簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語-   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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大体半年ぶりくらいなので初投稿です。



今更なんだけどさ、本SSの第一話で(150%のノリと勢いで)誕生した『更識流諜報術』とかいう謎設定が本当に謎過ぎて困る。一体何なんだろう……(無責任に設定を生やすss書きの鑑)


織斑一夏は詰めが甘い その2

 更識簪、15歳。IS学園の新入生にして、日本国代表候補。そして国際複合企業MCC所属パイロット。それが世間に知られる彼女のプロフィールである。

 

 基本的にエリート揃いの狭き門であるIS学園の中においても、特にトップクラスの実力者だと言えるだろう。何しろ学園でISの知識・技術を学ぶ前、新入生の時点で既に国家代表候補なのだ。

 今年の入学者で彼女に匹敵する肩書きを持つ者なんて、入試成績首席のセシリア・オルコット(イギリス代表候補生、且つオルコット財閥当主であり同財閥IS部門所属パイロットも兼任)くらいのものだろう。こんな貴重な逸材が、よくもまあ二人も同時に入学してきたものだ。

 ……ちなみに昨年の新入生の中には、入学時点で代表候補どころか『国家代表』に任じられていた程の天才が居たりもしたが。―――そう、ロシア連邦代表のシスコンお姉ちゃん、更識楯無の事である。そう思うと、我らがかんちゃんの肩書きも騒ぐほどの事では無い気がしてきた。

 更に言えば、男性操縦者・織斑一夏と少しでも関係を持ちたい各国が大慌てで準備して、これから続々と代表候補の同級生が編入してくる予定だったりする。なんだ全然珍しくとも何とも無いじゃん、代表候補生。デフレかな?

 

 尤も、日本政府に属する対暗部用暗部『更識』本家の次女だったり、異世界帰りだったり、スタンド使いだったり、他にも色々……表に出せない『裏の』事情も勘案すれば、やはり簪という少女は群を抜いて特別なのは間違いない。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 さて、そんな少女と出会った一夏君であるが。

 

 

「―――なるほどなぁ、それが『代表候補』か。確かに言われて見れば、書いて字の如くだな」

 

「……それにしても、お姉さん驚いちゃったわ。まさかこのご時勢で、『代表候補』の意味を知らない子が居たなんて……」

 

「織斑君は相当の『天然』みたいだし、中学時代は鈍感で名を馳せたんじゃないかな? きっと『二束三文のハーレムラノベの主人公』にしかできないような女の子との接し方を、本気で現実(リアル)に持ち込めるタイプの人間! 私はそう推測するね」

 

 更識姉妹と並んで歩きながら、結構和気藹々と会話していた。

 この女尊男卑の世において、大層な肩書きを持った女性相手にも媚びず臆さず自然体で向き合えるのは、偏に彼の人徳である―――と言いたい所ではあるが。実際はただ単に、彼が『相手の持つ肩書きの意味』と『その地位の高さ』に気付いていなかっただけである。

 

 その国のIS操縦者の中でも、特に上位の数人しか選ばれない『代表候補生』。世界各国が核兵器の代わりにISの保有数を競い合うというこの世界において、国家代表やその候補は下手な政治家などよりよっぽど影響力のある存在だ。

 更に言えば、『ISを用いた戦争』を回避する為の方便として『ISは競技用のパワードスーツでありスポーツである』という建前が使われている現状、その扱いはオリンピックの代表選手と同等かそれ以上である。

 そういった理由から、メディア露出が多いのは勿論、中学レベルの社会科・公民のテストでは自国の代表や代表候補の名を答えさせられる事すらある。少なくとも、アイドルグループ宜しく追っかけやファンクラブができる程度には有名人扱いだ。

 

 ……そんな現代社会の基礎知識と言っても過言では無い『代表候補』という存在そのものを、今の今まで知らなかったというのだから、一周回って大したものだと呆れるほか無い。

 

 

「……もしかして、私の所属する『MCC』も知らなかったり……?」

 

「ああ、全く知らないぜ!」

 

「そんな胸を張るような事じゃ……無くも無いわね、逆に。世界に名立たる大企業よ? 『ディズニー』とか『マクドナルド』を知らないって言うのと似たようなものじゃない」

 

 と、感嘆を滲ませて呻る楯無。開いたまま塞がらない口を隠す扇子には、『( ゚д゚)』という顔文字が印字されている。口元は隠せても驚きは隠しきれない様子だ。

 ―――というか、この扇子何なのだろう。さっきから開く度に書き文字が変化するけど、ひょっとしてISのテクノロジーでも流用されてるんじゃ無かろうか。そうだとしたら技術力の無駄遣いにも程が有るぞ―――と、益体も無い事を考えている一夏であったが、簪から話しかけられ思考を打ち切る。

 

「じゃあ織斑君に―――」

 

「待った、さっきから気になってたんだが俺の事は『一夏』って呼び捨てでいいぜ。『織斑』だと、皆どちらかっていうと『千冬(ねぇ)』の方を連想するだろうし」

 

「ああ、確かに……世界最強(ブリュンヒルデ)だもんね、何しろ」

 

 

 IS業界の生きた伝説、織斑千冬。嘘か真か、『素手でISを粉微塵にできる』『睨んだだけで人を殺せる』『生身で宇宙遊泳できる』『篠ノ之束は彼女を恐れて雲隠れした』……などといった武勇伝に事欠かない、IS界の重鎮にして頂点。それが彼の姉である。

