簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語- 作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)
つまり4組のモブなんていくらでも創作し放題って事さ……クク……
(要約:4組のキャラなんて簪さんしか知らないんで適当にオリキャラ突込みますね)
織斑一夏は詰めが甘い その1
―――織斑一夏。
それが人類初にして唯一の『男性IS操縦者』の名だ。
彼の実姉はISの世界大会『モンド・グロッソ』の初代優勝者にして『世界最強(ブリュンヒルデ)』の異名を持つ女・織斑千冬であり、更に幼少期には『インフィニット・ストラトスの発明者』として名高い篠ノ之束とも交流があったと言われている。
本来女性にしか起動できないISを男である彼が動かせるのも、その辺りに理由があるのでは無いかとする説もあるが……未だ詳しいことは分かっていない。
そんな彼が今春からお世話になるのが『IS学園』と呼ばれる、世界唯一のIS操縦者養成学校である。21の国と地域が締結したIS運用協定、通称『アラスカ条約』に基づき日本国によって設置・運営されるこの学園は、首都圏近郊の港湾部に面した
島一つをまるまる全部学び舎として利用する贅沢さであるが、核兵器以上に世界各国のパワーバランスを左右するISという機械、並びにその操縦者・整備者等を一纏めに管理する都合上、通常の学校施設では決して見受けられない高度な防衛体制が整っており、学園……というか島自体が難攻不落の要塞と考えていいだろう。
またその特性上、実際の運営は日本に一任されているものの、学園そのものはいかなる国家にも属さず、あらゆる国家・組織による学園への干渉は、これを受け付けないものとする―――という国際規約の為に、建前上は遍く外部干渉を寄せ付けない独立性を有している。
……飽くまでも建前上の事で、実質的には抜け道も探せば有るのだが……この手の高度に政治的な問題では、兎角建前こそが学生達の身の安全を保障する為の切り札なのだ。
それはともかく、このIS学園はIS操縦者を始めとするIS関係者の為の教育施設である。そしてISは女性にしか動かせない以上、男子生徒は存在しない。
現実には操縦はともかく、整備等の仕事は男性の手で行われる事もあるが……この学園の主眼は操縦者の養成であり、整備科等の学科はおまけに過ぎない。世界各国の女性権利団体等の要望もあって、IS学園は完全に女学校として成立している。各企業などでISの後方支援を行う男性達は、この学園では無くIS製品の整備・開発を教える専門学校や、工業系の学校に置かれたIS工学部などの出身者だ。
故にこのIS学園、教師も生徒もその他関係者も、99%が女性。残りの1%の男性は用務員等裏方の仕事をしているか、時々学園にやってくる各国要人のオジサマ方、或いは設備の修理・点検や清掃の為に雇われる業者さんなどであり、まぁ一般の学生達の目に見える範囲では全員が女性だと言っても構わないだろう。
つまり何が言いたいかというと、唯一の男性操縦者として一躍世界一の要人となり、そこらの国の大統領なんかよりよっぽど激しく命を狙われ、また厳重に守られるようになった織斑一夏は、その世界初の事象を観測・研究するという観点から見ても、世界随一の警護体勢が整った学術機関であるIS学園に入学する以外の選択肢を封じられたのである。
……言い方を変えよう。右を向いても左を向いても女の子だらけ、つーか女子しか居ない環境に、男一人だけで唐突に放り込まれたのだ。ハーレム状態を通り越して軽く拷問である。これで話題の一夏君が性格爽やか、ルックスもイケメンだったからまだしも、どこにでもいるような普通の根暗オタクとかが同じ立場だったら多分三日程で世を儚んで自害するだろう。
