簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語- 作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)
書き進める度にセッシーの強さが盛られてく気がする今日この頃。
前回、一組クラスメイト女子という名のオリキャラを設定したけれど。
今回も一人、オリキャラ化したのでプロフィール載せとくね。
夜竹さゆか:クール属性。多分天然。口数少ない秀才少女。座学なら一年生トップクラス。
ところで前回、鷹月静寐さんを『地元の名家出身』と、セシリアとは違った形のお嬢様キャラとして設定しましたが。
名前だけは聞いた事のある『四十院神楽』さんが原作では旧華族出身の大和撫子お嬢様だという情報が飛び込んできて、どうしようかと絶賛悩み中。
……いやもうホントどうしようね? お嬢様キャラ、既に出しちゃったよ……。
静謐な緊張感が場を支配する。向かい合うは二人の剣士、固唾を飲んで見守るギャラリー。
放課後の剣道場、剣道部の部室での一幕である。
「せやあぁぁぁぁ!」
「――――――」
睨み合いの静から、先に動へと転じたのは竹刀を上段に構えた男の剣士―――即ち織斑一夏。
雷のような瞬発力で畳を蹴り、相対する敵手へと渾身の一撃を繰り出す。
「―――フッ」
その
数歩下がって
しかし、今彼女が相対しているのは全国レベルの剣道選手。
「ちょいやぁっ!」
「っ、なんとぉ!」
一夏は己に向かって振り払われた斬撃を瞬時に見切り、このままでは自分の剣が届く間も無く切り捨てられると確信し、―――それでもなお、だからこそ、
瞬きの躊躇すら見せぬ突貫は、最速不可避の筈だった居合様の切り払い、その出始めを潰す上段からの斬り下ろしを可能とし、箒の竹刀の根本を打ち崩す。
これにはさしもの箒を眼を見開き、しかし試合は続行中、体勢を整える間を稼ぐ為、牽制の
思考が実戦に引っ張られたが故に起きた、一瞬の隙。勝敗を決するには十分過ぎる。
「せぇっ!」
「ム、―――!」
大上段から相手の
咄嗟に体ごと退いて避けようとした箒だったが、先に見せた一瞬の硬直が明暗を分けた。紙一重の差で避け切れず、パシィィィン、と小気味良い音が剣道場に響き渡る。
思わず手放した竹刀が床に落ち、ここに敗者は決した。
直後、緊張の静寂から解き放たれた観客達が、わっと声を上げる。
「きゃー、織斑君カッコイー!」
「すごいすごーい、剣筋見えなかった!」
「剣道の大会に出てたって聞いてたけど、流石だね!」
「でも篠ノ之さんも凄かったと思うけど……」
黄色い歓声の殆どは、一夏を褒め称える声。まぁ、ここに集った女子達は皆、『唯一の男子』である一夏を目当てにして来た者ばかり。彼の勝利を無邪気に喜ぶのは当然と言えた。
とはいえ、ミーハー的興味だけで見物していた訳では無い者も居て、それは例えば段位持ちの剣道経験者であったり、或いはISバトルの参考にしようと
そして、傍観者が気付いていたのならば、彼もまた。
「……流石だな一夏、いや恐れ入った。あの状況で守るで無く避けるで無く、よもや更に一歩を踏み出すとは。私の負けだ、完膚無きまでにな」
「箒こそ、謙遜すんなよな。これが『剣道』の試合で無きゃ、あの『蹴り』で状況は変わってたかも……いや、間違い無く俺が負けてたな」
称えつつ歩み寄ってきた箒に対し、返す一夏の言葉こそ謙遜抜きの本音であった。
「俺のは飽くまで剣道で、箒のは『実戦剣術』。ISバトルにより近いのは断然後者、やっぱ俺もまだまだだな……」
「……それに気付けて、曲がりなりにも対応できた時点で、お前の剣も『只の剣道』の域を越えてると思うんだが」
反省会ムードに包まれる一夏に苦笑しつつ、「しかし」と前置いて言葉を続ける。
「現役で剣道をやっているだけあって、『勝負勘』は既に実戦レベルだな。これなら
「格好付けた負け方できる、ってか? そりゃありがたい話だぜ」
