ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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・・この胸の中。


温めている物はなぁに?


温めた物はなぁに?



温めた人は・・だぁれ?




私を見つけた人は・・・だぁれ?





全てが素敵な事だった。幸せだった。





そしてその人が今も目の前に居る。傍に在る。







―君は・・・



「あの時」のままだね。







いつものように、あの時のように微笑んで・・彼はそう言った。


彼も変わらない。・・「あの時」からずっと。






誰もが恋に落ちるでしょう。



貴方の微笑みに。









ルートT 序章 始まりの場所から

 

 

「―・・人・・有人?」

 

 

 

 

 

 

「ん・・・?あ・・直・・・?」

 

 

 

 

 

 

「・・お前も2-Aか・・中二以来だな。クラス一緒になんの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉備東高校 

 

源 有人そしてその親友である国枝 直衛の高校二年の春―

 

 

 

四月。

 

 

 

 

2-A教室―

 

 

高校一学年時は有人は1-A、彼の幼馴染で親友の国枝は1-Eであった。

二年生のクラス分けの際、二年生の校舎で一旦は一学年の時のクラス分けと同様の教室にそれぞれ集まり、旧クラスの名簿整理や諸作業、そしてかつてのクラスメイト達との別れを惜しんだ後、新学年の新クラスへ各人教室移動―と、いう形をとっている。

有人は一年の時と同じく二学年もA組だったため、教室を移動する必要無く、そのまま教室に残り、新しい面々がぞろぞろと揃い始めた新クラスの独特の雰囲気を楽しんでいた。小学生から何度繰り返そうともこの感覚は新鮮だ。ある程度見知った他クラスだった生徒達との対面に少しの緊張と距離感、そしてほんのりと期待と高揚が混ざる。

 

「そっか・・。直と一緒の時となると・・もうそんな前になるんだね?」

 

な~んか・・懐かしい感じだね?と、有人はそう言って微笑みながら晴天の窓の外にひらひら舞い散る桜を見やり、国枝もその光景を眺めながら頷く。

 

「・・今回のクラス分け、2-Aは中学メンツ多そうだな・・・んが!」

 

国枝の言葉を裏付けるように国枝の後頭部をエルボーが捉える。こんな事が出来る人間は限られている。

 

 

 

「・・はぁ~い♪みなもっち、おひさしぶりぃ~んふふ~~♪」

 

 

 

自分の暴力行為を全く悪びれもせず、中学からの知己の少年を惜しげも無く背後から奇襲、昏倒させ、前かがみになった被害者―国枝の背中に堂々と左ひじをのせ、ひらひらと右手の指を振る。どうやら上機嫌なご様子で。

 

「棚町さん久しぶり。今年一年間よろしくね」

 

「こっちこそ!それにしても・・うーん!・・・なっかなっか今回ナイスなクラス分けよねぇ。・・アタシの魅惑のカラダをつかってクラス分けを操作した甲斐があったってもんよ♪」

 

癖毛の少女―棚町 薫は腰に手を当てながらクラスを見回し、しみじみとそう言った。

 

「あはは。このクラス分けにする為に体張ってくれたんだ?感謝しなきゃね」

 

「そそそ♪みなもっち・・私の汚れた体を慰めて・・よよよ・・」

 

「有人乗るな。・・また調子こくぞコイツ」

 

「直衛うっさい。んっ・・・!」

 

「ぐえ!」

 

「そういや・・クラス名簿に梅原君の名前もあったわよね・・?まだ来てないのかしら?」

 

癖毛の少女はとりあえず左ひじのエルボーで国枝の背中を射抜き、呼吸困難にさせた後、まだ現れない騒がしいムードメーカーの姿を探す。

 

「いや・・来たみたいだぞ?」

 

・・噂をすれば何とやら。教室の後ろの扉ががらりと開いたと思うとすぐに三人の姿を確認し、ニヤニヤと笑いながら歩み寄る短髪で人懐っこそうな男子生徒の姿がある。

彼も今回のクラス分けのナイスさに上機嫌のようだ。

 

 

「ふふん。・・待たせたな?諸君!」

 

 

「お~梅原君!はっきし言って待ってないぞ!?」

 

