ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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12月26日―

吉備東記念病院―エントランス付近公衆電話コーナーにて

「・・・」

ピーっと甲高い音を鳴らしながらテレホンカードを吐き出す公衆電話の受話器を握ったままいつもの様にポーカーフェイスを貫く少年―国枝 直衛は残った左手で考え込むように口をつぐんだ。

「あぁ、うん!分かった。・・て~か大将?・・おめぇちゃんとウチの自転車返せよ?いきなり朝早くウチに来たと思ったら『自転車貸せ』って何だそりゃ!?れっきとした商売道具なんだワ。あれ。・・あ!?なっにぃ!?『チェーン外れた』だとぉ!?」

隣の公衆電話で恐らく杉内 広大あたりに連絡中の梅原に対し、横目で「先に戻る」と告げ、国枝は一旦有人の病室に戻ることとする。

「・・・」

一見普段と全く変わりないように見える表情で歩いている国枝だが、恐らく彼の幼馴染の有人、そして棚町 薫。そして電話中でなければ恐らく梅原あたりも今の彼にこう声をかけたであろう。「何考えこんでんの?」と。


「・・何か心配ごと?国枝君」


「・・・!」

訂正が入る。どうやらこの小さな少年もまたそれに新たに「仲間入り」していたらしい。いつの間にか国枝が辿り着いていた有人の病室の前の簡易座席にて―

「す~~っ。すぅ・・・むにゃ」

すやすやと眠る隣の小動物のような少女に肩を預けていた小さな少年―御崎 太一が戻ってきた国枝に声をかける。

「・・そんな風に見えたか?」

「ん~~なんとなく、だけどね?」

そんな国枝の反応に自分の質問があながち的外れではなかったことに嬉しそうに笑い、御崎は国枝を向かい入れる。その彼の隣で

「う、ん・・っ・・・?太一せんぱ・・い?・・?・・・・!?は!す、すみません私寝ちゃってました!!」

こしこしと大きな瞳をこすりながら御崎の隣でさっきまで眠っていた中多が覚醒。なんともばつが悪そうにアタフタしながらまず、未だ二人の前で立っている国枝にペコペコ頭を下げたのち、頭を預けていた隣の御崎の肩にも「あ~~私ヨダレでも先輩の肩にかけてないでしょうか~~?」とでも言いたげにごしごし律義に拭き始める。そんな小動物的動作をする隣の少女―中多 紗江を苦笑いしつつ、頭を撫でる御崎の微笑ましい光景を見ても尚、国枝の表情は晴れなかった。しかし―

「・・・ん」

その二人のやり取りを前に決心したかのように頷き、二人に国枝はこう切り出した。

「・・御崎」

「うん?」

「それと、・・中多さん?」

「は、はい?な、なんでしょーか?国枝先輩・・・」

「・・。二人に頼みたいことがある」












ルートT 三十一章 歩き出せ クローバー 5

 

 

 

 

私はいずれ道路交通法違反―特に飲酒運転、無謀運転、煽り運転、スピード違反、積載超過、違反駐車等の細分化、厳罰化を主とする法改正案の意見書を近日国会に提出する手筈となっている。

 

特に「市」という集合体に於いて重要性の高い場所、例えば常に物流、運搬の要となる高速道路、国道付近、そして市民の安全と暮らしを守るためのこの警察署はもちろん、消防署、病院、災害および緊急時避難場所等、重要な避難経路、緊急車両の通過する可能性の高い施設周辺道路の環境整備、法整備は最重要項目の一つであることに疑いの余地はない。

 

よって諸君ら市民を守る警察組織には上部、下部組織関係なく更なるこの件に該当する施設、周辺区域のパトロールの強化、徹底をお願いしたい所存だ。

 

いずれ私、そして未熟な私に支援の手を差し伸べてくれる方々との始動の下、日本全国で施行される新道路交通法の整備に向け、この私が治める事になるこの吉備東市こそがまず日本全国の先駆け・・「ロールモデル」、「モデルケース」として見本を示していきたいと私は考えている。

 

