簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語-   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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 無理矢理一話に詰め込んだら過去最長のボリュームに。そしてこの文量がデフォになっていきそうで怖い(文を短く纏められないss書きの屑)
 ストーンオーシャン真のヒロインことF.Fの思い出論を語りたかっただけー。そして書いてたら自分で訳分からんくなってごっちゃごちゃに。まぁいいや。
 因みに今回登場するオリ敵は今までの噛ませ犬共とは格が違う、ジョジョ原作キャラ並みの強さを誇る敵として描いたつもりです。

 そう、怪人ドゥービーとか鋼線(ワイヤード)のベックとか、ケニーGやヌケサクのようなお歴々と並んでも見劣りしないようなキャラに仕上がったハズだ(白目)


F.Fの思い出

「なァ簪、『ロマン』ってそんなに大事なのか?」

 

「……F.F、それは私に対する宣戦布告なの?」

 

 

 

 「今日の夕飯は何にする?」って質問と同じくらい気楽な感じで何気なく投げかけられた質問はしかし、簪にとっては聞き逃せない一言だった。目を据わらせて『アナザーロマン』を出現させる簪に、F.Fは慌てて言葉を繋ぐ。

 

「いやいやいや、そういうんじゃあなくってさ! ただ何つーの、純粋に『疑問』なんだよ……『ロマン』ってのは()()()()()を負う事すら厭わない程大切なモンなのか? ってさ。あたしにはそこん所の感覚がイマイチ理解できなくて、どーも気になってさぁ」

 

「……まあ、私の個人的な信条だから……他の人には余り理解できない、のかな? それこそ私には分からない感覚だけど。ロマンの無い人生とか、何の為に生きてるの? って感じ」

 

「お、おう……そこまで言うか」

 

 そんな会話を繰り広げている場所は医療監のベッドの上。包帯だらけで横になっている簪と、それを見舞いにきたF.Fという構図。

 

「でも私がロマン第一主義だって事は承知だったと思うけど……今更なんで?」

 

「確かにお前が『ロマン』ってモンに拘ってたのは知ってたけどよ。そんな怪我を負ってまで追及する程だったのかって、改めて思ってさ……お前がエルメェスの『復讐』を手伝ったのも、結局は『ロマン』なんだろ?」

 

「ん、……まあね」

 

 そう、簪が怪我を負ってこんな場所でベッドに寝込んでいるのには『理由(ワケ)』があるッ!

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 それは先日の事。エルメェスが遂にその本分……『復讐』を果たしたのだ。彼女は元々、この刑務所に服役中の『スポーツ・マックス』という名のヤクザを追い、わざと罪を犯して収監された。全てはスポーツ・マックスによって命を奪われた自身の姉、グロリア・コステロの仇を討つ為。

 『復讐とは自分の運命への決着をつけるためにある』というのはエルメェスが語った自身の信条だが、彼女は当初自分の復讐に仲間を巻き込むつもりは無かった。今や大事な友人でもある仲間達に自分の都合を押し付けたくは無かったし、できる事なら姉の仇は自分自身の手で取ってやりたかった。

 

 ……が、その事を知った簪は自ら『復讐のお手伝い』を志願したのである。

 簪曰く、「兄貴の悲願を手伝うのは『妹分』として当然の事だし、何より『亡き姉の鎮魂の為、そして自身の運命を拓く為に決行する復讐』なんて劇的な物語(ロマン)、関わらずにはいられない」との事。主に後者の理由の方が大事であった。

 簪の協力を固辞しようとするエルメェスとすったもんだの口論の末、『復讐の実行はエルメェスに任せ、簪はそのサポートに徹する』という結論に落ち着き、彼女達は行動を開始。経過は割愛するが、ともかくスポーツ・マックスの殺害()()成功した。

 

 

