助けて!!チートラマン!!   作:後藤陸将

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チュートリアルってなんだっけ?

「打って出るぞ」

 

 突然の所長With時計搭で抱かれたい男No.1&運命の夜の主人公の合流。互いの自己紹介の後、綺礼……じゃなかった、キレイなケイネス先生を交えて行われた情報交換と今後の方針の協議で、最初にそう提言したのは時計搭で抱かれたい男No.1だった。

 

「敢えて、この明らかな劣勢な戦力で打って出るか。考えなしではないのだろう?根拠を聞こう」

 

 ケイネス先生の意見に俺も頷いた。そりゃあ、こんな戦力で打って出るなんて普通は考えない。

 こちらの戦力でまともに怪獣と戦えるのはマシュ(シールダー)に、何故かウルトラセブンになれるSHIROU君、フランス行った途端に役立たずになるが、序章ではとても頼りになる我らがキャスニキ。

 加えて、直接的な戦力にはなれないが、キレイなケイネス先生と、所長という型月的名門お約束不幸コンビに、まさかのスピンオフの主人公まで登り詰めたウェイバー・ベルベットことロードエルメロイ二世。後は所長がマスター候補としてスカウトに来るぐらいには魔術師として見込まれている俺。

 そして、我らが藤村大河(奇跡の聖処女)と、石化しただけでまだ復活の可能性もあるウルトラマンダイナ。

 これが俺の知っている“本来”の炎上都市冬木であれば、このメンバーならセイバーオルタをボコボコにできたはずだが、今俺がいるここはそんな原作知識とウルトラマンでどうにかできるステージではなかった。

 何せ、敵はハイパーゼットン(コクーン)だ。成長の鈍化というペナルティと引き換えとはいえ、それらしい傷を負うことなくウルトラマンダイナを打ちのめした大怪獣を現状の戦力で打倒できるとは到底思えない。できればノアかキング、最低でもゼロとコスモスを呼んできて欲しい。

 

「単純なことです。勝機が万分の一でも残されているときに仕掛けるか、限りなくゼロに等しい時に仕掛けるか。座して死を待つよりは、より分のある戦いに賭ける方がいい」

「時間を置くことが、我々の勝機を削るということか」

 ロードエルメロイ二世は頷いた。

「先ほど聞いた話によれば、敵怪獣は半透明の繭のようなものに包まれているしているとのこと。仮にこれが繭であれば、時間は敵の利となります」

「どういうことですか?」

 皆が重苦しく頷く中、マシュは一人首を傾げた。

「繭というものは、生物が変体をする際の一時的な形態だ。バッタやカマキリ、セミ等、幼虫と成虫の形態に似通った点が多々見られる昆虫は脱皮によって幼虫から成虫へと変化する。一方、幼虫と蝶や蛾といった幼虫と成虫の姿が大きくことなる昆虫は、幼虫から成虫へと成長する過程で、繭や蛹といった形態をとる。前者の昆虫の変化を不完全変態といい、後者のそれを完全変態という」

 本職は教師というだけあってロードエルメロイ二世の説明はとても板についている。

「蛹の中で幼虫は身体を再構築し、全く別の姿となって繭を突き破って羽化し、成虫となる。これまでに観測された怪獣ではモスラがこの代表例とも言える。そして、モスラの例や不完全変態ではあるがキングゼミラの例から考えるに、成虫となった怪獣は確実に幼虫のころよりも強くなる」

「つまり、蛹から出てきたら怪獣はより強くなる可能性が高い。そうなる前に叩いた方がいいということでしょうか」

「その通りだ。加えて、繭や蛹というものは身体をより適したものに再構成するのに不可欠な姿ではあるが、それが同時に大きな弱点でもある。繭をつくった生物は繭になっている間、基本的に逃げるどころか動くことすらできない。それに、その中で生物は体組織を再構成するために、必要最低限の器官を残して身体を分解している。この状態で大きな刺激を受けるだけでも身体の再構築に支障をきたすこともあるし、組織の欠損だってありうる」

 流石、教鞭の才能は時計搭一と評されるカリスマ講師の説明だけあって、タイガーやマシュも興味津々といった様子で聞き込んでいる。

「……この街に現れた怪獣は例外的に動くことができるみたいだが、繭が変態のための形態であることには変わりがないだろう。繭を壊すことができれば敵の変態を阻止できるし、上手くいけば致命的なダメージを与えることができるということだ」

 マシュは関心した様子だ。彼女は基本的に賢い娘であるが、彼女はその生まれから学習に没頭できた時間は非情に少ない。繭=変体途中という考えがすぐに出てこなかったのも、どうやら知っている知識を現実で擦り合わせたことがなかったのだろう。

 

「時間を置くのが得策ではないことはこちらとて承知だ。しかし、ウルトラマンダイナすら叶わなかった繭を相手に、敵が弱点を晒しているから攻め込むというのはいささか短絡的ではないかね?」

