Fate/Apocrypha EXTRA  月の聖杯大戦   作:フィロ

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第1章「オワリとハジマリ」

 仮初の日常

繰り返される平穏と怠惰

 条件は一つ

 矛盾に気付き、前へ踏みだす事

 

 

参加者:――――名

 

 

 

 

 

 

「おはよう!!」

 

 底抜けに明るい挨拶に私の意識は浮上する。時刻は七時半。丁度、校門が開いた時間だ。

 

「ほら、秘羽さん。そんな辛気臭い顔してないで、朝の挨拶は?」

 

 目の前にはこの学校の名物教師、タイガーこと藤村大河が笑みを浮かべて立っていた。

 

「あ、おはようございます」

 

「うん、少し元気が無いけど、秘羽さんだから問題ないね!!!」

 

 あんまりな言い方だ。確かに少しだけ声が小さいが、それは寝起きじゃなくて、今の状況を呑み込めないからだ。それにしても、部活の朝連がない今日は珍しい。

 

「先生、早いんですね」

 

「ん~?今日から早起きしてみようかな~って」

 

 また、無駄な事を。とは口に出さず、私は苦笑する。

 

「っと、じゃぁ私はこれで」

 

 そういって、私は走り出す。部活で思い出したのだ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~。やっぱり体力付けないと駄目だな~」

 

 下駄箱で靴を履き替え、二階まで駆け上がり、目的の場所に辿りつく頃には大分息が上がっていた。私は目の前の扉の前で息を整え、短く二回、間髪入れずに三回ノックする。

 

『先週水曜に見た映画は?』

 

 ドアの向こうから聞こえた少年の声に私は記憶を探って。

 

「確か『マスター・オブ・バベル』かな?」

 

 私の答えと共にドアの鍵がカチャリ、と開く。別に意味など無いのだが。凝り性な友人が『秘密基地みたいにしてみよう』等と言ってからはこうやって合い言葉を使わないと入れない様になった。私は素早く、視聴覚室に入り鍵を閉める。

 

「おはようございます、秘羽さん」

 

「うん、おはよう、アル君」

 

 最初に出迎えたのは黒のスーツを着た金髪金眼の少年、一つ下のアル・フレイン君。私の転校生友人第一号であり、映画研究部の立案者。

 

「今日も最下位でしたね」

 

「う~、それは言わないでよ~」

 

 苦笑と共に告げられた言葉に私は項垂れる。

 

「まぁ、今日はタイガーが早めに来てたからな。仕方ないだろ」

 

 そう告げたのは椅子に斜めに座り、机に足を乗せている黒髪黒眼の少女、二瞳蓮ちゃん。幼馴染であり、小中高と一緒のクラスである。

 

「蓮ちゃん、また足上げて行儀悪いよ?」

 

「いいだろ別に。アタシの勝手だ」

 

 と、注意してもこんな感じだ。まぁ、何時もの事だから気にしてはいない。因みにスレンダーな身体付きと姐御肌な性格で密かに女生徒がファンクラブを作っている。

 

「そうですよ、秘羽さん。そこの猪女なんて放っておきなさいな」

 

「んだと、花蓮!!!やんのか、コラァ!!!!」

 

「まぁ、怖い。これだから粗野な人は」

 

 口元に手を当て、上品に毒を吐くのは言峰花蓮。母親似らしく、流れる様な銀髪と月光の様な金の瞳を持った不思議な少女だ。何でも、父親が教会の神父らしいが、会った事は無い。彼女曰く。

 

「あんな変人、会わない方が真耶さんの為でしょう」

 

 だそうだ。あまり、そういう深い所を聞かないので、何とも言えないが。親子仲はそれほど良くはなさそうだ。因みに見た目に反して結構毒舌で。第一印象で騙される一年と本性を知って、更に嵌まる二年生と二種類のファンを持つ稀有な少女だ。

 

「二人とも、静かになさい。全く、もう少し淑女らしく振舞ったらどうなんですの?」

 

 掴みかかる蓮ちゃんにヨヨヨ、と嘘泣きで対応している花蓮さんに声を掛けたのは絹糸の様に繊細な金髪を腰までストレートに下ろしている少女だ。その顔は呆れたような笑みを浮かべている。

