ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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―今なら解る。

・・源君?貴方は私と・・・とってもよく似ていたのね。

「早く大人になりたい」。「一人になりたい」。

そう。

私もそう。


早く大人になりたいよ。


だったら・・


いつでも貴方の傍に行けるのに。居られるのに。










ルートT 二十二章 源 ~ルーツ~ 4

 

 

 

 

 

「・・俺も人の事言えないけど・・」

 

国枝はそう前置いて再び絢辻に語りかける。

 

「悪循環だよね。有人の奴・・内心ではホントは自分の事を見て欲しいはずなのに、構ってほしいのに成長の過程で『アレ』を身につけてしまった上に周りがそれを喜ぶもんだからアイツはそれを止められなくなったんだ。アイツの奥底に確実に在る筈の自分の不満、そして何よりも不安を直接訴えたりせず、替わりにアイツはいつも笑ってた」

 

「国枝君は・・凄いね。そこに気付いて上げられるなんて・・」

 

絢辻が心からの感嘆と共に国枝を賛辞するがその言葉に国枝は苦々しそうに首を振って否定する。

 

「・・いや?多分あの頃のアイツを身近で見てれば絢辻さんなら気付いたと思うよ。どうやらアイツのあの笑顔にもそれなりの『思考錯誤の期間』はあったみたいだったから」

 

「思考錯誤・・・の、期間?」

 

「そう。幼い頃は今のアイツに比べればまだ笑顔は拙かったし、徹底もしてなかった。親や家族、大人の目を盗んでは時折ほんの一瞬浮かない顔を見せるアイツを何度も見ていたら俺でも流石に気付くよ」

 

「・・・」

 

「でも・・アイツの秘密を知る、想いを知るその過程で俺みたいな馬鹿にでも少しは解るようになった。アイツが抱えた苦しさや辛さ、消しきれない不安・・そんな自分の中にある物を思わず訴えたい、ぶちまけたい、見てもらいたい部分・・それとは逆に自分を押さえて笑い、周りに良く思われたい、これ以上踏み込みたくないっていう相反する感情をぶつけて相殺しながら生きるっていう苦悩が・・ほんの少し解るようになった」

 

「ある意味で大人っぽい・・またある意味で子供っぽいのね」

 

「そういう事。意地を張るんだよ。本音を隠す事が・・他人を困らせない自分を作り上げることがそれこそ、あいつの『子供っぽい』部分が必死で行ったせめてもの『大人ぶった』抵抗なのかもしれないね」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「それでも国枝君は彼を何時も時に挑発し、時に鼓舞し続けた・・」

 

「・・そんなカッコイイもんじゃないけどね」

 

「ふふっ、そうかしら?成程ね・・国枝君が有人君を焚きつける様な言葉をちょくちょくかけること多かったのはそういう背景があったのね・・」

 

「それも・・気付いてたんだ?良く見てるんだね」

 

「ふふっ、『レーダー』と言うのは誰にも知られずにこっそり静かに張り巡らす物よ?国枝君?」

 

絢辻はそう言って片目を閉じ、悪戯に微笑む。

 

「・・そう。ご指摘の通り基本『構ってちゃん』なの俺は。無視されんの嫌い」

 

「それも知ってる♪」

 

国枝はそんな絢辻に対して有人と「似た者同士だ」と思う。

 

「・・まぁいいや。んで・・俺はアイツに出来るだけ言葉に直接出さないように暗にアイツにこう言い続けたワケ。『お前も本気出せよ。俺よりも何でも出来るお前ならここまで簡単に来れんだろ。もっとだせよ?お前自身をさ。・・本当はムカついてんだろ?腹が立ってんだろ?今の自分に。俺と一緒でさ!!』・・ってな感じで」

 

「くすっ・・国枝君は本当に嫌いなのね~~?有人君のことが」

 

「まぁね。それに関しては余程の自信が在る」

 

「あは♪」

 

「・・でもアイツは終始変わらず。相変わらず。・・結果から見ると俺のしたことは大概的外れだったんだろうね。あ~色々ヘマもバカな事もやらかしたな~。・・さっき言った私学受験の際の白紙解答やら・・、あ・・半ば無理やり好きな人作って、彼女作って有人を羨ましがらせようとかもしたっけ・・」

 