 だがここで誤算が生じる。スポーツ・マックスは『ホワイトスネイク』により既にスタンド使いとなっており、その能力によってゾンビ化しこの世に留まってしまったのだ。最終的には駆けつけた徐倫やF.Fの助けもあって、エルメェスの機転と覚悟でスポーツ・マックスのゾンビは完全敗北し消滅、復讐は完全に『完了』したのだが……その戦闘で簪は全く良い所無しに、エルメェスを庇って負傷。こうして医療監に入院する羽目になったのだ。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「まぁ復讐を手伝いたいって気持ちは分かるよ、あたしだってエルメェスを応援してた。だけどその源泉にある思想が『ロマン』だってのが今一つピンとこねぇ! だからこの際詳しく聞いてみようと思ってさ」

 

「なるほどね……」

 

 詰まるところ、F.Fはただ知りたいだけなのだ。簪の言う『ロマン』とは一体『何なのか』を。

 その問いかけに対して、簪は少し考えた後に口を開いた。

 

「……うん、難しく考える必要は無いと思うよ。きっと自覚が無いだけで、貴女もまた『自分だけのロマン』を持ってる筈だから」

 

「……、? えーと、それってどういう意味?」

 

 ぽかんとした表情で解説を求めるF.F。それに応え、もう少し詳しく述べてやる。

 

「つまりさ、人は皆、多かれ少なかれ『ロマン』に突き動かされて生きるものなんだよ。それを私ほど深く自覚できるかは別としても……ううん、ひょっとすると人によっては、それを『ロマン』以外の別の言葉で表現したり、或いは別の解釈で説明するのかもしれない。だけどそれらは全て、本質的には同じ事なんだよ」

 

「んー……つまり、簪にとっての『ロマン』に相当するものが私の中にもある、って事か?」

 

「そういうこと。だから私の言う『ロマン』がどういう物なのかを知りたいなら、F.Fにとって『一番大切な信念』とか『人生の中で最重要な事柄』を思い浮かべれば良いの……思い浮かんだ『それ』が、私にとっての『ロマン』だよ」

 

 それだけ伝えると言葉を切り、F.Fの反応を窺う。彼女は俯いたまま口に手を当て暫く考え込んでいたが、不意に顔を上げると独白するように喋りだした。

 

 

「……『思い出』だな。あたしは、生きるという事は『思い出』を作る事なんだと思ってる。人は思い出があるから友達や家族の為に頑張れるし、思い出の為に命を懸ける事ができる。徐倫が父親を救いたいのも、エルメェスが姉の復讐を果たしたのも、何かしらの良い思い出があるからだ……思い出が人間の心にエネルギーを与えてくれるからだ。だからあたしは、人は皆『思い出』の為に生きているんだと思う。……そっか、これが簪にとっての『ロマン』なのか」

 

 簪に確認するかのように呟かれた最後の一言。それには肯定で返してやる。

 

「そう、その通りだよF.F。貴女の言う『思い出』を、私流に言うと『ロマン』なの」

 

「つまり簪も『思い出(ロマン)』の為に生きてる、って訳か……そう考えると、うん、確かに納得できる」

 

 

 得心行ったという表情で頷くF.Fであったが、「でもよ」と前置きしてから言葉を続ける。

 

「それならもう一つ気になる事ができたぜ。簪がロマンの為にエルメェスの復讐を手伝ったって言うなら、その根源となる『思い出(ロマン)』がある筈だろ? それってどんなロマン(おもいで)か、心当たり無いか? エルメェスの『姉との思い出』に共感できるような何か、とかさ」

 

 それを聞いて、即座に頭に浮かんだのは姉―――楯無の事。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 簪にとっての姉、楯無は、憧れでありコンプレックスでもあった。何をやらせても優秀で、非の打ち所の無い完璧な姉。その姉から、何も出来ない無能のままでいろ、と伝えられて以来、簪の劣等感は加速し、どうにか姉を越えようとあがき苦しみ、それでも『才能の壁』は越えられず絶望し、逃げ出した果てに……何故か『世界の壁』は越えてしまい、今この『水族館』の中に居る。