 

「ハ、アタシの何処が淑女だよ?」

 

「確かに二瞳さんは淑女、というよりアマゾネスの方が似合ってますわね」

 

 再び噛みつこうとする蓮ちゃんを少女が止める。少女、シルヴィア・バルトメロイは所謂、貴族階級の人で。本物のお嬢様だ。そして私の転校生友人第二号。何故、彼女と知り合ったかと言うと……。

 

「あ……れ……?」

 

 一瞬、脳裏に変な光景が浮かんだ。青い騎士を引き攣れ、青いドレスを纏った彼女。なんだろう、コレ。知らない、だって彼女は『翡翠の狩人』を連れて……。

 

「真耶さん、どうかしました?」

 

 シルヴィアさんの言葉に意識が引き戻される。

 

「え?あぁ、えっと。私、シルヴィアさんとどうして知り合ったかなって?」

 

 私の言葉にシルヴィアさんは少しだけ驚く様に眼を見開き、仕方ないな、と言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

「どうして、も何も先に声を掛けたのは貴女でしょう?」

 

「えぇ、僕と一緒に映画研究部の部員を探していた時に駄目もとで話したじゃないですか」

 

 アル君の言葉に頷く。そうだ、その通りだ。アル君が部を立ち上げると言って、私が手伝って、シルヴィアさんと知り合ったのだ。彼女が少しだけ抜けていたり、映画に関して知識が殆ど無かったのは記憶に新しい。その容姿、性格と相まって学校内でのファンクラブは堂々の一位だったりする(実に在校生との四割が入会しており、中には教師までいるとかいないとか)

 

「あはは、御免。なんだか、今日はちょっと変で」

 

「なんだ?変な物でも食ったか?」

 

「二瞳さんじゃ、あるまいし。まぁ大方、衛宮さんと一緒に雑事のし過ぎで疲れているのでは?」

 

「あぁ、確かに僕もそれはあるんじゃないかと、真耶さん。少し働き過ぎですよ?」

 

「そ、そうかな?」

 

 うぅ、こんなに心配されるのは嬉しいけど。やっぱり、働き過ぎかな?

 

「おい、お前ら。無駄話はそれくらいにして、ミーティングを始めるぞ」

 

 パンパン、と手を叩くのは茶色のくせ毛とそばかすが特徴のユーリ・アイスコル。転校生友人第三号。根っからの映画好きでアル君の提案に即座に乗ったのを覚えている。しかも、映画を見るだけでは飽き足らず、撮りたいと言い始めた。シルヴィアさんとアル君は上機嫌で同意。蓮ちゃんは嫌がっていたものの、満更でも無い花蓮さんの挑発に乗ってやり始め、もう一人はノリノリで脚本担当になり、私は何時の間にかヒロインになっていた。

 因みに苦労人の気があるのか、意外とリーダー役が似合っており、その頼もしさから他の委員会や生徒会からも仕事の手伝いがあるらしい。

 

「先ずはラッセからだ。ほら、脚本担当」

 

「いいだろう、耳掃除してからよく聞け」

 

 そういって、立ち上がったのは黒髪碧眼の少年、ラッセ・ベルフェバン。転校生友人第四号、とこうやって見ると、転校生多い。そして私は本当に耳掃除を始めそうなシルヴィアさんに今の言葉が比喩であると説明する。この人は所々常識が欠けているので大変だ。

 

「いいか?今回のテーマは『愛の逃避行』題材としてはメジャー且つ陳腐。使い古された物だが。だからこそ、光る物もある。ヒロインはそこで呆けている秘羽!!そして主役の恋人役はそこで不貞腐れている二瞳だ」

 

「はぁっ!?なんで、アタシが真耶の恋人役なんだよ!?っていうか、最初の配役は恋人の命を狙う刺客だったろ?」

 

 ラッセ君の言葉に蓮ちゃんが抗議する。まぁ、なんで恋人の命を狙わなくちゃいけないのが最大の謎なんだけど、誰も突っ込まないんだよね。

 

「異議ありですわ。私も二瞳さんの配役に不満を感じます」

 

「ほう、言ってみろ」

 

