ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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ルートT 二十七章 お前次第だろ

 

 

 

 

27 お前次第だろ

 

 

 

 

 

 

友人二人にただ淡々と有人の口は吐き出していく。

今まであった出来事全てを出しきり、窪んだ痛々しいほどの眼窩だけでは飽き足らず、口に、喉に、そしてその先にある胸に溜まった、抱えた物を惜しげもなく吐きだしていく。

 

そしていずれ空っぽになった。

 

「・・・」

 

全てを出し切り、空っぽになって病室のベッドの上で力無く天井を見上げている有人を国枝、梅原の友人二人は無言で、しかし驚きと逡巡、戸惑いを隠せないながらも見ていた。

頭の包帯、顔の傷を隠すガーゼ、足の骨折とただでさえ痛々しい有人の姿―空っぽになった消え入りそうな友人の姿にかける最初の言葉を必死で探しながら沈黙を保っていた二人の内一人である―

 

 

「・・・・。成程。大体解った」

 

 

国枝 直衛がようやくこう呟く。

 

「え。マジで・・」

 

もう一人梅原 正吉は「信じらんね」、「お前すげぇ」、というやや尊敬の表情で瞳を輝かせ眩しそうに国枝を見る。すると国枝は「むっ・・」と口を閉ざし、居心地悪そうにして―

 

「・・。すまん。ちょっと強がった」

 

と、面目なさそうに言った。

 

「な、なんでぇ」

 

安心した様な、がっかりした様な複雑な表情でずるりと梅原はずっこける。

 

 

「で、まぁ話戻すけどよぉ・・絢辻さんがその・・『居なくなってた』って?いやでも大将・・お前・・実際昨日会ってたんだよな・・?」

 

「・・そうだよ。でも『俺の知っている絢辻さん』は居なくなってた」

 

「ん~~そこなんだよ・・解んねぇのは」

 

「ま。そうなるよね・・」

 

梅原が首を傾げる。同時有人もこの事実を全くの事情に通じていない第三者に一から説明する事の難儀さにもどかしそうに下唇を噛みしめていた。しかし―

 

「・・要するに有人・・『お前だけが知っている絢辻さんが居た』ってことだよな?」

 

国枝は思いのほか理解が早かった。

 

「・・うん」

 

 

 

 

 

「・・あれ?ひょっとして二人共気が付いてなかった・・?」

 

合点がいかず、尚黙る二人に対し、不思議そうに有人は涙で赤黒く変色し、窪んだ瞳を見開いた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

有人のその質問にしばらく国枝と梅原はお互い無言で顔を見合わせた後、再び有人に向き直る。しかし国枝は硬い表情で無言のまま。梅原は両手の平を空に向け、首を振る。

 

「ええっ・・?二人共見たでしょ?ほら・・教室で創設祭が生徒主導どうのこうので他の子と絢辻さん揉めていた時あったじゃん?あの時・・」

 

「あああったな。覚えてる。確か・・田口と磯前あたりが絢辻さんキレさせてぼっこぼっこにされたやつだっけ・・」

 

「そう!『あれ』がそうだよ。・・二人共あの場に居たよね?アレが俺の知ってる、で、・・俺の言う『居なくなった絢辻さん』だよ。・・え?・・ほ、ほんとに気が付いてなかったの二人共?あんなに・・」

 

国枝、梅原はお互いに顔をまた見合わせ、お互いの変わらない意思を確認し合うように頷き、再び有人を見た。

 

「・・。確かに『何時もの絢辻さん』とは違ってたってのは確かだけどよ・・あん時は状況が状況だったしなぁ・・」

 

まず口を開いた梅原が合点がいかない表情のまま腕を組み、そして次にぽりぽり頭を掻く。それに国枝も同調し―

 

「・・。あんだけある事ない事言いたい放題言われたら、いくら絢辻さんだって怒るだろ・・って程度の認識だったな。恐らく一緒に見てた薫あたりもそんな感じだと思うぜ。・・ある意味自然に見えたってのが俺の意見だ」

 

彼もまた首を振ってそう言った。

国枝は元々根は熱い所が在る為、あの絢辻の突然の激昂を意外に淡々と受け入れていたようだ。

 

そんな友人二人との認識のずれを前に有人はぱちくり目を瞬かせるしかなかった。

 