ゲンナリした顔で軽口を叩く一夏。しかしながら、実際問題彼が決闘する事になったセシリアは全世界の代表候補の中でもトップの実力者。勝ち目が無いのは、自他共に認める事実であった。
「しっかし、悪いな箒。俺の私闘の為に色々手伝って貰って……」
「何、気にするな。私とお前の仲だろう?」
……とまぁ、この会話からも分かる通り、これは一夏とセシリアとの『決闘』に向けた特訓である。
無論、剣道とIS戦では形式が違い過ぎて参考にはならないが、戦いの空気や駆け引きなどに慣れる意味はあるので、無駄にはならないだろう。
「……それに、ずっとお前の傍に付いていられるのは好都合だしな……」
「……好都合?」
「ンンッ、とにかくだ。これから決闘までの一週間、私がサポートしてやる。骨は拾ってやるから、安心して負けて来い!」
「嘘でも『勝てる』とは言ってくれないのな……」
「相手が相手だからな」
……若干締まらないが。何はともあれ、彼らは戦いの準備を始めた。
一夏のIS学園生活、記念すべき1ページ目。『彼女』に言わせれば、この日々もまた『
※ ※ ※
翌日の授業、山田先生によるISの基礎知識の講義。
「初めて稼働するISには、必要な事が2つ有ります。それでは……相川さん、何か分かりますか?」
「はいっ! 『名付け』と『試し撃ち』でーす!」
「ま、まぁそれも大切な事ですね! 愛称を付けてあげると愛着が湧きますし、初めて使う武装はしっかり試射する事で―――」
「次、鷹月! 答えろ」
元気一杯の誤答をやんわり受け止めフォローしつつ脱線していく真耶を遮って、担任織斑千冬が次なる回答者を指名し、しずしずと立ち上がる鷹月静寐。
「……『
「その通りだ。その2つの工程を経て、ISは『
「ああ、そっちかー」「そりゃそっちでしょ」とコソコソ授業中に私語を交わし合う相川清香と谷本癒子を見逃したのか気付かなかったのか、山田先生が補足する。
「そうです。そして
いつか皆さんの中から専用機を持てる代表候補が選出されるかもしれませんしね、と続ける山田先生に対し、スッと挙手して質問を投げかけるのは、どこかクールな雰囲気を身に纏った少女、夜竹さゆか。
「先生、質問です」
「はい、何ですか夜竹さん?」
「
「なるほど、良い質問ですね」
確かに、本で読むのと実物を見るのとでは大きく違う。
今この場で
彼女ら生徒達にはあまり知られていないが、副担任・山田真耶も昔は代表候補生。同期に
現役時代は、彼女にも政府から専用機が供与されていた。当時まだまだ発展途上だった量産機のマイナーチェンジ版ではあったが、専用機は専用機。
今や一線を退いた教師の身なればこそ、前途有望な
「そうですね、私の私見になりますが。
(ドキドキ)
固唾を飲んで山田先生の次の言葉を待つ夜竹さゆか、実は入試の実技はともかくペーパーではセシリアと並んで首位タイ(満点)の優等生。
中学時代に「趣味は勉強、知らない事を知るのが楽しいから」と発言して、年相応に勉強嫌いな友人一同をドン引きさせた彼女である。その知識欲は旺盛にして留まる所を知らない。
そんな、教師にとってこの上無く教え甲斐のある生徒に見つめられ、教職冥利な真耶は温かく柔らかな瞳で微笑みながら一言。
「光ります」
「光る」
「はい、めっっっっちゃ光ります」
「めっっっっちゃ光る」
「ええそりゃもう、何でこんなに光るんだってくらいギンギラギンに―――」
「張り切るのは良いが落ち着け真耶、もとい山田先生。それじゃ何も伝わらん」
山田先生は割と天然であった。一生懸命に身振り手振りを交えて説明しようとする姿は和むし癒されるが、話を聞いていた生徒達は皆、頭に疑問符を浮かべ目を点にしている。
千冬がやれやれと首を振りながら真耶を宥め、さゆかが瞳をパチクリとさせ「光る……」と神妙に呟いた所で、授業終了のチャイムが響き渡ったのだった。
※ ※ ※
そのやりとりを、何の気無しにぼーっと聞いていた一夏。
(光る。光るのか……光る?)
