ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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間章 2

間章 2  ルート「K」 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉備東高校

 

 

昼休みの2-Aにて―

 

 

「く、国枝君!国枝君!たたたた大変だぁ!!」

 

「・・んぁ?」

 

「た、橘君が・・」

 

「・・『橘が』・・?」

 

 

 

「ま、マイクさんとこの前の日曜デートしたんだって・・」

 

 

「・・詳しく聞かせてくれ」

 

 

小さな少年―御崎 太一が戦慄の表情で語った衝撃の事実。強固な国枝 直衛の眠気すら一気に吹き飛ばす橘のデートの相手―「マイク」という男とは―

 

本名マイケル・ギャラガー。

 

数か月前、棚町、田中、そして絢辻ら女性陣も交えた2-Aの一行がビリヤード大会を行ったバーで彼らを最初にもてなしてくれた一見気のいい、しかしどこか胡散臭い日本語を話すアメリカ人の留学生である。そして同時「男」専門と言われ、その界隈では有名な男でもある。

あの日、国枝、源、梅原、杉内、そして御崎の男性陣五人のケツを確実に狙っていた危険人物だ。

 

「そんなヤバめの人物とデート」と言う最早不穏しか感じない御崎からの突然の話題に国枝の眠気が一気に吹き飛んだ。食い入るように未だ息を切らし、呼吸を整えるのも忘れている御崎に踏みよる。

 

事の顛末はこうだ。

 

先日―

 

件のバーにて橘―つまり国枝達2-Aのクラスメイトの少年である橘 純一が彼の「彼女」兼「飼い主」、そして吉備東高校のアイドル、マドンナ的存在でもある美少女、三年生―森島 はるかとダーツを楽しんでいた時の事だ。

 

 

現在―

 

「・・ちっ、羨ましいな。橘の奴・・」

 

「だね・・国枝君。・・って、話の腰折らないでちゃんと聞いてね?」

 

再び先日―

 

「ハ~~イ。とってもウマいですね~~?ヨカッタら~~ご一緒しませんか~~?」

 

 

彼女らは突然気さくに話しかけてきた例の男―「マイク」ことマイケル・ギャラガーと意気投合し、一緒にダーツを楽しむこととなった。

まだダーツ初心者であった橘を共にダーツ経験者同士であった森島、マイクの三人を交えて一通り楽しんだのち、マイクが森島に耳打ちでこっそり「とあること」を提案してきた。・・何も知らない橘を一人置いて。

 

「・・ハルカサん?良かったら私とダーツで勝負、しませんカ?」

 

「わお。いいわね!・・マイクさんすっごく上手だから実は私もお手合わせ願いたかった所なの♪」

 

森島は快諾した。どうやら彼女自身、手ごわいダーツの対戦相手に飢えていたらしい。

 

「グ~~~ドゥッ♪・・う~~んデモ・・ハルカさん?ただ普通に勝負って言うのも面白くないと思いませんカ~~?」

 

「ん~~っ?どういう事かしら~?」

 

綺麗な人差し指を整った輪郭に沿えて森島は首を傾げる。そんな彼女の普通の男なら軽く悩殺する仕草に何ら反応せず、マイクは怪しく笑ってこう言った。

 

「な~~に、シンプルですヨ。・・お互いに景品、もしくは罰ゲームをかけて勝負するンです。勝った時の嬉しさ、負けた時の悔しさ・・これぞまさしくギャンブルのDAIGO味ですヨ♪ウィッシュ♪」

 

・・未来を生きる男―マイケル・ギャラガー。

 

 

再び現在―

 

「・・読めた」

 

「・・うん」

 

三度先日―

 

賭けの内容はマイク敗北の際、「マイクが丸坊主」。そして森島が負けた際の罰ゲームは―

 

・・「橘が一日マイクとデート」に決定。

 

