ケイネスの話を要約すればこういうことになる。
第四次聖杯戦争の開始と同時にこの世界からは非力な女子供と聖杯戦争関係者以外の人間は文字通り跡形もなく消滅し、それと同時に怪獣が多数出現。
聖杯戦争に参加したマスターとそのサーヴァントは怪獣に抗戦するも、全騎が激闘の末に消滅。ケイネス以外のマスターは消息不明となっており、既にこの世にいない可能性も高い。
そして、怪獣に襲われて絶対絶命のピンチに陥ったソラウたちを救った光の巨人。ウルトラマンダイナ。
怪獣を撃退した後、ダイナは変身前の姿――アスカ・シンの姿に戻り、この異常事態を解決するためにケイネスたちと行動を共にすることとなる。その後、この世界に残された子供や女性を保護し、マスターを失いながらもしぶとく生き残っていたキャスターのサーヴァントを仲間に引き入れてレジスタンス組織藤村組を組織したということらしい。
しかし、そのアスカ・シン――ウルトラマンダイナは今どこに?とマシュが問いかけたところ、帰ってきたのは絶望的なものだった。ウルトラマンダイナは旧遠坂邸に出現した巨大な繭と、その頭上に座す巨大円盤こそがこの特異点を形成している原因である可能性が高いと判断し、これの排除を試みたが、それに失敗したのだ。ウルトラマンダイナは繭に囚われ、最期には物言わぬ石像と化して倒れたという。
その一部始終を語ったソラウは、最期には年甲斐もなく泣きじゃくっていた。ウルトラマンダイナは、彼らにとっては紛れもなく希望であり、その喪失は絶望と同義だった。そして、ウルトラマンダイナを失い、長期的な活動方針を失って途方にくれていた彼らにとって、自分たちとの出会いは現状の打破に繋がる新たなる可能性だったのだろう。
だからこそ、彼らは自分たちとの意見交換を重要視しているのかもしれない。
マシュは予想以上に悪い状況に顔を青ざめ、ソラウとケイネスも立香たちが現状を打破する可能性としては期待はずれだったためか沈痛な表情を浮かべている。ケイネスの許可を得てカルデアとの通信ラインを確保したはいいものの、カルデアもテロの直後ということもあり大混乱の最中だ。
状況を共有したDr.ロマニもカルデア側の設備の応急修理やレイシフト中の自分たちの観測だけで手一杯の状態らしく、こちらを積極的にサポートして戦局に寄与できる状態ではない。
そして、我らが主人公(になってしまった)藤丸立香はケイネスとソラウからこれまでの経緯を聞き、内心では頭を抱えていた。周囲に人がいなければ、Fate/Grand Orderのチュートリアルはどこへ行ったと大声で叫んでいただろう。
状況は最悪と言っていい。
本来の炎上都市冬木は、チュートリアルの側面が強いステージであり、現れる雑魚敵も動く骨人形ぐらいのものであり、敵となるサーヴァントも一部を除いて理性を失い弱体化した状態だった。
脅威となる敵は、セイバー・オルタぐらいなもので、後はキャスニキの助力があればどうにかなる。魔神柱も出ないし、石や呼符で☆4以上の鯖でも引いて適当に種火食わせてレベル上げておけば磐石だ。一日に一画回復する令呪を三画切って、全騎HPとAPを回復させるという奥の手もある。
寧ろ序盤の敵となるのは雀の涙ほどしかないAPだろう。ただ、そのAPもレベルが上がってからは自然回復で十分回せる余裕ができるし、AP全回復の効果がある黄金の林檎なんて腐るほどに持て余すことになる。どうせ同じ黄金の林檎をくれるのであれば、アタランテの絆MAX時にもらえるボーナス礼装の方がよっぽど有用である。
