魔法少女リリカルなのは Armour Zone 作:アルカノイド
狭い部屋にいることが、何より嫌だった。
まるで、見えない何かに拘束され、押し潰されそうで。
まるで、お前に自由など無いんだと、何者かに嗤われているようで。
そんな場所に入れられると、自分の喉を思わず掻き毟り、首から流れ出る赤に解放感を見つけ出したくなる。
自分の体と言う器に穴を空け、そこから自分の
ほんの少しだけ、圧迫感から抜け出せることに自由を感じれるから。
そして、数刻もしないでその
■ ■ ■
少女は、今のこの状況に対しどう対処すればいいのかが分からなかった。
と言うか何故こんなところにいるのかさえ分からなかったりする。
少女の記憶では、自分が初対面の少女を助けたとこまではしっかりしている。
が、その後の記憶が曖昧だ。
まさかあの程度の鉛塊で致命傷を受けたわけでもなし。
(……ああ、普通に
しばらく何があったのだろうと考え込み、やがて現在の自分の魔力の量に思い当たった瞬間、納得がいった。
便利な携帯食料を手に入れたはいいが、それでも魔力が完全に回復していたわけではなかった。
そんな中で軽めとはいえ、普段より魔力を消費する戦闘行動をとったのだ。
そりゃ魔力も活動限界域に落ち込むという物。この体は燃費が極悪なのだ。
さて、そこまで考えたところで、もう一度今いる状況に対処するために情報を収集しなければ。
今、自分はベッドに横になっている。
それも、あの拠点に仮に作った簡易ベッド(というには余りにお粗末な物だが……)ではなく、しっかりとした造りのベッドだ。
それもかなり大きい。
少なくとも、自分サイズの人が三人で川の字に寝たとしてもまだあと一人位寝れるであろうスペースが余る程度の大きさだ。
そしてそのベッドがあるのは……やけに広い部屋だ。
こんな大きなベッドがあると言うのに、それでも十二分にスペースが余っており、そのスペースにタンスやら本棚やらさまざまな家具が設置されている。
……どこだここ。
とりあえずここでじっとしていても始まらない。
さっさとここを出るなりしなくては。
体にかかる布を払いのけ、ベッドからおりる。
そのままぺたぺたと扉へ近付き……開ける。
どうやら鍵はかかっていないようだ。
部屋の外は、長い廊下になっており、扉も多数見える。
しばらく適当に歩き周り、しかし一向に出口に辿り付けそうも無い。
――いっそ窓をぶち破って外に出るか?
床から天井の高さまでの大きな窓を見やりながら、内心そう呟く。
そして、よしぶち破ろうそうしよう、と窓へ向かって突貫をかけようとしたその瞬間だった。
「あ! いたーーーーー!!」
「……ん?」
声がした方へ振り向くと、そこにいたのはあの時助けた少女。
その少女はこちらを指差しつつ何かを叫んでいる。
やがて少女はどたばたと近付いてくると、がしっと音が出るくらいの勢いで肩を掴み、そして言い放つ。
「と、とりあえずなんで出歩いてるのかとかいろいろ聞きたいけど……まずは服を着ろぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」
「……んん?」
少女に言われ自分の体を見下ろす。
……何も覆う物が無い裸身が視界に入りこんできた。
「……ああ、道理で動きやすいと思った」
「しょっぱなの反応がそれかい!!」
■ ■ ■
少女に手を引かれて浴室へ連行され、湯船に叩きこまれた後最初に居た部屋に戻り、服を着せられながら状況の説明を受けていた。
ここは後で私の髪を弄くっている少女……アリサ・バニングスと名乗っていた、の家で、更に言うならこの部屋はアリサの部屋だそうだ。
どうやら自分はアリサを助けた後急に気絶したらしい。
やはり、先ほどの予想通り魔力が活動限界を下回ったらしい。
が、私のこの体の事情を知らない一般人からすれば、急に目の前で倒れられれば焦るのも仕方ないだろう。
しかも、気絶する直前に銃で撃たれていたのだし、すわやはり重傷か!? となるだろう。
……が、気絶する前に言った記憶があるように、たかが小さな鉛の塊一個でこの体はどうにかなる物でも無い。
故に当人としてはなぜそんなに焦っているのだろうかと言ったところだ。
「……で、何のつもり?」
「何って、何よ?」
しばらく黙って髪を弄られ続けていたが、良い加減飽きてきたのでこの状況を打開する言葉を放つ。
……が、どうやら言葉の意図は上手く伝わってくれなかったようだ。
ならばと再び口を開く。
「見ず知らずの私を連れてきて、何が目的?」
そう、私が知りたいのはそこだ。
彼女にとって、私はただたまたま自分を助けてくれた存在。
それだけだ。
「何って……そりゃ、その、お礼位私だって……」
「でも、その程度じゃここまでする理由にはならない」
礼が言いたいだけなら、ただ一言礼を言ってで済む話なのだ。
こんな、よくわからないが上等な物であろう服を用意する必要はない。
そう、用意したのだ。話を聞くに、わざわざ私のためにこの服を購入したそうだ。
だから余計わからない。
何故そこまでするのか、と。
「見ず知らずの存在……しかも身元もあやふや。お礼でそんな存在にここまでするならさぞ世界は聖人だらけよ」
少なくとも、世の中そんな聖人だらけな世の中なら私はこんな所に居ないわけだが……
