ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートT 十章 仮面舞踏・解・改

11 仮面舞踏・解・改

 

 

 

吉備東高、創設際メイン舞台前にて―

 

 

「プロの仕事」がこれほど早いものなのかと感心する。自分たち学生が多くの時間と手間をかけて行う作業をあっさりと、そして恐ろしいほどの精度で行い、作り上げていく。自分らがどれ程気を張り、時間をかけても今目の前で出来上がっているモノと比べれば手抜き工事の様なものなのだろう。しかし例えそれでもこう思う。

 

―・・どれ程時間がかかろうとも、どんなに拙くても自分たちだけでやり通したかったな・・。

 

先日急遽市の要請で呼ばれた新しく来た業者の名簿リストを手元で纏め、どんどんと効率よく、事務的に出来上がっていくことが解る創設祭のメイン舞台の骨組みを見ながら有人は溜息をつき、歩きだす。その時―

 

「ん・・・?」

 

何処となく視線を感じた様な気がして有人は振り返るがそこには誰も居なかった。辺りにはドリルや溶接の際の甲高く響く作業音が木霊するだけである。

 

―・・・?

 

 

 

 

 

数日前

 

 

放課後2-A教室にて―

 

 

「委員で発注した備品をキャンセルしてほしいって・・どういう事ですか!?高橋先生」

 

 

珍しく2-A担任教諭である高橋につっかかる絢辻の強い語調が響く。絢辻の傍らで荷物持ち担当をしていた有人が驚きで目を見開くほどだった。

 

「・・!すいません・・」

 

それを自分自身ですぐに諌め、思わず振り乱した髪を綺麗な動作で掻きわける。次に発した言葉は何時ものように落ち着いた・・しかし何処かざわつくような焦りを含んだ口調で絢辻は付け加えた。彼女自身にもその原因は解っていたからだ。

 

その日の更に先日―創設祭の作業中に実行委員の一人が女子一人では禁止されている作業を行って怪我をした。

幸い彼女の症状は軽かったが禁止されていた危険な作業を定められた規則を無視して行い、その結果更に大きな怪我、大事になった可能性も否定できないため、学校側は肝を冷やしている。

「やはり生徒主導で行う限界が日程的、体力的にも難しくなってきている時期なのではないか?」―という懸念は当然あるし、実際に創設祭の実行委員の人員の不足からそういった懸念は間違ってもいないのだ。

そしてそんな微妙な状況、時期に差し掛かってタイミングが悪い事に怪我人が出てしまったことは学校側としては簡単に看過出来るものではない。当然監督責任は問われる。

実行担当の教員、高橋と実行委員代表の絢辻が槍玉に挙げられるのもまた当然である。

 

 

「市からのお達しなのよ・・『学校側で行う舞台設置とクリスマスツリーの設置をこちらで行うからそちらの作業を即刻中止してほしい』、『怪我人が出るようなそんな危ない作業は生徒に任せられない』って意見がでて学校側もそれに対しては強く反論できないの」

 

 

高橋も沈痛、そして同時申し訳なさそうに眉を歪め、絢辻を見る。

 

「・・」

 

「それに例年より作業が遅れていることもあちらは気になってるみたい・・」

 

「・・・!」

 

―それは当の市(そっち)の余計な横槍のせいでしょ!?

 

絢辻はそう言いかけたが止めた。高橋もそれは重々承知しているからだ。しかし客観的事実として横槍が入っている事とは関係なしに例年より作業は確かに遅れている。

昨年と比較すると今年は人員がかなり少ない。ここにも市が介入するスキを与えている。それを実行委員の結束と一人一人の頑張り、絢辻のリーダーシップで強引に牽引してきたのだからひずみも生まれるし、疲れもある。

 

しかし、ここまで絢辻だけでなく実行委員全員が必死で頑張ってきたのに、今更散々邪魔をしてきた連中の甘い助け船に乗らなければいけない事が腹立たしい。

絢辻がそう思いながら沈痛な面持ちで居ると高橋が口を開いた。

 

