ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートT 三章 有人やります 後

―あ・・、あ、あ、あ・・見られた・・。あたしの寝顔・・。

 

爽やかな絢辻のお目覚めからしばしの時間が経ち、有人は銃口を突き付けられた人質の様に両手をあげて眼を閉じ、すまなさそうに正座をしながら―

 

「本当にすいません・・」

 

さっきから繰り返しそう言うばかりだった。

 

「あ、いや・・その、私・・とりあえず顔洗ってくるから・・ちょ、ちょっと・・ごめんねっ!!」

 

大体の事情は有人と部屋の状況、直前の乱入した姉の発した言葉から聡明な絢辻妹はすぐ察しはした。が、不覚にも即整理、順応が出来なかった。まぁ寝起きプラス体調不良の体には酷すぎるサプライズである。だが、それをさっぴいても

 

―うう・・。痴漢にでも在っちゃったかのように喚き、騒ぎたてたのは流石に気の毒だったかな・・。

 

洗面所でとりあえずぱしゃりと顔を洗い、更に意識の覚醒と頭の中で状況の整理が済ませる。

 

―よ、よし。とりあえず落ち着いた・・戻りましょう。

 

絢辻はとりあえず自分の部屋に戻り、部屋を出た時と変わらず反省状態で眼を閉じた有人に向けて

 

「・・御待たせ・・目ぇ開けていいよ」

 

最後にもう一度「すいませんでした」と小声で呟きながら、おずおずと有人は眼を開ける、が―

 

「うん・・あ、あれ?」

 

「うん・・?どうかした?」

 

「右目が見えない・・」

 

「ええ!?」

 

―ぬ、ぬいぐるみぶつけた所!?し、失明させちゃった!?

 

先程、絢辻は反射的に枕元にあったぬいぐるみを惜しげもなく有人の顔面に全弾投げつけ、その内の二つのウサギとカメは有人の顔面を的確に捉えていた。この少女、運動神経が良い上に球技も強い。始球式にノーバン、ストライク投球をして「おお~っ」と観客をざわつかせるタイプの女性である。しかし、それが災いして有人を「死視球」させたとしたらホントに笑えない。

 

 

 

「右目のコンタクト・・ずれてるや」

 

 

 

―あ、・・あ、あ、あ。

 

・・・ずる。

 

拍子抜けするオチに流石の絢辻も安心の反面、内心少しずっこける。

 

―そう言えば源君、コンタクトだっけ・・。

 

 

 

 

 

「・・よっし。大丈夫!もう見えるよ」

 

「・・・」

 

―「見える」・・。・・私着の身着のままだし喜んでいいのか正直微妙なとこだけど・・とりあえずよかったわ・・。

 

そう思いながら早々に再び絢辻は布団にもぐりこみ、恥ずかしそうに鼻から上だけひょっこり出した。

 

「本当にゴメン・・その何て言うか・・」

 

「どうせ・・あの人でしょ」

 

絢辻は掛け布団の上から目線だけじろりと玄関の方向を恨めしそうに見る。有人は否定も肯定もせず黙りこむ。

 

「・・」

 

―まぁそうなんだけど・・。

 

正直、冷静に考えてみると色々とやり様があったのは事実なので縁だけを責められない、と言うのが有人の本音である。はっきり言うと有人は好奇心に負けた面が強い。

 

絢辻もそれを理解した上、こちら側もぬいぐるみを初速100キロ近い鉄砲肩で射出し、有人を撃墜させる以外にも他にやり様があったのではないかと取りあえず反省する。

 

 

「・・こっちも大声出したり取り乱して・・こちらこそ御免なさい」

 

「いや・・仕方ないって・・普通そうなるよね」

 

「・・うん。流石に驚いた。正直中々ありえません・・」

 

確かに。

 

「・・・」

 

ハッキリとした絢辻の物言いに露骨に有人またがっくり。

 

「・・あ。でもそういう意味だけじゃ無くて・・まさか源君がお見舞いに来てくれるなんて思っても無かったから・・」

 

これはフォローの意味を込めた絢辻の言葉でもあるのだが、一方で有人と、その周りの状況を考慮に入れればどこか、「嬉しい」という気持ちも徐々に湧きあがっている事も確かではあった。

 

「・・源君?ご用件は?・・っていうのは野暮かな?」

 

絢辻は漸く少しイタズラに笑って顔を傾ける。もうこれぐらいにしたげよう、と。

 

「・・あ。はい。つまらないものだけどお見舞いです。気を取り直してお見舞いします。っていうか・・させて下さい」

 

有人は言葉の通り、気を取り直した。ここまできたらちゃんとお見舞いしましょう。

 

 

「ふふっ・・どうぞ?」

 

 

―・・ありがとう。

 

絢辻は心の中、そして掛け布団の中で唇だけでそう象り、礼を言った。驚いたのは確かだ。でも本当に・・悪くない気分だ。

 

 

 

 

 

「絢辻さん。どう?体調は」

 

「うん。峠は越したみたいで今は随分楽かな・・心配してくれてありがとう」

 