「じゃ、じゃあ?二人・・っていうか皆それじゃあ・・」

 

「・・そういうこと。正直有人・・お前の『認識』とは程遠い、な」

 

「・・だな。事実あれ以降あそこまで感情的になった絢辻さん見た訳じゃねっしさ?俺達。その後の行動といい、雰囲気といい・・少なくとも俺には・・いや、俺らには普通に見えてたぜ?」

 

国枝に同調した梅原の言う「その後の絢辻の行動」―創設祭の為の献身的な行動、理不尽とも言うべき実行委員長解任の受け入れ、それでも普段と相変わらずの模範的振舞い、更には全国模試の上位に入る程の優秀な学業成績―

 

あれ程の出来事の後、そして逆境の中でも絢辻は変わらなかった。それ故周りの人間にとってはあの時激昂した絢辻の行動、言動は一時の感情に身を任せた「在る程度理解が出来る」乱心程度に留まり、そこで止まっていたのだ。

 

あれこそが絢辻の「本性」であるのだ、という考えに結び付けた人間ぐらいは中には居るかもしれない。しかしそこで皆思考を止めていたのだ。

まさに「事無かれ」、「触らぬ神に祟りなし」、「喋ったら村八分」―この状況の事をかつてココに居る三人にポーカー勝負中にそう語っていた棚町 薫の言葉は言い得て妙である。

「何かの間違い」、「突発的事故」、「想定外」。それだけのこと。流行り言葉でくくれればOK。言い表す言葉の概念があれば十分。安心。「あの後の絢辻は見ての通り何時も通りだ。それでいいじゃないか。・・まぁ、だけど、とりあえず、何となく、彼女からは距離を開けておこう。ほとぼり冷めるまで」―そんな感情。それは有人の友人達すらも同様であったらしい。

 

 

つまり終始ぶれなかったのだ。絢辻は。誰の前ですら。

 

 

ぶれていたのは・・全て有人の前でだけ。笑い、泣き、怒り、憂い、悲しみ、慈しみ、照れる。・・何処にでもいるただ一人の女の子として。

 

 

「お前だけが知っている絢辻さん・・それが本当の絢辻さんだったんだな?」

 

「・・・」

 

有人は無言になる。国枝は肯定と受け取った。まだまだ納得いかない、解らない事が多すぎるにせよ有人のその無言の姿を見て梅原もまた結論が出たと判断する。

 

「・・・。まぁ女の子には『建前と本音、裏と表』があるって言うのはなんとな~く解ってるつもりだったけどここまで行くと俄かに信じがてぇ話だな・・」

 

「・・。ま、本音や建前はどうかとして今の一連の話を聞いて一つ言える事がある。解ったことがある」

 

そう言って国枝はずりりと有人のベッドに向かって自分の座イスを近付け、何時になく悪戯な瞳で塞ぎこむ有人の顔を覗きこむように見ていた。

 

―・・国枝・・?

 

梅原は少し驚いた。なぜならまるでいじめっ子が格好の虐め甲斐のある相手を見つけた時の様な瞳をしていたからだ。・・あの国枝が。

 

「・・・」

 

「・・有人。お前は絢辻さん。いや、『お前だけが知る絢辻さん』にとって『特別』だった。でも・・お前は何時もと変わらず同じ『源 有人』だった訳か」

 

「・・・」

 

「は?国枝・・?お、おい、何の話だよ?」

 

何時もと全く以て雰囲気の異なる国枝を梅原は本能的に止めようとした。明らかに精神的、肉体的にも憔悴しきっている相手に浮かべていい表情ではないと梅原の中の何かが警鐘を鳴らしている。しかし国枝は止めない。尚も言葉を続ける。

 

「・・優しく聞きわけのいい、でも変なトコ頑固者。誰かれ構わずわけ隔てなく接し、同時・・・何時ものように誰とも本当には向かい合わないお前だった訳か」

 

「!?国枝・・?おい?」

 

「おいおい誰の話だよ、ってぇか何の話だよ」と言いたげに梅原は有人、国枝の双方をまるで行儀よく小学生が横断の際、信号を左右しっかり見てから渡る時みたいに見る。

そうでもしないと全く見当外れのまま、この二人の会話の中を「横断」し、敢え無く撥ね飛ばされてしまいそうな気がしたからだ。

 

