簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語-   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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2019年は更新しなかったので初投稿です。


ワイ原作未読やで? 一夏君や箒さんすらキャラクター掴めてへんくて性格改変のゴリ押しやのに、モブ女子とか分かる訳無いやん……

という訳で、1組モブ女子の皆様は名前だけ借りたオリキャラでお送りします。
とりま本ssにおける相川さん・谷本さん・鷹月さんの雑な設定メモを置いときます。
なお私にとっては顔と名前が一致しない程度には見知らぬ人達です。

   ※   ※   ※

相川清香 快活エネルギッシュな元気っ子。身体能力に自信ネキ。属性は熱血。
谷本癒子 ツッコミ体質。時々毒舌。基本的には優しい良い子。属性は冷静。
鷹月静寐 ですます口調。育ちの良さが滲み出る。地元の名家出身。属性は天然。


剣士 vs(たい) 銃士 その2

「しんどい……想像以上にしんどい……」

 

 色々……本当に色々あったIS学園生活初日、その放課後。織斑一夏は真っ白に燃え尽きていた。異性からの容赦無い好奇の視線によるプレッシャーもあるが、それ以上に辛いのは授業に付いて行けない事だ。

 IS学園の入学者に向けて行われる授業なのだから、その内容は当然ISに関する基礎知識を持っている事が前提である。然るに一夏は、これまでISについて全く勉強してこなかったどころか、ISから遠ざけたかった姉の教育方針により世間一般並みの知識すら危うい。授業内容が理解できないのも当たり前である。

 しかしだからと言って、泣き言は言っていられない。英国代表候補のセシリア・オルコットを相手に「見返してやる」などと大口を叩いてしまったのだ、この程度で音を上げる姿など見せられない―――見せてたまるものか! と、気合いを入れ直し己を奮い立たせる。ここで心が弱きに流れるで無く、むしろ逆境の中でこそ大きく羽ばたける点は間違いなく彼の長所であった。

 

 

「あ、織斑君! 丁度良かった、まだ教室に残っててくれたんですね!」

 

「―――山田先生? 俺に何か用事ですか?」

 

 一人物思いに耽っていた所で、教室に入って来た山田先生から声をかけられる。物腰柔らかな小動物系童顔教師と評判の山田先生の存在は、既に彼にとって一種の癒しとなりつつあった。というか、他の人物が余りに精神的負担過ぎて彼女以外に拠り所が無いのである。

 周囲を取り巻きヒソヒソと有る事無い事噂しながら不躾な視線を浴びせて来る有象無象の女子高生達―――は別に良い。立場上仕方の無い事だし、その内慣れる。てか慣れた。

 だが問題はそれ以外の、やたら『濃い』連中の事だ。ロマン厨少女(かんざし)はまだマシな方、変人シスコン生徒会長(たてなし)を筆頭に、目立ちたがりの色物英国貴族(セシリア)真剣常備な幼馴染(ほうき)など、ツッコミ所満載な人材の宝庫。この上更に、何か教師やってた世界最強の姉(ラスボス)まで控えてるという隙の無さ。

 もう本当に、癒しは山田先生だけなのである。

 

 閑話休題、豊満な胸を揺らしながら一夏の下へいそいそと歩み寄った山田先生は、一本の鍵を取り出し彼に手渡す。

 

「これ、織斑君の寮の鍵です。渡しておくようにと……」

 

「へ? 確か部屋の準備が出来てないから、向こう一週間は自宅通学って事になってたような……」

 

「その筈だったんですけど……やはり警備上問題があるという事で、政府から無理にでも寮に入れるように要請が……急な話でごめんね、一夏君?」

 

「あ、いや、そういう事なら仕方ないと思います」

 

 本当に申し訳無さそうに、瞳を潤ませながらペコリと頭を下げる先生に対し、文句など言える筈も無い。屈む体勢になった事で谷間が強調された胸元から咄嗟に目を逸らしつつ、鍵を受け取った。

 

「あ、でも家から荷物とか取って来なきゃ―――」

 

「―――荷物なら私が纏めておいてやった、ありがたく思えよ」

 

「千冬ね―――織斑先生!?」

 