「・・キツイ!相変わらずきついぜ!棚マッティは!」

 

「あっはは~~」

 

クラス分けでこれ程騒がしくなれる二人も珍しいだろう。

 

「それにしても・・遅かったね。梅原」

 

「おぅ!みなもっち!実はさ・・ちょ~~っと紹介したい奴がいてな?御崎ぃ!こっち来いよ!」

 

 

「・・うん」

 

 

少し緊張した面持ちでハイテンションなその場に梅原正吉の後方三メートルで入りづらそうにしている小柄な少年が梅原に促され入ってきた。小柄な体にやや幼さが抜けきらない声、長めの髪と相まって女の子にも見える。

一行と初対面のこの時、小柄な少年―御崎 太一の髪は肩ほどまであり、より女の子に見えた。

 

 

「コイツはさ、御崎 太一ってんだ。俺の一年ん時のクラスメイトよ。まーよくしてやってくれよ!いい奴だから!」

 

「よ、よろしく・・」

 

「・・これまた可愛い子で・・梅原君?ひょっとしてアンタ、そっちの方向に?・・高校生の時分で早々と女を諦めるなんて悲しすぎるわよ・・?」

 

初対面の人間に対して有り得ないほど失礼な棚町の発言である。今度は流石に国枝も度が過ぎると思ったのか軽く棚町を小突く。

 

「あいた☆」

 

「いきなり失礼・・俺は国枝 直衛。で、このくるくるパーマが棚町 薫。よろしく」

 

「俺は源です。源 有人。よろしく御崎君」

 

結構見た目も言動も突飛な棚町を諫めた常識を弁えていそうな少年二人の自己紹介に小さな少年もややホッとした表情で応える。

 

「う、うん!よろしく!」

 

「いった~い。って!誰が『くるくるパーマ』よ!」

 

小突かれた「くるくるパーマ」の頭を手で押さえ、不服そうに国枝のネーミングにクレームをつけるくるくるパーの少女に

 

「『くるくるパーマ』じゃ不服か・・なら『焼きそばもじゃ子』でいいのか」

 

「言ったわね!このムッツリガリ勉!!」

 

「誰がガリ勉だ!?」

 

「いや~~・・大将?あながち間違ってねぇかと思いますぜ・・?正直・・お前俺らがヒクぐらい勉強するし」

 

「・・直、『ムッツリ』は否定しないんだね」

 

「・・オイお前ら」

 

意外かもしれないが国枝はツッコミ兼、いじられ役な所が在る。

 

「あ、あの喧嘩しないで?僕、気にしてないからさ」

 

御崎は困り顔でまあまあと両手で場を宥める。「気にしない」というより彼には結構その手の経験があるらしい。自分に対してのそういう反応を受け流す体制が既に出来ていた。小さな少年―御崎 太一の大人な対応に流石に居心地を悪くしたのか棚町はテンションを改める。

 

「あ・・ごめんね。じゃ、改めて・・アタシは棚町。棚町 薫よ。一年間よろしくね♪御崎クン」

 

「うん。よろしく、棚町さん」

 

そう言って少年は少女のように微笑んだ。

 

―う。私より可愛いんじゃない?この子。

 

この頃の御崎 太一は今よりも更に髪が長く、童顔も相まってより女の子に見えてしまう少年であった。

 

「新学年早々騒がしくてすまん・・。とりあえずよろしく御崎君・・じゃあ『御崎』でいいかな?俺のことも『国枝』って呼んでくれていいからさ」

 

「う、うん。よろしく国枝・・やっぱ・・国枝『君』のほうがいいかな」

 

「そうか。好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ俺は・・『太一君』でいい?」

 

有人は笑ってそう言った。

 

「・・。うん!どうぞ」

 

小さな少年は嬉しそうにそう言った。「御崎(ミサキ)」のある種、女性的な響きよりもいかにも男の子っぽく響く自分のその「太一」という名前を呼ばれる事が嬉しかったらしい。その表情の変化に源はこの少年の大体の「事情」を把握する。

梅原が横目で源をちらりと見て「ありがとな、気を遣ってくれて」と合図する。

 

―色々苦労してる奴でな・・仲良くしてやってくれ。

 

―了解。梅原。

 

