ぐれほわSHARK・T   作:GREATWHITE

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間章 終章

 

短編1 新学年開始 

 

 

 

県立吉備東高校

 

 

四月―

 

 

 

 

 

「うわは~~?智也ぁ~~~♡」

 

太ましい体とふわっふわな栗毛を揺らし、一人の少女が満面の笑みで一人の体格のいい少年に走り寄る。しかし、勢いのまま少年に飛びつこうと思いつつも彼女の太ましい体は慣れない運動と興奮状態に足を引っ張られ徐々に減速、愛しの彼に突撃直前にてガス欠を起こし―

 

「あ・・ダメだ・・ぜい、ぜい・・」

 

体格のいい少年―茅ヶ崎 智也の三歩手前でひらひらへなへな力尽き、「ゴール手前」で両膝に両手を突く。

 

「・・・」

 

その光景を前に呆れつつもどこか残念そうに茅ヶ崎は苦笑した。そんな彼に俯いたまま「ゴメンもう少し待って、呼吸調えるから」と言いたげに少女は掌だけ茅ヶ崎に向ける。

 

 

「・・だいたい何年ぶりだっけ?」

 

ある程度少女の呼吸が落ち着いたと判断し、茅ヶ崎は少女にむかってそう切り出す。すると俯いていた少女―桜井 梨穂子はすっくと顔を上げ―

 

「ぜ~~ぜい・・へっへへっ♪な、なんと~~じ、実に小学校以来デスよ~~!!ろろろ六年ぶりの快挙ですっ!!」

 

未だに肩で息をしつつ呂律も回らないながらもにへらっと満面の笑みを浮かべて桜井はその「六年ぶりの快挙」を噛みしめる。そして丸っこい柔らかそうな両掌を掲げ、右掌片方は一杯に広げて「五」を、左掌は人差し指だけ一杯に延ばして右掌とドッキングし「6」を茅ヶ崎の顔の前まで掲げて強調する。本来は結構不吉な数字として扱われることが多い「6」という数字だが今の幸せそうな彼女にかかれば微塵もそんな気配が感じられない数字になる。

 

そんな彼女の言う「六年ぶりの快挙」とは―

 

「智也」

 

「ん?」

 

「一年間短い間ですが・・クラスメイトとしてよろしくお願いします。えへへ~~♪」

 

「・・ん」

 

ぺこりと初々しく頭を下げる桜井に茅ヶ崎もまた頷き、小さい声で少し恥ずかしそうに「・・こちらこそよろしく」と付け加えた。

 

 

茅ヶ崎 智也、桜井 梨穂子。高校三年生にてようやく念願の同クラス―「3-B」になれた。

 

 

「・・取り敢えず新しいクラスに移る前に・・友達に挨拶して来いよ梨穂子は。伊藤さんとはまた一緒になれたとはいえ・・お前は他にも友達多いかんな」

 

「ん!そのつもりだよ~~。・・でも智也~?」

 

「ん?」

 

「智也だって前のクラスでお世話になったクラスメイトたくさんいるでしょ?成瀬君とか実行委員のコ、担任の多野先生だってそう!きちんと智也もサボらず挨拶してくるっ!」

 

ピッと桜井は珍しく人差し指と一緒に背筋も伸ばして、やや説教モード・・いや「オカンの小言」風の態度に切り替える。残念ながら彼女の場合少々迫力に欠け、微笑ましいぐらいに可愛らし過ぎるのが気の毒だが彼女なりに真剣なのだ。

 

「・・え。俺は別に・・」

 

「・・・む~」

 

今度はぷく~~っとフグみたいに口を膨らませて無言の圧力を茅ヶ崎にかける。これには茅ケ崎も困り果てる他ない。

何よりも彼女が言っていることは至極真っ当なのだ。それも大いに茅ケ崎自身にも良く解って居る。だからこそ―

 

「・・わかった。行きます。行くから」

 

根負けする他なかった。ぷくぷくの彼女の頬を人差し指で突いて取り敢えず宥める。「ぶしっ」とちょっと間抜けな音をたてて桜井の輪郭は人間に戻り、「に~~っ♪」と、にんまり満足そうに笑う。

 

「んふふふ~~♪よきにはからえっ。じゃ♪また後で!」

 

六年越し、念願の同じクラスになれた事を目一杯喜ぶ事もそこそこに、桜井は最後に茅ヶ崎に両手を掲げるように挙げてふるふると振ったのち踵を返し、駆け出した。

 

