「助けていただいて、ありがとうございます」
「いいのよ。見殺しになんてできなかっただけだから」
見ているものを安心させる柔らかな笑みを浮かべる若き日のタイガー……もとい、藤村大河。
第五次聖杯戦争時の彼女のよりも魅力的で、より可愛らしく感じるのはやはり、若いからなのだろうか?助けてもらっていながらそんな不謹慎なことを転生者である藤丸立香は考えていた。
どうやら、さきほどのパニック状態から一周回って多少は周囲の状況が理解できるほどに冷静になったらしい。アーストロンの出現に加えて藤村大河という型月一の幸運値を誇るヒロインになれない女、それに加えて先ほどから背中にあたるものすごく幸せになれる柔らかい感覚。それらが彼の中でこんがらがった結果だろう。
立香は大河に先導され、状況の整理とマシュの治療を兼ねて彼女たちの本拠地に向かっていた。
「それで……君達は一体どこから来たの?」
純粋な疑問なのだろう。大河の瞳には、打算的な考えは一切見て取れなかった。立香はここで回答を渋って彼女たちとの関係を悪化させることは拙いだろうと考え、とりあえず魔術のこと以外は話すことに決めた。しかし、藤村大河はその直後回復したばかりの冷静さを吹っ飛ばす一言を告げる。
「あ、私たちは魔術についても知ってるから、神秘の隠匿については気にしなくていいからね」
「はいぃ?」
立香は負傷して身動きが取れないマシュを背負ったまま頭を抱えた。何故、魔術には縁の無かった彼女が魔術について知っているのか。そのことが、この炎上都市冬木におけるイレギュラーな事態と何か関係があるのか。頭が全く整理できず考えも纏まらない。
「ど、どうして魔術を?まさか魔術とこの状況に関係が?」
混乱している立香を見て、大河は苦笑する。
「え~と、色々と訳が分からないみたいね。なら、こっちから事情を説明した方がいいか」
「しかし、大河。そうはいうものの、私たちではあまり専門的な話はできない。ここは
オトコと呼ばれていた女性が助け舟を出す。
「先生……ですか?」
立香に背負われているマシュが尋ねる。
「ええ。私達レジスタンスの協力者でね。昔は神童って言われていた天才魔術師らしいの」
オトコの言葉に反応し、立香が我に帰る。この冬木は、タイガーの容姿が弟子ゼロ号であることから考えるに、第四次聖杯戦争のころと見て間違いないだろう。そして、その時期に冬木にいるであろう魔術師、そして神童と呼ばれた男。彼の中で点が線となり繋がった。
まさか、彼女たちが
「フラフラと出歩いてはまたお客を拾ってきたのか君は」
気がつけば、どこか見覚えのある純和風の大きな邸宅――第四次聖杯戦争後には衛宮邸となる屋敷の前まで来ていた。そこで、ローブに身を包んだ金髪の男が大河を出迎える。
「先生すみません……でも、見過ごせなくって」
「全く。君には様子を見るということを頼んだだけだ。彼らが敵か味方かあるいは無関係だった第三者か……そんなこともわからずに連れてくる理由がそれかね」
先生と呼ばれた男は溜息をついた。どうやら、大河の扱いにはかなり難儀しているらしい。彼の溜息からは彼の疲れがどことなく感じ取れる。
「貴方は、まさか……」
「君の推察通りだろうな。私はアーチボルト家9代目当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。今はこのレジスタンス組織『藤村組』の協力者をしている」
「レフ……ロマニ……誰かいないの!?」
立香たちが、レジスタンス組織『藤村組』の拠点に辿りついていたころ、立香たちがいる深山町とは未遠川を挟んだ反対側に位置する都市部の一画で、オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは声を張り上げていた。
彼女は
「どうして私がこんな目に……大体なんでスタッフの誰も私を助けにこないのよ」
彼女は少し前に、車どころか人の影すら見えない交差点で目を覚ました。
目を覚ます前の彼女の最後の記憶は、管制室で終わっている。
レイシフトに向けた準備が終わったところで突然目の前が真っ赤に染まり、轟音が全てを掻き消していたところまでしか覚えていない。
それが何故こんな無人の地方都市にいるのか。彼女には自分の身に何が起こったのか、まるで理解できなかった。かろうじて理解できたことといえば、ここがかつて世界最悪の規模の聖杯戦争の果てに人の住めない土地と化したはずのFUYUKIと呼ばれる土地であり、どうやら人の気配は周囲にないということ。
そして、自分は管制室にいたときと同じ服装と持ち物しか持ち合わせていないということぐらいだ。
しかし、彼女の災難はこの未訪の地での遭難に留まらなかった。突如地面が大きく揺れ、オルガマリーは立っていることもままならずにアスファルトで舗装された道路に這い蹲る。
「こ、今度は何!?」
地の底から聞こえてくる地響きが次第に大きくなり、振動もまた次第に強く、より振れ幅が大きくなっていく。
オルガマリーの後方で何かが爆発したかのような衝撃音が響いた。吊られて振り返ったオルガマリーが見たのは、まるで噴火か何かに巻き込まれたかのように宙に弾き飛ばされた土砂やコンクリート片、そして、巨大な鞭のような物体だった。
「触手……いや、腕!?」
突如地底から出現した
鞭のようにしなる長い両腕。体表には無数の鋭い棘が生えており、頭部には巨大な二本角。
その巨大な生物の名は、グドン。
地底怪獣の別名を持つ、中生代ジュラ紀に生息していた恐竜の一種である。
「あ……あぁ……」
