助けて!!チートラマン!!   作:後藤陸将

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一体いつから炎上都市冬木がチュートリアルだと錯覚していた?

 ――アイエエエ!?アーストロン!?アーストロンナンデ!?

 

 

 隣にマシュがいなければ、彼は確実に絶叫していたことだろう。

 本来、この特異点Fに出現する敵はシャドーサーヴァントかスケルトン、竜牙兵ぐらいだった。これぐらいなら、服装から察するに原作通りにデミサーヴァントとなれたマシュがいればどうにかなるだろうし、途中からは()()()()とても頼りになるキャスニキも加勢してくれるはずだ。

 そして、裸一貫で特異点に放り出されることを予め知っていた彼は、切り札たる聖晶石を40個持参していた。戦力が不安ならばサーヴァントを追加で召喚することができるのだ。序章の突破だけなら、作家系キャスターでも引かない限りレアリティの低いサーヴァントでも頼もしい戦力となりうる。

 これなら、原作知識を持ってる自分にとっては楽勝!!と彼は高を括っていた。人類史を背負っている負けられない戦いであるのに、彼はこの戦いに対する必死さが乏しかった。最初からこの特異点における物語の流れを知っているが故に、自分が負けるはずがないと確信していたからだ。

 彼は、人類史の一大事に対し、いかに自分の強さをアピールしつつ可愛いサーヴァントといい関係を築こうかとあれこれ考えていたのである。取らぬ狸の皮算用とはまさにこのようなことを言うのだろう。その下心を成就させうるだけの能力を得るために努力を惜しまず、人生の全てをこの時のための鍛錬に費やしてきたとはいえ、あまりにも彼の覚悟は軽かった。

 だからだろう、目の前に現れた原作の展開を木っ端微塵に破壊する大怪獣の姿を見て、ただ呆けていることしかできなかったのは。

 

 彼の存在に気がついたアーストロンは、息を大きく吸うと同時に喉を発光させ、口内に熱を溜め込む。

「先輩、危ない!!」

 アーストロンが自分たちを標的に定めたことを察したマシュは、とっさに彼を庇うように前に出てその巨大な盾を構える。そしてその直後、アーストロンの口からマグマ光線が発射された。

 一直線に迫り来るマグマ光線は、マシュの構える盾に直撃。すさまじい衝撃と熱と爆風が着弾点を襲った。まだまだ盾の使い方にも慣れていないマシュは、凄まじい衝撃にふんばりきれずに吹き飛ばされてしまう。

 彼も、体勢を崩したマシュに激突されて巻き込まれる形で吹っ飛ばされて地面にたたきつけられる。熱風と爆風そのものはマシュが遮ってくれたとはいえ、人一人を軽々と吹き飛ばす衝撃は凄まじく、背中からたたきつけられた彼は、肺の空気を全て押し出されて悶絶する。

「グゥウ!?」

 身体強化の魔術を咄嗟に使ったため、彼には目に見える大きな外傷はない。すぐに覚醒した彼は、周囲を覆いつくした巨大な影に気づき、顔を上げる。

 そこにいたのは、唸り声を上げる巨大な異形。その姿を見た彼は震え上がる、先ほど骨の髄まで響く衝撃と彼を襲った圧倒的な『“死”の恐怖』を思い出したのだ。

「ア、アァ……」

 彼は、思わず後ずさりする。こんなはずではない。この特異点は敵サーヴァントも弱く、サーヴァントをそれほど育てなくても突破できる優しい敵のレベル設定になっていたはず。なのに、どうして自分はここまで追い詰められているのか。

「せん……ぱ……い」

 その声を聞いた彼は一縷の希望に縋るように、声の聞こえてきた方向に首を回す。見なくても、声で分かる。この声は、マシュのものだ。デミサーヴァントである彼女の助けがあれば、ここから一時的に撤退することも難しくはないはずだ。

 その後で、カルデアのDr.ロマンと連絡を取ってこちらも態勢を立て直せばいい。アーストロンだって、型月屈指のチートサーヴァントであるカルナやアルジュナ、ギルガメッシュを召喚できれば倒せなくはないだろう。 そう、だからここは戦略的撤退を――そんなことを考えながら彼は声の聞こえた方向に振り向き、そして表情を一変させた。

「だい、じょうぶですか……」

 マシュはボロボロだった。マグマ光線の衝撃に耐え切れず、盾を保持しきれなかったためだろう。腕は曲がらないはずの方向に曲がっており、身体のいたるところから血を流しながら力なく横たわっている。間違いなく、重傷だ。ただちに死ぬことはないだろうが、怪我の状況からして立ち上がって移動することすら難しいだろう。

