ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートT 二十二章 源 ~ルーツ~ 2

三年前―吉備東公園にて

 

ポーン・・

 

・・ポーン

 

二人の学生がその公園にいた。

 

「・・ねぇ」

 

ポーン

 

「ん?」

 

ポーン

 

「アンタに聞きたい事あんだけど」

 

ポーン

 

「・・何?」

 

ポーン

 

「普通さ。こんな年頃の麗しい、ぷりてぃ~~な女の子を・・さっ!」

 

ポーン

 

「・・何処に居んのそんな子。俺の視界には見当たらないんですが?」

 

ポーン!!

 

「目の前に居んでしょうが!!この棚町 薫ちゃん花の14歳を夕方の吉備東公園に誘い出して置きながら何よコレ!?キャッチボールの相手!?何処の世界にそんな男子が居んの・・よっ!!」

 

ポーン

 

「・・・」

 

ポーン

 

「『ここに居る』って顔すん、なっ!!!」

 

「あ」

 

怒りの余り目一杯投げた棚町のボールが大暴投となり、少年―国枝 直衛のはるか後方をてんてんとしていく。それに対して全く咎める様子もなく、淡々と駆け足でボールを拾いに行く彼の後ろ姿を両手に腰を添え、ぷんっぷんしながら棚町は眺めていた。

 

まだお互い中学二年生であるこの頃、棚町 薫は髪も短く、体型もまだまだ女の子らしさが控え目だったため、少年の様に見えた。彼女が学校の制服さえ着ていなければ一見はごく自然な少年同士のキャッチボールに見えていただろう。

 

暴投に対する大したお咎めも無く、戻って来た国枝は淡々とキャッチボールを再開、渋々ながらも少女はグラブをしゃくる様にして再び受け取る。

 

「・・・。ふんっ」

 

ポーン

 

一球一球相手にボールを投げる際、お互いに一言会話をすることを暗黙のルールとして少年少女の奇妙で珍妙な会話は続いていく。

 

 

「・・でさ、棚町」

 

ポーン

 

「『薫』でいいって。何よ?」

 

ポーン

 

「・・どう?」

 

ポーン

 

「(・・・無視。)・・で、何がよ?」

 

ポーン

 

「俺の投球フォーム」

 

ポーン

 

「・・・ふぅ。・・アンタも真面目よね~。たかが今度の学校の球技大会の為に練習だなん、てっ!・・キャッチボールの相手ぐらい源君でも梅原君でもいっくらでもいるでしょうに」

 

ポーン

 

「・・お前は有人や梅原と違って俺に対して遠慮なし、忌憚の無い意見をズケズケ言うだろ?アイツら俺に気ぃ遣うんだよ」

 

ポーン

 

「ふふん♪まぁねん~~。・・・ん!?ちょっと待って!それって暗に私が『気を遣えない』、『空気読めない』って言いたいの!?しっつれいねぇ~~~!?」

 

ポーン!!

 

「わっと!!・・そんな事言ってないって・・で。投球フォームに戻るけど・・どう?」

 

ポーン

 

「・・・。ま、イイケド。ハッキリ言っていいのねー?」

 

棚町は一旦返球を止め、ふぅむと考え込む。この一言会話ルールへの「タイム」の合図を兼ねていた。

 

「・・・」

 

「その、さ。・・何て言えばいいのか・・確かに悪くない・・だいたい合ってはいる気がすんのよ?ホント」

 

「・・・」

 

「でもさ・・・なんっっっか違うんだよね~~。自然さが無い・微妙・ぎこちない。けど、だからといって『何処をどう改善しいたらいい?』といざ聞かれたら『皆目わかんない』・・・そんなカンジ?」

 

上手く言語化できそうにないことにもどかしげに、そして微妙に申し訳なさそうな表情をして棚町はこう言う事しか出来なかった。

 

「・・・。良く解らん。・・が、ある意味すげぇ良く解る」

 

「良く解らないが何故かすごくしっくりくる表現」と、国枝は棚町の言葉を受け取った。

国枝は実は運動音痴だ。基本彼は何事も一定量努力しないと何もできない奴である。反面「運動」に関して生来の抜群のセンスを持ち、例え女子にとって馴染みの無い競技でもあってもほぼ即時適応できる棚町には到底理解できない境地である。

 

「・・・」

 

自分のセンスの無さに露骨に落ち込み、考え込む国枝を前にクスリと棚町は愛おしそうに笑い、

 

「くすっ・・直衛?」

 

ポーン

 

「ん・・?」

 

「いいわよ。トコトン付き合ったげる。納得いくまでやんなさいな♪」

 

「・・ありがと。棚町」

 

ポーン

 

「『薫』っ!」

 

ポーン!

