魔法少女リリカルなのは Armour Zone   作:アルカノイド

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01 記憶の中の赤いケダモノ

 思いだされる記憶は、いつも『赤』に染まっている。

 それは、いろんな赤だ。

 

 照明の赤だったり、薬の赤だったり、誰かが着ている服の赤だったり。

 ……血の赤だったり。

 

 今だってそうだ。

 目の前には流れ出る血の赤が広がり、その血の赤を覆い尽くすかのように炎の赤が揺らめいている。

 

 そして何より……そんな赤の中で吼える私の体も……赤かった。

 

 ねぇ、どうして?

 どうして……私はこんなに赤いの?

 どうして……私は――――だったはずなのに……

 

 ――私は……何?

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 眠りに落ちかけていた意識を、コンソールから発せられたビープ音が引きあげる。

 しばらくぼんやりと周囲を見渡していたが、しばらくしてぼんやりとしていた意識が覚醒してくると、彼は現状を思いだした。

 

 ――……ああ、ここは俺の仕事道具(小型次元航行艇)の中だ。

 

 そして、現在彼はまさに仕事の真っ最中。

 小さなお姫様(シンデレラ)王城(新天地)へ届ける馬車としての役目……それが今の彼の仕事だった。

 

 男は自身の背後のシートに座っているはずの客へ振り向き、声をかける。

 

「おう嬢ちゃん。そろそろ着くぜ」

「……そう」

 

 帰って来たのは幼い少女の声。

 一人旅をするには余りに幼すぎるほどの、だ。

 

 たった一言だけ声を発した今回の客に、男はため息を隠さない。

 

 ――しっかし、まさかこんなガキんちょ一人を密航させる事になるなんざ、流石の俺でも想像できなかったろうよ。

 

 男は所謂『密航業者』という奴だった。

 

『次元世界』

 ミッドチルダの科学が発展し、そして発見された次元空間。

 そこに泡沫の沫の如く無数に浮かぶ世界をそう呼ぶ。

 存在すると分かりはしたが、しかし触れる事の出来ないお隣さん。

 しかし人々はその触れられないはずの世界に降り立つ術さえも手に入れてしまった。

 

 だが、同じ世界の中で国と国の間を移動するのにも厳しい規制がかかる御時勢。

 異なる世界へ行くとなればその規制のきつさなど想像に難くない。

 もっとも、波風立てずに平穏な普通の生活をしていればそんな規制もあってないようなものだが……世の中にはそうでない人種ももちろん居るわけだ。

 

 例えば、元居た世界で犯罪を犯し、世界間移動を制限されている犯罪者とか。

 まぁ当然だろう。犯罪者を檻の外に出し、完全に自由にさせるわけにはいかないのだから。

 だが、むしろそんな人種こそ、世界を渡る事を切実なまでに望んでいる物であり……

 そこで彼のような密航業者の出番という事である。

 次元世界での犯罪を取り締まる組織、次元管理局と呼ばれる組織から横流しされた次元航行艇を駆り、金を積まれればどんな相手でも、どんな場所へでも運ぶという密航業者が。

 

 当然、リスクはデカイ。

 何せやっている事は完全犯罪だ。

 正規の手続き等一切合財を無視し、犯罪者の国外逃亡を手助けする存在。

 つまり密航業者も犯罪者だ。

 お上にばれれば即逮捕。

 

 だが、自身の背景一切関係なく自身を新天地へ運んでくれる存在。

 当然莫大な金を積んででも仕事を依頼する存在は掃いて捨てるほどおり、そんなリスクを背負うと知ってもこの犯罪稼業を続けるような希少な存在は、そういう後ろ暗い組織にとっては保護対象。

 管理局に掴まらないように情報を流すのはもちろんの事、稼ぎに稼いだ密航業者を考えが足らないチンピラが襲撃……なんて事が無いように身の安全の確保、果てには客の斡旋などなど。

 つまりリターンも限りなくデカイのだ。

 だからこそ、男はこの稼業を続けている。

 リスクとリターンを天秤にかけ、リターンをとる事を選び続けている。

 

 だが、今回の客は余りにも今までの客とは違っていた。

 

 細かい容姿は頭の天辺から踵までを覆うフード付きの外套に覆い隠されているため分からないが、先ほども言ったように声からして幼い少女。

 それも、成人男性としては比較的小柄な部類に入る自分の腰のちょっと上位までしかない身長。

 そんな少女が、一般成人でも稼ぐのに苦労するであろう大金を持って自分に密航の依頼をして来たのだ。

 しかも、密航先もおかしなものだ。

 

「魔法文化がまったく無い世界。できれば管理外世界への密航」

 それが少女がの依頼だ。

 