 『織斑』という名を出せば、100人中100人が千冬の事を連想するだろう。()()()I()S()()()()()()()()()。だからこそ、彼は名前での呼称を提案してきた訳だ。……いや、彼の事だからひょっとすると、この学園で姉が()()()()()()()()のを知らないかもしれないが。

 というか、多分知らないだろう。絶対知らない。考えて見れば、幾らなんでも一夏のISに対する無知っぷりは異常だ。千冬という誰よりもISに精通した女を姉に持っているのに、否、()()()()()無知なのだ。

 IS業界の酸いも甘いも光も闇も、全てを知り尽くした千冬()()()()()、今まで一夏をISから遠ざけてきたのだろう(今となっては無駄な努力だったようだが)。

 

 全てはIS業界一の要人である千冬自身の事情に巻き込まぬようにして、彼を危険から守るため。奇しくもそれは、暗部の仕事から簪を遠ざけようとした楯無や、家族を戦いに巻き込まぬよう自ら疎遠になった承太郎にも通ずるものがあるのかもしれない。

 

 

 

(……それはともかく、お姉さんが教員やってるって事だけは伝えといてあげようか……ううん、やっぱやめた。黙ってた方が面白そうだ(ロマンがある)し)

「なら私の事も呼び捨てでいいよ、一夏。お姉ちゃんと混同しちゃうしね」

 

 悪意のような善意のような、脳裏を巡ったそんな遊び心(ロマン)は裏に秘めたままにして、何食わぬ顔で親しげに話す簪。それを聞いた楯無も、すかさず流れに乗る。

 

「じゃあ私の方も呼び捨てで、何ならもっと気軽に『楯無お姉ちゃん』って呼んでくれても―――」

 

「じゃあそうさせてもらうよ、簪に楯無さん」

 

「即行スルー!? っていうか呼称にちょっと距離感無いかしら!?」

 

「いや、だって楯無さん一応上級生ですし……」

 

 あと貴女の後ろで『お姉ちゃんの事そんな馴れ馴れしく呼んだら下心有りと見做(みな)して誅殺するよ?』って言いたげな全く笑ってない笑顔を向けてくる子が居ますし……とは流石に言えなかった。

 

「そ、そんな事よりアレだ、さっき簪何か言いかけてたろ?」

 

「ああ、そうだった。一夏がMCCについて知らないみたいだったから、ちょっとだけ解説してあげようかなって……どうせその内『嫌でも関わる事になる』だろうし。色んな意味で」

 

「色んな意味……ってのはよく分からないけど、教えてくれるっていうなら頼む」

 

 という訳で、不満気に口を尖らせる楯無を無視しつつ、本校舎に着くまでの道すがら、簪先生による『国際複合企業MCC』がちょっと分かる話。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 それは初め、日本で創業された『桜花堂』という小さなゲーム会社だった。12年ほど前の事だ。

 その実態は起業者たる社長がほとんど自分の趣味でやってるような個人制作レベルの環境であったが、それが逆に功を奏したらしい。社長の趣味全開で作られた数々の『凝り過ぎた(マニアックな)』ゲームソフトは、コアなゲーマーの心を鷲掴みにし、破竹の勢いで有名企業となっていった。……つまり、社長は極めて優秀な『オタク』だったのだ。個人の趣味(ロマン)を商売に昇華できる程の。

 

 ……それだけだったら、単なる日本の大手ゲームメーカーで終わっていただろう。いや、それも十分凄い事なのだが、この会社の奇妙な歴史はここからが本番だ。

 創業から1年経ち、ゲーム業界の超新星として名が知られ始めた頃。桜花堂は突如として異業種に参入したのだ―――それも、全く畑違いな『国際運輸』という業界へ。当時世界的に有名だったアメリカの大手貿易会社『メロン・トランスポート』を電撃的に買収したという事件は、程なくしてその貿易会社の元幹部らが武器・麻薬の密売容疑で逮捕されたというスキャンダルと共に世界中を駆け抜けた。

 その余りのタイミングの良さも相俟(あいま)って、『メロン・トランスポートの役員達は陰謀によって冤罪を被せられ会社を奪われたのだ』とか『彼らの悪事を暴き正義を執行したのは桜花堂で、合併により幹部達から権力の盾を剥いだのだ』とか、数々の奇説珍説がお昼のワイドショーを沸かし、ネットの掲示板を飛び交ったが、最終的には『たかが1ゲーム企業如きにそんな事は不可能だ』とする至って当然の(ロマンのない)一般論に落ち着いた。

 

 何はともあれ、海外事業を展開する事となった桜花堂は社名を英語へと改名。『メロン・トランスポートと桜花堂の複合企業』、語呂良く訳して『Melon & Cherry Conglomerate』―――略称は頭文字を取って『MCC』、即ち現在の社名である。

 社名はこれ以降変わる事は無かったが、会社自体は次々と新しい事業を展開していった。時に他業種の企業を吸収合併し、時に自社内の技術を流用し、様々に商売の手を広げて行き―――その殆ど全てで成功を収めたのは、今や世界に名立(なだ)たる一大グループの総帥にまで上り詰めた桜花堂創業者の才覚による所が大きい。……尤も『優秀なオタク』である総帥本人にしてみれば、経営シミュレーションゲームで培った手腕を現実世界で試してみただけだったのだが。

 

 

 そして総帥の才の他にもう一つ、MCCが大躍進を遂げる要因となった出来事がある。それは桜花堂がMCCと名を変えてから更に1年後、今から10年前に発生した歴史的転換点―――そう、『白騎士事件』だ。

 

 