特にこの師走という季節は忘年会、クリスマス、そして年を明けても新年会、などと、飲酒運転、無謀運転が最も発生しやすい季節であり、一方で運送、運輸会社は繁忙期で多忙を極める、さらに学生の長期休暇も相成って一年で最も危険な時期と言っても過言ではない。

 

よって貴兄らには改めてより一層の努力、ご協力、ご尽力をお願いしたい所存であります。

 

・・ここからは私のひどく個人的な話で恐縮ですが、不肖の私にも幸せなことに年頃の娘が二人おります。

 

その娘にごく近い年代の少年、または少女が幼さ、若さゆえに起こしてしまった数々の悲惨な交通事故によって死亡、もしくは命が助かったとしても心身共に重い障害、傷を負ってしまう痛ましい事件が頻発してしまう時期でもあります。

 

そんな事故を一つでも少なく・・いえ、この吉備東、そしてこの日本から根絶するためにも皆様のお力をこの私に御貸し頂けますようお願いいたします。

 

 

 

―・・。まぁ何とも聞いている方がむず痒くなる様なご立派なお題目なこって。

 

ウチの署長は卑屈なぐらいに諸手をあげて賛同、「感服、感動いたしました」とあの「お偉いさん」に尻尾振ってすり寄っていったがな。・・割を食うのはいつも現場の俺らだが。

 

・・つまる所、今年の年末年始の俺らの「ノルマ」の激増が決定、ってこと。

 

あのぶくぶく太ったウチの署長にとってはここら辺一帯取り仕切る連中に揉み手しながらすり寄れるし、これをきっかけに「道路交通法の法改正」とやらが進めば地方議員と国会議員の両方に恩を売れる。さらに違反運転の摘発が増えれば罰金の徴収額も単純に増える。

・・さぞウハウハだろうさ。方や下っ端の俺らはこの寒空の中ヒィヒィ言いながらノルマに追われて違反車のケツを追っかけまわすってワケだ。

 

 

・・・んで、と。

 

 

今日12月27日―

 

俺は今、先ほど「善意の市民サマ」のご通報に従って、恐らくこの国道を通過するであろう「目的の車両」を待っている。

 

 

『運転している人間は制服を着ていたから恐らく高校生ぐらい』

 

『かなり形式の古い軽自動車。ミニバンタイプ。・・のわりに結構なスピードを出しているうえに、見たところ座席は満席』

 

『当然初心者マークが付いていた。運転技術に関しては甚だ疑問である』

 

『どうか事が起こる前に彼らを保護、諸注意を促してあげてほしい』

 

 

・・ふん。何とも懇切丁寧な通報もあったもんだ。おまけに車種、ナンバーまでご確認済みたぁご苦労なこって。・・・案外同業者かなんかじゃねぇのか?この通報者。

 

 

 

・・若しくは先日のお有り難いご高説のあの「お偉いさん」ご本人だったりしてな?つうか何気にあの時のあの「お偉いさん」の話と今回の件のシンクロ具合やばくね?

 

言葉借りるとこれ、絵に描いたような「モデルケース」じゃねぇ?

 

 

 

まるで「仕組んだ」みたいな、よ?

 

 

 

 

 

ん・・。来た・・まさに「噂をすれば」ってやつか。・・行くか。

 

 

 

 

 

 

『・・そこのミニバン。ゆっくりと速度を落としてそこの道路わきに停車しなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ん・・?なんだ。通報内容の印象とちげぇな。

 

思いの外すぐに速度を落とし、素直に制止に従おうとする前の軽自動車に追跡者―白バイ隊員の男は拍子抜けする。かなり速度を緩めた車にそっと背後から白バイを右運転座席の横につけ、走りながら窓を開けるように促すと―

 

「・・は、はい?あの~~俺らっすか・・?」

 

ガタガタとぎこちない音を立てて空いたウィンドウからは見た目は少々派手だがその服装、怯えた表情は間違いなく幼い。まだ子供。十代だ。

 

―・・・ただのガキじゃねぇか。それもこの制服・・キビトか?おいおい・・マジで本当にまだ高校生だったのかよ。

 

「・・法定速度28キロオーバー。スピード出しすぎだよ。・・あの先の側道に止めて。・・焦らずゆ~~っくりね。んでその後免許証見るから用意しといて。・・免許。持ってるよね?」

 

心底うざったそうに白バイ隊員は後部座席に乗る二人の少女も並走しながら一瞥した。

 

―・・ん?

