ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

71 / 91







間章 ルートN 二つの終わりの風景 降伏の先に・裏

 

 

 

 

 

間章 ルートN 二つの終わりの風景 降伏の先に・裏

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ちょっとパパ!!一体これどういう事なの!!??」

 

 

「何だい典子・・藪から棒に」

 

 

典子と呼ばれた少女―黒沢 典子は怒っていた。そして同時頭を抱え、困惑していた。

 

何故こんな事になったのか?確かにあの女―絢辻 詞の高い鼻っ柱を折ってやれた事に関しては痛快だった。

 

禁則事項を犯して危険な作業を行い、怪我をした創設祭実行委員の一年生の少女―坂上の情報をこれ幸いと直接市にリークし、監督責任を持つ創設祭実行委員長としてのメンツを完全に潰された絢辻の苦虫を潰した様なカオは最初こそは胸がすく思いであったが徐々に黒沢の心に重い枷の様なものが積み重なっていく。

 

正直黒沢にとって絢辻の屈辱の顔が見られただけでも今回の件、「御の字」だったのだが事態はそれだけでは終わらなかったのだ。

 

黒沢 典子の父親であり同時、吉備東市議会代議士である男―彼が何故か娘が当初望んだ絢辻に対する嫌がらせ以上に暴走を始めたのだ。

 

創設祭実行委員会の行動の過剰な自粛に始まり、強引な業者の変更、創設祭準備作業の強行―ハッキリ言って暴走、暴挙と言って過言ではない。

 

「典子ももう高校生だろう?そろそろ自分の問題は自分で解決しなさい」―そう表向きは言うが、結局最後には何らかの手助けをしてしまう娘には甘い彼女の父親である。

そんな娘に従順だったはずの父親の度を超えた今回の行為に黒沢 典子は頭を抱えていた。

 

元々絢辻の事さえなければ吉備東校の創設祭を「生徒主導」の方針で行う事に関しては賛成側である黒沢にとってここまで父親―つまり市に介入される事に関しては本意ではない。

実際彼女自身の仕事も減ってしまう事による手持無沙汰感を味わい、同じ実行委員達の落胆の姿に流石に罪悪感も募る、・・終いには彼女の想い人―源 有人に「あんな」切ない表情をさせるに至ってしまった。

 

何故ここまで事が大きくなってしまったのか―

 

 

数日後―

 

絢辻と源の「あの」策略に嵌り、彼女自身が自分の犯した行為に向きあう事になった時、

 

「私だってこんな事になるなんて思ってなかったのよ・・・!」

 

とのたまった言葉は嘘偽りない彼女の本心であった。

 

 

 

そして更に数日後―絢辻と担当教諭の高橋 麻耶の解任を条件に市が―つまり父親が全面的に譲歩し、創設祭作業の再開を許した事も更なる黒沢 典子の混乱を増長する。その困惑を再び父親に向けた。

 

「パパ!!」

 

「何だ典子・・これをお前は望んでいたのだろう?これで晴れて典子は創設祭の実行委員長じゃないか!これで内申も、評価もうなぎのぼりじゃないか、私も嬉しいよ」

 

「そ、それはそうだけど!・・でも、こんな形なんて望んじゃいないわよ!!」

 

そう。確かに黒沢はかつて自分が望んでいたポジションを手に入れた。しかし経緯が経緯だけに喜べない。黒沢 典子にもプライドがある。

 

最早罪悪感を覚えてしまう程、自分の軽率な行動によって周囲の人間に迷惑をかけ、それを補う為に彼らに余計な手間を与える大失態を犯し、それによって大嫌いだった、しかし同時心のどこかで認めてもいた自分より誇り高いライバル―絢辻を蹴落としてしまった。

 

自分の力で堂々と彼女を蹴落とせれば胸のすく思いにもなったのであろうが、今回のでは流石に無理だ。むしろこれ以上なく黒沢を惨めにさせた。

 

責任を受け入れ、自分のやれる事を全うした絢辻。片や愚行を犯し、周囲に大迷惑をかけた自分が在ろうことか望んでいた地位に就く。それも殆ど自分の力ではなくなし崩し的に決まってしまったものである。おまけに絢辻から引き継いだ仕事はあまりに自分の手に余る想像を遥かに超えた激務であった。

 

結果彼女のチンケなプライドはあっさり粉々に砕け散った。

 

 

 

 

そんな日々の激務によって黒沢は「なぜここまで事が大きくなってしまったのか」というかつて抱いていた疑問を考える余裕すらなくなった。

 

つまりそれはこう言いかえる事も出来る。明らかに

 

 

黒沢 典子の父親は「絢辻 詞」に対して何らかの感情を以て事に及んでいた―という事だ。

 

 

大人としてそれ相応の地位にある人間が何故にそこまで「たかが」一学生、女子高生に、それも今回の件で結果接触する事になったにせよ、それまで全く面識もない相手に何故にここまでの仕打ちをしたのか。

 

 

いみじくも吉備東高の校長が先日、自分が創設祭の担当教諭を解任された事よりも絢辻が解任された事で泣きじゃくる高橋にこう吐露していた。

 

 

「今回の件で市が一生徒の責任をあそこまで過剰に追求したがる意図が見えてこないがね」―

 

 

そう。「市」など大きな物ではない。とてもちっぽけな・・たった一人の男の惨めな劣等感が今回の件を招いた―否。ここまで「ムダ」に事を大きくしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―やった・・!!やってやったぞ!!