オルガマリーは目の前に出現したグドンの咆哮に恐怖し、足が竦んで動けないでいた。強者が己が存在を知らしめんがために放つ巨大な咆哮に、彼女の人間としての本能が圧されていたのである。
そして、グドンは彼女の方にその足を向けた。オルガマリーは這うようにして逃げようとするが、それでは到底グドンの足から逃れられない。実は、グドンには彼女の姿なんぞ目に入っておらず、偶々グドンの進行方向に彼女がいたというだけのことなのだが、そんなことは今まさに踏み潰されようとしている彼女には関係のないことだった。
「何なのよこいつら!?なんだってわたしばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」
オルガマリーの脳裏にこれまでの人生が走馬灯のように蘇る。
思えば、何も報われない人生だったと彼女は思う。
父の期待に応えるために勉学にも魔術の研鑽にも必死で励んだが、父は三年前に帰らぬ人となった。結局、生まれてからの23年の間、その父ですら娘であるオルガマリーの努力を認め、褒めてくれはしなかった。
父の死後は、
それなのに、誰もが彼女の仕事を認めない。彼女の成果を褒めたりしない。彼女を評価してくれない。
そう――彼女は23年間、誰からも認められず、評価されず、褒められない人生を送ってきたのである。
「もういや、来て、助けてよレフ!いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」
目の前には、避けることのできない絶対の“死”。誰からも自身を褒めてもらえず、心の乾きを潤すことなく死を迎えることに、彼女は恐怖する。常に自身を評価してくれる誰かを求めて乾いて砕けそうになっていた心を支えてくれたレフもいない。
「いや―――誰か助けて!私を助けて!!こんなところで死にたくない!死んでいいわけない!!」
「だってまだ誰も私を認めてくれてない!!」
彼女の魂の叫びもグドンの巨大な足音に掻き消され、誰の耳にも届かない。
気がつけば、彼女の周囲は巨大な影に覆われていた。
彼女を覆うその影の正体は、ゆっくりと歩き出したグドンの足の裏だ。
そして、彼女は目前に迫った死を直視したことで、理解した。
「また……またなの!?今度も助けてくれないの!?」
時計搭との交渉で、到底呑めない要求を突きつけられた時も、決済をしなければならない書類が溜まって何日も所長室から出られなかった時も、システム異常が発生して24時間体制で原因究明に追われた時も、誰も彼女に手を差し伸べなかった。
「助けてよ。誰でもいいから、助けてよ……」
誰が彼女を気遣ってくれただろう。誰が、自分の身を案じてくれただろう。
オルガマリーの瞳から涙がとめどなく流れ出す。
それは、これまでの人生の不条理への嘆きか、この後に及んで誰も彼女の味方となってくれないことに対する絶望か。
「お願い、誰か――」
迫り来るグドンの足の裏が、頭を抱え、目を瞑って蹲る彼女を覆いつくそうとしたその瞬間。彼女の周囲は光に包まれた。
「デュワッ!!」
瞼を閉じている彼女が知覚できたのは、超重量の物体同士が激突したような鈍い大きな音と、続いて何かが勢いよく地表にぶつかったかのような振動だけだった。
大地がトランポリンのようにはずむほどの振動にオルガマリーも振り回され、何が起きているかも分からずに思わず頭上を見上げた。
そして、彼女は見た。先ほどまで彼女の目の前にいたはずが、数十メートル先で痛みからのたうちまわっているグドンの姿を。さらに、彼女を守るようにグドンの前に立ち塞がるのは、赤いボディーの巨人。
オルガマリーも知識としては知っている。
十数年前に冬木の地でおきた聖杯戦争で初めてその存在が確認され、数年ほど前から世界各地で目覚めた怪獣から人々を守るために戦う姿が報告されている光の国からやってきた正義と平和の使者。
どれだけボロボロになろうと、最後まで戦い抜いて人々の命と未来を守り抜く光の巨人。
そう、その名は――
「ウルトラ……セブン…………」
赤いボディーに銀のプロテクターを纏った戦士は、突然の襲撃に激昂するグドンの前で、ファインティングポーズを取る。
背筋を伸ばし、両腕を正面に構える隙のない構えをとった戦士の姿を、オルガマリーはただ呆然と見つめていた。
――この日、彼女は運命に出会った。
『ドキュメントFGO』
名前:グドン
種別:地底怪獣
身長:50m
重さ:2万5000トン
能力:鞭上の両腕から繰り出す打撃
中生代・ジュラ紀に生息していたとされる怪獣で、主な食糧は海老のような味がすると言われている古代怪獣ツインテール。海老のような味がするということは、実際に誰か食べたのだ
ろうか?それとも、蟹や海老の旨み成分としても知られる甘味系アミノ酸のグリシンがツインテールの身に含まれていたのだろうか?個人的には後者であってほしいと思う。
全身は棘の生えた甲殻で覆われており、体表はMATのMN爆弾では歯が立たないほど頑丈。。
初登場時はウルトラマンジャックと対戦し、一度はツインテールとの戦いに巻き込まれたウルトラマンジャックを敗退に追い込むも、再戦時は一対一であったためあっけなく倒されている。
鞭のような腕でどうやって地面を掘るんだという突っ込みがあったからか、ウルトラマンメビウスとの戦いの際には、鞭は高速振動しており、その振動で岩盤を掘り進めるという設定が付け加えられた。
特徴的なフォルムからか、幾度か再登場の機会にも恵まれている『帰ってきたウルトラマン』を代表する怪獣のうちの一体。
因みに、ツインテールにとって捕食者たるグドンが天敵であるように、グドンにもまた捕食者で天敵である海の凶悪怪獣が存在するらしい。