 ケイネス先生が、不愉快そうに口を開いた。

「確かに、君達の加入で戦力は増えた。だが、正直に言って君達があのウルトラマンダイナを倒した相手を上回る戦力を持っているとは私には思えない」

 その通りだと俺も思う。

 我らが運命の夜の主人公、衛宮士郎は無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)という中二心を擽る切り札を持つ低位のサーヴァントであれば独力で撃破できるだろう戦士だ。 加えて、この世界ではどういうわけかウルトラセブンになれるらしい。モロボシ・ダンのように彼がウルトラセブンの擬態なのか、それとも初代ウルトラマンのように士郎とセブンが合体しているのかは分からないが。

 ただ、ウルトラマンゼロでさえ単体では歯が立たなかったハイパーゼットンを相手にするには力不足であることも事実である。

 次に、序章限定で大活躍するもフランスではまずリストラされる我らがキャスニキ。戦力としては数えられるが最大火力の灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)でもアーストロンを一撃で仕留めるだけの威力はないとなると、ハイパーゼットン相手は厳しいと言わざるを得ない。

 そして、デミ・サーヴァントとなったマシュ。サーヴァントと合体したことで身体能力はサーヴァントに迫るものとなったが、まだ慣れていないこともあってその運用技術が余りにも稚拙だ。宝具の真名解放もできない状態では、アーストロンのマグマ光線すら防ぎきれない。これでハイパーゼットン相手に立ち回れるとは思えない。

 怪獣を相手に紛いなりにも戦える戦力ですらこの心もとなさ。こちらの戦力はハイパーゼットンを相手にするには弱小すぎるのだ。

「貴方の疑念も分かっています。ですから、こちらも用意できるだけの戦力を呼ぶのです」

 ロードエルメロイ二世はケイネスの疑問に答えると、こちらに視線を向けた。

「マスター候補は皆、あのテロの直前に呼符が一人一枚与えられている。藤丸、お前はサーヴァント召喚用の呼符を持っているはずだな?」

「は、はい」

「私は諸事情からサーヴァントの召喚をするつもりがありませんでしたし、エミヤも最初の召喚の際は万が一に暴走したサーヴァントがいたときの押さえとして待機していたので呼符を持っていませんでした。ですが、これで一体サーヴァントを召喚することが可能となります」

「なるほど。戦力を追加するあてはあるということか。しかし、どの英霊を狙って召喚するのだ?言いたくはないが、あの征服王ですら敵の配下に敗北したのだ。並の英霊を呼んだところで話にならん。加えて、英霊のあてがあったとしても、触媒がなければ引き当てることなど叶わない。そのあたりの算段はどうなっている?」

 ケイネスから問いかけられたロードエルメロイ二世は、何も言わずに彼の隣に控える士郎に視線を向けた。

「……なるほどな。ウルトラマンを触媒にすれば、確実に他のウルトラマンを呼べるということか」

 これならば勝機はあるかもしれない。周囲は皆同じような期待の表情を浮かべている。

 しかし、唯一ハイパーゼットン(イマーゴ)を知る俺は内心とても憂鬱だった。

 セブンと一体化した士郎を触媒とすれば、高確率でチートラマン以外では最強と言ってもいいセブンの息子、ウルトラマンゼロを引けるだろう。しかし、セブンとゼロではおそらく、ハイパーゼットン(ギガント)には勝てない。まだ繭のままであれば勝機はあるのだが、数日前に繭だった点から考えるに、羽化まではそう時間がないかもしれない。

 

 ――どうして序章でここまで絶望が濃いんだ

 

 俺は、転生してから初めてこの世界への転生を叶えてくれた神のような存在を呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私は無力だ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 魔力供給が始まったことで光を灯した召喚陣を見ながら、オルガマリー・アニムスフィアは唇を悔しげに噛みしめていた。

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 風が巻き上がり召喚陣に魔力が満ちる。その前に立ち、召喚の呪文を紡ぐのは唯一生き残ったカルデアのマスター候補、藤丸立香。カルデアの総責任者であり、このプロジェクトのリーダーである自分ではない。オルガマリーにはそのことが歯がゆくて仕方が無かった。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 人類の未来のためにこれまで頑張ってきたという自負はある。だが、それと同じぐらいに誰かに自分の努力を認めて欲しかった、褒めてほしかった、頼りにして欲しかったという願望がある。なのに、これまで誰も自身を認めてくれなかった。

 諦められない彼女にできたことは、頑張っていればいつかきっと自分のことを見てくれている誰かが認めてくれると信じること。そう信じて前を向いて歩き続けることが、「誰も自分には期待していないし、認めてはいないかもしれない」という不安を抑えるための唯一の手段であった。