 

一矢報いてやった気分だった。否。そう言い利かせたかった。そうでもしないと空しさに押しつぶされそうだった。

 

 

―「あの男」に!!

 

 

黒沢 典子の父親は彼の自室のデスクの上で両拳を握り、内心そうほくそ笑んだ。何とも市という集合体を代表する人間として相応しくない表情で。

 

 

・・これでは任期途中に解任される事にも頷ける。

 

 

その彼の後任が―「あの男」だ。

 

彼になり変わって、吉備東市を含む、この周辺の地方自治体の首長を務める事になる「あの男」―

 

 

 

 

 

絢辻 孝美だ。

 

 

 

 

 

 

黒沢 典子の父親はかつてより絢辻 詞の父親である男―絢辻 孝美に苦渋をなめさせられてきた。

 

否。むしろ彼は「あの男」の「眼中に無かった」、「相手にされていなかった」と言った方が適当だろう。

黒沢の父親なりに長年努力はしてきた。それに彼には元々生まれ持った地位もコネもあった。結果今の役職―地方代議士の立場にまで上り詰めた。

 

しかし、正直今回の子供じみた行為から解る様に元々あまり人の上に立てる様な人間ではない事は容易に誰にも察しがつくだろう。分不相応な地位に就いた男はより自分より遥か勝る才、コネ、手腕を持った者達への嫉妬、羨望、劣等感に苛まれる事になる。

 

そんな人生を20年以上送った結果、彼の風貌も何ともみすぼらしい事になってしまった。

 

後退した頭、汚らしい肌―「凶相」とは流石に言えないまでも、苦労―それも要らぬ苦労が垣間見える姿には何だかんだ時に「容姿や見た目」が重要になる局面が在るこの仕事に就いた彼の不幸であった。おまけに政治家としてはお世辞にも優秀とは言えないし、それに対しての劣等感や、それに相反する功名心もあるためプライドだけは高い。

 

残念ながらそんな彼の人望は頭皮と一緒でかなり薄い。

 

 

 

 

そんな彼が最近知る事になった。自分の可愛い娘―黒沢 典子もまた、どうしても勝てない相手に対して最近不満を募らせている事を。

 

当初こそは流石に彼も地方代議士という立場が在り、可愛い娘の事とはいえ謂わば「子供の喧嘩に親が出張る」のも大人気ないと笑い飛ばしつつ、膨れる娘を宥めていたのだが、その相手の名前を娘から聞いた瞬間―完全に彼の中で事情が変わった。

 

 

 

「コイツ!!コイツよ!!パパ!!この絢辻 詞っていう女よ!!あ~~ホントむかつく!!!」

 

 

 

 

―・・・!!

 

 

 

「絢辻」

 

 

娘からその名前を聞いた後、念の為一応確認はしたものの、彼には娘の話を聞いた途端に既に解ってしまっていた。その女生徒が間違いなく「あの男」の娘である事を。

成績、容姿、人望、能力―全てにおいて自分の娘より勝っている少女―なんという皮肉なデジャヴであろうか。

 

「あの男」―絢辻 孝美。

 

家柄も金もコネも持たなかった男が全てに於いて自分に勝る結果を出し、出しぬき、遥か高みに居る不条理、理不尽。年々劣化していく自分の姿とは異なり、歳もそれ程離れていない筈なのにまだまだ脂の乗り切った若々しい容姿、容貌を保ち続ける人望も厚い男。

 

すべてが対照的だった。世間的には「エリート」と言われる区分の中で、彼と「あの男」の差はまさしく「エリート」と「落ちこぼれ」程の埋めがたい差が在った。

 

 

そんな自分だけではなく、可愛い自分の娘も、可愛い自分の遺伝子もまた「あの男」に遥か劣っているというのか―

 

その受け入れがたい事実に加え、漸く登り詰めた現在の地位ですらあっさりとひきずり下ろされようとしている現実は彼に深い絶望、そしてねじ曲がった嫉妬心は復讐心に形を変える。

 

しかしだからといって―彼に「あの男」本人に逆らえる器量も、度胸もない。所詮自分が何をやろうともあの男はゆるがないだろうし、下手に事を行えば更に自分の立場が危うくなるだけで在ろう。

 

だから―せめてもの復讐として・・今回彼は娘をターゲットにしたのである。余りにも個人的で下らない子供じみた復讐心を満たす為に彼は大多数の人間を巻き込む暴挙に出た。

 

 

 

しかし―

 

結果、「あの男」どころかその娘自身にも彼は凹まされる事になる。

 

 

 