―・・了解。

 

―任せといて。

 

四人はそうアイコンタクトする。お互い何だかんだ言いつつも、全員それなりに人間出来た連中ではある。

 

「・・・?そういや杉内どうした?確かアイツも2-Aなはずだろ?」

 

「あ、そうね。アタシもクラス名簿に名前のってたの覚えてる。遅刻?」

 

「あ~それがな・・大将は・・」

 

「杉内君は・・2-Bの桜井さんと伊藤さんに捕まってるんだよ」

 

 

 

 

2-B―

 

そのクラスには桜井 梨穂子。その親友の伊藤 香苗。そして何故か2-Aのはずの杉内広大がいた。

 

 

「はぁ・・・」

 

 

桜井 梨穂子は落ち込んでいる。

 

 

「・・さくらい~。そんなに凹まないでよ。クラス替え如きで・・」

 

 

「・・・だってぇ」

 

今回彼女が入る事になった2-Bというクラスが特に問題なのではない。むしろ今回のクラス替えは一年時に比べればよっぽどいい。

親友の伊藤 香苗他、何人かの元クラスメイトはいるし、隣のクラスにも数人の知り合い、男友達なら梅原、御崎、そしてここに何故か居る杉内と決して悪くは無い。ただ一点を除けば。

 

 

彼女の幼馴染で想い人―茅ヶ崎 智也が全くの反対側。向かい校舎の2-Eなのである。

最果ての距離の校内遠距離恋愛、もとい片思いである。

 

 

「・・・時々茅ヶ崎には遊びに来るよう言っとくからさ。ほら、元気出して?桜井さん」

 

 

少年―杉内 広大も桜井を慰める為に、とばっちりを受けた形で未だに一年時のクラスである2-Bの教室から離れられない。

 

数分前―杉内×伊藤のやりとり

 

「杉内君。アンタ茅ヶ崎君の友達でしょ?何とか言って桜井宥めてあげてよ・・あたしゃもう不憫で不憫で・・」

 

アラサーに差し掛かっても結婚できない娘を慮る母親のように伊藤は杉内に助け船を頼む。

 

「ええ?伊藤さぁん・・そんな無茶な。何言え、って~のよ」

 

伊藤の予想外の緊急招集に応じる形で杉内は桜井を慰める。が、桜井のローテンションは止まらない。

 

「せめて・・せめて違うクラスにしても隣のクラスとかさ~~気を遣って欲しかったですよ~~ああ~~うう~~」

 

机に突っ伏しながら暗い影を背負い、彼女にしては珍しい呪詛のようにクラス分けに関する恨み節が止まらない。

 

「桜井~~・・凹みたいのはアタシも一緒だっての。また『あいつ』とおんなじクラスになれなかったし・・うう~~」

 

桜井、伊藤の両名が沈んだ。その惨状に杉内も

 

―・・勘弁してよ。俺なんか響姉が留年でもしなきゃおんなじクラスになる事なんて無いのに・・。

 

成績優秀な吉備東高校三年生、杉内の幼馴染で同時想い人でもある少女―塚原 響が留年する可能性などはっきり言って1パーセントも無いだろう。

 

ず~ん。

 

最後に杉内も沈んで一行は無言になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻―

 

水泳部部室裏にて―

 

 

「・・・よしよし」

 

 

チリン・・

 

 

ふにゃ~

 

 

一人の体格の良い少年が一匹の黒猫を膝に乗せ、指先で器用にあやしていた。

先述の2-Bのトラブルの発端である件の少年―茅ヶ崎 智也である。

 

この少年は一年生時、不良グループに属していた際、彼等の溜まり場をテリトリーの一部にしていたこの黒猫―プーに唯一懐かれ、気を許されていた少年である。

そんな彼の下に

 

 

「プー、プー?どこ?・・・あ」

 

 

一人の黒髪の猫の様な少女が部室の裏の曲がり角から顔を出し、部室裏で一人座り、プーをあやしていた茅ヶ崎を戸惑いながら見る。

 

「・・!悪い。もう行くから気にしないでくれ」

 

茅ヶ崎はそう言って優しく膝に乗った黒猫プーを下ろす。

 

・・な~

 