IS知識の不足により授業は大体ちんぷんかんぷんな彼でも、とりあえず『ファーストシフト』がありえん程光る、という事実は頭に入った。一歩前進である。
と、その時、次の授業の準備の為一旦職員室に戻ろうとしていた彼の姉が、教室を出る直前で声を掛けた。
「ああ、そうだ。
「……え、専用機?」
突然の連絡にポカンとする弟を置いて、用件だけ伝えてさっさと退室した姉。交代で声を上げたのは、来週の敵手たる令嬢。
「あら、奇遇ですわね。私も丁度来週の決闘に合わせて、『私の専用機』を
「……『受領する』? って事は、今まで持ってなかったのか?」
一夏が首を傾げるのも無理からん事、彼女は『世界で最も国家代表に近い候補生』『代表以上の候補生』などと謳われる、エリート中のエリート。英国の国家代表選出の基準に年齢制限さえ無ければ、或いはロシアのように特例措置さえ認められれば、今すぐにでも代表として活躍を始められる存在。
IS業界に関する猛勉強を始めたばかりの一夏でさえ、彼女ほど特出した人材に
「ええ、まぁ。確かに私はエリートですから? 以前専用機のオファーがあり、内定はしていたのですが……」
一夏が上げた疑問の声に答えるべく、苦笑しながらセシリアが説明する。
「私の専用機……名称は機密では無いので申し上げますと『ブルー・ティアーズ』は、我がイギリスの技術の粋を結集して作り上げた最新鋭IS。皆様には決闘の日にお披露目できると思うのですが、試乗時点で問題が明らかになりまして……」
「問題?」
「ええ。アレは飽くまで『イギリスの代表候補生』が扱う機体としてチューンされておりまして、『
しれっと語るセシリアではあるが、それって要するに。
「……つまり、貰った機体が気に入らなかったから作り直しを要求したって事か?」
「ノン、只の作り直しではありませんわ。エリートたるこの私、セシリア・オルコットが
……と、本人は自信満々に胸を張っているが、要するに一夏の言った通りである。
流石はお貴族様、我儘にも程がある……とバッサリ切り捨てるのは簡単だが。実際問題、
十把一絡げの代表候補とは一線を画する実力を持つ彼女にとって、いくら最新鋭の第三世代とはいえ、どちらかと言えば技術実験機としての趣が強かったブルー・ティアーズでは最大限のパフォーマンスを発揮しきれなかった。
故にこそ、『代表候補生用』では無く『セシリア・オルコット専用』にチューンし直す必要があったのだ。
「……まぁ、折角だからとディテールにも細かく注文を付け過ぎてしまった感は有りますが。それでこんなに受領が遅れてしまった訳ですし」
「お、おう……それで、俺との決闘が、その専用機の初披露になるんだよな? どんな機体なのか教えては……くれないか、流石に」
と、尋ねる一夏の思惑としては、戦う前に相手の情報を少しでも得られれば何かの役に立つかも、という打算があるが。同時に無理だとも理解している。
何せ英国の最新鋭機体だ。間も無く
いや、それ以前にこれから決闘しようという相手に、易々と自身の情報を与える訳が―――
「『ブルー・ティアーズ
「ちょ、待て待て待て!?」
隠す事無く、というか誇るように語り始めたセシリアを、寧ろ一夏が制止する。
「良いのかよ!? いや駄目だろ!? ダメ元で聞いた俺が悪いんだろうけど! そういうのって国家機密とか―――」
「あら、問題はありませんわ。こんなのはとっくに
※なお彼女の言う『出回っている情報』には各国が諜報戦で抜き取った機密も含む物とする。
「それに、どう言い繕っても貴方は
「……舐められんのは悔しいけど、俺が圧倒的に格下なのは事実、か。そういう事なら、お言葉に甘えて情報は貰っとくか。けど、慢心し過ぎて負けたからって後悔しても知らねーぞ?」
「あら、この国には『慢心せずして何が王か』という諺があるのでしょう? 王ならぬ一貴族の身と言えど、我がオルコット家の家名に懸けて。ハンデを与えた上で完全勝利を収めて見せてこその私ですわ!」