そんな一夏君でさえ『女の園に自分一人』という状況はなかなか辛いものがあるようで、現在、自分の配属されたクラスである1年1組の教室内にて、好奇の視線を一身に受けながら冷や汗だらけになっている訳だが……ぶっちゃけ今回、彼の抱える事情は
何故ならこの物語の主人公である更識簪は、1年4組……彼とは別々のクラスだからだ。ここまでの説明は本筋とは無関係である。全て読んだ読者諸兄、時間を無駄するもんじゃあないぞ、全く。
※ ※ ※
織斑一夏が緊張に押し潰されそうになっているのと同じ頃、1年4組の教室。
「聞いた聞いた? 噂の男の子、1組に居るんだって」
「本当? 後で見に行ってみようよ」
「あっずるーい、私も行くー」
……1組に漂う謎の緊張感が嘘のように思える程穏やかな空気である。まだ担任の先生が入室していない事もあり、多くの女学生が姦しくおしゃべりしていた。さっき入学式が終わったばかりだというのに、既に仲良しグループが形成されつつある。流石は難関校のIS学園、コミュ力も優等生揃いだ。
とはいえ、全員が全員雑談に興じている訳でもない。例えば窓際の席に座っている黒髪おさげ、モブ顔の少女は黙して一人机に向かったまま読書している。……読書とは言っても、読んでいるのは入学前に配布された、電話帳ほどの厚さがある参考書であるが。
周囲の喧騒も気にせず、と言うよりは気にする余裕も無くむつかしい顔で活字とにらめっこ。どうも人見知りをする性格のようで、入学初日の朝っぱらから交友関係を広げるような真似はできないらしい。
……だが彼女が人と関わろうとせずとも、人が勝手に話しかけてくる事もある。傍にフラリと歩み寄ってきたのは、快活そうな茶染めの髪の少女。
「ねーねー、ちょっといいかな?」
「ひゃうっ!?」
参考書に夢中になりすぎて、机越しの対面に立たれても気付けなかったらしい。奇声を発して顔を跳ね上げれば、思わぬ反応に苦笑しながら耳のピアスを弄るギャルっぽい女の子と目が合った。慌てて本に栞を挟み、背筋をピンと正して向き直る。
「わ、私なんかに何か御用でしょうかッ!?」
「あー、用はあるけど……そんな固くなんなくて良くない? もっと気楽に行こーよ、気楽にさ。アタシは笠井律、『りっちゃん』って呼んでよね。君の名前は?」
「う、牛矢冥と申しますッ!」
「ふんふん、冥、メイ……めいちん、ね! よろしく、めいちん!」
「め、めいちん……? あの、それってひょっとして……『アダ名』って奴ですかぁ? ま、参ったなぁ。私、中学時代はボッチで、アダ名なんて生まれて初めて……」
『初対面の相手をいきなり愛称で呼ぶ』という、難度Sクラスの特殊スキルを発動したりっちゃん。生徒層の厚さには定評の有るIS学園といえども、同じ事ができるのは1組在住のマイペース系友好珍獣こと布仏本音だけだろう。
対するめいちんの反応はと言えば、彼女の積極的な距離の詰め方に困惑し、頬を掻きながらオドオドと戸惑うばかり。
長めに切り揃えられたパッツンの前髪が丁度目を隠している為にその瞳から感情の色を伺う事はできないが、しかし微かに緩んだ口元と仄かに赤みの差した顔色を見るに、単に照れているだけで嫌な気はしないらしい。
「そ、それでその。律さんは―――」
「ノンノン、『りっちゃん』ね。はいやり直し!」
「―――り、りっちゃん……は、あの、私に一体どのようなご用件で……?」
顔を真っ赤にしながら尋ねる冥。律のようなモテ系ガールと違い、彼女のような部屋の隅っこ大好き系女子にとっては、知り合ってから1分経ったかも怪しい相手をアダ名で呼ぶのはハードルが高かった。