そして森島は壮絶な打ち合いの末・・敗北。橘は気の毒な事に森島の敗北後にその罰ゲームを聞かされるというこの上ない不条理の中、放心状態で対照的にノリノリ、ウキウキのハイテンション・マイクと次の日曜の待ち合わせの約束をした。

 

 

現在―

 

「最近は『景品』の本人の了承無しに本人を賭けの対象にするのが流行ってんすかね~~?御崎クン?」

 

「・・耳が痛いです。国枝君」

 

「・・しっかし恐ろしくベッドが吊り合ってねぇ。森島先輩はほぼノーリスクじゃん」

 

「いや、下手すりゃ彼氏が・・その、・・『別世界に行く』と、考えると」

 

「・・。ま。それもそうか。・・で、当の本人は?今どこで何してんの」

 

正直国枝は今の彼を見るのが怖い。既に「事後」という可能性もあるゆえに。

 

 

しかし―

 

 

 

「ああ。国枝!御崎!おはよ!!いい朝だね」

 

「お・・おはよ」

 

「・・おはよう。橘君」

 

基本、橘 純一という少年は普段爽やか、顔立ちも人懐っこく端正だ。押隠された少々、中々、いや相当の変態さに目をつぶれば(目を潰さないといけないレベルだが)好青年と言える。しかしその爽やかさ、普通さが今、彼を目の前にしている国枝、御崎両名にとって例えようもなく不気味であった。「男同士でデート」という人間離れした離れ業をやってのけたにもかかわらず、特に普段と変わらないように見える彼になんと言葉をかけていいか解らない。

 

「・・?・・!あ。ひょっとして・・」

 

そんなクラスメイトの複雑な心境を察したのかやや細い眉を苦そうに歪め、橘は

 

「・・はは。マイクさんとのこと?梅原から聞いた?」

 

「あ、いや・・うん。すまん」

 

あっさりと自分から話に踏み込んできた橘に国枝は申し訳なさそうに頷き、目を逸らす。

 

「御崎も?ひょっとして僕の事心配してくれた?」

 

「あ・・うん」

 

「あはは。ありがと。でも残念だけど何にもなかったよ?マイクさん気さくですっごいいい人だったし。お話も面白いし」

 

「・・そうなのか?」

 

訝し気ながらも思いの外、大丈夫そうな橘の雰囲気に国枝もややほっとした口調で目を丸める。

 

「うん。僕も最初は当然戦々恐々でさ。だって男とデートだなんて初めてだし!?ははっ!っていうか初デートだってこの前森島先輩としたばっかりだしね?」

 

明るく自虐的に笑う少年にぎこちなく二人は相槌をうつ。

 

「まぁ・・中学のクリスマスの時・・『未遂』はあったけどさ。は、はは・・」

 

「「・・・」」

 

かと思えば一転過去のトラウマ級の思い出を語り、橘は暗い影を背負う。・・重いぞこの男。

 

「・・でもそんな僕をマイクさんが終始リラックスさせて笑わせてくれて・・緊張もすぐにほぐれていったよ。で、車でいろんなところ連れて行ってくれたんだ。『今度カノジョのハルカさんと一緒に行ってみてくだサイ。喜んでくれること間違いないデス』とか言っておススメの穴場のデートスポットとかお洒落なショップ、あと僕のファッションの指南とかもしてくれたなぁ」

 

思い出を反芻するように橘は腕を組み、視線を上げる。正直楽しそうだ。実際楽しかったのだろう。ユーモアを交えつつ、人生の先輩としていろんな場所に連れて行って勉強させてくれたのだから。

 

「へ、へぇ・・」

 

―あ、案外ちゃんとデートしてんな・・。

 

 

「で・・デートの終わり、マイクさんが家まで送ってくれた時に僕・・正直にマイクさんに言ったんだ。『僕は森島先輩が大好きなんです』って」

 

彼なりに一日とっても良くしてくれたマイクに対する「礼儀とけじめ」を兼ね、橘はちゃんとこう言い切ったのである。言外に「貴方の気持ちは嬉しいが~」というニュアンスを込めて。そんな正直な少年にマイクは笑い―

