俺は御木本 久遠。高3。自他共に認める吉備東高校最高、最強のプレイボーイ。
高身長、高ルックス、高学れ、き・・・。ま、まぁ来年はほぼ浪人が確定している俺だが取り敢えず吉備東の超モテ男―「撃墜王みっきー」とは俺の事さ。
今年のクリスマスも俺―御木本 久遠クンはさぞかしゴージャスでイケてるモテライフを堪能したんだろうなと、日本全国のモテないクンは悔し涙に一人枕を濡らした事だろう。ふふん。
・・・。
・・あの娘何故か来なかったンだよな~~?確かに俺約束したはずなんだけどな~~?
あっれ~~?おっかしいぃな~~?これおっかしいなぁ~~?
「例え12月23日に登校から下校までの間に女の子二人と翌日のクリスマスデートのダブルブッキングしても何故か翌日には確実に片方の女の子との約束、存在すら忘れて、もう一人の女の子とデート楽しむようなもはや記憶喪失レベルのクソ野郎」程、耄碌したつもりないんだけどな~~?
ま、まぁ風邪だろう。すっげぇ急病かなんかだろう。身内に不幸でもあったんだろう。
・・確認取ってないけど。
・・話を変えよう。突然だが俺は今18歳だ。そして繰り返すが俺はイケメンだ。高身長だ。何が言いたいかわかるか?・・解らない?ちっ、勘の鈍い奴だ。
車だよ!ク・ル・マ!!モテ男の必須アイテム!
旅行!買い物!遊び!送り迎え!そして車内×××!!
夢のアイテムだろうが馬鹿野郎。何で日本は16歳から乗れねぇんだよ!馬鹿野郎この野郎!
当然だがイケメンの俺は18歳になった直後、即免許を取りに行き、仮免に二回落ちながらも無事免許を取れたっつ~わけだ。
高身長、高ルックス、おまけに車の免許持ち。・・パーフェクトぅだ・・パーフェクトぅすぎて困っちまうぜぇ・・。
・・ただウチにあるのが四人乗せたらもう「ヒィヒィ」言い出すボロっちい国産の軽なのがネックだが。いずれジャ〇―とかボ〇ボ、ビー〇ム、ワー〇ンとか乗って見せるぜ。
それまではコイツで我慢だ。
・・ぷすん
・・畜生。またエンストしやがった。オートマでエンストってどういうことだ。この野郎。
・・ん?ああ・・「今モテ男の御木本 久遠クンは車に乗っているのかい?」だって?ま。そういう事だ。話の分かる奴は嫌いじゃないぜ。
実はな・・今朝呼び出しがあったんだよ。「車で来てくれ」って。
呼び出してきたの誰だと思う?わっかんねぇだろうな~~?モテない君には!
聞きたいか?聞きたいか?ん?そーかそーか!!仕方ねぇな・・聞いて驚け。
あの森島だよ!!森島 はるか!!
今日は12月27日。
「三日」遅れとはいえまぁようやく収まるとこに収まろうとしてるっつ~感じかね。収まるところ―つまり高身長、高ルックスの俺の元ってことさ!!
いや~~おかしいと思ってたんだよな~~?こんなイケメンの俺を振る女が居るはずねぇって?森島もようやく覚悟を決めたってところか・・ふん。そんなに恥ずかしがらなくていいのによ?
ま。でもせっかくの冬休みだってのに集合場所を「吉備東高校の正面玄関」にするってのは頂けねぇなぁ?一応制服着なきゃなんねぇし休み気分が台無しだぜ。ま、いいんだけど。イケメンってぇのは制服も似合っちまうからな?それに・・森島の制服姿はやべぇからな・・うん。
・・・ん!?お・・「噂をすれば」ってやつだ。あそこに居るのは森島だ。お~~手ぇ振ってやがる♪か~わ~いい~~♪
俺にだぜ?俺にだぜ?車に乗ったクールでイケメンな俺にだぜ?
・・相変わらずいいスタイルしてんなホント~♪制服越しでも俺にはわかるぜ?