「あの男」の娘―絢辻 詞は彼の下へ創設祭の件に関しての直談判に訪れることとなったのだ。

正直彼は願ってもない機会だと思った。憎いあの男の娘が辛酸を舐める所を直接見てやれると思った。作業の再開を必死で頭でも下げて願ってきたら、嘲笑ってほんの少しだけ譲歩してやろうと考えていた。「全く・・仕方ないな」と言った余裕の大人の表情をして見下ながら嘲笑ってやろうと思っていた。

 

しかし―

 

あの娘―絢辻 詞は在ろうことか彼に脅迫まがいの交渉をしてきた。一学生の身分で一地方を収める代議士相手に全く怯むことなく、しっかりと見据えていた。

 

「娘の事、娘の行為、娘の責任―そして今回の件に関しての彼の余りに個人的な行為がハッキリ公になれば立場が拙いのはむしろ貴方達の方ではないか?」と。

 

 

 

「ふふっ・・。見えすぎる目を持っていて申し訳ありません」

 

 

そう言って誰もがハッとするような美しい顔で片や長年の苦労で醜く老けた顔をした自分を睥睨したあの姿に彼は「あの男」の姿と重ねた。そしてこう思った。

 

 

―・・・間違いなくこの女は「あの男」の娘だ!!そっくりだ!!!・・・忌々しい!!!

 

 

内心、煮えたぎる腹を必死でこらえ、タコみたいに赤くなる頭、屈辱感をかみ殺して逆にこちらが「絢辻と担当教諭の解任」という市(表向き)のメンツを立てる譲歩を引き出すのが精一杯だった。しかしこれは彼女にとって想定内で在ったらしかった。

 

その申し出を「待っていました♪」と言わんばかりに粛々と受け入れ、「寛大な処置に感謝いたします」とまで言って深々としおらしく頭を下げた絢辻の目を盗んで、彼は下唇を噛んだ。

 

それも「解っていますよ?」と言わんばかりにパッとすぐに頭を上げ、さらに「お悔しいですか?」と言いたげな瞳でほほ笑んだ後、彼女は踵を返した。その背中を睨み続ける彼に僅かに振りかえり、今度は全く敵意を隠さない瞳を向け―

 

 

―・・所詮貴方にはもう直何もなくなる。だからもう二度と私達に関わるな。

 

 

・・見苦しい。

 

 

そう瞳だけで語っていた。

 

その姿がまた彼の中で再び完全に「あの男」の姿と重なった後、呆ける彼を尻目にもう二度と彼女は振り返る事は無かった。

 

部屋にただ一人彼はポツンと残される。

 

正直「あの男」の化身のような、あの物の怪の様な娘がいたこの場所を塩でも撒いてすぐに清めたい気分だが出来なかった。所詮ここは、この席はいずれすぐに自分の居場所ではなくなる場所―そこに塩でも撒いてしまえば一緒に自分も払われてしまいそうな気分になったからだ。

 

「・・・」

 

彼は無言のまま、窓に映る自分の姿を見る。

 

 

 

・・何ともみすぼらしい顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜―

 

 

「・・くひっ」

 

喉元から鳴る妙な下卑た笑いをかみ殺しながら同時、黒沢父は屈辱をかみ殺す様に今は、せめてあの娘だけは道連れに出来た快感に酔っていたかった。浸っていたかったそんな姿を―

 

 

「・・・っ!!」

 

 

娘―黒沢 典子は僅かに空いた父の部屋のドアの隙間から覗き見ていた。そして思う。絢辻が屈辱に苦しんでいる時、「自分もまたあんな表情をしていたのだろうか」、と。

 

 

結果として黒沢 典子の父親はこれ以上なく娘を今回の件で成長させたと言える。

それが今回の一件によってこの哀れな父親が生みだした下らない数々のトラブルの中で唯一の光明と言えるだろうか。

 

それは彼女にとってこれ以上ない現状の自分の映し鏡、反面教師となったことだ。

 

 

 

―・・確かにパパは昔から私の思い通りになっていた。いつも言う事を聞いてくれた。

 

いつもパパは私の味方なんだ・・そう思ってた。

 

 

でも違う。パパは結局何時も、誰よりも自分の事しか考えてなかったんだ・・。私の事を想っているようで本当は誰よりも自分が可愛かったんだ・・。

 

 

 

今回の件で自分の父親がどういう意図であそこまでの暴走をしたのかの詳しい事情に関しては流石に現状黒沢 典子は把握できない。しかし今自分の父親が浮かべているあの表情に娘は全てを察した。そして最後にこう思う。

 

 

―私・・・あんな風になりたくない。

 

 

・・・なりたくない!!!ぜったいっ!!!

 

 

ギュッと拳を握り、音もなく黒沢 典子は父親の部屋から背を向け、静かにしかし確固たる足取りで踏み出す。何故かとめどなくあふれ出る涙をぐいっと両眼を腕で拭って。

 

 

 

 

 

 

「・・・これではどちらが子供なのだか」―

 

 

あの日校長室で高橋 麻耶にこう呟いた吉備東高の校長の言葉は何とも言い得て妙である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。