 

「マイクさん・・こう言ってくれたんだ。『安心してくだサイ。私は無理強いは絶対にしまセン。マシて素敵な恋人の居るガイにはネ。・・彼女のハルカさんをおダイジにね♪タチバナくん』って」

 

 

去り際にマイクは運転席の窓からパチッと、程よく軽いウィンクをして橘にこう言った。

 

 

「レンアイに無理強いはイケマセン。好きな子にはちゃんと真摯に向き合い、尽すことデ~~ス。そして・・ちゃんと好きになった以上、ちゃんとこっちも好きにさせて見せマ~~ス♪じゃ!シーユー♪タチバナくん♪グッナ~~イ♪HAHA(→)HA(↑)HA(↓)!!」

 

 

颯爽とフェミニンな癖のある茶髪を靡かせ、車に乗った陽気な青年は去っていった。

 

 

「いやぁ・・かっこいいし・・ホント良い人だったなぁマイクさん・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・なんかさ」

 

「ん」

 

「『いい感じ』の話でまとまっているように見えるけど・・」

 

「・・ああ」

 

「これって絶対橘君・・オチかけてるよね!!??」

 

 

恍惚の表情で先日のデートの思い出を反芻し、旅立っている橘を前に国枝、御崎の両名は結論・・いや、「ケツ論」をだす。これは・・明らかに策略だ。

生来少々特殊な性癖を自分が持っていることを自覚している人間である以上、経験が豊富なのだろう。どうやったら受け入れられ、どうやったら拒絶されるのか―その配分率、段階、潮時をよく心得ている。少々特殊な性癖を持とうとも魅力的な人間は当然居る。そういう人は性別の関係、問題なくモテるものだ。

普通の人間では持たない、持てない経験、また価値観を持っている人間はそれだけで時に十二分に人を惹きつける魔性を持つ場合が確かに在る。

 

そして最後に橘に言い残した「好きにさせて見せる」という彼の言葉―これ即ち「諦めてませんよ」と言ってるも同然なのだ。

 

「あぁ~~マイクさ~~~ん・・♡」

 

現在自分のケツに火が付いていることに橘は気が付いていない。まぁ本人同士が良ければそれはそれでいい話、本人たちの自由なのだが・・いざ「そうなった」場合、果たして残された森島はどうなる。半分自業自得だとしても彼女はどうなる?

 

―・・案外森島先輩はグレるかもしれない。

 

国枝、御崎はそういう彼女に対する共通認識を持っていた。案外彼女はメンタルが非常に弱い印象がある。そんな彼女があろうことか「男」相手に生まれて初めて惚れた男―橘 純一を盗られたとしたら・・果たしてどうなるか?

最悪人間不信に陥り、誰も信じられなくなって将来次々にその美貌と体を使ってライバル企業の買収を行うおっかないエリート女上司にでもなるかもしれない。

・・ここはマイクには悪いが二人は森島側につくことにする。

 

「・・橘」

 

国枝はしパしパした目を輝かせ、手を胸の前で組み新しい恋に落ちる直前の気持ち悪い少年の両肩をしっかりと持つ。

 

「ん?」

 

「しっかりしろ。・・目を開け。・・さぁ思い出すんだ・・お前の彼女は誰だ?ん?」

 

「え・・それは当然も、森島先輩だよ」

 

「そ~~だ。あのスタイル抜群、美人で性格も良くて可愛いかわいい森島先輩だ。あ~~羨ましいな~~ほんっと羨ましいな~」

 

うんうん頷きながら国枝は橘に暗示をかけるように囁きつつこう続ける。

 

「なのにお前ときたら他の女・・いや男にうつつを抜かして彼女のことを忘れてる!嘆かわしい!!あ~ほんっと嘆かわしいなぁ~~」

 

「・・・」

 