「・・私は作業スケジュールの内容を把握しているし、皆の頑張りも知ってる。楽観でも何でもなく『間に合う』って信じてるわ。でも市の方はそう思ってないみたい。だから引き続き出来るだけ説得して見る・・貴方達が今までどんなに頑張ってきてどんなに凄い子たちかを解らせてね」

 

強い口調でそう言った。

 

「・・はい」

 

「皆は作業の自粛は避けられないと思うけど腐らずにその中で出来る事を尽くして。当然いつも通り無理はしない事。安全第一でね!」

 

「・・・先生」

 

「じゃあね。状況は追って知らせるから。なーに校長は絢辻さん派よ。味方につけてこき使ってやるわ!」

 

―ふふっ・・高橋先生頼もしいな・・。

 

最近素の絢辻に高橋は似て逞しくなってきたなと有人はそう思いつつクスリと笑った。

軽快に高橋は去っていく。

 

そう言った高橋も授業と実行担当教員の激務に日々耐えている。そんな中で市と生徒、学校側と異なる三つの立場からの板挟みを受けているのだ。非常に苦しい立場なのは間違いない。しかし、この事態を招いたのは自分でもあるのだと絢辻は理解している。もっと徹底して規則を守らせねばならなかったのだ。

 

・・自分が「あんな状態」にならなければ避けられる事態だったのだ。

 

―私が。私が・・・!

 

自責の念に絢辻は拳を握りしめ、奥歯を噛みしめる。

 

「・・絢辻さん」

 

「!」

 

首を傾げるようにして絢辻を見る有人の薄い茶色の目が心配そうに絢辻を映した。

 

「・・大丈夫よ」

 

ふぅっと息を吐く。体から余計な力が抜け、深く呼吸が出来る。

そうだ。今は自分の至らなさを責めるときじゃない。高橋もこう言っていたじゃないか。

 

―腐らずにその中で出来る事を尽くして。

 

いい言葉だ。腐ってふてくされても何も手元に残らない。意味も無い空虚な発散感が残るだけだ。ただ発散するだけなら勿体ない。この憤りを全て今出来る事にぶつけてやろう。簡単じゃないか。今までしてきた事だ。

 

 

 

 

 

 

しかし―

 

事態は絢辻が思った以上に深刻だった。

 

「出来る事をしよう」と思った矢先に与えられた・・いや制限され、彼女達に残された仕事はあまりにも少なかった。

ツリーの装飾、危険を伴う作業は元より、市が介入する範囲が思った以上に多すぎる。

辛抱強く連絡を取り、信頼を築いた業者への連絡も禁止された。発注のキャンセルも勝手に行われているらしい。今まで協力やアドバイスをしてくれた人達に創設祭メンバーは謝る事も出来ない。「自粛」と言う言葉を盾にしたあまりに横暴すぎる仕打ちである。

 

生じた不手際に対して「晩回のチャンスを与える」、もしくは「ペナルティを課してタスクを増やす」のではなく、逆に「何も与えない」事。

これは自主的で意欲の高い者達のモチベーションを一気に奪うのに的確な手である。

彼らが今まで自分たちが必死で自分たちなりに考え、自分たちなりに行動を起こし、工夫して形作ってきたものを一方的に打ち切らせること―人が最も嫌がる事の一つである。

 

ここまでされるともはや悪意さえ感じられた。

 

何よりも今まで自分たちが長い話しあいの中で少しずつ少しずつ形を成してきたものがその手のプロたちの手によってあまりにあっさり、短い期間で効率的に行われる事に空しさを感じてしまうのだ。

 

強行された市が要請した新しい業者に対して引き継ぎを丁寧に、にこやかに説明しながらも時折悔しさがにじむ絢辻の表情が有人の印象に残った。

 

このままではダメだ。創設祭が完全に吉備東高生の手から離れてしまう。ただの市のメンツの為の行事になってしまう。

 

 

「このままでいいんすか!」

「でも・・実際危険な作業はやってくれているんですし・・安全は安全・・」

「でも今まで私達だけで頑張ってきたんだし・・最後までやり通したいよ」

「専門的な事とかある程度業者の人にお願いするのは仕方ない、ってのは解ってましたけど・・ここまでやってもらったら意味無いですよ!」

 