一方、彼女に高すぎるハードルでの棒高跳びを強要した律はと言えば、この距離感こそが普通であるとばかりに平然と笑いながら質問に答える。
「んっとねー、リアル友達百人? みたいな?」
「えっと……つまり?」
「これからアタシら、このIS学園で青春送るワケでしょ? だったら沢山トモダチ作りたいなー、って。そんでとりあえず、クラス中の子と自己紹介し合ってるの。趣味とか話が合いそうなの誰かな~って。後で他のクラスにも行くけど」
「はあ……それで私みたいな日陰者にも一応声をかけた、と……」
「違うよ」
得心行ったという風に呟いた瞬間、律は真顔になって彼女の鼻先にビシッと指を突きつける。
「確かに、気が合わなそうな人とか仲良くできそうに無い人にも一応声はかけてるけど、君は違う。アタシは君と本気で仲良くなれると思ってるし、親しくなりたいからね」
「え、え……? どうして私なんかに、そんな……」
「
律はそう言いながら冥の前髪を掻きあげる。と、日本人らしい黒々とした瞳が露になった。
人と目を合わせる事が苦手で、常に前髪を簾のように垂らし目線を隠している彼女にとって、その双眸を真正面から真っ直ぐに覗き込まれるのは顔から火が出る程に恥ずかしかった。だがしかし、至近距離から真剣な表情で自分を見つめる視線に惹かれ、何故だか目が離せない。
「そう、その目。物腰や雰囲気は弱気で地味っぽいけど……固い意志を奥に秘めた、黒曜石みたいに鈍く輝く綺麗な瞳。君は、周りが思うよりも……君自身が思うよりも、よっぽど強かで魅力的な女の子だよ。だからアタシ、一目惚れしちゃったみたい」
「ひひひひ一目惚れッ……!?」
「……な~んて、そんな重く捉えないでよ! 要するにアタシ、君の事マジで気に入っちゃったってコト! ねね、アタシら良い関係築けそうじゃない? つかもう親友? みたいな?」
「へっ、あっ、そうですね……こんな私で良ければ、喜んでお友達に……なりますケド」
ふっと表情が緩み、にへりと笑んで語りかける律。未だ胸のドキドキが収まらない冥だったが、それを押し隠して何とか話を合わせる。
なし崩しで流れに身を任せるまま、自分とは正反対の性格をした目の前のギャル風少女と友人関係になってしまったが……その太陽のような笑顔を見ていると、本当に親友同士になれそうな気がして、訳も無く嬉しい気持ちが溢れるのだった。
※ ※ ※
―――暫く経って。
「やっぱりめいちんは操縦士志望だよね?」
「うん、昔観戦したISバトルの公開練習に感動して以来、憧れてて……でもどうして分かったの? 私、臆病な性格だし、争い事とか向いてないって……両親にも中学の先生にも、IS学園を目指してるって言ったら当然のように整備科志望だと思われたのに」
「さっきも言ったっしょ、目だよ目。めいちんの目は『戦う人』の眼差しだったからね。まるで飢えた狼、って感じでイカしてるよ!」
「ほ、誉め言葉なのかな……? えと、ありがとう?」
二人は既に打ち解けていた。元より人付き合いの上手い律はともかく、中学時代をボッチで過ごした冥までもが積極的に会話を楽しめているのは、或いは律ともっともっと仲を深めたいという無意識の願望の発露だろうか。
「じゃあ、りっちゃんは? 操縦者は目指さないの?」
「うん、整備科志望。こう見えても企業所属でバリバリ整備士として働いてんだよ、スゴイっしょー? ま、バイトみたいなモンだけどね。卒業したら正社員で採ってくれるって話だから将来は安泰だけど……っと、もうこんな時間か」
「あ、本当……もうホームルームが始まってもいい筈だけど、先生遅いね? 何かあったのかな」
「さあ、どうだろ……って、あああっ!」
予定の時間を過ぎても一向に姿を見せない担任の事を訝しんでいると、唐突に律が声を上げる。