「見ず知らずとは言え、あのような格好の子供を見捨てれるほど、私は人でなしになったつもりは無いからね」
第三者の声が、部屋に響いた。
声がした方を見ると、そこには一人の男性が居た。
仕立てのいいスーツを着こなす、多少年を感じるが、それでも美丈夫と分かる男性。
「お父様」
どうやらアリサの父親らしい。
その男性はアリサ達の方へと歩み寄り、そして少女の前で立ち止まる。
「そして……娘が言うには恩人と言うじゃないか。なら、可能な限りの礼を尽くすのが当然だと、私は考えているがね」
「まず大人からすれば、『何故娘と同じくらいの子供が娘を助け出せたか』を気にすると思うのだけれども。少なくとも、見た目だけなら私はこの子と同じ子供よ?」
まぁ、アリサの実年齢は聞いてないため分からないが、見た目だけで判断すれば自分とそれほど離れている、と言うことは無いだろう。
「確かに、気にならないと言えば嘘にはなるな。だが私にとっては、それ以上に娘を助けてくれたという事実が重要だと思っているだけだ。それだけアリサは私にとって……いや、私達家族にとって大事だと言うことだと思ってもらえればいいのだがね」
「…………」
家族が大事、ねぇ……
「"よく分からない"わ、そういう感覚」
そう呟いた少女の表情は……なんと言えば良いのだろうか。
悲しんでいるとも、怒っているとも取れる、曖昧な表情であった。
■ ■ ■
──遠ざかる。遠ざかる。
大事なものが、大事だったものが、"大事だと思っていた"ものが遠ざかる。
どんなに叫ぼうと、どんなに手を伸ばそうと、声は届かず、手も届かず。
ただただ、私は遠ざかっていく"それ"を泣き叫びながら見るしかなかった。
そんな私の視界に映るのは、ニタリとつりあがった笑みを浮かべる"それ"の姿だった。
──その笑みを意味を、その時の私はまだ知らなかった。
■ ■ ■
「……っ!」
ふと目が醒める。
窓から差し込む光は橙色に染まっており、既に夕方である事を示している。
……はて、先ほどまで朝方……とまでは行かなくとも、まだ陽は高かったはずだが……
「……ああ、そうか、寝ていたのか」
しばらく呆然と窓の外を見やり、ようやっと頭がはっきりしてくると、それを思いだす。
あの後、自分は無用心にも眠ってしまっていたようだ。
場所が場所なら自分が目覚める場所が冷たい鉄格子の中になっていただろう。
普段なら、そのような失態を演じる事は無いのだが……張り詰めていた糸がたるんだと言ったところか。
「……平和……だからかな」
常に管理局に追いかけられていた。
管理局だけでなく、恨みを持つ者からも、富を得ようとする者からも。
この世界にはそれらはおらず、そしてアリサ達も他意なく接してくる。
──多少なりとも弛むと言ったところか……
「…………」
まぁ、ちょっとした休息にはなっただろう。
そう思い、ベッドから降りようとするが、ふと抵抗を感じる。
……隣でアリサが寝ていた。ご丁寧に服をつかんでいる状態で。
取り敢えず服をつかんでいる手をなんとか外し、改めてベッドから降りる。
「まぁ、どんな理由であれ多少は休めたわ。その点に関してはありがとう」
どうせ寝ているから聞いてないだろうが、それでもそう言い放つ。
案の定、アリサは少女の言葉に何らかの反応を示した様子は無い。
部屋の窓を開け放つ。
下手に廊下に出ても結局道は分からない。
なら、さっさと窓から出た方が早いし確実だ。
──窓を開け放つと入ってくる風、そしてその風に乗って鼻に入る……獲物の匂い。
「…………」
無意識の内に舌嘗めずりしてしまっている事に気付かず、少女は窓から飛び出した。
■ ■ ■
自身に飛びかかってくる"それ"が、自身の手の中の相棒により弾き飛ばされる。
ふとしたきっかけで知った魔法という物。
それが自分にも使えて、だから自分が誰かの役に立てる事を喜ばしく思い、だからこそ手伝うと、あの時は言った。
気分が舞い上がっていたんだろうと、今になってまるで他人事のように思う。
"彼"を初めて見たとき、あんなに傷だらけだったのに、その時の自分はそれさえも忘れて……
自分がいかに危険な世界に飛び込んだのかを、その少女、高町なのはは今まさに実感していた。
大型の狼の様な獣……ジュエルシードの暴走体と呼ばれるそれが、自身を排除しようと飛びかかってくる。
幼い少女にとって、そんな光景は恐怖、という言葉では済まないだろう。
──怖い、怖い、怖い……怖い……!
手に持った相棒……レイジングハートが障壁を展開し、なのはへの直接の危害を防いでいるが、それもずっと続く物では無い。
物事には、必ず限界という物がある。
……そう、例え彼女に無類の魔法の才があろうと、限界は必ず来るのだ。
今はまだその限界は遠いとしても。
傍らのフェレットのような小動物がなのはへ何かを叫んでいるが、少女の耳にはとどかない。
じっと、ただただ耳に入り込む衝突音に身をすくませ……
……ふと、音が止んだ。
俯かせていた顔を上げると、そこには……
先ほどまでなのはへ突進を繰り返していた暴走体が、地面に叩き付けられている光景と、その光景を生み出した人影。
「活きが良いわね……食べ甲斐がありそうじゃないの」
その人影は、暴走体の上でニヤリ、と笑みを浮かべた。
この生という監獄で、せめてもの自由が与えられるなら、私は狩り、食らう自由が欲しい。
だから……おとなしく私に食われていろ