魔法少女リリカルなのは Armour Zone   作:アルカノイド

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その少女は、記憶の中のショウジョに似ていた。

姿形ではなく、置かれている状況が。


02 記憶の中と重なるショウジョ

 ――頭の中に、声が響く。

 ――必死な、悲痛な、少年の声が。

 

「……ま、だからなんだって話だけど」

 

 そう言うと白髪の少女は自身の右手で掴んでいた『ソレ』を無造作に放り投げた。

 

『―――――――――!!』

 

 少女に放り投げられた『ソレ』は、声にならない声を発しながら廃墟の壁に叩き付けられる。

 少女の動作から、一見するとそれほど力が込められているようには見えなかったが、実際にはとてつもない力で投げられたようだ。

 

 少なくとも、朽ちかけているとはいえ、『ソレ』が叩き付けられたコンクリートに、巨大な蜘蛛の巣状のヒビが入っているのだから。

 

 少女は放り投げた『ソレ』を見やると、にやりと口角を吊り上げる。

 

「今はただ、あんたをいただかせてもらう。それだけだからね」

 

 そう誰に聞かせるでもなくそう呟くと、少女は自身の体を覆う外套を払う。

 外套の中から現れたのは、ズタボロになった、まるで病衣のような服に包まれた幼い体。

 そして……そんな体に不似合いなまでに無骨な……ベルト。

 ベルトのバックル部傷だらけであり、その傷だらけのバックルにはまるでレンズ状の物体が二つ埋め込まれている。

 

 そのバックルの下部から左右に伸びているハンドルの内、左側のハンドルを少女は握り、そして捻った。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 空が白んでくる頃、少女は横たえていた体を起こす。

 固いコンクリートの上で寝ていたせいか、体はガッチガチに固まっており、ぶっちゃけあちこちが痛い。

 やはり、面倒くさがらずにベッド代わりになる何かを探すなり、葉っぱを大量に集めて敷いてその上に寝るなりした方が良かったか……

 

 そんな事を考えながら、今自分が居る場所……昨日から寝床として勝手に利用させてもらっている廃墟の天井を見やる。

 比較的、と言うか廃墟になってそれほど年数が経って居ないのか、多少壁などにひび割れはある物の、窓ガラスもちゃんと嵌っており、山奥にあるからか人が来る気配も無い。

 異邦人である自分にはありがたいどころか、むしろ諸手を挙げて喜ぶ程の物件だが、ベッド代わりにできそうな何かどころか、そもそも何も無い故に床にそのまま横になるしか選択肢が無いのが不満か。

 

 自分が贅沢を言える身分では無いという事は分かっているが……言いたくもなる気持ちは分かって欲しい。

 もっとも、『この世界』では、自分という存在は身分云々以前の問題なのだが……

 

「まぁ、少なくとも餓死しなくてもすむ様になったってのは良い事かな」

 

 そう呟くと、懐から青い宝石を取り出す。

 昨夜、襲ってきた獣を『喰った』際、残ったのがこれだ。

 膨大な魔力を放つ宝石。普通の食料が無くとも、魔力を喰えば生きていけるこの体にとっては素晴らしい食料だ。

 しかも、ただ膨大なだけでなく、今現在も徐々に魔力が増えている様子が見て取れる。

 つまり減っても増えるというおまけ付きだ。

 

 ――本当に良い食料じゃない。

 

 思わず笑みがこぼれる。

 思えば昨夜、降り立った場所が森だった故に、食料も問題ないだろうと思っていたが、人の手が入った森という事で食料となる獣も居ないという事に思いっきり落胆した物だ。

 それだというのに、まさかこんな上等な物を手に入れれるとは……

 

 もっとも、それで手放しに喜べる、というわけでもない。

 魔法文化が無いはずのこの世界で、なぜここまでの代物があるか、という点が気にかかる。

 

 一番ベストな答えは、この世界に古来からあった物がたまたま魔力を備えていた、というものだが……

 

 実は魔法文化がこの世界にある、という可能性も否定できない。

 そしてそうなると、まだ管理外世界扱いされているだけで、管理局との交流が密かにあり、管理世界入りまでそれほど時間は無い……という最悪の展開もあり得るという事だ。

 