流石に発熱による体力の消耗の結果、何時もの語気に柔らかさのなかにも彼女特有の自信、力強さに満ちた感は無い。が、それでも受け答えはキッチリしており、体長が快方に向かっている事は嘘ではない事が解る。

まぁ今までのようにすぐに普段通りの彼女のパフォーマンスがだせるほど無理が出来る状態ではなさそうだが・・とりあえずそんな懸念を押し隠して有人は頷く。

 

「・・よかった。先生もクラスのみんなも心配してたから。その証拠にほら・・すごいでしょ?この果物籠」

 

「・・・。本当にね」

 

絢辻も硝子テーブルにでんと置かれたその異様な果物籠の巨大さに流石に慄いていた。

 

「いいパトロンがいてね。予想を遥かに超えた豪勢な見舞い品になりました・・」

 

「・・高橋先生でしょ?もう・・先生ったら」

 

「・・・。絢辻さん」

 

「ん?」

 

「台所の道具・・少し借りていい?」

 

 

 

 

 

「・・。器用なのね」

 

「兄貴が受験勉強中で。部屋に差し入れとか時々してるから」

 

果物籠から一つ林檎を取り出し、手慣れた手つきで源は台所から拝借した包丁と小さなまな板の上で器用に林檎を剥いている。中々手際がいい。普段頻繁に料理をするわけでは無いが彼自身少し興味があるらしい。

 

「・・よし!やった!成功~~♪」

 

「・・?どうしたの?」

 

「ほら。リンゴの皮。途切れることなく最後まで皮を剥ききると・・ほ~ら不思議。何故かS字になった」

 

子供のような事で無邪気に有人は微笑んだ。

 

「ぷ。ふふっ・・」

 

 

 

 

 

 

「源君ってお兄さんいるんだね?受験中ってことは・・一つ年上なのかしら?」

 

「あー・・ううん。兄貴一浪してるから二つ上。ちなみに話したと思うけど弟もいて、そいつは中二」

 

「ふうん・・そうなんだ・・源君って人懐っこいから何となく最初は一人っ子っていう印象あったんだけどな・・」

 

「・・よく言われる。・・よっし。出来た。召し上がれ」

 

掌で器用に割った林檎。そのやや歪な方を少し女性的なほど整えられた指先で手に取り、「貰っていいかな?」と有人は微笑んだ。こくりと頷いた絢辻に蜜の詰まった綺麗な林檎の半分を更に一口サイズにして台所から拝借した白い皿の上に乗せて手渡す。掌の体温が移らない様に手早く剥かれた林檎は中々綺麗だ。

 

―・・うん、中々綺麗ね。でもちょっと皮を厚く剥き過ぎかな?源君。八十点!

 

絢辻は内心、有人の林檎に及第点を与えると同時、彼女らしく延びしろを含めたやや辛目の採点を行う。それを察したのか自覚があったのか有人も苦笑いで応える。

 

「・・頂きます」

 

静かな空間に林檎を食べるときのサクサクとした音が響く。

 

「あ・・すりおろした方がよかった?」

 

「ううん。おいしいです」

 

 

 

十分後―

 

綺麗に完食された林檎の残った皮と芯をまな板の上に載せ、有人は立ち上がる。

風邪の峠は過ぎ、快方寄り。本人は食欲もあり、血色も戻りつつある。お見舞いとしては「十二分に目的を満たした」と有人は判断した。

 

 

「じゃあ・・そろそろ俺はこれで。いきなり押しかけて本当にゴメンね?びっくりさせちゃって・・」

 

「ううん。こちらこそ。こんななりの上、満足にお茶も出せないで・・」

 

「とんでもない。あ・・包丁とまな板ありがと。洗って・・何で拭いとけばいいかな?」

 

「あ、そこまでしなくてもいいわよ?適当に置いていってくれたら・・」

 

「包丁とまな板はいつも清潔にね」

 

「・・・。じゃあ・・クッキングシートが近くにあると思うからそれで拭いてくれるかな?」

 

「うん。じゃあ拝借するね。了解。それじゃあこれで。・・お大事に」

 

「あ・・せめて玄関まで」

 

「いいよ。気にしないで寝てて。・・鍵は閉められないけど大丈夫?」

 

「あ、うん。大丈夫。オートロックだから」

 

「あ。そっか?・・つかぬ事を聞くけどお姉さん・・閉め出されちゃったこと無い・・?」

 

「・・うん。何度も。数えきれないぐらいわんわんぴ~ぴ~泣きつかれたわ」

 

 

 

 

―つかさちゃ~~ん。またやっちゃた~~。入れて~~(>_<)

 

 

ドンドンドンドンドン!

