ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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間章 3

 

 

 

ルート「K」 2

 

 

 

 

吉備東高校

 

いつもの2-Aにて

 

 

 

「な・お・え~~~♡」

 

 

肩までのくるくる癖っ毛を揺らした少女が何ともご機嫌そうな声をあげ、「愛しの彼」の名前を呼びながら駈けていく。周りの人間が「・・てめぇら余所でやれ」と思わず突っ込みたくなる程の猫なで声だ。周りに居る生徒達はうんざりとした表情で声の主の姿に注目する。

 

しかし―

 

―あ。これ「違う」。

 

瞬時に彼らは悟る。その少女の表情、精神状態があまりにもその猫なで声に似つかわしくない事を。彼女の端正な顔に「#」←がいくつも、無数に走っていたからだ。

 

「コレは・・殺る気だな」と全員が悟る。

 

彼女―棚町 薫は駆けていく。一直線に。いつものように自席に突っ伏して眠っている少年―国枝 直衛の下へ。

 

 

「直衛~~♡」

 

 

「・・んあ?」

 

 

 

 

「新しいカオよ~~~~♡受け取って~~♡」

 

 

「・・え?」

 

 

 

 

 

 

ドッゴオォオオオオン!

 

 

 

 

 

 

数分後―

 

 

「・・。確かに『新しいカオ』だね・・」

 

 

国枝の親友である少年―源 有人は目の前に座る親友―国枝の変わり果てた「カオ」を眺めていた。その隣にはこれまた困りはてたように梅原が頬杖突きながら―

 

「・・何したのよ」

 

と呟き、変わり果てた少年―国枝のパンパンに腫れ上がった「新しいカオ」を見ていた。

 

「助走をつけて男子学生を殴る女子学生」を見る事など恐らく普通の人生を歩んだ場合、大抵の人間は一生お目にかかれないままおっちぬ光景のはずだろう。しかし源、そして梅原の二人はこのレアすぎる光景をこの三年で数度は見ている。

 

「・・また寝言で暴言でも吐いたんだろ?国枝の事だから」

 

「・・」

 

国枝は口を開かずうなだれている。というか今は下手に話すと彼の口内に激痛が走るのだ。

 

「・・ん?いやおかしいな?棚町さんは直の寝起きの習性よく知ってるはず。だからそれで今更ここまで怒ったりはしないと思うんだけどね・・他に何か原因で喧嘩でもしたんじゃないの?」

 

「・・(ふるふる)・・っ!びぃいいいん」

 

国枝は返事の代わりに首を振る。しかしそれで激痛が走ったのか何とも切ないカオ芸をして再び項垂れる。

 

「・・メンドくせー。会話にならねぇな、こりゃ」

 

「・・わかった。せめて筆談にしよう。うん」

 

源はペンとノートの切れ端を国枝に渡す。

 

「・・(こくん)・・っ!びぃいいいん( ;´Λ`)」

 

「だから・・無理しなくていいって。直」

 

「・・はは。アホだな~オイ」

 

 

 

 

 

「喧嘩したわけじゃねぇし、いつもの寝起きの暴言で怒ったわけでもねぇ。なのに国枝のこの重傷具合・・一体何があったんでぇ?棚町の奴に。ホントに心当たりねぇの?」

 

怒るとその怒りの度数に合わせた結構シャレにならない暴力を振るう、元々「吉備東の核弾頭」と言われるほどの危険人物―棚町 薫だが流石にここまでシャレなし容赦なしの一撃をくわえたとなると相当怒っている証拠である。

 

―本人に聞いても無視されてる。ようやく口開いてくれたと思ったら「自分の胸に聞けば!?」って感じで・・取り付くシマもない。

 

国枝はさらさらと、しかし切なそうな文面でそう書いた。

 

「うわ。今回は結構本気で怒ってるねコレ」

 

「・・原因が解んねぇんじゃちゃんと謝ることも出来ねぇしな~~。棚町の性格からして『・・アンタさ。何に対して謝ってんの?自分が何したか解ってないくせに取り敢えず謝るって最低の考えよね』・・とか言われんのが目に見えてら」

 

「逆効果になるね。へたすりゃもう一発直はなんか喰らうことになりそう」

 

―・・首から上が無くなる。

 

 

 

―実は・・薫が怒ってる、怒らせた理由は大体わかってる。

 

「なんだ解ってんのかい!?はよ言えや!?まぁ話してみろや。なんか俺たちで協力できるかもしんねっし」

 

―でも俺はその内容を詳しく知らない。だから謝りようがない。

 

「はぁ?意味わかんね」

 

「・・。『内容を詳しく知らない』。つまり覚えてないってことか。今回の事の発端もまた結局『直の寝言』なんだね?直は絶対自分の言った寝言覚えてないから」

 

―・・アタリ。有人。

 

「・・時々お前らの相互理解の高さに気持ち悪さを覚えるぜ俺はよぅ・・」

 

結構本当に気持ち悪そうに梅原は眉を歪め、二人から心なし距離を離す。

 