まずは昨年一杯お世話になった人達に彼女はお礼を兼ねて挨拶をしにいく。折角去年、何かの縁で一緒に過ごした人達との繋がりを簡単に断ってしまうなんて彼女には出来ないことなのだ。例え長年望んだ悲願が達成された嬉しい現実を前にしても彼女は盲目にならない。現状の優先順位を無意識ながらもよく解って居る少女である。誰にも好かれるあのキャラクターの源泉はこの細やかさ、メリハリ、謂わば彼女独自の揺るがない「芯」にあるのだろう。

 

―・・ホントに大した女の子だよお前は。

 

彼女の背を見送りつつ茅ヶ崎はそう思う。そして今回の三年生のクラス分けに張り出された用紙に再び目を通す。そこにはしっかりと「桜井梨穂子」「茅ヶ崎 智也」の文字。彼女が言うに実に六年ぶりらしい。それを彼自身も改めて噛みしめてみる。

 

「・・・」

 

ひょっとしたら内心自分の方が遥かに彼女よりもはしゃいで居るのではないか?と思いながら。

 

 

・・だからこそ。

 

 

彼はどうしても目についてしまう「3-D」の自分たち二人の名前「以外」がどうにも気になった。一転彼はしかめっ面になって唸る。

 

「・・・むむぅ」

 

 

3-Dのクラス名簿一部抜粋 以下↓あいうえお順

 

梅原 正吉

 

杉内 広大

 

御崎 太一

 

 

「・・・嫌がらせ?」

 

―正直邪魔だなぁ。・・早く死なないかなぁコイツラ。後寿命どれくらいかな?

 

あまりにきよきよ・・いや清々しい桜井 梨穂子の去り際の余韻を台無しにする錚々たるメンツを前に彼自身閉口する他ない。これを全員、桜井含めて「面倒を見ろ」という事なのだろうか。とってつけられたように桜井の親友兼保護者である伊藤 香苗が居てくれるのは幸いな所だが。

 

「はぁ、はぁ~~・・」

 

一息と言わず二息ついて気を取りなおし茅ヶ崎は歩き出す。そして間もなくつと「とある場所にて」足を止め、無言のままじっと「それ」を眺めていた。

 

―・・・。

 

 

 

 

 

 

 

短編 2 アイの成せる事

 

 

 

「智也~~?」

 

「ん?」

 

 

「~~らら~~るるるる~~♪わっわわわわ~~~~らら~~るりりるるる~~わっわわわわ~~♪って・・何て言う曲だっけ?」

 

「・・ああ。『ラクダイマムス』のヴォーカルの『シェリー』の『スピーナ』な。あれシングルカットだから『ラクダイマムス』で検索しても出ないぞ。『シェリー』で調べろ」

 

「あ~~そうそう♪ありがと~~」

 

 

 

「智也~~?」

 

「あ?」

 

 

「ベン♪ベベン、ベン♪ちゃ~~ラララ♪ぱらりんチャッチャラチャラら~~~ラ♪」

 

 

「・・演歌歌手『与謝野 刹那』の『命からくれない?』か?・・渋い。そしてこれまた歌詞が重いのを選ぶのな。梨穂子・・」

 

「あ~!!そ~そ~それだよ~~♪へへっありがと。『よ』、『よ』、『よ』~~っと」

 

「・・しかし命『から』って・・『それ以上さらに何をやればいいってのよ』って曲名だよな」

 

「ん~~そだね~。『保険金』とか『遺産』とかかな~?」

 

「・・。思った以上にお前の解答が的確で怖いよ」

 

 

 

「智也~~?」

 

「はいはい」

 

 

「ぽわぽわぽわ~~ほわんほわんほわんほわん♪」

 

 

「・・へ~『テクノ』とはまた梨穂子らしくない変わったチョイス・・。『元気団』の『トランスジェンダー』な」

 

「それ~~!!ありがと~~♪」

 

「でもあの曲って・・そもそも歌詞あったっけ?ほとんどイントロだったような気が・・」

 

「あるよ。『トラんすじぇんだぁ~~~あああ~あああ~あ~~♪』って、感じの」

 

「お前なんでそこ覚えてて曲のタイトル忘れんだよ」

 

 

新学年、新クラス開始の初日は授業はなく、所定の手続き、自己紹介等を終えたのち程なく下校時間となる。まだまだ日は高いので新三学年メンツ一行は一同棚町 薫主催でカラオケに出かける運びとなった。その中でのそんな茅ヶ崎、桜井の二人のやり取りに他のメンツは閉口していた。

 

「なぁ・・杉っち?御崎よぉ?」

 

「おう・・」

 

「うん・・」

 