 腕を組み、尊大な態度で聞く、ラッセ君。彼は何時もこんな態度であり、言いたい事をハッキリ言う為、殆どの生徒に毛嫌いされている。マトモに相手しているのは私達と後は衛宮君や藤村先生位だ。そして最初に話しかけた所為なのか、妙に私の悩みや相談を聞いてくれる。ただ、その後の辛辣な批評が結構辛い所もあるが、実際真実で為になったりする。そしてこの辛辣な性格とは裏腹に童顔、低身長、美系と相まって彼を知らない上級生の女生徒人気が凄かったりする。

どれくらい凄いかというと、仲良くしている(風に見える)私が校舎裏とか体育館裏に名指しで呼ばれる位、人気が高い。ただ、そんな事をした女生徒は後日、シルヴィアさんが捕まえ、蓮ちゃんと花蓮さんによる精神、肉体のダメージと最後にラッセ君によって彼の人物像を『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』される為、非常に申し訳なかったりする。

 

「では、言いますが。二瞳さんが恋人役はあまりに難しいのでは?いえ、性別云々ではなく、役者的に」

 

「確かに!!二瞳の大根ぶりは見るに堪えない!!というか、アレはもう既に別の才能であろう。それに引き換え、言峰やフレイン、バルトメロイの方が大分マシだろう」

 

「誰が大根モガッ!?」

 

 跳びかかろうとする蓮ちゃんを私とアル君が組伏せる。

 

「だが、問題は演技ではない。経験だ」

 

「経験?」

 

 ラッセ君の言葉に花蓮さんが首を傾げる。

 

「この中では二瞳が一番、秘羽の癖や趣味嗜好を熟知している。何処でどんな演技をするか、どんな風に声を張り上げるか。それを一番知っているのは身近で見て来た二瞳だけだ。その上での配役だ」

 

「むぅ……」

 

 ラッセ君の言葉に花蓮さんが押し黙る。蓮ちゃんは頬を赤らめてそっぽを向いている。

 

「という訳で配役と一緒に脚本も大きく変えた。先ず主人公、つまりアル・フレイン!!!」

 

「は、はい!!!」

 

 別に姿勢正しくしなくてもいいんだよ~。

 

「お前は秘羽の許嫁。そこは変わらない。そしてお前は秘羽にメロメロ、つまりゾッコンな役だ。少しだけ狂気を感じさせるくらいが生々しくていいだろう」

 

「え、えっと……」

 

 そこで私を見ないでくれるかな!!逆にこっちが恥ずかしいよ!!

 

「二瞳、お前はしがない商人の家に生まれた長男。偶然、出会った秘羽に一目惚れ。彼女が高貴な女性だと知っても尚、諦めきれぬ恋慕の演技を期待する」

 

「お、応!!!任せろ!!!!」

 

 勇ましく返事をするも、何処か緊張している蓮ちゃん。

 

「次にヒロインである真耶。お前は恋に恋するお嬢様だ。まぁ、詳しい事はこの台本に書いてあるから練習しておけ。それと、衛宮には俺から連絡入れて置くから無理して手伝う必要はないぞ」

 

「え?あ、うん。ありがとう」

 

 そういって、受け取った台本を見てみる。うん、典型的な箱入りお嬢様だ。ただ、後半あたりから恋の障害になる人物を毒殺、暗殺、謀殺するヒロインはどうかと思うけど。

 

「次に言峰。貴様はヒロインの姉であり、妹を溺愛する少女役だ。そして二瞳演ずる主役に嫉妬混じりの憎悪を持っている。大事な妹を掠め取った泥棒、という感じだな」

 

「その程度でいいんですの?」

 

 そういって、笑みを浮かべる。なんか、凄くゾッと来たんだけど。

 

「それくらいの迫力なら十分だ。最後にシルヴィア。お前はヒロインの良き相談役であり、心の支えである長女役だ。何時もの調子でやれば問題ない」

 

「分かりました。何時もの調子ですね」

 

 そういって、涼やかに笑むシルヴィアさん。すると、突然チャイムが鳴る。

 

「え?」

 

 不思議に思って、携帯端末の時刻を見る。時刻は丁度八時。おかしい、チャイムが鳴るのはもう少し後だ。

 

