ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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源 有人

身長174

体形は細め。スタイルと表情と独特の雰囲気から似合う服が多そうなイメージ。
垂れ目で左眼の下にほくろがあり、主人公ズで唯一の近眼。普段はコンタクトで時折眼鏡をかける。

AB型

家族構成 両親 兄 弟

一人称 俺 自分

常に口角をあげ、優しく笑っているような少年。垂れ目に相まって独特の不思議な魅力を持つ中々の美少年だが、パンキッシュに髪を箒のように掻き上げて一見ひょうきんなキャラクターをしているため、気付く人間は少ない。
薄茶色の瞳はとても優しい光を帯びており、相手に無意識の安心感を与える。
成績は中の上から上の下、絢辻、国枝に継ぎ、茅ヶ崎とどっこいどっこいといったところ。が、副教科は安定している。音楽、美術、家庭科は強い。
目立つ事は無いが一定の信頼は確保している優等生。かといって嫉妬ややっかみを買うほどずば抜けて優れている所も無いので嫌われる方が難しいキャラクターをしている。そこがヒロインの絢辻の複雑なイライラのもとらしい。
ひょんなことで絢辻の「アレ」を知り、戸惑い、気圧されながらも彼女を公私でフォローする優しいサブ男。

実は結構な隠しごとを絢辻にしていたりする。





ルートT 七章 源 有人という少年

8 源 有人という少年

 

 

 

 

―・・本当に変わった男の子だと思う。「情けは人の為ならず」を地で行く男の子だ。

それを言うなれば普段の自分自身も決して違いは無いのだけど・・決定的に自分と彼が違うのは最悪「得るものが無くても別に構わない」と思っている事だろう。

 

いや・・それは違うかな。・・「得るものが無い」と言うより「得たい物が全く私と異なっている」という事かな?

その点が私と彼の類似点であり、また逆に相違点でもあるだろう。出来る限り広範囲の人間に自分の評判、評価をあげておき、自分を有利な立場に置きたい私、一方些細で、狭い範囲で殆どの人間が知覚しなくともそれを認識してくれるのは親しい、近しい人達の中だけで構わないと思っている彼。

 

そして最近、その中に私を置いてくれた彼。

 

・・優しい彼。

 

私の本質を唯一知りながらも未だあのへらへらした笑顔で傍に居てくれる。

・・本当に変わった男の子だと思う。

 

居心地は悔しいけど悪くない。それ故に少し最近私は彼に甘え過ぎている様な気がする。

 

散々虐めた。苛めた。・・楽しいから仕方ないじゃない。

 

全く・・自分を知ってもらいたいから悪戯で自分をアピールする子供みたいじゃない?自分のことながら呆れるわ。でも、楽しいから仕方ないじゃない?

 

・・だから不安になる。「このまま」は楽しい。悪くない。別に「このまま」でも構わない。

 

でも。

 

「このまま」はこの世界でもっとも持続が難しいものの一つ。

この時期の自分達の立場なのだから尚更だ。多くの分岐点がこの先訪れる学生の立場なのだから。

 

ただでさえ私は・・。私には・・。

 

・・。

 

 

なら!少しでも進んでみようか。踏み出してみようか。知ってみようか。

 

踏み出さないまま望まない変化が訪れてそれを後悔するぐらいなら、自分から踏み出してその結果後悔した方がきっとはるかにマシよね?

 

 

・・・。

 

・・私の嘘つき。

 

ホントは後悔なんてしたくない癖に。うんざり。

 

 

「後悔が美しい」なんて所詮綺麗事よ。「後になったら笑い話に変わる」って人は言うけれどそれは結局傍観者の意見。

その場、その時々に存在するのは紛れもない当事者である「自分自身」なんだから。・・実際苦しいし、辛いに決まってる。

 

 

・・・。それが何?まったく何を戸惑っているんだか?

散々苦しい、辛い事なんて体験してきたじゃない?一見優雅に振舞っていても「優等生」は辛いのよ?裏では地味でキツイ作業の積み重ねなんだから。

白鳥は優雅に水面に浮かびながらも水面下では必死に足をばたつかせてるの。

別に着飾る必要も、誰かに巻いてもらった餌を群がってついばむだけのハトとは違う!

そんな事を繰り返して乗り越えてきた百戦錬磨の私が今更こんな事で・・。例えもし「結果」が思わしくなかったとしてもそれなりの仕返しをして鬱憤を晴らせばいいだけの話じゃない。

 

いつものように堂々と!自信を持って行けばいいのよ!うん!!

 

 

・・・。

 

・・・!!

 

 

 

コレ苦しさと辛さの種類が全く違う!!