「……できれば、外れてくれればいい予想よね」

 

 だが、ここが管理局と交流があった場合、ほんとにヤバイ。

 追っ手が来ないだろうと思って管理外世界なんて魔法技術が無い世界に来たのだ。

 つまり、次元航行技術もここにはない。

 ……もとより、この世界から逃げる事は考えて居ない。

 

 だって、あちこち逃げ回るのもなかなかに疲れるのだ。

 今まで行った世界はどこも管理世界であるが故、大体一週間滞在できれば良いほう、半月居れればもはや奇跡と言った具合だ。

 

 ――だから、大丈夫だと思ってここに来たんだけどなぁ

 

 ぼんやりとそんな事を思っていた。

 そんなときだった。

 

 少女の常人よりは優れた耳に、何かが聞こえた。

 

「……何? 管理局がここをかぎつけたの?」

 

 まさかの滞在一日すら経ってないのに?

 この管理外世界に?

 滞在期間最短記録更新か?

 

 とりあえず、本当に管理局からの追っ手だった場合にすぐに対処できる様に、声の方向へと向かっていく。

 

 何をするのか?

 とりあえず様子見である。

 下手に手を出して、局員からの連絡が途絶えた事を不審に思って念入り調査されるとかされたくないし。

 

 が、どうやら杞憂な様だ。

 近付くに連れて声がはっきり聞こえてくるが、自分を探しているなどの言葉は聞こえて居ない。

 聞こえてくるのは……

 

「……『早く黙らせろ』『金の要求を』『電話の用意』……ああ、誘拐かこれ」

 

 どうやら現地人による犯罪の現場に居合わせただけらしい。

 いや、居合わせたと言うか、向こうが勝手にここを現場にしてしまったというか……

 

 こっそりと声がする部屋の中が覗ける場所へ辿りつき、部屋の中を覗く。

 いかにもチンピラといった類の、あまりお付き合いになりたくない格好をした男達が居た。

 

 そして男達が囲んでいるのは……

 

「……子供?」

 

 一人の幼い少女だった。

 背格好からして……自分と同じか、自分よりやや下くらいの年齢か?

 男達を睨み付けて居るようだが、いかんせん相手は遥かに年上の男。

 そんな奴等相手には少女の睨みも睨みの内には入らないだろう。

 

 現に、少女の睨みもどこ吹く風。

 と言わんばかりにニタニタとした笑みを浮かべる男達。

 

「…………」

 

 別に、自分には関係ないことだ。

 放っておけば良い。

 おけば良いのだが……

 少女の瞳から涙が一筋落ちたのが見え……

 

『――――!? ――――!!』

 

 ふと、今の自分にとっては遠い過去に感じられる光景が、脳裏をよぎった。

 

「っ!」

 

 思わず、体が動く。

 隠れていた場所から飛び出し、そのまま背後を向けている男の背中に向かって一撃。

 

 自分より遥かに大きい身長を持つ男が吹き飛び、壁に叩き付けられる様を見届ける事無く、少女は動く。

 次のターゲットは、いきなり事が起こり、現状を把握できずに呆けており、なおかつ現在地点から一番近い場所に棒立ちしている男。

 その男の正面へ飛び込み、飛び上がる。

 そのまま回し蹴りの要領で男の首に足を引っ掛け……

 

「が……っ!?」

 

 そのまま地面に向かって叩き付ける。

 当然相手はなす術もなく顔面から地面へ熱烈な接吻をかます羽目となった。

 

「な!? なんだこのガキ!?」

「なんでこんなとこにガキがいるんだよ!?」

 

 突如乱入し仲間を二人行動不能にした少女に、誘拐犯達は動揺する。

 その隙を少女は逃さず、誘拐犯達の反撃を許さずに鎮圧してしまった。

 死屍累々……もちろん死んで無いが、な状況の中、少女は誘拐されてきた少女に近寄り、体を縛るロープをほどいていく。

 

「あ、アンタは……?」

「…………」

 

 少女の問いに答えず、ただただ無言でロープをほどいていく。

 

(ちっ、面倒な縛り方してくれちゃって)

 

 ……自分は一体何をしているんだろうか。

 昔の事を思いだして、それでこの見ず知らずの少女を助けて?