『諸君……選の……は……を以……』

 

 瞬間、ノイズだらけの声が頭に響き、頭が痛み始める。

 

「あ、痛ゥッ!?」

 

「真耶さん!?」

 

 突然、頭を押さえた私にアル君が駆け寄る。なんだろう、凄く大事な事を忘れている気がする。

 

「どうやらこの時間も此処までの様だな」

 

「残念ですわ。中々有意義だったのに」

 

 漸く、というようにため息を吐くラッセ君とやや残念そうに眼を伏せるシルヴィアさんから順に視聴覚室を出て行く。私はアル君に手を引かれながら部屋を出る。

 

「あ……れ……?」

 

 そこは別世界だった。否、視界に入るのは見慣れた校舎だ。だが、何処か現実味が無い。今まで飽きるほど眺めていた廊下もまるで初めて見たような錯覚を覚える。

 

『マスター……速や……リー……へ』

 

「あ、ぐぅっ!?」

 

 頭痛が激しくなる。なんだろう、何を忘れているんだろうか。

 

「あの、やっぱり真耶さんは……」

 

「置いて行ってどうする?そのまま敗退させる気か?」

 

 アル君の言葉をラッセ君の厳しい言葉が抑えこむ。

 

「彼女のサーヴァントは強力です。可哀想ですが、戦力を減らす訳にはいきません」

 

「それに友達だしよ。見捨てられねえだろ?」

 

 花蓮さんの言葉に蓮ちゃんの照れくさそうな声。サーヴァント?戦力?なんだろう、もう少しで届きそうだ。

 

「さて、後は真耶さん次第です」

 

 ふと、歩みが止まっている事に気付いた。視線を上げれば、そこは用具室の扉があった。シルヴィアさんは私の肩に手を置いて、向きあう。

 

「真耶さん。辛いとは思いますが。思い出して下さい。貴女が何故『月の聖杯戦争』に参加したのを」

 

 シルヴィアさんの言葉。月の聖杯戦争。不思議とその言葉が頭痛を和らげる。そう……だ。私は聖杯を手に入れる為に。

 

「真耶さん?」

 

 何時の間にか頭痛は治まり、私はゆっくりと用具室の扉を開ける。

 

「心配掛けて、ごめんね」

 

 そう告げると皆、ホッとしたような笑みを浮かべた。

 

「また遅刻かよ」

 

「まぁ、真耶さんらしいですけど」

 

 蓮ちゃんと花蓮さんの言葉に苦笑する。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

「はい……!!!」

 

 

 

 

 

 

 辿りついたのは幻想的な空間だった。空には幾つもの星が浮かび、七つのステンドグラスが浮かんでいる。

ステンドグラスは其々『剣を掲げる騎士』『弓を構える弓兵』『槍を構える槍兵』『戦車に乗る騎乗兵』『ローブを目深に被った賢者』『髑髏の面を付けた暗殺者』『獣の顔を象った面を被る狂戦士』の七つだ。

 

「セイバー……」

 

 私は騎士を象ったステンドグラスの前で立ち止まり、小さく呟く。同時にズン、と空気が大きく震動した。

 

「全く、忙しないシステムだ」

 

「まぁ、当然だろうな。真耶に付き合って長々と学園生活を満喫していたのは俺達位だろうし」

 

 ラッセ君の呆れた声にユーリ君が答える。

 

「さぁ、時間もありませんし、サーヴァントを呼ぶとしましょう。彼らも待ちくたびれているでしょうし」

 

 アル君の言葉に皆が頷く。そして私は自分の右腕の甲に刺青の様な模様を見付ける。

 

「令呪……か」

 

 サーヴァントを使役する為、三回だけ使用出来る絶対使用権にして、マスターの証。私のソレは竜の頭を象った模様だった。

 眼を伏せて思い出す。私が召喚した剣のサーヴァント。燦然と輝く鎧に身を包み、黄金の大剣を背負った青年。数々の冒険を乗り越えた英雄。

 

「来て……」

 

