Fate/Apocrypha EXTRA  月の聖杯大戦   作:フィロ

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第3章「漆黒の騎士と狼の狂戦士、霧の暗殺者」

「アル君、ランサー借りても大丈夫?」

 

 初日のアリーナ探索から二日。昨日は少しでも相手サーヴァントから情報を得ようと会議をしていたのだが、目立った情報も手に入れられなかった。故に今日、アリーナへ行く事を皆に告げ、同行するマスターとサーヴァントを選んでいる。

 

「僕は構いません。ランサー、貴方は?」

 

「私も異存はありません」

 

 表示枠を操作しているアル君の背後で控えていたランサーが答える。

 

「後は花蓮さんとアサシンかな」

 

「二瞳さんとライダーでは無いのですか?」

 

 アル君が不思議そうに聞いてくる。確かに戦力として見るならライダーが心強いだろう。けれど。

 

「目的は情報収集だから隠密に長けたアサシンが適役だよ」

 

「確かにそうですね。失念してました」

 

 そういって、苦笑するアル君。

 

「じゃぁ、私はアリーナに行くから。アル君も頑張って」

 

「はい、秘羽さんも頑張って下さい」

 

 

 

 

 

 

『アリーナのスキャン完了。お~し、聞こえているな?』

 

「うん、聞こえてるよユーリ君」

 

 アリーナに入ると生徒会室から通信が来る。

 

『どうやら今日はキャスターの奴はいないようだな。まぁ、代わりのサーヴァント反応があるけど』

 

 ユーリ君が告げる通り、通路の先から強い魔力を感じる。

 

「昨日のランサーかな?」

 

『いや、魔力反応が一致しないな。恐らく、違うサーヴァントだろう。用心しとけ』

 

「アサシン。貴女は先行してサーヴァントを確認してください。くれぐれも気付かれぬよう」

 

「……分かった」

 

 返事と共にアサシンが駆ける。

 

「では、私達も行きましょうか」

 

 そういって、花蓮さんがランサーの隣を歩く。

 

「ランサーのマスターと見せる為?」

 

「えぇ、アサシンを気取らせない為ですけど。あまり口に出さない方が効果は高いですよ?」

 

 アリーナを進むと海魔の代わりに敵性プログラムが襲いかかるが、ランサーとセイバーの敵ではなかった。

 

「この先か……気を付けろ、マスター」

 

 私の前を歩くセイバーが小さく告げる。私は頷き、先日ランサーとキャスター(仮)がいた場所に辿りつく。

 

「貴公か。ランサーとキャスターを退けたのは」

 

 そこにいたのは漆黒の鎧を纏った男と狼の毛皮を纏った人物。二人とも剣を携えている。男の剣は黒いものの、邪悪なモノは感じられない。一方、毛皮の人物が持つ剣は一目見て危険な代物だと分かる。

 

「ランサー。騎士は任せる」

 

「構わんが、どういうつもりだ?」

 

 普段無口なセイバーの提案に頷きつつ、疑問を投げるランサー。

 

「なに、単にあの剣を知っているだけだ」

 

 そう告げ、セイバーは毛皮の人物に相対する。ソレを静かに見ていた漆黒の騎士はランサーを見据える。

 

「まぁ、俺はどちらでも構わんがな。さて、始めるかランサー」

 

「正直、名乗りを挙げられぬのは不満だが、仕方あるまい。いざ!!」

 

 言葉と共にランサーが弾丸の様に駆け、音を越えた槍の一撃を見舞う。だが、相手も英霊。漆黒の剣を以って迎撃する。

 

「――――――ッ!!!!!!」

 

 ランサーの一撃を皮切りに狼の遠吠えに似た咆哮と共に毛皮の人物がセイバーに襲いかかる。セイバーは無言で背の大剣を抜き、迎撃する。

 

『あのサーヴァント。間違いなくバーサーカーだな』

 

 ラッセ君の通信に頷く。理性を感じられない叫び声に力任せの攻撃。間違いなくバーサーカーだろう。

 

 

 

 

 

 