 カツカツと靴音を立てて近付いてきた姉の言葉に、一抹の不安が(よぎ)る。だってこの世界最強、プライベートは壊滅状態なのだ。マトモに自分の部屋も片付けられないような人物が、果たしてマトモに荷物を纏めてくれているのかどうか。

 

「……中身は?」

 

「着替え一式とケータイの充電器。十分だろう?」

 

「千冬姉……いや、うん。分かってた」

 

 遠い目をする一夏と、本気で首を傾げる千冬。ちょっと洒落にならないくらい色々足りてなくて、最低限文化的な生活を送れるか不安になってくるが、一夏にとってこの展開は『よくある事』なので余り動じない。小中学校での宿泊行事とか、姉が変に気を回して荷物を用意する度、その頼り無さに苦労させられたものだ。

 ……とりあえずまぁ、一つだけ聞いておきたい事は、

 

「千冬姉、コレ千冬姉が昔失くした筈だったガラケーの充電器。俺のスマホのは?」

 

「えっ」

 

「……はぁ。他に必要な物も併せてメモしとくから、明日取ってきてくれよな。あといい加減、部屋の片付けくらいできるようになろうぜ?」

 

「……善処する」

 

 ―――これ絶対、善処する気無いな。

 目を泳がせながら答えた姉の内心を察した一夏は、隣で同じく察した様子の山田先生と顔を見合わせて苦笑するしか無かった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「……いかん、迷った」

 

 鍵に書かれた番号の部屋、1025号室を目指して寮棟を歩き始めて数十分。彼は自分の現在地を完全に見失っていた。目的地に辿り着く事は愚か、既に出入り口に戻る事すら不可能だろう。

 さっきから同じ所をぐるぐる回っているような気もするし、どうしたものかと思っていた時、前方から声がかかる。

 

「あれ? 織斑君?」

 

「こんな所で何してるの、おりむー?」

 

「あ、のほほんさん……それにえっと、相川さんと谷本さん? と、あと……」

 

「鷹月静寐です。よろしくね?」

 

「ご、ごめん……」

 

 歩いてきたのは、一夏と同じ一組所属の女子集団。まだ名前はうろ覚えだったが、唯一『のほほんさん』こと布仏本音だけは、初っ端から『おりむー』というあだ名で話しかけてきたインパクトもありバッチリ覚えている。あだ名で呼び合うくらいだし。

 ……なお、彼女の顔と名前を覚えてしまった一番の原因は、入学式の壇上で生徒会長(たてなし)をミンチにした勇姿が脳裏に焼き付いていたからであるが、精神衛生上の兼ね合いでその記憶は封印したので悪しからず。

 

「で、結局何してるの?」

 

「ああ、実は道に迷ってさ。俺の部屋、1025号室らしいんだけど……」

 

「え、それってここから真反対……一夏君、ひょっとして方向音痴?」

 

「……面目無い」

 

 怪訝な顔で尋ねられれば、顔を伏して恥じ入るしか無い一夏である。

 

「……しょーがない、ここはいっちょ私達で部屋までエスコートしてあげますか!」

 

「え、いいのか? 俺の都合に付き合わせて……」

 

「だいじょーぶだよ~、私たちもお散歩がてら寮の中を探検してたとこだしね~」

 

 案内を申し出る女性陣に若干の申し訳なさを感じるも、本音のゆる~い説得を受ければ罪悪感など一瞬で吹き飛んでしまうから不思議である。

 

 ……本音以外が知る術は無いが、其れこそは彼女の得意分野。更識の諜報員が須らく修める更識流の交渉術、その極地。

 『更識の頂点』である"才女"楯無も、当然の事ながら尋常ならざる対人交流能力を持つ。更識の一族が先祖代々受け継ぎ進化させ続けた、『更識流諜報術』。それを誰よりも深く理解し、実践できるのは間違いなく楯無である。

 ……しかし。『人とのコミュニケーション』という分野ただ一点のみに焦点を当てるなら。

 布仏本音という少女は、楯無―――周囲から『天才』と持て囃された自らの主どころか、歴代の更識家とその配下全てを引っくるめたあらゆる人材を遥かに凌駕する。

 

 彼女の言動一つ一つに始まり、身振り手振りや息遣いなどの細かな所作、相手の心の機微を敏感に読み取る直感力。常に自分のペースを乱さず相手を引き込み、さりとて不快感を与える事の無い奇跡的なバランス感覚等々……。とにかくあらゆる点において、彼女は相手の懐に潜り込む『天性の素質』を持っていたのだ。