 

 

 

 

ゴン!!

 

 

 

「あいたたたた・・あ~アホらしい」

 

学校では彼女のイメージ上絶対聞かれてはいけない、発してはいけない発言をして絢辻は勉強机に自ら叩きつけた額をさする。漫画風に例えるなら「しゅうう・・」と額から湯気が出ている様な光景である

 

残り後一問―絢辻が今夜、自分自身に課した数学の設問のノルマをようやく済ませそうだった安堵が余計な思考に絢辻を導いた。

 

―・・ええいペナルティよ。あと二問追加。

 

彼女の本性は他人に厳しい。が、自分にもこれまた厳しい。気を取り直すようにぐるぐると腕を回し、絢辻は―

 

―ふぁいとぉ~いっぱ~つ・・・(棒)。

 

・・吉備東校で恐らく男女合わせて五十は下らない彼女のファンを一発で幻滅させる様なノリで眠気が差し込み始めた自分を彼女は鼓舞する。そして自嘲気味にふっと笑い―

 

―・・・。こんな私の一面を知っても笑い飛ばしてくれるのは源君だけかな・・。

 

 

「ふふっ・・・。・・・。はっ・・・!!!~~~っ!!!」

 

 

 

ゴン!!

 

 

 

その夜、さらにその上二問追加して絢辻はいつもの就寝時間からかなりの時間を経過してからようやく眠った。結果翌日、彼女は何時もよりかなり遅い登校時間と赤くなった額を有人やその友人達に少し心配された。

 

 

 

 

 

 

 

源 有人

 

19XX年 4月19日生まれ

 

血液型AB型

 

家族構成 両親、兄、弟の五人家族の二男。性格は温厚で淡泊。友達は同性が多く、他のクラスの人間にも顔が広く、大抵の人間と仲良くなれる。というより嫌うのが難しい。ある程度気も遣える事から生徒、一部教師とも仲がいい。

成績は中の上位、特に得意教科も無ければ逆に苦手教科も無い。副教科は体育を除けば得意な方。総合的に「優等生」と言えるだろう。

視力は0.2以下で常にコンタクトレンズ、眼鏡もかける事があるらしい。

所属部活なし。高校では特定の課外活動に参加するのは創設祭実行委員会が初めて。

 

周りの評価

 

「いい奴」

「目立たないけど居ると安心する」

「クラス内の活動でもちょくちょくいい意見とか的を射た意見を言ってくれる」

「普段おとなしい奴程怒ると怖いって言うけどアイツに関しては例外だと思う」

「・・意外に美形かも」

「あんまり男の子達と一緒に居ないでたまには私達とお話してほしいよねー♪」

「・・って~か源君もそうだけどさ~国枝君とか梅原君とかといつも一緒に居るあの棚町って女?・・あいつマジ目障り」

 

 

「・・・ふーむ・・」

 

―掴みどころの無い人ね・・。

 

もっと自分を出せば十分化ける立場に居る。もっと甘い蜜を吸うことだってできるはずの立場だわこれは・・。惜しい。

 

おでこに貼った保冷用のシートをさすりながら絢辻は自分の頭の中に既にインプットした有人のデータを反芻する。

 

―とりあえず私の周りに居るべき人間としては及第点。とりわけ図抜けて優れた所が無い、我もあまり強くないから衝突を出来る限り避ける傾向があるところも私の主義に合う。

・・反面結構頑固なところもある。譲れない所はちゃんと言葉に出して時に私ですら納得させる。

 

ふぅっ・・。

 

・・まぁいいでしょう。何もかも思い通りになる事は楽しい。でも時には思い通りにならない人間がいる事の楽しさを彼は実感させてくれる。敵では無く、味方の中に居る思い通りにならない存在というのもオツだ。

 

・・合格よ。

 

 

そんな言い訳をしながら絢辻は自分の中の「決心」を固めた。上から目線のようで下から目線。相反する二つの複雑な感情を抱えながら絢辻は席を立つ。

 

 

 

有人は教室の自分の席で彼の友人―国枝と一緒に居た。・・丁度いい。国枝ならいきなり絢辻が有人を連れだしても特に騒いだりしないだろう。

 

「源君・・?」

 

「ん・・?ああ絢辻さん」

 

「ちょっといいかな?」

 

「うん。どうぞ?」

 

いつものように垂れ下がった薄い茶色の優しい目で絢辻を招き入れる有人―その目に映った緊張している面持ちの自分の姿を絢辻は確認する。

 

「その・・ここじゃ何だから」

 

「・・・俺席外そうか?」

 