 ハッキングにより日本に向かって飛来した2341発のミサイルを『白騎士』と呼ばれる一機のISが全て撃墜し、直後やってきた各国の軍隊をも蹴散らして、篠ノ之束博士が発明した『インフィニット・ストラトス』の性能を世界に知らしめたこの大事件は、その後に起こった世界各国の政治・経済の混乱と変革―――俗に言う『ISショック』の発端となった。

 国際複合企業MCCは、このISショックの時期にいち早くIS産業に参画した企業の一つである。混迷極まる国際情勢の中を巧みに立ち回り、むしろ状勢を利用して急成長を遂げ、IS業界の大御所の一角に数えられるまでになった。現在、MCCのIS部門はゲーム・運輸と並ぶ最重要事業である。

 

 面白いのは、MCCは最初期からIS産業に携わっているにも関わらず、()()()()()()()()()()()()という事実だ。ISショック直後、各社が一斉に第一世代のIS開発に躍起になる中、MCCは只管にIS用の()()()()を作り続けた。それも、実用性より趣味に走った、外連味(ロマン)溢れる装備の数々を。

 同時に、競合各社の()()のデモンストレーションも兼ねた場として、ISを使った国際競技大会『モンド・グロッソ』の開催を呼びかけ、自らもスポンサーとして出資。運営こそ当時設立されたばかりの国際IS委員会に委ねたものの、彼らがモンド・グロッソという大会の誕生に一役買ったのは間違いない。

 

 ……或いはそれらの行動は、ISが戦争利用される事を避ける為の演出だったのかもしれない。事実、MCC製の"オモチャ"のような武装やモンド・グロッソでのIS競技を目の当たりにした世界中の人々は、ISを『スポーツ』として認識した。故に業界全体としても、(核に代わる抑止力としての最低限の軍事転用の他は)時代のニーズに合わせて『スポーツとしてのIS』製品の研究開発に力を注ぐようになったのである。

 

 各国が第二世代のIS―――即ち兵器としての汎用性・多様性を実現する機体の開発に目を向け始めた頃、MCCが組み上げた初の自社製ISがピーキー過ぎる専用機(燃費も安定性も極端に悪く、兵器としては欠陥品もイイトコ)だった事も、彼らがISを軍事から遠ざけたがっている証左だろう。

 

 そして数年前より、彼らはISによる宇宙開発事業の展開を発表し、月面基地まで建設中である。『宇宙開発用マルチフォームスーツ』というIS本来の在り方を一番理解し推進しているのは、間違い無くMCCだと評論家は言う。

 なお宇宙開発プロジェクトのリーダーは、IS部門最高責任者でありMCCグループ全体の技術開発統括者でもある『総帥秘書』が務めている。国籍・年齢・経歴・容姿等全てが社外秘とされ謎に包まれた秘書については、『篠ノ之束と同等かそれ以上の頭脳の持ち主』という噂のみが世間に知られているが……真偽は定かでは無い。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「へぇ、MCCってIS業界じゃそんなに凄い会社なんだな。今まで聞いた事も無かったけど」

 

「……IS業界での活躍が特に有名ってだけで、グループ全体としては食料・衣服・建設・交通・娯楽・電機・IT・その他諸々……現代日本では日常生活で耳にしない方がおかしいって言われる企業なんだけど……」

 

 感心したように頷く一夏と対称的に、呆れ顔の簪。たった今概説したような社の沿革や特色など知らなくとも、社名だけなら誰もが一度は聞き覚えがある筈なのだ。普通なら。

 IS知識が無いのはまだ納得がいくが、ここまで来るともはや社会常識が著しく欠如しているのでは無いかと疑わざるを得ない―――と思い始めた折、横から楯無が口を挟む。

 

「じゃあ一夏君、『インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ』ってゲーム知らないかしら?」

 

「ああ、IS/VSの事ですか? 弾の奴……中学の友達とはよく遊んでましたけど……」

 

 IS/VS、世界的ヒットを記録した名作対戦ゲームである。実在のISパイロットや機体を忠実に再現したバトルを楽しめる本作は、ISに憧れを持つ女子だけでなく現実世界でISに乗れない男性諸氏にも大ウケし、現在も細かなアップデートにより最新の武装やパイロットが追加され続けている。

 で、この話の流れで言及されたという事は勿論―――。

 

「ええ、そのゲームもMCC製よ。タイトル画面の前に『MCC』って描かれたロゴマークとか映ってたと思うわよ?」

 

「マジで!? ……あ、言われて見ればそんなロゴ見たことある気がしてきた! いつもスタートボタン連打でメニュー画面まで飛ばしてるから印象薄かったけど……」

 

「ふふ、やっぱり一夏君も知ってたじゃない、MCC。普段意識する機会が無かっただけみたいね。…………で、簪ちゃん? なんで急に不機嫌そうに……」

 

 会話の途中から明からさまに不満顔になった妹の膨らんだ頬を突っつく楯無。すると簪、一夏を睨んで曰く。

 

「ゲーム起動時のタイトル前のロゴ表示をスキップするような、風情(ロマン)を理解できない人種とは仲良くできない」

 

「そ、そう……。一夏君、よく分かんないけど簪ちゃんがご立腹よ? 謝った方がいいんじゃない?」

 

「……え? 俺が悪い流れですかこれ?」

 

「ううん、一夏は悪くない。悪くないけど、とりあえず謝罪と賠償を要求する」

 

「何故に!?」

 

 