 

運転席には学生服を着崩したいかにも遊んでいそうな少年。ここまではまだ自然と言えた。

しかし、一方で助手席には打って変わって良くも悪くも普通そうな男子学生が乗っていた。こちらは制服もちゃんと普通に着ている。

 

そして後部座席の二人の少女は・・正直、これは中々の綺麗どころだった。

 

「・・・?」

 

表情に少し幼さ、あどけなさは残るものの、すでに「女性」としては十二分な魅力の肢体を持つ少女が後部座席に一人。

 

そして―

 

「・・・(ぺこり)」

 

一転。運転席の少年とは一見一切の接点、関わり合いが無さそうに思えるほど真面目そうで同時弁えて居そうな雰囲気の美しい黒髪の少女が一人、その雰囲気に違わない流麗な動作で白バイ隊員に頭を下げる。

 

 

「????」

 

―・・?なんだ?こいつ等。最近の「遊んでる奴等」ってのはこんなのなのか?

 

 

そこから白バイ隊員の諸注意の中、御木本 久遠の法定速度オーバーの違反切符、必要書類作成、確認、さらに同乗者である他3人もまた学生証の提示、身元確認とちょっとした取り調べに約2~30分を要する。

白バイ隊員は表情こそうんざりしながらもある程度節度を以て3人に接してくれた。橘が途中、「吉備東病院に友人のお見舞いに行く道中だった」と、事情を説明すると

 

「・・・『病院に見舞い』?わざわざその制服で?冬季休暇中だろ?君ら」

 

「・・あ」

 

「う~~ん。・・ま、いいけど。見舞い、ね。そういうこと。・・うん。ならいいや、一旦病院に電話しといで。でもちゃんと戻ってきなよ?っつ~か女おいて逃げんな?少年」

 

そして形式的な必要事項、必要手続きを済ませ、やたらと13時過ぎて混みだした周辺道路の惨状を白バイ隊員は流し見―

 

 

「・・。着いてきな。病院までの混まない裏道紹介してやる。ただし!・・法定速度は守れ、な?」

 

 

白バイ隊員は安全、かつ周辺道路の混雑状況からすれば結構に早い所要時間で4人を無事病院に送り届けてくれた。

それでも停車から約三十分以上の手続きの拘束時間に加え、更に約二十分・・・あまりにもそのタイムロスは大きかった。

 

 

 

 

「じゃ。気を付けて。入院中の友達には『お大事に』、な」

 

そう言って白バイ隊員が去ったあと、混み合う病院の駐車場内で他の車のクラクションに刺激されながら御木本 久遠と助手席の橘が「初心者ドライバーにも優しい楽に駐車できそうな停車場所」を探して必死に葛藤するさ中―

 

 

「・・・っ!・・・」

 

 

絢辻が息の詰まるような声を上げたのち、車外のとある「場所」をじっと見つめていた。それを絢辻の隣に座る少女―森島 はるかもまた怪訝そうに彼女のその視線の先をみやる。

 

―あやつじさん・・一体何を・・見ているのかしら~?・・車?・・案外車とかに興味あるのかしら~~?