国枝が気を利かせて席を外そうと既に半身を起こしかけた所を絢辻が手で制した。

 

「あ。大丈夫よ。創設祭の件の話でここじゃ説明が難しい話ってだけだから・・ごめんなさいね国枝君。源君をちょっとお借りして・・いいかな?」

 

「お構いなく」

 

予想通り何の抵抗も邪推な勘繰りも無く、国枝は有人を絢辻に渡してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何しているの・・?」

 

「ん・・?」

 

教室を出た後、絢辻の後ろに続く有人がストレッチやら何やら忙しなく落ち着かない動作をしているので絢辻は少し鬱陶しそうに有人を本性の方の目で睨んだ。

 

「ちょっと落ち着きなさいよ・・鬱陶しいわね」

 

「ごめん・・絢辻さんが創設祭の件で俺を連れだすとなればどんな肉体労働を強いられるかと思ったら・・何か落ち着かなくて・・あは」

 

「・・・」

 

「普段の私はそんな印象なのか」と考えると絢辻は少し気分が沈んだ。

いつもなら「あーそんなこと言っちゃうんだ?そんな事言うならお仕置きね」と言わんばかりに倍返ししてやる所なのだが今日の絢辻の気分はそれを許さなかった。

曲がりなりにも前日、自分の有人に対するいつもの行為に対して反省とも後悔とも取れる様な申し訳なさを感じ、今も引きずっている彼女に有人のその言葉は少し酷だった。そんな彼女の違和感を有人も感じ取る。

 

「・・?絢辻さん今日どうかした?」

 

「・・何が?」

 

むっとした表情で有人を睨みつつ絢辻はこう言い返す。すると有人は少し困った顔で目を逸らした。

 

「いや・・何時もならもっとこう・・その・・あ、やっぱりいいです」

 

「言・い・な・さ・い」

 

「・・。反撃が来なくて逆に怖いです」

 

「・・・。ハッキリ言うのねン・・」

 

普段彼を萎縮させている事実、絢辻の行為に在る程度の恐怖を感じている有人の事実、

その裏付けが取れたことによって少ししゅんと肩を落として絢辻はそう言った。

 

「ごめん・・」

 

「嘘よ」

 

「へ?」

 

事実内心は少し凹んでいたのだがそれが全くの演技だったかのように絢辻は振舞った。

元々その程度の評価をされる覚悟はできている。自分の本性を客観的に冷静に見れば自分の事ながら相当に悪い意味で「いい性格をしている」と思う。予想を裏切らない結果が出たことを過剰に嘆いても始まるまい。自分は事実こういう人間なのだから。

それでもチクリと刺さった何かを覆い隠して絢辻は悪戯そうに笑い、有人をいつものようにからかって笑った。

 

「ふふふ・・ちょっと趣向を変えてみたのよ。たまにはこういうちょっとした変化球も必要でしょ?」

 

「え・・遊ばれたの?・・俺」

 

「そゆことね」

 

「・・・ん?『趣向を変える』?それって・・」

 

「ん・・?何よ?」

 

「趣向を変える・・つまり今のままじゃいけない・・つまり飽きないようにする工夫、つまり・・」

 

「・・キんモイプラス思考は止めなさい。今からでも容赦なくいつものようにイジリ倒す・・いえ・・イジリ嬲り殺してもいいのよ?私はそれでも一向に構わないんだけど?」

 

「じょ・・冗談です。すいません調子に乗りました」

 

「全く・・」

 

「ところでさ・・絢辻さん・・」

 

「・・今度は何よ」

 

「結局俺って何すればいいの?さっきここ通ったと思うんだけど・・」

 

「・・・!」

 

―・・・。あ!

 

やっぱり我ながら今日の自分はおかしいと絢辻は思う。有人を誘い出したのは良いのだが肝心の何を話すか、何から切り出すかを全く考えていなかった。大工が家を建てる際、一室を作りながらもそこから出入りするドアを作らなかったようなものだ。入口もなければ出口もない。その中を絢辻はぐるぐる回る。

 

―やば。どうしよ。

 

・・どうしよ。

 

収まる所の無い身のやり場をどうする事も出来ず、結局チャイムが鳴るまでただブラブラと有人の一歩先を絢辻は歩いた。

 

「・・・」

 

「・・?ん?」

 

「・・・!・・」

 

時折、横目でちらりと後ろを見ると視線に気付いたのか無言で微笑む有人から目をそらす。

そんな意味も無い、非生産的な時間がゆっくりと、しかし妙に早く過ぎていく。

いつもの頭の回転、機転が利かない自分に苛立ちを覚えながら歯痒い「足踏み」をしたこの時間をいつもの彼女ならば「無駄な、意味も無い時間を過ごした・・」と嘆いただろう。しかしこの時ばかりは何故か奇妙な充足した感覚が絢辻を包んでいた。