 ……なんて馬鹿話で盛り上がり親睦を深めながら桜並木の道を歩いていると、漸く本校舎に辿り着いた。後は一本道をそのまま進めば教室棟のエントランス―――という所で、彼ら三人は『厄介なモノ』と出くわす。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 道の前方、地面に設置されていたマンホール。その蓋が突然ガタリと音を立て、ズリズリ引き摺られつつ徐々に開いていく。どうも、マンホールの下から誰かが出てこようとしているらしい。

 漸く蓋が完全に開くと、暗い穴の中から人間の腕がニョッキリ生えてきた。そしてマンホールの淵に手をかけると、その腕の持ち主は滑らかな動きで『ズルゥーー』と這い出てくる。高級そうなスーツに身を包んだ、サラリーマン風のおじさんだ。

 

「ふぅぅ、疲れたなぁーーー……うん、私もちょっと休むとしよう」

 

 と、煙草に火を付け一服する男をきょとんとした表情で見つめる一夏。

 

 

「……え? 男? IS学園に? 何で……」

 

「別に珍しい事じゃないよ、一夏。IS学園と(いえど)も施設の点検とかは外部の業者に委託する事もあるからね」

 

「見た感じ、地下の電気ケーブルの確認かしら? そういえば生徒会の方に報告が上がってたわね、外灯の調子が悪いから業者に診てもらうって」

 

「へぇーー……」

 

 女子二人からの説明に一応は納得する一夏だったが、それでもまだ疑問は残った。そしてその疑問は、他の二人も同様に抱いている。即ち、

 

 ―――なんでこの人、スーツなの?

 

 ずっと地下に潜っていたからだろう、明らかにブランド物と思われるスーツは上も下も取り返しが付かない程に汚れきっている。どころか、作業中にどこかに引っ掛けてしまったのだろうか、そこかしこが破れていた。これではもう二度と着られまい。

 勿体無いと言う以前に、そもそも何故スーツ姿でマンホールの下に潜って作業を行おうと思ったのか。作業服でも着れば良いのに……と、そんな疑問の答えは、案外すぐに分かる事になる。

 

 

「ちょっとアンタ、何勝手に休んでるのよ!!」

 

「うぇっ、先輩……」

 

 突然の声に振り向けば、そこに立っていたのは気の強そうな年若い女性。男性と同じくブランド物のファッションに身を包んではいるが、彼のようなビジネス用のスーツでは無く、ただのオシャレ着だ。

 『先輩』と呼ばれた事からスーツのおじさんの同僚だと分かるが、明らかに彼の方が年配で、女性の方が若輩である。……別に珍しい事では無い。

 この女尊男卑の世の中、上司でも部下でも女性の機嫌を損ねれば、男性というだけであっと言う間にクビを切られる。そして必死こいて再就職した職場でも、このように一回りも年下の女性にへーこら傅いて絶対服従せねばならないのだ。

 

「休んでいいなんて一言も言ってないわよ、早く仕事に戻りなさい!」

 

「そんな、さっきからずっと私ばかり働いてるじゃないですか! 先輩もちょっとは手伝って下さいよ」

 

「うるさいわね、アタシはアタシで忙しいのよ!」

 

「そ、そんな事言って……そこの木陰で寛いでるだけでしょう!?」

 

 と、男が指差した先、人工芝で整えられた学園内の休憩スペースには、大木の根元に置かれたパラソルとテーブル。コーヒーや茶菓子、果ては携帯用テレビまで置かれ、完膚なきまでに『仕事』の要素は無い。一目で分かる、彼女はずっとサボってただけだ。男の不平も無理からぬ物だろう。

 ……が、世は正に女尊男卑。正論が何だと言うのか。

 

「なによ、アンタは男なんだからアタシの言う事聞いてりゃいいの! 大体そんな地下なんて潜ったら、アタシの自慢のファッションが台無しじゃない!」

 

「それを言うなら私だって、もうこの服ダメになっちゃったじゃないですか! 18万もしたのに……っていうか、『天下のIS学園にお邪魔するんだからちゃんとした服装になさい』って言って無理矢理この服買わせたのは先輩―――」

 

「何、アタシにケチ付ける気? 上に有る事無い事告げ口してクビにしてやってもいいのよォ?」

 

「ぐっ、……うゥゥ~~~!」

 

 怒りに震えながらも耐えるしかない男と、勝ち誇った顔で見下す女。それは現代社会の一つの縮図だった。

 というか、女の嫌味にニヤついた表情から察するに、地下の作業で服がおじゃんになるのを見越した上で男に高級ブランドを着て来させたのだろう。嫌がらせの為に。つくづく意地の悪い女だ。

 正義漢且つ熱血漢である一夏はこの時点で既に我慢の限界だったものの、ここで更にダメ押し。

 

「フンッ、いい気味だわ……ほら何突っ立ってんの、早く薄汚い地面の下に帰りなさいよ、役立たずのアンタにお似合いの仕事場に、ねッ!」

 

「うぐッ!?」

 

 

「―――おい! やめろ!!」

 

 特に何の意味も無く、ただのストレス発散として女は後輩男性の鳩尾を殴りつけた。

 ボグゥーと痛そうな音を立ててその場に崩れ落ちる男を見て、もはや傍観者を続けられず二人の間に割って入る一夏。追撃の蹴りを繰り出そうとしていた女を制止し地面に転がって呻く男性を庇うと、今度は一夏にも彼女の悪意が向けられる。

 

「IS学園に男子生徒? ああ、例の『男性操縦者』ってヤツね。それで、男風情がお姉さんに何かご用事?」

 

「用事も何もあるかっ! 何でこの人を殴ったんだよ!?」

 

「見て分からなかったの? ムカついたから。あと男だからよ。何か文句ある?」

 

「あるに決まってんだろ!!」

 