梅原は二人のやり取りを見届けた後、隣に座った二人―杉内と御崎に小さくも戦慄を隠せない

声でこう話しかける。その二人も梅原の意図を察したようにやや緊張した面持ちで頷いていた。「みなまで言うな」と言いたげに。

 

「今の桜井さんのイントロクイズ・・おめぇら一つとして解るのあったか・・?」

 

「・・ねぇよ」

 

「無理無理・・あれこそ愛の成せる事だよ」

 

何ともニーズの低い「愛の成せる事」もあったものである。

 

 

一方―

 

「む~~」

 

二人のやり取りを見ていたくるくるパーマのくせっ毛少女―今回のカラオケ大会主催の棚町は腕を組んで唸っていた。基本的にカラオケ中はマイクを決して離さない割り込み上等、好戦的な彼女だが今は何故か両手を空けた状態である。もうこの時点で異常、不穏だ。

 

―・・・。良くない状態だ。

 

彼女の隣に座った長身の少年―国枝は「なんか厄介そうなのが来そう」と予見して出来るだけ無言で気配を消していたが・・

 

「む~~。・・・。直衛!?」

 

「・・!」

 

―ほら来た。

 

正面から真顔で見据えてきた棚町の接近に「びっくぅ!」と躍り上がりながら国枝は大きくのけぞる。そんな彼から全く視線を逸らすことなく棚町は小刻みに顎を振りながら―

 

「・・・。ふんふんふんふんふんふん~~ん♪」

 

「・・張り合うな。音痴の俺に解るわけがない」

 

「ええ~~っ!??つっかえな~~~い」

 

 

国枝 直衛 音楽成績 「4」。まぁ決して悪くはない。

 

しかし実技、主に歌唱テストでは音楽教師からの「お情けの努力賞」以外は取れず、筆記で巻き返すしかないタイプである。彼曰く―

 

「主要科目より遥かに『5』をとるのが難しい。・・正直絶望レベル」

 

・・らしい。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・くすくす」

 

そんな三者三様のやり取りを見届けながら長い絹のような黒髪をまとった少女―

 

絢辻 詞はご機嫌そうに頬を緩めていた。

 

新三年生の一行―実に合計が九人という大所帯での今回のカラオケだ。ほとんど歌う順番など回ってこないうえにメンツの中にカラオケ大好き主催者―棚町 薫が居るので更に時間は圧迫される。

 

それでも絢辻は楽しそうであった。

 

 

 

「・・源君?」

 

「ん?」

 

 

 

「らららら・・ららら・・ラララ・・♪ラン、ラン、ラン、ランララ・・」

 

 

 

「・・。ん~聞いた事はあるけど曲名は知らないかな」

 

「・・そう」

 

ほんの少し残念そうに絢辻の笑顔が曇る。切りそろえられた綺麗な前髪に少し恥ずかしそうに瞳が隠れた。

 

「でも・・」

 

「・・?」

 

 

 

 

 

 

「『屋上で絢辻さんが口ずさんでいた曲』・・ってことは解る」

 

 

 

 

 

「・・・。ん」

 

 

 

源の言葉にほんの一瞬恥ずかしそうにはにかみながら絢辻は微笑み、嬉しそうに頷いた。

そんな彼女に源も頷いて微笑み返す。

 

 

 

 

―・・今はただ。

 

 

 

俺(I)が成せる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

短編3 新学年開始・裏 

 

 

 

「絢辻君と2-Aの源を同じクラスに・・?」

 

「はい・・クラス分けって担任教員が全員集まって話し合いで決めるんですよね?だから多野先生・・何とかお願いできませんか?」

 

「あのな茅ヶ崎・・。解って居るとは思うがクラス分けに関してそういう生徒の個人的感情は入れられないぞ。『二人は付き合っている、だから一緒のクラスにしてやれ』など尚更だ」

 

「・・俺だってあの二人がただ付き合っているってだけならこんなこと頼みませんよ」

 

「・・・」

 

「話聞いてると絢辻さん・・俺の思っている以上に今大変な状態みたいなんですよね。支えてあげられる人間がそれこそ誰でもいいんならそれはそれでいいんスが・・」

 

「・・・それが源だと?」

 

「はい。まぁ俺も所詮部外者なんでうまく言えないですけど。余計なお世話かもしんないですしね。でも・・その、無理は百も承知で先生・・お願い、します」

 

「・・。まぁ話は聞いた。でも期待はするな。所詮私の一存で決められることではない」

 

「・・」

 

―その言葉聞けただけでも十分です。

 

茅ヶ崎にとって最早多野は家族を除けば最も信頼できる大人である。

 

「・・なんだ」

 

「いえ」

 

