介して御崎君に直衛にチクられたら私怒られちゃうし。とりあえず話だけは聞いて?それで判断してくれて一向に構わないから」
「・・どうする?紗江ちゃん」
「お話だけ聞く位なら・・」
「ふふん。おっけー。じゃあまずはね・・」
「ごく」
「・・・これを着るのよ!紗江ちゃん!!!」
そういってもったいつけながら棚町が彼女の通学用のカバンから出したのは
「ひゃあ~~真っ赤っか!もう~~火事かと思ったわ~~~」とでも言いたくなるような眼に痛い赤い赤い衣装。明らかにサンタクロースをモチーフにしたデザインの衣装である。
そして明らかに・・布地面積が狭い。
「なななななな!!???」
―こ、これはマズイ!!マズイって!!
「これでこの寒空の中!劣情と下卑た下心を持っている魑魅魍魎の野郎どもからケーキを売り、お金を巻き上げるのよ!!紗江ちゃん!!うわはははははは!!」
そうのたまって笑う壊れたノリの棚町を見て太一は心底同情を禁じえない。「ああ。彼女は既に壊れているのだ」と。しかしそれはそれ、これはこれ。
「さ、紗江ちゃん・・さ、さすがにコレは・・」
「・・アリです」
「へ?」
「すすすすっごい可愛い!!着てみたいです!!棚町先輩!ぜひやらせて下さい!」
―・・しまった!このコ、こういうコだった・・・!!!
太一は今更に思い知る。一応この子は「あの」母親の娘なのだ。
「よっし!!そうと決まれば私についておいで!!」
―はっきり言ってこの子なら顔パス!!
「はい!!」
「・・・」
―と、とりあえず心配だから付いて行こう・・。
棚町の予想通り、中多はその日に顔パスでケーキ屋の短期バイトを勝ち取る。未成年者である以上、保護者の承認が必要なので流石にその日に働く事は出来なかったがあっさりと「可愛い衣装を着る」という中多の目的が達される。結構な「上玉」の緊急参戦に気を良くした採用担当が貸衣装の試着を早速許してくれたのだ。
棚町と中多は店の裏にある更衣室へ消える。流石にそこに太一は立ち入る事は出来ない為、店内でそわそわ待つ他無かった。
―・・心配だぁ。中多さん大丈夫かなぁ・・棚町さんだから大丈夫だとは思うけど・・。
んが。
更衣室では別の予想外の事象が起きていた。
「・・・あ、あああ」
―ば、馬鹿な。
「た、棚町先輩。そ、そのどうで、しょうか・・?」
棚町は唖然、愕然。そして戦慄する。予想以上のポテンシャルを秘めていた目の前の小動物少女を前に。
―サ、サイズが合わない!?「こぼれ」ちゃう!?
・・何が「こぼれる」かは想像にお任せする。
数日後―
この店の開店以来最高クラスの売り上げを叩きだした約三日間―その間に働いていた短期アルバイターの少女は―
伝説となった。
彼女を採用した担当の話によると
―彼女だけ「特別」仕様のサンタ衣装を発注するのに迷いが全く生まれなかった。
その衣装は彼女にしか着れないので記念にその少女に贈ったらしい。
少女は感激し、何度も頭をペコペコ下げた。・・可愛かった。
また短期バイトを募集する事があれば是非来てほしい。切に願う。
・・あの衣装を着て。
そして「あの衣装」は。
現在―このクリスマス一週間前のJORSTERにて初披露目された。
彼女の大好きな大好きな父親の前で。・・些か刺激が強過ぎたようだが。
「さ、ささささ紗江!!な、ななななんて恰好を!!!か、風邪をひいてしまうではないか!!!?」
中多父が眼に毒なほど可愛い娘のホントに可愛いが、同時にあられもない姿に混乱して暴走している頃、その姿を愉快そうに見ながら彼の妻―紗希はJORSTERの向こうの客席でガタガタ震えているであろう太一の方向を見据えていた。
言うまでもなく、娘のこの色々問題ありそうな短期バイトを許したのはこの母親である。
正直娘の紗江は既に相当に乗り気で在り、太一の制止も利かなかった為、最後の手段としてこの母親に娘を止めてもらおうと太一は考えていた。このバイトをするために必要な保護者の捺印さえ取れなければ流石に中多娘も諦める他ない。よって最後の砦であったのだ。
サプライズの標的なのでこれは中多父には頼めない。よってこの予測不能、トリックスターな母親に縋るしかないのだが・・
・・トン。
あっさりと太一の眼の前で中多母は躊躇い無く印を押した。まるで太一を嘲笑うかのような爽やかな笑顔で。
―ぬっふふ~~♪
そう。今現在太一の方向を見据えているこの笑顔だ。さわやかで美しいが同時に邪悪だ。その中多母の視線の先に
「ん・・・!?まさか・・!!」
中多父は気付き、視線を向ける。
―そこか!そこなのか!!