「ど、どうしたの!?」
「いやさ、さっきも言ったようにアタシ、クラス中の人と自己紹介して、全員と話したつもりだったんだけど……どうも一人だけ、話し忘れてた子がいるっぽい。ほら見て、この手帳」
「あ、本当だ。一個だけ空欄があるね」
マスキングテープやらラメシールやらでゴテゴテにデコレートされたピンク色の手帳を開けば、そこには手書きで、クラス人数分の記入スペースが用意されていた。その殆ど全てに名前と簡単なプロフィールが書き込まれていたが、
その内の一方、明らかに他と比べて情報量が多い欄―――過分に詳細な情報が記されている上、要所要所に『かわいい』だの『綺麗』だの『大好き』だのといった戯言が挟まった箇所、要するに
「あちゃー、うっかりしてたかー……でも、アレ?」
「? どうかしたの?」
「いや、さ……今教室中見回して見ても、やっぱり全員に話聞いたと思うんだよね。―――うん、間違い無い。なのになんで……始めに用意した記入欄の数を間違った? いやでも、出席番号と同じ数の欄を作ったのは確認したし……」
「……
律の呟きの一部分を聞いて、ふと気付く。
「なに? どうかしたの、めいちん?」
「りっちゃんさ、出席番号と同じ数って事はクラス
「うん、1番から32番まで、間違いなくクラスメイト全員分だよ」
「…………『りっちゃん自身の分』も?」
「…………あっ」
「ハーイ、皆席に着いてー! ホームルームを始めるわよー」
タイミングが良いのか悪いのか、金髪碧眼の女性が入室してきた。年齢と台詞から察するに、担任の教師だろう。冥も律も、その他のクラスメイト達も皆慌てて自分の席に座る。そうして教室内が落ち着いたのを見計らい、改めて先生が口を開く。
「遅れてゴメンナサイね、少し用事があったもので……コホン、改めて自己紹介するわ、私がこの1年4組の担任、ボローニャ・イルネリウスよ。昔はイタリアの代表候補筆頭だったけど、今はアナタ達の担任。教師としてはまだまだ新米だけど、アナタ達の先達としてしっかり導いていきたいと思っているわ、宜しくね♪」
そう語って生徒達を見渡すボローニャは、一見すると教師らしい理知的で柔和な人物に見えるが、見る人が見ればその裏に燃え滾る情熱の烈しさに気付けるだろう。それを若さ故の青臭さと取るか、心から生徒を想える熱血教師と取るかは人それぞれだが……その美貌も相まってか、概ね好印象のようだ。
「さて、これからの流れを説明するわね。今朝の入学式の後、即行でこの教室に集合して待機してもらってた訳だけど……ここで重大発表!
『えっ……ええええぇぇーーー!?』
当然の如く響き渡る4組生徒達の驚愕の叫びが、教室を揺らした。その愕然とした表情を眺めながら、悪戯が成功したかのように満足気な笑みを浮かべてボローニャ先生は耳栓を外す。この反応も予め織り込み済みだったようだ。
「はいはい、話は最後まで聞くように! ちょっとドッキリさせちゃったみたいだけど、テストと言ってもそんなに大した事はありません! 入試問題よりも軽めな、要はISに関する理解度チェックみたいなもの。解ける人なら楽勝だし、例え赤点でも咎めないわ! だってアナタ達は入学したばかりのヒヨッコ達、授業も受けてないんだから分からなくても『当然』よ、むしろソレを
手際良くテスト用紙を配りつつ説明を重ねれば、クラスに広がっていた混乱も大分収まってきた。別に成績に影響する訳でも無さそうだし気楽にやってみるか、と皆やる気を見せ始める。
「全員に用紙は行き渡ったわね? それじゃあ、何も質問が無ければ始めようと思うけど―――」
「あ、あの! 質問宜しいでしょうか!」
「あら、何かしら?」