 

 ある意味で現状の遠因とも言えるし、それを抜きにしても反抗心から嫌っていた筈の姉ではあるが、実のところ今の簪からは彼女へのわだかまりなど消え去っていた。

 

 簪はこの世界にやってきて、初めて自分自身の原点を―――即ち更識簪という人間の根幹である『ロマン』を自覚できた。その時点で、姉へのコンプレックスは消滅していたのである。何故ならば、彼女は『更識簪』で、姉は『更識楯無』だから。簪には簪の人生(ロマン)があるし、楯無には楯無の人生(ロマン)があるからだ。

 要は『どう生きたいか』が重要なのである。ならば優劣など関係無い、簪が楯無に対抗心を抱く必要も無い。ただ後悔の無いよう、己が心の命ずるがまま好き勝手に生きるだけだ。その上で真に姉を越えたいと思うなら、ただ挑み続ければいいだけ。結果はどうあれ、それで簪は満足できるだろう。そういう生き方そのものがロマンなのだから。

 

 そして簪の中から楯無への劣等感が消えた時、代わりに浮かび上がってきたものがある。それは『疑問』と『信頼』。

 精神的余裕を持って振り返って見れば、あの姉は自分から見ても十分シスコンだった。そんな姉が一体どんな理由があってあんな暴言を吐いたのか? それが疑問。

 しかし同時に、きっと悪い理由では無いのだろうと―――形はどうあれ私の為だったのだろうと、そう確信していた。それは精神的に成長した今の簪だからこそ思い出せた、実の姉への信頼。

 ギスギスしていたとはいえ姉妹なのだ。姉が自分を嫌いになった訳では無いという事にも、疎遠になってからもずっと距離を縮めたがっていたという事にも感付いていた。それを自分が意固地になって、頑なに拒絶し続けただけの話。単なるすれ違いである。

 

 だからきっと、楯無のあの言葉には何か意味があったのだと、今の簪はそう信じている。具体的な理由はまだ想像も付かないが、あの姉が、大好きなお姉ちゃんが私を傷付けるだけの言動を取る筈が無い―――と、簪にとってそれは確定事項。なんだかんだ言っても、本質は姉同様シスコンな簪であった。

 

 

 

 ……とまぁ、姉・楯無とは本当に色々とあったが、今となっては全て良い『思い出(ロマン)』だ。だからこそ、簪は元の世界へと―――大切な姉の下へ帰りたいと、そう願っている。思えばエルメェスを『兄貴』と呼び慕っているのも、姉と会えない寂しさからきた無意識の代替行為だったのかもしれない。

 だからこそ、そんなエルメェスが『姉』の為に復讐を決意してこの監獄に入ったのだと聞いて、居ても立っても居られなくなった。どうにかして力になりたいと思った。だって、簪には痛いほど共感できる姉妹愛(ロマン)だったから。

 

 

 

 ―――といった感じの事を、黙り込んでつらつら考えてはみたけれど。

 質問に対する答えを期待して待っているF.Fには悪いが、本心を赤裸々に語るのは気恥ずかしいし、何となくだがこの思い出(ロマン)は、胸の内に秘した方がよりロマンチックな気がしたので。

 

 

「……うん、お姉ちゃんとの思い出(ロマン)には心当たりあるかもね。でもヒミツ」

 

 なんて、暈して曖昧に答えたのであった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「さて、話しておきたかった事も大体済んだし……あたし、そろそろ行くよ」

 

「……『厳正懲罰隔離房(ウルトラセキュリティハウスユニット)』。本当に行くつもりなんだね?」

 

「ああ、幾らなんでも徐倫一人じゃあ危険すぎる」

 

 そう、徐倫は今『厳正懲罰隔離房(ウルトラセキュリティハウスユニット)』と呼ばれる、囚人の中でも特に凶悪であったり問題があったりする者のみ収監される特別な独房に入れられているのだ。その理由はある意味シンプル、スポーツ・マックスの一件で看守達から疑いの目を向けられたから。それ以前のスタンドバトルによる騒ぎと合わせて、めでたく『問題児』扱いと相成った訳だ。