「ヌゥッ!!!」

 

「ハァッ!!!」

 

 黒と紅、そして黄が空間を支配する。三つの軌跡がぶつかり合えば、火花どころか小規模な爆発が連続で起き、地上の鉱物より固く出来ている電子の床が片端から吹き飛んでいく。辺りには爆発の余波で起きた暴風が壁や床を傷つける。

 そんな現象を引き起こしているのは二人の英雄。暴風の如き漆黒の剣を振るう漆黒の剣士。対するは紅き長槍と黄色の短槍を巧みに操り、点の攻撃を弾幕の如き攻撃を放つ魔貌の槍兵。

 

「やるな、ランサー!!」

 

「貴様こそ、初戦の相手に相応しいぞセイバー!!!」

 

 称賛は互いに。涼しげな笑みと共に告げる。そう、彼等にとってこの攻防は準備運動に過ぎない。その証拠に槍と剣の応酬がどんどん速くなる。

 更にランサーは動く。前に出て、応酬の均衡を自ら崩し、長槍で首を狩る。だが、相手も英雄。上体を逸らしただけで長槍を避け、戻した剣をランサーの心臓目掛け突きだす。だが、それも掬い上げる短槍に弾かれる。戦いは音速の静から音速の動へ移行する。

 

(見事な剣技だ。かの王を思い出させる)

 

 応酬の中、かつて参戦した戦争を思い出す。規模こそ、小さい物のあれもまた英雄が集いし戦だった。だが、彼が望む戦は出来なかった。

 

(否、俺にも非はあった。主を理解せず、己の騎士道を理解せよ等と、おこがましいにも程がある)

 

 それに対する罰があの騙し討ちならば甘んじて受けよう。『座』に戻り、己を客観的に『視た』時、そう思い。今度こそ、新たな主に本当の忠義を、と決意した。

 

(そしてまさか本当にその願いが叶うとは。並行する未来、月の戦場で俺が求めて止まなかった真の主とお会いでき、六人の英霊と肩を並べる幸福)

 

 英霊も多種多様だ。確かに暗殺を是とするアサシンはいる。だが、それだけで否と声を上げるのは止めよう。先ずは共に闘う者を知ろう。その上で己の本音を伝えよう。

 

(とはいえ、相手から此方とコミュニケーションを取らぬのはどうかと思うがな)

 

 口の端を釣り上げ、苦笑気味に笑う。今もこの場にいるだろう。女の暗殺者を考える。

 ふと、視線を一瞬だけ外に向ければ狂戦士の猛攻を前に一歩も引かず、己の主を守る剣の英雄がいる。

 

(見事だ。蛮勇とも取れるが、時に戦では士気を上げる為、用いなければならない)

 

 生前、己も己の戦友も多く行った事。そしてセイバーの姿を見た所為か、ランサーの動きが更に速くなる。

 

「行くぞ、セイバー!!その首、貰い受ける!!!」

 

「なんの!!取れる物ならやってみるがいい!!」

 

 言葉の応酬と同時に槍と剣がぶつかる。

 

 

 

 

 

 

「全く、戦士の戦いは何時見ても呆れる」

 

 気配を消し、マスター達がいる背後。壁の上で戦場を観察していたアサシンが一人小さく呟く。

 

(とはいえ、私の存在を隠してくれるのは有難いことだ)

 

 後でお礼を言おう、そう考えたアサシンはアリーナを注意深く見る。

 

(マスターの気配は無い。恐らく、外で眺めているのだろうな)

 

 ならば、今は少しでも相手サーヴァントの情報を集める方が先決だろう。

 

(バーサーカーは厄介だが、セイバーが押さえる程度の強さか。相手のセイバーは流石、最優のサーヴァント、という所か。ランサーと互角に戦えている)

 

 眼下で繰り広げられている戦闘を冷静に見据えながら相手サーヴァントを分析する。

 

「出番だ、我が友よ!!!」

 

 セイバーの叫びと共に翻ったマントの中から白い獅子が飛び出す。

 

「なに!?」

 