こんな創設祭実行委員の中でも不満が募りだした。

 

「人が足りない」。「作業量が多い」。「キツイ」。

これらの事は上に立つ人間が有能であり、一人一人の目的意思と意欲が高ければある程度のカバーは可能である。結果、そのような厳しい状況下での目標の達成、成功はこれ以上ない喜びと自信につながる。

しかし、碌にやる事が無く、工夫も何も必要も無い状況下では決してそれらは生まれない。

そのような状況に馴れている連中ならともかく、彼らは今まで決して楽ではない自分達の状況をお互い支え合い、工夫し、真摯に取り組み、結果を出してきた子達である。

そういう子達程この状況に我慢ならない。

 

絢辻にとって上に立つ人間としてこれ程嬉しく、頼もしい事は無い。が、今現在に於いてはそれを立場上宥めなければいけない絢辻の心労は募った。

 

 

「みんなの気持ちは解ります。・・私が頼りないばっかりに本当にごめんなさい!・・でも、まだ全て市に任せるって決まった訳じゃないの!高橋先生も校長先生も頑張って市を説得してくれてます」

 

 

 

「自粛が解除されたらきっとまた私達は忙しくなるわ。だからそれまではその中で出来る事をしつつ、いざ解除された時、自分達が何をしたらいいか解らなくならないように常に一人一人が次に出来る事、しなければならない事を今は考える時よ。そして今までの作業で疲れた体を休める時と思いましょう。辛いと思うけど・・今は我慢してもらいたいの・・皆・・。お願い、します・・」

 

 

「・・・」

 

絞り出すようにそう言い切り、深々と頭を下げた絢辻のその言葉に実行委員メンバー一同は落ち着きを取り戻す。喋り口調こそ「表向き」の絢辻だがこれは決して演技などでは無い。間違いなく絢辻の本音だ。

それを理解出来ないほど絢辻に鍛えられた実行委員のメンバーは成長していないはずは無かった。

 

不満もある。憤りも。しかしそれを受け入れ、受け止める器を彼らは持っている。

絢辻がそれを彼らに与えた・・いや伝染させたと言った方が適当だろうか。

委員たちは無言のまま受け入れ、文句一つ言わずにある者は帰り、ある者は僅かに自分達に残された今出来るルーチンワークを黙々と片づけた。

 

 

「お疲れ様・・」

 

 

自粛前よりかなり速い創設祭の実行委員会解散後に有人は作業机の資料を整理している絢辻に声をかける。しかし絢辻は黙ったままだった。

 

「・・。やる事が無いってこんなに辛い事だって思わなかったね」

 

「・・そうね」

 

あくまで事務的、最低限の返事で絢辻はトントンと机の上で資料を纏め、ファイルに閉まっていく。が、普段より幾分作業が粗い。口調は穏やかだが内心は当然穏やかではないのだろう。

 

―御機嫌斜めだね。ま、仕方ないか。

 

少し淋しそうな笑顔で絢辻のその背中を見る。

 

「おかしい・・」

 

「え?」

 

「・・。ここまでやる必要があるの・・?ここまで・・」

 

「本性」の彼女の声だ。一人ごちているのか有人に話しかけているのかが曖昧な口調で絢辻はそう呟いている。

 

「・・・?・・絢辻さん?」

 

「おかしいと思わない?源君?」

 

はっきりとここまでのそれが有人に対しての問いであった事は判明する。

 

「・・いや。話が見えてこないんだけど・・」

 

「にぶいのね」

 

「・・すいません」

 

 

 

 

「今回の件・・何でここまで市が出しゃばってくるのか・・今までも妙な横槍やら嫌がらせはあったけど・・ここまで本格的にしてくる事は無かったわ」

 

「・・。確かにそうだけどね。怪我人が出たとはいえここまで市が神経質って言うか過保護になる必要ってあるのかな?坂上さんの怪我も大したこと無かったし」

 

「・・」

 

「・・。ゴメン。怪我の大小なんて関係ないよね。不謹慎だった」

 