脅えながらも太一はひょっこり頭を出して面目なさそうに頭を下げる。狙撃でも警戒してるみたいな挙動不審な動作だ。
「・・やはり私は君が嫌いだ」
あまりに理不尽なヘイトが太一に突き刺さる。が―
「パ、パパ・・?」
そんな父親に不安そうに娘が語りかけると父親のボルテージは一変。
「ん!?あ、ああ・・紗江・・その、」
「お、怒ってる・・?ご、ごめんなさ・・・」
「い、いや!・・その、怒ってる、ような、その怒ってな、い、ような?」
「全く・・親娘してはっきりして下さいな?もどかしい・・・」
策士の母、全く悪びれず。
「ほ・・」
落ち込みながらも親子交流を再開した中多家の光景に少し落ち着いた太一の前に
「・・ま、まぁ。気を落とすな。大将。俺らもついてる」
「・・色々在ったんだね。及ばずながら出来る事はするよ。・・絢辻さんも『顔出すくらいはするかも』ってさ」
「・・・。紗江ちゃんのお母さん・・なんか『ウチの』に似てるわ・・」
「・・・」
―・・一見厳しそうだけど凄い娘さん大事にする親父さんなんだろな。・・なんかウチの親父や先生、・・・多野さんに似てるや。
梅原、源、杉内。そして意外にも茅ヶ崎の四人が召集されていた。国枝は「妹のクリスマス衣装の買い出しの為」とか言って逃げた。棚町はその事に心底憤っており、それを宥めるのがこの五人でまた大変だった。そして―
「あれが・・紗江ちゃんのお父さん?うわぁカッコイイね・・」
「う~~んそだね~~『デキル男』って感じ」
「・・そうですね。ホントにお若いですよね」
「・・」
―・・いいなぁ紗江ちゃん。私もお父さん生きてたらプレゼントとかしてあげたかったなぁ・・。一見怒っているように見えるけど・・あれはある意味照れ隠しでしょ。
凄い喜んでくれてると思うよ紗江ちゃん?・・私には解るよ。
よかったね・・。
別の席でお客として座る桜井 梨穂子、その親友伊藤 香苗、そして中多のクラスメイトの七咲 逢、そしてその席にドリンクバーのお代わりを配るウェイトレス姿の棚町 薫は自分は実現できなかった大好きな父親への恩返しをする一人の少女の姿を心から祝福する。
「薫。パフェおかわり」
「・・・恵子。アンタって子は」
「へ?」
「パパ・・ママ。そ、そして今日集まって下さった皆さん・・す、少し早いですけど・・楽しんでいってくだひゃい!」
中多 紗江は今まで、そして今回の事件でお世話になった人を呼んで今回の一足早いささやかなクリスマスパーティーを開いた。
おかげで短期バイトで稼いだお金、そして今月のお小遣いはすっからかん。
色々と入り様な年末を前にして早々赤字決定だ。
でも―
初めて自分で稼いだお金の初めての使い道としてこれ以上の物はないと中多は確信している。
中多は大好きな父の隣で微笑む。そしてちらりと太一の顔を見た。
「・・・ふふっ♪」
感謝と好意を一欠片も隠さない見とれるほどの無垢な微笑み。
「・・・」
かつて小さく、気弱でぶるぶると震えていたかつての少女のその微笑みは・・大人びて見えた。
太一も彼女に今月のお小遣いを全額カンパしたお陰で彼もすっからかんだ。
―・・すっからかん同士丁度良いや。
今年のクリスマスは何処にも行かずどこか二人で。まったりしよう。
・・今日の出来事を。
皆の笑顔を最高の話の種にして。