 獅子の登場に一瞬だけ固まったランサー。そのランサーの傍を通り過ぎた獅子は真っ直ぐに二人のマスターへ突撃する。

 

「チッ!!」

 

 舌打ちして、自身のマスターへと向かう。

 

『アサシン、待った!!手は打ってある』

 

 通信の声にアサシンの動きが止まると同時、獅子を阻むように蒼い竜が現れる。

 

 

 

 

 

 

『ハッハァ!!どうよ、俺とアルの合作。名付けてゴーレムドラゴンってな!!!!』

 

『直球ですね。取り敢えず、お二人は下がってください』

 

 ユーリ君のハイテンションな声に苦笑気味に告げたアル君の声に従い、私達は下がる。

 

「大き過ぎませんか?」

 

 花蓮さんが呟く通り。竜の大きさは五メートル。尻尾を含め、全長五メートルな訳で、結構大きい。

 

『大きいのには理由があるんです。このドラゴン、ゴーレムの名の通り―――』

 

 遮る様に獅子が躍りかかるも、牙も爪も竜の鱗を引き裂く事は無かった。

 

『かなり固いです。とはいえ、それだけでは倒せないので』

 

 言葉と共に一メートル程の蒼いゴーレムが三体、現れた。

 

『まだ数は少ねえが、兵士(ポーン)のゴーレムだ』

 

 ユーリ君の言葉と共に体色と同じ蒼い剣を持ったゴーレムが獅子に襲いかかる。

 

「おぉ、凄いね」

 

「えぇ、雑兵としては中々ですわね。所で、ユーリさん。このゴーレム、決戦まで何体作れるんですの?」

 

『ん?そうだな、決戦までなら兵士で百。他に作るとするならそこのドラゴンが五。今回は種類を増やすより数で押した方がいいから、こんな所だな。英霊じゃ、役不足だが。海魔程度なら問題ねえよ』

 

「おぉ、頼もしい」

 

 正直な感想を上げる。同時に獅子に襲いかかっていた兵士が粉々に砕け散る。

 

「うん、前言撤回」

 

『相手が悪過ぎだ!!!意思持った宝具相手に勝てる訳ねえだろ!!!』

 

 ユーリ君の反論に顔を顰める。

 

「それにしても、あの獅子。最初の一撃以外、こちらに攻撃を加えてきませんね」

 

「そういえば」

 

 目の前にいる獅子は威嚇するように唸るだけで竜の前をゆっくりと歩いている。試しに一歩だけ前に出れば。

 

「―――ッ!!!」

 

「ヒャッ!?」

 

 まるで耳元で吼えられたかのような雄叫びに思わず悲鳴を上げる。

 

「どうやらあの宝具。敵を倒すのではなく、セイバーの補助を担当する様な宝具、と言う事でしょうか」

 

「足止め用、って事?」

 

 私の言葉に花蓮さんが頷く。そして口元に笑みを浮かべる。

 

「取り敢えず害は無いようですし。放っておきましょう」

 

「そうだね」

 

 言葉と共に大きく息を吐く。

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!!!」

 

 雄叫びと共に繰り出される一撃を弾く。その度に大気が震え、地面が抉れる。

 

(バーサーカーとはいえ、狂化されていれば生前の技巧も何も無いか)

 

 セイバーにとって力任せの一撃など取るに足らない物だ。それも『たかが』人の枠を外れた程度の攻撃ならば尚更だ。

 

(魔剣グラムの原型。あらゆる物を切り裂く剣だというが)

 

 曰く、その剣はどんな物をも切り裂けるという。打ち合う剣が赤く輝き、熱を増している。成る程、どんな物をも焼き切る剣か。

 

「―――――ッ!!!!!!!!!」

 

 雄叫びと共に突撃してくる敵を受け止め、弾き飛ばす。

 

(恐らく、これが本気ではないだろう。相手も様子見、といった所か)

 

 そんな思考を許す程、セイバーはバーサーカーの攻撃に危機感を持っていなかった。

 

(とはいえ、あまり長引かせる訳にはいかないな。悪いが、此処で終わらせる)