 ……それで自分の何かが癒えるわけでも無いだろうに。

 

 やがて、少女を縛る縄をほどき終えると、壁に空いた穴を指差す。

 

「そこから出て、そのまままっすぐ行けば街につくわ。せいぜい気を付けて」

「あ、えっと……ありがと……」

 

 少女が礼を言い、壁の穴から外へ出ようと後へ振り向こうとしたときだった。

 

 助けられた少女は、自分を助けてくれた少女に向けて何かを向けている男の姿を見た。

 先ほど自分を助けた少女に叩きのめされた男達とは違う、身なりだけはきちんとした男が、その手に持った何かをこちらに向けて……

 

 ―――パン、という、大きな、だけど軽い音。

 

「困りますね、そのような事をされては」

 

 目の前で、倒れていく少女。

 

「……あ、え……?」

 

 何が起きたのか分からず、言葉にならない声が、まるで漏れ出るかのように口から出る。

 音がして、目の前の少女が倒れこんで……

 

「しかし、情けない。いくらチンピラとはいえ、まさかこんなガキ一人に……」

「なに……が……?」

 

 倒れこんだ少女は……動かない。

 その少女の下へ、動揺し、もつれた足で、よたよたと近付く。

 

「何……したのよ、アンタ……」

「はい? ああ、誰でもやるでしょう? 通ろうとした道に邪魔な物があればどける。それと同じですよ、アリサ・バニングスさん?」

 

 アリサ・バニングスと呼ばれた少女の呟きが聞こえたのか、男はたいした事はしていないといわんばかりの軽い口調でそう言い放つ。

 

「分かりませんか? 私はあなたのお父上が邪魔でね、あなたを使ってあなたのお父上を排除しようとした。それをそのガキが邪魔をした。このままでは私の計画がうまく行かない。だから、巻き返しができるうちに邪魔な要因を排除した……それだけですよ」

 

 そこまで言うと、男は持っていた物……拳銃を、今度はアリサに向ける。

 

「さて、ここまで言えば、次に私がとる行動は分かるでしょう? せいぜい、私の役に立ってもらいますよ……ククククク……」

 

 アリサは、動けなかった。

 拳銃なんて物を向けられていた故の恐怖で、まるでその場に縫い止められたかのように。

 

「大丈夫ですよ。暴れたりしなければ傷つけたりしません。あなたにはむしろ怪我無く無事でいてもらわなくてはいけないのですから」

 

 そうして、男がアリサのすぐ目の前、倒れこんだ少女の横に立ち、アリサへと拳銃を持っていない方の手を伸ばしていき……

 

「まぁ、おおよそくっだらない理由だと思ってたけど、案の定ってやつね」

 

 その手は横から小さな手で掴まれた。

 

「何……!?」

 

 男が自分の腕を掴んでいる手が伸びてきている方へと顔を向ける。

 

 ―――先ほど自分が撃ったはずの少女が、平然とした顔で立ち上がり、こちらを見つめていた。

 

 そして、その少女の拳が男の顔面に……

 

「ぐが……っ!?」

 

 鼻っ柱にまっすぐ叩きこまれた拳は男の意識を刈り取るだけで飽き足らず、その体を勢い良く吹き飛ばし、そして男は壁に叩き付けられる事となった。

 

「はい終了。で、大丈夫?」

「え、あ、えぇ……?」

 

 何だこれ。

 何だこれ。

 

 男に拳銃で撃たれたと思った少女がピンピンしてて、それどころか自分よりも遥かに大きい大の男を殴り飛ばして……

 余りの展開にアリサはあんぐりと開けた口が閉じなくなっていた。

 辛うじて、なんとか辛うじて搾り出した言葉は……

 

「……い、痛くないの? アンタ」

「ただの鉛の塊で痛いも何も無いわよ?」

 

 普通心底痛いどころじゃないと思う。

 

 と何故か冷静に心の中で思ったアリサだった。




アリサ、誘拐される。

オリ主、誘拐現場に居合わせる

オリ主、誘拐犯を叩きのめす

というテンプレ展開をやってみようの巻
うまくできていればいいのですが……
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