ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートT 二十二章 源 ~ルーツ~

 

 

 

 

 

 

 

23 源 ~ルーツ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―本当に変わった男の子だった。

 

喜怒哀楽すべてを笑顔で表現する・・まず笑顔ありきの男の子。

特に図抜けた所は無い・・しかし決して低くも無い嫌味なほど抜け目の無い能力の印象を覆い隠すあの笑顔。誰にも友人、知人、教師分け隔てなく振舞われるそれに彼の印象は決定づけられる。

 

 

絢辻が彼―源 有人と個人的に親しくなる前にも既に感じていた特異な力である。

対人・・人と付き合う上での様々な能力に置いて絢辻が併せ持った物の「総合力」に関しては有人の比ではないだろう

 

しかしこと「笑顔」に置いてははっきりと絢辻は白旗を上げる。「叶わない」と。

基本表向きの、虚構のコミュニティで生きていた絢辻にとって本当の笑顔に出会うこと、触れること、そして自らが無意識の笑顔になるほど愉快な事自体が少なかったのだ。

 

いつも鏡で自分の顔を見、程度、相手から見える角度等を調節して訓練、謂わば「養殖」された笑顔こそが普段絢辻の浮かべる大半の笑顔である。しかし「養殖」のそれも時には天然ものすら上回る時がある。それは時と状況によって相手のしてもらいたいタイムリーな「笑顔の種類」を厳選出来るからだ。場所と空気、雰囲気を察して適当な笑顔を選別できるからだ。

 

しかし、時に居るものだ。本当の「天才」というものは。

 

笑顔の天才・・源 有人。

 

絢辻を強く惹きつけて離さない。

純粋にその笑顔に異性として惹きつけられた。自分が落ち込んでいる時に根拠も無くホッとさせる、安心できる。逆に困らせた時の困った笑顔もまたいい。

そしてその笑顔は・・。

 

・・その笑顔は―

 

 

・・とにかく絢辻は彼の笑顔に魅了された。虜になった。でも・・彼女は時折知りたくなる。解らなくなる時がある。

 

―本当に彼の笑顔は「天然」なのだろうか?

 

と。

 

―私と同じ「養殖」・・つまり「仮面」じゃないのか?

 

と。

 

誰に対しても分け隔てなく、平等に、一見自然に振舞われる彼のその笑顔。それは時に人を思考停止させる強制力がある。

 

「この子なら大丈夫」、「誰にでも何処にでも居場所を作れるだろう」―こんな無意識の安心感を周囲はすぐに覚える。

そうやって彼という人間を定義づけ、彼という人間を知ることを周りがある意味放棄してしまう―そんな笑顔の強制力をもっている。

 

「深く話をしないでも聞かなくても解るよ。源 有人って奴はさ―」

 

こうだ。

 

ああだ。

 

こんな風に確信も根拠も無く、誰もがその先を勝手に作り上げてしまう、そしてそれを誰もが自分の中で「これが正解」と疑うことなく完結させてしまう・・そんな「仮面」。

 

他人を惹きつけ、意味もなく他者を納得させ、思考停止させてしまう温かい笑顔。

温かい・・が、同時人を凍らせる彼の―

 

 

 

 

・・・氷の微笑み。

 

 

 

 

そしてそれは例外なく自分・・絢辻 詞という人間に対して相対する時もつけられているのではないか―?

 

―・・それは嫌だ。たまらなく嫌だ。自分が今までしてきた仕打ちを他人に・・そして他でも無い「あの人」にされる事がたまらなく嫌だ。

 

そんな自己嫌悪に陥るほど身勝手な言い分を抱えながらも絢辻は確かめずに居られなかった。

 

そしてあの日、とうとう絢辻は「彼」に聞いてしまった。おそらく・・源 有人を最も知るであろう人物―彼の幼馴染である国枝 直衛に。

 

図書室で国枝からクラスの創設祭の用意の手伝いを頼まれたあの日に時間はさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に聞きたい事って・・?」

 

絢辻の向かいに座った国枝は椅子の背もたれにもたれること無く、やや腰を浮かせるような前のめりで絢辻と向かい合う。やや緊張と警戒が消しきれない姿勢であった。

そんな彼とは対照的にリラックスした姿勢の絢辻はしっかりと彼を見据えていた。

 

―そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。私は「貴方には」何もしない。

 

と、その瞳で語りつつ話を進めていく。

 

「うん・・まぁ色々あるんだけどね・・ねぇ?国枝君って有人君とはどれぐらいの付き合いなのかな?」

 