 詐欺師や政治家になれば間違い無く世を掻き乱すだろう、使い方次第では『悪魔的』とも言える極悪な才能ではあったが……幸いと言うべきか、彼女自身は極めて善良な性格の上、生まれた家は代々暗部として主に忠誠を誓う一族。そして今代の主人は、彼女の才覚を正しい形で認識し活用出来る聡明さと、決して悪逆には染まらぬ信念を併せ持った『最良』の逸材であり、本人達の仲も良好。

 

 斯くして、布仏本音という少女の能力は緊急時でも無い限り、傍から見ていて思わず『のほほん』としてしまう程どこまでも平和的に利用されているのであった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「ところで織斑君、本当にオルコットさんの提案蹴っちゃって良かったの? ()()()()()だけど、彼女は世界の代表候補生の中でも『最強』って呼ばれるくらいだし、その教えを受けるチャンスって結構貴重だったと思うんだけど……」

 

「う。そ、そんなに凄い人だったのか? あのオルコットって女の子……」

 

「し、知らずにあんな啖呵切ってたの……!?」

 

 隣を歩く谷本癒子からの言葉を受けて、漸く自分が喧嘩を買った(押し売りされたとも言う)少女の世間的評価を知った常識知らずの一夏君。

 ……が、そもそも()()()()の事で怖気付くようなら格上に食ってかかるような非常識はしない。

 

「……まあ、オルコットさんが程度はともかく実力者だってのは分かってた事だしな。俺自身、誰かから教えを受けるよりはライバルとの切磋琢磨で鍛えてく方が性に合ってると思うし……オルコットさんも最初からそっちを期待してたみたいだし、精々失望されないように追い縋ってみせるさ。今すぐに彼女と戦わなきゃなんない訳でもあるまいし」

 

「おー、織斑君カッコイイー!」

 

「こういうのが『男らしさ』っていうのかな?」

 

 相川清香が上げた歓声を皮切りに、やんややんやと囃し立てる女性陣。無根拠な楽観論ではあるが、女尊男卑なこのご時世、例えハッタリでも同じ事を言える男が果たしてどれだけ居るものか。その他大勢的女子としては、これだけでも唯一の男子に期待を掛けるに十分足りた。

 

 

「……『前を向いて生きる者は、前向きな結果を呼び込む』。我が家の家訓です。その点、織斑君は心配いらないかな?」

 

「や、俺は結構ノリと勢いで言ってる自覚あるし、不安は不安なんだけどな……っていうか家訓? いやに仰々しいけど……」

 

「仰々しい、ですか……? 実家の掛け軸の言葉なんだけど……」

 

「ああ、静寐の実家、明治から続く由緒正しい家らしいから……感性が格調高いと言うか、うん」

 

「ちょっとズレてるって言うか、天然?な所がまた可愛いんだよねー」

 

「ちなみに~、私の実家は戦国時代からずっと同じ家に仕え続けるメイドさんの一族なんだよ~。忠義者ののほほんさんなのだ~」

 

「いや戦国でメイドってどゆこと本音!?」

 

 突然格言ぽい事言ったかと思えば首を傾げてぽわんとしてる静寐、そんな彼女を抱き寄せてかいぐる清香。マイペースに聞いても無い事喋り出す本音、それに律儀にツッコミを入れる癒子―――彼女達の性格(キャラクター)というか、気の置けない関係性が見て取れて、思わずほっこりする一夏。

 そんな彼の生温い視線に気付いたのか、静寐はほんのり顔を赤らめながら咳払い一つ、脱線した話を元に戻す。

 

「ええと、はい。とにかく、私の言いたい事はね? 織斑君の言う、その『ノリと勢い』って言うのが、意外と最後の決め手になってくるんです」

 

「そういうもんか……?」

 

「もちろん、それだけじゃ駄目なんですけどねー」

 

