助けて!!チートラマン!!   作:後藤陸将

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もう大丈夫 私が来た

「地球環境モデルを投影し過去を観測、英霊召喚を応用したレイシフト……それら全てを霊子演算機の導入によって可能にしたわけか」

 

 立香たちは、藤村組を名乗るあきらかに反社会的勢力なネーミングのレジスタンス組織に拾われ、何故かこの組織において魔術関係の顧問をしていたケイネスに自分たちのことを説明していた。

 どうやらケイネスは人理継続保障機関(カルデア)の存在も小耳に挟んだことがあったらしく、説明は短時間で終わった。人格的には何だかんだ言われているが、ケイネスは間違いなくこの時代の魔術師の中では群を抜いて優秀な存在なのだ。

「アニムスフィアの後継者も上手くやれたらしいな。噂でしか聞いたことはなかったが、それなりに優秀だったらしい」

「ええ、まぁ」

「そして、この時代は特異点と化している。なるほどな、特異点の発生原因を解明してそれを排除すればこの特異点は消滅し、特異点にいる我々は消える……しかし、我々の記憶は正しい歴史の流れの中にいる我々には受け継がれないということか」

 冷静に現状を分析するケイネス。時計搭の神童というだけあって、立香の拙い説明でも現状を理解するのにそう時間はかからなかった。

 しかし、立香は先ほどからケイネスの態度に拭いきれない違和感を感じていた。このケイネスは、立香の知るケイネス・エルメロイ・アーチボルトと比べ、人格が非常に丸いのである。

 立香がかつて読んだ第四次聖杯戦争時の冬木を舞台とした作品『Fate/Zero』に登場したケイネスという男は、傲慢でプライドが高く、平気で魔術師以外を見下すエリート意識を悪い意味で丸出しの男だった。

 そもそも、ケイネスのキャラクターはこの物語における主人公、衛宮切嗣の魔術師殺しというキャラクターを描くための素材としての側面が強く反映された設定をされている。おまけに、ヒステリックで自身のミスも認められない器の小さな男だ。所謂噛ませ犬というやつであり、数多のキャラにとって不幸な結末となった『Fate/Zero』においてもその末路の悲惨さはトップクラスである。

 そんな立香が知るケイネスが、他の魔術師の功績を素直に賞賛し、さらには魔術師ですらない藤村大河とここまで良好な関係を築けるのだろうか?彼の知るケイネスであれば、暗示をかけて大河たちを支配下においてあれこれと(的外れな)指示を出しそうなものである。

 しかし、見たところ大河や音子は暗示をかけられている兆候は見て取れない。でなければ、ケイネスにあそこまで馴れ馴れしく接することはできないだろう。時計搭の神童たるケイネスならば自分の目を誤魔化すことのできるほどの精度の高い暗示をかけられても不思議ではないが、だとしてもケイネスに対する接し方を馴れ馴れしくする必要はない。

 また、型月界でもウェイバー・ベルベットと並んで幸運値トップ争いをするラッキーガール、タイガーとはいえ、流石にここまでの人格矯正ができるとは思えない。タイガーにそんな力があったなら、あのワカメはもう少しマシな人間になっていたはずだろう。

 立香が本人を目の前にして失礼なことを色々と考えていると、ケイネスが訝しげな表情を浮かべながら問いかけた。

「……なんだね?私の理解にどこか間違っている点でもあったというのか?」

「いえ、別に」

 自分に非がある可能性を認めてその上で確認してくるなんて、貴方本当にケイネス先生ですか?という疑問が口から出そうになるのをグっと堪えながら立香は答えた。

 しかし、ケイネスは彼が何か別のことを考えていることは察しているのだろう。彼は訝しげな表情を崩そうとはしない。そこに、凛とした女性の声が聞こえてきた。

「あの少年は貴方のことを知っているのよ、ケイネス」

 襖を開けて現れたのは赤髪の女性――ケイネスの婚約者、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだ。

 本来の歴史であれば、ケイネスが召喚したサーヴァント、ディルムッドの魅了の呪い(チャーム)によって恋心を抱いて暴走。婚約者たるケイネスをとことん追い詰める役回りを担った女性である。まぁ、彼女も中々悲惨な最期を遂げてはいるが、最期の時は意識を失っていた為、ケイネスに比べれば遥かに幸せな最期だったのかもしれないが。

「日本に来る前の貴方を知っていれば、今の貴方の変貌に驚くのも無理も無いわ。そうよね?」

「ええ、まぁ……」

 ソラウに核心をつかれてしどろもどろに答えるぐだ男。それを聞いたケイネスは不機嫌そうに眉を顰めた。

「ソラウ、私は」

「事実は事実よ。貴方はここに来て変わった。昔の貴方のことに対して色々と思うことはあるのでしょうけど、それはそれとしておきなさい」

 ケイネスはソラウの指摘を前に閉口する。どうやら、性格が変わっても二人の間の力関係は変わっていないらしい。

「さて……貴方達の事情は障子越しではあるけど、聞かせてもらったわ。万が一のことを考えて、私は外で待機させてもらっていたの、ごめんなさいね」

 不機嫌そうなケイネスを差し置いて、ソラウがこちらに向き直る。

「今度は私達の番ね。とりあえず、私達が日本に来ることになった理由から説明させてもらうわ」

 そして、ソラウは語りだした。本来の歴史の流れと違う第四次聖杯戦争の中で、一体何が起きたのかを。

 