しかし、当の二人は梅原のそんな涙ぐましい心境をよそに既にその話を双方理解し、「会話」として成立しているようだった。

眉を歪めたまま俯く有人を国枝は真っ直ぐと見下ろしていた。そして一つ溜息をついてこう切り出す。

 

「・・別に俺はそれでも構わなかった。長年お前と一緒に居て馴れてたしな。お前がニコニコへらへらしながら壁作って、他人と距離を離してんのをずっと見て来たから。・・とことん付き合ってやろうと言う覚悟も余裕もあった。けど絢辻さんには・・彼女にはそれは出来なかった。・・何故か?単純だ。俺ほど時間が無かったからだ。来年には親の言いつけでここを去らなくちゃならない。・・つまりお前と離れなくちゃならない」

 

「・・・」

 

「それまでに何とかしなければならない。焦ったろうな?彼女。でも逆に言いだすのも怖かった。目の前に確実に迫っている別れの現実が怖い。真実を告げるのも怖い。そして何よりも・・」

 

「・・」

 

 

「・・真実を告げた時、お前が恐らく『何の抵抗も無く自分を送り出してしまうだろう』事が怖い」

 

 

「・・・」

 

「お前・・止めないだろ?お前が頑固や意固地になるのは相手が本当に非を犯していると判断した時、それを諌めようとする時だけだ。絢辻さんには解ってたんだろう。自分が居なくなる事、それを言葉に出した時・・お前が何時ものように笑って

 

『そっか。残念だけどまた会おうね。元気で・・』

 

・・とか、なんとか言う所が。・・決して引き留めてくれないってことをな」

 

「・・・」

 

「お前は昔から誰にも何も強要はしないよな?受け入れて・・何かを無くしたり、離れていくことにも抵抗しなかった。来る物拒まず、去る物追わず・・それが楽だからだよな。なぁ有人?」

 

「・・・」

 

「多分・・絢辻さんは創設祭の夜に全て伝えるつもりだったんだろうな。けどお前は運悪くこの有様。不可抗力とは言え絢辻さんは・・その・・お前が言う『そういう状態』・・?ってやつになってしまった」

 

「・・・」

 

「・・わかってんだろ?今回の件、確かにお前にとって不運な事は多かった。傍から見れば誰もお前を責めないだろう。むしろお前が責められる謂われはない」

 

「・・・」

 

「でも・・俺は解ってる。お前がやって来た事が。・・全部な。だから・・俺だけはお前を責める。軽蔑する。今の状況を招いたのは他でも無い自分自身。お前の生き方自身が招いたって事を」

 

国枝はそう言い捨てた。

 

 

「・・何でだろうな?」

 

「・・」

 

「そんなお前の・・何処が良かったんだろうな?絢辻さん」

 

「・・・」

 

 

 

「お前は本当に冷たい奴だよ。有人。昔も今も。ヤな奴だ」

 

 

 

―・・おわ~~。

 

予想だにしない有人に対する国枝の執拗な言葉責めを絶句しながら梅原は見ていた。

 

それでも・・そんな言葉を心身ともに満身創痍の有人に容赦無く投げかけ続ける国枝に悪意も敵意も感じなかった。国枝は何時もの有人に対しての表情とは異なる珍しい呆れた笑顔で有人を見ていた。

 

そして対する有人もその言葉に憤り、反論する事も何時もの誤魔化すような笑顔もせず、ただ口の端を僅かに緩めて聞いていた。

何故かこの二人が今まで以上に親友同士らしく見えたのが梅原には少し羨ましく、そして同時蚊帳の外である自分が悔しかった。

 

 

「・・・はははっ」

 

 

突如有人が笑った。そして片膝を抱え、目を隠すようにして恥ずかしそうに泣き笑う。

 

「そこまで・・言う事ないじゃないかぁ・・直」

 

泣き笑ったままの口調で親友のキツイ詰問に有人は口を尖らせながら不満げに、且つ恨めしそうに国枝を睨む。そんな見た事もない有人の姿に梅原は少し気圧されたようになるが国枝は微動だにしない。表情も淡々としたままであった。ただ満足げに僅かに微笑んで

 

「・・言われなきゃわかんないだろ。お前は」

 