 

 しかし、徐倫の『目的』は別にある……そう、彼女は()()()()()その懲罰房へと向かったのだ。その目的とは勿論、父親・空条承太郎を助ける為―――即ち、ホワイトスネイクからDISCを取り戻す為。

 

 実は先日、DISCの一枚……『スタンド能力のDISC』は仮死状態の承太郎の元へと無事に届けられた。そもそもスタンドDISCの方は、徐倫がF.Fと出会った際の一件で既に回収されていたのだ。それを刑務所の外へ持ち出す方法に困っていたのだが……ホワイトスネイクの刺客から襲撃を受け奪い返されるよりはと、徐倫は強攻策に出た。承太郎の肉体を保護している外部の協力者であるスピードワゴン(SPW)財団と連絡を取り、彼らにDISCを受け渡す事にしたのだ。

 それは危険な賭けだった。徐倫が財団に連絡を取った事は即座にホワイトスネイクの知るところとなり、阻止の為のスタンド使いが派遣された。徐倫はそれを承知の上で突破するつもりだったが、それは時間との戦い。簪や他の皆は刑務作業中、看守達の目を盗む事もできず徐倫のサポートに赴く余裕は無かった。

 辛うじて、エンポリオ少年の紹介で引き合わされたスタンド使いの男囚が援護に回り、刺客を返り討ちにして、『ザヴェジ・ガーデン作戦』と名付けられたDISCの移送計画は成功に終わった……と、簪は聞いている。

 

 その結果、仮死状態だった承太郎は生命活動を再開したという。だが彼が意識を取り戻すには、後一枚……『記憶のDISC』が必要である。そしてそれは、ホワイトスネイクの本体が肌身離さず持ち歩いているのだろう。

 先日スポーツ・マックスから手に入れた彼の記憶のDISCを読んだ結果、ホワイトスネイクにとって重要な『何か』が厳正懲罰隔離房(ウルトラセキュリティハウスユニット)のどこかにあると知った徐倫は、それを餌にホワイトスネイクを誘き寄せる為、単身そこへ乗り込んで行ったのである。

 

 

 

「だけどよ、それは余りに無謀だ……だから私も行く。警備は厳重だろうが、何としても……とりあえずエンポリオにも知恵を借りて見るよ」

 

「……分かった、止めはしないよ。それは貴女の『思い出(ロマン)』からくる行動なんだろうしね。危険を覚悟の上なら応援する。……本当は私も行きたいんだけど……」

 

「まだ安静にしてなきゃ駄目なんだろ? 無理はすんなよ」

 

「うん……これじゃ足手まといになりそうだしね」

 

 そう、簪の怪我はまだ完治していない。これでは警備を突破して徐倫の下へ行く事は勿論、予期される刺客とのスタンドバトルなどできる筈も無い。

 

 

「悔しいけど、徐倫の事をお願い」

 

「ああ、任せときな」

 

 最後にそう言葉を交わすと、F.Fは振り返る事も無く退室していった。今回ばかりは生還の保障は無い。徐倫はホワイトスネイクの急所を押さえようとしているが、それだけに敵の抵抗も激しいだろう。どれだけの刺客が動員されるかも分からない。

 しかしF.Fに恐怖は無かった。あるのは闘志と覚悟のみ。だからこそ、簪は彼女を送り出した。もし二人の立場が反対だったとしたら、簪だって命懸けで徐倫を助けに行っただろうから。出会ってからまだ日は浅いが、徐倫達と過ごした日々も、大切な『思い出(ロマン)』なのである。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 それからどれだけ歯痒い時間を過ごしただろうか。事態は急変する。

 

「……簪……緊急事態だ…………」

 

「! 貴方は確か……ウェザー・リポート?」

 

