ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートT 六章 仮面舞踏会 2

吉備東の町はずれ、倉庫街にて―

 

 

 

「ここ入るのって初めてだな・・」

 

有人はそう言った。少しその口調には緊張がある。人通りの少ない裏路地に有人達一行の目的地であるその店は在った。

 

この周辺は元々妙な店が多い。ここは海外を含め、各地からの物資を海路より迎え入れる船着き場が近くに在り、船の乗組員等がつかの間の憩いの場として訪れる場所である為、バーや飲み屋、レトロなゲームセンターやスロット、マージャン等のちょっとした娯楽施設を併設している店が多い。

 

今日彼らが訪れたこの店もその一つだった。夜間は完全にバーとしてアルコールもだしているが、一応この時間帯であればソフトドリンク飲みで学生も込みで一般開放している。とはいえその店構えはあくまで酒を飲まない、飲んではいけない高校生では流石に入店を躊躇いそうになるバーである。

 

「・・中学の時よく行ってたビリヤード場が潰れてたから仕方ないとはいえ・・御崎?・・ホントに大丈夫なのか?ここ・・?」

 

「た、多分ね?」

 

どうやらここを紹介したらしい小さな少年―御崎 太一がやや心許無さそうにやや長身の少年―国枝 直衛の質問に答える。

 

「・・ここさ~怪しい外人がいつも出入りしてるって噂を聞いた事があんだけど・・」

 

「オイオイ!・・こっち女の子三人いるんだぞ。大丈夫かよ・・」

 

今日も黒猫プーに振られ、傷心のまま一行に参加した杉内 広大の不安そうな問いに江戸っ子弁の少年―梅原も流石に動揺を隠せない。2-A男子、有人を初めとした彼ら五人の少年は彼らの背後にて談笑している少女達―絢辻 詞、棚町 薫、そして田中 恵子の三人に目配せしながらこのバーを紹介した御崎を不安そうに詰問していた。

しかし、御崎はその梅原の質問に関しては明確に―

 

「それは大丈夫」

 

そう否定した。

 

「そうなのか?」

 

「その人噂によると男専門らしいから」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

具体的すぎる御崎のその言葉に他の男性陣四人は閉口した。

 

「違う意味で安心できねぇじゃねぇか・・」―そう言いたげに御崎を恨めしそうにじっと見る。

 

「ちょっと!そんな目で見ないで!?こ、これはあくまで噂だよ~?」

 

と、御崎は笑顔で取り繕った。が、四人の御崎に対する疑念と猜疑心に溢れた視線が消えない。

 

 

 

「どーしたのよ?で・・?入るの?入らないの?」

 

痺れを切らしたように癖毛の少女―棚町が男性一向を促し、。それに田中と絢辻の二人も続いた。女性陣の方がこういう所は度胸が据わっているようだ。

 

「・・。まぁ昼間はお酒を出さないお店らしいし、ウチのガッコの生徒が出入りするのを見たって人もいるしね・・この時間帯であれば学生さんも受け入れてるって事は確かだよ。ほら。周り見ても結構学生さんが入ってる店在ったじゃない?アンティークショップとか小洒落た雑貨屋さんとか・・」

 

「・・まァ確かに。でも雑貨屋とかとバーはまた違う気がすんだよな。・・そもそもその『出入りしてた生徒』ってどういうタイプの人だよ?不良とかじゃないだろうな」

 

「ふ、普通の人だよ・・皆もよく知ってるあの・・・・その・・」

 

「・・。その・・?」

 

 

「・・森島先輩」

 

 

・・でた。「森島 はるか」。

 

「よ、よりによってフリーダムな人だね・・太一君・・」

 

「ん~~そもそもさ?ミサキ?・・俺聞きたいんだけどお前何でこんな店知ってるの?・・おまけに噂の怪しい外人がその・・『男専門』だってことを知ってるし・・」

 

「・・!!」

 

―・・広大ぃ!しっ!!

 

「そこは聞いちゃダメだろ・・大事なとこだけど」と、御崎を除く他三名は杉内を内心責めた。しかし、それに対する御崎の返答に三人は再び戦慄することとなる。

 

「・・姉ちゃんがよく行ってる店でさ・・」

 

「どのお姉さんだ」

 

御崎の不安そうな解答に間髪入れずに国枝がそう問い詰める。空気が急激に張り詰めた。御崎家三姉妹の三択―開始。

 

「双子の・・」

 

・・二択。残念ながら御崎家三姉妹で一番まともな長女が早々に脱落。

 

「二子(つぎこ)さんか!?それとも双子(そうこ)さんか!?答えろ!御崎!?」

 

「・・二子姉ちゃんです・・・」

 

―かぁ~~・・・。

 

梅原、源、国枝は内心頭を抱えた。森島 はるかよりさらに悪い。初めて三人が今年の夏、御崎の自宅に遊びに行った際、たまたま居合わせ早々に三人に電話番号を聞いてきた「あの」節操なしである。

もともと同性の友人が少なかった弟の御崎 太一が珍しく三人もの同性の友人を家に連れてきた事の喜びと同時、年中彼氏募集中の興奮した彼女の絶・倫理状態には梅原すらも引いた。