下ろされたプーは少し名残惜しそうに茅ヶ崎を見上げ、彼の靴の上にちょこんと右手を置き、「もう少しここに居なさいな」と催促する。が、茅ヶ崎は笑って軽くプーの頭を撫でると「・・ツレないねぇ」とでも言いたげに渋々彼の靴から賢く手を離す。

 

「あ。いえ。お気になさらずに」

 

少女は「あのプーが懐いている」という時点で少年への警戒を解いた。

 

「君、一年生・・?」

 

「あ。はいっ」

 

低い少年の声にちょっとびっくりしたように背筋を正し、少女は頷いた。

 

「・・そ。コイツ共々よろしく・・じゃ」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

言葉少なに茅ヶ崎はゆったりと帰っていく。その背中を少女―七咲 逢はすり寄ってきたプーを抱き上げ、去っていく少年の姿を不思議そうに見送る。

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの想いを抱えたまま彼らの新学年は始まった。

 

新しいこのスタートの場にも少年―源 有人の周りには不思議なほど見知った顔達が揃い、新しいながらも同じような、平和な日常が始まる事を有人は予期した。

 

が、どうせいずれは時間に追われ、それぞれの道が分かたれていくことを最も思い知りやすいのがこの高二という学年でもある。ならばせめてその時までゆっくりと。安穏と時が過ぎる事を願う。

 

この場所で今目の前の事に一喜一憂し、ただひたすらに無駄な時間を過ごすこと。

それが許される残り少ない時間でもあるのだ。

 

・・その終りに近い始まりの場所で。

 

 

 

物語は始まる。

 

 

 

 

 

「あの・・・ちょっとお邪魔していいかしら・・・?」

 

 

まだ新しい始まりの場所の興奮、緊張が冷めやらないやや浮ついた2-A教室内で、既に落ち着き、地に足つけた声でその少女は有人に話しかける。

 

 

 

「・・ん?あ・・」

 

 

 

「お話し中ゴメンなさいね」

 

 

 

 

さらりと長く、絹のようにしなやかで光沢のある黒い髪がまだ冷たくも心地よい春風を受けてしなり、血色のいい白桃色の素肌の上に誂えら、形、長い睫毛共に美しく整った丸い大きな黒い水晶のような瞳が対称的に薄茶色の有人の瞳と重なる。

 

 

 

「・・・」

 

 

その黒い水晶の様な瞳に映るやや放心した顔の自分を見ながら、暫し彼は見惚れた。

 

開いた教室の窓から春風。教室の窓の外に舞う桃色の花びらを背に長い黒髪の少女は首をかしげる。

 

 

 

「・・?」

 

 

 

―・・っと。

 

 

気を取り直した一瞬、有人は息を飲むような感覚に陥ったが一旦目線のみをそらし、次にその少女の瞳を見据えた時には有人は何時もの調子に戻っていた。

 

「ごめん・・何?」

 

「・・あ。あの・・これ、ね・・自己紹介の用紙なんですけど・・よければ配ってくれませんか?貴方はどうやらこのクラスにお知り合いが多いみたいだから・・」

 

「あ・・うん。いいよ。勿論」

 

「ありがとう」

 

そう言ってその場に居る有人の友人数分の用紙を少女は有人に渡す。新しいクラスの雰囲気に水を差さないように周りの目を気遣って静かに。しかし手際よく人数分の用紙を細く白く細い指先を器用に絡ませ、定規で測ったみたいに綺麗に整える。

 

「・・良ければ手伝おうか?」

 

そんな有人の申し出を

 

「あ。いいの。別にこの用紙も提出任意だし。皆これに自分の自己紹介を書いて後ろの掲示板にでも貼りだしたりしたら皆すぐ馴染めるかな~って思っただけですから」

 

少女は長い髪をふるふると揺らし、しっかりとした受け答えで断る。有人は「そっか」と頷いた後、手渡された手元の資料を見る。

 

「・・。ひょっとしてこれ君が作ったの?」

 

それを一通り眺めると手書きで一文字、一文字、丁寧に書かれた自己紹介用紙である事が解る。誤字脱字も一切見当たらない。内容も簡潔で当たり障りのない質問が多いながらも、一部ちょっと踏み込んだ所まで聞く茶目っ気もある。気軽に適当に書いても他の人間が見たら自然と一通り読ませたくなる内容に纏まっている。