御崎は黙ってその光景を見守っていた。かつてないぐらい国枝が詐欺師か何かに見える。

 

「そ、そうだよな。僕一体何考えていたんだろう。あ、あぁ・・目が、目が覚めたよ・・」

 

「そ~か。お前が正気に戻ってくれて俺も嬉しいよ橘・・」

 

「あ、でも待って国枝・・」

 

「ん・・?」

 

「な、なんか僕・・国枝の事が・・何だろうこの気持ち・・国枝がこんなに心配してくれてぼ、ぼく・・」

 

 

「・・・。あ。UFO」

 

「え?」

 

橘が窓の向こうに視線を向けた瞬間、国枝の瞳が輝く。

 

―・・隙あり。

 

 

 

ドゴッ!

 

メキャっ!

 

ゴキャっ!

 

 

・・どさり

 

 

一分後―

 

「・・・はぁ、はぁ・・こ、これですべての記憶を無くしてくれているといいが・・マイクさんへの想いも・・芽生えかけた俺への想いも」

 

サブイボのたった肌をすりすりと両手で擦り合わせながら国枝は意識の飛んだクラスメイト橘 純一を脆く見下ろす。

 

「・・む、無茶するね~」

 

―・・「あの」彼女あってこの彼氏だなぁ。根っこの所ホントよく似てるよ。国枝君と棚町さんって。

 

「・・御崎。わりぃけどそっち持ってくれ。取り敢えずこの馬鹿を席に運ぼう」

 

まるで死体を処理するみたいにずるずると二人は橘の体を引きずり、橘の席に彼を突っ伏した姿勢で座らせる。

 

「あとは・・梅原に頼んで梅原秘蔵の森島先輩の盗撮写真をこの席に散らばらせとこう・・。こうなったら睡眠学習だ。刷り込みだ。よけいな記憶は鮮烈な記憶で上書きするに限る・・も~~関わりたくねぇ」

 

「僕、なんか国枝君の事見損ないそう・・」

 

「御崎・・解ってくれ。薫に余計な心配かけさせたくないんだよ」

 

「あ・・ああ。そういうこと・・」

 

―なんだ。結構カワイイ心配してるんだ。

 

 

「・・。もし俺が『そっちの道に目覚めてしまったかも』ってあの薫が思うことにでもなってみろ・・今度今の橘の姿になるのは俺だ・・。『安心して!直衛。私が目を覚ましたげる!!安心して逝きなさい!!』・・とか言って」

 

「・・」

 

―前言撤回。案外自分の事しか考えてねぇよ。この人・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




数日後―


「国枝君!国枝君!たたた大変だぁ!!」

いつもの様に自席で眠る国枝に御崎は突っ込んでいった。が―


「は!?あぁ!!ダメだ太一君!!今の直に話しかけちゃあ―」







「・・うっせ~~~ぞ御崎ぃ!!?帰って紗江ちゃんのおっぱいでも吸って寝な~~~!!!」






ドっゴオォオオオオン!!




数分後―

一階保健室にて―

「だ、大丈夫ですか。太一先輩・・」

少女―中多 紗江に介抱され、御崎は寝起きの国枝に殴られてこんもり腫れあがった右頬を彼女に氷で冷やされていた。向かいには源 有人が苦笑いしつつ、幼馴染の親友の凶行を止められなかった自分の失態が引き起こした現在の御崎の状態にやや申し訳なさそうにその様子を見守っていた。

「・・ゴメン。・・『今の直に話しかけるのはNG』って伝えるの忘れてた・・」

「ううん・・くっそ~僕もうっかりしてた。学年末考査に模試も控えてたんだっけ・・」




「その・・先輩方?」

「ん?」

「何。紗江ちゃん?」




「その・・今回の『国枝先輩の寝起きの暴言』って・・どんな暴言だったんですか・・?」




純粋無垢な瞳で首を傾げ、見つめてくる少女に二人は返す言葉が無かった。



















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