 そう言い加え、うふふと微笑む静寐。きっと彼女なりの激励の言葉なのだろう。割と真理でもあるのかもしれない。

 人事を尽くして天命を待つ、という諺もあるが、ネットに弾かれたボールはどう転がるか分からないもの。だがだからこそ、最後の最後は理屈ではなくノリと勢いに任せた方が良い結果に繋がるのかもしれない。「向こうに入らんかーっ!!」と気合で叫べばボールが相手のコートに落ちる事だって有るのだ。多分。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 そんな会話を楽しみながら道案内してもらい、漸く辿り着いた1025号室の前で女子達と別れた。

 

「さーて、俺の部屋はどんな……おおっ、思ってたより広くて綺麗で、快適そうじゃんか!」

 

 予定より一週間も早く寮に押し込められてしまったが、こんな良い部屋で過ごせるなら悪く無いかもしれない。そんな風に思いつつ、荷物を置いて早速ベッドにダイブし(くつろ)ぐ一夏は、完全に気を抜いていた。

 ……だからこそ、その事故は起こってしまった。

 

 

 

「ふう、良い湯だった―――?」

 

「へっ―――?」

 

 人の気配に思わず顔を上げてしまった一夏が目撃してしまったものは、一糸纏わぬ幼馴染の裸体。胸から股まで、何一つ隠さず余さず、真実をその目で(しか)と。

 たっぷり10秒程の沈黙が流れる。その間、一夏と箒は硬直したまま目を見合わせ続けた。……いや訂正、一夏の視線は胸やら何やらに引き寄せられている。無意識だろうが、やはり彼もオトコノコ。恋愛感情に疎いだけで、人並の興味はあるお年頃なのだ。恋愛感情には疎いが(大事な事なので2回目)。

 

 

 顔を赤くするやら青くするやら、一夏が愉快な顔色を演出していると、はぁーーー……という大きな溜息が沈黙を破った。

 未だ硬直したままの一夏を置いて、先に復活した箒はそそくさとバスタオルで裸身を隠す。と同時に、漸く一夏の金縛りが解け、あわあわと血相を変えて弁解を始める。

 

「いやその、スマン箒!! まさか男子の俺が女子と相部屋とは思わなくて、めっちゃ気を抜いてて……だからその……」

 

「いいから後ろを向いてろ、着替えられん。貴様のような朴念仁が、故意や悪意で妙な事しないのは分かってるから安心しろ」

 

 実力行使による制裁まで覚悟していたが、予想に反して帰ってきたのは至極冷静な指摘。慌てて壁の方を向いて、箒が服を着るのを待つ。

 しゅるりしゅるりと、背後から漏れる衣擦れの音は、画が無いからこそより一層艶めかしく……などと考える程彼は変態では無かったし、空気の読める男であった。

 

(でも箒の奴、昔と比べものにならないくらい冷静だな……身体だけじゃなくて精神的にも大人になった、って事か?)

 

 俺の知ってる箒なら絶対に手が出てた。というか木刀が。と、過去のラッキースケベ案件を思い返しつつ、幼馴染の成長を喜ぶ一夏(痛い目に遭わずに済んだので)。

 

 ……とその時、自らの首に冷たいモノが当たっている事に気付く。

 

 

「それで……何枚が良い? やっぱり3枚か?4枚でも5枚でも良いが」

 

「ヒイッ、おろされるぅ!?」

 

 いつの間にやら着替えの済んだ箒さんが、真剣構えて三枚おろしの準備万端でいらっしゃる。

 

「わ、わざとじゃ無かったんだぁ!」

 

「重々承知だとも。それはそれとして、乙女の素肌を拝んでおきながらタダで済む訳無いよなぁ?」

 

(あかん、目が笑ってない)

 

 顔だけ笑顔なのが逆に怖い。つーか誰だよコイツの成長喜んでた馬鹿は、静かに冷たくキレる分だけ恐怖が倍増してるじゃねーか!! と、心の中で悪態を吐く馬鹿(いちか)も魚みたいに捌かれたくは無いので、とりあえず必死で命乞いをしてみる。

 

「ゆ、許してくれ箒……何でもするから―――」

「ん? 今何でもするって言ったよな?」

 

「お、おう」

 

 恐ろしく早い納刀。まるで最初からその言葉を待っていたかの如き反応速度に、己が嵌められた事を知る。一体何を要求されるやら、不安がいや増す一夏に告げられた示談の条件とは―――

 

 

 

「これからの学園生活、可能な限り私の傍に居ろ。まあ、無理に束縛する気は無いが……とにかく心がけてくれ」

 