「で。棚町さんは直の寝言には基本怒らない。でも今回は何故か怒ってる。それもものっっっすんごく、ね。つまり今回の直の暴言の棚町さん『以外』の被害者から話を聞く他ないわけだ。で、それは誰?直」

 

 

 

―・・田中さん。

 

 

 

 

放課後―

 

「え?田中さんに話を聞きに行ってくれって?俺が?」

 

少年―杉内 広大は素っ頓狂な声を上げて目を丸めた。

 

「・・(こくん)」

 

やや腫れが引いて回復した国枝は漸く頷くぐらいのことは出来るようになっていた。

棚町 薫の完全無視は恐らく当分の間続く。だから今回の国枝の寝起きの暴言の被害者であるらしい田中 恵子から話を聞く他ない。しかし、暴言を吐いた当人がみずから彼女の下に直接赴くのも気が引けた。なぜなら棚町と一緒で田中もまた妙に国枝に余所余所しいのだ。おまけに国枝は現在会話も困難な状態である。これ以上被害者の田中に気を遣わせるのも忍びない。だからせめて話せるようになった際、きちんと謝れるように情報収集を頼みたいとのことで今、国枝は杉内にこう頼み込んでいるのである。

 

―頼む。お前しかいないんだよ。

 

「お、『俺しかいない』?」

 

国枝の筆談の文字を眺め、すこし嬉しそうに杉内は目を泳がせる。しかし、国枝の「お前しかいない」という言葉の裏はこうだ。

 

源―やや体調不良気味の絢辻 詞の付き添い。

 

梅原―実家の手伝い。

 

御崎 太一―・・逃亡。

 

茅ヶ崎 智也―そもそも田中と接点無し。

 

国枝の寝言の暴言は時に想像を絶する。そのため、桜井 梨穂子や伊藤 香苗など気のいい女子たちに任せるのも気が引ける。結果―国枝の杉内に対する「お前しかいない」という言葉はイコール「お前しか残ってない」というワケである。つまり完全なる消去法。リスペクト値は底辺レベルだ。

 

「おっけ。俺が聞きに行ってやるよ。任せとけ」

 

そんなこともつゆ知らず杉内は笑って国枝の頼みを快諾してくれた。

 

―サンキュ。

 

「そしてすまねぇ」と国枝が内心良心の呵責に苦しむ中―

 

「・・国枝。俺さ?ちょっと今月ピンチなんだよね・・だから千円!千円だけ融通してくんねぇかな?何。ちゃんと返すって。思いだした時に。だから・・」

 

「・・・」

 

国枝の肩をつかんで胡散臭く人差し指を点てながら笑う杉内に国枝は閉口する。つい先ほどまで良心の呵責に苦しんでいた自分がアホらしくなった。「そうかお前はこういうやつだったな」と、ある意味清々しい杉内の「らしさ」に感動さえ覚える。そして徐に杉内の頼みにこう返事を書いた。

 

―いいよ。

 

「マジ?助かるよ!」

 

―だけど条件がある。

 

「ん?心配すんなって。ちゃんと返すって」

 

杉内に解らない程度に「絶対信用しねぇ」と言いたげな表情を現在腫れ上がって変形し、歪んだ顔に精いっぱい浮かべ、国枝は手元の用紙にこう付けくわえた。

 

―いや違う。千円だけでいいのか?

 

「え・・?」

 

―千円じゃなく倍の二千円出してやるよ。そして返さなくていい。

 

「ま、マジか!?ありがとう国枝~~♪」

 

―但し条件がある。賭けしねぇ?

 

「賭け?」

 

―俺とジャンケンで一発勝負して勝ったら二千円やるよ。勿論返さなくていい。でもお前が負けたらタダで田中さんに話を聞きに行ってくれ。どうだ?

 

 

 

 

当然杉内は。

 

 

タダ働きになった。

 

 

 

 

 

翌朝―

 

 

 

「・・直。俺が言うのもなんだケド・・ホント君って性格悪いね」

 

「・・バカと『ハサミ』は使いようだ」

 

 

そんな彼らの下へいつもよりやや早い登校時間に現れた「ジャンケンの時、最初は何故か絶対チョキしか出せない少年」―杉内が歩み寄ってきた。

 

「あ。国枝・・ゲン。おはよ・・」

 

「広大。おはよ!」

 

「おはよ。・・どうだった?聞いてきてくれたか?田中さんに・・」

 

「あ~うん、その、一応・・ね」

 

「・・サンキュ杉内。恩に着るぜ」

 

 

両手を顔の前でパンと合わせ、「ありがたや」と拝むように国枝は礼を言う。流石に二千円は出せないが「今度何か奢ってやる―」と国枝が言いかけた時、次の杉内の言葉がそれを遮った。

 

「いや、それが悪いんだけど・・田中さんお前の暴言に関しては答えてくんなくってさ・・結局聞けずじまい。ワリ」

 

杉内は申し訳なさそうに頭を掻きながらそう言った。

 

「え。マジ、かよ・・」

 

「でも田中さんから国枝に伝言頼まれたからそれだけは伝えとくな?」

 