 部屋に入ってくるなり声をかけたのはウェザー・リポートと名乗る男囚。彼もまたホワイトスネイクに記憶を奪われた為、ヤツを追っている。『ザヴェジ・ガーデン作戦』の時に徐倫に協力してくれた男だ。その際に負った怪我で今まで医療監に入院していたが、もう殆ど回復したらしい。

 

「今、F.Fから無線連絡が入った……どうやら状況は切羽詰まっている」

 

「彼女に何かあったの!?」

 

「分からん……少なくともF.Fは口を利く事もできない程追い込まれているようだ……とりあえずF.Fが怪我を癒せるよう『雨』を降らせたから一先ずは無事だと思うが……」

 

 そう、彼のスタンド『ウェザー・リポート』(記憶が無い為に自身のスタンドの名をそのまま自分の名前として使っている)の能力は『天候を操る事』。水さえあれば増殖し、傷を癒す事が出来るプランクトンの群体であるF.Fの救援として、これ以上頼もしい人物は居ない。

 

「俺はこれからF.Fの下へ向かう……そこで簪、君の『アナザーロマン』も一緒に来て欲しい」

 

 そう助力を求められたが、簪は力無く首を横に振る。

 

「私も助けに行きたいのは山々だけど、無理なの。いくらアナザーロマンが遠隔操作型とはいえ、隔離房は流石に『射程範囲外』……本体である私が動けない以上はどうしようも……」

 

「いや、そうでもない……喋る事は出来なくとも、F.Fは『モールス信号』で情報を送ってくれている……だから現在位置は分かるが、どうやら既に厳正懲罰隔離房(ウルトラセキュリティハウスユニット)は脱出したらしい……」

 

「それ本当!?」

 

 ウェザーの言葉に食い付く簪。その目には期待が宿っている。

 

「ああ……今も敵に追われ逃走中のようだが、このまま行けば君の『アナザーロマン』の射程内に入ってくるだろう……それでどうする?」

 

「今すぐ準備する! さあ、行っておいで!」

 

『出番ですね』

『行ってきます、御主人様』

 

 そう言うが早いかアナザーロマンの二人を展開する簪。彼女らを連れ、ウェザーは医療監を出る。簪はそれを見送ると、目を瞑って目蓋の裏に映る二つのスタンドの視界に集中するのだった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

『ウェザー様、F.F様はまだ移動中ですか?』

 

「ああ、だが敵の追撃も激しいようだ……振り切る為に霧を濃くして欲しいと要請が入った」

 

『それは急がないとなりませんね』

 

 F.Fと合流する為、屋外へと出た一行。ウェザーが発生させた霧の中を進んでいる。

 道中、アナザーロマンの二人と会話しながら走るウェザー。その手に持った無線機からは、小石を地面に打ち付けるような音が規則的なリズムで聞こえてくる。F.Fの発するモールス信号だ。

 だが次に送られてきた信号に、思わずウェザーの足が止まる。

 

 

「……F.F……やってくれたな…………!」

 

『ウェザー様? どうかなされましたか?』

 

 普段は冷静沈着な態度を崩さないウェザーが、柄にも無く喜色を隠さず興奮している。怪訝そうに事情を尋ねるオルタンスに、再び足を動かし始めながらウェザーは無線機を突き付けた。

 

「スタンド越しに簪にも聞こえるか? この報告、F.Fの奴大手柄だ……!」

 

 コンコン、と小石を叩く音。曲がりなりにも暗部の出身である簪は、その手の教育も受けていたおかげで、聞こえてくるモールス信号の意味する所を難無く解読できた。その内容は―――

 

 

 

 ―――繰り返す。

 ―――ホワイトスネイクの正体は、

 ―――教戒師のエンリコ・プッチ神父だ―――

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「や、やったっ! F.Fがホワイトスネイクの正体に辿り着いたんだッ!」

 