「えっ……別に構わないけど……そんな簡単な事でいいのか?」

 

 もっと無理難題を押し付けられるかと戦々恐々だった一夏は困惑するも、対する箒は澄まし顔。意味深な笑みを浮かべつつ、言葉を重ねる。

 

「そんな簡単な事でいいんだよ。それで結果的に私が『やり易く』なる……んんっ、まあ何だ、お前には分からないかもしれないが、私にとっては都合が良いんだ。頼めるか?」

 

「うーん……よく分からんが、つまりなるべく一緒に過ごせって事だろ? そんなの頼まれるまでも無いぜ、なんたって『幼馴染』なんだからな!!」

 

「……そうか。ま、お前はそういう奴だったっけな」

 

 朗らかに言い切った一夏から感じる、あの頃と一切変わらぬ親愛の情。その様子に一瞬だけ目を瞠った後、苦笑しながらやれやれと首を振る箒。時を経ても決して朽ちない友情が、そこにはあった。

 

 

「さて、そういう事ならこれで手打ちだな。ああそうだ、この際お前もIS学園の風呂というものを体験してきたらどうだ? 凄いぞ、学生寮の個室風呂なのにジャグジー付きだ」

 

「マジか!? 流石は天下のIS学園……じゃ、じゃあお言葉に甘えてひとっ風呂浴びてくる!」

 

 豪華設備の誘惑に、居ても立ってもいられず一夏はワクワク顔で風呂場に駆け込んだ。

 その後ろ姿を見送り、シャワーの音に背を向けて窓際から暮れなずむ空を見上げる箒。

 

 

 

 

 

「……お前は変わらんな、一夏。私の方は、随分変わったと思うよ……自分では良い変化だと思ってるが」

 

 誰にとも無く呟く。小学生の頃から変わらず、まっすぐなまま成長した幼馴染とは違い、彼女はこの6年で随分と()()が得意になった。

 月が昇りつつある空を眺め、ニヒルな笑みを浮かべるロングコートの少女。

 夕闇はどんどん夕焼けの残照を追いやり、音を立てて夜が迫る。あっという間に星々が夜天に踊り、浴室の水音と備え付けの空調の稼働音が束の間の静寂を満たした。

 

 

()()にしてしまって悪いな一夏、だがこれも『仕事』だ、許せよ」

 

 夜空に鎮座する満月を、睨むように見上げる彼女の目は猛禽のように鋭く。そして口元は好戦的に歪んでいた。

 

 

 

「さあ、セシリア・オルコット―――どう動く? 本当に只の学生なのか? それとも―――」

 

 ―――貴様は、私の『敵』なのか?

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

「ああ、そうだ。そういえばクラス代表を決めていなかったな」

 

 明くる日の授業開始時、千冬はそんな呟きを洩らした。

 はて、クラス代表とは一体……と疑問を顔に浮かべる生徒一同を勝手に代表し、相川清香が質問する。

 

「せんせー、クラス代表って何ですかー?」

 

「クラス代表というのは、まあ世間一般で言う学級委員のようなものだ。とはいえここはIS学園、それだけじゃあ無いぞ。至近で言えば、月末に『クラス代表対抗戦』という行事がある。名の通り、各クラスの代表がトーナメントで競い合うISバトルだ。優勝クラスには、学食のデザート無料券が贈呈されるぞ」

 

『おお~~~!!』

 

 清香だけでなく、黙って話を聞いていた多くの生徒が歓声を上げた。彼女ら華の女子高生、スイーツに目が無いお年頃。

 そんな学生達の若さを眩しく思って苦笑する織斑千冬(スイーツより酒とツマミなお年頃)。だがこのままでは話が進まないので、手を数度打ち鳴らして場を鎮め、改めて担任としてクラス代表を募る。

 

「まあとにかく、自薦でも他薦でも良い、クラス代表になりたい者、薦めたい者が居たら手を挙げろ」

 

『はいはいはいは~い!!!』

 

 

 

「お~……凄い熱意。やっぱり俺と違って、自分の意志でここに入学したんだもんな。そりゃヤル気はたっぷりか」

 

 

『クラス代表は織斑一夏君が良いと思いま~す!!』

「って俺かよ!!!」

 