尚も溜息をつきつつそう言い捨てる。

 

「・・あはっ・・そうかも」

 

「・・で。『こっから先』・・・お前はどうしたい?」

 

「・・・」

 

「彼女はお前を見てくれた。俺が十年以上かかったお前の本当の姿をお前と出会って一年足らずで見抜いちまったんだぞ。・・たいしたもんだぜ」

 

「・・・」

 

「お前は実際昨日『その』絢辻さんと会った。昨日はいつもの通り、予定通りお前は逃げた」

 

「・・」

 

「どうする?このままでいいのか?・・何時もの様にまだ逃げるか?逃げ続けるか?」

 

「まだ間に合うのかな・・?」

 

 

「・・お前次第だろ」

 

 

簡単に国枝はそう言い放った。言外にこう言い含ませる笑顔で。「遅くなんかない」、と。

その言葉に有人は内心強く頷く。

 

 

―・・うん。ありがとう。直衛。

 

そう。遅くなんかない。取り戻すよ。

 

 

 

・・「あの子」を。

 

 

 

 

「ううう。お~い。俺を置いてくんじゃねぇよ~」

 

梅原は違う意味で泣きそうだった。

 

 

 

国枝は思う。そして思い出す。

 

―そんな簡単な気持ちじゃないの。

 

図書室で絢辻と有人の話をした時―そう言い放ったあの日の絢辻を国枝は思い出す。あの日から全てを解った上で彼女は今日この日まで来たのだろう。自分の中で既に出ていた結論をなぞるために。

 

でもひょっとしたら有人が引き留めてくれるかも、「行かないで」と言ってくれるかも、「ずっと傍に居て欲しい」と言ってくれるかも―そんなわずかな希望に縋ったのだろう。

しかし「想定外」というものはあるものだ。伝えようとした、そしてせめて足掻こうとした。残された僅かな時間で出来ることを散々模索し、いざ迎えた身を切られる様な思い、同時一日千秋の思いで待った最後の日―創設祭、クリスマス・イヴの日。

例え結果がどうであろうとも、有人とゆっくり最後の時を二人で送ることを心底彼女は楽しみにしていたのだろう。

 

「例え運命が変わらずとも彼との綺麗で、切なくも楽しい思い出だけでも残せるのなら」―と。しかしあの夜、彼女に突き付けられた不運、現実、運命はあまりにも残酷だった。

 

・・有人が来ない。どれだけ待っていても。

 

彼女の中で不安と失望が交錯する中、有人と送る最後の時間を糧に均衡を保っていた彼女の元々壊れかけであった心の堰は徐々に崩れ、ついには決壊。後はひたすら不安と失望が彼女の中で際限なく勝手に浸蝕、膨れ上がり、悲観的な感情が抑えようもなく湧きあがる。それがあたかも真実であるように。

 

しかし―その後に判明する拍子抜けするほどの間抜けな真実は彼女に更に深い絶望を与えた。

 

それは自分の築いてきた「在り方」そのものに対する失望、絶望。

自分が今まで保ってきた、培ってきた自信、誇りが全て空虚に感じる程のものだ。

加えてもう一つ、自分が思った以上に有人を信じきれていなかったことを思い知った。

 

耐えられない程の自分への嫌悪感、失望感、それによって絢辻は壊れてしまった―それが国枝の結論だった。

 

絢辻ほど頭のいい人間が何故にここまで早計、早とちりで、短慮で、視野狭窄とも言える思考に陥ってしまったのか―大抵の絢辻を知る人物は不思議に思うかもしれない。が、

 

―・・解らないことはないような気がする。

 

国枝はそう思う。

 

―そもそもこいつは・・この有人って奴はとことん人を寂しがらせるんだ。笑顔の奥に葛藤と迷いを抱えながら決して自分からそれを他人に打ち明ける事は無い。

 

線を引く。

 

立ち入らせない。

 

踏みこませない。

 

弱みを見せない。

 

それがコイツの生き方だ。

 

大部分の人間はコイツの生き方に納得するだろう。その線が目の前にひかれるのを見ることが出来ない範囲で、その外でコイツを見るからだ。

「そういう生き方をしている」―ということ自体にそもそも気が付かないだろう。

でも・・実際いざその線が引かれた瞬間を感知できる近しい人間にはこれ以上の無い寂しさを与える。

 