しかし、現実は非情である。炎上都市冬木はチュートリアルどころか最初からクライマックスの難易度となっていた。ひょっとすると、第七特異点よりもキツイかもしれない。例えるなら、マサラタウンを出て一番道路に入ったと思ったら、そこはシロガネ山だったというところか。こんな設定をした開発陣はユーザーの襲撃を受けるだろう。
何せ、敵は慢心していたとはいえあの英雄王すら打倒した怪獣軍団だ。加えてこちらの戦力となるサーヴァントは自身と合体した英霊の正体も分からず、真名解放も微妙で戦闘経験も皆無なマシュぐらいで、キャスニキ以外の味方サーヴァントはゼロ。さらに唯一の希望だったウルトラマンダイナは敗北し石化しているという。
そして、生前に円谷、大映、東宝特撮を愛していた立香はこの無理ゲーとしか言いようの無い難易度ルナティックなステージに心当たりがあった。
無人となり、絶望する女子供しか残らない街に、突如出現した怪獣たち――アーストロン、ゴメス、ベロクロンにブラックキング、アントラーにキングパンドン。繭と巨大な円盤、石化したウルトラマンダイナ。
――これ、ウルトラマンサーガじゃん。
ウルトラマンサーガ。端的に説明すれば、ウルトラマンの存在しない世界『フューチャーアース』を舞台に、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンゼロ、ウルトラマンコスモスの3人のウルトラマンが全宇宙を支配下に置こうと企むバット星人と戦う映画である。
状況は、この物語と非情に酷似している。巨大な繭とそこから飛び出る触手はハイパー・ゼットン(コクーン)の能力であるし、女子供など非力な人間を敢えて残し、彼女達に怪獣をけしかけて絶望を味あわせ、その絶望をハイパーゼットンの糧とする点も共通だ。
そして、この世界に降り立った最初のウルトラマンであるダイナと、その敗北からの石化。まさに、状況は映画『ウルトラマンサーガ』のフューチャーアースそのものだ。となると、この世界に、ウルトラマンゼロとウルトラマンコスモスは存在するのだろうか?しかし、今のところ彼らが存在する兆候は見て取れない。となると、状況は難易度ルナティックを通り越して最悪だ。
何せ、このウルトラマンサーガという映画におけるラスボスは、ハイパー・ゼットン(イマーゴ)だ。
そもそも、初代ウルトラマンを倒したこともあって宇宙恐竜ゼットンは最強の呼び声も高い怪獣である。
超威力の火球、バリアにテレポート。どれも一級品の能力であり、ウルトラマンの必殺技、スペシウム光線ですら倒せなかった。
しかも、このハイパー・ゼットン(イマーゴ)はEXゼットンやパワードゼットン、ファイヤーゼットンなどといった数ある他のゼットンの亜種、上位種と比べても圧倒的な強さを誇る。
当然のことながら、かつてバット星人が地球に連れてくるもウルトラマンジャックにあっけなく倒されたぶよぶよした肥満体型で薄汚いゼットン(二代目)など話にならない強さだ。ゼットン養殖にかけては宇宙一と称されるバット星人の面目躍如である。
ハイパー・ゼットン(イマーゴ)は残像を残し擬似的な分身すら可能とするハイパーゼットンテレポートや敵の放った光線を倍返しで跳ね返すハイパーゼットンアブゾーブ、至近弾にも関わらずウルトラマン3人を戦闘不能に追い込んだ暗黒火球など、チートとしか言いようの無い技を使う。
実際、ウルトラマン3人がかりでも手も足も出ず、ダイナ・ゼロ・コスモスが合体して誕生した奇跡の超戦士ウルトラマンサーガでようやく互角という化物ぶりであった。もしもこれが敵であるのなら、現状で勝てる可能性なんて皆無といっていい。チートラマン呼ばないと無理だ。