 

「えぇ・・まぁ・・どう?ダメ、かな?」

 

紹介用紙の質問内容が適切なのか?この企画自体が適切なのか?を双方の意味で聞いた少女の質問だった。

 

「・・。ううん。・・アイツらには絶対書かせて提出させるから」

 

有人は少し離れた場所で談笑している友人たちを見ながらそう言った。相手の意図を完全に把握した有人は戸惑いの無い笑顔で応える。すると向かい合った少女も安心したのか少し笑い、

 

「・・・。ありがとう」

 

そう言った。

 

「こちらこそ。・・・えっと・・」

 

「・・?」

 

 

「俺は源 有人っていいます。初めまして。一年間よろしくね」

 

 

もともとやや垂れ眼気味の目じりをさらに極限まで下がらせ、いつもの彼らしく柔らかく微笑む。無理矢理音をつけるなら「にへら」か「にぱぁ」か。

 

 

「・・・。・・ふふ。一足早い自己紹介ね」

 

 

少し照れたようにその女子生徒も微笑んだ。大きな瞳が少し薄く閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は・・絢辻。絢辻 詞っていいます。これから一年間よろしくね。源君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、その紹介用紙は2-Aクラス全員、一人の漏れも無く教室の後ろに掲示される事になる。

 

「・・・」

 

それを眺めながら有人は振り返り、功労者である彼女に目をやった。

 

「・・・」

 

その時には早くも既にクラスの中心人物になっていた絢辻は周りに多くのクラスメイトに囲まれながらも有人の視線に気付き、「ご協力有難うございました」と言いたげに少し頭を下げた後、微笑んだ。

 

 

 

 

二人の出会いは最初の有人の衝動を除けば、些細で当たり障りのないもの、言ってしまえば大きな印象は無い。積み重なる日常の刺激に埋もれていく程度のものである。やがて消えてしまうはずの・・その程度のものだった。

 

 

 

・・が。

 

 

 

 

 

 

その日から半年以上が経過した晩秋のある日のことだった。

 

 

 

 

 

 

夕方下校時刻、2-A

 

有人はかつて一学期に自己紹介用紙が貼られていたことすら忘れられた教室の後ろの味気ない掲示板の下の床で何かを見つけた。

 

「・・・・ん?」

 

黒く小さな長方形の物体。頻繁に使えば中古感がぬぐえなくなるその物体は未だ新品のように黒光りしている。かなり年季が入って独特の高貴さすらある。持ち主が相当丁寧に扱っているのだろう。

 

―・・手帳?

 

人物によっては手帳とは時にタダの飾りでもある。だが落とされていたその物体の佇まいからして落とし主にとってのそれの重要性はすぐに理解出来た。「確実に困っているはずだ」、と。

 

「よっと・・・」

 

有人はそれを拾い上げる。落とし主はほぼ間違いなくこのクラスの人間。どこかに個人を特定するものさえ載ってればどうにかなるだろう。後は担任にでも渡しておけばいい。知り合いなら電話で知らせてやればいいだろう

 

正直軽い気持ちだった。その物体の意味も、重みも何も知らない無知ゆえの行動。

とりあえずプライバシーもあるのでぱらぱらと内容は頭にいれようとせずに適当にめくる。

 

―・・恐ろしく字が綺麗だ。どうやら女の子のだ。コレは。

 

担任に渡す事決定。が、つと思考が待ったをかけ、足が止まる。

 

―・・・?「この字」どっかで・・・?

 

有人がそう思った瞬間だった。

 

からり・・

 

背後で教室の前方の扉が開き、反射的に有人は両手で覆うように手帳を閉じると同時に振りかえる。掲示板の方向に体を向けたまま振り返るとあの春の日の記憶が都合を図ったように繋がり蘇る。その「字」の既視感とその眼に映った光景で有人は全てを理解した

 

しかし・・合点がいったと同時に彼の中に生まれたのは―

 

 

 

 

違和感だった。

 

 

 

 

―あれ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




SHARK・T「本編」開始。
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