 アーストロンの得意技であるマグマ光線なんぞ、名前負けしているただの火球で、帰ってきたウルトラマンでもウルトラマンサーガでも大した威力はなかったはず。だが、その大した威力のない技を1発くらっただけで、デミサーヴァントであるマシュがボロボロになっている。

 マシュが未だ自分と融合した英霊の正体すら知らず、宝具の真名解放ができない状況であるとしても、その破壊力は脅威の一言だ。

「な……そんな!?」

 彼が身体強化したとしても、サーヴァントの身体能力には遠く及ばない。だからこそ、マシュに抱えてもらって逃げようと考えたわけだが、その頼みの綱であるマシュは満身創痍。彼は、自分だけでも逃げる方法はないか必死で考える。

「逃げ……て……ください。私は、もう……」

 だが、その考えは途中で投げかけられたマシュの言葉によって霧散する。身体はボロボロで、もはや逃げ切れない状況にあることを知りつつ、それでもマシュは彼の身を心配して、逃げろと言ったのだ。

 下心を原動力に人倫など欠片も存在しない魔術師の世界を生きてきた彼とはいえ、根は現代日本で育った正常な倫理観を持つ一般市民だ。自分の命をその身を挺して守り、満身創痍となった美少女を即座に見捨てられるほどに冷徹にはなりきれなかった。

「ああ、畜生!!」

 何も考えず、ただ衝動的にマシュの身体を抱き上げ、その身体を背負って走り出す。後先のことなど彼の頭には無い。ただ、この場を逃げるためだけに全力で身体強化をかけて彼は駆け出した。

 身長60mの怪獣の歩幅から考えうる移動速度からすると、魔術師が身体強化をして全力疾走した程度で逃げ切れるような相手ではない。それに加えて、人一人背負いながらの逃走となると、成功の確率は皆無に等しい。身を隠せる場所は周囲にないわけではないが、アーストロンが暴れまわれば身を隠せる場所ごと潰される可能性も高い。

 それでも、彼は必死に逃げる。

「先輩、だめです!!私を見捨てて……」

「うるさい!!黙ってろ!!……クソ、どうしてこんな!!」

 背負っている彼女を見捨てて逃げれば自分だけは助かるのに、誰かを見捨てることすら怖くてできない小心者。そのくせしてどこぞの顎鬚うっかり貴族のように、計画は万全だと余裕ぶる阿呆。おまけに、一人では逃げることすらままならない弱者。

 その挙句にとった行動が自殺行為――正確に言えば、心中のような行為だ。自身の情けなさに反吐が出そうだ。かつての生では、ラスボスメーカーの顎鬚や、事態を悪化させることしかできない横恋慕蟲おじさん、小物ワカメの醜態を笑っていたが、今の自分の方が彼らよりももっと情けない。

「クソクソクソ……畜生めぇえ!!」

 もはや、何に、誰に対してものか分からない罵声と共に彼は走った。

 

「何だ、やる時はやるやつみたいだな、坊主」

 

 必死で彼が走っていたその時だ。彼を前にあるビルの上に青いローブを纏った男が姿を現した。

「小賢しくて好きになれない輩と同じ臭いがすると思ったが……まだ見どころが残っていたか」

 少年が必死で少女を背負って逃げる姿を見ていた男は、口角を吊り上げる。そして、彼もローブの男の存在に気がついた。

「……アンタは!?」

しかし、逃げることに必死な彼は立ち止まって助けを乞うという思考にはいたらず、ただ叫ぶことしかできなかった。

「頼む、アーストロンを倒してくれ!!」

 非常時とはいえ、初対面の人間に言うことでも、頼むことでもない。だが、男は彼の事情も何となく察している。だから、特に追究することもなくカラカラと笑って応えた。

「ハハハ!!槍さえあればそれもできたんだろうが、生憎今の俺は()()()()()でな」

 男は杖を構え、その先に光を灯す。

「だが、足止めぐらいならば今の俺でも楽勝だ」

 凄まじい魔力が男から溢れつつあるのを感じたのだろう。アーストロンも標的をローブの男に切り替え、男を焼き尽くさんとマグマ光線を発射しようとする。しかし、マグマ光線が放たれる前に男は準備を完了していた。

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───倒壊するは灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)!!」

 男の言霊と共に、細木の枝で身体が構成された巨人が出現する。そして、巨人はアーストロンに抱きついてその身を焼き焦がす!!