「ふ~ん、()? どうするつもりぃ? ISを動かせるとはいえ、アンタみたいな男如き、しかもお子ちゃまの身分でアタシをどうこうしようってのぉ?」

 

 小馬鹿にするように蔑んだ顔で一夏を睨む女。だが一夏は不敵に笑って目の前の性悪女に現実を突きつけた。

 

「へっ、確かに俺一人じゃこの場はどうにもできなかったかも知れないけどな……ここには()()()の良識人も居るんだぜ? なぁ、()()()()!」

 

 

「―――まっ、呼ばれたなら飛び出しましょうか。『ジャジャジャジャーン』ってね!」

 

「ん、お姉ちゃんが出るなら私も……」

 

 相手が女性の特権を笠に着るならこちらはそれ以上の権力で応えるまで。一夏の声に応えて彼の両隣に歩み出る更識姉妹、その姉の姿を捉えた女は顔色を変え、ぷるぷる震えながら指差す。

 

「うっ、今回の仕事の契約書に載ってた……アンタは確か『生徒会長』……!」

 

「そう、この学校の『治安維持』の象徴、更識楯無とは私の事。それで貴女、随分横暴に振舞ってたみたいだけど……ちょ~っと『お話』する必要があるかしらね?」

 

「うっ、ううう……! ―――クソっ、この男性操縦者ァ!!」

 

 この学園において高位の権力、それこそ侵入者の拘束権すら持つ『生徒会長』という肩書きに怯んだ女。だがそれも数瞬、悔しげに歪む顔を更に凶悪に歪ませ、突然一夏をギッと睨んだかと思えば彼に向かって手を伸ばす。

 自分に矛先が向いて、咄嗟に身構える一夏。そして既に迎撃体勢を整えた更識姉妹。その警戒を嘲笑うかのように、その女は―――

 

 

 

「き、今日はこの位で勘弁しといてやるわ! 次会ったら覚えてなさいよ! バーカバーカ!」

 

「……いや逃げんのかよ!?」

 

 ―――ビシッと一夏に指を向けたかと思えば、回れ右してものっそい(ものすごい)ベタな捨て台詞を吐いて逃げ去った。それはもう惚れ惚れする逃げっぷりだった。その逃げ足たるや、台所の最終兵器(リーサルウェポン)、コードネーム"黒光りのG"とも互角以上!

 ……どうでもいい話だが、この時の一夏のズッコケっぷりはギャグマンガの住人並だったとか。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「えー……と、大丈夫っすか?」

 

「あ、ありがとう少年……」

 

 気を取り直して、放置されたまま置いていかれてしまったおじさんに声をかける一夏。倒れていた彼に手を差し出し、立ち上がらせる。

 

「君のおかげで助かった。なんとお礼をすればいいか……」

 

「いや、何も悪くないのにおじさんが酷い目に遭ってるの見て、我慢できなかっただけで……別に気にしなくていいですから」

 

「……うぅ、こんなに若いのに良く出来た子で……感激だぁっ!!」

 

「いえそんな……ちょ、抱き締めるのはやめっ……頭も撫でなくていいですからぁ!」

 

 男に礼を言われ照れくさそうにする一夏だったが、流石に男からハグされ揉みくちゃにされても嬉しくはない。こういうのは美女や美少女にされるべきものだ。……一夏の場合、それでも嬉しくないかもしれないが。この典型的難聴系鈍感男子、本当に思春期なんだろうか。

 

 やがて一夏を放した男性は、真剣な顔で尋ねる。

 

「さて、先輩も逃げてしまった事だし、私はのんびり自分のペースで仕事に戻るが……君、例の男性操縦者って事は、この学園の生徒なのだろう?」

 

「あ、はい、そうですけど―――」

 

「……もうすぐチャイムが鳴る時間のようだが。教室へ向かった方がいいのでは無いかね?」

 

「え―――ああっ、忘れてた!? 簪、楯無さん、早く―――って、簪どこ行った!」

 

 おじさんの言葉に自分の状況を思い出し、慌てて二人を急かす一夏。だが振り返れば、いつの間にやら簪の姿が無い。キョロキョロ辺りを見渡す一夏に、楯無が近づいて一言。

 

「簪ちゃんなら先行っちゃったわよ? 『遅刻したくないし後任せた』って」

 

「うえぇーい、薄情者! 何なの俺嫌われてる!?」

 

 叫ぶ一夏だが、それで時間に間に合う訳でも無ければ簪が戻ってくる訳でもない。楯無は自らの持っていた『諸行無常』と書かれた扇子をパチンと閉じると、再度開く。書き文字は『遅刻厳禁』に変わっていた。うーん、謎技術。

 

「そんな事言ってないで、私達も急ぎましょう? 私は生徒会長の職権を濫用すればどうとでもなるけど、一夏君はそうも行かないでしょ?」

 

「そうだ、こうしちゃいられない! それじゃおじさん、さよなら!」

 

「ああ、達者でな少年!」

 

 こうして二人は校舎まで一目散に駆けて行ったのだった。

 ……ちなみに一夏はギリギリ間に合わなかったが、教室に居たのが『悪鬼羅刹の権化』こと彼の姉ではなく小動物系教師の山田先生だったので特に罰は受けずに済んだ。良かったね。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 で、その場に残ったのは一人のおじさん。

 

 彼は二人が走り去ったのを確認すると、屈みこみ右手でマンホールの蓋を閉じる。その左手―――さっきまで一夏に抱きつき頭を撫で回していた左手には、『一夏の毛髪』が握られていた。

 

 

 