 

 

「足踏み」は無駄なんかでは無い。その「足踏み」からこそ人は己の中々気付きえない自分の状態を思い知り、また図り知る事が出来る。

 

まだ迷いの在る自分。現状のまま留まろうとしている自分と。

 

その一方、足場を固め、地を固め、次の場所へ踏み出そうとしている足掻いている自分のせめぎ合い―それこそが「足踏み」の正体である。

 

 

 

「・・チャイムね。戻りましょうか」

 

「そうだね♪」

 

 

 

 

―まぁいい。

 

・・何となく気分がぽかぽかする。今はそれだけでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後―

 

「・・へ?帰った?」

 

自分でも驚くほどの素っ頓狂な声をあげ、丸い目を更に丸くして絢辻はクラスメイトの杉内を見た。

 

「うん。ゲンならとっくに帰ったよ絢辻さん。な?御崎」

 

「何か急いでいるみたいだったよ」

 

杉内と一緒に居た御崎も鞄に教材を収めながら幼い顔を不思議そうにしてそう言った。

 

―おろおろ?いくら今日は委員会が休みの日とは言え、自分に何の一言も無しに速攻で帰るとはいい度胸をしてんじゃないの源君?

 

表向きは杉内と御崎に営業スマイルを向けながらも絢辻は時折彼らの視線を盗んで「フッ」と、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「え・・ゲンの奴、ひょっとして委員会サボったの!?なんて奴だ!!」

 

「あ、ううん、そういうワケじゃないの。源君、今日はやす・・」

 

「何だよ・・サボるなら俺に一言ぐらいかけてけよゲン・・それがマナーってもんだろ」

 

絢辻の返答を聞かぬまま、一人独自の「サボ理論」を語る杉内。

 

―・・。ちょっと杉内君は無視しよう。

 

その絢辻の心象を汲みとったのか御崎も杉内を無視し、絢辻にこう情報提供してくれた。

 

「多分梅原君か国枝君なら何か知ってるんじゃない?あの二人ならまだ帰って無いと思うよ?」

 

 

 

正面玄関、下足ロッカールーム前。

 

―・・いた。あの二人を放って帰るなんてそんなに急いでたのね。

 

高二男子の平均身長よりやや高めの二人の姿をロッカールーム前で確認する。

梅原と国枝だ。御崎の言った通りまだ二人は帰っていなかったらしい。

 

―・・さて、と。

 

極自然に居合わせたように振舞わねば。まさか優等生でおしとやかな「絢辻 詞」が教室からここまでの最短距離を最高速度で駆け抜けた事を気取られてはなるまい。

そろりそろりと近付き、偶然を装って声をかけるには丁度いい距離まであと二、三歩の所で・・

 

 

「アイツんトコも長いよな?」

 

「・・そだな今年で・・もう付き合って二年か」

 

 

梅原の良く通る大きい声、次にやや低めの国枝の声が響いた。同時絢辻の足がひたりと前進を止め、無駄の無い動きで聞き耳を立てるのに程良い距離に居座り、息を殺す。

不意にくらった動悸をゆっくりと沈めながら絢辻は耳を澄ます。

 

 

「・・!?」

 

―「長い」?・・「二年」?「付き合って」・・?

 

心の中でその言葉を反芻する毎に折角抑えた動悸が再び徐々に跳ね上がるのを絢辻は必死でこらえた。

 

 

「あー中学の卒業式ン時思い出すわ~。まっさかアイツがあんなに積極的だとは思わなかったよな・・いきなり俺達の目の前でみなもっちに声かけたと思ったら・・いきなりあの告白・・俺達全員唖然として固まってたよな~~あはは」

 

「・・・まぁ良かったけどな。告白が結果的に上手く行って・・ただあの子とは学校違うから何かある度にいきなり呼びだされてヒィヒィ言って少し可哀そうだけどな?有人の奴は」

 

「しょうがねぇだろ。タダでさえ最近アイツんトコあんなだし。大将が行くしかねぇだろ」

 

「まぁな。・・じゃあ俺予備校なんで・・先帰るわ」

 

「おう!また明日な!国枝っち!」

 

二つの足音が全く違う方向に離れていく。そしてその足音が全くその場から聞こえなくなった時ずるりと音がした。

下足ロッカーに預けた背中を伝い、その前に敷かれた板の上でペタンと座りこんだ絢辻の姿がある。

 

 

その目には少し涙が浮かんでいた・・・

 

 

 

・・などというタイプでは彼女は無い。

 

 

 

ゴすン!