 

『―――ッ!!!!』

 

 再度、襲い来る一撃を下からの一撃で迎撃する。快音が響き、空気が震える。

 

「オォッ!!!!」

 

 地面を砕くほどに右足を前に一歩踏み出し、上げた剣を振り下ろす。剣は何の抵抗もなく、地面を砕く。

 

「先ずは一騎……」

 

 呟き、目の前で身体が粒子となって崩れて行くバーサーカーを見据える。

 

「やった、流石セイバー!!!」

 

 背後で竜に隠れている己がマスターの声を聞きながら小さく苦笑する。

 

(生前は倒すべき敵であった竜と同じ戦場か)

 

「悪くはないな」

 

 視線をランサーへ向ければ、相手のセイバーも苦い顔を浮かべ、ランサーとの間合いを離す。

 

「我がマスターからの達しだ。此処は退かせて貰う」

 

「仕方あるまい。此処は互いに退くとするか。決着はいずれ」

 

 ランサーが告げ、右の長槍を向ける。相手のセイバーも答える様に漆黒の剣を軽くぶつける。同時にセイバーと白獅子が粒子となって消える。

 

『終わったか。先制で一体脱落させたのは大きいな。戻って来てくれ。情報を整理しよう』

 

 通信の声に皆が頷くと真耶がリターンクリスタルを使う。

 

 

 

 

 

 

「さて、戻って来て早々悪いが、報告を頼む」

 

「戦場を見ていたから詳しくは必要ありませんが。敵の一角、バーサーカーを撃破しました」

 

「それと、相手セイバーの真名もな」

 

 花蓮さんの言葉に続く様にユーリ君が付け加える。

 

「先ずはバーサーカーだ。倒した事で真名及び、ステータスと宝具まで開示されている。確認しておけ」

 

 言われ、端末を見れば、確かにバーサーカーの項目が増えていた。

 

 

クラス:バーサーカー

マスター:???

真名:シグムント

 

 

筋力:B

耐久:C+

俊敏:B

魔力:D

幸運:E

宝具:A+

 

狂化:B

 全パラメータを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。

 

野生:A

 宝具『暴狼鎧』によって与えられた自然の中に潜む性質。非常に発達した五感及び、獣との意思疎通が可能になるが、人語を話す事も理解する事も出来なくなる。命の危機にのみ、未来予知の様な反応を見せる。

 

神々の加護:A

 北欧の最高神であり戦争の神オーディンの加護。精神干渉、痛覚によるペナルティを無効化する。

 

暴狼鎧(ウルフ・ヘズナル)

ランク:A 種別:対人宝具

 呪いが込められた狼の毛皮。

 この毛皮により、シグムントは人狼となっている。

 筋力と俊敏を1ランクアップするが、本人の意思で宝具を解除できない。

 

運命の破滅剣(バルンストック)

ランク:A 種別:対人宝具

 支配を与える樹、バルンストックに刺さった神剣。後の魔剣グラムであり、バルムンクのモデル。

 持ち主の魔力を糧に刀身を加熱させ、あらゆる物を断ちきる剣。

 

 

「シグムントかぁ~」

 

 フーナナンドの王ヴォルスング、戦乙女フリョーズの長男として生まれた英雄。知名度こそ、同郷の英雄と比べれば劣るものの、狂戦士としての英霊なら文句など出ない程だろう。

 

「成る程な。奴の持つバルンストックは後の魔剣グラム。貴公のバルムンクのモデル。だから奴との戦闘を受け持ったのか」

 

 納得した様に頷いたランサーの言葉に小さく頷くセイバー。

 

「バーサーカーの割にステータスが低いのはマスターの所為だろうな。次はセイバーだが」

 

「真名はイウェインでしょうね」

 

 花蓮さんがため息と共に告げる。

 

「それって、確かガウェインの親友だよね?」

 

「えぇ、そうです。円卓の騎士であり、白獅子と共に竜を破った英雄です」

 