「いやはや、カッコよかったよ『織斑一夏』……だが『詰めが甘い』なァ~~~どこの誰とも分からん男に接触を許すなんてなァ~~~♪」

 

 下種じみた表情で笑いながら、一夏の毛髪をポケットから取り出したケースにしまいこみ、勝ち誇ったように呟く。もはや先程までの、『女尊男卑の女に虐められる哀れな男性』はどこにも存在しなかった。

 

「いやしかし、それも仕方の無い事かもしれんなぁ。()()()()()()()()も迫真の演技をしてくれたし……あれは見事なものだった。私の正体も目的も知らぬままだが、彼女は逸材だったなぁ」

 

 上機嫌に鼻唄など歌いながら、ポケットにケースを戻して悠然と歩み去る男。向かうは学園外、本土へと繋がるモノレールの駅。彼の目的であった『人類初の男性操縦者の体細胞』は手に入ったのだ、後はそれを『雇用主』へと届けるだけ。

 

「全く、楽な仕事だったよ……目の前に『更識』が現れた時はヒヤリとしたが、『先輩』の演技力に助けられたといった所か? 次の仕事でもまたあの子を雇うとするかな、フフ……」

 

 

 

 

「あら、残念だけど貴方に『次の仕事』なんて巡ってこないわよ、『後輩』さん?」

 

「ハッ!?」

 

 後ろからの声に振り返れば、そこに立っているのはさっき走り去った筈の『IS学園生徒会長』―――更識楯無。『油断大敵』の扇子を見せ付けるように持ち、狼狽する男に毅然と告げる。

 

「『更識』の情報網を舐めてもらっちゃ困るわね。―――雇われスパイ・通り名『後輩』。特定の組織に属さず、報酬次第でどこからでも仕事を請けるフリーランスの『コソ泥』で、金で雇い入れた『先輩』役の女性を使って『女尊男卑の被害者』を装い相手の警戒を解き、その隙にエモノを掠め取る。裏の世界じゃそれなりに名の知れた存在みたいだけど……ま、私達(さらしき)を敵に回したのが運の尽きね」

 

「ぐっ、むむ……!」

 

 ……何の事は無い。この男は織斑一夏より一枚上手だったが、更識楯無の方が更にもう一枚上手だった。ただそれだけの話。日本政府お抱えの『対暗部用暗部』は伊達では無いのだ。

 

「さあ、大人しく投降してそのケースを渡しなさいな。バックの組織……恐らく男性の復権を狙う過激派団体でしょうけど、それについて吐いてくれるなら悪いようにはしないわよ?」

 

「……舐めるなよ。私とてスパイの端くれ、だッ!!」

 

 懐に手を入れた男が取り出したのは拳銃。それを楯無に向けようとするが、所詮は悪足掻き。安全装置を外す隙に、一瞬で距離を詰めた楯無は男の右腕、肘の辺りを思い切り強かに殴り抜く。

 

「せいッ!」

「がぁああああッ!?」

 

 肘が曲がってはいけない方向に折れ、銃を取り落とし悶える男。勝負は一瞬であった。

 

「更識流諜報術の格闘技が一つ、『関節外し』……この距離なら銃より早いわよ?」

 

(どこが関節外しだ、関節砕いてんじゃねーか!?)

 

 とツッコミを入れる余裕すらなく、男は敢え無く逮捕。呼んでおいた更識家の構成員によって速やかに連行され、本土の留置場に収容されるのであった。

 

 

「……まぁ、『詰めが甘かった』わね。『後輩』さん♪」

 

 

 この後楯無は何事も無かったかのように自らの教室へ。遅刻ではあったがそこは一夏に宣言した通り、生徒会長としての権限で有耶無耶に。まあ今回は本当に重要な仕事だったし仕方無い。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 同時刻、IS学園の敷地内にある人工林のどこか。人目に付かぬ木々の合間に身を潜める一人の女の姿があった。そして彼女の目の前には、楯無が『後輩』を捕らえるまでの一部始終がリアルタイムで映し出されている。

 

 

 と言っても、モニター等の装置が有る訳では無い。宙に浮かぶ『大きな目玉』から、立体映像として空間に投影されているのだ。

 

 

 そしてその目玉の裏側には数十本もの()()()が絡みつくように癒着し、その糸の一本一本はもう一方の末端に『小さな目玉』を備えている。それらが大きい方の目玉と共に浮遊しながらうじゃうじゃ蠢く様は、グロテスクな不気味さを漂わせる。

 ……察しの通り、この目玉は科学技術で作られた物では無いし、一般人の目に見える物でも無い。『スタンド能力』である。

 

 名を『スターゲイザー』。能力は一言で言えば『遠隔視』。予め設置した『子目玉』が見ている映像(ついでに目玉でどう聞いてるのかしらないが音声も)を、糸で繋がる『親目玉』で受信し監視できる。射程範囲は数kmから数十kmにも及び、一度設置した子目玉は本体が手元に戻すまでずっと機能する。そして子目玉の数だけ『チャンネル』があり、どの目玉から見た光景を映写するかは自由に切り替え(スイッチ)可能だ。

 現在設置中の子目玉は二個。うち一つは、大胆にも『楯無の胸元』に張り付いている。無論スタンド体なので、当の彼女は気付く素振りも見せない。

 

 

 

「―――さて。『詰めが甘かった』のはどっちかしらね……『更識』さん?」

 

 『後輩』に雇われた『先輩』役の女―――即ちこのスタンドの本体は、そう嘯いてほくそ笑む。

 とはいえ、これはもはや楯無の責任とは言いがたい。それはこの女も承知している。何しろ『この展開』になるよう仕組んだのは彼女自身なのだから。

 