何やら日本を勘違いしている気もするが、とにかく自負と共に宣言するセシリア。これは単純な自信と言うより、自らに課す制約だろう。
人々の注目を集めたいからと一夏に決闘を申し込んだセシリアだが、本人達も自覚する様に素人と玄人だ。注目されるからこそ、それなりのハンデを背負わねば上位に立つセシリアは非難される。
「故に、カタログスペックよりもう少し制限と条件を付けて……決闘のルールは、初心者の貴方にも十分勝機があるよう工夫します。意地があるなら、足掻いて見せて下さいな」
そう言って微笑むセシリアに悪気は無い。ナチュラルな見下しも、二人の実力差を鑑みれば正当な評価でしか無く、その事は他の誰よりも一夏自身が自覚している。
だからこそ、思うのだ。
この慢心とも呼べない心の緩み、上位者として持たざるを得ない余裕。常識的に考えた結論としての必勝。
―――他でも無い、『初心者以下』という
……この時点では、無意識下の直感に過ぎなかったが。
※ ※ ※
夜、寮の自室にて。
「風呂上がったぞ一夏、入るなら……って、何を読んでるんだ?」
一心不乱にタブレット端末で資料を読み漁る一夏に、風呂上がりの濡れ髪からシャンプーの匂いを漂わせる箒が声をかけた。
「ああ……オルコットさんから渡された、専用機の資料。本当、割と明け透けに情報開示してくれてる……っつーか、傾向と対策のメモまで付けてくれてる……」
「それはまた……世話焼きもいいとこだな?」
何とも言えない顔の顔の一夏と箒。まぁ、『打倒
「……確か最初はあれだよな、オルコットさんが『教えを乞いたければ頭を下げろー』みたいな事言ってきて、それに俺が反発したから対立するみたいな形になったんだよな?」
「その筈だな。……結局、押し売りみたいに色々お節介焼かれてる訳だが」
頭を下げた覚えは無いが、相手方は既に教えを授ける気満々らしい。……まぁ、彼女も初心者と戦う手前、対外的には『試合形式で行う初心者への教導』だと思わせたいのだろう。
というか、対外的にはそのように言い訳したからそのように見せかけろ、と
「……ま、タダでくれるっつーならありがたく貰っとこう。何にせよ、一週間で最低限『戦いになる』レベルまではISを動かせるようにならなくちゃいけない訳だし」
そう割り切って、一夏はセシリアから渡された対策資料を更に調べる。
今開いたデータは、セシリアの過去の練習試合の資料映像だ。本国においてはセシリア本人とその関係者以外閲覧禁止の部外秘資料だが、セシリア自身が持ち出して
再生中の動画の中でセシリアが搭乗しているのは、第二世代型ISの最高傑作と謳われるフランス製の量産機『ラファール・リヴァイヴ』。そのスペックは可も無く不可も無く、平々凡々ではあるが、それ故に扱い易く、またカスタムの拡張性も高い。初心者から上級者まで幅広く好まれる名機である。
セシリア機を見れば、どうやら蒼く塗装されたセシリア用のカスタム機。素人の一夏では一見してどんなカスタマイズがされているのか判断が付かないが、代わりに見分し解説してくれるのはその幼馴染。
「ふむ、装甲を軽量化する事で耐久性と引き換えに機動力を確保しているな。これは格闘戦よりも寧ろ遠距離での回避を主眼に置いた改装だろう。使っているライフルは『スターライトmkⅡ』、エネルギーパックを増設して出力を上げている……というか、
「すまん、箒。一言で頼む」
「アイツの
「なるほど理解した」
つまり、セシリア・オルコットの戦法は遠距離戦が主体であり、
「そもそも近付く前に撃たれる、という訳だ。よしんば被弾を覚悟で無理矢理前進しても、撃たれながらでは逃げる彼女に追い付けない」
「……遠距離仕様なら、間合いに入れりゃ剣道やってる俺ならワンチャンあるかも、って思ったんだが。流石にそんな分かり易い弱点は無いか」
どの資料映像を見ても、明らかに初心者には不可能な機動でセシリアに迫る対戦相手の歴々が、輪をかけて華麗な機動のセシリアに易々と引き離されていく。一夏では絶対に追い付けない。