 

 

 

 

 

「・・ねぇ」

 

ポーン

 

「ん?」

 

ポーン

 

「アンタってさ~」

 

ポーン

 

「・・?」

 

ポーン

 

 

「・・何でそんないつも頑張んの?」

 

 

ポーン

 

「・・・」

 

ポーン

 

「別に成績は良いし、優等生じゃん。性格も少々根暗、あと寝起きとかにヘンな習性は有るにしてもまぁ・・普段、そこそこ、それなりに私はアンタの事イイ奴だと思うし?」

 

ポーン

 

「人の褒め方下手だな~・・お前」

 

ポーン

 

「あ、ひねくれ者なトコも追加」

 

ポーン

 

「・・・(これ以上余計な事は言わないでおこう・・)」

 

ポーン

 

「・・。で、その~顔もまァ・・悪くはないし?その、・・さ?・・・いっそ『コレ位でいいや~~』ってなんないの?」

 

ポーン

 

「・・・」

 

ポーン

 

「・・・」

 

 

「・・勝ちたい奴が居る」

 

 

「・・え」

 

突然割り込んできた「ルール無視」の国枝のその言葉に棚町は思わず投球動作を止めた。ストンと両手を落とす。

 

「・・ずっと勝負してきた。そいつと小さい頃から。俺はそいつの事が昔から大っきらいでいつか『鼻を明かしてやろう』って思ってきた」

 

「・・アンタにそんなファイティングスピリッツが有ったなんて意外・・」

 

間違いなく嘘や冗談の類ではない。国枝の意外な一面に棚町は面食らった。同時こう思う。

 

―案外アンタって私に似てんのね。・・・すこし・・嬉しいよ。

 

 

「でも、ま・・多分相手にされていないだろうけどな?」

 

きょとんとしている目の前の棚町の気持ちを緩和するように国枝は雰囲気を少し和らげ、珍しく自嘲気味に笑ってこう言った。でも今の棚町はその言葉にとても笑えない。

 

「え。それちょっと悲しい・・悲しいよ」

 

何時になく神妙に瞳を伏せて気遣うように棚町はそう呟いた。

「嫌いな奴に相手にされない」―これはこれで結構屈辱でもあるのだ。

 

「・・でもいい。絶対負けたくない。絶対見返してやる。で・・アイツに気付かせてやる」

 

―「アイツ自身」にアイツ自身を。

 

「・・・」

 

普段おしゃべりな棚町も普段は多くを語らない彼の嫌悪感、そして同時強い劣等感を抱えている事を容易に窺わせる言葉達にかける言葉を見つけられず、無言のまま其のやりきれなさを覆い隠すようにボールを再び投げる。

 

・・ポーン

 

「・・っと」

 

「・・ごめん」

 

優しく国枝の胸元に投げたつもりであったのにやや逸れた自分のボールがやけに棚町は悔しかった。

 

「・・いいよ。こっちこそ悪かったな」

 

 

 

 

正直な所、この頃の棚町にはその国枝の言う「嫌悪」、そして「劣等感」の対象が誰であるのか解らなかった。普段の国枝の交友関係を一見してもすぐにそれに結びつく様な相手が出てこない。

周りを見てやや強引に大別すれば嫌な奴、そもそも国枝とは合わなそうなタイプは確かに居る。でも国枝はそう言う人間と面と向かって言い争うとか、逆に露骨に避けるタイプでも無い。明確に一定距離置いて「住み分ける」タイプだ。

 

ただ「その対象に対してのみ別」らしい。

 

普段は物静かで大人しい少年である国枝が静かな闘志、そして隠しきれない劣等感を抱えつつ、それを勉強、そしてそれに類する全てにぶつけ、がむしゃらに何事も努力していた。棚町にとっては過剰とも思える程に。

 

そんな国枝 直衛という少年を構成する源(ルーツ)を棚町は垣間見た。

 

そして棚町はその日から考え続けていた。国枝、そして彼の交友関係のある人物達との普段の何気ない会話、取りとめの無い、しかし大切で楽しい日々の中からほんの少しずつ、少しずつ抽出、濾過していく。

 

嫌な奴、合わなそうなタイプ等では無い。極々身近なヤツのはず―国枝と共に過ごす日々の中、棚町はそう確信していた。

 

 

そしてある日―唐突に棚町は気付く。

 

 

 

「ねぇ・・直衛?」

 

「ん・・?」

 

「アンタがだいっ嫌いな奴ってひょっとして・・・―

 

 

 

―源君なの?」

 

 

 

その日から国枝は棚町の事を「薫」と呼んでくれるようになった。棚町は嬉しかった。同時・・複雑だった。

初めて自分の名前を呼んでもらう事が出来た「契機」、「理由」としては女の子として少々切なすぎる。

 

でも同時決心もする。

 

―・・いいわよ。トコトン付き合ったげる。納得いくまでやんなさいな。

 

棚町はもう一度国枝の心にボールを投げかける。

 

 

―私も納得いくまでアンタの傍に居たげるから。

 

 

ポーン・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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