 皆の熱意に感心していた一夏もこれにはビビった。

 

「だって織斑君、唯一の男子だし」

「クラスどころか、学園、いや世界で唯一だよ?」

「この希少価値を利用しない手は無いでしょ!」

「男子のカッコイイ所、見てみたいなー(チラッチラッ)」

 

「いやいやいやちょっと待て、捲し立てるな! えっと、クラス代表って学級委員みたいなもので、対抗戦とかにも出るんだろ? 謂わばクラスの顔なんだからさ、俺みたいな初心者以下を据えるのはどうかと……」

 

「えー、でも皆期待してると思うよ? このクラスの皆だけじゃ無くてさ」

「学校中の女の子が一夏君の活躍を見たがってるんだよ? ここは応えないと!」

 

「うう……期待が重い……」

 

 一夏の反論は正論ではあるが、誰もが―――それこそ学園どころか世界中が彼の動向に注目しているのもまた事実。代表として推薦を受けておきながら、それを辞退すれば落胆・失望の嵐だろう。とはいえ、それだけで軽々しくクラス代表になるのも……と、理性的判断と寄せられる期待との間で悩む一夏。

 

「昨日オルコットさんに格好いい事言ってたじゃない! 早速見返すチャンスだよ!!」

 

「それは、確かにそうだけど……でも流石に昨日の今日でこれは予想できないって……でも……うーん」

 

 『いつか見返してやる』とは言ったが、まだ特訓も勉強も始めないうちから機会が巡ってくるのは計算外である。普通に考えて何か出来るとは思えない。

 

 ―――しかし、考えてみれば今の自分は彼女に追い付くどころか、自分がどれだけ出来るのか、何が出来なくて何が分からないのか、目指すべき方向性、努力の目標すら目処が立たないのだ。

 ならいっそ、敢えて火中の栗を拾うのも手かも知れない。元より小難しい理屈など苦手な、感覚派を自認する一夏である。自ら難局に飛び込んで、糧となる経験を貪欲に求めるのも有りなのでは無かろうか。

 

(『願わくば我に七難八苦を与え給え』ってか? クラスの皆もほとんど俺を推してるみたいだし、やってみるか……?)

 

 

(……とか考えてる顔だな、アレは。見事に飲まれたな、『場の空気』って奴に……というか何を格好付けてるんだ、山中鹿之介気取りかお前)

 

 真剣に悩む一夏を冷静に分析するのは解説の篠ノ之さん。心の中の台詞まで完璧に読み切れる辺り、流石は幼馴染と言った所か。

 とはいえ、彼女も別に一夏がクラス代表になるのに反対という訳で無く、どちらかと言えば賛成なので余計な口を挟んだりはしない。

 

 ―――そう、だからここで余計な口を挟むのは彼女を置いて他には無い。

 

 

 

「納得がいきませんわ!!」

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

『クラス代表は織斑一夏君が良いと思いま~す!!』

「って俺かよ!!!」

 

(まあ、こうなりますわよね)

 

 クラスメイトが一斉に一夏を推薦し始めた時、セシリア・オルコットは意外にも冷静だった。

 『目立ちたがり』の彼女は当然クラス代表にも立候補するつもりであり、故に一夏が圧倒的支持率を得ている現状は好ましくない……が、彼女にも物の道理は分かる。

 今や時の人である織斑一夏を擁する1組の皆様が、彼を捨て置く筈が無い。(こぞ)って唯一の男性操縦者を持ち上げたがる気持ちは分かる。政治的理由にしろ単なるミーハー的興味にしろ、彼のIS戦闘は誰しもが見たがっているのだ。

 というか、セシリアだって見たい。ただそれ以上にクラス代表になりたい(めだちたい)だけで。

 

 ……そんな彼女が何故自ら挙手して自薦しないかといえば、貴族らしい優雅な所作で手を挙げようとした所で級友達の威勢に機先を制され、タイミングを見失ったまま言い出せずにいる訳だが。

 

 

(ですが、流石にそろそろ立候補しなくては織斑さんがクラス代表に決定してしまいますわね。さて、どう切り出したものかしら……)

 

 と、暫くは様子見しながら静観していたセシリアも、群衆に乗せられ徐々にヤル気を出しつつある一夏の真剣な表情を察して、漸く動き始めようとする。

 ―――瞬間、天啓。

 

(!! そうですわ!)