 ズン、と一際大きな音がすると、私達がいる場所から少し離れた所にソレは現れた。

 巨大な体躯。異様に太い四肢とまるでハンマーで潰されたかのように歪んだ頭部には妖しく光る一つ目。青い巨躯の怪物は私達を見据え、歩く速度を速める。そして一番近い私にその巨大な手を振り被る。私を押し潰さんとする手が落ちる刹那。私は叫ぶ。

 

「来て……セイバー!!!!」

 

 叫びと共にステンドグラスが砕け。その内から一つの影が巨大な手を弾き飛ばす。

 

「遅刻だぞ、マスター」

 

「ごめんね、セイバー」

 

 黄金の大剣を引き抜き、油断なく構えたその後ろ姿から聞こえるのは静かな、けれど強い声。私は笑みを浮かべて答える。すると、背中から見えた彼が小さく笑った様に見えた。

 

「再会を喜んでいる場合ではありませんよ?」

 

 アル君の声と共に私達の横から翡翠の影が奔り抜ける。

 

「先に行くぞ、セイバー」

 

 涼やかな声と共に巨人へ向かうのは紅と黄色、長短二本の槍を持ったサーヴァント、ランサーは振り下ろされた拳に跳び乗り、巨人の肩まで一気に駆け上がる。

 

「セイバー、お願い」

 

「あぁ」

 

 私の言葉にセイバーは短く応え、走り出す。同時に削岩機の様な音と共に巨人の肩に乗ったランサーが両手の槍を巨人の肩に突き立てている。

 巨人がランサーを握りつぶそうと片腕を持ち上げた瞬間、巨人の一つ目に矢が四本突き刺さる。

 

「お見事です、アーチャー」

 

「あんな木偶など、目を瞑っていても当てられる」

 

 シルヴィアさんが隣にいる弓を構えた少女に告げるも。翠緑の少女は無表情に返す。

 

「さぁ!!!巨人よ、その拳で私が砕けるかな?」

 

 巨人の眼前で叫びを上げた男は見事な筋肉(マッスル)だった。必要最低限の急所を守る革製のベルトで全身を縛ったその巨躯は筋肉の鎧だった。右手には小剣(グラディウス)を持ち、顔には聖者の様な微笑みを讃えている。

 巨人は標的を筋肉に変えたのか、その巨大な拳を振り下ろす。爆発に似た衝撃と音はしかし、筋肉を押し潰してはいなかった。信じられないが、巨人の拳を真っ向から受け止めたのだ。

 

「ムゥン!!!」

 

 そんな声と共に筋肉は全身の肉という肉を膨張させ、巨人を抱え上げる。そしてそのままスープレックスで巨人を頭から地面に叩きつける。

 

「ハァッ!!!」

 

 地面に叩きつけられた巨人に追い打ちを掛けたのはサーコートを翻し、右手に持った剣で巨人を切り刻む男性だ。だが、巨人の皮膚は頑強で掠り傷しか付けられない。だが、巨人の注意はこの集団の中で最大の脅威から離れる。

 瞬間、巨人の頭に黄金の大剣が突き立てられ、セイバーはそのまま巨人の股まで走り抜ける。

 

『おめでとう、試験は合格だ』

 

 巨人が消えると同時に、広場に声が響く。

 

『君達、七人のマスターとサーヴァントを迎え、予選は終了としよう。では、これより『聖杯大戦』を始めよう』

 

 その言葉と共に視線の先、青塗りの扉が現れた。

 

『進むがいい、そして己が信念、誇り、命、望みを掛けるに値するならば』

 

 その言葉に背を押されるように、私達は扉を潜る。

 

 

 

 

 

 

 始まりは突然に

 終わりもまた唐突に

 森羅万象を計算で求めることは出来ず

 故に我々は日々を『生』という川を流れて生きている

 それぞれの『死』という滝に流れ着くまで

 選ばれし者達よ。抗うがいい

 迫り来る死から、迫り来る理不尽な運命から

 そうすることで漸く我々は生を実感できる

 

残り:896人

 

 

「では、今から『聖杯大戦』の概要を説明する」

 

 場所は予選として使われた校舎の中、生徒会室。私たちは長い机の両サイドに三人ずつパイプ椅子に座り、その背後にサーヴァントが控えている。そして皆の視線の先、ラッセ君がホワイトボードの前で声を上げている。その背後では筋肉(マッスル)が微笑みを浮かべていた。