国枝は見た。見てきた。「ココからは直は立ち入らなくていいよ・・」と言いたげに何時ものあの笑顔でそう訴えてくる有人を。

 

―・・俺はそれでいい。と、思ってきた。

 

いずれ俺がそこから引きずり出してやる、その笑顔の仮面、俺が引っぺがしてやる、とも思ってきた。しかし残念ながら・・俺は無能だった。思った以上に。

一向に引きはがせない、歪みもしないコイツの笑顔に俺のやってきたことは間違いだったと気付いたのはつい最近だ。正直な話、今もどうしたらいいのか解らない。そして理解するための余裕も昨今無くなっていた。

 

元々無能な俺だ。年月が経つごとに右肩上がりのタスク、そして有人以外の・・・支えてやりたい、傍に居てやりたいと思う人間も出来た。その全てを器用にこなす事など俺なんかに出来るわけがない。

 

でも。

 

そんな時に最高のタイミングでコイツの前に現れてくれたのが・・彼女だった。

 

絢辻 詞。

 

俺とはとことん正反対。優秀で知的で大人で器用で・・そして何と言っても俺にとってほっとけない幼馴染を本当に受け止めようとしてくれた初めての女の子だ。

「もう大丈夫。俺なんかいなくても」―そう思っていた。しかし、その彼女は今確実に有人の前から去ろうとしている。居なくなろうとしている。

 

・・困る。困るよそれ。

 

今目の前に居る有人をここまで素に立ち返らせた君が今更居なくなるなんて。

俺には出来なかった事をあっさりやった君。コイツの隠し持った本質を知った上でも「簡単な気持ちじゃない」とまで言ってくれた君。

 

・・ホント不思議な女の子だ。マジでどこがいいの?こんな奴。

 

そんな君が今更・・ホント、困る。

 

・・そんな勝手な俺の想いの裏で冷静な俺がこう指摘する。

 

―誤解するな。ただの一人の女の子だよ。お前よりも小さく、力も弱い。

しかし、そんな小さな少女が抱えた物はお前の比じゃなかった。背負っていたものもお前の比じゃなかった。

おまけに時間制限付き。それでもお前には出来ない所まで辿りついた。

それを見て・・お前は見ているだけか?傍観しているだけか?どうするんだ国枝 直衛?

 

 

―・・。でもさ?・・俺なんかに出来ることなんてあるのかな?無能な俺に?

 

 

―・・お前次第だろ。

 

 

 

「・・直」

 

「・・・!ん?」

 

「梅原」

 

「・・おう」

 

「俺・・このザマだからさ・・」

 

有人は自分の痛々しい体を一瞥したのち、改めて国枝、そして梅原に苦々しそうに言った。

 

「だから・・お願い。手を貸してくれないかな」

 

「おう!!当然でぃ!」

 

梅原は全くの逡巡なく、にやりと笑ってそう言った。その何時もと変わらない友人を見てほんの少し有人は微笑み、今度は国枝を見る。

 

「直衛も・・頼むよ。力を貸して」

 

「・・・」

 

国枝は黙る。しかし、迷っているワケじゃない。そもそも答えなんて決まっていた。

 

 

―ああ。俺はこう言って貰う為に・・お前の友達になったのかもな。

 

 

ただ国枝は嬉しかった。自分の中で勝手に救世主の様に扱った小さな女の子を救う為に。そしてこれからも目の前の危なっかしい、大嫌いな親友の傍に居てもらう為にただ漠然とこう聞いた。

 

 

「・・何をすればいい?」

 

 

単純だが信頼する友人に言ってもらえたらこれ以上なく嬉しい言葉だ。有人は心の底から微笑み、次に強い眼差しを以て国枝を見据えてこう言った。

 

 

「・・・俺をもう一度絢辻さんに会わせて欲しい。ここに連れて来てくれるだけでいいんだ」

 

 

「了解・・協力者は多い方がいいわな」

 

 

国枝は梅原をちらりと見る。既に梅原は自分のメモ帳を取りだして悪戯そうにニッカリ笑っていた。「よ~~やく俺の出番だな」と言いたげに。

 

 

 

 

 

 

 

遅くなんかない。全ては。

 

 

 

 

 

 

俺達次第だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















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