「おっと・・表情に出てたかな」と茅ヶ崎は思わず薄く笑ってしまった自分を諌めた。

 

 

 

 

その数か月後―

 

 

四月 新学年クラス分け公開日

 

 

―・・。有難うございます。先生。

 

張り出された「それ」を茅ヶ崎は眺めつつ、内心そう呟いた。彼が眺めていた「それ」―掲示された「3-A」のクラス名簿を見て。

 

「3-A」クラス名簿より一部抜粋 以下↓あいうえお順 男→女の順

 

 

源 有人

 

絢辻 詞

 

 

茅ヶ崎はそれを見届けてクラス名簿に背を向け歩き出す。確固たる足取りで。

 

礼を言わなければ。

 

桜井、多野だけじゃない。自分をこんな見たこともない、予想だにしない余計なお節介焼きに変えてくれたたくさんの誰かに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間章 終章 「カンショウ」を経て

 

 

 

 

ある日の放課後

 

食堂野外テラスにて―

 

 

「・・薫」

 

「ん~~?なあによ。直衛」

 

 

「お前『ウノ』って言ってない」

 

 

「・・・。い、言ったわよ」

 

「いつ?」

 

「さ、さっき!そ、その、ごにょごにょ・・(心の中で)・・」

 

「・・・」

 

そんな彼女の手元に無言のまま少年―国枝は「ウノ」の宣言をしなかったマヌケ少女の手札にテラスのテーブルの中心に置かれた山札からペナルティの二枚を追加させる。

 

「うあぁ~~ん・・」

 

悩ましい唸り声をあげて少女―棚町は自分の手札に新たに追加された二枚の札を忌々しそうに見つめて大きな口を心底苦そうにむにゃむにゃ歪める。

勝利を目前にしながら何とも初歩的なミスにより、勝負の混沌の最中に引き戻される瞬間の人間の顔は例外なく滑稽で面白い。

 

「ちぇっ、ふ~~んだ。・・彼氏サマならね~~?そこんトコフツー理解するべきところよねぇ~~?彼女が心で思ってること常に読み取って、理解して、推し量るべきよね~~?」

 

口をツンツン尖らせながら無茶苦茶な理論をぶつぶつ独りごちる少女―棚町。

 

そんな彼女にどうやら勝利の女神も呆れ、見放したらしい。

 

三分後―

 

手元に更にドロ2で二枚追加された状態のまま彼女は敗北。相も変わらず勝負所での詰めの悪さ、甘さを露呈する。

 

基本的に国枝の属するグループはこういう勝負事の際、何事も罰ゲームというものを用意している結構俗っぽい連中の集まりである。「いい勝負が出来ればOK」とか、「勝った側も負けた側も最後は遺恨なく」とか、「すっきり爽やかなスポーツマンシップ」とかとは意外にも縁が無い連中だ。

 

 

「さて・・薫。今日の罰ゲームだが・・」

 

「・・うぅ屈辱だわ。何すればいいのよ・・」

 

「・・良し、じゃあ今日一日お前メイドな」

 

「・・はぁ?」

 

本当に、マジで「頭おかしくなったんか」と言いたげに顔を歪めて棚町は国枝を見下ろすが、「予想の範囲内だ」と涼し気に国枝はその視線を受け流し、財布から徐に小銭を取り出していかにもな「横柄な主人」を演じつつこう続ける。

 

「さて早速だが・・ジュースを買ってこい。今日はちょっと暑いから炭酸飲料がいいな。ほらとっとと。ん・・?どうした返事は?『かしこまりましたご主人様』は?」

 

「・・・」

 

 

数分後―

 

「お待たせ致しました。ご主人様」

 

「む。遅かったな。一体何をやっていたんだ」

 

「申し訳ありません。販売機が混み合っておりまして」

 

全く以て生気の宿らない「主従関係のテンプレセリフ」棒読みの二人。ある意味完璧すぎて監督も「カット」、「NG」出来ないレベルのクオリティーである。

 

「ふぅ全くしょうがないな・・じゃあ・・このジュースはお前にやろう」

 

「・・え?」

 

「さぞかし疲れただろう。混み合う中ジュースを買ってきたのだ。頑張った褒美をやらんとな」

 

「・・・いえ。畏れ多い。滅相もございません。さぁどうぞご主人様。ぐぐっと」

 

「なんだ。遠慮しなくていいぞ?ほら。お前の大好物であろう?炭酸飲料は」

 

「いえそのお気持ちで十分で御座います。さぁお飲みくださいませご主人様」

 

「・・そうか?ならば仕方ない・・では」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

「・・絢辻さん?」

 

「?」

 

「少しこの二人から離れよう。危ない」

 

「・・え?」

 

 

カードゲーム「UNO」を三位で上がった少年―源は二位で上がった戸惑い気味の少女―絢辻の手を引き、二人から少し距離を離させる。

 

 

 

 

「薫」

 

「はい?」

 

「やっぱお前にやるコレ」

 

スッ・・

 

「・・へ?」

 

 

 

プシっ・・

 

 

 

 

ブッシュウウウウウウウウウウ!!!