 そもそもの前提として、『スタンドは一般人には見ることが出来ない』。故に、スタンド使いである彼女が何をしようが楯無には防ぎようが無いのだ。

 今回はその上更に、『後輩』という()を用意した。彼は自分が"男性復権を目論む過激派に雇われ、何も知らない女を雇い入れた"と思い込んでいるが、実際は違う。彼女こそが彼の()()()()()であったのだ。

 その目的は『保険』。自分がスタンド使いだという事は知りようも無い筈だが、相手はあの更識楯無。万が一にも『不審人物』として目を付けられてしまえば、いくらスタンド使いとはいえ尻尾を掴まれかねない。

 その為に用いたのが『後輩』だ。つまり、『学園に忍び込んだスパイのカモフラージュに利用された愚かな女』という立場こそ、彼女の施した()()()()()()()。『後輩』を意識させる事によって、本来警戒すべき『先輩』が取るに足らない存在であると錯覚させたのだ。

 

 後は簡単、隙を見てそれとなく織斑一夏に子目玉をくっつければ、後は本土でのんびり寛いでるだけで世界唯一の男性操縦者のあらゆる情報が四六時中彼女の下に届けられる。

 そのデータを男性権利団体に売るも良し、女性権利団体に売るも良し、或いは一夏がIS学園内の機密に触れる機会があれば、それも高値で各国に売却可能。何ともオイシイ話ではないか。

 

 

 

「さて、『後輩』は役目を果たしたようだし、男性操縦者君の方に『視点』を移そうかしらね……え?」

 

 暫くして、『後輩』が連行されたのを見届けた『先輩』は、一夏の方の子目玉にチャンネルを切り替え―――そして驚愕する。本来であれば教室の、校舎内の風景が映るべきであったが、そこに映っていたのは『自分自身の後ろ姿』!

 

「なっ!? これは―――!」

 

 

 

「まあ、いい作戦だったとは思うよ……『スタンド使いが相手側にも居るかもしれない』って点さえしっかり対策されていればね」

 

「っ!? アンタ、更識楯無の妹ッ!? それに……()()()()!?」

 

 背後からの声に身を翻せば、いつの間にやら忍び寄っていた青と紫の改造制服の少女。だが『先輩』にとってその派手な衣装よりも目を引いたのは、彼女に付き従う双子の人形(ドール)

 青と紫、それぞれ別色のゴシックドレスに身を包んだ『彼女達』は、明らかに自らの意思を持って動いていた。というか、紫の人形が手に持っているのは―――

 

「嘘っ、アタシの()()()ッッ!? まさか織斑一夏に付けたッ!」

 

「まあ、油断しすぎと言うか何と言うか……『詰めが甘い』んだよ、本当。私の目の前でお姉ちゃんや一夏にヘンテコな目玉を仕掛けるんだもん……一般人なら気付かなくても、同業者(スタンド使い)からすればバレバレだよ」

 

 呆れ顔で淡々と語る簪だったが、対する『先輩』の動揺はむしろ深まる一方だ。こんがらがった思考を整理する為か、この状況で今更過ぎる事実を口走る。

 

()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()!? ―――私の子目玉(スタンド)()()()()()って事は、その動く人形がアンタのスタンド!?」

 

Oui(はい). スタンド『アナザーロマン』の青の方、オルタンスです』

 

『紫の方、ヴィオレットと申します。お見知りおきを……とはいえ』

 

「貴女とはここで"サヨナラ"だから覚える必要は無いんだけどね」

 

 そう言いながら、ヴィオレットは手にしていた子目玉を力一杯握り締めた。するとスタンドからのダメージフィードバックにより、『先輩』には左手小指を思い切り(ひね)られたような感覚が走る。……地味に痛い。

 

「ぐッ……ゥゥ、き、聞いてないわよこんなの! 『更識』にスタンド使いはいない筈じゃあ無かったの!? 『無能』で有名な妹の方なんて、余り詳しく調べちゃいないけど……それでも暗部として活動してるって情報はどこにも!」

 

「うん、正しいよ。私はお姉ちゃんの過保護の所為で暗部の仕事には関われないからね。だから私が今ここに居るのは『暗部組織の更識』としてじゃあ無くて、『M()C()C()()()()()()()()()()()』としての活動。―――()()()()使()()()()()()()()()()()?」

 

 

「……MCC……『MCC』ですってぇ!?」

 

 眼前の敵を左右色違いの瞳で冷たく見据えながら、困惑する女に己の立場を表明する。

 その言葉を―――『MCC』という単語を耳にした『先輩』の頭に浮かんだのは、スタンド使い界隈で有名な(しかし今まで与太話だと思い込んでいた)或る『都市伝説』。

 

 

「き……聞いた事がある! 世界中に根を張る国際企業MCCには、秘密裏に設立された『()()()()使()()()()()()()』が存在すると……そいつらは総帥直属の秘密組織で、各地で発生する『スタンド犯罪』を取り締まる【自警団】として悪を裁いているのだと! まさかアンタが―――!」

 

「そういうこと。理解した? ならそろそろ再起不能(リタイヤ)になってもらうよ」

 

「うぐッ!?」

 

 『先輩』の驚愕がピークに達した所で、ヴィオレットは今まで捕えていた子目玉を放り投げ、それをオルタンスが殴る。『物体に運動エネルギーを与える』能力により結構な速度で打ち出された子目玉は糸で繋がる大目玉に直撃。本体にとってはどちらも自分のスタンド、自分で自分を殴り合ったような衝撃に襲われる。