 

「先ず『聖杯戦争』について、説明するぞ。先ずこの戦争における聖杯とは『万能の願望器』としての聖杯だ。日本の一都市で繰り広げられた魔術師達の闘争がある事件を経て、世界に広く知られ、それ以降様々な戦争が起きた。今俺たちが参加しているのは月で総括された最新で最後の戦争だ」

 

「これ以上の規模は起きないのかしら?」

 

 質問をしたのは花蓮さんだ。その背後では中性的な身体を黒のローブで隠した人影が壁に同化するように立っていた。

 

「起きないな。今以上の戦争が起きた場合、魔術の秘匿以前に一つの国が消え去るだろう。そうなった場合、唯でさえ減っている人類が存続出来なくなる。それに俺達にはもう、英霊を召喚できるほどの魔術知識は残っていないし、その為の地脈も枯れ果てている」

 

 花蓮さんの言葉に答えたのは対面に座っているユーリ君だ。その背後には初老の男性が表示枠を見つめながら顎鬚を摩っている。

 

「そういう訳だ。更にどういう訳か、今回は一対一のトーナメント戦である『聖杯戦争』ではなく、七対七のチーム戦『聖杯大戦』という事だ。主な違いはチームによる戦いであり、戦術の幅が広がる」

 

「一対一の決闘方式ではなく、乱戦方式ですのね。個々の能力もそうですが、戦略によっては『番狂わせ(ジャイアント・キリング)』も起こり得る、と」

 

 そういって、顎に手を当てて考えるのはユーリ君の隣に座っているシルヴィアさんだ。その背後では興味が無いのか、少女のサーヴァントは窓から見える電子の空をぼんやりと眺めている。

 

「んで、他に変更点はあんのか?」

 

 そういったのはシルヴィアさんの隣で頬杖を突いている蓮ちゃんだ。その背後ではサーコートを纏い、静かに立つ男性。

 

「そう焦るな。今回の戦いはその決戦方式も大分異なる。チームは其々の拠点を落とすか、相手チームを全滅させると勝利となる。拠点の制圧は全員が端末に送られているこのプログラムが鍵となる」

 

 そういってラッセ君が端末から立体映像で出すのは長方形のカードだ。この校舎に着いた時、私たち全員の端末に送られたのだ。

 

「決戦日に参加するマスターはこの生徒会室のホワイトボードにプログラムをインストールしなければ決戦に参戦できない。そして拠点制圧の条件はこのプログラムの全奪取が条件だ」

 

「つまり、勝利を収めるには敵の侵入を阻止しつつ、相手を全滅、又は相手拠点に侵入、プログラムを奪取しなくてはいけないと?」

 

 確認するように質問するのは花蓮さんの隣で行儀良く座っているアル君だ。その背後では泣き黒子が特徴の青年が静かに佇んでいる。

 

「そうだ。問題は戦力の振り分けにある。まぁ、そこらへんは追々、考えていくとしよう。そして次は猶予期間(モラトリアム)についてだ。通常の『聖杯戦争』は猶予に七日を与え、アリーナと呼ばれる仮想空間でエネミーなどと戦い、能力の底上げを行う事が出来る。この『聖杯大戦』も例外でなく、アリーナでの行動に制限はない。だが、相手チームもアリーナにいる可能性を考えて単独行動は厳禁だ。いいな、秘羽」

 

「え?なんで、私?」

 

 いきなり名指しで呼ばれる。何故か、背後にいるセイバーが神妙な顔で頷いていた。

 

「念の為だ。お前はチームの中でも最優のセイバーを有しているからな。アリーナ探索はお前の礼装頼みであるから、チーム編成はお前に任せる。最低でもサーヴァントとマスターを一人ずつ、つまり四人で行動するようにしろ」

 

「それは全員でアリーナに入ってもいいってこと?」

 

 それなら楽で有難いんだけど。すると、ラッセ君はため息を吐き。

 

「決戦までにする事は他にもある。それは相手サーヴァントの真名を調べることだ。そして同時に味方サーヴァントの真名秘匿だ。その為には全員でアリーナへ出向くのはリスクが高い」