 

 

 

 そもそも、ケイネスは自身の経歴に武功という箔をつけることができるであろう聖杯戦争に参加するためにこの冬木の地を訪れた。聖杯戦争とは、選ばれた七人のマスターが英霊を召喚、使役する魔術儀式のことであり、自分以外のサーヴァントとマスターを脱落させることが勝利条件となる。

 ケイネスも万全を期して征服王イスカンダルをライダーのクラスで召喚することに成功したものの、召喚されたライダーは自由奔放であり制御することが難しく、ケイネスは文字通りライダーに振り回されていたという。

 とはいえ、大英雄たるイスカンダルを、世界屈指の魔術師であるケイネスがマスターとして支えているのだ。ケイネス陣営は、()()の聖杯戦争であれば比肩しうる陣営は存在しないといってもよかった。ただ、今回の聖杯戦争は通常のそれとは格の違うサーヴァントが複数召喚される異例の事態だったのだが。

 因みに、彼らは知る由もないことではあるが、この聖杯戦争においてイスカンダルとまともに戦えるサーヴァントは聖杯戦争始まりの御三家のひとつ、アインツベルンが召喚したセイバー、アーサー王、加えて同じく御三家が一つ、遠坂家が召喚した英雄王ギルガメッシュぐらいしかいなかったようだ。

 超級のサーヴァントが3体も揃うことになった時点で、この聖杯戦争は通常のそれとは著しく剥離していたといっても過言ではなかった。

 しかし、今回の聖杯戦争は通常の聖杯戦争とは異なるものであった。聖堂教会から派遣された監督役、言峰璃正神父から聖杯戦争開始の宣言がなされた直後、冬木から多数の人が消えたのだ。殺されたのではなく、文字通り血一滴残すことなく消滅したのである。残されたのは、聖杯戦争関係者と、非力な女子供のみだった。

 そして、同時に空に現れた巨大な円盤と、それによって街に放たれた無数の怪獣たち。怪獣たちはまず積極的にマスターとサーヴァントを襲った。

 ケイネスとライダーも街に現れたゴメスを相手に死闘を繰り広げ、令呪三画の消費によって強化された遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)を口内に突っ込ませることによってどうにか撃破したものの、直後にブラックキングの襲撃を受けてライダーを失ってしまう。

 他のマスターたちも迫り来る怪獣相手に抵抗を試みたらしいが、どうやら全ての陣営が撃破されたらしい。というのも、これはケイネスが使い魔を使って各地を偵察した結果分かったことであるが、アインツベルンの森は全身からミサイルを放つ怪獣の襲撃を受けて一面が焦土と化し、遠坂邸は空から降ってきた巨大な繭らしきものに占拠されたそうだ。

 

 これもケイネスの知る由も無いことではあるが、各陣営はキャスターのサーヴァントを除き必死の抵抗の末に全滅していた。

 例えばアインツベルン陣営であるが、彼らは用心棒怪獣ブラックキングの襲撃を受けた。セイバーは魔力放出による高速移動とその身体の小ささを活かしてブラックキングを翻弄、1時間に及ぶ死闘の末に、眼球から脳天を聖剣の光で貫いて撃破することに成功する。

 しかし、その直後にミサイル超獣ベロクロンの襲撃を受け、消耗していたセイバーはミサイルの絨毯爆撃によって致命的なダメージを受けて脱落する。彼女のマスターである魔術師殺しも、身を隠していた森ごと爆撃で燃やし尽くされて脱落した。

 また、おそらくはこの聖杯戦争で(サーヴァントの実力だけを見れば)最強に限りなく近かった遠坂陣営も、複数の怪獣の襲撃を受けて脱落していた。

 磁力怪獣アントラー、双頭怪獣パンドンの同時襲撃を受けながらも令呪を切らずに撃退したあたり、やはり原初の英雄王は並み居る英霊の中でも文字通り格の違う大英雄だったのだろう。

 しかし、英雄王は天下無双であっても、英雄王に魔力を供給する側の遠坂時臣はそうではない。英雄王がじゃれついてくる狂犬(英雄王視点)に誅罰を下している間に魔力が切れ、長年にわたって溜め続けた宝石も二体の怪獣を撃破した時点でほぼ底をついていた。

 乖離剣(エア)を出して天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を使って二体の怪獣を葬った方が遥かに魔力的な消耗は少なかっただろう。

 しかし、流石にあの英雄王が怪獣とはいえ獣程度に乖離剣(エア)を抜いてくれるはずもなく、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)からの絶え間ない宝具の絨毯爆撃によって時臣はかなりの消耗を余儀なくされていたのである。

 そして、疲弊した時臣は、背後に現れた異形の甲冑をきた何者かに隙を突かれて殺害され、マスターの死亡により魔力供給を絶たれた英雄王は突如頭上から降り注いだ巨大な繭との戦いの末に繭に飲み込まれた。