「ん~~・・。幼稚園の年少だから三歳として・・約十五年・・か」

 

「へぇ・・凄く長いお付き合いなのねっ」

 

「それから・・小、中、高と結局全部一緒だ。梅原でも俺達とは小学校からの付き合いだから俺と有人がやっぱり一番長いのかな」

 

「どんな子だったの・・?国枝君、有人君の二人って」

 

「・・・。別に。・・よくある関係だと思うよ」

 

「・・具体的には?」

 

くすすっ、っと悪戯に笑って絢辻はさらに国枝にずいっと机越しに近付く。何となく国枝の挙動に「嘘」というには大袈裟だが、どこかしら「誤魔化し」の類の感情を感じ取ったからだ。

 

「・・・」

 

その絢辻の所作にややバツが悪そうに顔をしかめる国枝。だが尚クスクス笑う絢辻の無邪気な笑顔に気圧され、ゆるゆると語りだす。

 

「・・無愛想で負けず嫌いな俺とふわふわへらへらお人好しの性格正反対なアイツ・・自然と一緒に居るようになったかな。親同士も仲良かったし、あいつの兄弟とも昔はよく一緒に遊んだ記憶があるよ」

 

「ふんふん・・。ねぇ聞きたいんだけど・・有人君って三人兄弟なのよね?どんな御兄弟なの?」

 

「・・。兄弟仲は良いと思うな。性格はそれぞれ結構違っていてお兄さんはアイツとまた違った大人しめの人で、逆に末っ子の相人(あいと)はやんちゃないかにも末っ子ってタイプかな。不良ってワケじゃないけどね」

 

「・・ふーん」

 

「んで・・当のあいつは次男特有の呑気で気ままな笑い男って感じかな」

 

ふふっと絢辻は微笑んだ。―そうね。そんな感じよね。とでも言いたげな表情。

しかしその後に出た絢辻の言葉に国枝は目を見開く事になる。

 

 

「・・・『表向きは』・・・ね?」

 

 

「・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・ひょっとして絢辻さん知ってるの?っていうか聞かされた?アイツから・・」

 

その国枝の消しきれない驚き、焦りを含んだような言葉に絢辻は怪訝に首を傾げ、とぼけたように微笑んだ。

 

「・・何のことかしら?」

 

正直言って絢辻にはその国枝の言葉が本当に何の事か解らない。しかし何処か確信めいた、そして同時核心をついたかのように微笑んだ。そして今度は妖しげな瞳で国枝を問い詰めるように見据える。こう言いたげに。

 

 

 

 

―あの人は・・、源 有人君は・・

 

 

 

・・・・一体何を私に隠しているの?

 

 

 

 

「・・はぁ」

 

国枝は両眼を閉じ、少し悔しそうな溜息をついた。

 

「ごめんなさい。意地悪なカマかけて。でもね・・私は知りたいのよ」

 

何時も笑顔でへらへらふわふわ。お人好しで危なっかしい・・でも優しくて温かくて、でもちょっとガンコもの。・・そんな彼の事を。

 

国枝は黙りこくった。物事の考え方、冷静さ、立ち振舞い―周りに居る多くの人間が高校生にしては落ち着いた、大人びた雰囲気を持っていると認識するであろう国枝がその時、絢辻には小さな子供に見えた。

彼が抱えている本音を・・有人の真実を伝えるために急速に彼は退化しているようだった。

己の中に隠し持った疑問、他人に話すこと無く彼の中で凍結した何かをゆっくりと溶かしているのだ。

 

―こんな事を話しても誰も信じてくれないだろう。

 

子供の戯言だと。考えすぎだと。

 

「ほら見ろよ。アイツ・・『源 有人』はああいう奴さ。裏表なんてあるように見えるか?」

―他人にそう烙印をおされるであろう国枝が抱えた「想い」を。

最も長い時間を共に過ごした彼が気付き、抱え続けた、隠し続けた源 有人という少年の真実を。今、目の前のたった一人の少女に伝えるために。とりあえず国枝はこう前置いた。

 

 

「・・俺が話す事でも無いかもしれない・・絢辻さんの知りたい事の答えになるかも解らない・・おまけに余計な俺の事も話さなけりゃならない。それでもいいなら話していいかな?絢辻さんに・・」

 

 

「・・・ええ。もちろん喜んで。・・どうぞ?」

 

 

しっかりと今度は茶目っ気無く国枝を見据えて絢辻は背筋を正した。国枝の言葉を一言一句聞き逃すまいと。

 