 

 

 

 

―・・あっんの・・・野郎っ・・!・・本っ当にいい度胸してるじゃないのっ・・・!??

 

本日、絢辻は額の替わりに右肘をスチール製のどこの誰のものか知れない下足ロッカーの扉に叩きつけ、四センチ四方程のクレーターを残した。

右肘を伝ってくる特有の「びぃ~~~ん」という痺れと激痛が脳髄を刺激する。右肘から指の先端までびりびりと震え、普段の彼女から考えられないほど手先が挙動不審に、しかし攻撃的に歪む。

 

後日、このロッカーの破損事件に関して校長から直々の厳重注意が全校集会で開かれたがまさか「あの」絢辻がその下手人で在る事に気付く者は皆無だった。絢辻の立場はこのような完全犯罪も可能にするのである。

 

 

 

それゆえ・・

 

 

 

源 有人という少年の明日は知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・・よくよく考えてみれば有り得ない話では無かった。
成績も悪く無く、見た目も図抜けて良くは無くとも親しみやすい表情を持つ少年。性格も温和。高校在学以降、二桁を超す男子の告白を袖にしている絢辻の視点から冷静に思えば、自分の様な特殊な立場、特殊な隠し事をしている人間はともかく、有人はそれなりの「機会」とそれなりの「接点」が有ってもおかしくない少年なのである。

要するに「需要」が全くない可能性は限りなく低いということだ。そしてそれから生まれる有人に対しての「供給」を有人自身が年頃の男子の本能に身を任せ、「消費」する可能性は全くないとは言い切れなかった。
しかし、少なくとも学校生活では絢辻の見る限り、それが垣間見えた事は今まで無い。
女生徒の証言に「たまには自分達ともお話してほしい」等の証言があるように彼は交友関係の広さに反比例して、親密な間柄に限れば比較的狭い人間関係の中で過ごしている。特に二学年になってから中学、それか更にそれ以前の昔馴染みの人間がクラスに多く集まった事でそれが顕著に出ている。
その昔馴染みの中に棚町 薫という女の子はいるものの、昔馴染みの範囲を飛び出さないだろう。ただでさえ彼女が見ている人は彼では無く、彼の幼馴染である国枝の可能性が高い。「親友つながりの親しい女友達」といったワンクッションが入っている。除外していい。

彼女を除いた場合、彼の周りに特に・・凄く嫌な言い方になるが「女の影」は無いように見える。

―むしろ・・あるとしたら「私」じゃない?・・って違うでしょ私。



それがこういう事だったとは・・盲点だった。まさか彼が中学からの「コブつき」だったとは・・。

確かに有人と絢辻は自分達の過去について深く話しあった事は無い。そして「その手」の話題もした事も無い。と、言うより本音を言えば何を話せばいいのか解らない。

絢辻の多くの男の告白を袖にした話を聞かせてもこれは恋愛話には程遠い内容だろう。
「相手を傷つけずにバッサリ振る」講座になる事は目に見えている。

「切られた事に気付かず、幸せそうに事切れる男共の表情が滑稽で笑いが毎回止まらなかった。」などと、のたまって有人に「ははは・・」と微妙な失笑を買う程度の話だ。

それに元々有人自身、自分の事をあんまり話す少年では無い。話ベタではないが。
むしろ相手の話をうんうんと相槌を打ってにこやかに聞き、時折返答を行う方が彼の性に合っているらしい。これがホント愚痴の捌け口に丁度いい。本性を出してから絢辻が重宝している所でもある。

結果有人自らの口から色んな事を聞く機会は失われていた。こう考えてみると有人と居る時、結構自分は自分の事、自分の話ばかり話していたんだなと反省する。
なので「実は中学から付き合っている彼女がいる」と聞かされていなくても彼を強く非難できる立場ではない。


―・・とは言っても「ハイそうですか」と許容はできねぇですぜダンナ・・。

てめぇはやっちゃいけねぇ事をしちまった。

それ相応の報いを受けてもらいまさぁ・・。



絢辻の自室―

二日連続の深夜、「戒めと罰の設問追加」をこなし、寝不足の眼で前日以上にキャラ崩壊した絢辻が発する思わず口から漏れた


「ふふふっ・・うふっふふう・・」


という奇声に気付いた姉、絢辻 縁はこっそりと妹の部屋のドアを小さく開け、何時もよりスキだらけの妹の背後をとり


「うふふ・・つかさちゃんったら楽しそう・・♪」


と呟いた。



















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