 

 

 

 

「・・・・!!!?ぶっ!!!!!??うべっ!ゲッホ!!!エッホォ!!ゴッホ!!な、ななな何すんのよ!!直衛~~~!!!!」

 

缶の口からまるで間欠泉の如く噴出した炭酸飲料の顔面直撃を前に棚町は素に戻ってベトベトギトギトの顔をしかめながらぷんすか猛抗議する。彼女の狙い、企みを看破し、逆手に取った国枝もそのしてやったりの光景を眺めてご満悦・・どころかこれまた思いっきり顔をしかめて国枝もまた抗議する。

 

「・・こっちのセリフだ。・・ってかナニコレ!?お前っ・・はぁ!?ふっざけんな!?お前どれだけ振ったんだよコレ!?もうほとんど残ってねぇじゃん!!」

 

炭酸飲料に含まれる砂糖の成分で最早ニッチャニチャになった缶の側面をバッチそうに指で摘まみながら国枝はフルフルと缶を振ってみる。が、何とも軽量級な頼りないちゃぷちゃぷ音が響く。恐らく残りは三割ほど、・・いや二割か。

 

「信じらんない!!さいってい!!直衛のバカ!!あほ!変態!!もう別れてやる!」

 

「炭酸飲料と一緒に弾け飛ぶ男女の恋愛」。中々面白い破局への流れである。

 

「ヒトの金で買ったモン台無しにしといてソレ・・!!!?」

 

「買ってきてやっただけありがたく思いなさいよ!!つ~~かなぁにが『メイド』よ!!お給金もなしにこんなのやって(⤴)られる(⤴)かぁ~~!!」

 

「だから『罰ゲーム』なんだろが!大体お前普段もっとえげつない罰ゲーム俺らに振ってくるくせに自分が負けた時はそれかい!」

 

 

 

そんな二人の光景を見て―

 

 

 

 

「くすっ・・あはっあはははははははは!!」

 

 

 

 

 

少し離れて二人を見守っていた絢辻はこらえ切れず吹き出し、盛大に、、そして自然に笑った。おかしくて涙が出るくらいに。

 

 

 

「あははは、あ~~~はははは!ご、ごめんなさい。国枝君、た、棚町さん!わ、笑っちゃいけないんだと思うけど・・ぷっ!あ、ははははっ」

 

 

 

ついには腹を抱えて絢辻は尚も笑いこける。そんなあまりに意外な絢辻の反応を前にして―

 

「・・・」

 

「・・・」

 

呆気にとられ、すっかり毒気を抜かれてしまった国枝、棚町の二人は目を丸めて目線を併せる。

 

―・・意外。絢辻さんってこんな笑い方出来るのね。知ってたのアンタは?直衛・・。

 

―いや・・流石にここまでは。

 

 

そんな二人は笑いこける絢辻の傍に立つ少年―源を見る。彼はいつもの様に笑っていた。

それは二人に対する感謝の意を込めた表情である。

 

「・・薫」

 

「ん」

 

「ホレ半分」

 

「・・ありがと」

 

 

「してやられた」と気付いた二人はもう喧嘩する気にもなれなかった。仲良く二割程残った今の二人には相応しい気の抜けた炭酸飲料を分け合い、なんとも甘苦いその味にお互い苦笑いする。

 

 

 

「3-A」クラス名簿 追記―

 

 

国枝 直衛

 

棚町 薫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




―なんで?


何で貴方達は。

何で。

こんなに面白いの?



国枝君も、棚町さんも。

七咲さんも杉内君も茅ヶ崎君も桜井さんも御崎君も中多さんも。

梅原君も橘君も森島先輩も伊藤さんも田中さんも。

皆。

みんな。

面白くて優しくて温かい。

源君だけじゃない。貴方達も傍に居てくれた。支えてくれていた。


それに気づかずに。・・ううん。ちゃんとホントに向かい合わずに私「達」は過ごしてきたんだと今更ながら気づく。




私は。



そして私「達」は改めて。


・・貴方達に逢いたい。



















いくつもの、たくさんの「干渉」「感傷」「観照」を経て。




彼らの新しい季節は始まる。

















間章                                    完




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