見た目は結構美人な女子大生であり、訪れた三人にとって嬉しい事には違いは無いのだが流石に「物事には順序と許容範囲というものがあるな」と三人は思い知った。

 

 

御崎のフォローの言葉は悉くアレな方向に行っている。フォローの役目を果たせないまま、友人達の更なる不安を煽っていた。

 

 

「何?何の話?」

 

ただ一人この場の男性陣で唯一、御崎の家に遊びに行った事がない杉内は事情が解らない。

 

「・・知らなくてもいい事だよ広大・・」

 

―「知らない」って幸せなことなの・・。ビュ・・い、いや広大・・。

 

「えぇ~?!俺だけ仲間はずれ!?」

 

 

「あの~話が立て込んでいる所悪いんだけど・・」

 

一向に実りの無い会話に終始している男性陣に申し訳なさそうに絢辻が話に割り込んだ。

 

「あ、絢辻さん・・何かな?」

 

「棚町さんが田中さんをひっぱって入っていっちゃったんだけど・・大丈夫かな」

 

「「「「「・・・」」」」」

 

男子一同、沈黙。

 

 

「・・・あのバカ!!!」

 

「あ。直、待って!」

 

「み、源君、待って!!この割引チケット持っていくと安くなるらしいから、はい」

 

・・御崎はどこかマイペースだ。何だかんだ結構余裕があるのかもしれない。

 

「おい、大将達!!俺を置いてかないでくれ!!」

 

「ちょっと!結局何の話だったんだよ!?御崎のお姉さんってどんな人だってんだよ!!待てってお前ら!おい!!」

 

 

 

「・・男の子って馬鹿ね~」

 

 

くっくと笑って絢辻も彼らに続く。その足取りはとてもご機嫌そうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはは~面白いね!それってアメリカンジョークってやつ?」

 

「でショ?HAHAHA」

 

「ふふふ・・」

 

 

 

その光景に後追いの男性陣五人は閉口する。暫くしてようやく国枝がツッコミを入れた。

 

 

「おい・・薫」

 

「ん?あ、やっと来たわね。遅いわよ?」

 

既に週3位のペースでここを訪れる常連客のようにバーカウンターに座りながら寛ぎ、一人の正真正銘の常連客くさい男と雑談していた少女―棚町の姿が一行の目に映る。

その隣で田中も意外にその場に和気藹々と溶け込んでいた。彼女は引っ込み思案に見えて案外度胸が在る。まぁそうでもないと棚町タイプの少女とは親友で居られないのだろうが。

 

―・・田中さん。薫に毒されてるな・・。

 

国枝は内心そう呟いた。性格が対照的な為、いいコンビと言えるかもしれないが、このまま棚町と付き合っていればいずれ田中をシャレにならないトラブルにいつか巻き込んでしまうのではないか、という危なっかしさに国枝は内心へなへなと膝を突く。

 

「う・・」

 

キリキリ胃が痛み、倒れ込みそうな国枝を両サイドで有人、梅原が支えた。

 

「・・直。しっかり」

 

「大将。俺達が付いてる・・気をしっかり持て」

 

「ありがとよ・・」

 

 

 

 

「あ。この人はマイクさん」

 

いつそんな暇があったのか解らないがカウンターに座った三人は既にお互い自己紹介済みらしい。棚町の紹介に合わせて隣に座っていたフェミニンなピンクのシャツをさらりと羽織った長身の男が棚町よりさらに癖の強いヘアスタイルの頭を振り、ぴっとご機嫌そうに手を上げ、にこやかに一行に話しかける。

 

「HI!こんにちは!GUYS!ワタシはマイケル・ギャラガーと申シマス。CALL ME マイク!HAHA(→)HA(↑)HA(↓)!!」

 

その男はいかにも日本人の考えそうな「間違ったアメリカ人のイメージ」を憎いほどに彷彿させる男だった。

 

 

「・・胡散くせぇ」―男性陣のマイクの第一印象は完全にその一言で一致していた。

 

 

「マイクさん留学生なんだって。でもすっごく日本語上手で最初びっくりしちゃった。すっごくお話も面白いんだよ」

 

 

どちらかと言うと人見知りするタイプの田中が珍しく異常なほど溶け込むのが早いのが更なる男性陣の疑問を煽る。「そういう」タイプの女の子に警戒、または異性を感じさせないほど瞬時に場に溶け込ませる妖しい男。つまり・・

 

―・・「本命」は違う。そう言う事にならないか?