 しかし、今この特異点において、その唯一の手段すら彼女は奪われていた。

 特異点においては、マスターとしての能力を持たない自分はサーヴァントを召喚して戦力を補充することすらできない。代わりにマスターとなるのは極東の魔術師の傍流の次男坊。マスターとして求められる魔術師的な実力でいけば平々凡々な男だ。

 家系から考えるに、彼の生まれ持った魔術師としての素質は下の下のはず。それでもマスターとして求められる程度の魔術師にまでなれたのは、彼が血の滲むような努力をしてきたからだろう。努力家というのは彼女も嫌いではないが、恐らくは彼以上の努力をしているのに、どうして自分は報われないのかと思えてしまう。

 マスターとしての素質はなくとも、せめて魔術の専門家としてこの特異点の解決に智恵を絞るのが自分のなすべきことだとも一時は考えた。しかし、魔術的な知識からチームをサポートする参謀としての役割は、時計搭でもかつて神童として知られた先代のロード・エルメロイが担っている。

 彼女とて名門の出であり、その血に恥じぬだけの才能と魔術師として弛まぬ自己研鑽によって一流の魔術師に登り詰めた才女である。現在の時計搭の若い魔術師で彼女と同等の実力者は片手が数えられるほどしかいない。

 しかし、それだけの才女たる彼女をしても、“神童”ケイネス・エルメロイ・アーチボルトには及ばない。ケイネスは、降霊術、召喚術、錬金術等幅広い分野に手を出していながら、かつ手を伸ばした全ての分野で多大なる功績を修めた正真正銘の天才だった。オルガマリーの知るケイネスは、若くして戦死しているが、生きていれば今頃は「冠位」にすら手が届いていた可能性が高いと言われていたほどの魔術師だ。

 一方、カルデアには疑似地球環境モデル・カルデアス等といったケイネスの功績にも匹敵する発明もいくつかあるが、それらは全てオルガマリーの父、マリスビリーらの功績であり、オルガマリーの功績ではない。功績だけでも魔術師としての格の差は明白であった。

 加えて先ほどの会議での会話で彼女はケイネスと己の頭の出来の差を思い知らされていた。センスも、理解力も、知識も、頭の回転の早さも全てがオルガマリーの数段上。ケイネスが智恵を貸してくれるのであれば、オルガマリーが口を出すような場面は皆無となる。

 マスターとしても、参謀としても自身は必要とされない。となれば、カルデアの責任者という立場を持ってこのチームの司令塔の責を担うのが自分の役割ではないか?一度はそう考えたが、司令塔の席にはエルメロイ二世という彼女よりも相応しい人物がいる。

 魔術師としての階位は祭位にすぎず、魔術刻印も継承していないロードの代行であるロード・エルメロイ二世とオルガマリーを肩書きで比べれば、当然のことながらオルガマリーに軍配が上がるだろう。

 しかし、ロード・エルメロイ二世といえば時計搭の学生のころに第四次聖杯戦争という人類史でも指折りの大怪獣災害から生還し、卒業後は世界各地の怪獣災害の調査、対処してきた時計搭一の怪獣専門家である。

 彼は、あるときは太古の文献や記録からかつて存在した怪獣や封印された怪獣の存在を発見し、またあるときは身の丈に合わない力を求めて三流魔術師が復活させた怪獣の後始末に奔走してきた。

 その任務の際、時には死徒や封印指定級の魔術師との戦いも幾度と無くあったが、彼は立ち塞がった敵を人間離れした体術で例外なく圧倒したという。その戦闘者としての洞察力、戦闘力は封印指定執行者にも匹敵するらしい。その戦闘能力と実績を買われ、今では怪獣関連の厄介ごとは彼の管轄ということで、時計搭特命係などという組織を任されているほどである。

 また、彼は教育者としても優れた実績を上げており、教え子には色位や典位に至ったものも少なくない。

 教育者、怪獣専門家としての功績から、『流派西方不敗』『マスター・ブリテン』『時計搭の気高き赤い猛獣』『スーパーサクソン人』などの異名を持った彼がこのチームを指揮するのに相応しくないなどと異論を掲げる余地はない。

 客観的に見て、実績もなく家柄とカルデアでの肩書き以外では上に立つべき根拠のないオルガマリーと実戦経験豊富で人を指導することにも長けているロード・エルメロイ二世のどちらをトップにするべきかは明白だった。

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 参謀としても、司令塔としても、マスターとしてもオルガマリーは必要とされていない。この場において彼女は足手まといにしかならず、戦局に寄与する余地は皆無だった。それは即ち、彼女にとって最も認めたくない「自分は誰からも必要とされておらず、認められていない」という事実を嫌でも実感させられることに他ならない。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 ――私のやってきたことはなんだったのだろう。私は、そもそも存在している価値が、意味があったのだろうか

 

 認めたくなかった事実と向き合わざるを得なくなり、自問自答と自己否定以外のことが考えられなくなっていた彼女の視界は、やがて召喚陣から溢れ出した光に白く染められていった。


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