……と、そんな中から一つの動画が彼の目に留まった。
「お!? 何だ今の、バシュッて動いたぞ!」
「
「あー、そういや弾……中学ん時の友達と遊んだ
話しながら眺め続ける画面の中では、セシリアの対戦相手(サラ・ウェルキンという名らしい)は精密狙撃を何とか耐えながら、隙を見て
セシリアも距離を取ろうとするが、対戦相手のサラも中々の上級者らしく、致命打だけは避けながら強引な加速で銃撃の嵐を抜け、巧みな機動で先回りをする様にセシリア機との距離を徐々に詰め、そして必殺の間合いに入った所で剣を構えて―――。
「……すげぇ」
※ ※ ※
思わず感嘆の声が漏れるのも無理は無い。完璧なタイミング、完璧な間合い。完璧な切り込みであった。
銃撃の後、レーザーライフルのエネルギーが一時的に空になり、再装填されるまでの僅かな隙。今まで致命打を避けてきたサラが、敢えて被弾を覚悟の上で突進する事による強襲。
その急な動きの変化に、さしものセシリアも迎撃の発砲の余裕はなく、そして。
……サラの
そう、サラの突撃と変わらない速度。相対速度を同じくして同じ方向へ動いた以上、互いの距離は一定のままだ。
セシリアは慌てた様子を見せず、ライフルの銃口をサラへと向け直し、発砲。光条がサラ機へと走る。
それに対し、サラは咄嗟に剣でレーザーを切り裂いた。
彼女の剣はセシリアとの練習試合に備え、光を弾き分散させる特殊なラミネート加工を施されていた。世界最高峰のレーザー技術を誇るイギリスは、対レーザー技術に関してもまた最高峰なのだ。
そうして、セシリアからの銃撃を防いだサラは。
―――次の瞬間、
※ ※ ※
……以上、僅か五秒、いや二秒にも満たない瞬く間の攻防。これが熟練操縦者同士のISバトルか、と一夏も感服する他ない。
「でも最後のアレ、何だったんだ? なんかオルコットさんとは別の誰かがビーム撃ってたように見えるけど……」
「ああ、アレは『BT兵器』だな。『ブルー・ティアーズCC』のデータにも載ってたんじゃないか?」
「BT……あ、『遠隔無線誘導砲台』って書いてあったアレか。文字で読むと小難しくてよく分からなかったけど……」
そこでもう一度画面に目を戻すと、試合後のセシリア機に左右から二つの浮遊レーザー砲台が近付いてきて、ラファールの肩部に設置されたコンテナへと格納された。なるほど、これがBT兵器。
「要するにファンネルみたいなもんか」
と、アニメ知識で自分なりに解釈する一夏。それに頷きを返しつつ、箒が補足する。
「まぁ、この動画で使われてるのは第二世代用の『試作型BT』……本体と有線で接続され、手元のコントローラーでラジコン操作する代物だな。主に戦術研究・練習用で、こっちは既存技術だが……」
と言いつつ、一夏から自分の端末にもコピーしてもらったデータに目を通し、続ける。
「この資料を見るに、どうやらイギリスは完全無線操縦を実現したらしい。第三世代ISの"I2(イメージ・インターフェース)技術"を用いれば確かに出来ない事は無いが……事実なら、技術者共は変態だな」
第三世代ISの特徴である、イメージ・インターフェース。要するに、機械的操作でなく頭で考えるだけで兵装を使用できる仕組みの事だが、それを使って複数の砲台を自由自在縦横無尽に動かそうというのは流石に変態技術という他ない。
「つーか、そんなもんマジに作れたとして、操縦者が実戦で動かせるのかよ?」
「普通は無理だな。レーザービット一機一機の位置と動きを常に計算し、それぞれの射角から狙いを付けて撃つ……それを全て頭の中で明確に思考しなければならないんだ、脳の処理が追い付かん。戦闘中なら尚更だ」
有線ラジコン操作の試作BTなら多少はマシだが、それでも実戦使用は現実的で無い。
イギリスのテストパイロットや代表候補達は、研究の為に一応これを扱えるよう訓練されるが、ぶっちゃけ普通に銃で撃った方が早い。