 

そんな男性陣の一歩引いた警戒をよそに肝の据わった棚町はずいずいと話を進め始める。

 

「あ、そうそう。マイクさん?アタシらちょっとビリヤードをしに来たんだけどさ・・大丈夫かな?」

 

「OH!ビリヤード!?ナァイスなチョイスね!!OK!OK!ワタシ、ここにマスターにカオ利くから話を通してみるネ。高校生ウェルカムよ」

 

マイクがこの店の常連客で在る事は決定。さぁいよいよ・・本当の意味は世間の認識とは少々異なる言葉らしいが・・

 

「煮詰まってきた」ぞ・・。ぞぞぞ。

 

「やったぁ!有難うマイクさん!ウチの男どもと違って話が早くて助かるわ」

 

棚町は男性陣の内心の葛藤などお構いなく、騒ぎ立てる。マイクとはお互い「くるくるパーマ」同士だけに気が合ったのだろうか。

 

「プレイ人数は何人デスか?テルミーハウ、メニー♪」

 

「エ~~イとっ♪八人よ。台は・・二台は貸してほしいんだけど・・大丈夫?」

 

「ダイジョブね。ハチニン・・Wellwell・・オンナノコ三人に・・・。オトコノコ・・五人、ネ・・?」

 

その台詞の最後の方がまるで吐息を吹きかける様な熱く静かな語気を感じる。そして―

 

「カオルサンのおトモダチ・・とってもナイスガイ多いネ・・Huhuhu・・」

 

「そう?だってアンタ達!よかったわね!」

 

能天気に笑う棚町とは対称的に彼らを見る男―マイクの笑顔は妙に熱っぽく、そして瞳は蜃気楼でぼやけるような情熱的なゆがみが感じられる。

 

~~♪Ah..ha...♪

 

ご機嫌よく口笛を鳴らした後、トドメにその瞳が熱っぽく生温かいゆっくりとしたウィンクを「バチィ・・・!」と、した瞬間、「ナイスガイズ」を金縛りにした。

 

 

―コイツだ!

 

 

「男専門の怪しい外人」―そのデマであってほしい噂のあまりにも早い残酷な実在の裏付けに心の中で涙が止まらない男子陣を尻目に棚町、田中の二人はマイクに連れられて店内へ。

 

・・行くのか。イカされてしまうのか。・・新次元に。

 

 

「「「「「・・・・」」」」」

 

ずるずる・・

 

男性陣全員の足取りは鉛の如く重い。

 

 

ジュークボックス、スロット、ダーツなどを取りそろえた店内にカウンター、そこには身なりのいいバーテン、程良く薄暗い照明の明かりなど正直この店の雰囲気は悪くない。高校生にとっては入店するのに少々躊躇われる店構え、そしてイメージだが入ってみると意外に落ち着く。アルコール類の提供も時間指定であり、今の時間帯の客層は比較的よさそうだ。が―

 

店内の奥の階段の向こうに今回の目的地―五台ほどのビリヤード台が設置されていた。

・・寄りにも寄って店内の奥の奥。RPGのダンジョンで「逃げる」コマンドが無い様なものだ。

 

・・知らなかったのか?〇〇からは逃げられない・・・!!!

 

 

 

「あ、あのマイクさん?」

 

そんな中、唐突に意外な人物がマイクに声をかける。絢辻だった。

 

「ワッツアップ?My lady?」

 

少しスカした仰々しい動作でお辞儀をしつつ、マイクは今度は「パチッ☆」程度の軽い適度なウィンクをする。女性に対してはマイクは非常に紳士的だ。

 

「ふふっ・・あの・・化粧室どこにありますか?」

 

「OH・・・ワッツ・ざ・ミ~ン?『ケショウシツ』?」

 

「あ。『restroom』のことです」

 

「OH!アイシーアイシー。アソコね・・見えマスか?」

 

マイクは合点がいったように微笑んで指差す。指した先にはトイレの札が見えた。

 

「あぁ!札が見えました。有難うございます!」

 

「どういたしマシテ!さぁヤロウども!フォローミーね!HAHA(→)HA(↑)HA(↓」」

 

「「「「「・・・」」」」」

 

敗残兵のように「ナイスガイズ」はぞろぞろと重い足取りで店内に入っていく。その最後尾を歩く、他の男性陣のご多分に漏れず足取りの重い有人に絢辻がひそりと声をかけた。

 

「・・聞いた?・・あそこがおトイレですって?源君?」

 

「・・・?ああ・・。ありがとう」

 

今は「萎え過ぎて」とても尿意どころでは無いのだが有人はとりあえず絢辻に礼を言う。しかし、絢辻の本意は違った。

 

「・・源君?」

 

「何?」

 

 

「・・今日源君がもしマイクさんと一緒におトイレに行ったら・・私達、・・その・・・少し距離を置きましょうか・・出来るならば永遠に」

 

 

「・・・」

 

「あ、いいえ!別に源君が手を洗わないなんて私は思ってないのよ!?それに私は『そういうの』に理解が無いわけじゃないから。愛の形って人それぞれだって思うから・・ね?」

 

「・・絢辻さん?」

 

「でもね?ごめんなさい・・その・・やっぱり汚いから・・不潔だから・・」

 

見た目、口調は何時もの絢辻でも完全に有人だけが知る彼女だった。一見神妙で気遣う様な表情だ。が、彼女の瞳は完全に笑っている。そしてその目はこう言っていた。

 

 

 

―んぷぷぷ~~♪愉快過ぎて死にそうよ♪源君❤

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

―・・・・。

 

 

 

 

 














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