 医療監のベッドの上、思わず目を見開いて簪は歓喜した。

 今まで謎に包まれていた『ホワイトスネイク』の本体、プッチ神父。教戒師としてこの刑務所に勤めている彼の事は、簪も度々見かける。職員からも信頼の厚い敬虔な聖職者である彼がホワイトスネイクだったとは、夢にも思わなかったが……考えて見れば、彼はその立場故に、刑務所内でもある程度自由に動き回れる。そういう意味では、正体を隠し暗躍するのに彼ほど適した人物は居なかったろう。尤も、それも今日で終わりだが。

 

 ホワイトスネイクが今まで暗躍を続ける事ができたのは、その正体が不明だった事が大きな理由であった。然るに本体さえ割れてしまえば、後は袋叩きにするだけ。少なくとも、今までのように好きにはさせないし……DISCを使って新たな部下を作るのだって、阻止できるようになる。F.Fが挙げた戦果はそれほどの大手柄なのだ。

 

 だが喜びも束の間、事態が動く。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「……? 何だ……この音は……」

 

『地鳴り……ですか? 駄目です、モールス信号が聞き取れません』

 

 突如として響き渡る、まるで地震のように大地が震える音。それに掻き消されるようにして、F.Fの発する小石の音は聞こえなくなってしまう。余りに都合の悪いタイミングの地響き、それもずっと続いて止まる様子は無い。と、いう事は。

 

「『敵』……だな。これは俺達の通信を阻む為の妨害電波(ジャミング)……いや妨害()()、或いは()()と言った方が正しいか? とにかくこれではF.Fの位置が掴めん」

 

『御主人様から伝言です。「F.Fがホワイトスネイクの正体を掴んだ、という事は、彼女は今現在ホワイトスネイクに……プッチ神父に追われているという事。事態は一刻を争う、アナザーロマンを分散させて地鳴りを起こしている敵を探索させる」……との事ですので、早速行ってきます』

 

「待て……そういう事ならこれを持って行け」

 

 すぐさま索敵に赴こうとする二人に待ったをかけると、ウェザーは近くに設置されていた鉄条網をスタンドで引き千切る。その千切った有刺鉄線の、数十センチにも及ぶ細長い棒状の切れ端をアナザーロマンに持たせた。

 

『? この針金は……?』

 

『一体何に……御主人様? ……あぁ、なるほど』

 

 ウェザーの意図が掴めず困惑するオルタンスとヴィオレットだったが、本体である簪はすぐに彼の思惑に気付いたようだ。二人に意思を伝達すると、納得したように頷いた。今更ながら実に人間味溢れるスタンドである。

 

「それでは『アナザーロマン』、頼んだぞ……」

 

『お任せを』

 

 二人は声を揃えてそう言うと、深い霧の中へと消えていった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 濃霧に覆われた刑務所敷地内のどこか、F.Fとウェザーそれぞれの現在地の中間辺り。

 そこには一人の中年男性の姿があった。小太りで背の低いその男は、土下座のような体勢で体をピッタリ地面にくっ付けている。頭は横に傾げ、耳を地面に当てて大地の振動音を確かめている。

 

「げへへへへ……もっともっと揺れろ、震えろ、モールス信号なんて掻き消しちまえ……」

 

 まるで何かに押し潰されているかのような姿勢で地に伏しているこの男の背には、一見何も無いように見えるが、見るものが見れば……即ちスタンド使いが見れば、男に折り重なるようにして上に乗っているカエルのような姿のスタンドが視認できるだろう。

 そのスタンドの頭に当たる部分には顔が無く、代わりに機械的なハンマー、というか杭のような物が付いている。そしてそのハンマーは、小刻みに上下運動を繰り返して地表を叩き、大地全体を震わせている。

 

 言うまでもなく、彼こそが通信妨害を行っている張本人。付近で刑務作業をしていた所を、たまたまプッチ神父に見つかり、その場で「F.Fの信号を妨害せよ」という命令の刷り込まれた記憶DISCとスタンドDISCを埋め込まれ、即席のジャミング装置として利用されてしまったのだ。