要するに、遠隔無線誘導を実現した所で『理論上は強い筈』というだけの話、それを十全に扱えるパイロットがいない限り英国特有の面白兵器で終わる。……その筈だったのだ。
「いやでも……さっきの動画のオルコットさん、試作とはいえ実戦で使ってたじゃんか?」
「
居たよ、十全に扱えるパイロット! という事である。
「要は、個々のビットを三次元空間上に展開させる空間認識能力と、戦闘中にそれぞれを
イギリスの公式資料によれば、他のパイロットのBT適性は軒並み実戦レベルに至らない中、セシリアの適性はぶっちぎりでトップ、どころか即実戦投入可能なレベルだったらしい。
だがそれが余りにも常軌を逸した数値だった上、秘密兵器であるBT兵器の実戦での使用シーンは極秘資料として秘匿されていた為、今までは殆どの国が半信半疑だった。
今回のセシリアの専用機の初実戦で真相が明らかになる、と各国はそちらの意味でも注目していたのだが……一夏と箒は、一足早く真実を知ってしまったようだ。
秘匿資料とは何だったのか。セシリア曰く「どうせ
「……聞けば聞くほど勝ち目無いな、俺」
「それはそう……っと、待て」
遠い目をし始めた一夏を元気付けようとしたのか追撃しようとしたのかは知らないが、口を開いた箒を遮るように響く電子音。
箒が自らの携帯端末を取り出し、暫く弄るとその画面を一夏に向けた。
「どうやらお前の専用機の情報が届いたようだな。一緒に見るぞ、一夏」
「……えっ、なんで俺の専用機のデータが箒の所に届くんだよ!?」
「それはほら、姉さんが
「お、おう、気になるのは確かに……前半聞き取れなかったけど何か重要な事言わなかったか箒?」
この馬鹿が難聴系主人公で助かった、と内心呟きつつ彼の追及を努めて無視して更に話を逸らす、いや本題に戻す。
「敵の専用機の情報も確かに大事だがな一夏、それと同じくらい自分の専用機の情報も重要だぞ。自分に『何が出来て』『何が出来ないのか』を把握せずして戦えば、自ずから敗北は必定、逆も然りだ」
「昔の兵法書でいう所の『彼を知り己を知れば百戦
「孫氏だな。まぁそういう事だ」
と、簡単に言いくるめられた一夏は、何故幼馴染が自分の専用機の情報を持ってるのかなんて疑問はさっぱり忘れて、データを確認する。
そして。
「……えぇ……」
「これは……ちょっと、相性が悪いなんて物じゃ無いな。武装は
遠距離特化の『ブルー・ティアーズCC』に対しては、最悪と言っていい相性だった。
「最大限好意的に見て……一撃必殺は狙えるようだから、ワンチャン狙いには最適、と言えるのは確かだが……」
「『一撃必殺』? ……これか、『零落白夜』」
それは、一夏の姉・千冬が現役時代に使っていたものと同一の
……本来は各ISごとに固有で有る筈の
尤も、彼が気付いていたとしても納得できる答えが得られたとは限らないが。全てはウサギさんの胸先三寸、としか。
「だがまぁしかし、ここで不満を言っても仕方が無い。我々は結局、与えられた手札で戦うしか無い訳だからな。……一夏?」
ザッと資料に目を通し、溜息を一つ吐いてから一夏に声をかけた箒は―――そこで漸く、彼の様子がおかしい事に気付く。
「『零落白夜』……一撃必殺? 俺の機体は……オルコットさんの……
ブツブツと呟いていた一夏は、「あれっ?」と気の抜けた声を上げると、同じく気の抜けた顔で箒に振り返り、こう言った。
「箒、俺、勝てるかも」
……To Be Continued→
IS機体・武装名鑑1
『ラファール・リヴァイヴ(セシリア機)』
第二世代型量産ISの傑作『ラファール・リヴァイヴ』をセシリア用にチューンした機体。
飽くまでも練習機の専用カスタマイズであり、専用機では無い。
装甲パーツの一部をブースターユニットに換装、耐久性と引き換えに機体の安定性と瞬発力が向上している。
推力自体も微増しているが、専ら遠距離から優雅に狙撃するのがセシリアの戦闘スタイルなので、最高速よりも緊急回避とその後の機体制御に重きを置いている。