 

 突如脳裏に閃いた妙案に、思わずニヤリと口角が上がる。そのまま机を叩いて立ち上がり、教室内の雰囲気を搔き消すように吼えた。

 

 

「納得がいきませんわ!!」

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「ただ珍しいからという理由で実力ある者でなくISの何たるかすら理解していない男が代表に選ばれるなど、クラスの恥ではありませんか!! そもそも―――」

 

 突然の怒声に誰もが虚を突かれた一瞬の間に、セシリアは思い付く限りの反論を並び立てた。立て板に水の弁舌は止まる事無く続き、口を挟める者など居ない。完全にセシリアのペース、さっきまで盛り上がっていた筈の教室は既に彼女の独擅場である。

 

「―――だからこそ、私のような『本物のエリート』を推薦すべきなのです! それを、そこの猿並みの知能しか持たない『極東の野蛮人』如きを選ぶなど……これでは、わざわざアジアの端っこの『未開な国』に来た意味がありませんわ! 全く、日本人などという『愚劣な民族』はこれだから……」

 

 ……いや、『反論』どころで無い。これは暴論、いや暴言だ。とてもじゃ無いが『代表候補生』としてあってはならない罵詈雑言、この失言が外部に漏れれば失脚は確実だ。それを分からぬセシリアでは無かろうに、余程頭に血が昇ってしまったのだろうか―――と考えるには、少々表情が不自然過ぎた。

 何しろ、笑顔である。言い草は怒り狂った勘違い高慢女そのものなのに、これ以上無く愉快げな満面の笑みなのだ。加えて、声音も雰囲気も上機嫌を隠す気が無い。つまり一言で言うと『とっても楽しそう』。

 次々に飛び出す差別的発言も本心からとは思えず、……どちらかと言えば、『オペラかミュージカルの主演が独演の舞台で観客に向けた台詞を読み上げている』と言った方がしっくりくる。

 

 ……そんな様子を暫し呆然と見つめていた一夏だったが、ふと彼女と目が合った瞬間、全てを察する。

 

 

 周りに勘付かれない程度に、しかし一夏にだけは伝わる程度に一層笑みを深めて、ウィンクしたのだ。それで理解した。要はこういう事だ、『一曲いかが(Shall we dance)?』

 

 

 全く無茶苦茶だ、なんて目立ちたがりだ。普通に伝えれば良いだろうに。別にこんな『劇的』にする必要は無かったろうに。考え無しにも程がある。

 もし真意に気付いて貰えなかったり、気付いても無視されたりしたら。或いは先に教師に咎められれば、どうするつもりなのだろう。そら、案の定と言うべきか、織斑先生がお怒りだ。

 

 

「……その辺にしておけ、セシリア・オルコット。なんのつもりか知らんが―――」

「イギリスだって万年メシマズ国家第1位じゃねーか、文明国ぶってんじゃねーよ!!」

 

 そう。だからこそ一夏が舞台に上がってくる。千冬が口を挟む前に、セシリアの名演を無駄にしない為に。彼女の『期待』に応える為に。―――目の前で実演販売中の()()を購入する為に。

 

「なっ、待て一夏、教師の私に任せておけ! お前まで失言したら国際問題が更に―――」

「何ですって、腐った豆をありがたがるような民族の分際で生意気な!!」

 

 慌てて一夏を制止しようとした千冬を遮り、待ってましたと言わんばかりのセシリアが満面の笑みで応じる。

 あとはもう、誰にも止められない。

 

「ニッポン舐めんなよ英国人(ライミー)、そもそもIS発明(つく)ったのは束さんだし最強の座に着いたのも千冬姉、どっちも日本人だろーが、遅れてるっていうならイギリスの方が後進国だろ!」

「産業革命発祥の我が祖国を後進国と? 本気で仰っているなら歴史の勉強をすべきですわね。同じ島国とはいえ、所詮は極東に引き篭もって外に出ようともしなかった小国。大航海時代以来、世界最大版図を誇った我が大英帝国(British Empire)と同列に並べる事すら烏滸がましいとは思いませんの?」