 獅子の騎士と呼ばれた彼は祖父から三百の剣を受け継ぎ、三百の鳥又は鴉を使い魔とした騎士であり、竜殺しの英雄でもある。

 

「そういう意味ではライダーやセイバーと同じかな?」

 

 私の言葉に二人は無言。無視というより、どう反応していいか困っている風だ。

 

「まぁ、今日の会議はこれくらいでいいだろう。今日はゆっくり休むといい」

 

 そういうと、皆がそれぞれ生徒会室を出て行く。

 

 

 

 

 

 

翌日、私はセイバーとライダー、蓮ちゃんの四人でアリーナに入ったのだが。

 

「これ、霧だよね?」

 

「その様だな」

 

『アリーナで発生する筈訳ありませんから。恐らく、サーヴァントによる妨害でしょうね』

 

 私達の目の前にはアリーナ全てを覆う様に霧が立ち込めていた。

 

『気を付けろ、サーヴァントであれマスターであれ、唯の霧という訳じゃない筈だからな』

 

『今、此方で霧を調べてますので、もう少し待って下さい』

 

 二人の声に頷くものの、目の前の霧を見る。

 

「さっきより近づいて来てない?」

 

「ソレだけじゃねえぞ。他の霧がコッチに集まってやがる!!」

 

 蓮ちゃんの言葉通り、霧が一カ所に集まり始める。

 

「拙いな。ライダー、この霧を晴らせるか?」

 

「済まない。私には無理の様だ。恐らく、この霧を晴らすにはランサーの宝具かこの霧を発生させている者を叩くしかあるまい」

 

「冷静に言ってんじゃねえよ!!!」

 

 セイバーの言葉にライダーは顎に手を当て、霧を眺めながら答える。その答えに不満な様子の蓮ちゃんがライダーさんの足を蹴る。けど、固いのか、涙目で足を抑えてしまった。

 

『判明しました!!ソレは宝具です!!しかも、その霧ですけどかなり新しい!!』

 

「新しい?」

 

 セイバーが訝しげに呟く。

 

『この霧が発生した時代が新しいんです。過去のデータから見る限り、その霧が発生したのは1850年代のロンドン』

 

「うわ、本当に新しい」

 

「ていうか、その時代で一番有名なの『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』じゃねえか!?英雄ですらねえぞ!?」

 

『反英雄、という奴だろうな。これは拙いか。一旦、撤退した方がいいな』

 

「それはそうだけど、此処ってアリーナの何処ら辺だっけ?」

 

 気付けば周囲を霧で囲まれていた。これでは動くに動けない。

 

「一気に突破……か?」

 

「マスター、それではリスクが高過ぎる。私やセイバーならともかく、生身の貴女達では一瞬でやられる」

 

「いや、アタシはそうでもないんだが」

 

 頬を指で掻きながらそう告げる蓮ちゃん。

 

「マスター、息を止めてジッとしていろ」

 

「あ、うん」

 

『入口までの道筋は教えてやる。お前達はサーヴァントに抱えて動け。良かったな、夢にまで見たお姫様抱っこだぞ』

 

「黙って、指示出してろ!!!」

 

「では、行くとしよう」

 

「うわっ!?」

 

 驚く蓮ちゃんはライダーに担がれて移動し始める。セイバーに抱えあげられた私はセイバーの身体に寄りかかる。

 

 

(岩みたいに固いと思ってたけど、ちょっと違うんだ)

 

 そんな事を考え、セイバーを見上げた時。彼の頭の上、アリーナの壁に黒い影が張りついていた。

 

「っ!?セイバー!!!」

 

 私の叫びと同時に影が動く。その時見えた影はまだ小さな女の子だった。

 

 

 

 

 

 

「っ!?セイバー!!!」

 

 マスターの叫びを聞き、咄嗟に屈む。同時に上から小さな風を切る音が聞こえた。

 

(アサシンか!?)

 

 此処まで接近されて尚気配に気付かず、そして音も無く背後からの奇襲。間違いなくアサシンの仕業だ。

 

(此処で撃破しておきたいが、今は)

 

 マスターを抱えており、更に周囲には毒霧。戦闘でも開始すればたちまちマスターが死ぬ。更に言えば、叫んだマスターが霧を吸いこんでしまったのか苦しそうに喉を抑えている。

 

(まだ間に合う……!!)