 

森島にはその「車」が何を意味するかは分らなかった。しかし、当然絢辻には分かる。

彼女にとっては「見慣れすぎている、見慣れすぎた光景」が病院の駐車場―それも特定の来賓、いわばVIPの為に空けている駐車スペースに鎮座していたからだ。

 

致命的な足止めによる到着時間の遅れ―その結果が意味するものが・・その光景だ。

それはあまりにも絢辻にとって予想できた、覚悟していた―純然たる現実であった。

 

 

 

 

絢辻の視線の先で佇むは傷一つ、曇り一つない一台の黒塗りの高級車、その車内で―

 

 

―・・。

 

 

待ちくたびれたようにハンドルに両手をかけながら「あの男」は絢辻をただじぃっと見ていた。まるで目の前で他の子たちと遊ぶ我が子の戯れが終わるのを待ち焦がれている親の様に。

 

 

 

 

あの男―絢辻 孝美はそもそも解っていたのだ。

 

 

「答え」が。

 

 

なら、過程は関係ない。現実は所詮「数学、数式」とは違う。そもそもの「答え」が解っていれば時に過程などは必要ないのだ。

 

美しい努力の証、答えに至るために必死に象った筋道―数式は必要ない。

 

色々と手を講じてはくれたものの、所詮は彼の娘、そして有人達の目的とはもともと至極シンプルなのである。それはただ「この場所に来て絢辻、有人の二人が再会する」―ただそれだけの事だ。考えれば誰にも分かることだ。

 

そもそも「目的」が解っているのなら。「答え」が解っているのなら。

そこまでの過程は男にとって「お遊び」のようなもの。答えまでの過程―途中の数式に火を噴く怪獣やら、やたら目のでかいお姫様のようなちゃちな落書きが施されていようが一向に構わないのだ。

 

ならば大人として子供の「お遊戯」に付き合ってやるのも悪くない。相手をしてやらないのも大人気ないことだ。

 

それに一体あの学校で自分の娘に他にどんな「愉快な」知り合いたちが居たのか、・・そして自分に曲がりなりにも楯突こうという連中がどんな子たちなのか調べておく、知っておくのもまた一興―そう考えていた。

 

 

「有人と絢辻を会わせないようにする、直前で止める事」など造作もない。所詮この「車内」にある―

 

 

ピピピピピ・・・

 

 

「・・・ん。私だ」

 

黒塗りの車内、何とも事務的で味気の無い電子音が鳴る。この時代にはまだ珍しい携帯電話の代わり―車内電話の呼び鈴であった。

 

 

 

数十分前―吉備東高校にて

 

 

「む・・失礼ですが多野先生?案内の前に仕事のことに関して先方に少し定時連絡をしたいと思いまして・・一度私は車に戻ります」

 

 

所詮この時のこの電話一本で事は足りた。警察署へのたった一つの電話を終えさえすれば、多野の下に戻って吉備東高内の案内を再開、つつがなく終わるぐらいに時間は悠々稼げる。

 

後は足止めさせた「彼ら」に追いつくため、最近車内に彼の分刻みのスケジュール管理、統制の一助にするため増設した最新衛星式のカーナビゲーションシステムによって周辺道路の渋滞、混雑状況を把握し、その合間を縫って悠々と「答え」―詰まるところ有人が居り、娘が向かっている病院に先に回り込み、待ち構えることが可能だ。

 

 

 

そして現在―

 

そんな先端を行く最新技術の数々を前に何とも無感動な動作、口調を携えつつ紳士は車内電話の受話器を整えられた指先で握り、にこやかに恐らく部下であろう人物と通話をしていた。

 

 

「ん、ん。ああ、その件か。・・問題ないよ。その方向で話を進めておいてくれ。

 

 

・・ありがとう。それでこそ君を次席管理官に据えている意味がある。

 

 

ん・・。・・私かい?ははは。おかげ様で今は久しぶりの休暇を満喫しているよ」

 

 

物腰柔らかく笑い、そう言った。そしてこう続ける。

 

 

 

「・・今日はちょっとした『寸劇』を見ていてね?なかなか面白い出し物だったよ。たまには悪くないものだね。こういうのも。だが・・」

 

 

 

 

 

―些か・・「飽き」は早かったかな?

 

 

 

 

 

紳士はそう言い残して徐に電話を切ったのち、車外に出て真っすぐと娘―絢辻 詞達の乗る車に向かって長い足を優雅に滑らせ、ゆっくり、堂々と歩いてくる。

 

 

 

 

 

―・・帰ろう。詞。・・遊びは終わりだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き出せ クローバー 5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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