「あ、ああ。聞かせて?」

 

「結論から言うと・・田中さん『全然怒ってない』ってさ。多分・・嘘じゃないと思うぜ。むしろ国枝が謝ろうとしてくれてること話したら嬉しそうだった。よかったな国枝」

 

「そ、そうか?なら、良いんだけど・・さ」

 

「うん・・。田中さん自身がそんなに怒ってないんだったらいずれ棚町さんも機嫌直してくれるでしょ。まぁほとぼり冷めたら両方にちゃんと謝りに行こうね?直」

 

「あ~。うん。そうするわ・・」

 

少しほっとした表情で国枝は源の言葉に賛同し、肩の力が抜けたように教室の天井を仰いだ。しかし源と国枝が緊張から解き放たれたのに対し、向かい合った杉内は未だどことなく落ち着かない所作をしたまま、彼らを見下ろしつつ話を続ける。

 

どうやらまだ話すことがあるらしい。

 

「で、・・実はもう一つ田中さんからこう伝言を頼まれたんだけど・・」

 

「・・もう一つ?」

 

「・・?」

 

「その前にさ・・一つ聞いていい?国枝?」

 

 

「ん?」

 

「お前さ・・ほんっとに田中さんに何て言ったのか覚えてないの?」

 

「・・うん。お前も知ってるだろ?基本俺は毎回自分の暴言はおぼえて無いんだよ・・何せ寝てんだからさ」

 

「それは解ってるんだけどさ・・う~~~ん」

 

「広大・・田中さん・・一体なんて言ってたの?」

 

「そ、それが、さ・・」

 

 

 

前日―

 

『杉内君・・その、あははっ。恥ずかしいな・・うわ、私カオ熱い・・。ふ~~っふ~~っ。・・よしっ!言うね・・。杉内君。国枝君にこう・・伝えてくれる?その・・私は・・私は「何時でもいいよ」!!って。「国枝君にそんな風にしてもらえるなら私頑張っちゃうから」!!・・って・・伝えてくれる?あっはっ!!言っちゃった!言っちゃった!!きゃ~~~っ!!』

 

 

 

 

 

「・・だってさ」

 

「・・」

 

「・・」

 

「国枝!?お前本当に田中さんに何て言ったの!?田中さん・・ハッキリ言って完全に『メスの顔』になってたぞ!!?俺あんな田中さん初めて見たわ!!」

 

「・・・」

 

国枝は無言のまま頭を抱える。そして恐る恐る友人たちにこう尋ねた。

 

「お。お、お、お、おおお。有人・・杉内・・教えてくれ。俺は・・俺は一体何て田中さんに言ったんだ・・?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

かける言葉が見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








放課後―

2-A教室にて




「・・なぁ有人」

「ん?何?直」

「お前ってやっぱ嫌な奴だよな」

「うん。解ってる」

「・・この前の『件』でお前を攻めるやつは確かに一人もいないだろう。当の絢辻さんだって絶対お前を攻めないだろうしな」

「うん。彼女は・・優しいから、ね」

「安心しろよ。俺だけはずっとお前を攻め続けてやる。嫌いでいてやるからな」

「ははっ・・ありがと。直。・・安心して?俺も『このままじゃいけないんだ』って思うようになったから」

「口だけでは何とでも言えるわな」

「・・確かに。だから見ててくれる?直が。・・少し走って見せるから。俺も」



―・・俺は時々昔からこんな風に目の前で眠っている直衛と話をする。

直衛は普段は無口でポーカーフェイス。面と向かって俺を非難したり、貶したりすることは滅多にない。でも内心俺に抱え、溜まっている不満や愚痴をこんな風に眠っている時にだけハッキリ、正直に俺に言ってくれる時がある。

昔は聞き流すだけだった。俺は俺で俺の生き方を否定する直衛の言葉をまともに受け取ることは難しかったから。生き方を変えることが出来なかったから。

・・怖かったから。

でも最近はちょっと違う。さっきも直にこう答えたように「このままじゃいけない」って思うようになった。


・・「誰か」と本気で向き合うためにはまず「自分」と向き合わなくちゃいけない。





日本の古来からの言い伝えによると「寝言には話しかけてはいけない」と言う。
寝ている人は「魂が抜けている状態」で、それに誰かが話しかけてしまうとその人は自分が生きている状態―つまり「体から魂が抜け落ちている状態であるのに自分が生きているもの」と錯覚してしまい、体に戻れなくなることが理由と言われている。



でも源は最近こう思う。

普段は弁え、滅多に源に感情を露わにしない国枝が彼に対して内心抱える本当の想いを告げてくれているのだ、と。そしてそれは同時源自身が内心、自分自身が押隠した、抱えたものを彼が変わって伝え、教えてくれているのだと何時しか思うようになった。

元々魂が抜けたようにふわふわと彷徨い歩いていた、生きているふりをしていた自分の魂を無理やり国枝が体に押し込んでくれているような感覚を覚えた。


少年二人の傍から見れば何とも奇妙な会話は最近になって彼らの「中」で少し形を変えていた。


























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