テスト開始の直前、手を上げたのは牛矢冥。何事かとクラス中の視線が刺さり、内気な彼女は少しビクリと震えたが気を取り直して言葉を続ける。
「えっとその、テストに関する質問という訳では無いんですけど……一つだけ、気になる事があって……というか、周りの人は皆気になってると思うんですけど……」
「何のことかしら? 答えられる質問には極力答えるけど……」
優しげに応えるボローニャに対し、少し言い淀む。というのも、ボローニャ先生がこの『事態』に気付いていない筈が無し、なのに何の説明も無いというなら、それは彼女達が知る必要の無い事であり、先生が敢えて触れないでいる事なのだろう。……だが、だからといってこのまま何の説明も無いままだと気になって仕方が無い。
故に、意を決して尋ねる。
「あの……私の前の席、『空席』なんですけど……何かあったんですか? まさか、入学初日から
「あー……やっぱ気になっちゃう?」
―――そう、冥の目の前の席には誰も座っていない。清々しいまでに空席だ。今度はボローニャが生徒全員の視線を受け止めながら、頬を掻きつつ罰が悪そうに答える。
「その、ね? その席の子は、ちょっとした『問題児』らしくて、……入学早々やらかした、っていうか……今、多分恐ろしい目に遭ってるっていうか……」
「……と、言いますと?」
「うん、まあ、簡単に言うとね? ただ今『折檻中』よ、
その言葉にクラス中の空気が凍る。よくよく見れば、ボローニャ先生自身も額に冷や汗が浮かんでいる。折檻中だという生徒の事を思うと、同情心というか何というか……得も言われぬ恐怖に支配されてしまうのだろう。皆も同じ気持ちだ。
だって学年主任といえば、それは『世界最強』。現役を退いた今なお、IS戦闘において右に出る者無し……というか、生身で戦ってもISに勝ってしまうかもしれないレベルのチートにして、世界トップクラスの有名人。
―――
そんな
「……先生、テストを始めましょうか」
「……そうね、よーいスタート!」
想像するだに恐ろしいので、想像しない事にした。皆で問題を解く事に集中し、この教室に辿り着けなかった哀れな同級生の事は可能な限り意識の外に追いやる。
思えば、ボローニャ先生は私達が受ける精神ダメージの事を慮って、敢えてこの件には触れずにいたのだろう……と、今更ながら己らの担任の優しさに気が付かされる。出会ってから未だ数分、ボローニャ先生は生徒達から急速に慕われ始めていた。……一人の生徒の、尊い犠牲のおかげで。
※ ※ ※
……さて、件の『問題児』とやらは一体何を
その時、唯一の男性操縦者、織斑一夏は一人―――
(どこだココ)
―――道に迷っていた。
広大な敷地を誇るIS学園の、入学一日目。それも望んでここに来たのではなく、故に下調べも碌に済んでいなかったが為に起こった悲劇である。
体育館とは別棟である教室棟へ向かって、ぞろぞろと列を成して歩く女子達に着いて行けば良かったのだが、道中を埋め尽くす女の子の波の中に飛び込む勇気は、まだ持てなかった(その内嫌が応にも慣れざるを得ないのかもしれないが)。だからこそ彼は一人で違うルートを通ったのだが、それが悪手。あっという間に現在地を見失ってしまったのだ。
……因みにこの男、過去には迷子がきっかけでIS学園の入試会場に迷い込んでしまった程の方向音痴である。その際に誤って触れたISを起動させてしまい、
「本当、どうしたらいいんだよ……今更誰かに道を尋ねようにも、人っ子一人見当たらないし―――」
「じゃあ私の出番ね♪」
「―――のわあっ!? い、いきなり誰だ!?」
突如背後から聞こえた声に驚きつつも振り返れば、そこには『水先案内』と書かれた扇子を広げる水色髪の女子。リボンの色からすると二年生のようだが、悪戯っぽい笑みを浮かべながらにじり寄って来る姿からは怪しさしか感じない。思わず後退る一夏を逃がさぬよう必要以上に体を寄せ、そっと耳打ちする。