 

 

―・・・。

 

 

 

 

「―ってな感じで」

 

「やっぱり・・」

 

「ええ。ふふっ・・」

 

「ははっ」

 

 

最後にそんな軽口を交わして有人は部屋を出ていった。残された絢辻は

 

「・・ふぅっ・・」

 

と、大きな溜息をつく。お見舞いに来てくれたと言う喜びはあった。が、流石に今回に関しては絢辻にとって気苦労、戸惑いの割合の方が多かったらしい。

 

―良かった・・洗い物干してなくて・・。

 

リアルな生活感を他人に見られなくて本当に良かったと絢辻は胸を撫で下ろした。気まずさに拍車がかかったに違いない。そしてこの状況を引き起こした姉―縁へのクレームを絢辻は熟考し始めた時―

 

「・・あ!絢辻さん」

 

唐突に部屋のドアをノックする音とともに廊下からくぐもった声がする。有人の声だ。

 

「は、はい!?どうしたの?」

 

「ゴメン。もう一回お邪魔していいかな?」

 

「???・・・・。どうぞ?」

 

 

 

 

「・・はいコレ。綺麗に洗ったのだから」

 

有人は水で冷やしたタオルを改めてぴとりと絢辻の額に置いてくれた。枕元で暖房によってすっかり温くなった洗面器の水を放置し、それと一緒に置きっぱなしだったタオルがいつの間にか消えていたのに絢辻は気付かなかった。

 

「あ、ありがとう・・」

 

「ホントなら氷とかで脇を冷やした方がいいんだけど・・流石に冷蔵庫を開ける気にはなれませんでした・・」

 

「・・。ふふ」

 

額をタオル。口元を掛け布団で覆い隠した絢辻から唯一覗く瞳が少し愉快そうに光る。

 

「・・。思ったより元気そうで良かった。じゃあ絢辻さん。また明日」

 

「・・うん。また明日」

 

絢辻の体調の回復をお互いに確信したかのように二人はそう言って別れる。

 

「・・・」

 

今度は少し名残惜しそうに絢辻は有人の去ったドアの方向を暫く見ていた。気苦労、戸惑いの割合より僅かに喜びの割合が今上回る。

 

 

 

 

 

―・・行っちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれー?ゆうと君もう帰っちゃうの?」

 

一階のマンションのエントランスで部屋に戻ろうとしていたオートロック閉め出され常習犯―縁は有人とばったり顔を合わせた。

 

彼女の頭には葉っぱやら、草やらが所々につき、衣服も少し汚れている。正直、パトロール中の巡査辺りが今の彼女を見たら心配して話しかける位の状態ではないだろうか。

 

―ら、乱暴でもされたんですか!?

 

という感じに。だが、本人は自分の状態などどこ吹く風で相変わらずニコニコと笑っている。応えて有人も笑った。有人もこの縁という女性に大分馴れてしまったのだろう。

 

―「ゆうと」の名も定着したようだし万々歳だ。・・ちくしょう。・・苦労したぜ。

 

「・・ええ。とっても元気そうだったので一安心です。お邪魔しました。絢辻さんのこと・・よろしくお願いします」

 

「いえいえ。大したお構いも出来ませんで♪またお見舞いに来てあげてね?つかさちゃんもウルもきっと喜ぶから」

 

「・・いえ。多分今日が最後だと思いますよ?」

 

「そうなんだ・・残念」

 

「それじゃあさようなら。縁さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱり似てるわ」

 

去っていく有人の背中を見送りながら縁はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日―

 

「おはよう。心配かけてゴメンね」

 

絢辻はまるで何事も無かったかのように登校し、お礼とお詫びの挨拶回りを済ませた後、二日休んだ分を取り返すような目覚ましい動きを見せる。その姿に誰もが安心した。

 

―・・・。

 

・・一部の人間を除いて。当然有人もそのうちの一人だった。

何時もと変わらない絢辻の姿は逆に有人を不安にさせる。前日、確かに彼女は元気なように振舞っていたがあくまで体調がどん底の状態から少し回復しただけのことだった。それからたった一日で絢辻が今まで通りの彼女に完全復活したと周りがそう思う事―

 

「絢辻さんだから大丈夫」

 

それが何よりも不安に感じた。正直昨日の彼女を直に見に行ったのは正解だと思い、強引ながらも部屋に自分を招き入れてくれた姉の縁に有人は感謝する。直接病床の彼女を見ていなければ有人自身も周りに居る人間と同じく、そのように感じてしまったに違いなかったからだ。

 

そしてその確信は有人を今在る行動に移させる。

 

戻ってきた絢辻に不安を感じていた人間のこれまた一人である担任の高橋の帰りのHRでの立案―「2-Aの創設祭実行委員の増員」の提案―しかし、クラスの人間の大半は戻ってきた今日の絢辻の何時もと変わらないパフォーマンスに安心し、「大丈夫だろう」という空気が漂っており、立候補者は皆無に思われた。

 

が―

 

 

「・・・」

 

 

 

「・・!大将」

 

「・・有人」

 

「源君?」

 

「ゲン・・!」

 

「みなもっち・・」

 

「・・源君」

 

担任高橋、そして梅原、国枝を筆頭とした絢辻の見舞金出資者達が驚きの声をあげる。控え目にゆっくりと、しかし手を高く掲げたその少年を見て。当の絢辻も目を丸くしていた。

 

 

 

「・・源君」

 

 

 

 

「先生。俺・・やります。創設祭実行委員・・」

 

 

 

 

 

―源 有人17歳。やります。

 

 

 

 












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