 

 まだアサシンは自身の後ろにいる。地面に足を着けるには猶予がある筈だ。今しかない。

 

「っ!!!!」

 

 屈んだ状態から身体を反転。遠心力を乗せ、下から上へ掬い上げる様に回し蹴りを放つ。

 

「がっ……!?」

 

 肉を打ち、骨を砕いた確かな手応えはそのまま通路の奥へ吹き飛ぶ。

 

「マスター、大丈夫か?」

 

 問うと、小さくだが彼女が頷く。その顔は見る見るうちに蒼くなっている。奥歯を噛みしめ、走り出す。

 

 

 

 

 

 

「惜しかった……」

 

 そう呟いた少女、アサシンはうつ伏せからゆっくりと身体を起こす。力無く垂れている左腕は歪な曲がり方をしており、一目で重傷だと分かる。

 

「でも、これでセイバーのマスターは暫く動けない」

 

 ふふん、と得意げに告げた彼女は嬉しそうに笑みを作る。

 

「アサシン、何処?」

 

「おかあさん(マスター)!!!」

 

 そんなアサシンの耳に女性の声が届く。同時に彼女の顔に満面の笑みが浮かんだ。

 

「あら?あらあらあら。大丈夫、アサシン?」

 

 そういって、アサシンに近づき、その左腕に治癒を始めたのは長い茶髪が特徴的な女性だ。母性を体現した様な女性は心配そうにアサシンを優しく抱きしめる。アサシンは嬉しそうに女性に抱きついている。ただ、左腕が思う様に動かせないのでそこが少々不満の様だ。

 

「大丈夫。あんまり痛くないから」

 

「そう、良かった」

 

「それよりね。アッチのセイバーのマスター。暫く動けない様にしたよ」

 

 そう告げると女性は驚き、次いで笑みを浮かべてアサシンの頭を撫でる。

 

「偉いわ、アサシン。えぇ、昨日負けちゃったバーサーカーなんかよりもずっと偉いわ」

 

 優しげに告げながら頭を撫でる彼女は我が子を褒める母親そのもの。アサシンも自身の行動を褒められたのが嬉しいようだ。

 

「今日はもう、帰りましょう。宝具をアリーナ全域で使って疲れたでしょう?」

 

「うん、だから~」

 

 甘えたその声に女性は困った様な笑みを浮かべるとアサシンを抱き上げる。まだ十代前半の少女である幼いアサシンは簡単に持ちあがる。

そして女性が歩き出せば、周囲の霧は彼女を避ける。当然だ、この霧はアサシンの意思に従って標的を変える。よって、アサシンのマスターである彼女には一切の害が無い。正確には彼女しかこの霧の中で自由に動く事を許されていない。アサシンにとって彼女こそ、自身の味方であり、彼女以外の存在は全て敵なのだから。

 

「ギンもこれで落ち着くでしょうね」

 

「私、アイツ嫌い」

 

 歩き出した彼女の言葉にアサシンが不満げに呟く。その言葉に彼女は少しだけ考える。

 

「じゃあ、ギンからも貰いましょう。そうすれば彼も大人しくなるでしょうし」

 

「でも、セイバーが邪魔だよ?」

 

 む~、とアサシンが唸れば平気よ。と女性が告げる。

 

「ちゃんと頼んで納得させれば問題ないわ。私の力はその為の物だから。そうすれば」

 

 そういって、彼女は右手の甲から肘まで伸びる12の令呪を見せる。

 

「15の令呪が手に入る。これなら例え、どんな不利だろうと覆す事が出来るもの」

 

「そうだね」

 

 そう答えたアサシンは楽しそうに彼女の胸に顔を埋める。

 




今回は初戦のセイバー、アサシン、バーサーカーの登場とバーサーカーの退場ですね。アサシンは本当ならもう少し後に出す予定でしたが、変更しました。
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