また、肩部に取り付けられたコンテナ内に試作BT兵器を二機格納。セシリア以外には実戦でマトモに運用出来ない為、実質専用装備と化している。
【武装】
【スターライトmkⅡ】:英国製レーザーライフル『スターライト』シリーズの現行品。
レーザーライフルの実現を果たした初代から、兵器としての安定性と実用性を強化されている。
本来、レーザービームは光の熱量により対象を溶断する兵器だが、この世界ではIS登場以来の謎技術によりアニメや特撮のような『着弾で爆発する派手なレーザー』として完成している。浪漫だね。
【インターセプター(レイピア)】:近接戦闘用武装。老舗の鍛治工房が大手鉄鋼会社と共同開発した実体剣。
レーザー等の光学兵器に力を入れているイギリスだが、ビームサーベルのような近接兵器への転用は未だ実験の域を出ない。その為、現在は信頼性の高い『インターセプター』シリーズが正式採用されている。
その形状は、基本的には短剣型かレイピア型の二択。だが鍛治職人に認められた希望者はオーダーメイドで形と機能を調整できる。サラ・ウェルキンの持つ対光学ラミネート大剣型インターセプター『キルセッシー』が特に有名。
将来的には光学系近接武装への転換が進む予定だが、その実績に裏打ちされた実戦での安定感から、完全撤廃はされず少数生産の希望者専用武装として愛され続けるだろう。
【エンフィールド・ライトモデル】:レーザー銃の小型化を目指して開発された、リボルバー拳銃型レーザーガン。
近距離での銃撃戦を想定して取り回しの良さ最優先の設計になっており、近接戦を挑もうとする敵への対処に使われる予定だった。
戦術研究が進むと、スターライト一本で近距離銃撃戦も十分対応可能である事が判明。そしてスターライトが対応不可能な距離ならインターセプターの方が有用、という訳で現在では完全に飾りと化した哀しい武器。
イギリス特有の面白珍兵器として、公式戦で偶に使われると一部のマニアから喝采が上がる。
ブルー・ティアーズCCには搭載予定無し。
【YBT-00(試作BT兵器)】:肩部搭載のコンテナから射出される、有線誘導型レーザー砲台。
戦術研究・練習用で、イメージ・インターフェース未搭載。よって操作は手元のリモコンで行う。
技術発展の途上で作られた大型の砲台なので、左右のコンテナに一台ずつしか搭載できない。稼働エネルギーは本体から線を通じて供給され、コンテナ部は動作制御用の演算機の役割も担う。
ファンネルというよりジオングの手、或いはブラウ・ブロのオールレンジ攻撃がイメージに近い。
扱い難いし実戦では役に立たないし、これも面白珍兵器の類の筈だったが、なんかセシリアが使い熟せたのでブルー・ティアーズCCに完成版が搭載された。
※ ※ ※
なんで決闘が始まらないんですか?(詰問
や、でも、次回は漸く戦えそう。出来れば一話で終わらせたい……。
決着までに必要な伏線は張ったし。
山札は混ざって手札は配られた。
後は勝敗を決するのみ……だといいなぁ。(呑気
※ ※ ※
結局どうしようね、四十院さんの扱い。
原作で一般家庭の鷹月さんを令嬢系キャラにしちゃったしなぁ……
なら原作で名家の出の四十院さんは……どうすれば……どうする……
※ ※ ※
IS学園生徒名簿1
『四十院 神楽』
曾祖母が皇族出身のまことにやんごとなきお嬢様。
その他、先祖を辿れば中国のラストエンペラー・宣統帝溥儀やら失われた筈のロシア・ロマノヴァ王朝の娘アナスタシアやら、世界中の貴き血筋が目白押しのウルトラロイヤルファミリーの末裔。実の母親がイギリス女王の妹だったりする。
彼女自身は物腰柔らかで礼節を弁えた言動ながら、その本質は誰よりも気高く豪胆、ぶれず歪まぬ芯の強い女。それでいて他人に優しく自分に厳しく、誰に対しても公正・公平に接する為、自然と人に慕われる、というか人を従える女帝。
生まれ持った『王威』とも呼ぶべきカリスマで皆を率い導く、1年1組の真の支配者。
※ ※ ※
良し。(良くない(ノリで設定作るな