 人間から見れば全長十数メートルのそれは確かに巨人と言えるだろう。しかし、身長60mのアーストロンからすれば、それは股ほどの高さしかない。いくら激しく燃えていようとアーストロンの全身を焼き尽くすには小さく、そして何より、巨人が纏う炎は熱さに耐性のあるアーストロンにとっては致命傷となるほどの熱さではなかった。

 とはいえ、自身の脚に抱きついて炎上する灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)がアーストロンにとって取るに足らない存在かといえば、そうではなかった。突然現れ、自身に纏わり付き、大怪我を負わせるほどではないが、火傷を負わせるほどには破壊力のある正体不明の物体。

 アーストロンは灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)を引き剥がそうと必死になって暴れる。そして、彼はどうにか灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)がアーストロンの注意を引きつけているうちに、アーストロンの目の届かないところまで逃走することに成功した。

 

 

「…………あ、ヤバ」

 身体強化に回していた魔力が切れ、彼は膝から崩れ、前に倒れこむ。しかし、彼が崩れる直前に横から入り込んだ腕が彼を受け止めた。

「大丈夫っスか!?しっかりしてください!!」

 そして、疲労と魔力の枯渇から意識を失いかけた彼の瞳は、最後にその視界にポニーテールの少女の姿を写した。

「うわ!?後ろの女の子も酷い怪我です!!オトコ、すぐにこっちの女の子運んで!!」

「オトコ言うな!!ネコさんと呼びなさい!!」

 

 その顔を覚えている。

 茶色いセミロングの髪、短めのポニーテールにジャージの長袖とブルマ。一見どこにでもいそうな体育会系美少女(?)の姿。

 ――かつて見た彼女の姿が、あの物語の中における日常の象徴だったから。

 まるで、攻略対象の幼馴染お姉さん系ヒロインではないかと思ったほど。

 

「君は……」

「私は藤村大河!!この街を守るレジスタンスのリーダーやってます!!」

 

 彼は、自分がついさっきまで死の直前にいたことを忘れるくらいに、彼女が浮かべた希望に満ちたきれいな笑みに見惚れていた。

 

 

 

 

 

 

『ドキュメントFGO』

 

 

 

名前:アーストロン

種別:凶暴怪獣

身長:60m

重さ:2万5000トン

能力:口から出すマグマ光線

 

 

 頭の鋭利な角「スラッシュホーン」と口から吐く「マグマ光線」を武器とする地底怪獣。

 黒くて堅い表皮はミサイル攻撃ぐらいではびくともしない。両腕と尻尾も中々の力がある。……まぁ、大概の怪獣はこれぐらいの防御力と力は持ち合わせているのだが。

 主食は鉄なのに、何故か地上に現れて暴れまわる。ウルトラマンメビウスでの登場時は宇宙凶険怪獣ケルビムに操られていたので分からなくもないが、帰ってきたウルトラマンでの登場時は本当に何故地底に帰ろうとしなかったのか分からない。凶暴なのは分かるが、藁葺き屋根の家しかない山間部で何が暴れたくなるほどにアーストロンにとって気に入らなかったのだろうか……。

 なお、スラッシュホーンは武器であるとともに、弱点でもある。これを折られると目を失ったシャコの如く戦意を喪失してしまう。

 その王道的なデザインもあってか、ウルトラマンジャックの最初の敵に抜擢され、その後のシリーズでも度々登場する。……のだが、その度にあまりいいところもなく倒されてしまう。メビウス出演時は、操られていただけなのにとばっちりで首チョンパされており、出番があるだけマシとはいえ、幸の薄い怪獣である。

 しかも、弱点であるスラッシュホーンを破壊して勝利したのはウルトラマンジャックだけであり、その他の対戦相手には弱点を狙われることもなく普通に敗北している。弱点を狙わなくても普通に勝てる程度の実力しかなのだろう。

 一応、ウルトラギャラクシー大怪獣バトルで白星があることにはあるが、白星を挙げた直後にエレキングに水中に引きずり込まれ、感電させられた上に爆死させられている。

 このような戦績では噛ませ犬といわれても仕方がないかもしれない。




ドキュメントFGOとは、ウルトラマンメビウスにおける防衛チーム、GUYSが度々三章しているGUYS総本部のデータベースに記録された過去に活躍した防衛チームと戦った怪獣や宇宙人の「アーカイブドキュメント」のようなものと考えてください。
ただし、ドキュメントFGOは過去の防衛隊の記録ではなく、主人公の立香君の記憶ですので、ところどころ妙な記述がある場合もあります。
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