国枝が中学生の当時、初めて付き合った少々質の悪い彼女の彼に対する非道の数々―それを国枝自身が特に強く責めなかったのは実はこんな負い目があったからでもある。

(しかし振られた後、予想以上に凹み、結果有人にかばわれ、慰められるという皮肉付き)

 

「・・・うわっ。それは結構最っ低よ?国枝君?」

 

「うん・・若気の至りとはいえほんっと最っ低俺」

 

火が出そうな自分の顔を両手で覆いつつ天を仰ぐ国枝を前に、絢辻もクスクスと笑う。

 

 

 

 

「・・でも俺も最早そんな自分を変えられなかった。今の俺の性格は小さい頃からのアイツへの劣等感から生まれたといっても過言じゃないんだよ」

 

「・・・」

 

「でもね?俺はアイツに感謝している面もある。・・どんな馬鹿でガキっぽい理由が俺の源泉にあったにせよがむしゃらに突っ走る俺を認めてくれる人間をアイツは結果増やしてくれた。それが嬉しかったから」

 

「・・・」

 

「もしアイツがいなかったら自分の何に置いてもダメな所を一人嘆いたり、他人を羨ましがるだけで何もせずに後悔することが多かっただろうな~って・・・何時も思う」

 

「・・・」

 

「だから・・俺はあいつとホントの意味で友達になろうと思った」

 

「・・・」

 

「・・でもアイツは未だに変わらないまんまだ。内側に抱えたもの、隠した物を相変わらず誰にも見せないままただ笑ってる。強く主張したり、怒ったり、悲しんだりするところを見せること無く。・・それを本当に見せてもらって初めて俺はアイツの友達になれる気がするんだ」

 

陽気で柔らかな笑顔の奥に隠し持った源 有人という少年の真実。

 

それを国枝は一気に喋った。絢辻は彼がここまで饒舌だとは思いもしなかった。

それ程国枝もまた長年抱えていたものの重荷を誰かに共有して貰いたかったのかもしれない。だが、それを伝える相手は中途半端な人間ではダメだ。

本当の意味で有人と共に居たい、傍に居たい、そして理解したいと願う人間でなければ・・その上で国枝が自分を選んでくれたことが絢辻にとっては嬉しかった。そして思いがけず本音や抱えた物をさらけ出してくれた事もまた嬉しかった。

 

全てを話し終え、黙る国枝に絢辻は無言のままぺこりと頭を下げる。

 

「・・・有難う。国枝君全て話してくれて・・あんまりお話したくない事だった・・でしょ?」

 

「・・・。いや・・なんか・・少し楽になったかな」

 

「・・そう。良かった」

 

 

 

 

「・・絢辻さん?」

 

「・・何?」

 

その場を去ろうとする絢辻の背に国枝もまた背を向けながら最後にこう付け加えた。

 

「有人の壁は・・心の壁は手ごわいよ。恐らくあいつ自身にもそれが自覚できない位になってる。それでも探ろうとすると俺はともかく・・絢辻さんには結構辛いかも。傷付くかもしれないよ」

 

―俺は男だから。

 

それにあいつ以外にも大切なヤツが出来た。今はそいつの事で手一杯、精一杯だ。

 

でも果たして絢辻には・・?国枝は周囲が想っている以上に絢辻には何もない、何も持っていないのではないのか・・?と、有人の話を聞く絢辻を見た今、大した根拠もなくそう思う。

 

そんな彼女をもしあの有人が意図せず傷付けたとしたら・・?

 

彼女が有人を失ったとしたら・・?

 

 

 

「・・解ってる」

 

 

 

 

「・・!・・・」

 

 

「でもね・・どうしようもないの。そんな簡単な気持ちじゃないの」

 

「・・そう」

 

国枝は「そりゃそうだよね」と言いたげに少し考え込む。少し場を緩和するようにやや声色を上げてこう続けた。

 

 

「・・まぁあまり無理せずにじっくり時間をかけた方がいいと思うよ?俺は十年以上かかってこのザマだけど・・きっと絢辻さんなら・・さ」

 

 

「うん・・」

 

 

でも―

 

 

「――――」

 

 

 

「・・え?」

 

国枝は絢辻の呟いたその不明瞭な言葉を聞き取る事が出来なかった。聞き直すようにそう促したが絢辻の次の意外な言葉に―

 