「そんなに避ける事ないわよ、取って食う訳じゃなし♪ 君が話題の織斑君ね、私は通りすがりの頼れる上級生よ。困っているみたいだったから見かねて声をかけたの。良かったら貴方のクラスまで案内してあげ―――」
「―――ああっ、思い出したぞ! どこかで見た顔だと思ったら、入学式で意味不明な儀式を取り仕切ってた変な人だ!」
「ちょっ!? 『変な人』!?」
初対面の筈が突然の変人呼ばわり。これに慌てたのは自称『頼れる上級生』こと更識楯無。日本政府直属の暗部組織の頭領であり、学園最強(※教師陣除く)の代名詞たる生徒会長でもあり、自由国籍権を持つロシアの国家代表でもある―――という事実を、一夏はまだ知らない。
だが、彼は彼女を知っていた。知らざるを得なかった。知りたくも無かったが。……それは先刻行われた入学式の最初の行程、在校生代表として生徒会長が行った挨拶での出来事。
※ ※ ※
「妹は
『
―――なんぞこれ。
壇上でマイクを握り妹への愛を熱く語る生徒会長と、絶え間なく木霊する
一夏はもちろん、新一年生の殆ど全員が、この意味不明の儀式に対してぽかんと口を開ける他無かった。見れば在校生達も多くは呆れたように事が終わるのを待っているが、取り乱す者や混乱する者が現れないという事は、この謎過ぎるインシデントにも耐性があるようだった。
……要するに『よくある事』なのだ、これは。新入生一同は戦慄した。
なお、一部には率先してこの熱狂の中に混じろうとする者達もいた。在校生だけでなく、新入生の中にも狂ったように
「さあ、これで分かったでしょう? 『妹』とは世界の真理であり、宇宙の頂点であり、絶対の概念なのよ……分かったのなら是非、IS学園生徒会の下部組織『
『うおおおおおおおおおおおおお!!!!』
今日一番の歓声が上がる。極一部の特殊なシスコン共にしか支持されていないにも関わらず、その熱量はその他大勢の一般生徒を飲み込んで余り有る程だった。この異常な光景を散々見せ付けられ続けた一夏達一般人は、もはや思考放棄の状態である。早くこの変な儀式が終わるといいな、とぼんやり考えていた。
……その時、体育館に設置されている備え付けのスピーカーが甲高いハウリング音を響かせた後、生徒会副会長―――布仏虚の叫び声を館内に伝える。
『会長、それに同志の皆様、申し訳ありません! 突破を許しました、すぐに離脱を!』
「ッッ!? て、撤収! 撤収ゥゥーーーーー!!」
突然の事態に困惑する一同。新一年生のみならず、在校生にとってもこれは初めての展開であった。いつもは楯無が満足するまでノンストップで続く、生徒会長のシスコン大暴走。それを途中で止められる存在など、今まで居なかったのだ。
……
観衆達がざわめく一方、自身に迫る危機を正確に理解していた楯無は即座に壇上から下りて逃げ出そうとするが、目の前に現れた『金属バットを構えて微笑む少女』を見て顔を引き攣らせる。
「げえっ、関☆羽!?」
「……誰が三国志の英傑なのかな~?」
常通りの間延びした喋り方だが、その声音は絶対零度。布仏本音の能面のように張り付いた微笑からは、憤怒しか伝わってこない。
「そ、そんな……虚はどうしたの!? 普段はともかく、今の彼女が抜かれるなんて―――」
「うん、まさかこんな下らない事の為に学園の『練習機』を持ち出すなんて思わなかったから、ちょっと梃子摺ったけどね~。目には目を、ISにはIS。かんちゃんが抑えてくれたおかげで何とか突破できたよ」
「なッ……まさか、『例の企業』から与えられた『専用機』を!? いくらISの携帯を許されているからって、非常時以外の無断使用は『厳禁』なのよ!?」