 

「そっか、校舎に残って情報収集もしなくちゃいけないしね」

 

 納得して頷く。

 

「そして猶予期間だが七日から十四日に変わった。これだけ長ければ情報収集も容易だと思うが、何しろ相手は七人の英霊とマスターだ。慎重になって動いたほうがいいだろう」

 

 そういって、ラッセ君は壁際に置かれているポッドからお茶を汲んで一口飲む。

 

「さて、次に戦力確認だ。チーム内の戦力を知らなければ話にならん。予め、ユーリのサーヴァント。キャスターにはチーム内のマスター及びサーヴァントのステータスは送っているが、実際に聞いたほうがいいだろう」

 

 そういって、ラッセ君は背後の筋肉を親指で示す。その顔には疲れたような、嫌そうな表情を浮かべて。

 

「無論、言いだしっぺである俺が最初に明かそう。俺のサーヴァントはバーサーカー、真名はスパルタクスだ」

 

 トラキアの奴隷剣闘士であり、78人の仲間と共に帝国ローマに叛逆。結果的に反乱軍は70000人にもなる大軍団の長となった。最期は悲惨な結末だが、軍団の指揮官としては有能だったのだろう。なにせ、初戦で3000の追手を奇襲で撃退したのだ。

 

「因みに会話が出来るが、狂化ランクが低い訳じゃない。コイツのランクは評価規格外のEX話は出来るが、意図は伝わってないと思っておけ」

 

 そういって、私達の端末にバーサーカーのステータス、スキル、宝具が追加される。狂化の影響でステータスが大幅にプラスされている所為か、ステータスはかなり高水準だ。中でも耐久は凄い、を通り越しておかしい。

 

「耐久がEXって殆どの攻撃が意味無いんじゃ」

 

「いや、そうでもない。単に撃たれ強いだけだ。怪我は普通に負う。ただ、スキルにある通り、治癒魔術の効率はかなりいいだろう。ぶっちゃけ、壁として扱え。コイツもそれを望んでいるし、それ以外出来る筈がない」

 

 ズバッとぶっちゃけた言葉に皆が脱力する中、背後のバーサーカーは笑みを深くしている。なんか、怖い。

 

「さぁ、時間は有限だ。どんどん行くぞ。次は誰だ?立候補しないなら俺が指名していくぞ?」

 

 流石にソレは恥ずかしい。

 

「じゃぁ、私から順に行くという事で」

 

 そういって、私は手を上げる。

 

「クラスはセイバー。真名はジークフリードだよ……ね?」

 

 そういって、確認すれば。セイバーは無言で頷いてくれる。そして真名が分かるとセイバーの隣で静かに佇んでいた青年の雰囲気が少しだけ変わった気がする。その気配が分かったのか、アル君は少しだけ笑みを浮かべる。

 

「宝具は……皆も知っているからいいよね?後は竜の血を浴びて、背中の一点以外はBランク以下の攻撃を無効化する事が出来るみたい」

 

 そういうと、皆の端末に情報が更新される。皆はセイバーのステータスを確認する。

 

「セイバーのサーヴァントとして十二分な性能ですね」

 

「しかし、真名の秘匿には細心の注意を払わなければなりません」

 

 シルヴィアさんの言葉に皆が頷く。確かにこれだけ弱点が分かりやすい英霊もいないだろう。

 

「大丈夫だよ。そんなヘマはしないから。ね、ジーク」

 

 そう告げて、セイバーに笑みを向ける。すると、セイバーは何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。

 

「あれ?私なんか変な事言った?」

 

「……マスター。校舎内では構わないが、アリーナ内では俺の事はクラス名で呼んでくれ」

 

「え?あぁ、うん。分かった」

 

 セイバーの真摯な言葉に気圧されながら頷く。シルヴィアさんは苦笑を浮かべつつ。

 

「これは……誰かが常にフォローしなくてはいけませんね」

 

「そうですね。では、次は僕の番ですね」

 

 そういって、言葉を作るのはアル君だ。

 

「僕のサーヴァントはランサー。真名はディルムッド・オディナです」

 

「以後、お見知りおきを」

 