 因みに、英雄王の直接の敗因はやはり慢心であった。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)による宝具の絨毯爆撃で繭をボコボコにしていた隙に、密かに繭が地中から回りこませた触手の攻撃を受け、その触手から吸収されてしまったのである。

 吸収の特性と、聖杯によって召喚されたサーヴァントに特攻効果のある何かの力の相乗効果には、流石の英雄王も耐えられなかったらしい。慢心さえしていなければ、この攻撃も避けられただろうが。

 

 その後サーヴァントを失ったケイネスは、自身の敗北が受け入れられず、冬木ハイアットホテルの最上階で「ライダーが弱すぎた」「この聖杯戦争という儀式を考えた田舎の魔術師は愚かだ」「そもそも、こんな下劣な儀式に私が出ては、私自身の格が下がる」などと自己正当化のための他人への呪詛を撒き散らして引篭もった。

 ソラウは呆れてモノも言えなくなり、ケイネスをしばらく放置して頭に昇った血が下がるのを待つことにしたが、2、3日待ってもケイネスの容態に変化はなく、寧ろ悪化の一途を辿っていたらしい。

 そして、ケイネスがブツクサ言いながら引篭もってから数日経ったある日、ついに冬木ハイアットホテルはミサイル超獣ベロクロンの襲撃を受けて倒壊する。

 ケイネスは冬木に持参した全ての礼装を持ってベロクロンを迎え撃ったが、当然のことながらベロクロンに敵うはずもない。圧倒的な力の差の前に、己の魔術師としての誇りも自信も全てを圧し折られ、生まれて始めて彼は絶望というものを知った。

 死の恐怖に震えるソラウを抱きしめることしかできない己の矮小さ、無力さに悔しさを覚え、これまでの己を恥じ、後悔というものを知る。全てが初めての経験だった。この時、これまでの彼を支えていたものは全て折れたのだ。

 もっと、ライダーと言葉を交わし、己の能力に慢心することなく聖杯戦争に望んでいれば、愚痴を垂れ流している余裕があったうちにソラウと共に安全を確保するための策を講じていれば――確実な死をもたらすベロクロンの足音が迫り来る中、ケイネスは過去の己に対して憤りながらも、ただソラウだけでも助かることを祈り、彼女を庇うように覆いかぶさった。

 しかし、己の絶対的な能力を信じていた彼が、初めて誰とも分からない他者の力に縋ったその瞬間。奇跡が起きた。

 

 

 

 

「怪獣のそれとは違う、静かに、それでいてどっしりとした足音と共に現れたのは、巨人だったわ」

 ソラウは、それまでの淡々とした口調から一転して、半ば懐かしむような口調で語る。

 その瞳には光が灯り、胸には澄んだ蒼き輝きを放つカラータイマー。銀と赤、青を基調としたスタイリッシュなボディ。その容貌からは、どこか神聖さすら感じられるという巨人の姿。

 この時点で、立香はその巨人の正体に半ば当たりをつけていた。タイマーや光る瞳という言葉から察するに、その巨人は間違いなく光の巨人――ウルトラマンだ。そして、体色に赤、青、銀とくれば候補者は限られてくる。

 ソラウは語り続ける。巨人は僅かに腰を屈め、両手を前に構えてファインティングポーズを取った。それに対し、ベロクロンはまるで仇を見つけたかのように興奮して巨人にミサイルの集中砲火を浴びせたという。

「飛んでくるミサイルに対して、その巨人は両手を前に出し、目の前に光のバリアを展開したの。ミサイルはバリアに阻まれて、その奥にいる巨人には傷一つつけられなかったわ。無数のミサイルをなお平然としている巨人に対してこのまま距離を取っていても埒が明かないと判断したのか、続いて怪獣は巨人へと突進したの」 

 しかし、巨人はベロクロンの突進を正面から受け止め、そのまま背中から倒れこみながら巴投げをきめた。蹴りを腹に叩き込まれ、そのまま上空へとばされたベロクロンは苦悶の声をあげながら地面にたたきつけられ、その衝撃でケイネスたちも数十センチ跳ね上がったそうだ。

「地面にたたきつけられて苦しそうに立ち上がる怪獣を真っ直ぐ見据えて、巨人は腕を十字に組んだの――そして、その十字に組んだ腕からは澄んだ光の奔流が溢れだし、そのまま怪獣へと突き刺さって、怪獣は爆発四散。私達はウルトラマンダイナに救われた……」

「ウルトラマン……ダイナ?」

 唐突に出てきたその名前にマシュが首を傾げる。彼女も、怪獣が頻出するこの世界で人々のために怪獣と戦い続ける正義の味方――ウルトラマンという存在は知っている。しかし、ウルトラマンダイナなどという光の巨人については心当たりがなかった。

「どんなときも諦めずに困難にぶつかっていく光の巨人――私達を救ったあの巨人の名前よ」

 ソラウがウルトラマンダイナについて語るその様子は、まるでファンが自身の大好きな英雄について語るかのように誇らしげだった。

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