跳ねる跳ねる♪揺れる揺れる♪
はっ!・・んっんっ!・・さぁってと、クールでカッコよくアイツの目の前で車を止めるとしますか・・。まずは開けた窓に優雅に片手をかけて、と。・・んで片手でハンドルを掌うまく使って優雅にくるっとな、っと・・。
キキッ
ふっ・・我ながら完璧だ。
・・・相っ当練習したからなこれ。この車の左サイドについた無数の小汚いキズは俺の名誉の勲章―精根(←「聖痕」と言いたいらしい)だぜ・・。
「待たせたな・・森島」
さぁどこへ行く?どこへでも連れて行ってやるぜ?
海か?景色のいい高台か?お洒落なカフェか?高級ブティックか?
・・最後のはお願いだから止めてくれ。金が尽きそうだ。あと「受験勉強のために図書館」とか間違っても言い出さないでくれ。ま。森島の事だから心配はしてないけど。
「ありがとう!!みっきー!来てくれて!!ぐ~~っど♪」
制服姿の天然魔性の少女―森島 はるかは満面の笑みで御木本の車に走り寄ってきた。そんな彼女の破壊力抜群の弾ける笑顔に内心小躍りしそうな心を抑え、御木本はすかした態度を崩さないまま窓に手をかけつつ―
「ふっ・・いや。構わない、ぜ。・・・ごにょごにょ」
ようやくそう言った。
あんまりに森島が可愛いのでうまく言葉がでない。・・ちょっとお口が色んな意味で寂しい状況だ。スカしてタバコでも咥えて居たいところだが意外にもそこのところ結構この御木本 久遠という少年は真面目である。酒も煙草もいきって飲んだり、吸ったりしない。
言い換えるなら案外小心者である。
そんな彼が必死で心を平静に保とうと葛藤する中―
状況は進みだす。
「たなまちちゃ~~ん!さくらいちゃ~~ん!あやつじさ~~~~ん!橘く~~~~ん!!みっきー来た~~♪っていうか車が来たよ~~?さ~早く乗って~~~!」
「・・・へ?」
必死でスカしていた顔をまだまだ18歳の少年という年相応な表情に変え、御木本は素っ頓狂な声を上げた。
そんな彼の呆気に取られた顔を余所に森島が声を張り上げた方向から数人の男女生徒が現れ、ぞろぞろと御木本のボロ車を取り囲む。そして色とりどり、各々何とも勝手な言い分を開始し始める。
「・・うっわ。思ったよりちっちゃくない?これ」
遠慮なし、気遣いなしに現れたオンボロ軽自動車を前に何ともエグいものを見る目でくせ毛の少女が言い放つ。その彼女に同調し、自分のお腹周りをさすりながら太ましい栗毛の少女がやや切なそうにこう言った。
「うん・・これじゃ私たち乗らない方がいいかも・・スピードも落ちるだろうし・・私、幅取るし」
「ん~~取り敢えず絢辻さんと・・『エサ』の森島先輩には乗ってもらった方がいいよね」
「あ~ん。『エサ』だなんて酷いわ。え~~っと・・・誰ちゃんだっけ?」
「・・僕も乗っていくよ。森島先輩が心配だ」
「・・・(⋈◍>◡<◍)。✧♡橘君たらぁ・・」
「はい決定。頼んだ(よ~)!!」
トントン拍子に話が進んでいく。「エサ」にまんまと喰いついた御木本を置いて。
高3で車の免許を取るということ―大概の人間はまず最初にこう覚悟した方がいい。
当分都合のいい「足」として使われかねないということを。
「みっきー!!ささっと車出しちゃって!!ごーごー♪」
「な、なんなんだよ森島!!これ一体!?・・・っていうか誰!?こいつら!?」
「え~~っとぉ・・。・・いっけない・・もうみんなの名前が出てこないわ」
「森島ぁ!?」
「先輩僕が話します。えーーっと『みっきー先輩』でしたよね?道すがら話します!取り敢えず今は車出してください!みっきーさん!!」
いつの間にかボロ軽自動車の助手席に滑り込んだ男子生徒―橘 純一が御木本にそう言った。律義にシートベルトを締めながら。しかし何故かベルトの長さが足りずに「あ、あれ?閉まんない!?」と言いながら少年はわちゃわちゃしだす。
「あ・・わり。そのシートベルトな、ここ引っ張ってやんねぇとここまで届かねぇのよ。不便かけるな・・・」
