『ともかく、デートだ。リン、やってやれ』
『でも』
リンはキョロキョロと焦った風にあたりを見回し始める。
ミナトを見つけた。
そのまま見続ける。助けを求めるように。
ミナトは、ポカンと口を開けて呆けていた。
右手でクシナの左手を握っているが、そこの力も抜けているように思う。完全に放心状態と言うやつだろう。
「ううっ、苦しい」
「気合を入れな。さあ、あともう少しだ」
クシナとビワコと綱手の三人は、リンたちそっちのけで出産に熱を向けている。
そして「やった!」という声のすぐ後に、記念すべき声を聞く。
「ぎゃあ。おぎゃあ。おぎゃあああ」
産声だ。赤ちゃんが生まれたのだ。
「やったな。元気な男の子だ」
「はあ、はあ、はあ。うれしい」
と、女性陣3人で喜んでいる。
「いいなあ。ああいうの」
と、ここで予想外の人物から感想が漏れた。
お前、原作ではあの母親から赤ちゃんを取り上げたんたぞ。どころか母親を殺しちゃったんだぞ。
無性にツッコミたくなった。
リンの視線は赤子側を向いたままだ。
ミナトもやっと動き出した。赤ちゃんの声に反応したのだ。
彼はまずクシナの顔を覗き込み、笑顔を向ける。それから手を離して、クシナがナルトを抱くのを手伝う。
と、見とれている場合じゃなかった。
『リン。さっさとデートに出掛けよう。オビトの気が変わらないうちに』
変わらない気もするが、突然暴れ出すと怖い。
一度距離を取っておきたい。
『でも、このオビトが悪いことをするなんて思えないんだけど』
確かに、リンとしてはそう思うだろう。実際にオビトが誰かを手をかけた場面を見たわけではないのだから。
だが、こいつはまだ改心したわけではない。夢の中だからと思って、おとなしくしているだけだ。
ここが現実だと知った時、どんな行動に出るか分からない。
『いいから、デートするだけでいいから。だいいち、家族水入らずの空間に割り込む必要もないだろう』
適当なことを言ってみる。
『それは、そうかもね。じゃあ出ましょうか』
が、うまくいったようだ。
「オビト、それじゃあデートに行きましょう。まずはどこに行くの?」
「ん? おおっ! そうか! デートに行きたいか! そうだな……」
彼は考える。
「温泉で!」
と、目を見開いて言う。
それでいいのだろうか。すぐに男女で分かれることになるが。
と言っても、今は夜だから遊び場は限られているが。
「いいわよ。それじゃあ行きましょう」
と言ってから、リンはもう一度ミナトに視線を送る。
ミナトはハッとなってそれに気付き、一瞬真剣な表情になる。が、すぐに力を抜いて、やさしく微笑んだ。
リンに笑顔を向けた後、オビトにも微笑む。
「オビト。きみが生きていてくれて僕もうれしいよ。そしておめでとう。リンと両想いになれて」
最後の言葉に反応し、リンはすばやくうつむいてしまう。それから少しキョロキョロして、チラと目だけを動かして、恥ずかしそうにオビトを見た。
オビトもやや赤くなっている。照れているらしい。
なんだか本格的に、もう心配ない気がしてきた。
「ありがとうございます、先生。それに先生こそおめでとうございます。かわいらしい赤ちゃんですね」
と、明るい青年の声が響く。
いや、本当に誰だよこれ。
少年のオビトとも少し違うぞ。
『ねえ三尾。このまましばらくここにいたらダメなの? オビトには先生と話すことがあると思うんだけど』
『いや、それ以上にお前と話したいことがあるはずだ。ミナトとの話はあとでいい』
『そうかなあ』
『そんなもんさ』
『うーん』
と、首をひねりながらも了承してくれたらしい。
リンはパンパンとオビトの肩を叩き始めた。
オビトが振り向く。リンは親指で外を指さして「行こう」と言う。
オビトは「ああ」と笑顔で言った。
田舎道をしばらく進むと、町が見えてくる。
人もちらほら見え始める。
「はあー。ほんっと、久しぶりね。こうしてオビトと一緒に歩くのは」
リンがグッと伸びをしながら言う。
ちなみにだが、分身は全て解除済みだ。本体はもともと変化もしていなかった。
「そうだな」
と、オビトはそれだけ返事をする。しかしすぐ後に「夢にまで見ていたよ。というか今見てるよ。くっくっく」なんて一人で笑い始める。
「なあリン。手をつなごうぜ」
と言って、手を差しだしてくる。
「やだっ。恥ずかしいよ」
「ふっ、やっぱり恥ずかしがり屋だな。素直になればいいのに」
また「くっくっく」と笑い出す。
今のお前は素直だが、原作では告白できなかったんだぞ。と、心の中でツッコんでおく。
「えっ、リン?」
「オビト? でも、あの右半分」
「なんだって? どこに?」
「ゆ、幽霊だあああ」
と、ここで少し騒がしくなり始めた。
顔を知っている人間がちらほらいるらしい。
「いや、あの、実は私たちは生きていたの。騙すようなことをしてごめんね」
リンが謝り始める。
オビトは黙ってリンを眺めている。
「リン、いいじゃねえか。好きなように言わしておきゃあよ」
しかしふと、口を開いた。
「そんなわけにはいかないよ。これからまた、仲良くしていくんだから」
「ふーん。まあ、それも一興か。夢の中だしな」
そう言うと、オビトも「実は」と話し始めた。
その後、2人でいろいろと説明していった。人も多く集まり出した。
2人は謝りながらも、ときたま笑顔をこぼしていた。
なつかしい空気に喜んでいるようだった。
「リン、オビト……」
そして、とうとうやつが現れる。
「なんだカカシか。久しぶりだな」
「カカシ……」
銀髪の生意気そうな少年、はたけカカシだ。
「お前たち、本当にお前たちなのか?」
「うわっ! リンとオビト!」
「本当だ、なんで?」
「ああ、実はね」
と、他の同期の面々も集団で寄って来た。
見るに、紅とシズネもいる。彼女達が説明してくれている。
ここへ多く集まっていたのも、偶然ではないのかもしれない。
「マジでか。それじゃあ、今後はまた一緒に暮らせるんだな」
「うん」
「ははっ。青春だ。青春が帰って来たぞ」
「オビトくんも元気そうで、よかったです」
と、笑顔になっていく面々。カカシだけが未だ呆けている。
リンはそんなカカシをしばらく眺めた後、振り返ってオビトを見た。
「さあオビト、行こう! みんなの下へ!」
笑顔になって、手を差し伸べる。
「ふふっ。リン、慌てるなって」
オビトもにやりと笑って、リンの手をつかんだ。