 

「あーあ。ひょっとしたら私・・国枝君みたいな人を・・・・

 

 

 

 

好きになれたらよかったのかもしれないなぁ・・」

 

 

 

 

「・・・え」

 

色んな意味で呆気にとられた。

 

「正直で、まっすぐで、負けず嫌いで、でも自分のいい所も汚い所もしっかり、はっきり見せてくれる優しいヒト・・そんな人を好きになれたらどれだけ私幸せだったかしら」

 

本気・・とはとてもとれないが流石に意外な言葉に国枝は面を喰らった。でも・・ほんの少し揺らぎののちにすぐに国枝の心のざわつきは消えていく。

 

 

・・何キョドってんの、よ!!

 

 

国枝の頭を小突くようにあの癖の強い髪を持った悪戯に笑う少女の声、顔が浮かんだからだ。生意気で口が悪くて最早取り繕う必要もないくらいに自分のダメな所を見せたあの少女の顔を。

 

心底ホッとする。

 

国枝の精神状態があっさり足場を立て直したのを確認して絢辻は優しく笑い、そして恭しくもう一度頭を下げてこう言った。

 

 

「・・さようならっ♪また明日ね?国枝君」

 

「・・・うん」

 

 

 

―さようなら。絢辻さん。

 

 

 

 

国枝は自分の長年抱えてきた親友への想いを共有し、理解してくれた、そして今の自分の真意をも気付かせてくれた少女―去っていく絢辻 詞の後ろ姿を無言で見送る。

 

 

 

 

国枝は無性に棚町 薫に会いたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日、国枝は予備校をサボって街をぶらつき、たまたまかけもちのバイトをしていた棚町 薫と遭遇する。

 

 

「クリスマスケーキいかかでしょ~~かっ?本日より予約もうけたまわっておりま~~す!!」

 

 

棚町はテキパキ、そして大きな声を上げ、何時ものように元気に働いている。しかし、今日は何時も働いているJOESTERでのエプロン姿とは違う赤い赤いサンタクロースの衣装を着てケーキを売っているらしい。露出過多で少し寒そうな所が玉にキズだ。だが―

 

―・・可愛いな。

 

珍しく国枝はごく素直にそう思う。そして気付けばもう既に声をかけていた。

 

 

「あの・・すいません」

 

「あ、いらっしゃい・・ま・・せ」

 

「・・・。よう」

 

「うあっちゃ~・・直衛」

 

棚町はあからさまに「ヤバい所を見られた」といった表情であたふたしている。

 

「・・・ははっ」

 

―・・ホッとする。

 

無愛想な国枝にしては珍しく満面の笑みでほほ笑んだ。すると

 

「・・・!・・・」

 

棚町は照れたように少し目をそらした後、相当味が微妙な料理を食わされた人間の様に眉をしかめ、「じっ」と、音が出そうなくらい微妙な視線を国枝に向ける。

 

「・・・む~~?」

 

「・・何」

 

「う~ん・・・なんかさ、アンタがそんな風に笑うと正直ちょっと不気味だな~・・って思って。そこまではちょっと嫌。キモチわる~~い」

 

「ぬ・・・」

 

国枝は何時ものしかめっ面に戻る。「もう二度とやらん」と、拗ねたように。

 

「・・ぷっ。あっはははは!!ウソウソ!うん!たまにはいいよ!ごくたまに!」

 

「・・・」

 

「・・。何かあった?」

 

大口を開けて何時ものように国枝をからかいつつの大笑いをしたかと思えば一転、棚町は彼を気遣う様な口調に切り替えて顔を傾け、心配そうに優しく国枝にそう聞いた。国枝はその鋭さにほんの少し驚いた顔を見せたものの、すぐに表情を元に戻して軽く首を振る。

 

「ううん別に。・・・でも。まぁ少しすっきりした事があったかな・・」

 

「・・・そ」

 

 

背中でサンタの手袋をしたまま両手を組み、手持無沙汰に何度もつま先を伸ばしてゆるゆる、ふわふわと上下に背伸びをしつつ、伏せ目がちで、でもどこかふっきれたような表情をした国枝にもう一度少女は「えへへ~」と、笑って見せる。

 

「・・お疲れ様」とでも言いたげに。

 

 

 

 

 

 

 

 







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