 

「げへへ、しかしオイラに与えられたこの能力! スゲーなァーーーカッコイーなァァァァ! 『地震を操る能力』なんて、控えめに考えてもムテキすぎるよなァァーー! 今はまだ『命令』に従わなきゃだけど、これが終わったらこのチカラを使って好き放題に……」

 

『見つけました。すごく頭の弱そうな顔の男性です』

 

「ナヌッ!?」

 

 力に溺れて一人ニヤニヤしていた男の背後には、いつの間にやらヴィオレットの姿。男は慌てて飛び起き、拙いながらも彼なりのファイティングポーズを取る。

 

「なんだオメー……人形? オメーもスタンドって奴か? ()るなら相手になってやるぞ!」

 

『ええ、勿論アナタを止めに来たのですが……その前に、これをどうぞ。ほいっと』

 

「わわッ、と? 何だこれ……針?」

 

 精一杯粋がる男に対し、ヴィオレットは欠片も戦意を見せないまま何かを投げ渡した。それは先ほどウェザーから手渡された適当な長さの鉄線。まっすぐな形を保つその固い針を突然パスされ、ついキャッチしてしまった男であったが、何故自分がそれを渡されたのか、何のための針なのかが分からずに混乱中。

 色んな角度からまじまじと針を見つめる小太りの中年の頭からは、既に目の前のヴィオレットの事は抜け落ちている。しかしだからといって不意打ちを仕掛けるでもなく、彼女は穏やかに語りかけた。

 

『ああ、違います違います。それは縦に持って、先端を上に向けて出来るだけ高く掲げるんです』

 

「ん、縦? 上に? ……こう?」

 

『もうちょっと高く』

 

「高く、高く……っと、これで良いんか? で、これ何の意味があるん?」

 

 手の内の針に夢中になりすぎて、自覚も無いままに敵である筈のヴィオレットの言葉に素直に従ってしまっているこの男、一言で言って馬鹿である。そしてそんな馬鹿が相手でも手加減なんてしない。今は時間が惜しいのだ。

 

 

『それじゃあオルタンス、合図を』

 

「は? オルタンス?」

 

 ヴィオレットが男を発見すると同時に、オルタンスの方はウェザーの下へと戻っていた。遠く離れた場所ではあるが、二身一体のスタンドである彼女達は本体である簪を介して自在に意思の疎通ができる。それを利用した『伝令』は、ウェザーに()()()()()()事を知らせた。

 

 そしてウェザーの放った次なる天候―――『落雷』は、その低い精密動作性にも関わらず、吸い込まれるように男へと……男の持つ『針』へと落ちていった。

 

 

「……って、あんぎゃああああああああああ!?」

 

 全身を雷撃が通り抜け、一瞬骨まで見えた……ような気がする。とにかく男は膝から崩れ落ち、スタンドも維持できずに消えていく。

 

「ひ、避雷針だったのね……ガク」

 

 最後にそれだけ言い残して男は気絶。ちなみにヴィオレットはとっくに立ち去っていた。

 

 

 

 

 プラダ・チェグマ(男の名前。スタンドは『ラヴレター・フロム・ベネズエラ』)

 ―――前科69犯、全て食い逃げ。電光石火の早さで再起不能(リタイヤ)

 徐倫達が懲罰房で起こした騒動の所為で、居なくなった事に気付かれないまま一晩この場に放置される。後に看守達が気付いて回収したが、こっぴどい風邪を引いた上感染症に発展して数ヶ月の入院を余儀なくされた。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「阿呆が相手で思うより早く済んだね」

 

『ああ……これでジャミングは消えた』

 

 こちらは医療監からアナザーロマンの指揮をしていた簪。スタンドを通してウェザーと会話している。本当はあの針を何とか敵本体に突き刺して、それから雷でトドメ……という流れの予定だったのだが、相手がアホっぽかったのでヴィオレットが急遽作戦変更、普通に手渡したら普通に倒されてくれた。