意外にも属性―「親切」を併せ持つ御木本 久遠という少年。
「あ。すいません」
「あ~いや。・・あ~~~!!いやいやいや違う!!!!ナニコレ!?どういうこと!?てぇかお前誰だよ!?お前森島の何なの!?」
「ぼ、僕ですか?僕はも、森島先輩の・・、なんてゆうか、その・・ふふっ・・」
その少年、比較的顔立ちは端正だがその質問に対してちょっと気持ち悪い含み笑いをし―次に堂々とこう言った。
「ぼ、僕は森島先輩のペットです!!」
含み笑いも気持ち悪ければ言動も中々に気持ち悪い。それを「そうそう♪」と言いたげにうんうん頷く森島もこれまた気持ち悪い。
「・・・」
御木本は絶句した。森島が遠く感じた。そして思う。「コイツは、いや『コイツ等』は俺の手に負えねぇ」と。
「こ、細かいことはいいんです!早く車出してください!!頼むぜみっきー!」
「いけいけみっきー♪」
「・・・・」
呆気に取られる御木本 久遠。そんな彼に―
「えっと・・御木本 久遠先輩、ですよね?」
一際落ち着き、礼儀を弁えた話の通じそうな少女の声が後部座席から発せられる。暴走族―森島 はるか、普段はある程度普通だが状況によっては「ド変態・成虫」に華麗に変態する橘 純一を制して少女―絢辻 詞が御木本の顔を申し訳なさそうに上目で覗き込む。
「本当にすみません。いきなりこんな風に押しかけて。でも・・どうか今は何も言わず車を出していただけませんか?お願いします・・!」
深々と頭を下げる絢辻の姿に言葉を失った御木本は何も出来ることがなくなった。彼が出来ることは最早言われるがまま車を出すことだけだ。
「わ。わぁったよ・・。どこ行きゃいいの?」
絢辻には聞かず、助手席の橘に御木本は尋ね、行き先を確認。行き先―吉備東病院へのルートを頭の中で漠然とシミュレート。カーナビなど洒落たもんは残念ながらこの車にはない。十数秒のローディング時間ののち、御木本は確信めいた表情で三人を見―
「出すぞ。飛ばすからな!!」
と意気込んだ。が―
ぷすん。
「・・・」
二、三回キーを回して再び点火したエンジン音に恥ずかしさを押し隠す様に今度は無言で車を御木本は発車させる。
―・・・。
ビー〇ム、ボ〇ボ、ジャ〇ー、ワー〇ン、メル〇デス・・走馬灯のように将来いつかは持ちたい車をお経のように心でぶつぶつ唱える。今はただ只管無心になりたかった。
―しっかし・・誰だよ?この子・・。
「・・・?」
ルームミラーでちらちら彼女―絢辻 詞を見る御木本に鑑越しに不安そうにしながらも笑いかける絢辻の姿に御木本は目を逸らす。事情を聴くつもりだったがそれどころではなかった。
―何だよ・・この訳あり顔のこの子・・・すげぇかわいいじゃねぇか。
良い「プレイボーイ」の条件とはある意味「切り替えの早さをもつこと」なのかもしれない。
しかし、先日のクリスマス・イブの昼頃―彼に質の悪い謎のイタズラ電話をかましてきた相手がこの少女であるとは御木本は夢にも思わまいて。
御木本は車を走らせる。いつもより速い速度で。
歩き出せ クローバー 3
森島、橘のカップルが車内にて御木本と交渉(?)中のこと―
「・・ありがとう。棚町さん。桜井さん」
「うん。気を付けて。みなもっちによろしくね」
「・・頑張って」
絢辻は車の後部座席に座ったまま、ここまで自分を導いてくれた同学年の少女二人の手を軽く交互に握って、申し訳なさそうに微笑んだ。
「・・。早く行って。ほら!」
棚町は名残惜しそうな絢辻を握った絢辻の手ごと後部座席に押し込むようにしてくれた。
「閉めるよ~♪挟まないようにね」
パタンとドアを閉め、桜井は車の窓越しににひひと絢辻に向かって笑ってくれた。相も変わらず背中を押してくれるような温かい、優しい笑顔だ。
―ありがとう。・・ありがとう!
車は走り出す。車窓は流れていく。絢辻は離れていく、手を振る二人の姿を必死に目で追った。
そして―
沢山の思いがけない「協力者達」の残る吉備東高校もまた目で追った。
話は一時間前にさかのぼる。