「あーあー、これだから過去の栄光に縋るしかないお貴族様は! 時代に取り残された耄碌(ロートル)国家はISよりパンジャンドラム作ってる方がお似合いじゃね?」

「あらあら、歴史と伝統の重みが理解できないとは、流石は日本人。維新に大戦、都合が悪くなる度に自国文化を切り捨ててきただけの事は有りますわね。ここは一つ、貴族として下民に『教育』を施して差し上げましょうか。……『伝統』の形式でッ!!」

 

 ここまで一切の隙を見せず、息ピッタリの舌戦の応酬。誰もが呆気に取られる間に、セシリアは貴族風の改造制服の胸ポケットから仄かに青白いシルクの高級そうな『手袋』を取り出し、一夏に向かって投げつけた。

 事ここに至り、漸く千冬はセシリアの……()()()狙いに気付いたが、もう止められない。

 顔に直撃する寸前、人差し指と中指の二本で払い落とすように手袋をキャッチして、真っ直ぐに敵手を見据える一夏。それを同じく真っ直ぐに見返すセシリア。どちらも好戦的な笑みを浮かべている。

 

 

「『決闘』ですわッッ!!!」

「ああいいぜ、四の五の言うより分かり易い! 方法は?」

「当然ッ『IS』ですわッ! 日時は一週間後の放課後! 精々特訓に励みなさいな!」

「おうサンキュ、場所はどうする!?」

「『第一アリーナ』! 今朝自主練習の為に申請した時には、丁度一週間後が空いてましたわ!」

「委細承知、逃げんなよ!!」

「貴方こそ!!」

 

 

『と、言う訳なので織斑先生あとはお願いしまーす!!』

 

「き、貴様ら……最初からこの展開が狙いか……!」

 

 誰にも、それこそ世界最強(おりむらちふゆ)にさえ口を挟む猶予を与えず、抜群のコンビネーションで決闘の約束を取り付けた2人の主演に、観客達は思わず惜しみない拍手を送ってしまう。

 そんな中で、顔を引き攣らせて頭痛すら感じ始めたのは千冬先生。弟が大分アレなのは知ってたが、まさかもう一人()()が居たとは。もはや止められる空気でも無いし、追認せざるを得ない。

 まあ確かに、一夏を鍛える意味でも、或いは対外的・政治的パフォーマンスとしても、ここで一戦経験させておくのは悪くは無い。……ただひたすら、()()()()で私闘を認めるのが面倒なだけで。

 大体、上に何と説明してアリーナの利用申請を出せば良いのか。上手い事言い包めるのは担任である千冬の役目である。

 

「……もうなんか何を言うか予想は付くが。お前達、さっきの国際問題大盛り発言については……」

 

 

「怒りの余り『思っても無い悪口』を叩いてしまいましたわ。『イギリスの代表候補』として謝罪致します」

「いや俺の方こそ悪かった、『唯一の男性操縦者』として無責任な言動だったよ」

「では『お互い様』という事ですわね。互いに互いの責任問題、なら『無かった事』にするのが互いの為かと」

「この国にゃ『喧嘩両成敗』って言葉もあるしな。どうせ音声記録が残ってる訳でも無し、ここに居る皆が口を噤めば万事解決」

「それが誰にとっても不利益無い『ハッピー』な落とし所でしょうね、ではそのように」

 

「事態の収拾も計算の内、と……お前達本当息ピッタリだな……」

 

 しれっと事も無げにスピード和解のポーズを見せる若い二人に、仕事を押し付けられる形となった千冬はそっと溜息。

 

 

 斯くして、全ては我らがお嬢様の思惑通り。クラス代表の選出は、誰もが予期せぬ決闘―――『世界最強の弟・唯一の男性操縦者』織斑一夏が初めての公式戦で、最新鋭第3世代機の担い手でもある通称『国家代表に最も近い女』セシリア・オルコットと戦うという、()()()()()()()大一番へと発展したのだった。

 

 

 

(ふふ、これで学園中、いえ世界中に私の勇姿が拡散されますわ!! うふふふふふふ……!)

 

 

 ……To Be Continued→




1年以上間を開けた上に主人公が登場しないSSが有るらしい。

次回でクラス代表決定戦終わらせるまで書きたかったけど多分無理(
せめて、せめて決闘開始のゴングまでは書きたい……




ではまた来年か再来年に会いませう。
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