「お嬢さま……もとい会長にだけは言われたくないよ? こんな馬鹿騒ぎの為だけにわざわざ
そう、彼女達シスコン同盟は何をどうやって許可を得たのか知らないが、練習用のISとして学園が所持する『打鉄』を借り受け、体育館内に簪と本音が入れないよう厳戒態勢を敷いていたのだ。阿呆の所業である。……尤も、ブチギレた簪が『自身のIS』で対抗した為に大した障害にはならなかったのだが。
「じゃあ……かいちょー、何か言い残す事は?」
「た、楯無死すとも
「死んじゃえ☆」
無慈悲な鉄槌。哀れ生徒会長は、全校生徒の前で親友の妹に撲殺されてしまった。……まあ、峰打ちなので30分もすれば復活するだろう。「お騒がせしましたー」と朗らかな表情で、真っ赤に染まり動かなくなった楯無を引きずり去っていく本音。その光景を目撃した全員が思った―――彼女だけは怒らせないようにしよう、と。
同時に、体育館の外から爆発音が聞こえたが……どうやら副会長も、敬愛する会長と同様の末路を辿ったらしい。
暫し呆然と佇む全校生徒。そんな彼女らを尻目に、体育館の端の方の席に座っていた用務員のお爺さんがすたすたと壇上に歩み出て、楯無が手放したままその場に転がっていたマイクを拾うと、何事も無かったかのように告げる。
「―――では、これより入学式を始めます」
いや、今までのアレは何だったんですか。……そんな質問を今更ぶつけるだけの気力が残ってる者も既に無く。その後の入学式は、万事滞りなく進んでいった。
※ ※ ※
「全く、失礼しちゃうわねー……この美人生徒会長を捕まえて、事もあろうに変人扱いなんて」
「いや、どっからどう見ても変人以外の何者でもありませんでしたからね!?」
そして現在、織斑一夏は不本意ながらもこの自称美人生徒会長の案内を受けて並び歩いていた。
雲一つ無い青空の下、教室棟へ続く舗装された道を進む。通路の両側に植えられた桜並木から舞い散る花びらを背景に悠然と微笑を浮かべる楯無は、本人の言うように美人ではあるのだが……中身は入学式で見た通りの
正直な所、一夏はこうして同道しながら話を聞くまで、彼女が生徒会長であるとは信じていなかった。むしろ信じたくなかった。だが現実は非情であった。
「……ところで織斑君、なんで私から微妙に距離を取ってるのかしら?」
「千冬ねぇ……うちの姉から『ハニートラップには気を付けろ』って言われてまして……あっいや、その、先輩の事信用してない訳じゃないんですけど、一応用心を―――」
「ふぅん、いい心掛けね。自分の立場を弁えてるみたいでお姉さん安心したわ、これで女の子にデレデレしちゃうような子だったらちょっと心配だったもの」
感心したように頷く楯無だったが、一夏の本心は(ちょっとアレな人みたいだし近寄り難いな)である。姉の千冬からハニトラを警戒するよう言われたのは事実だが、建前に過ぎなかった。
そうとも知らない楯無は、その場で立ち止まると一夏の方に向き直って警戒を解すように微笑みかける。同時に口元を隠すように開いた扇子には『心配無用』の文字が浮かんでいた。
「でも安心して、私は貴方の『味方』よ。すぐに信じろ、なんて言わないけどね。私は『IS学園生徒会長』更識楯無の名にかけて、一生徒である一夏君の安全を誠心誠意守って見せるわ!」
「あっはい」
言い切ると同時にバッシィと扇子を閉じ一夏に向かって突きつける。どうやら決めポーズのつもりらしい。というか、台詞も予め用意しておいた決め台詞であった。
できるだけ第一印象を好くする為の彼女なりのコミュニケーションだったが、悲しいかな一夏君からの第一印象は入学式の時点で『シスコンの変人』で固定である。何をしようと今更であった。