 気の抜けるような顛末だが、何はともあれ時間短縮ができたのは嬉しい。F.Fの下へ急がなければ……と思っていたが、またしても予想外の事態が起こる。いや、『起こっていた』。

 

 

『おかしい……地鳴りは無くなったのに、今度はF.Fの信号が聞こえない……途絶えている』

 

「……え?」

 

 

 ―――嫌な予感がする。何か、『とんでもない事』が起きている予感が……。

 そんなネガティブな思考に傾きかけた時、不意に一陣の風を感じ、咄嗟に部屋の窓を確認する。閉まったままだ。ではこの風は、と思いながら正面に振り向くと、そこには不思議な質感を持った煙が立ち込めて見えた。

 

 そしてその煙は、次第に纏まって一つの形を形成する。それは―――

 

 

「……F.F……?」

 

 そう、今正に連絡が取れなくなったF.Fの姿を象ったのだ。その幻想のF.Fの口が動き、何事かを呟くが声は聞こえない。ただ、簪は実家に伝わる『更識流諜報術』の一環として読唇術を扱えた為、彼女が何と言ったのかを知る事ができた。

 

 

 

 ―――さよなら、と。F.Fの形をした煙はそう呟き、微笑んだのだ。

 

 

 

 次の瞬間、F.Fの姿は煙と共に立ち消えて、もはやその痕跡すら見当たらない。

 自身の不安な気持ちが幻覚として現れたのか、とも一瞬思ったのだが……心のどこかで分かってしまった。今のは、本当にF.Fだったのだと。F.Fの魂が、()()に『さよなら』を伝えに来たのだという事を、理屈ではなく単なる事実として、確信できてしまったのだ。

 

「そっ、か……そうなんだ。間に合わなかったんだね、私達……」

 

 呆然と呟いた後、目端から一条の涙が零れた事に気付いた。F.Fの魂が去り際に見せた満足げな表情から察するに、『徐倫を守る』という彼女が自身に課した使命(ロマン)だけは果たせたのだろうという事が唯一の慰めだ。

 彼女は、自らの命を賭して。立派に、やってのけたのだ。

 

 

「……F.F、貴女と友達になれて良かった。貴女との『思い出』を作れて、本当に良かった……」

 

 

『……応答しろF.F……君を見失っている……F.F……今どこにいる……応答しろ!! F.F……』

 

 未だ事態を把握できていないウェザーが必死で呼びかける声が、どこか遠くに聞こえた。

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

 ―――私は、F.Fとの思い出(ロマン)を、決して忘れない。

 

 

 

 

 F.F(スタンド:フー・ファイターズ)

 ―――死亡

 

 

 

 ……To Be Continued→




 という訳でF.F退場です。お疲れ様でした。後でジュースを奢ってやろう(謙虚)

 プロットでは原作突入までにこなさなきゃいけない戦闘はあと一戦。はよくたばれや電波神父。
 まぁ戦闘以外でまだ時間掛かりそうですが。簪さんに予定されてる最後の魔改造がまだ済んでない(次回憑依経験共感予定)。
 加えて今回から『楯無さんの与り知らぬ所でかんちゃんの好感度爆上げ作戦』を遂行中。IS世界に戻るまでには好感度ゲージをMAXにしときたい。

   ※   ※   ※

『ラヴレター・フロム・ベネズエラ』―――本体:プラダ・チェグマ
【破壊力:A/スピード:E/射程距離:E/持続力:D/精密動作性:E/成長性:E】
能力―――スタンドに付いたハンマーで地面を叩き、『地震』を発生させる。その気になれば震度5強~6弱くらいまで出せるが、射程距離の関係上震源地はどうあがいても自分の足元である。自滅して死にたくないなら、素直に震度1未満の地響き程度で我慢しとくべき。
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