 そういって、一礼するランサー。英雄ディルムッド・オディナ。ケルトの英雄であり、二本の剣、二本の槍を扱う。世界でも稀な英雄だ。その中でも有名なのはやはり主君であるフィン・マックールの婚約者を魅了してしまった泣き黒子だろう。事前にアル君から注意されていた為、魅了の効果を無効化できたが、事前情報無しだと、苦労しそうだ。

 

「では、次は私ですわね。クラスはアサシン。真名はハサン・サッバーハで、宜しいですわね?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 短く答えられた声は少女の物だった。ハサン・サッバーハ。別名、山の老翁とも呼ばれ、アサシンの語源ともなった存在だ。ただ、彼女自身がそのハサンかと言えば少しだけ違う。ハサン・サッバーハとは称号に近い物らしく。一族を率いる者がソレを名乗る事を許されるそうだ。つまり、彼女は数あるハサンの内の一人なのだろう。

 

「んじゃ、次は俺だな」

 

 そういって、声を上げるのは花蓮さんの対面に座るユーリ君だ。

 

「俺のサーヴァントはキャスター。真名はハンニバル・バルカだ」

 

 そういうと、初老の男性は表示枠から顔を上げて一礼する。一見、好々爺に見えるが、その瞳の奥にある強い意志が彼の印象を大きく変えている。

 ハンニバル・バルカ。カルタゴの英雄であり、ローマ最大のライバル。『カルタゴの雷光』と呼ばれ、多くのローマ兵に恐れられた指揮官。

 

「真名から分かる通り、キャスターとは名ばかりだ。コイツには俺達の指揮を取ってもらう。一応、今の内に不満とか意見とかあったら言った方が良いぞ?」

 

「ふん、ソイツ以上の軍師がいるなら文句は言うだろうがな」

 

 そうラッセ君が言うと、皆が頷く。ハンニバル・バルカ。指揮官としてこれほど頼もしい英雄もいないだろう。

 

「では、次は私ですわね。サーヴァントはアーチャー。真名はアタランテですわ」

 

 そういって、背後にいる少女を紹介した。少女は外の風景に飽きたのか、壁に寄りかかりながらもシルヴィアさんの声に答える様に頷く。

 アタランテ、ギリシャ神話に登場する狩猟の女神アルテミスの加護を授かって生まれた『純潔の狩人』更新されたステータスを見て、最初に驚くのは俊敏だ。マスターのシルヴィアさんが優秀なのもそうだが、ランサーと同等のランクを有している。伝承通りの俊足なのだろう。

 

「最後はアタシか。まぁ、いいか」

 

 そういって、面倒臭そうに頭を掻くのは蓮ちゃんだ。

 

「クラスはライダー。真名はゲオルギウスだ」

 

「宜しく頼む」

 

 そう告げた男性、ゲオルギウス。ジークフリードと並ぶ有名な竜殺しの英雄。キリスト教の聖人であり殉教者。愛馬『ベイヤード』を駆り、凶悪な竜を倒した英雄だ。

 

「よし、これで全員の紹介は終わりだな。マスターにはそれぞれの個室を用意してあるようだ。場所は二階の2-Aの教室。そこに端末をかざせば、個室に入る事が出来る。取り敢えずは個室に戻り、仮眠なりサーヴァントと会話でもしていろ。三時間後にアリーナへ向かうからな」

 

 そういって、解散と告げる。色々とあるが、聖杯大戦はこれから始まる。

 

「皆、頑張ろうね」

 

 そういって、私は笑みを浮かべる。ラッセ君は当然だ、と言わんばかりに鼻を鳴らし、アル君は笑みで頷き、シルヴィアさんは面白いのかクスリと笑い、ユーリ君はサムズアップで、蓮ちゃんはおう、と勇ましく、花蓮さんは微笑みを浮かべながら、答えてくれる。

 




いきなりの新作投稿。続きを期待していた方には申し訳ありません。只今、スランプ気味です。息抜きにと執筆していたら何かこんな感じになりました。捨てるのも勿体ない設定でしたし、投稿してみた次第です。
 感想、批判などありましたらご自由にお書きください。因みに『騎士王』と並行して書くので、更新が遅いかもしれません。
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