ただまあ、それはそれとして、彼は出会ってから今までの会話を通して楯無の事を『悪い人では無い』と判断した。
どんな相手だろうと、言葉を交わせば忽ち懐に入り込み、親しくなってしまう―――それは更識流諜報術の応用、人身掌握の手管を駆使した結果でもあるが、同時に彼女自身の生来の気質、人たらしな愛嬌のおかげでもあった。
「これから宜しくね、織斑君。仲良くやっていきましょう」
そうして楯無から握手を求める手が差し出される。彼女の事を
「……はい! こちらこそ―――」
「―――でもお姉ちゃんと必要以上に『仲良く』なったら、
彼の方からも握手を返そうと手を伸ばしかけた瞬間、聞こえてきた声と背筋を走る悪寒。そして縮こまる股間。噴き出す冷や汗を無視してバッと振り向けば、そこに立っていたのは見た目からして
IS学園の制服を着ている以上、彼女もまた学生の一人なのだろう。リボンの色からして、一夏と同じ新入生である事は分かる。だが……その制服は、もはや一夏の知っているそれとはかけ離れていた。IS学園では改造制服が認められているとはいえ、これはどうなんだってレベルで。
彼女自身の色違いの双眸に合わせるように左右それぞれが紫と青に染められたその制服は、
更に右腕の手首の部分には、これまた奇抜な形状のブレスレッドが嵌められている。蝶と短剣を象ったデザインのそれは、妙にメカメカしくゴテゴテしていて、まるで子供の玩具のようにしか見えない。一言で言い表すなら、『戦隊ヒーローの変身アイテム』だ。
付け加えるならもう一点、角度的に一夏からは見えなかったが……彼女の背中側、ゴスロリ制服の襟元―――首の左後ろの部分に『星型の刺繍』が施されているが、そこに込められた想いは彼女だけしか知り得ない。
そんな奇妙な風貌の彼女は、威圧感を放つ堂々たる佇まいでそこに立っていた。一見すると気弱で大人しげな少女にも見えるが、彼女の纏う『スゴ味』がその芯の強さを物語る。
知らず気圧されていた一夏だったが、どこかで見たような水色の髪を認識した瞬間、ふと彼女が最初に喋った台詞の一部が引っかかった。
「……『
「あー……、先の入学式ではうちのお姉ちゃんが迷惑かけたみたいで、本当申し訳無く……」
「ちょっと簪ちゃん!? 迷惑だなんて酷い言いがかりよ、アレは我が同志達を導く崇高な―――」
「はいはい、お姉ちゃんは一回黙ろうね」
楯無の言葉を途中で遮り、服の至る所に取り付けられた隠しポケットの一つからパチンコ玉を1球取り出すと、指で弾く。その玉は傍から見ていた一夏の目にも留まらぬ速さで楯無の眉間にクリーンヒットし、暴走寸前だったシスコンの意識を即効で刈り取った。
この急展開に付いて来れず、一夏は混乱するばかりだったが……彼にも一つだけ理解できた事がある。
「えっと……君はひょっとして、楯無先輩の―――」
「うん、『妹』だよ。私はお姉ちゃんの『妹』」
何故だか誇らしげに(薄い)胸を張りつつ、この物語の主人公は名乗りを上げる。
「国際複合企業『MCC』所属パイロット兼日本国代表候補、更識簪。……織斑君、君がこの学園で一体どんな
―――『世界唯一の男性操縦者』織斑一夏と『
……To Be Continued→
オリ企業はIS二次ssの醍醐味よねー
※ ※ ※
簪さん登場までの場繋ぎの心算でオリキャラ出したら、いつの間にかナチュラルに百合ってた……どうやら俺は女の子二人ならべるとカップリングせずにはいられない
因みに、予定にないオリ×オリのイチャイチャを書いてたら文字数が嵩んで案の定一話で収まらんかった。次回で終わるといいなぁ、この話……
※ ※ ※
あ、簪さんの制服ですか? 確か聞いた話だとIS学園って制服のカスタムが自由なんですよね? (杜王町の学生共の制服を横目に)もっと改造した方がよかったですか?