「・・。そもそもそこがおかしいのよね。学校側がその『事態を把握する前に市から先にお達しがあったこと自体が変』、なのよ」

 

「・・?」

 

「源君・・貴方坂上さんが怪我したのって何時頃知った?」

 

「え・・そんなの教室で高橋先生から聞いた時だよ。っていうか其の時絢辻さんも一緒だったでしょ?・・・?・・・あ!?」

 

合点が行った様に有人が目を見開くと同時、絢辻はぴっと彼に人差指を向けた。

 

「そう。そうゆうこと。その時点で怪我人が出た事を『市から』高橋先生は聞いたって私達に言った。同時に『危険な作業を市が直接要請した新しい業者』に引き継ぐ形にした―っていう一方的な結果のみを私達はいきなり知らされた」

 

「・・」

 

「そして私達は起こった事故を早急に把握する事も出来なかった―その事から監督責任も問われ、おまけに『事故を隠蔽した可能性もあるかもしれない』とあらぬ疑いで心象も悪くなり、今回の市の過剰ともいえる介入を受け入れざるをえなくなった・・」

 

「確かに早すぎるね・・」

 

「・・正直ね。この事態を招いた張本人は既に目星は付いてるの」

 

「・・?え?」

 

何か話がおかしくなってきた。絢辻によるとこの一連の事態は「不幸な事故等の積み重ね」の結果生じたものでは無く、この状況に陥る様に仕組んだ人間が居るということらしいのだ。

 

「まさか・・」

 

「あのねぇ・・こんな偶然が都合よくポンポン起きる訳ないでしょ?」

 

「・・」

 

―一体どういう世界で生きて来たんだ・・?このコ。

 

 

「・・でもおかしいの、何よりも『ここ』がおかしいの。私でも合点がいかない所なの」

 

「・・何が?」

 

「『その子がここまでするはずが無い』、の。有り得ないの」

 

「・・・?」

 

「・・言ったでしょ?前に。『自分の評判を必要以上に悪くすることを望まない人間』。・・それは同時に自分が必要以上に罪悪感を覚える事も望まないってことよ。今その子は多分・・どうしてここまで事が大きくなってしまったか解らずにパニクってるでしょうね」

 

「・・」

 

流石に有人は頭が回らなくなっていた。無言で返す他ない。一体今この少女の中でどんなサイクルが働いているのかが解らない。そんな彼に一息ついて絢辻は微笑んだ。

 

「・・良いわよ。別に今は解らなくて・・。まだこれも完全に確証を得たってわけでもないし解らないのは私も同じだし。でも・・何故その子がこんな事をしようと思ったのかは・・私解るの」

 

「動機は解ってるの・・?」

 

「うん。とても単純な事だから。馬鹿みたいにね」

 

「何なのそれ?創設祭に恨みでもあるの?」

 

「それは・・」

 

絢辻はじっと有人を見てそれから先の言葉を濁した。

 

「・・・?」

 

「・・帰りましょうか」

 

「え。絢辻さん?」

 

「帰るの今日は。さぁ!」

 

話を打ち切る様に絢辻は席を立つ。疑問を残されたままの有人は?マークが抜けないまま、背を向けてトコトコ歩きだした絢辻の背に続いた。

 

 

 

・・少々お灸を据えるべきだろう。自分が犯した些細な悪戯が思いもよらない騒動になっている事に暫く居心地の悪い時間を過ごすがいい。

・・それにこっちとしても今は時間が欲しい。一向に解らないのだ。何故話がここまで大きくなったのか・いや、「ここまで大きくする必要があった」のか?安くない金と煩わしい手まわしが必要な筈だ。

 

・・とりあえず今は高橋と校長からの経過報告を待とう。それまでは何とか実行委員の子達を暴走、無理させないようにしなければ。この自粛を言い渡されている時期にまた余計なトラブルを起こしてしまっては今度こそ本格的に創設祭の生徒主導の道は絶たれる。

 

―・・今は我慢。こらえなさい私・・。

 

自分にそう言い聞かせるようにして絢辻はまたぐっと固く拳を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














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