 既に逃げるタイミングは逸し、だからといって戦闘向きでない『スターゲイザー』では戦っても勝ち目は無く。結局、彼女に残された手段はやぶれかぶれの特攻のみ。

 何十個もの子目玉を礫のように飛ばし、簪に対して最後の抵抗を試みる。

 

「くっ……い、いやぁああああああああああああ!!」

 

 

 ……言うまでも無く無駄な抵抗ではあったが。

 

 

 

「反射角計算完了。さあ二人とも、行っておいで!」

 

『Oui,mademoiselle.(はい、御主人様)』

 

 

 無駄に優雅な決めポーズで立つ簪をバックに、双子の拳が目玉の群れを迎え撃つ。

 

 

「―――そこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこぉ!!」

 

「ギニィアアアアアアアアアッ!!?」

 

 

 飛んできた目玉はヴィオレットの手で停止され、又はオルタンスの手で撃ち返される。それを大目玉にぶつけまくって本体をボコボコにすると共に、隙を見て二人同時の一撃を繰り出し一つ又一つと目玉を破壊していく。

 ラッシュを続けるうちにどんどん体中から血が噴き出し、最終的にはボロ雑巾のようになった『先輩』をズタボロの大目玉諸共にブッ飛ばし、林の奥の茂みにシュート。女はそのまま意識を手放した。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「やれやれ……入学初日からこれかぁ。先が思いやられるなぁ……」

 

 数分後、道端の桜の木の下に置かれたベンチにて。

 MCCの仲間にメールで一報を入れ、茂みの奥で再起不能(リタイヤ)になっている『先輩』の拘束と連行を任せ一仕事終えた簪は、背凭(せもた)れに体を預けて火の付いた煙草を咥えていた。どこぞの某承太郎の影響とはいえ、もはや立派な非行少女である。

 

(今回は彼女個人の思い付きで起きた偶発的な悪事だったみたいだし、お姉ちゃんにも迷惑はかけずに済んだけど……問題は『()()()()』が動き出した場合かな。()()を相手にするとなると、流石にお姉ちゃんに何も知らせずって訳にもいかないし……)

「はぁぁー、憂鬱だなー……」

 

 煙を吐きながら溜息。できれば姉をスタンド使いの事情に巻き込みたくはないが、事前に説明しなかったらしなかったでもっとヤバイ連中に狙われるかもしれないジレンマ。世知辛い世の中だ。

 

 

(……やめやめ、今考えても仕方無いし。『あの組織』が必ずしも男性操縦者を狙っているとは限らないんだし、後の事は後で考えよう)

「……そんな事より。何か忘れてるような……?」

 

 と、最終的には問題の先送りをする事に決定。それよりも、今はもっと差し迫った用事があったような……と考えていると、屋外のスピーカーからチャイムの音が流れてきた。……()()()()

 

 

「……ああっ遅刻だぁ!?」

 

「ああ、遅刻だな……で、学生が煙草など吸って何をしているんだ? 更識妹」

 

「うぇぇえいッ!? 織斑先生ェェ!?」

 

 学生たる己の境遇を思い出した所でダブルショック! 通りすがりの学年主任(ブリュンヒルデ)の登場だ!

 変な声が出てしまったのも仕方無いだろう、だって怖いもん。凄絶な笑顔で殺気を向けてくるんだもん。既に出席簿アタックの構えを取って粛清準備万端なんだもん。出席簿アタックは鋼塊をも凹ませるという噂だし……むしろ壊れない出席簿がすげぇ。

 

「貴様には『説教』が必要なようだな……何、あまり痛みは感じないから安心しろ」

 

「あっ痛覚が麻痺するまで折檻される奴だこれ……お、お手柔らかに……ぅぅ」

 

 世界最強・織斑千冬とはいえ非スタンド使い(いっぱんじん)。スタンド絡みの事情を説明する訳にも行かず、彼女はコッテリ絞られ『入学初日に遅刻して煙草吸ってた問題児』というレッテルを貼られる羽目になるのだった(本人的には不良のレッテル≒学生時代の承太郎さんなので満更でもないが)。

 

 

 

 ―――結局の所、更識簪も十分『()()()()()()()』のでした。ちゃんちゃん。

 

 

 

 ……To Be Continued→




 ご無沙汰です。某所で別名義でオリ小説書いてました。まだ一話だけだけど。何かオリ小説だと途端に筆が遅くなる気がする……と思ったけど、よく考えたら遅筆は元からだったわ。なら良し。



 さて、漸くIS学園編開始です。次回が何ヶ月後になるかは未定ですが、とりあえずIS二次SSの宿命として、一夏君とセシリア嬢との決闘イベントは避けては通れない道。
 とりあえずクラス代表決定戦とやらが終わるまでは原作通りに原作沿いな原作展開が続くと思われます。暫く出番薄いってよ、簪ちゃん。

   ※   ※   ※

 はい、今回のスタンド紹介コーナー。

『スターゲイザー』―――本体:『先輩』(仮名)
【破壊力:E/スピード:E/射程距離:A/持続力:A/精密動作性:C/成長性:D】
能力―――『子目玉』で撮影した映像・音声を、『親目玉』が受け取りリアルタイムに再生する。
子目玉は数十個存在し、本体の意思一つでチャンネルを変えられる他、ある程度自由に動かせる。
射程と持続力は高性能な反面、戦闘では丸っきり役に立たない諜報専門スタンド。
余談だが、子目玉は本体が『指を差す』動作をすると、その先に設置される。
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