 

「・・俺がアイツと・・有人と友達になったのはアイツが好きだったからじゃない」

 

 

「・・・え?」

 

「嫌いだったんだ。これ以上なく」

 

「・・・」

 

「うん。俺はアイツが嫌いだった。源 有人の事がね」

 

あまりにも意外すぎる国枝の始まりの言葉を絢辻は驚きで瞳を見開きながら無言で聞いていた。そんな彼女に―

 

 

 

 

 

「・・って~か・・今でも嫌いだ」

 

 

 

 

 

国枝は微笑み、重ねてそう言った。しかし、彼の長く癖の無い黒髪の下から覗く彼の瞳は差し込むオレンジの夕日に照らされ、とても優しく綺麗に澄み渡っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「絢辻さんさ・・アイツの家に行った事は在るの?」

 

「え・・。いいえ」

 

余りに意外な言葉から始まった国枝の話の方向性がまた唐突に切り変わった事に戸惑いを隠しきれないものの、絢辻はすぐに順応し、ふるふると正直に首を振る。

 

「・・じゃあ相人・・有人の弟に会った事は?」

 

「いえ。それも無いわ」

 

「お兄さん・・舞人(まいと)さんに会った事は?」

 

「・・お兄さんに関しては・・少し有人君とお話ししたぐらい、・・ね。あ。お兄さんの彼女の沢木 茜さんって方とはお会いした事もお話しした事もあるけれど」

 

「・・そう」

 

「勿論!有人君のご両親にもお会いしたことはないわ」

 

「・・・」

 

「・・うふふっ」

 

「・・?」

 

「残念でした・・国枝君達はこの前の事で盛大に誤解していたみたいだけど~私と有人君は今の所は『そんな関係』ではございませんっ♪」

 

確実に先日の有人に対する国枝を含めた友人達の疑惑、詰問を引き合いにだしてきっぱりと、そして悪戯に茶目っ気をまじえて絢辻は否定した。しかし―

 

「・・・。って言う事は絢辻さんもやっぱりアイツから何も聞かされていないんだね・・」

 

そんな絢辻の悪戯な言葉に何ら反応せず、国枝は唇を噛むようにして神妙そうにそう呟いた。

 

「・・。どういう意味かしら?」

 

絢辻は少し気分を害した様な口調が出てしまう自分を抑えきれなかった。「何も聞かされていない」という国枝の言葉に反射的に反応してしまったらしい。他でも無い有人の事でそのように言われてしまった事が絢辻のプライドに触ったようだ。しかし、国枝はそれにも反応を示さず尚も言葉を紡ぐ。

 

 

「アイツとアイツの兄弟・・そしてご両親に会っていたなら絢辻さんも気付いたかもね。でも・・まぁ多分アイツは会わせなかったと思うけど」

 

 

「・・・!」

 

絢辻はさらに国枝のその言葉を聞いて一瞬で血が沸騰し、毛が逆立つような感覚を覚えた。自分が苦手な姉の縁の存在を周りにひた隠した事と似た様な行為をあの有人もまたしていたのか―そう考えると怒りと屈辱に似た感情が湧きあがって来たからだ。

 

―・・・!・・・。

 

そんな自分を諌めるように絢辻は心根を落ち着かせ、再び国枝の言葉を静かに待つ。

国枝は彼女が自分の言葉を冷静に受け止める態勢が出来たと判断し―

 

 

こう呟いた。

 

「有人の奴ってさ・・個性的って言うか・・独特の顔しているだろ?」

 

「・・・?」

 

「色素の薄い茶色の目に明るい髪色・・」

 

「・・」

 

 

「・・全然違うんだよね。誰にも似てない。家族の誰にも。兄弟にも。ご両親にも」

 

 

「・・・え?」

 

国枝は驚きで見開かれた絢辻の瞳を真っ直ぐ見据えてこう言い放った。

 

 

 

「有人は養子なんだ」

 

 

 

「・・・!」

 

「・・元々有人のお父さん・・おじさんの実の妹さんが生んだ子供―それが有人だよ。その人が有人を生んだ後すぐに亡くなってしまった上に、アイツの父親も誰か解んなかったらしくて・・・で、有人の本当のお母さんの唯一の血縁者であり、有人の叔父でもある今の親父さんがアイツを引き取ったってワケ・・」

 

誰よりも源 有人が嫌いだという彼の親友―国枝 直衛が語り始める。

 

 

源 有人という少年の源(ルーツ)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


















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