 魔法……

 次元世界なんて概念、そしてその間を自由に航行するほどに発達した科学。

 その科学は、様々な事象をプログラムに置き換え、操る術さえも手に入れる。

 発達しすぎた科学は、魔法。

 そんな言葉から名づけられた、魔法と言う技術。

 少女はそんな魔法という技術、それを扱うことを前提とした文化がない世界への密航をお望みなのだ。

 ……現在分かる容姿で推測した彼女ほどの年齢だと魔法がある事が当たり前であり、その当たり前が無い世界へいきたがると言うのも、どうにも解せない話ではある。

 

 だが、金を持ってきた以上客は客。

 ならば自分はその客を望む場所へ運ぶだけだ。

 下手な詮索は自身を危険に放り込む愚考故に。

 裏の世界では、知りたがりは早死にするのは、恐らくどの世界でも一緒だろうから。

 

「……っと、到着か。嬢ちゃん、お望みの世界に着いたぜ」

 

 コンソールに現れた情報から、目的地に着いた事を知った男は、少女へその事を伝える。

 あとは周囲に人が居ないかを確認し、次元航行艇の転送機能を用いて目的の世界へ客を送り込めば、それでお仕事は完了だ。

 現地人に転送の場面を見られては、客にいらぬトラブルをもたらす可能性が高い。

 故に、転送地点の周辺に現地人が居ないかの確認はこの仕事の中でもっとも重要な工程だ。

 転送前に人が居ないことの確認はもちろん、転送途中に人が来る可能性ももちろん考慮に入れる。

 密航業者の腕の見せどころである。

 

「よし、周辺に人影無し。そんじゃ、達者で暮らせよ、嬢ちゃん」

 

 男の言葉に返事をせず、少女は起動した転送装置に入り込む。

 そして、転送が開始されると少女の姿はまるで空気に溶け込むかのように薄くなり、やがて消えた。

 

 別に返事を期待したわけではないが……ここまで徹底して自分の存在を表に出さないと、まるで狐につままれたような、今まで自分が運んでいた客は幻だったのではないかとの錯覚に囚われる。

 

「ま、こんな大金が手元にあるんだ。幻じゃねぇんだろうけどよ」

 

 そう呟くと、男は運転席の隣のシートに置かれていたアタッシュケースを開く。

 中には莫大な金、金、金。

 少女が持ってきた密航の依頼料だ。

 

「ひーふーみー……おいおい、なんつー金額だよ。どうやってこんな金額稼いだんだ? あの嬢ちゃん」

 

 これでしばらく遊んで暮らすことも可能だろう。

 この依頼を達成した後、依頼時に見た依頼料と改めてご対面する時の快感。

 男がこの稼業に求めているのはまさにそれであった。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 密航業者の船から降り立った少女は、しばらく周囲を見渡しながら立ち尽くす。

 どこかの展望台なのだろうか?

 周囲が木に囲まれている中、木を撤去し、平らにならされた地面によって平地が作られている。

 見上げれば空には月が光を放ち、見下ろすとその光に負けてなるかといわんばかりな街の明かりが目に入りこむ。

 

 展望台の端へ行き、眼下に広がる景色をしばし眺めた後、少女は後へ振り向き、歩き出す。

 どこへ向かうかなど決めて居ないし、そもそもこの世界にはじめて足を踏み入れた自分に、行きたい場所などあるわけが無い。

 

「……ここなら、すこしはゆっくりできるかな」

 

 だが、それでもどこへ行くにも自分で決めれると言う自由がある。

 そのために、わざわざ魔法文化のない管理外世界へ連れて行けと依頼したのだ。

 自分を追いかけている管理局が管理して無い世界、ただそれだけでも来るのに膨大な時間がかかるだろう上に、魔法文化まで無いのだ。

 魔法文化が無い世界では魔法の存在を隠匿せねばならないなどと言うキマリゴトもあり、少なくとも押っ取り刀で即参上などという事にはならないだろう。

 

 風が、少女の顔を隠すフードを払う。

 フードの奥から現れたのは、白く長い髪を持った幼い少女。

 少女はそのまま木々の奥へと姿を消して行った。

 

 少女が居なくなり、展望台は静寂が戻る。

 そこに誰かが居たと言う痕跡は無く、ただただ月にてらされた夜の闇がそこにはあった。

 

 少女が降り立った世界

 それは第97管理外世界『地球』。




プロローグという事で短めに。

衝動がほとばしったから書いた。
反省も後悔もしていない。

恐らく更新は相当遅かったりするかもしれませんが、それでもよろしければ気長にお付き合いいただければ。
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