ウルトラマンギンガSに登場したときは着ぐるみが痛んでいたのか知らないが何故か羽がもがれ、予算不足からかテレポートも火球も殆ど使わずバリアにいたっては使用せずという凄まじい弱体化を遂げていたし、脚本的な問題でどうにかウルトラマンを勝たせるためにハイパーゼットンアブゾーブに至っては容量オーバーで吸収しきれないなどの醜態を晒していたため、この形態であればウルトラマン二人いれば十分余裕を持って倒せるはずだが、これは例外中の例外だ。
本来のハイパー・ゼットン(イマーゴ)はその辺のウルトラマンを何人か集めたところで戦闘にすらならないのだから。
せめてハイパーゼットンがギガントかコクーン形態の内に撃破し、バット星人が合体してイマーゴに進化する余地を与えなければワンチャンあるかもしれないが、それですら現状の戦力では絶対に無理だとぐだ男は判断した。
ギガントを倒すにもゼロ・ダイナ・コスモスの力が必要だった点を考慮すると、この案でもウルトラマン(ナイスとゼアスとピクト以外で)がダイナの他にあと2人は欲しい。しかも、ダイナが復活できるかどうかはちょっと微妙だ。タイガー補正でどうにかなるかもしれないが。
加えて、アントラーやブラックキングといった怪獣たち。おそらく、これらはバット星人が作り出した生体兵器だろう。ウルトラマンダイナの宿敵、スフィアの細胞を移植された怪獣たちであり、実質的にはスフィア合成獣に近い。
融合の媒体となった怪獣たちはタイラントを筆頭に中々の強豪ぞろいだったはずだが、ウルトラ兄弟にあっけなく倒されていたところを見るに、身体的スペックだけを重視した結果総合的な戦力のダウンというウルトラ再登場怪獣のお約束設定の犠牲になったのだろう。
しかし、そうとはいえ彼らも一廉の怪獣だ。ハイパーゼットンを相手にしながらこれらの怪獣を相手取ることはまず不可能と言っていい。どうにかして、怪獣兵器を押さえ込むだけの戦力もそろえなければハイパーゼットンに挑むことすらできないかもしれない。
呼符でキングかノアを呼べないか。ポケットに入れていた呼符を握り、立香は溜息をつく。
手詰まりだ。誰かがそれを口にしなくても、この場の皆がそれを理解して沈黙する。特に、新しい勢力の来訪にこの事態を打開する可能性を期待していたソラウは意気消沈といった様子。
「みんな~!!」
重苦しい空気に皆が内心でちょっとキツイなと感じはじめていたその時、この重苦しい空気を一瞬で打破する明快な女性の声が屋敷に響いた。この空気を読まない――いや、それどころか空気を一瞬で塗り替えてしまう明快な声の主など、一人しかいない。
「新しいウルトラマン連れてきたよ~!!」
ケイネスもソラウも、立香も目を丸くして驚く。こいつは何を言ってるんだ?という考えが浮かぶも、ひとまずは声の響いてきた屋敷の門の方へと駆け出す。
「一体あいつは……また勝手に外に出たと思ったら、今度はウルトラマンだと!?」
ケイネスはぶつくさ言いながらも廊下を早足で歩く。立香も内心で相槌をうちながらそれに続いた。
そして、彼らは門に辿りつく。
「なるほど……レジスタンスの拠点か。かなり腕のいい魔術師が隠匿を担当しているらしいな」
「そのようだ。現地協力としては中々頼もしい」
「ちょっと!?一体何がどうなってるの!?そろそろ説明してよ!!レフ、レフ~!?」
スーツを着た長髪で長身の男に、運命の夜の主人公、そして、我らがレフ依存症のヘタレ所長がそこにいた。
そして、立香は彼らを連れてきた少女に、救世主を見た。
――世界は奇跡に満ちている
血潮は喜びに湧き、心はやさしさに温まる
幾たびの惨禍を越えて不屈
ただの一度も諦めはなく
ただの一度も投げ出さない
彼の者は常に一人に非ず、人の輪の中で笑みは絶えず
故に、その世界に絶望はなく
藤村大河は、きっと希望に満ちていた
この日、立香は救世の聖処女に出逢ったのかもしれない。